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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A23L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない A23L
管理番号 1088863
審判番号 無効2001-35418  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-07-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-09-27 
確定日 2003-08-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3159691号発明「鮮度保持具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3159691号に係る出願は、平成12年1月14日に特許出願され、平成13年2月16日にその特許の設定登録がなされ、その後、平成13年9月27日付けで請求人 大和紙工株式会社より本件無効審判が請求され、平成14年1月18日付けで被請求人 株式会社フレテックより答弁書及び訂正請求書(後日取り下げ)が提出され、平成14年9月10日に口頭審理を行って事件の争点整理をし、その後、平成14年11月25日付けで無効理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年1月24日に訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した前記上、下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。」に訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2の記載を、
「【請求項2】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、前記吸着体は多角形の平板状に形成し、前記フィルム体は該吸着体に対応する形状をなして前記スカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。」に訂正する。
ウ.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3〜請求項8を全て削除する。
エ.訂正事項d
出願当初明細書の段落番号【0010】〜【0021】(特許公報の段落番号【0010】〜【0021】)の欄に「【課題を解決するための手段】………………収納しておくことができる。」とあるのを、
「【0010】 【課題を解決するための手段】 ……………、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した前記上、下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としたことを特徴としている。
【0011】 ……………、フィルム体の上、下のスカート部間に形成した揮散用開口から外部へと徐々に揮散し、……………、この場合、フィルム状カバーを構成するフィルム体は鮮度保持液から揮発する気体に………………。また、前記フィルム体は吸着体よりも大きい寸法をもって……………、内部の吸着体が食品等に直に接触するのをフィルム体のスカート部によって防ぐことができ、……………保つことができる。
【0012】 また、請求項2の発明によると、吸着体は多角形の平板状に形成し、フィルム体は該吸着体に対応する形状をなしてスカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としている。
【0013】 これにより、1枚または2枚のフィルム体は、スカート部の各角隅部のみを接合することにより形成した複数の接合部で互いに接合されると共に、……………位置する非接合部分により当該非接合部部分に対応して1個ずつの揮散用開口が形成されているので、………………揮散させることができる。
【0014】 また、例えば四角形状をなすフィルム体の角隅部のみに接合部を形成でき、……………形成することができる。」と訂正する。
オ.訂正事項e
出願当初明細書の段落番号【0064】(特許公報の段落番号【0064】)の欄に
「即ち、各揮散用開口37は……………揮散させるものである。」とあるのを、
「【0057】 即ち、各揮散用開口37は図6に示す各接合部36間に位置し、上、下のフィルム体35、35のスカート部35A間に形成される非接合部分に対応して1個ずつ構成されている。……………外部に揮散させるものである。」と訂正する。
カ.訂正事項f
出願当初明細書の段落番号【0067】(特許公報の段落番号【0067】)の欄に「なお、前記第3の実施の形態では、……………効果が得られるものである。」とあるのを、「【0060】 なお、前記第3の実施の形態では、……………形成してもよい。……………効果が得られるものである。」と訂正する。
キ.訂正事項g
出願当初明細書の段落番号【0069】〜【0082】(特許公報の段落番号【0069】〜【0082】)の欄に「次に、図11および図12は本発明の……………確実に行うことができる。」とあるのを、全て削除する。
ク.訂正事項h
出願当初明細書の段落番号【0095】(特許公報の段落番号【0095】)の欄に「また、実施例2の場合には、……………ことが分かった。」とあるのを、
「【0074】 また、実施例2の場合には、黄変が全く発生していないことが分かった。……………ことが分かった。」と訂正する。
ケ.訂正事項i
出願当初明細書の 段落番号【0096】〜【0103】(特許公報の段落番号【0096】〜【0103】)の欄に「なお、前記第3の実施の形態では、……………すればよいものである。」とあるのを、
「【0075】 なお、……………、例えば図11に示す第3の変形例のように……………にのみ接合部41、41を形成し、該各接合部41間には合計2個の揮散用開口42、42を形成する構成としてもよい。
【0076】 また、……………、例えば図12に示す第4の変形例のように、1枚のフィルム体51を用いてカバー3を構成し、フィルム体51をU字状に折曲げた状態で吸着体2を挟むと共に、該フィルム体51の外縁側には上、下に離間したスカート部51A、51Aを形成する構成としてもよい。この点は、第2〜第3の実施の形態についても同様である。
【0077】 一方、前記第3の実施の形態では、フィルム体35を2軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いて……………用いてもよいものである。
【0078】 また、フィルム体35は、……………を用いて形成してもよい。
【0079】 一方、前記各実施の形態では、吸着体2(32)とフィルム体4(35)を長方形状とした場合を……………形成すればよいものである。」と訂正する。
コ.訂正事項j
出願当初明細書の 段落番号【0105】〜【0112】(特許公報の段落番号【0105】〜【0112】)の欄に「【発明の効果】 ……………向上させることができる。」とあるのを、
「【0081】 【発明の効果】 ……………フィルム状カバーとにより構成し、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着することによって固定し、前記吸着体の側方に張出して延び互いに上、下に離間した前記上、下のスカート部間には、前記鮮度保持液が……………、商品価値を高めることができる。
【0082】 また、1枚または2枚の……………防ぐことができる。
【0083】 一方、請求項2に記載の発明は、吸着体を多角形の平板状に形成し、フィルム体は該吸着体に対応する形状をなしてスカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して各フィルム体のスカート部間には上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としているため、……………良好に防止することができる。
【0084】 また、多角形状をなすフィルム体の角隅部のみに接合部を形成でき、フィルム体のスカート部には各接合部間に位置して1個ずつの揮散用開口を形成することができるので、……………防ぐことができる。」と訂正する。
サ.訂正事項k
出願当初明細書の【図面の簡単な説明】(特許公報の【図面の簡単な説明】)の欄に「【図1】……………42A 切取り線」とあるのを、
「【図1】……………………
【図11】 第3の変形例による鮮度保持具を示す正面図である。
【図12】 第4の変形例による鮮度保持具を示す斜視図である。
【符号の説明】
1,31,31′.31″ 鮮度保持具
2,32 吸着体
2A,32A 側面部
3,34 カバー
4,35,51 フィルム体
4A,35A,35A′,35A″,51A スカート部
7,21 接着部
8,37,42 揮散用開口
10 食品
11 食品包装体
35B 角隅部
36,41 接合部 」と訂正する。
シ.訂正事項l
出願当初明細書に添付した図11〜図16のうち図11〜図13、図15を削除し、図14を別紙の図11のように訂正すると共に、図16を別紙の図12のように訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項aにおける「該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、」は、願書に添付された明細書の請求項2、段落0030、段落0031、段落0033、段落0038、段落0098、及び図1ないし図5、図16に記載されており、同じく「該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着することによって固定し、」は、願書に添付された明細書の請求項2、段落0037、図1ないし図3、図5、図16に記載されており、同じく「前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した前記上、下のスカート部間には、」は、願書に添付された明細書の請求項2、段落0038、及び図1ないし図3、図5、図16に記載されており、いずれも新規事項に該当しない。
訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項bにおける「前記吸着体は多角形の平板状に形成し、前記フィルム体は該吸着体に対応する形状をなして前記スカート部側に複数の角隅部を有し、」は、願書に添付された明細書の請求項4、段落0058、及び図6ないし図10、図14に記載されており、同じく「前記フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、」は、願書に添付された明細書の請求項4、段落0061、及び図6ないし図10、図14に記載されており、同じく「該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成とした 」は、願書に添付された明細書の請求項3、段落0063、段落0064、段落0066、段落0096、及び図6ないし図10、図14に記載されており、いずれも新規事項の追加に該当しない。
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項3〜請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項dないしe、g、iないしlは、上記訂正事項aないしcと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項f及びhは、誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当し、これらはいずれも新規事項の追加に該当しない。
また、上記訂正事項aないしlは、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

ところで、請求人は、上記訂正請求により訂正された請求項2には、次の(A)ないし(C)の記載不備が存在するから、上記訂正を認めるべきではない旨主張する。
(A)訂正後の請求項2に記載されている要件のみでは、特許権者の主張する発明の効果は得られない。即ち、角隅部の接合部の形状等を限定しない限り、吸着体をフィルム体の間に拘束することはできないところ、その限定がない。
(B)訂正後の請求項2は、その記載自体の中に矛盾があり、不明瞭である。即ち、鮮度保持具を構成するフィルム体を1枚とした場合、各角隅部を接合しても、フィルム体の折り目の両端の角隅部間には揮散用開口は生じ得ず、各角隅部間に揮散用開口を設けるという請求項2の要件と矛盾する。
(C)訂正後の請求項2の記載と、訂正後の発明の詳細な説明の記載及び図面とには整合しない部分があり、不明瞭である。即ち、請求項2では、各角隅部が接合されることが要件となっているにもかかわらず、発明の詳細な説明の記載及び図面には、接合されていない角隅部を有する鮮度保持具が本発明の態様として記載されている。
上記主張について検討する。
(A)について
フィルム体間に吸着体を抜止め状態で保持できるか否かは、吸着体の大きさと角隅部の接合部の形状との関係で決まることであるが、図6に示されるL字形の接合部の他にも、吸着体の大きさとの関係で色々な形状の接合部を選択して吸着体をフィルム体の間に拘束できると認められる。
そうすると、請求項2において、角隅部の接合部の形状を特に限定する必要はなく、上記(A)の点に記載不備はない。
(B)について
訂正後の請求項2の「各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける」との記載は、角隅部の各接合部の間に位置する前記フィルム体のスカート部間に1個ずつの揮散用開口を設けることを規定したものである。
鮮度保持具を構成するフィルム体を1枚とした場合、即ち、1枚のフィルム体を二つ折りにしてその間に吸着体を挟んだ場合、折り目に沿った部分は、上、下に離間したスカート部ではないのであるから、フィルム体の折り目の両端の角隅部間に揮散用開口が存在しないことと、請求項2の上記の記載とは何ら矛盾するものではなく、上記(B)の点に記載不備はない。
(C)について
訂正後の請求項2は、願書に添付の明細書の特許請求の範囲の請求項2を減縮したものである。かかる減縮によって、除かれた発明の態様に関する事項が、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明の項に削除されずに残っていたとしても、このことをもって直ちに本件明細書に特許法第36条の規定に違反するほどの記載不備があるとまではいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用しない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第134条第2項及び同条第5項で準用する126条第2項及び第3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

3.当事者の主張
(1)請求人の主張
請求人は、甲第1号証(特開平7-17576号公報)及び甲第2号証(USP4802574号明細書)を提出して、本件特許の請求項1、2、4ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載されており、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、また、本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
なお、本件の訂正後の請求項1ないし2に係る発明に対する請求人の主張については、後記の「当審の判断」の項で触れることとする。

(2)被請求人の主張
本件の訂正後の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明とは、その具体的構成及び作用効果の各点で相違しており、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に該当するものではなく、十分に特許要件を具備しているものである旨主張している。

4.本件発明
訂正後の本件請求項1ないし2に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した前記上、下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。
【請求項2】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体により構成し、前記吸着体は多角形の平板状に形成し、前記フィルム体は該吸着体に対応する形状をなして前記スカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。」

5.当審の判断
(1)甲各号証に記載の発明
甲第1号証には、「イソチオシアン酸エステルを含有する鮮度保持剤と、該鮮度保持剤を収納するための小袋体を少なくとも2以上ヒートシール連通部分を介して備える連続袋体と、を有する鮮度保持用連続袋体であって、前記小袋体は、鮮度保持剤を収納するための内部スペースを有し、隣接する小袋体の内部スペース同士は、前記ヒートシール連通部分を介して互いに連通しており、前記隣接する小袋体の間に介在するヒートシール連通部分の幅内を切断し、単独の鮮度保持剤とこれを収納する単独の小袋体とを備える1ユニットの鮮度保持用袋体に分離することにより、該小袋体の内部スペースと外部雰囲気が連通して、小袋体内部の鮮度保持剤から発生したイソチオシアン酸エステル蒸気が外部雰囲気中に流出するようになっていることを特徴とする鮮度保持用連続袋体。」(請求項1)、「本発明は、流通・保存時の生鮮食品、加工食品の防黴、静菌、殺菌を目的とした食品の鮮度保持剤を包装してなる鮮度保持用袋体に関するものである。」(段落0001)、「このものに開示されている鮮度保持剤は、その鮮度保持の機構上、あらかじめ数個から数十個を一纏めにしてイソチオシアン酸エステル不透過性の包装材料よりなるパウチで包装した形態を取っている。……………その鮮度保持効果、すなわち、イソチオシアン酸エステル残存量は開封からの時間に依存し、パウチから最初に取り出した鮮度保持剤と最後に取り出したそれとは効きめが若干異なり鮮度保持効果が不安定になるという問題もあった。また、さらに不透過パウチの開封の際に、パウチ内部に貯留したイソチオシアン酸エステル蒸気が一度に放出されるため、包装作業工程での刺激臭は甚だしく、作業環境の悪化も問題になっていた。本発明はこのような実情に基づいて創案されたものであり、」(段落0004、0006、0007)、「このようなイソチオシアン酸エステルを含有せしめる担持体7aとしては、各種の多孔質粉末、粘土鉱物、紙、不織布、セルロースマット等が例示されるが、……………このような担持体7a(鮮度保持剤7)の形状には特に制限はなく、粒状、シート状、マット状、塊状、練り込んでブロック状の所定形状に固めたもの等種々の形態が採択できる。」(段落0026、0027)、「小袋体10は、鮮度保持剤から発せられるイソチオシアン酸エステル蒸気が透過しにくい難透過性のフィルムから形成することが好ましい。」(段落0031)、「このようなヒートシール連通部分30は、ヒートシールに際して、融着すべく包材間に未接着部分が生じるようにヒートシール熱板に適宜連通のための溝を備えたものを用いれば容易に形成できる。」(段落0017)、「本実施例においては、連続袋体の長手方向片端には、図1に示されるように完全シール部60が形成され、さらに連続袋体の両端部にも完全シール部61(一方端は図面上現れていない)が形成される。完全シール部60、61とは、これらのシール部を通じては小袋体10の内部スペースEと、外部雰囲気との通気性が遮断されていることをいう。」(段落0019)及び「小袋体10の両サイドのヒートシール連通部分30の幅内を切断した状態図が図4に示される。この場合には、小袋体10内部の鮮度保持剤から発生したイソチオシアン酸エステルの蒸気が小袋体10の両サイドの切断されたヒートシール連通部分30から外部雰囲気中に流出する。なお、『幅内を切断』とは、ヒートシール連通部分30の幅の範囲内で切断することをいう。」(段落0022)と記載されている。

甲第2号証には、「上面および下面を有する少なくとも一つの吸収材層からなる吸収片、前記吸収片の前記上面及び下面に配置されて格子状の網の形をとり、上面および下面を有する不織布結合体を形成する不織布の層、前記不織布結合体の前記上面および下面に配置されて、上面および下面を有するプラスチック・フィルム結合体を形成するプラスチック・フィルム、および、前記積層フィルム結合体の前記上面および下面に配置されて、その縁部に沿って密封されるプラスチック・カバーからなる、食品を収容する容器に気体食品保存剤を揮散させるための装置。」(特許請求の範囲の請求項1)、「本発明に独特の一つの特徴は、食品を効果的に保存するためにちょうど必要とされる量のみを揮散させるように気体の揮散速度を調節できる能力があることにある。この定量的に制御された揮散は、第6a図に示すようなプラスチック・カバーの孔によって、また第6b-d図に示すように吸収片の側部(側面)および端部(端面)を選択的に開口することによって行われる。」(3欄48行〜56行)、及び「図5のラインbは、図6bに対応している。この場合、吸収片は、孔の形成されていないプラスチック・カバーを有しているが、全ての側面と端面が開口している。この態様は、上述の形態の約50%に揮散速度を減少させる。」(3欄66行〜4欄2行)と記載されている。

(2)対比・判断
(請求項1に係る発明について)
甲第1号証には、イソチオシアン酸エステルを含有する鮮度保持剤と、該鮮度保持剤を収納するための小袋体を少なくとも2以上ヒートシール連通部分を介して備える連続袋体と、を有する鮮度保持用連続袋体であって、前記小袋体は、鮮度保持剤を収納するための内部スペースを有し、隣接する小袋体の内部スペース同士は、前記ヒートシール連通部分を介して互いに連通している鮮度保持用連続袋体(図1参照)が記載され、そこにはさらに、隣接する小袋体の間に介在するヒートシール連通部分の幅内を切断し、単独の鮮度保持剤とこれを収納する単独の小袋体とを備える1ユニットの鮮度保持用袋体に分離することにより、該小袋体の内部スペースと外部雰囲気がヒートシール連通部分を介して連通して、小袋体内部の鮮度保持剤から発生したイソチオシアン酸エステル蒸気が外部雰囲気中にヒートシール連通部分を介して流出するよう構成した1ユニットの鮮度保持用袋体(図4参照)が記載されているものと認める。
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)の鮮度保持具と甲第1号証に記載の上記1ユニットの鮮度保持用袋体を対比すると、甲第1号証に記載の「イソチオシアン酸エステルを含有する鮮度保持剤」、「ヒートシール連通部分」及び「鮮度保持用袋体」は、本件発明の「揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体」、「揮散用開口」及び「鮮度保持具」に該当することから、両者は、食品の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と不透過性フィルム体とからなり、吸着体内の鮮度保持液が徐々に外部に揮散するのを許す揮散用開口が設けられ、かつ、吸着体が食品等に直に接触するのを不透過性フィルム体によって防止できるよう構成された鮮度保持具である点で共通するものと認められる。
しかしながら、本件発明は、吸着体を外側から覆うフィルム状カバーを「不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体」により構成し、かつ「該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面に接着する」という手段でもって該吸着体をフィルム体に固定し、さらに「前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した上、下のスカート部間には、鮮度保持液の揮散を許す揮散用開口を設ける」のに対して、甲第1号証では、ヒートシール連通部分の小さな連通部分を除いて4辺が閉塞された小袋体の中に鮮度保持液を吸着した吸着体を収納すると共に、前記ヒートシール連通部分を揮散用開口とする点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
鮮度保持液を吸着した吸着体を4辺が閉塞されている小袋体に収納した場合には、該吸着体は周囲が閉塞された小袋体によって自動的に拘束されるのであるから、甲第1号証においては、該吸着体と小袋体を構成するフィルム体とを接着して固定する必要は全くない。
すなわち、甲第1号証に記載の吸着体を収納した小袋体からは、吸着体の上、下面にフィルム体を接着することによって固定するという着想が生まれる余地はない。
してみると、鮮度保持液を吸着した吸着体をヒートシール連通部分を除いて4辺が閉塞されている小袋体に収納するという甲第1号証に開示の技術思想に基づいて、鮮度保持液を吸着した吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面にフィルム体を接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した上、下のスカート部間を、鮮度保持液の揮散を許す揮散用開口とすることは、当業者において容易に想到し得ることではない。
さらに付け加えると、上記相違点は、以下に示す理由からも当業者が容易に想到し得ることではない。
甲第1号証の段落0002ないし段落0007の「従来の技術」及び「発明が解決しようとする課題」の欄の記載からみて、甲第1号証に記載の鮮度保持用連続袋体においては、全体としては外部雰囲気と通気が遮断されていることが必須の条件であり、鮮度保持を必要とする食品を包装する際に、上記連続袋体の小袋体間に介在するヒートシール連通部分の幅内を切断して、1ユニットの鮮度保持用袋体に分離し、この分離した単独の鮮度保持用袋体を食品と共に包装用外袋の中に収納することにより、甲第1号証に記載の技術課題を解決したものである。
そうだとすると、甲第1号証においては、上記連続袋体を切断して得られる1ユニットの鮮度保持具は、ヒートシール連通部分を除いて周辺部が閉塞されている小袋体から成ることが必然であり、上記連続袋体からは、本件発明のような上、下に離間した上、下のスカート部間を、その全周にわたって外部雰囲気と連通する構成の鮮度保持具を得ることは困難である。
言い換えれば、本件発明のような上、下に離間した上、下のスカート部間を、その全周にわたって外部雰囲気と連通する構成の鮮度保持具を一列に繋げても、全体として外部雰囲気と通気が遮断されている連続袋体にはならない。
すなわち、甲第1号証の「1ユニットの鮮度保持用袋は、鮮度保持用連続袋体のヒートシール連通部分の幅内を切断することにより作られ、かつ、前記鮮度保持用連続袋体は、全体としては外部雰囲気と通気が遮断されていることが必須の条件である」という開示を前提とする限り、甲第1号証に記載の1ユニットの鮮度保持用袋体を、本件発明で採用する「鮮度保持液を吸着した吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上、下面にフィルム体を接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上、下に離間した上、下のスカート部間には、鮮度保持液の揮散を許す揮散用開口を設ける」という構成に変更することはできないのであるから、本件発明の上記構成は、甲第1号証に基づいて当業者が容易に想到し得ることではない。
また、甲第2号証には、食品保存剤の吸収片の上、下面に不織布層、プラスチックフィルム層およびプラスチックカバー層を積層してなる鮮度保持具が記載されているが、甲第2号証に記載の鮮度保持具は、本件特許明細書の段落0003ないし0004に記載されている従来技術そのものである。
先に述べたとおり、甲第1号証に記載の吸着体を収納した小袋体からは、吸着体の上、下面にフィルム体を接着することによって固定するという着想が生まれる余地は全くない以上、甲第1号証と甲第2号証を組み合わせることは当業者において困難である。
そして、本件発明は、上記構成を採用することにより、特許明細書に記載されたとおりの効果を奏するものである。
以上のとおり、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(請求項2に係る発明について)
本件請求項2に係る発明の鮮度保持具と甲第1号証に記載の上記1ユニットの鮮度保持用袋体を対比すると、両者は、食品の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と不透過性フィルム体とからなり、吸着体内の鮮度保持液が徐々に外部に揮散するのを許す揮散用開口が設けられ、かつ、吸着体が食品等に直に接触するのを不透過性フィルム体によって防止できるよう構成された鮮度保持具である点で共通すると認められる。
しかしながら、本件請求項2に係る発明は、吸着体を外側から覆うフィルム状カバーを「不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上、下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上、下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフィルム体」により構成し、かつ「吸着体は多角形の平板状に形成し、フィルム体は該吸着体に対応する形状をなして前記スカート部側に複数の角隅部を有し、フィルム体の上、下のスカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により1個ずつの揮散用開口を設ける」のに対して、甲第1号証では、ヒートシール連通部分の小さな連通部分を除いて周辺部が閉塞されている小袋体の中に鮮度保持液を吸着した吸着体を収納すると共に、前記ヒートシール連通部分を揮散用開口とする点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
「ふくろ(袋)」とは、「中に物を入れて、口をとじるようにした入れ物。」(広辞苑第5版参照。)と定義される。
この定義に従えば、本件請求項2に記載の「フィルム体の上、下のスカート部側には、該スカートの各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により1個ずつの揮散用開口を設ける」という構成のものは、フィルム体の袋の中に吸着体を入れて、口をとじるようにしたものに該当しないことは明らかであり、甲第1号証に記載の1ユニットの鮮度保持用袋体とは明確に区別されるものである。
また、本件請求項2に係る発明の鮮度保持具は、スカート部の各角隅部に形成された接合部以外の部分は、全周にわたって揮散用開口として外部雰囲気に解放するものである。
そうすると、上記本件請求項1に係る発明についての判断の項に示した理由により、すなわち、甲第1号証の「1ユニットの鮮度保持用袋は、鮮度保持用連続袋体のヒートシール連通部分の幅内を切断することにより作られ、かつ、前記鮮度保持用連続袋体は、全体としては外部雰囲気と通気が遮断されていることが必須の条件である」という開示を前提とする限り、甲第1号証に記載の1ユニットの鮮度保持用袋体を、本件請求項2に係る発明で採用する「フィルム体の上、下のスカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上、下に離間して形成される非接合部分により1個ずつの揮散用開口を設ける」という構成に変更することは、当業者において困難である。
この点について、請求人は、平成15年4月11日付け弁駁書において、「甲第1号証には、次の図Aの態様が記載されているといえる。この態様は、本件特許の図12の態様と、接合部の形状が異なる以外、何ら変わるところがない。………〔中略〕………そして、本件特許の図6の態様(請求項2の態様)は、上記図Aの連通部分35が形成されていない辺に、連通部分35と同様の開口を形成したものにすぎない。図Aの態様に対して、吸着体からの鮮度保持液の揮散性を高めるために図6のように開口を増やすことには、構成上何の困難性もなく、当業者が極めて容易になし得ることである。」(4頁17行〜5頁6行)と主張する。
しかしながら、先に記載したとおり、甲第1号証には、図Aの連通部分35が形成されていない辺に、連通部分35と同様の開口を形成することを阻害する要因があるので、請求人の上記主張は採用しない。
また、甲第2号証には、食品保存剤の吸収片の上、下面に不織布層、プラスチックフィルム層およびプラスチックカバー層を積層してなる鮮度保持具が記載されているのみである。
してみると、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえず、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る発明の特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鮮度保持具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、
揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、
該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上,下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上,下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフイルム体により構成し、
該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上,下面に接着することによって固定し、
前記吸着体の外側に張出して延び互いに上,下に離間した前記上,下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。
【請求項2】 食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、
揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、
該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上,下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上,下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフイルム体により構成し、
前記吸着体は多角形の平板状に形成し、前記フイルム体は該吸着体に対応する形状をなして前記スカート部側に複数の角隅部を有し、
前記フィルム体の上,下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、
該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上,下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としたことを特徴とする鮮度保持具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば生鮮食料品、菓子等の食品類を長期に保存し、その鮮度を保持するのに好適に用いられる鮮度保持具に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、鮮度保持具は、食品またはその他の被保存物(例えば、笹の葉、柿の葉等の食品装飾品、皮革製品、木・竹製品、草・藁製品等)の鮮度を保つために用いるもので、このような鮮度保持具は、例えば特開平9-140363号公報等により知られている。
【0003】
この種の従来技術による鮮度保持具は、例えばエチルアルコール等を主成分とする揮発性の鮮度保持液を吸着体に含浸させることにより構成され、この吸着体は天然パルプ材等を用いて長方形の平板状または丸棒状の小片として形成されるものである。
【0004】
例えば、長さ50mm、幅30mmで、厚さ2mmの長方形状をなす平板として形成される吸着体は、その上,下面が気体に対して高い不透過性を有する樹脂製のフィルム層で覆われ、前,後方向と左,右方向の側面部からのみ内部の鮮度保持液が徐々に外部へと揮散される。
【0005】
また、例えば直径10mm、長さ70mmの丸棒状をなす吸着体は、その外周面側が全長に亘り気体に対して高い不透過性を有する樹脂製のフィルム層で覆われ、長さ方向両端側の端面部から内部の鮮度保持液が徐々に外部へと揮散される。なお、この場合には樹脂製のフィルム層を多孔質構造とし、吸着体の外周面側からも鮮度保持液を徐々に揮散させる処理が施されている。
【0006】
そして、このような鮮度保持具は、例えば生鮮食料品、菓子類等の食品包装体内に挿入して用いられ、前記吸着体内の鮮度保持液は食品包装体中に徐々に揮散することにより、食品包装体内の空間(ヘッドスペース)を鮮度保持を行うガス化雰囲気で満たすと共に、食品に対しては表層側に吸着され、例えばカビ等の菌の増殖を抑制するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来技術では、鮮度保持具を食品包装体内に挿入して用いる場合に、吸着体の側面等が包装体内の食品に直に接触し、吸着体内の鮮度保持液が食品の方へと早期に吸い取られることがあり、これにより鮮度保持具としての寿命が低下すると共に、食品が変色し商品価値を落とすという問題がある。
【0008】
また、洋菓子類等のように油脂を多く含んだ食品にあっては、食品中の油脂分が鮮度保持具の吸着体に側面等から吸込まれることがあり、これにより鮮度保持具は、吸着体が吸込んだ食品中の油脂分等により変色し、外観品質の低下を招くという問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、吸着体が食品等に直に接触するのを防止し、食品等の鮮度を長期に亘り安定して保持できると共に、吸着体の変色等による外観品質の低下を抑え、商品価値を高めることができるようにした鮮度保持具を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成は、食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具であって、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとからなり、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上,下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上,下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフイルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上,下面に接着することによって固定し、前記吸着体の外側に張出して延び互いに上,下に離間した前記上,下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としたことを特徴としている。
【0011】
このように構成することにより、予め吸着体内に吸着された揮発性の鮮度保持液は、フィルム体の上,下のスカート部間に形成した揮散用開口から外部へと徐々に揮散し、その揮散速度を開口面積によって調整することができる。この場合、フィルム状カバーを構成するフィルム体は鮮度保持液から揮発する気体に対して高い不透過性を有しているので、吸着体内の鮮度保持液がカバーの前記揮散用開口以外の部分から外部に揮散することはない。また、前記フィルム体は吸着体よりも大きい寸法をもって吸着体を外側から覆い、該吸着体の側方に張出すスカート部を有しているので、内部の吸着体が食品等に直に接触するのをフィルム体のスカート部によって防ぐことができ、揮散用開口によって鮮度保持液の揮散速度を適正に保つことができる。
【0012】
また、請求項2の発明によると、吸着体は多角形の平板状に形成し、フイルム体は該吸着体に対応する形状をなしてスカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上,下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して前記フィルム体のスカート部間には、上,下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としている。
【0013】
これにより、1枚または2枚のフイルム体は、スカート部の各角隅部のみを接合することにより形成した複数の接合部で互いに接合されると共に、該各接合部により吸着体をフィルム体の間に挟んだ状態で拘束でき、フィルム体のスカート部よりも内側となる位置に吸着体を保持しておくことができる。そして、フィルム体のスカート部には複数の接合部間に位置する非接合部分により当該非接合部部分に対応して1個ずつの揮散用開口が形成されているので、吸着体内の鮮度保持液を揮散用開口から徐々に外部へと揮散させることができる。
【0014】
また、例えば四角形状をなすフィルム体の角隅部のみに接合部を形成でき、フィルム体のスカート部には各接合部間に位置して少なくとも2個以上の揮散用開口を形成することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態による鮮度保持具を、食品保存のために用いた場合を例に挙げ添付図面に従って詳細に説明する。
【0016】
ここで、図1ないし図4は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は本実施の形態で採用した鮮度保持具を示し、該鮮度保持具1は、後述の吸着体2およびカバー3等とからなり、このカバー3は吸着体2を上,下両側から覆う後述のフィルム体4,4により構成されている。
【0017】
2は各フィルム体4間に配置された吸着体で、該吸着体2は、例えば天然のヴァージンパルプ材、または吸着、吸水加工を施したポリオレフィン等からなる織布層、不織布等の材料を用いて長方形の平板状に形成され、その長さは30〜90mm程度で、幅寸法が15〜55mm程度となり、図2に示す如く厚さTは、例えば1〜2mm程度となっている。
【0018】
そして、吸着体2内には、例えばエチルアルコール等を主成分とする揮発性の鮮度保持液が含浸され、この鮮度保持液は吸着体2の側面部2A側から後述の揮散用開口8を通じて外部へと徐々に揮散される。
【0019】
この鮮度保持液の成分は、下記の表1に示す鮮度保持液Aに対して、表2に示す鮮度保持液Bを、B/A=(0.3/100)〜(0.5/100)なる体積比で混合したものが、1例として用いられる。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
なお、鮮度保持液A中の乳酸の代用あるいは併用で抗菌効果のある脂肪酸等も使用可能である。
【0023】
3は吸着体2を外側から覆うフィルム状カバーで、該カバー3は図2、図3に示すように吸着体2を上,下からサンドイッチ状に挟む2枚のフィルム体4,4により構成され、該各フィルム体4は吸着体2の上,下面に後述の各接着部7により接着されている。
【0024】
そして、フィルム体4は吸着体2よりも大きい寸法をもって長方形状をなす薄いシートとして形成され、その外縁部側はスカート部4Aとなって吸着体2から側方に張り出している。スカート部4Aの張出し寸法Lは、例えば4〜6mm程度であり、吸着体2の厚さTよりも大きい寸法(L>T)に形成されている。
【0025】
この場合、スカート部4Aの張出し寸法Lは、吸着体2の厚さTと等しい寸法(L=T)とすることも可能であり、張出し寸法Lを吸着体2の厚さTよりも小さい寸法(L<T)とすることも可能である。しかし、スカート部4Aの張出し寸法Lを、吸着体2の厚さTと等しい寸法(L=T)、または小さい寸法(L<T)にすると、吸着体2の側面部2Aが外部の食品等に直に接触する虞れが生じ易くなるものである。
【0026】
ここで、フィルム体4は、例えば2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)等を用いて形成され気体に対し高い不透過性を有する高ガスバリヤ性のフィルム層5と、特殊レジンを用いたコーティング層6と、該コーティング層6とフィルム層5との間に形成されたフィルム印刷層(図示せず)とにより3層構造をなし、前記コーティング層6はフィルム印刷層に対するインク保護層を構成しているものである。
【0027】
また、前記フィルム印刷層は可食インク、非毒性インクを用いて、例えば商品名、構成物質の成分比、使用上の注意事項等を印刷表示したもので、このために前記フィルム層5は透明性を有する樹脂材料が用られている。一方、コーティング層6は吸着体2のパルプ材に密着し、吸着体2の誤食等に対する噛切り、咀嚼分解を防止する機能を有している。また、コーティング層6には食品香料等が含浸され、この香料を徐々に外部へと放散させる機能も有している。
【0028】
そして、フィルム体4は全体の厚さtが、例えば30〜70μm程度の比較的厚い寸法をもって形成され、外縁側のスカート部4Aにある程度の腰を与え、例えば上,下のスカート部4A,4Aが水滴または水分等の影響で互いに密着したりするのを抑える構成となっている。
【0029】
なお、フィルム体4を構成するフィルム層5、コーティング層6の材料としては、2軸延伸ポリプロピレン以外のポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリエステル、ポリエチレン、延伸ナイロン等の樹脂フィルムを用いてもよいものである。
【0030】
7,7は各フィルム体4を吸着体2の上,下面に固定した接着部で、該各接着部7は吸着体2の上,下面にほぼ全面に亘って延びるように形成され、その接着手段としては、例えば食品に対して安全な糊剤、熱圧着等の手段が用いられているものである。
【0031】
8は各フィルム体4のスカート部4A間に形成された揮散用開口で、該揮散用開口8は、図3に示す如く吸着体2の前,後,左,右の側面部2A,2A,…を外気と連通させるように、吸着体2から側方に張出し互いに上,下に離間したスカート部4A間に形成されている。そして、揮散用開口8は、吸着体2内に含浸された前記鮮度保持液を各側面部2Aから外部に揮散させるものである。
【0032】
本実施の形態による鮮度保持具1は上述の如き構成を有するもので、次に、その鮮度保持動作について説明する。
【0033】
まず、図4に示すように、例えばサンドイッチ等の食品10を樹脂製の透明袋からなる食品包装体11内に密封して保存するとき等に、該食品包装体11内に鮮度保持具1を予め挿入しておく。
【0034】
そして、鮮度保持具1の吸着体2内に含浸させた鮮度保持液は、食品包装体11中に徐々に揮散することにより、食品包装体11内の空間(ヘッドスペース)を鮮度保持を行うガス化雰囲気で満たす。また、揮散ガスの一部は食品10の表層側に吸着される。これにより、食品包装体11内では食品10の鮮度を長期に亘って保持でき、例えばカビ等の菌の増殖を抑制することができる。
【0035】
ところで、鮮度保持具1を食品包装体11内に挿入して用いる場合に、吸着体2の側面部2Aが包装体11内の食品10に直に接触すると、吸着体2内の鮮度保持液が食品10の方へと早期に吸い取られる可能性があり、これにより鮮度保持具1の寿命が低下する虞れがある。
【0036】
そこで、本実施の形態にあっては、2枚のフィルム体4,4を用いて吸着体2を上,下方向から挟み、該フィルム体4,4を吸着体2の上,下面に接着すると共に、各フィルム体4の外縁側には吸着体2から側方に張出すスカート部4Aを形成し、該各スカート部4A間には鮮度保持液が吸着体2の各側面部2Aから揮散するのを許す揮散用開口8を設ける構成としている。
【0037】
これにより、フィルム体4,4間に挟んだ吸着体2の側面部2A側から鮮度保持液をスカート部4A間の揮散用開口8を通じて食品包装体11内のヘッドスペースへと徐々に揮散させることができ、食品包装体11内を鮮度保持を行うガス化雰囲気で満たすことができる。
【0038】
また、各フィルム体4のスカート部4Aは吸着体2の上,下面から外方へと延びているため、例えば図4に示すように、食品包装体11内で鮮度保持具1が食品10と接触しても、この食品10に対してはフィルム体4のスカート部4Aが接触するだけで、吸着体2の側面部2A側が食品10に直に接触するのをスカート部4Aによって防止することができる。
【0039】
特に、図2に示す如くスカート部4Aの張出し寸法Lを、吸着体2の厚さTよりも大なる寸法(L>T)に形成することにより、スカート部4Aの先端が食品10に突き当たり折曲がったとしても、吸着体2の側面部2Aをスカート部4Aで覆うことができ、吸着体2の側面部2A側が食品10に直に接触するのを確実に防ぐことができる。
【0040】
このため、吸着体2内の鮮度保持液が食品10の方に吸い取られる等の不具合を解消でき、これにより吸着体2内に鮮度保持液を良好に吸着し続け、鮮度保持液が吸着体2から徐々に揮散する徐放性を確保することができ、また食品10の変色による商品価値の低下も防ぐことができる。そして、この場合には後述の表3に示す実施例1の如き効果が得られるものである。
【0041】
また、食品10が洋菓子類のように油脂を多く含んでいる場合でも、食品10の一部が鮮度保持具1の吸着体2に直に接触することはないので、食品10中の油脂分が吸着体2の側面部2Aから吸込まれるような不具合も解消でき、これにより鮮度保持具1の吸着体2が食品10中の油脂分等により変色するのを防止でき、外観品質を長期に亘り良好に保つことができる。
【0042】
従って、本実施の形態によれば、鮮度保持具1の吸着体2が食品10等に直に接触するのを防止でき、鮮度保持具1の寿命を延ばすことができると共に、食品10等の鮮度を、商品価値を低下させずに長期に亘り安定して保持することができる。また、吸着体2の変色等を抑えることができ、鮮度保持具1の外観品質を維持して商品価値を高めることができる等の効果を奏する。
【0043】
次に、図5は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、本実施の形態の特徴は、吸着体2とフィルム体4との間を接着する接着部21を、吸着体2の周辺部に沿って略四角形の枠状に延ばして形成したことにある。
【0044】
ここで、前記接着部21は、前記第1の実施の形態とほぼ同様に食品に対して安全な糊剤、熱圧着等の手段を用いて2枚のフィルム体4,4を吸着体2の上,下面にそれぞれ接着しているものである。しかし、本実施の形態では、図5中に二点鎖線で示した長方形の枠線22に対し、その外側部分が接着部21となっており、枠線22の内側部分は非接着部となっている。
【0045】
かくして、このように構成される本実施の形態にあっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができるが、特に本実施の形態では、吸着体2に対するフィルム体4の接着作業を効率的に行うことができる。
【0046】
次に、図6ないし図8は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、吸着体を外側から覆うカバーを長方形状をなす2枚のフイルム体等により構成し、該各フィルム体の角隅部にはフィルム体を互いに接合する接合部を設け、これらの各接合部によりフィルム体間に吸着体を抜止め状態で保持する構成としたことにある。
【0047】
図中、31は本実施の形態で採用した鮮度保持具で、該鮮度保持具31は、後述の吸着体32と、吸着体32を外側から覆う後述のカバー34とにより大略構成されている。
【0048】
32はカバー34内に配置された吸着体で、該吸着体32は、前記第1の実施の形態で述べた吸着体2とほぼ同様に構成され、その内部には揮発性の鮮度保持液が含浸されている。しかし、吸着体32の上,下面には図7に示す如く被覆層33,33が設けられ、該各被覆層33は第1の実施の形態で述べたフィルム体4と同様に3層構造の樹脂フィルム等により構成されている。
【0049】
そして、被覆層33,33は吸着体32に対応した寸法をもって該吸着体32の上,下面を覆うことにより、気体に対し高い不透過性(高ガスバリヤ性)を吸着体32の上,下面に与えている。そして、吸着体32内に含浸させた鮮度保持液は、吸着体32の前,後,左,右の側面部32A,32A,…から後述の揮散用開口37を通じて外部へと徐々に揮散されるものである。
【0050】
34は吸着体32を外側から覆うフィルム状カバーで、該カバー34は、吸着体32を上,下両側から覆う2枚のフィルム体35,35と、後述の接合部36とにより構成されている。
【0051】
ここで、フィルム体35は、例えば2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPPフィルム)等の高ガスバリヤ性を有する樹脂フィルムを用いて、吸着体32よりも大きい寸法をもった長方形状の薄いシートとして形成されている。そして、フィルム体35の外縁部側はスカート部35Aとなって吸着体32から側方に張り出し、該スカート部35Aは4個の角隅部35B,35B,…を有している。
【0052】
この場合も、スカート部35Aの張出し寸法Lは、例えば4〜6mm程度となり、図7に示す如く吸着体32の厚さTよりも大なる寸法(L>T)に形成されている。これによって、スカート部35Aの先端が食品等に突き当たり折曲がったとしても、吸着体32の側面部32Aをスカート部35Aで覆うことができ、吸着体32の側面部32A側が食品等に直に接触するのを確実に防ぐことができるものである。
【0053】
また、フィルム体35は、例えば30〜70μm程度の比較的厚い寸法をもって形成され、外縁側のスカート部35Aにある程度の腰を与え、例えば図7に示す揮散用開口37の位置で上,下のスカート部35A,35Aが水滴または水分等の影響で互いに密着したりするのを抑える構成となっている。
【0054】
36,36,…はフィルム体35の各角隅部35Bに設けられた熱シール部としての接合部で、該各接合部36は、例えば熱圧着等の手段を用いて図6に示す如く略L字状をなして形成され、上,下の角隅部35B,35Bを互いに接合しているものである。そして、これらの接合部36は上,下のフィルム体35,35間に吸着体32を拘束し、該吸着体32を抜止め状態に保持すると共に、後述の揮散用開口37に予め開口寸法Sを与える構成となっている。
【0055】
ここで、全体としてL字形をなす接合部36は、例えば4〜6mm程度の寸法L1の抜止め代をもって形成されている。また、吸着体32と接合部36との間には、例えば1〜3mm程度の隙間δが形成されるものである。
【0056】
37,37,…は各フィルム体35のスカート部35A間に形成された揮散用開口で、該各揮散用開口37は、図7に示す如く吸着体32の前,後,左,右の側面部32A,32A,…を外気と連通させるように、吸着体32から側方に張出し互いに上,下に離間したスカート部35A間に形成されている。
【0057】
即ち、各揮散用開口37は図6に示す各接合部36間に位置し、上,下のフィルム体35,35のスカート部35A間に形成される非接合部分に対応して1個ずつ構成されている。そして、これらの揮散用開口37は、図7、図8に示す如く開口寸法S(例えば1.5〜2.5mm、好ましくは1.8mm以上)をもって形成され、吸着体32内に含浸された前記鮮度保持液を各側面部32Aから外部に揮散させるものである。
【0058】
かくして、このように構成される本実施の形態にあっても、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができるが、特に本実施の形態では、フィルム体35の各角隅部35Bに形成した接合部36,36,…によって上,下のフィルム体35,35間に吸着体32を収容した状態で拘束でき、外部の食品等に対して吸着体32が直に接触するのを良好に防止することができる。
【0059】
また、各フィルム体35のスカート部35A間には合計4個の揮散用開口37,37,…を形成でき、これらの揮散用開口37を通じて吸着体32内の鮮度保持液を外部へと徐放性をもって揮散させることができる。そして、この場合には後述の表3に示す実施例2の如き効果が得られるものである。また、揮散用開口37の開口面積を接合部36の形状、大きさに応じて適宜に変えることができ、これによって鮮度保持液の揮散速度を適正に調整できるものである。
【0060】
なお、前記第3の実施の形態では、スカート部35Aの張出し寸法Lを吸着体32の厚さTよりも大なる寸法(L>T)に形成するものとして述べたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば図9に示す第1の変形例のように、スカート部35A′の張出し寸法Laを、吸着体32の厚さTと等しい寸法(La=T)に形成してもよい。そして、この場合には後述の表3に示す実施例3の如き効果が得られるものである。
【0061】
さらに、例えば図10に示す第2の変形例のように、スカート部35A″の張出し寸法Lbを、吸着体32の厚さTよりも小さい寸法(Lb<T)に形成してもよい。そして、この場合には後述の表3に示す実施例4の如き効果が得られるものである。
【0062】
以下、本発明による実施の形態を具体化した実施例について、下記の表3を参照して説明する。
【0063】
【表3】

【0064】
まず、図4に例示した食品包装体11内に、保存食品としてのカステラ(重量200g・水分活性0.864)を鮮度保持具と共に密封して、以下のテストを行った。この場合の食品包装体11としては、30μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムOPと、30μmの無延伸ポリプロピレンフィルムCPと積層化した包装体を用いている。
【0065】
また、比較例による鮮度保持具としては、例えば特開平9-140363号公報等に記載されているものとほぼ同様の従来技術によるものを用いた。即ち、比較例による鮮度保持具は、鮮度保持具にカバー等を用いることなく吸着体のみで構成したものである。
【0066】
そして、実施例1による鮮度保持具は、図1ないし図3に示す第1の実施の形態による鮮度保持具1を用い、吸着体2は重量が2.0g(長さが50mm、幅寸法が30mm、厚さは2mm)のものであり、鮮度保持液としては前記表1,2に示したものを2g含浸させている。また、スカート部4Aの張出し寸法Lは5mmであり、吸着体2の厚さTよりも大きい寸法(L>T)となるように形成している。
【0067】
次に、実施例2による鮮度保持具は、図6ないし図8に示す第3の実施の形態による鮮度保持具31を用い、吸着体32は実施例1と同様に重量が2.0gのものであり、鮮度保持液も同様に2g含浸させている。また、スカート部35Aの張出し寸法Lは5mmであり、吸着体32の厚さTよりも大きい寸法(L>T)となっている。
【0068】
一方、実施例3による鮮度保持具は、図9に示す第1の変形例による鮮度保持具31′を用い、これはスカート部35A′の張出し寸法Laが、吸着体32の厚さTと等しい寸法(La=T)である点を除き、実施例2のものと同様のものである。
【0069】
さらに、実施例4による鮮度保持具は、図10に示す第2の変形例による鮮度保持具31″を用い、これはスカート部35A″の張出し寸法Lbが、吸着体32の厚さTよりも小さい寸法(Lb<T)である点を除き、実施例2と同様のものである。
【0070】
そして、食品の濡れ評価としては、食品包装体11内に1ヵ月保存した状態で調べた結果、比較例によるものは食品の自重で濡れていることが判明した。これに対し、実施例1によるものは、500gの荷重を外力として掛けた場合に濡れはみられるが、食品の自重では濡れが発生しないことが分かった。
【0071】
また、実施例2によるものは、500gの荷重を外力として掛けた場合でも食品に濡れが発生しないことが分かった。一方、実施例3,4によるものは、500gの荷重を外力として掛けた場合に濡れはみられるが、食品の自重では濡れが発生しないことが分かった。
【0072】
次に、3ヵ月の長期保存性評価を行った結果、比較例の場合には、カビの発生がみられたが、実施例1〜4の場合には、カビ等の発生は全くみられないことが分かった。
【0073】
また、変色評価は、1ヵ月の保存状態で食品中の油分により吸着体に黄変が発生するか否かを評価した結果、比較例の場合には、全面に黄変が発生した。これに対し、実施例1の場合には、僅かな黄変が発生したものの、黄変の程度は小さいことが分かった。
【0074】
また、実施例2の場合には、黄変が全く発生していないことが分かった。そして、実施例3,4の場合には、僅かな黄変が発生したものの、黄変の程度は小さいことが分かった。
【0075】
なお、前記第3の実施の形態では、フィルム体35の各角隅部35Bにそれぞれ接合部36を形成するものとして述べたが、本発明はこれに限らず、例えば図11に示す第3の変形例のように長方形状をなすフィルム体35の各角隅部35Bのうち、対角線位置となる2個の角隅部35B,35Bにのみ接合部41,41を形成し、該各接合部41間には合計2個の揮散用開口42,42を形成する構成としてもよい。
【0076】
また、前記第1の実施の形態にあっては、吸着体2を外側から覆うカバー3を2枚のフィルム体4,4により構成するものとして述べたが、これに替えて、例えば図12に示す第4の変形例のように、1枚のフィルム体51を用いてカバー3を構成し、フィルム体51をU字状に折曲げた状態で吸着体2を挟むと共に、該フィルム体51の外縁側には上,下に離間したスカート部51A,51Aを形成する構成としてもよい。この点は、第2〜第3の実施の形態についても同様である。
【0077】
一方、前記第3の実施の形態では、フィルム体35を2軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いて形成する場合を例に挙げて説明したが、これに替えて、例えば無延伸ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリエステル、ポリエチレン、延伸ナイロン等の気体に対する高い不透過性を有する樹脂フィルムを用いてもよいものである。
【0078】
また、フィルム体35は、第1の実施の形態で述べた図2に示すフィルム体4と同様に、高ガスバリヤ性のフィルム層5と、特殊レジンを用いたコーティング層6と、該コーティング層6とフィルム層5との間に形成されたフィルム印刷層との3層構造に形成してもよい。そして、この場合には、吸着体32の上,下面を覆う被覆層33,33を、高い不透過性を有する単層の樹脂フィルムを用いて形成してもよい。
【0079】
一方、前記各実施の形態では、吸着体2(32)とフィルム体4(35)を長方形状とした場合を例に挙げて説明したが、これらは必ずしも長方形状に限るものではなく、例えば吸着体は三角形、正方形、台形、五角形等の多角形状をなす平板体または円柱体等により形成してもよく、フィルム体は吸着体よりも大なる寸法をもって形成すればよいものである。
【0080】
さらに、前記各実施の形態では、特に食品用の鮮度保持具を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、食品以外の被保存物、例えば笹の葉、柿の葉等の食品装飾品、皮革製品、木・竹製品、草・藁製品等の鮮度を保つために用いてもよいものである。
【0081】
【発明の効果】
以上詳述した通り、請求項1に記載の発明によれば、食品またはその他の被保存物の鮮度を保つために用いる鮮度保持具を、揮発性の鮮度保持液を吸着した吸着体と、前記鮮度保持液の気体に対して不透過性が高い材料によって形成され該吸着体よりも大きい寸法をもって該吸着体を外側から覆うフィルム状カバーとにより構成し、該カバーは、前記不透過性が高い材料により前記吸着体よりも大なる寸法をもって形成され前記吸着体を上,下面から挟んだ状態で外縁側が該吸着体の側方に張出すと共に上,下に離間したスカート部となった1枚または2枚のフイルム体により構成し、該フィルム体は前記吸着体を挟んだ状態で該吸着体の上,下面に接着することによって固定し、前記吸着体の側方に張出して延び互いに上,下に離間した前記上,下のスカート部間には、前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す揮散用開口を設ける構成としているため、鮮度保持液から揮発する気体に対して高い不透過性を有するフィルム状カバーにより、鮮度保持液が前記揮散用開口以外の部分から外部に揮散するのを抑えることができ、内部の吸着体が食品等に直に接触するのをスカート部によって防止できると共に、鮮度保持液の揮散速度を揮散用開口の大きさによって調整でき、その揮散速度を適正に保つことができる。従って、食品等の鮮度を、商品価値を低下させずに長期に亘り安定して保持でき、吸着体の変色等による外観品質の低下を抑えることができると共に、商品価値を高めることができる。
【0082】
また、1枚または2枚のフィルム体間に挟んだ吸着体の側面部側から鮮度保持液をスカート部間の揮散用開口を通じて外部へと徐々に揮散させることができ、吸着体が食品等に直に接触するのをスカート部によって防ぐことができる。
【0083】
一方、請求項2に記載の発明は、吸着体を多角形の平板状に形成し、フイルム体は該吸着体に対応する形状をなしてスカート部側に複数の角隅部を有し、前記フィルム体の上,下のスカート部側には、該スカート部の各角隅部のみを接合することにより前記吸着体をフィルム体の間に拘束する複数の接合部を形成し、該各接合部の間に位置して各フィルム体のスカート部間には上,下に離間して形成される非接合部分により前記鮮度保持液が吸着体から徐々に外部へと揮散するのを許す1個ずつの揮散用開口を設ける構成としているため、各接合部により吸着体をフィルム体間に挟んだ状態で拘束でき、各フィルム体のスカート部よりも内側となる位置に吸着体を保持しておくことができる。そして、各フィルム体間の揮散用開口から吸着体内の鮮度保持液を徐々に外部へと揮散でき、吸着体が食品等に直に接触するのを良好に防止することができる。
【0084】
また、多角形状をなすフィルム体の角隅部のみに接合部を形成でき、フィルム体のスカート部には各接合部間に位置して1個ずつの揮散用開口を形成することができるので、吸着体の側面部側から鮮度保持液を揮散用開口を通じて外部へと徐々に揮散でき、吸着体が食品等に直に接触するのをスカート部によって防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1の実施の形態による鮮度保持具を示す正面図である。
【図2】
鮮度保持具を図1中の矢示II-II方向からみた拡大断面図である。
【図3】
図1の鮮度保持具を拡大して示す斜視図である。
【図4】
鮮度保持具を食品包装体内に挿入した使用状態を示す斜視図である。
【図5】
第2の実施の形態による鮮度保持具を示す斜視図である。
【図6】
第3の実施の形態による鮮度保持具を示す正面図である。
【図7】
鮮度保持具を図6中の矢示VII-VII方向からみた拡大断面図である。
【図8】
鮮度保持具を図6中の矢示VIII-VIII方向からみた拡大断面図である。
【図9】
第1の変形例による鮮度保持具を示す拡大断面図である。
【図10】
第2の変形例による鮮度保持具を示す拡大断面図である。
【図11】
第3の変形例による鮮度保持具を示す正面図である。
【図12】
第4の変形例による鮮度保持具を示す斜視図である。
【符号の説明】
1,31,31′,31″ 鮮度保持具
2,32 吸着体
2A,32A 側面部
3,34 カバー
4,35,51 フィルム体
4A,35A,35A′,35A″,51A スカート部
7,21 接着部
8,37,42 揮散用開口
10 食品
11 食品包装体
35B 角隅部
36,41 接合部
【図面】


 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-07-01 
結審通知日 2003-07-04 
審決日 2003-07-16 
出願番号 特願2000-7065(P2000-7065)
審決分類 P 1 112・ 113- YA (A23L)
P 1 112・ 121- YA (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 鵜飼 健
種村 慈樹
登録日 2001-02-16 
登録番号 特許第3159691号(P3159691)
発明の名称 鮮度保持具  
代理人 広瀬 和彦  
代理人 広瀬 和彦  
代理人 田治米 登  
代理人 田治米 惠子  

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