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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F22B
管理番号 1088109
異議申立番号 異議2002-73149  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-07-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-27 
確定日 2003-12-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3299531号「発電プラント」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3299531号の請求項1、2、3に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明

本件特許第3299531号(平成11年12月22日出願、平成14年4月19日設定登録)の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ、本件発明1ないし3という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】

(a)燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生し、高温の熱媒体を供給する複数の熱エネルギー発生源と、
(b)熱エネルギー発生源からの熱媒体が有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する複数の電気エネルギー発生装置と、
(c)各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置と、
(d)熱エネルギー発生源へ供給する燃料の流量を制御する燃料流量制御手段と、
(e)熱エネルギー発生源へ供給する空気の流量を制御する空気流量制御手段
と、
(f)電気エネルギー発生装置へ供給する熱媒体の流量を制御する熱媒体流量
制御手段と、
(g)電力要求値WSETを設定する手段と、
(h)プラント制御装置であって、
(h1)熱エネルギー発生源からの熱媒体の流量fB(i)を、燃料の費用が異なる各種類k毎の流量fFUEL(i)(k)の近似式で表し、
(h2)各電気エネルギー発生装置Tjの発電量W(j)SETを、各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体の流量fT(j)の近似式で表し、
(h3)複数q種類の各燃料を切換えて使用する各熱エネルギー発生源Bi毎の総燃料消費ランニングコストCFUELを計算し、
(h4)各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2,CNOx,CSOxを計算し、
(h5)これらの総燃料消費ランニングコストCFUELと、各排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2,CNOx,CSOxにそれぞれ対応する重みを考慮したトータルのランニングコストCALLを計算し、
(h6)各熱エネルギー発生源Biからの各種類毎の排気ガスの発生量fCO2(i),fNOx(i),fSOx(i)の総量fCO2all,fNOxall,fSOxallを、予め定める各規制値fCO2(max),fNOx(max),fSOx(max)以下とし、かつ、
(h7)前記トータルのランニングコストCALLが最小となるように、線形計画法または非線形計画法を適用して、
(h8)各電気エネルギー発生装置B1〜Bnの目標電力値W(1)SET〜W(m)SET、ならびに
(h9)各エネルギー発生源B1〜Bnの燃料流量fFUEL(1)(k)〜fFUEL(n)(k)および空気流量fA(1)〜fA(n)を、定期的に算出してそれぞれ制御目標値とし、
(h10)各熱エネルギー発生源Biの燃料の種類、燃料の流量、燃焼用空気を制御するとともに、
各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体流量を制御するプラント制
御装置とを含むことを特徴とする発電プラント。

【請求項2】

(a)燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生し、高温の熱媒体を供給する複数の熱エネルギー発生源と、
(b)熱エネルギー発生源からの熱媒体が有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する複数の電気エネルギー発生装置と、
(c)各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置と、
(d)熱エネルギー発生源へ供給する燃料の流量を制御する燃料流量制御手段と、
(e)熱エネルギー発生源へ供給する空気の流量を制御する空気流量制御手段と、
(f)電気エネルギー発生装置へ供給する熱媒体の流量を制御する熱媒体流量制御手段と、
(g)電力要求値WSETを設定する手段とを含み、
(h1)熱エネルギー発生源からの熱媒体の流量fB(i)を、燃料の費用が異なる各種類k毎の流量fFUEL(i)(k)の近似式で表し、
(h2)各電気エネルギー発生装置Tjの発電量W(j)SETを、各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体の流量fT(j)の近似式で表し、
(h3)複数q種類の各燃料を切換えて使用する各熱エネルギー発生源Bi毎の総燃料消費ランニングコストCFUELを計算し、
(h4)各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2,CNOx,CSOxを計算し、
(h5)これらの総燃料消費ランニングコストCFUELと、各排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2,CNOx,CSOxにそれぞれ対応する重みを考慮したトータルのランニングコストCALLを計算し、
(h6)各熱エネルギー発生源Biからの各種類毎の排気ガスの発生量fCO2(i),fNOx(i),fSOx(i)の総量fCO2all,fNOxall,fSOxallを、予め定める各規制値fCO2(max),fNOx(max),fSOx(max)以下とし、かつ、
(h7)前記トータルのランニングコストCALLが最小となるように、線形計画法または非線形計画法を適用して、
(h8)各電気エネルギー発生装置B1〜Bnの目標電力値W(1)SET〜W(m)SET、ならびに
(h9)各エネルギー発生源B1〜Bnの燃料流量fFUEL(1)(k)〜fFUEL(n)(k)および空気流量fA(1)〜fA(n)を、定期的に算出してそれぞれ制御目標値とし、
(h10)各熱エネルギー発生源Biの燃料の種類、燃料の流量、燃焼用空気を制御するとともに、
各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体流量を制御することを特徴
とする発電プラントの運転方法。

【請求項3】

(a)複数nのボイラBiであって、費用が異なる複数qの燃料を切換えて使用するボイラBiと、
(b)各ボイラBiからの蒸気が流入される蒸気ヘッダSHと、
(c)複数mのタービン発電機Tjであって、 蒸気ヘッダSHからの蒸気がそれぞれ供給され、 各タービン発電機Tjからの総電力が外部に供給されるタービン発電機Tjと、
(d)電力要求値WSETを設定する手段と、
(e)プラント制御装置であって、
(e1)各ボイラBiの蒸気ヘッダSHへ流入する蒸気流量fB(i)を、燃料の費用が異なる各種類k毎の流量fFUEL(i)(k)の近似式で表し、各ボイラBiの運用の燃料供給流量fB(i)の範囲を設定し、
(e2)各タービン発電機Tjの発電量W(j)SETを、蒸気ヘッダSHから供給する蒸気流量fT(j)の近似式で表し、 各タービン発電機Tjの運用の発電量W(j)SETの範囲を設定し、
(e3)複数q種類の各燃料を切換えて使用する各ボイラBi毎の総燃料消費ランニングコストCFUELを計算し、
(e4)各ボイラBi毎のCO2排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2と、各ボイラBi毎のNOx排気ガス処理のランニングコストの総和CNOxと、各ボイラBi毎のSOx排気ガス処理のランニングコストの総和CSOxを計算し、
(e5)これらの総燃料消費ランニングコストCFUELと、各排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2,CNOx,CSOxにそれぞれ対応する重み係数wf,wCO2,wNOx,wSOxを設定し、
(e6)トータルのランニングコストCALL、
CALL = wf・CFUEL+wCO2・CCO2
+wNOx・CNOx+wSOx・CSOx を計算し、
(e7)各ボイラBiのCO2の発生量fCO2(i)の総量fCO2all
を予め定めるCO2規制値fCO2(max)以下とし、 各ボイラBiのNOxの発生量fNOx(i)の総量fNOxallを予め定めるNOx規制値fNOx(max)以下とし、 各ボイラBiのSOxの発生量fSOx(i)の総量fSOxallを予め定めるSOx規制値fSOx(max)以下とし、かつ、
(e8)前記トータルのランニングコストCALLが最小となるように、線形計画法または非線形計画法を適用して、
(e9)各発電機G1〜Gmの目標電力値W(1)SET〜W(m)SET、各蒸気タービンT1〜Tmの抽気流量fP(1)〜fP(m)、各ボイラB1〜Bnの燃料流量fFUEL(1)(k)〜fFUEL(n)(k)および空気流量fA(1)〜fA(n)を定期的に算出してそれぞれ制御目標値とし、
(e10)各ボイラBiの燃料の種類、燃料の流量、燃焼用空気および給水
量を制御するとともに、 各タービン発電機Tjの蒸気ヘッダSHから供給される蒸気流量を制御するプラント制御装置とを含むことを特徴とする発電プラント。


2.異議申立理由の概要

特許異議申立人 堀田雄次は、本件発明1ないし3は、下記の甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものであると主張している。

甲第1号証: 特開平6-236202号公報
甲第2号証: 特開平6-86463号公報
甲第3号証: 特開昭58-75210号公報
甲第4号証: 特開平9-179604号公報


3.甲各号証記載の発明

甲第3号証には、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「複合プラントとは、電力、重油、蒸気、等の各種エネルギーを生成、変換あるいは消費する複数の機器より構成され、それら構成機器が並列運転されるもののことをいい、例えば、ボイラ・タービン発電機群よりなるいわゆるBTGプラント」(第1頁右欄第1-5行)

(2)「これら複合プラントの機器台数選択および負荷配分を主とする運転方法としては、従来、イ.過去の経験に基づく方法、ロ.単機効率の大きい機器から優先的に使用する方法等が行われていたが、貴重なエネルギーの無駄が多かった。近年になって省エネルギーの要請が高まった結果、この問題を最適化問題としてとらえ、この数理計画法の手法を解いて、その最適解に従って各機器の運転を行う方法が開発、実用化されつつある。一般に、この最適化手法としては、線形計画法、動的計画法、非線形計画法、等が知られる」(第1頁右欄第8-20行)

(3)「最適化問題を予め定められた外部条件および前記構成機器の特性を制約条件とし、最適運転状態が極値点となる関数を目的関数として定式化し」(第2頁右上欄第3-6行)

(4)「複合プラントの例として、製鉄所におけるBTGプラント、すなわち蒸気、電力発生プラントをとりあげる。これは、第1図に示すように複数のボイラ、タービン発電機等により構成されるプラントである。N缶のボイラ1-1、1-2、・・・、1-Nに、燃料としてそれぞれ重油2-1、2-2、・・・2-Nと、可燃性副生ガス(代表的なものは高炉から排出されるガス)3-1、3-2、・・・3-Nとを使い、それぞれ蒸気4-1、4-2、・・・4-Nを発生する。この蒸気4-1、4-2、・・・4-Nは共通ヘッダを通って、タービン6-1、6-2・・・6-Mおよび7-1、7-2、・・・7-Lに供給される。共通ヘッダより蒸気8-1、8-2、・・・8-Mがタービン6-1、6-2・・・6-Mに供給され、これによってタービン発電機9-1、9-2、9-Mが駆動され、合計Pなる電力を発電する。」(第2頁左下欄第10-同右下欄第7行)

(5)「発電された電力Pは、電力会社より購入する買電電力PBとともに、変電所12を介して、工場負荷に供給される。これがPLである。」(第2頁右下欄第11-14行)

(6)「省資源、省エネルギーの点から考え、単位時間あたりの運転コストを最小にする状態を最適な運転状態と考えることとする。このように考えると、本実施例における最適化問題の目的関数は「運転コスト」であり、イ.ボイラで使用する燃料のコスト、ロ.買電電力のコスト、ハ.給水のコストの合計である」(第3頁左上欄1-7行)

(7)「いくつかのパラメータを現時点の状態、あるいは計算結果を実現する時点における予測値に対応した状態にセットする。ここでいうパラメータとは、例えば、使用可能な可燃性副生ガスの量、所要電力量、所要蒸気量、あるいはその時点での買電単価等をいう。」(第3頁右上欄第5-10行)

(8)「第3図は本実施例を実現するための機器類の構成の一例を示す。計算制御装置101は、設定装置102からの許容計算時間を読み込み、さらに対象とする複合プラント106の現時点の状態を入力装置103を介して入力し、上述した方法に従って対象プラント106の最適運転状態を計算し、この計算結果をイ.出力装置104を介して対象プラント106の構成機器に対して出力し該機器の自動運転を行う」(第3頁右下欄第18行-第4頁左上欄第6行)

したがって、上記の記載及び第1図ないし第3図の記載をあわせて見ると、甲第3号証には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)。

「燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生し、蒸気を供給する複数のボイラーと、 ボイラーからの蒸気が有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する複数のタービン発電機と、
所要電力量PLを設定する設定装置と、
予め定められた外部条件および構成機器の特性を制約条件とし、最適運転状態が極値点となる関数を目的関数として定式化し、
運転コストが最小となるよう非線形計画法を適用して、
最適運転状態を計算し、この計算結果を構成機器に出力する計算制御装置とを含むBTGプラント」

甲第1号証には、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「異種の複数の熱源機器により構成されたエネルギー供給プラントの起動・停止スケジュールと稼働時の負荷率を決定する方法であって、前記熱源機器の入出力量の関係と該入出力量の上限値及び下限値の制約条件とを数式化し、プラントの目標出力量を満たし前記機器のエネルギー消費コスト及び/又は大気中への有害ガス排出量を最小にする前記機器の起動・停止スケジュールと稼働時の負荷率を線形計画法により求め」([請求項6])

(2)「本発明において、プラントとは、異種の複数の機器により構成されたものを意味し、これには例えば発電機、ボイラ、冷凍機等から構成される地域冷暖房システム又はコージェネレーションシステム或は燃料電池システム、各種の生産システムなどが含まれる。また、予め決めた評価関数としては、たとえばエネルギー消費コスト、大気中への有害ガス排出量或は生産台数などがある」(段落[0017])

(3)「計画修正・制御手段4は、前日の翌日予測結果1Aに基づいて作成した運転計画結果4200を、より正確な予測値である当日予測結果3Aに基づいて修正し、修正結果を機器の制御信号に変換し、エネルギー供給プラントの各熱源機器の起動・停止及び負荷率を制御する」(段落[0026]前段)

(4)「機器構成、機器定格容量、機器入力量と出力量の相関関係、機器入力量の上限値及び下限値、1時間間隔・1日分の冷熱及び温熱の需要量、ガス及び電力の従量料金単価をデータとして基本計画用データ格納手段(データベース)1000から基本計画作成手段2000に読み込む。または、入力して基本計画作成手段に記憶しておく。」(段落[0038])

(5)「上記データを用いて数理計画法を用いて基本計画作成手段2000で運転基本計画を作成する。」(段落[0039]前段)

甲第2号証には、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「発電所からの電力を受ける受電設備と、少なくとも燃料受入装置で受け入れた燃料によって発電するとともに温熱を発生する系内発電装置と、前記受電設備で受けた電力と前記系内発電装置で発電した電力とを系統連系して電力消費設備に供給する電力供給手段と、前記系内発電装置で発生した温熱を温熱消費設備に供給する温熱供給手段とを備えたエネルギー供給システムであって、エネルギー需要者のエネルギー需要量を賄う場合、下式yが最小となる前記系内発電装置の稼動量を演算する稼動量演算手段と、前記稼動量演算手段で演算された稼動量を満たすように前記系内発電装置を制御する制御手段とを備えたことを特徴とするエネルギー供給システム。
y=a×L+b×M+c×N
ここに、
a、b、cは、a≧0、b≧0、c≧0の重み付け係数であり、全てが同時に0にはならないものとする。
Lは、前記エネルギー需要量を賄う場合にエネルギー需要者が負担するエネルギーコスト
Mは、前記エネルギー需要量を賄うために消費する計算上の一次エネルギー消費量の総量
Nは、前記エネルギー需要量を賄う場合に排出される計算上の環境汚染物質排出総量」([請求項1])

(2)「Mすなわち、一次エネルギー消費量は、LNG、ナフサ、重油、石炭等のいわゆる化石燃料のみに着目する場合で複数の燃料が併用されているときはいずれかの燃料に換算して評価すればよい。換算はカロリー換算、燃料の質により重み付けした換算、取得価格による換算等により行うことができる。原子力発電の場合をも評価する場合は、核分裂物質をコスト等でたとえばLNGに等価換算すればよい。評価対象燃料は任意に特定すればよい。水力発電所における一次エネルギー消費量は通常無視してよい。
Nすなわち環境汚染物質は、CO2 、NOx、SOx が例示でき、W1 、W2、W3 を重み付けの係数とするとき、N=W1 〔CO2 〕+W2 〔NOx 〕+W3 〔SOx 〕で評価できる。特に、CO2 にのみ着目するときは、W1 =1、W2 =0、W3 =0、NOx にのみ着目するときは、W1 =0、W2 =1、W3 =0、SOx にのみ着目するときは、W1 =0、W2 =0、W3 =1とすればよい。評価対象とする環境汚染物質は状況に応じて任意に決定できる。
上述式yをy=a×Lとして(請求項4)、すなわち、エネルギーコストのみ
に着目してシステムを構成し制御しても良い。
上述式yをy=b×Mとして(請求項5)、すなわち、一次エネルギー消費量
の総量のみに着目してシステムを構成し制御しても良い。
上述式yをy=c×Nとして(請求項6)、すなわち、環境汚染物質排出総量
のみに着目してシステムを構成し制御しても良い。
さらに、y=a×L+b×M、y=b×M+c×Nあるいは、y=a×L+c
×Nに着目してシステムを構成し、制御してもよい。これらはいずれもy=a×
L+b×M+c×Nの場合の発明に含まれる特殊な場合である。これら特殊な場
合は、システムとしてはy=a×L+b×M+c×Nとしておいて、不要な係数
を0と設定しておいてもよいし、使用しない項を含まない式を予めメモリに記憶
しておいてもよい。
系内発電装置としては、電力と温熱を得る燃料電池(請求項7)、ガスエンジ
ンまたはガスタービンを用いて発電機を駆動して電力と温熱とを得る装置が適用
できる。」(段落[0013]〜段落「0019])

(3)「運転条件すなわち、コストミニマム、一次エネルギーミニマム、環境汚染物質ミニマム、あるいはこれらの任意の組合せのいずれで運転するかは運転開始前に決めておいてもよいし、運転中に変更してもよい。」
(段落[0069])

(4)「請求項1に係る発明のエネルギー供給システムによれば、エネルギー需要者の負担すべき価格、一次エネルギー消費量および環境汚染物質排出それぞれの面において最適な状態で系内発電装置を稼動し、温熱および電力をエネルギー需要者に供給できるから、系内発電装置のみならず、商用電力をも加味して総合的にエネルギー効率を向上でき、エネルギー需要者の負担を低減するとともに発電設備や送電設備の増設を抑え、かつ、環境汚染物質の排出量を減少することができる。すなわち、エネルギー需要者の立場および国家的見地からエネルギーを有効利用できるし、環境保全に寄与できる。」(段落[0108])

甲第4号証には、図面とともに、以下の記載がある。

(1)「各種生産プラントにおいて、予め用意された一種あるいは多種の燃料あるいはプラントの生産過程で生じる一種あるいは多種の副産物燃料を用いて蒸気を発生させるボイラと、前記発生された蒸気のエネルギーによって回転されるタービンと、このタービンに駆動されて発電を行う発電機とを有し、発電した電力の一部を売電する機能を有するプラントの運転を制御する運転制御システムに用いられる最適運転制御システムにおいて、各燃料あるいはプラントの各副産物燃料の消費上下限、ボイラの蒸気発生量上下限、発電機の発電量上下限、売電量上下限、売電量変化率制限、所内消費電力要求量、所内消費あるいは発生蒸気量、および生産プラントの動作条件に関する制約条件の何れかを考慮しながら、プラントの生産利益、売電利益の和から各燃料あるいは各副産物燃料のコスト、プラント運用コストを差し引いたプラント全体利益を最大化するような各燃料消費量の比率、ボイラの蒸気発生量、発電量、売電量を決定する最適化計算手段と、その結果得られた最適値を、プラント、ボイラ、タービン、発電機のローカル制御系へ指令値として出力する手段と、を備えている」
(段落[0016])

(2)「そのプラントの構成を第2図に示す。プラントは生産プラント11と燃焼ガス、蒸気、電力などのユーティリティ系から構成される。ユーティリティ系は、ボイラ15、タービン16、発電機17より構成される。ボイラ15では、生産プラントから排出され、燃料ガスタンク19に蓄えられたn-2種類の燃料ガス(可燃性副産物)ガスg1〜gn-2および石炭(微粉炭)と重油あるいは廃油を燃料として蒸気を発生し、蒸気ライン13へ供給する。燃料ガスは燃料ガスライン12へ供給される。複数台のタービン16および発電機17は蒸気ライン13から送出される蒸気に基づいて発電した電力を電力ライン14へ供給する。」(段落[0023])

(3)「最適化演算手段1C6 では、制約式、拘束式(1)〜(8)、(10)式および評価関数(9)式を受け取り、線形計画法あるいは非線形計画法に基づく最適化計算を行う。」(段落[0029]後段)

(4)「エネルギー配分最適値を設定値として、ボイラ、タービン、発電機などの個々のユニットに対するユニット制御システム2への指令値として送信する。」(段落[0030]中段)


4.対比・判断

<本件発明1について>

本件発明1と甲第3号証記載の発明とを対比すると、甲第3号証記載の発明の「蒸気」は、本件発明1の「高温の熱媒体」に相当し、以下同様に、「ボイラー」は「熱エネルギー発生源」に、「タービン発電機」は「電気エネルギー発生装置」に、「所要電力量PLを設定する設定装置」は「電力要求値を設定する手段」に、「BTGプラント」は「発電プラント」にそれぞれ相当するから、

両者は、

「燃料を燃焼させて熱エネルギーを発生し、高温の熱媒体を供給する複数の熱エネルギー発生源と、
熱エネルギー発生源からの熱媒体が有する熱エネルギーを電気エネルギーに変換する複数の電気エネルギー発生装置と、
電力要求値を設定する手段と、
所定の条件を満たし、かつ、トータルのランニングコストが最小になるように、非線形計画法を適用して、
発電プラントを制御する制御手段とを含む発電プラント」

である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]

(1) 本件発明1では「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けているのに対して、甲第3号証記載の発明では、この点の限定がない点。

(2)本件発明1では、「熱エネルギー発生源へ供給する燃料の流量を制御する燃料流量制御手段と、熱エネルギー発生源へ供給する空気の流量を制御する空気流量制御手段と、電気エネルギー発生装置へ供給する熱媒体の流量を制御する熱媒体流量制御手段」を設けているのに対して、甲第3号証記載の発明では、この点の限定がない点。

(3)「発電プラントを制御する制御手段」が、本件発明1では、
「熱エネルギー発生源からの熱媒体の流量fB(i)を、燃料の費用が異なる各種類k毎の流量fFUEL(i)(k)の近似式で表し、
各電気エネルギー発生装置Tjの発電量W(j)SETを、各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体の流量fT(j)の近似式で表し、
複数q種類の各燃料を切換えて使用する各熱エネルギー発生源Bi毎の総燃料消費ランニングコストCFUELを計算し、
各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2、CNOx、CSOxを計算し、
これらの総燃料消費ランニングコストCFUELと、各排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2、CNOx、CSOxにそれぞれ対応する重みを考慮したトータルのランニングコストCALLを計算し、
各熱エネルギー発生源Biからの各種類毎の排気ガスの発生量fCO2(i)、fNOx(i)、fSOx(i)の総量fCO2all、fNOxall、fSOxallを、予め定める各規制値fCO2(max)、fNOx(max)、fSOx(max)以下とし、かつ、
前記トータルのランニングコストCALLが最小となるように、線形計画法または非線形計画法を適用して、
各電気エネルギー発生装置B1〜Bnの目標電力値W(1)SET〜W(m)SET、ならびに
各エネルギー発生源B1〜Bnの燃料流量fFUEL(1)(k)〜fFUEL(n)(k)および空気流量fA(1)〜fA(n)を、定期的に算出してそれぞれ制御目標値とし、
各熱エネルギー発生源Biの燃料の種類、燃料の流量、燃焼用空気を制御するとともに、
各電気エネルギー発生装置Tjに供給される熱媒体流量を制御するプラント制
御装置」(以下、「本件発明1の制御手段」という。)であるのに対して、
甲第3号証記載の発明は、
「予め定められた外部条件および構成機器の特性を制約条件とし、最適運転状態が極値点となる関数を目的関数として定式化し、
運転コストが最小となるよう非線形計画法を適用して、
最適運転状態を計算し、この計算結果を構成機器に出力する計算制御装置」である点。

そこで、上記相違点について検討する。

最初に、上記相違点(2)について検討する。

制御装置によって運転の制御を行う発電プラントにおいて、
「熱エネルギー発生源へ供給する燃料の流量を制御する燃料流量制御手段と、熱エネルギー発生源へ供給する空気の流量を制御する空気流量制御手段と、電気エネルギー発生装置へ供給する熱媒体の流量を制御する熱媒体流量制御手段」を設けることは、当業者にとっては自明の事項である。

次に、上記相違点(1)及び(3)について検討する。

甲第1号証には、「異種の複数の熱源機器と、プラントの目標出力量を満たし熱源機器のエネルギー消費コスト及び大気中への有害ガス排出量が最小になるように、線形計画法を適用して、運転基本計画を作成し、各熱源機器の起動・停止及び稼働時の負荷率に基づいて制御信号を出力する制御手段を含むプラント」が記載されているのみであり、上記相違点(1)に係る「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載はない。
また、「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載がない以上、当然、「各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2、CNOx、CSOxを計算」しているとの記載もなく、甲第1号証に記載された運転基本計画を作成する制御手段が、上記相違点(3)に係る「本件発明1の制御手段」に相当するものではない。

甲第2号証には、「系内発電装置と、電力消費設備で要求されるエネルギー需要量を賄うための系内発電装置の稼動量を演算する稼動量演算手段であって、稼動量演算手段で演算された稼動量を満たすように、エネルギーコスト、一次エネルギー消費量、排出される環境汚染物質(CO2 、NOx 、SOx)排出総量にそれぞれ対応する重み付け係数の和が最小となるように系内発電装置を制御する制御手段を含むエネルギー供給システム」が記載されており、「環境汚染物質総排出量」を系内発電装置の最適化制御を行う際の制約の一つとしているが、「環境汚染物質総排出量」については、その単位がtonであるように、「総排出量」そのものは考慮しているものの、上記相違点(1)に係る「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載はない。
また、「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載がない以上、当然、「各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2、CNOx、CSOxを計算」しているとの記載もなく、甲第2号証に記載された系内発電装置を制御する制御手段が、上記相違点(3)に係る「本件発明1の制御手段」に相当するものではない。

甲第4号証には、「多種の燃料を用いて蒸気を生させる複数のボイラと、発生された蒸気のエネルギーによって回転される複数のタービンと、タービンに駆動されて発電を行う複数の発電機と、最適運転制御システムであって、動作条件に関する制約・拘束条件を考慮し、プラント全体利益を最大にするよう、線形計画法あるいは非線形計画法を適用して、各燃料消費量の比率、ボイラの蒸気発生量、発電量等を決定し、その結果得られた最適値をプラント、ボイラ、タービン、発電機などの個々のユニットに対するユニット制御システムへ指令値として送信する最適運転制御システムを含むプラント」が記載されているのみであり、上記相違点(1)に係る「各熱エネルギー発生源から発生される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載はない。
また、「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設けるとの記載がない以上、当然、「各熱エネルギー発生源Bi毎の複数の各種類毎の排気ガス処理装置による排気ガス処理のランニングコストの総和CCO2、CNOx、CSOxを計算」しているとの記載もなく、甲第4号証に記載されたユニット制御システムが、上記相違点(3)に係る「本件発明1の制御手段」に相当するものではない。

すなわち、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証には、「各熱エネルギー発生源から排出される排気ガスを処理する複数の排気ガス処理装置」を設ける点、及び、「本件発明1の制御手段」に相当するものが記載されていない。
また、本件発明1は、上記事項により明細書に記載された格別の効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、上記甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

<本件発明2について>

本件発明2は、本件発明1を方法で表現したものであり、本件発明1とは発明のカテゴリーが異なるのみで、本件発明1における発明を特定するために必要な事項をすべて備えている。

したがって、本件発明2は、上記本件発明1について述べたとおりの理由により、上記甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

<本件発明3について>

本件発明3は、本件発明1の「熱エネルギー発生源」を「ボイラ」に、「電気エネルギー発生源」を「タービン発電機」に、限定し、さらに、制御目標値として「各蒸気タービンT1〜Tmの抽気流量fP(1)〜fP(m)」を加えたもので、本件発明1をさらに限定したものである。

したがって、本件発明3は、上記本件発明1について述べたとおりの理由により、上記甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


5.むすび

以上の通りであるから、本件特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては、本件発明1ないし3についての特許を取り消すことはできない。

また、他に本件発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-10 
出願番号 特願平11-365332
審決分類 P 1 652・ 121- Y (F22B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 岡本 昌直
櫻井 康平
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3299531号(P3299531)
権利者 川崎重工業株式会社
発明の名称 発電プラント  
代理人 杉山 毅至  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 西教 圭一郎  

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