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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1088100
異議申立番号 異議2003-70971  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2003-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3334922号「ガスバリアー性高分子フィルムおよびその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3334922号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3334922号の請求項1乃至4に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載されたとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は次のとおりのものである。
「透明高分子フィルム基板の上に、SiOx(1.3≦x≦1.8)でなる厚さ200〜1000オングストロームの酸化珪素薄膜が形成されたガスバリアー性高分子フィルムであって、該ガスバリアー性高分子フィルムの水蒸気透過率が1g/m2/日以下であり、かつ該高分子フィルム基板に対する該酸化珪素薄膜の剥離強度が100g/cm以上であるガスバリアー性高分子フィルム。」

2.取消理由で引用された刊行物に記載された事項
2-1.刊行物1[コンバーテック 1990年6月号 第30〜36頁(異議申立人の提出した甲第1号証)]には、「蒸着による透明バリヤーフィルム」なるタイトルの下、下記の事項が記載されている。
(1ア)「6.シリカ蒸着フィルムの基本的性質
シリカ蒸着フィルムの基本的性質のなかで,特に物理的性質に関してその概要を述べる。東洋インキ製造ではシリカ蒸着フィルムにGTフィルムと言う呼称をつけている。本稿中にも使用している箇所があるが,シリカ蒸着フィルムの意味に解釈して頂きたい。」(第31頁左欄下から13〜5行)
(1イ)「6.1 膜厚について
膜厚とは長さの単位で表現される蒸着層の厚さを意味するが,真に蒸着を理解していれば実際の測定がどれほど困難なものか容易に理解できる筈である。・・・。さらに1,000Å程度の長さは計測が比較的困難な範囲であることも災いしている。・・・。本報では触針法による結果を基準にしている。」(第31頁左欄下から4行〜同頁中欄24行)
(1ウ)「6.2 酸素バリヤー性と膜厚
酸素バリヤー性は当然膜厚の増加に伴って増加するが,その様子は図1に示すように,従来から知られているアルミニウムのそれと同じ傾向を示す。図に示した値は膜厚測定の精度などもあり概念図であると理解して頂きたい。」(第31頁中欄25〜31行)として、同頁中欄の「図1 蒸着膜厚と酸素バリヤー性」に、膜厚(Å)に対する酸素透過率(ml/m224hr)の値が図示されている。
(1エ)「6.4 蒸着膜の組成及び構造
シリカ蒸着膜の組成を求めるため,液浸法により屈折率を測定し,文献値と比較した。結果を表1に示した。結果から蒸着膜の組成はSi2O3とSi3O4の混合物であるかのように見えるが,その組成比は実際には蒸着条件などによってめまぐるしく変化するため特定できない。・・・。参考例として図2(次頁)にシリカ蒸着膜のESCAによる組成比分析の結果を示す。結果から分かるようにSi-Oの結合状態から前述のようにSi2O3とSi3O4の中間酸化状態の化合物として認識される。」(第31頁右欄22行〜第32頁左欄3行)として、第31頁右欄の「表1 蒸着膜の光学屈折率」には、SiO、Si3O4、Si2O3、SiO2の屈折率の文献値と蒸着膜の屈折率の値が記載されており、第32頁左欄の「図2 GTフィルムのESCAによる分析」には、結合エネルギー(eV)を横軸としたSiO2、Si2O3、SiO、Si2Oのピークを示すパターンとGTフィルムのパターンが図示されている。
(1オ)「表2に現在利用されている酸素バリヤー性容器素材フィルムとガラス蒸着(正確にはシリカ蒸着)フィルムとの特性比較を示した。」(第32頁左欄10〜13行)として、第32頁の「表2 代表的バリヤー性フィルムの性質」中に、GTフィルムの酸素透過率(ml/m2,24hr,25℃,85%Rh)が1.0〜2.0であり、透湿度(g/m2,24hr,40℃,90%Rh)が1.0〜3.0であることが記載されている。
(1カ)「7.1 透明性
図4にシリカ蒸着フィルムの分光特性を示した。」(第32頁中欄6〜8行)として、第32頁右欄の「図4 GTフィルムの分光特性」には、PETとGTフィルムの波長(nm)に対する透過率(%)の値が図示されている。
(1キ)「図5,6にそれぞれシリカ蒸着フィルムの酸素バリヤー性と水蒸気バリヤー性の温度依存性を示した。」(第33頁右欄11〜13行)として、第33頁中欄の「図6 蒸着膜の水蒸気バリヤー性の温度依存性」には、PET/PVDC(15μ)/CPPとPET/GT/CPPの温度(℃)に対する透湿度(g/m2,24hr)の値が図示されている。
(1ク)「図7(前頁)にGTフィルムの酸素バリヤー性の湿度依存性を示した。」(第34頁左欄8〜9行)として、第33頁右欄の「図7 酸素バリヤー性の温度依存性」には、90%RHとDRYの場合の温度(℃)に対する酸素透過率(ml/m224hr)の値が図示されている。
(1ケ)「シリカ蒸着フィルムはガラスの薄膜を蒸着によりコーティングしたポリエステルフィルムであると考えられる。」(第34頁左欄21〜24行)
(1コ)「GTフィルム(蒸着のベースフィルムとして使用しているポリエステルフィルム)」(第34頁右欄23〜25行)
(1サ)「9.3 蒸着膜の密着力とレトルト
シリカ蒸着膜は,条件によってはレトルト処理によりバリヤー性が劣化することは前に述べたが,バリヤー性の劣化とは別に,蒸着膜の密着性に関しても注意が必要である。バリヤー性と同様,組み合わせて使用する素材を選定する上で考慮しなければならないもう一つの重要なポイントとなっている。蒸着膜の付着力はアルミ蒸着フィルムにおけるアルミの付着力などとは異なり,レトルト処理前においては基材のポリエステルフィルム自体の強度より大きく、剥離することは不可能である。しかしレトルト処理を行うと,処理中の応力と水分の化学作用により付着力は減少し,場合によっては剥離してしまうこともある。・・・。これらの状況を解明し分かり易くするために掲載したのが表8である。」(第35頁左欄下から2行〜同頁中欄下から4行)として、第35頁の「表8 構成によるGTフィルムのレトルト耐性の測定例」に、GTVM/CPPの125℃30分レトルト後(g/15mm)幅の密着強度が300〜400であり、PET/GTVM/CPPの同密着強度が300〜400であり、PET/VMGT/CPPの同密着強度が10〜100であることが記載されている。
2-2.刊行物2[特開平3-86539号公報(異議申立人の提出した甲第2号証]には、下記の事項が記載されている。
(2ア)「厚さ100μm以下のプラスチックフィルムの少なくとも片面に、イソシアネート化合物/飽和ポリエステル混合の樹脂により、プラスチックフィルムの1/1000〜100/1000の厚さの樹脂層が形成され、その樹脂層上に、厚さ5〜500nmのケイ素酸化物薄膜が形成されていることを特徴とする包装用プラスチックフィルム。」(特許請求の範囲 請求項1)
(2イ)「この発明は、上記した種々の欠点を除去し、ガスバリヤ性、透明性、密着性、非カール性、及びボイル、レトルト耐性に優れた包装用プラスチックフィルムを提供するものである。」(第2頁右上欄18行〜同頁左下欄1行)
(2ウ)「ケイ素酸化物薄膜は、SiO又はSiO2を使用し、・・・公知の薄膜形成手段により形成すればよい。・・・。また、Si、SiO、SiO2を使用し、O2ガスを供給しながら行う反応蒸着法も採用出来る。」(第3頁右上欄10行〜同頁左下欄1行)
(2エ)「実施例1
厚さ12μmの二軸延伸・・・ポリエステルフィルム(PETフィルム)の片面に、イソシアネート化合物・・・と飽和ポリエステル・・・とを50:50の割合で配合した塗料を塗布し乾燥させて、ポリエステルフィルムの8/1000の厚さ・・・の樹脂層を形成した。次にその樹脂層上に、8×10-9の真空下、・・・、純度99.9%のSiOを加熱蒸発させ、厚さ50nmのケイ素酸化物薄膜を形成して、この発明の包装用プラスチックフィルムを得た。得られた包装用プラスチックフィルムの透湿度、・・・を測定し、・・・評価した。結果を第1表に示す。
・・・
実施例3
ケイ素酸化物薄膜の厚さを100nmとした他は実施例1と同様にした。
・・・
実施例5
実施例1で得られたこの発明の包装用プラスチックフィルムの厚さ50nmのケイ素酸化物薄膜面に、厚さ40μmの未延伸ポリプロピレンフィルム・・・を、二液硬化型ポリウレタン系接着剤・・・を用いてドライラミネートして、ケイ素酸化物薄膜の上に透明なプラスチックの膜が形成されたこの発明の包装用プラスチックフィルムを得た。得られた包装用プラスチックフィルムの透湿度、・・・及びポリエステルフィルムと未延伸ポリプロピレンフィルムとの密着強度を測定し、・・・評価した。
・・・
比較例1
厚さ12μmの二軸延伸・・・ポリエステルフィルム・・・の片面に、8×10-9の真空下、・・・、純度99.9%のSiOを加熱蒸発させ、厚さ50nmのケイ素酸化物薄膜を形成して、ケイ素酸化物薄膜を有するプラスチックフィルムを得た。得られたものの透湿度、・・・を測定し、・・・評価した。結果を第1表に示す。」(第4頁右上欄5行〜第5頁右上欄6行)として、第6頁の第1表に、実施例1、3、5及び比較例1の透湿度(g/m2,24hrs)が、各々、1.0、0.8、0.4、3.9であることが記載されている。

3.対比、判断
刊行物1には、記載事項1アからみて、GTフィルムなるシリカ蒸着フィルムについて記載されていると云える。そして、記載事項1ケ及びコにGTフィルムのベースフィルムがポリエステルフィルムであることが記載されていること、記載事項1カの図4から波長550nmにおけるPETの透過率が100%であることが窺えること、及び、刊行物1の「蒸着による透明バリヤーフィルム」なるタイトルからみて、GTフィルムのベースフィルムは透明なポリエステルフィルムであると云える。
また、刊行物1におけるGTフィルムのシリカ蒸着膜の組成に関する記載について検討すると、記載事項1エには、各ケイ素酸化物の屈折率の文献値と蒸着膜の屈折率の測定結果を示した表1によれば、蒸着膜の組成はSi2O3とSi3O4の混合物であるかのようにみえるが特定はできないこと、及び、図2に示されたESCAによる組成比分析の結果によれば、Si2O3とSi3O4の中間酸化状態の化合物として認識されることが記載されている。しかし、図2にはSi3O4のピークが何処にあるのか示されていないことからみて、図2から得られた上記認識には疑問が残るものの、図2からGTフィルムのピークがSi2O3の近くにあることは窺える。してみると、GTフィルムのシリカ蒸着膜の組成は、Si2O3とSi3O4の混合物であるかSi2O3に近いものであると考えられるが明確ではないとしか云えない。
次に、刊行物1におけるGTフィルムのシリカ蒸着膜の厚さに関する記載について検討すると、記載事項1イには、1,000Å程度の長さは計測が比較的困難な範囲であることが記載されている。また、記載事項1ウの図1には、図1は概念図であるとの前提の下で、0〜1000Åまでの範囲における膜厚と酸素透過率(ml/m224hr)との関係が示されている。そして、記載事項1オの表2のGTフィルムの酸素透過率(ml/m2,24hr,25℃,85%Rh)が1.0〜2.0であるとの記載を勘案して上記図1を検討すると、酸素透過率(ml/m224hr)が1.0〜2.0の値における膜厚は400Å辺りから線の途切れる950Å辺りであることが窺える。しかし、記載事項1クの図7から、上記表2の酸素透過率(ml/m2,24hr,25℃,85%Rh)の測定条件に近い25℃における90%RHのときのGTフィルムの酸素透過率(ml/m224hr)が1.0より高いことが窺えることからみて、上記表2におけるGTフィルムの酸素透過率が1.0〜2.0であるとの記載自体が正確性を欠くものであることが考えられる。よって、上記表2に記載された酸素透過率の上限値が2.0であることに基づく、膜厚の下限値が400Å辺りであるとの認定は必ずしも正しいとは云えない。そして、上記表2の数値が正確なものであるとしても、上記図1には酸素透過率が1.0の場合の膜厚について記載がなく、上記記載事項1イに1,000Å程度の長さの測定に関する記載があることからみて、GTフィルムの酸素透過率が1.0であるときの膜厚が950Åさらには1000Åより厚い可能性も否定できない。してみると、GTフィルムの蒸着層の膜厚は、一応400Å以上であると考えられるが明確でないとしか云えない。
さらに、刊行物1におけるGTフィルムの透湿度に関する記載について検討すると、記載事項1オの表2には、GTフィルムの透湿度(g/m2,24hr,40℃,90%Rh)が1.0〜3.0であるとの記載がある。しかし、記載事項1キの図6から、PET/GT/CPPの40℃における透湿度(g/m2,24hr)が1より大きい値であることが窺え、GTフィルムに他の樹脂フィルムを積層したものの透湿度が1より大きいものである以上、GTフィルム自体の透湿度は1.0より大きいと云わざるを得ない。してみると、GTフィルムの透湿度(g/m2,24hr)は、上記表2に1.0〜3.0との記載があるものの明確でないと云わざるを得ない。
最後に、刊行物1におけるGTフィルムの蒸着膜の付着力に関する記載について検討すると、記載事項1サには、蒸着膜の付着力はレトルト処理前においては基材のポリエステルフィルム自体の強度より大きい旨の記載があり、表8にはGTフィルムに他の樹脂フィルムを積層したものについてレトルト後の密着強度についての記載はあるものの、刊行物1にはポリエステルフィルムから成るベースフィルムと蒸着膜との付着力の具体的数値について記載はない。
してみると、刊行物1には下記の発明が記載されていると云える。
「透明なポリエステルフィルムから成るベースフィルムの上に、Si2O3とSi3O4の混合物であるかSi2O3に近いものであると考えられるが明確ではない、膜厚が一応400Å以上であると考えられるが明確でないシリカ蒸着膜が形成されたGTフィルムであって、該GTフィルムの透湿度が1.0〜3.0g/m2,24hr,40℃,90%Rhと記載されているものの明確でなく、かつ該ポリエステルフィルムから成るベースフィルムに対する該シリカ蒸着膜の付着力がポリエステルフィルム自体の強度より大きいGTフィルム。」
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明について対比すると、後者における「ポリエステルフィルムから成るベースフィルム」、「シリカ蒸着膜」、「付着力」は、各々、前者における「高分子フィルム基板」、「酸化珪素薄膜」、「剥離強度」に相当する。また、後者における「透湿度(g/m2,24hr,40℃,90%Rh)」は、前者における「水蒸気透過率(g/m2/日)」に相当するものである。そして、後者における「GTフィルム」は、刊行物1の記載事項からみてガスバリヤー性であることは明らかであるから、ガスバリアー性高分子フィルムと云えるものである。よって、両者は、
「透明高分子フィルム基板の上に、酸化珪素薄膜が形成されたガスバリアー性高分子フィルム。」
の点で一致するものの、下記の点で相違する。
(i)酸化珪素薄膜が、前者はSiOx(1.3≦x≦1.8)でなるのに対して、後者はSi2O3とSi3O4の混合物であるかSi2O3に近いものであると考えられるが明確ではない点。
(ii)酸化珪素薄膜が、前者は厚さ200〜1000オングストロームであるのに対し、後者は厚さが一応400Å以上であると考えられるが明確でない点。
(iii)ガスバリアー性高分子フィルムの水蒸気透過率(g/m2/日)が、前者は1以下であるのに対し、後者は1.0〜3.0と記載されているものの明確でない点。
(iv)高分子フィルム基板に対する酸化珪素薄膜の剥離強度が、前者は100g/cm以上であるのに対して、後者は明確でない点。
そこで、相違点iiiについて検討する。
刊行物1の記載事項1オの表2には、GTフィルムの透湿度(g/m2,24hr,40℃,90%Rh)が1.0〜3.0であると記載されている。しかし、上述のように、記載事項1キの図6からはPET/GT/CPPの40℃における透湿度(g/m2,24hr)が1より大きい値であることが窺える。そして、GTフィルムに他の樹脂フィルムを積層したものの透湿度が1より大きいものである以上、上記図6からはGTフィルム自体の透湿度は1.0より大きいことが窺えると云わざるを得ない。同様に、刊行物1の記載事項1オの表2には、GTフィルムの酸素透過率(ml/m2,24hr,25℃,85%Rh)が1.0〜2.0であることが記載されている。しかし、記載事項1クの図7からみて、上記表2の酸素透過率の測定条件に近い25℃における90%RHのときのGTフィルムの酸素透過率(ml/m224hr)は1.0より大きく、25℃におけるDRYのときの酸素透過率(ml/m224hr)をみても1.0よりは大きいことが窺える。また、記載事項1ウの図1には酸素透過率(ml/m224hr)が1となることは記載も示唆もされていない。してみると、記載事項1オの表2におけるGTフィルムの酸素透過率及び透湿度の記載は、特にその下限値において、正確な値を記載したものであるとは認められない。よって、刊行物1には、GTフィルムの透湿度(g/m2,24hr,40℃,90%Rh)として記載された1.0〜3.0のうち、少なくともその下限値である1.0であることは記載されていないと云わざるを得ない。
よって、本件発明1と刊行物1に記載された発明におけるガスバリアー性高分子フィルムの水蒸気透過率は、1g/m2/日なる1点において重なるとは到底云えない。
さらに、この点について刊行物2の記載事項を検討すると、実施例及び比較例に関する記載事項2エには、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、樹脂層を形成し、その樹脂層上に、厚さ50nm及び100nmのSiO、即ちx=1のケイ素酸化物薄膜を形成したものの透湿度(g/m2,24hrs)が1.0及び0.8であり(実施例1及び3)、このうち厚さ50nmのSiOを形成させたもののケイ素酸化物薄膜面に未延伸ポリプロピレンフィルムを接着剤を用いてドライラミネートしたものの透湿度(g/m2,24hrs)が0.4である(実施例5)のに対して、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、直接、厚さ50nmのSiOのケイ素酸化物薄膜を形成したものの透湿度(g/m2,24hrs)が3.9であること(比較例1)が記載されている。
そして、刊行物2に記載された「透湿度(g/m2,24hrs)」は、本件発明1における「水蒸気透過率(g/m2/日)に相当するものであると云える。
しかし、もともと刊行物2に記載された発明は、記載事項2アのとおり、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂層が形成され、その樹脂層上に、厚さ5〜500nmのケイ素酸化物薄膜が形成されていることを特徴とする包装用プラスチックフィルムに関するものであり、記載事項2ウを検討してもケイ素酸化物薄膜を構成するSiOxのx値が1.3≦x≦1.8であることは何等示されていない。そして、上記記載事項2エにおいて、透湿度(g/m2,24hrs)が1.0以下であったものは、プラスチックフィルムの上に樹脂層を介してケイ素酸化物薄膜が形成されたもの、及び、さらにそのケイ素酸化物薄膜面に樹脂フィルムを積層したものであり、プラスチックフィルムの上に直接ケイ素酸化物薄膜が形成されたものの透湿度(g/m2,24hrs)は1を大きく越える値であることが記載されている。しかも、形成されたケイ素酸化物はいずれもSiOでありx値が1.3≦x≦1.8のSiOxではない。
してみると、刊行物2には、プラスチックフィルムの上にSiO(1.3≦x≦1.8)でなる酸化珪素薄膜が形成された高分子フィルムも、その高分子フィルムの透湿度(g/m2,24hrs)が1以下であることも記載されているとは云えない。
そして、本件発明1は、相違点i、ii及びivで挙げた構成要件を備えた上で、さらに相違点iiiに挙げた構成要件を備えたことにより、明細書に記載された効果を奏するものと云える。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-10-17 
出願番号 特願平4-348895
審決分類 P 1 652・ 113- Y (C23C)
P 1 652・ 121- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬良 聡機  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 岡田 和加子
野田 直人
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334922号(P3334922)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 ガスバリアー性高分子フィルムおよびその製造方法  
代理人 大島 由美子  

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