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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  H03H
管理番号 1088002
異議申立番号 異議2003-70889  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-07 
確定日 2003-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3331022号「弾性表面波装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3331022号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3331022号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年9月24日に特許出願され、平成14年7月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、黒岩景より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月7日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(1)請求項1
「四ほう酸リチウム単結晶基板と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、近接配置されたひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極を挟む一対の反射器とを有し、
前記入力用インタデジタル電極の対数をNs、前記出力用インタデジタル電極の対数をNf、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の膜厚をH、電極周期をLとして、前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfが、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/Lの範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。」とあるのを、
「四ほう酸リチウム単結晶基板と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、近接配置されたひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極を挟む一対の反射器とを有し、
前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極は、重み付けされており、 前記入力用インタデジタル電極の対数をNs、前記出力用インタデジタル電極の対数をNf、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の膜厚をH、電極周期をLとして、前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfが、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/Lの範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。」と訂正する。
(2)発明の詳細な説明の段落【0007】の【課題を解決するための手段】の欄の記載を請求項1の訂正と同様に訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
上記訂正事項(1)は、発明を特定する事項である「入力用インタデジタル電極」及び「出力用インタデジタル電極」について「重み付けされ」と限定するものであり、しかも、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極が重み付けされていることについては、願書に添付された明細書の段落【0025】、【0026】、【0028】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項(2)は、上記訂正事項(1)と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
3-1.申立ての理由の概要
申立人は、本件請求項1に係る発明は、本件特許出願日前に出願され、本件特許出願後に出願公開された考案(甲第1号証;実願平5-15396号(実開平6-77331号公報))と同一であるから、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである旨主張している。

3-2.本件発明
2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

3-3.申立人が提出した甲第1号証
申立人が提出した甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
・「四硼酸リチウム(Li2B4O7)単結晶基板表面に、弾性表面波を伝播するための1対の入力電極指群、1対の出力電極指群、2つの反射器電極指から成る複数の共振器を伝播方向に沿って直列接続して成る多重モード表面弾性波フィルタにおいて、
前記電極指群の交叉幅Wと伝播波長λの比が5≦W/λ≦15であることを特徴とする多重モード表面弾性波フィルタ。」(実用新案登録請求の範囲)
・「本考案は、上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、LB基板のW/λを最適化して、30dB帯域内に発生するリップルを帯域外に排除することができる小型な多重モード表面弾性波フィルタを提供することになる。」(段落【0008】)
・「1つの共振子型フィルタ10aは、互いに交叉しあう1対の入力電極指群2aと、入力電極指群2aの弾性波伝播方向に所定間隔をおいて並設された互いに交叉しあう1対の出力電極指群3aと、入力電極指群2a、出力電極指群3aの伝播方向の外部に配置した反射器電極4a、5aとから構成されている。また、他方の共振子型フィルタ10bに関しても同様の構成である。」(段落【0017】)
・「入力電極指群2a、2bは、膜厚Hと波長λとによって規格化された規格化膜厚H/λが1%〜2%程度になるように、膜厚Hが設定され、夫々信号側電極21a、21bとアース側電極22a、22bとが互いに噛み合うように形成されている。この信号側電極21a、21bとアース側電極22a、22bとの交叉された部分の幅を交叉幅Wという。尚、図1中では、信号側電極21a、21bの電極指において、隣接する電極指間のピッチをLTで示し、隣接しあう信号側電極21a、21bの電極指とアース側電極22a、22bの電極指のピッチをPで示しており、波長λによって決定されるものである。
また、出力電極指群3a、3bも同様の膜厚を有し、夫々信号側電極31a、31bとアース側電極32a、32bとが互いに噛み合うように所定幅Wをもって交叉している。」(段落【0019】〜【0020】)
・「本考案者らは、フィルタの中心周波数を240MHz、入出力電極指群2、3の総対数Nが100本、反射器電極4、5の片側本数Mを100本、LR/LTを1.02、入出力電極指群2〜3と反射器電極4、5の間隔l1を1.9P、電極指群2、3の信号側電極21、31とアース側電極22、32の電極交叉幅Wと波長λとの比、W/λ値を10となるフィルタを作成し、そのフィルタ特性を測定した。その結果を図2に示す。」(段落【0023】)

3-4. 対比・判断
本件発明と、甲第1号証に記載された考案とを対比すると、甲第1号証に記載された考案は、本件発明が構成として備える、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極が重み付けされている点を構成とするものではない。甲第1号証の「入力電極指群2a、2bは、膜厚Hと波長λとによって規格化された規格化膜厚H/λが1%〜2%程度になるように、膜厚Hが設定され、夫々信号側電極21a、21bとアース側電極22a、22bとが互いに噛み合うように形成されている。この信号側電極21a、21bとアース側電極22a、22bとの交叉された部分の幅を交叉幅Wという。」(段落【0019】)及び「出力電極指群3a、3bも同様の膜厚を有し、夫々信号側電極31a、31bとアース側電極32a、32bとが互いに噛み合うように所定幅Wをもって交叉している。」(段落【0020】)なる記載並びに図1の記載からすれば、甲第1号証に記載された考案において、入力電極指群及び出力電極指群における交叉幅は一定であり、重み付けされていないものと認められる。そして、甲第1号証に記載された考案が、LB基板のW/λを最適化して、30dB帯域内に発生するリップルを帯域外に排除することができる小型な多重モード表面弾性波フィルタを提供することを目的とするものであるのに対し、本件発明が、群遅延時間が平坦で、比帯域幅が比較的広く、低挿入損失であり、移動体通信機器等におけるデジタル通信方式のフィルタに利用するのに適した弾性表面波装置を提供することを目的とするものである点で相違するものであり、効果についても同様に相違するものである。
したがって、本件発明が甲第1号証に記載された考案と同一であると認めことはできない。

3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
弾性表面波装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 四ほう酸リチウム単結晶基板と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、近接配置されたひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極と、
前記四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極を挟む一対の反射器とを有し、
前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極は、重み付けされており、
前記入力用インタデジタル電極の対数をNs、前記出力用インタデジタル電極の対数をNf、前記入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の膜厚をH、電極周期をLとして、前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfが、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/L
の範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は四ほう酸リチウム単結晶基板上にインタデジタル電極が形成された弾性表面波装置、特に移動体通信等にフィルタとして使用される弾性表面波装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタは、小型、軽量、高性能であるので多くの移動体通信機器に使用されている。従来、アナログ通信方式で使用され狭帯域特性が要求される中間周波数フィルタとしては、中心周波数における温度変化が小さく、減衰特性が厳しいものが要求され、3dB比帯域幅が0.03〜0.1%程度の、STカット水晶基板上に形成されたトランスバーサル型弾性表面波フィルタが使用されていた。
【0003】
近年、限られた周波数帯域を有効に活用すると共に、通信における秘話性を確保するため、従来のアナログ通信方式からデジタル通信方式への移行が検討されている。移動体通信機器におけるデジタル通信方式の中間周波数フィルタとしては、3dB比帯域幅が0.3〜0.5%程度と比較的広く、群遅延時間が平坦であること等の厳しい条件が要求される。
【0004】
しかしながら、従来のトランスバーサル型弾性表面波フィルタでは、所望の振幅特性と位相特性を実現できるものの、挿入損失が大きいので、比帯域幅0.3〜0.5%程度を得るためには多数の電極指が必要となり、弾性表面波フィルタの素子自体が大きくなるという問題があった。
広帯域なフィルタを得る方法として、LiNbO3上に4対のくし型電極を3個、近接配置したフィルタが知られており、挿入損失が10dBで、比帯域幅が20%のものが得られている(M.F.Lewis,Electron Letters vol.8,no.23,pp.553(1972))が、依然として挿入損失および比帯域幅が大きすぎるという問題があった。
【0005】
他方、低損失で小型な弾性表面波フィルタを得る方法として、共振子を用いた弾性表面波フィルタや多対の櫛型電極を用いた弾性表面波フィルタが知られている。これらの弾性表面波フィルタは、従来、挿入損失と減衰量を考慮してその構造を決めているだけであり、所望の群遅延時間特性を得ることができなかった。例えば、水晶基板上に、総対数700対の3個の櫛型電極を用いたフィルタは、挿入損失5dB、比帯域幅0.02%のものが得られている(小山田、吉川、石原、電子通信学会論文誌 vol.J60-A,no.9,pp.805(1977))。しかし、群遅延時間特性及び帯域内振幅偏差は不明であり、また比帯域幅も狭かった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来の構成による弾性表面波フィルタでは、デジタル通信方式に使用されるフィルタに必要とされるような、比帯域幅が比較的広く、小型、低挿入損失で、しかも群遅延時間が平坦な特性を達成することはできなかった。
本発明の目的は、群遅延時間が平坦で、比帯域幅が比較的広く、低挿入損失であり、移動体通信機器等におけるデジタル通信方式のフィルタに利用するのに適した弾性表面波装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、四ほう酸リチウム単結晶基板と、四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、近接配置されたひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極と、四ほう酸リチウム単結晶基板上に形成され、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極を挟む一対の反射器とを有し、前記入力用インタデジタル電極及び前記出力用インタデジタル電極は、重み付けされており、入力用インタデジタル電極の対数をNs、出力用インタデジタル電極の対数をNf、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の膜厚をH、電極周期をLとして、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfが、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/L
の範囲内であることを特徴とする弾性表面波装置によって達成される。
【0008】
また、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfとしては、
68-970×H/L≦Ns+Nf≦87-900×H/L
の範囲内であることが望ましい。
さらに、圧電基板として用いられる四ほう酸リチウム単結晶基板としては、(110)又は(100)カット面のZ伝搬近傍、オイラ角表示で(0〜45°、90±5°、90±5°)のものを用いることが望ましい。
【0009】
また、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極がAlを主成分とする金属材料により形成され、その開口長を外部インピーダンスに整合するように設定することが望ましい。
【0010】
【作用】
本発明によれば、四ほう酸リチウム単結晶基板を用い、ひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極を一対の反射器で挟み、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfを、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/L
の範囲内に限定したので、群遅延時間の偏差が小さく、3dB比帯域幅が比較的広く、挿入損失が小さく、小型であり、移動体通信機器等におけるデジタル通信方式のフィルタに適した弾性表面波装置を実現できる。さらに、縦続接続することでより大きな帯域外減衰量を得ることができる。
【0011】
【実施例】
本発明による弾性表面波装置の基本構造を図1に示す。
四ほう酸リチウム単結晶基板10上に、アルミニウムを主成分とする金属材料からなる金属膜により一対の櫛形電極22、24からなる正規型の入力用インタデジタル電極20と、一対の櫛形電極32、34からなる正規型の出力用インタデジタル電極30とが弾性表面波の伝搬方向に沿って近接配置されている。入力用インタデジタル電極20の一方の櫛形電極22は入力端子に接続され、他方の櫛形電極24は接地されている。出力用インタデジタル電極30の一方の櫛形電極32は接地され、他方の櫛形電極34は出力端子に接続されている。
【0012】
四ほう酸リチウム単結晶基板10上には、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30を挟むように、その両側に一対の反射器40、42が形成され、共振器型フィルタとして構成されている。
入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30、反射器40、42は、アルミニウムを主成分とする金属材料により形成されている。これら電極の膜厚は、電極の周期Lにより規格化された規格化膜厚H/Lにより表される。
【0013】
図1に示す基本構造の弾性表面波装置に対して、電極の規格化膜厚H/Lを変化させると共に、入力用インタデジタル電極20の対数Nsと、出力用インタデジタル電極30の対数Nfの和である総対数Ns+Nfを変化させた場合における、帯域内振幅偏差(以下「振幅偏差」と称する)、比帯域幅、帯域内群遅延時間偏差(以下「群遅延時間偏差」と称する)を数値シミュレーションした。
【0014】
図2乃至図4は、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30の電極の規格化膜厚H/Lが4.0%、開口長が370L、反射器40、42の本数が100本、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30間の距離(最近接電極指の中点の距離)が0.5L、入力用インタデジタル電極20と反射器40間の距離(最近接電極指の中点の距離)が0.5L、出力用インタデジタル電極30と反射器42間の距離(最近接電極指の中点の距離)が0.5Lである弾性表面波装置において、対数比Ns/Nfを1として、総対数Ns+Nfを2対から80対まで変化させた場合の振幅偏差(図2)、比帯域幅(図3)、群遅延時間偏差(図4)の評価結果である。
【0015】
図2から、振幅偏差が3dBになるのは、総対数Ns+Nfが24対以上のときであることがわかる。
また、図3から、比帯域幅が0.4%以上になるのは、総対数Ns+Nfが22対から66対の範囲内のときであり、比帯域幅が0.5%以上になるのは、総対数Ns+Nfが26対から47対の範囲内のときであることがわかる。
【0016】
さらに、図4から、群遅延時間偏差が300n秒以下になるのは、総対数Ns+Nfが22対以上のときであり、群遅延時間偏差が200n秒以下になるのは、総対数Ns+Nfが30対から47対の範囲内であることがわかる。
これらを総合すれば、総対数Ns+Nfが26対から66対の範囲内のときに、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.4%以上、群遅延時間偏差が300n秒以下の良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。また、総対数Ns+Nfが30対から47対の範囲内のときに、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.5%以上、群遅延時間偏差が200n秒以下の更に良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。
【0017】
図5乃至図7は、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30の電極の規格化膜厚H/Lが1.0%、開口長が260L、反射器40、42の本数が100本、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30間の距離が0.5L、入力用インタデジタル電極20と反射器40間の距離が0.5L、出力用インタデジタル電極30と反射器42間の距離が0.5Lである弾性表面波装置において、対数比Ns/Nfを1として、総対数Ns+Nfを10対から120対まで変化させた場合の振幅偏差(図5)、比帯域幅(図6)、群遅延時間偏差(図7)の評価結果である。
【0018】
図5から、振幅偏差が3dBになるのは、総対数Ns+Nfが44対以上のときであることがわかる。また、図6から、比帯域幅が0.4%以上になるのは、総対数Ns+Nfが44対から93対の範囲内のときであり、比帯域幅が0.5%以上になるのは、総対数Ns+Nfが47対から78対の範囲内のときであることがわかる。さらに、図7から、群遅延時間偏差が300n秒以下になるのは、総対数Ns+Nfが55対から96対の範囲内のときであり、群遅延時間偏差が200n秒以下になるのは、総対数Ns+Nfが65対から95対の範囲内であることがわかる。
【0019】
これらを総合すれば、総対数Ns+Nfが55対から93対の範囲内のときに、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.4%以上、群遅延時間偏差が300n秒以下の良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。また、総対数Ns+Nfが65対から78対の範囲内のときに、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.5%以上、群遅延時間偏差が200n秒以下の更に良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。
【0020】
図8は、図2乃至図7の測定結果をまとめたものである。
入力インタデジタル電極20と出力インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfが、
64-970×H/L≦Ns+Nf≦102-900×H/L
の範囲内(図8において斜めハッチングで示す領域)で、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.4%以上、群遅延時間偏差が300n秒以下の良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。
【0021】
また、入力インタデジタル電極20と出力インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfが、
68-970×H/L≦Ns+Nf≦87-900×H/L
の範囲内(図8において交差ハッチングで示す領域)で、振幅偏差が3dB以下、比帯域幅が0.5%以上、群遅延時間偏差が200n秒以下の非常に良好な電気的特性を有する弾性表面波装置が得られることがわかった。
[実施例1]
図1に示す基本構造の弾性表面波装置であって、45°カットZ伝搬の四ほう酸リチウム単結晶基板10上に、規格化膜厚H/Lが4%の入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30、反射器40、42を形成した。
【0022】
入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30の開口長は370Lであり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30間の距離は0.5Lであり、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30と反射器40、42間の距離は0.5Lであり、反射器40、42の本数は100本であり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfは39対であり、対数比Hs/Hfは1である。
【0023】
図9に本実施例の弾性表面波装置の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示す。横軸は中心周波数で規格化した規格化周波数[-]、左側の縦軸は挿入損失[dB]、右側の縦軸は遅延時間[nsec]である。3dB通過帯域における挿入損失は1.1dB、振幅偏差は0dB、群遅延時間偏差は82n秒、比帯域幅は0.635%となり、優れた電気的特性を示した。
[実施例2]
図1に示す基本構造の弾性表面波装置であって、45°カットZ伝搬の四ほう酸リチウム単結晶基板10上に、規格化膜厚H/Lが1%の入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30、反射器40、42を形成した。
【0024】
入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30の開口長は260Lであり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30間の距離は0.5Lであり、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30と反射器40、42間の距離は0.5Lであり、反射器40、42の本数は100本であり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfは73対であり、対数比Ns/Nfは1である。
【0025】
図10に本実施例の弾性表面波装置の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示す。横軸は規格化周波数[-]、左側の縦軸は挿入損失[dB]、右側の縦軸は群遅延時間[nsec]である。3dB通過帯域における挿入損失は1.2dB、振幅偏差は0.11dB、群遅延時間偏差は139n秒、比帯域幅は0.529%であり、優れた電気的特性を示した。
[実施例3]
上述した実施例1及び実施例2では、入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30としてそれぞれの櫛形電極の長さがすべて等しい正規型インタデジタル電極を用いたが、インタデジタル電極を構成する電極指の長さを表面波の伝搬方向にそって変化するように重み付け(アポタイズ)されたインタデジタル電極を用いることも可能である。重み付けによる電極指の長さの変化の形状としては、cos関数状や直線状等がある。
【0026】
本実施例は、図11に示す基本構造の弾性表面波装置であって、45°カットZ伝搬の四ほう酸リチウム単結晶基板10上に規格化膜厚H/Lが1%の入力用インタデジタル電極20および出力用インタデジタル電極30、反射器40、42を形成した。入力用インタデジタル電極20および出力用インタデジタル電極30には、図11に示すようなcos関数状の重み付けを施してある。
【0027】
入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30の開口長は260Lであり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30間の距離は0.5Lであり、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30と反射器間40、42の距離は0.5Lであり、反射器40、42の本数100本であり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfは73対であり、対数比Ns/Nfは1である。
【0028】
図12に本実施例の弾性表面波装置の周波数応答及び群遅延時間特性を示す。横軸は規格化周波数[-]、左側の縦軸は挿入損失[dB]、右側の縦軸は群遅延時間[nsec]である。3dB通過帯域における挿入損失は1.3dB、振幅偏差は0.27dB、群遅延時間は144nsec、比帯域幅は0.531%となり、優れた電気的特性を示した。
[実施例4]
本実施例も重み付けされたインタデジタル電極を用いている。図13に示す基本構造の弾性表面波装置であって、45°カットZ伝搬の四ほう酸リチウム単結晶基板上10に規格化膜厚H/Lが1%の入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30、反射器40、42を形成した。入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30は、図13に示すように、直線状の重み付けを施してある。
【0029】
入力用インタデジタル電極20、出力用インタデジタル電極30の開口長は260Lであり、入力用インタデジタル電極と出力用インタデジタル電極間の距離は0.5Lであり、入力用インタデジタル電極20及び出力用インタデジタル電極30と反射器間40、42の距離は0.5Lであり、反射器40、42の本数は100本であり、入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfは73対であり、対数比Ns/Nfは1である。
【0030】
図14に本実施例の弾性表面波装置の周波数応答及び群遅延時間特性を示す。横軸は規格化周波数[-]、左側の縦軸は挿入損失[dB]、右側の縦軸は群遅延時間特性[nsec]である。3dB通過帯域幅における挿入損失は1.2dB、振幅偏差は0.3dB、群遅延時間偏差は136nsec、比帯域幅は0.520%となり、優れた電気的特性を示した。
【0031】
上述した実施例2、実施例3及び実施例4から明らかなように、総対数Ns+Nfが同じ場合には、インタデジタル電極が重み付けされても、正規型と同等の通過帯域特性を得ることができることがわかった。したがって、通過帯域外減衰量を高める等のために適宜重み付けをしても、総対数Ns+Nfが本発明の範囲であれば、すぐれた特性が得られることがわかった。
【0032】
なお、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の対数の比Ns/Nfとしては、
0.4≦Ns/Nf≦2.5
の範囲内であってもよい。
また、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の電極周期Lで規格化した膜厚H/Lとしては、
0.5%≦H/L≦8.0%
の範囲内であってもよい。
【0033】
さらに、インタデジタル電極の材料としては、AlにCu、Si等を添加した合金を用いてもよい。
[比較例]
入力用インタデジタル電極20と出力用インタデジタル電極30の総対数Ns+Nfを41対とし、その他の条件は上記実施例2、実施例3及び実施例4と同様の弾性表面波装置を比較例とし、その周波数応答及び群遅延時間特性を測定した。
【0034】
実施例2に対応する比較例の周波数応答及び群遅延時間特性を図15に示し、実施例3に対応する比較例の周波数応答及び群遅延時間特性を図16に示し、実施例4に対応する比較例の周波数応答及び群遅延時間特性を図17に示す。
これら比較例では、3dB通過帯域内における振幅偏差は5dB以上、群遅延時間偏差は500nsec以上もあり、デジタル通信用フィルタとして適切な特性を得ることはできないことがわかった。
【0035】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によれば、四ほう酸リチウム単結晶基板を用い、ひとつの入力用インタデジタル電極及びひとつの出力用インタデジタル電極を一対の反射器で挟み、入力用インタデジタル電極及び出力用インタデジタル電極の対数の和Ns+Nfを所定の範囲内に限定したので、群遅延時間の偏差が小さく、3dB比帯域幅が比較的広く、挿入損失が小さく、小型であり、移動体通信機器等におけるデジタル通信方式のフィルタに適した弾性表面波装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明による弾性表面波装置の基本構造を示す図である。
【図2】
規格化膜厚が4%、開口長が370Lの弾性表面波装置における総対数と振幅偏差の関係を示すグラフである。
【図3】
規格化膜厚が4%、開口長が370Lの弾性表面波装置における総対数と比帯域幅の関係を示すグラフである。
【図4】
規格化膜厚が4%、開口長が370Lの弾性表面波装置における総対数と群遅延時間偏差の関係を示すグラフである。
【図5】
規格化膜厚が1%、開口長が260Lの弾性表面波装置における総対数と振幅偏差の関係を示すグラフである。
【図6】
規格化膜厚が1%、開口長が260Lの弾性表面波装置における総対数と比帯域幅の関係を示すグラフである。
【図7】
規格化膜厚が1%、開口長が260Lの弾性表面波装置における総対数と群遅延時間偏差の関係を示すグラフである。
【図8】
図2乃至図7の測定結果に基づいて、弾性表面波装置の規格化膜厚と総対数の関係をまとめたグラフである。
【図9】
実施例1の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図10】
実施例2の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図11】
実施例3による弾性表面波装置の基本構造を示す図である。
【図12】
実施例3の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図13】
実施例4による弾性表面波装置の基本構造を示す図である。
【図14】
実施例5の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図15】
実施例2に対応する比較例の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図16】
実施例3に対応する比較例の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【図17】
実施例4に対応する比較例の周波数応答特性及び群遅延時間特性を示すグラフである。
【符号の説明】
10…四ほう酸リチウム単結晶基板
20…入力用インタデジタル電極
22、24…櫛形電極
30…出力用インタデジタル電極
32、34…櫛形電極
40、42…反射器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-01 
出願番号 特願平5-238036
審決分類 P 1 651・ 16- YA (H03H)
最終処分 維持  
特許庁審判長 下野 和行
特許庁審判官 東森 秀朋
仲間 晃
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3331022号(P3331022)
権利者 キンセキ株式会社
発明の名称 弾性表面波装置  
代理人 北野 好人  
代理人 北野 好人  

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