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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25D
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  F25D
管理番号 1089886
異議申立番号 異議2003-70643  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-07 
確定日 2003-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3327278号「冷蔵庫」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3327278号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 1.出願手続の経緯
本件特許第3327278号に係る特許出願は、平成9年11月7日に出願された特願平9-305089号、及び平成10年3月17日に出願された特願平10-66429号を優先権の基礎として平成10年11月6日に出願された特願平10-330267号の一部を平成11年12月16日に新たな特許出願(特願平11-356848号)としたものであって、平成14年7月12日に特許権の設定登録がなされたものである(特許掲載公報発行日:平成14年9月24日)。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし請求項13に係る発明は、本件特許明細書の請求項1ないし請求項13に記載された以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】 冷蔵庫本体上部に冷蔵室と、前記冷蔵室の下に断熱材を有する仕切部により区画した第1の冷凍室と、前記冷蔵室の下に断熱材を有する仕切部により区画した貯氷室と、前記冷蔵庫本体下部に第2の冷凍室と、前記第1の冷凍室及び前記貯氷室と前記第2の冷凍室との間に断熱材を有する仕切部により区画した野菜室と、前記冷蔵室の前面開口部を塞ぐ開閉ドアと、前記第1の冷凍室、前記貯氷室、前記野菜室、前記第2の冷凍室の各々の室の前面を前記開閉ドアとは独立して開閉可能に塞ぐ引出扉と、前記冷蔵庫本体の下側後方に断熱材を有する仕切部で区画された冷却器室と、前記第1の冷凍室に前記冷却器室からの冷気を供給するための第1の冷凍室用送風路と、前記第1の冷凍室から前記冷気を前記冷却器室に戻すための第1の冷凍室用帰還風路と、前記第2の冷凍室に前記冷却器室からの冷気を供給するための第2の冷凍室用送風路と、前記第2の冷凍室から前記冷気を前記冷却器室に戻すための第2の冷凍室用帰還風路と、を備え、前記野菜室を隣接する他室と断熱仕切壁で区切ったことを特徴とする冷蔵庫。

【請求項2】 前記冷却器室から前記野菜室に冷気を供給するための野菜室用送風路と、前記野菜室から前記冷気を前記冷却器室に戻すための野菜室用帰還風路と、を設けたことを特徴とする請求項1に記載の冷蔵庫。

【請求項3】 前記野菜室を0℃以上の温度帯に切替可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷蔵庫。

【請求項4】 前記第1の冷凍室の高さを前記第2の冷凍室の高さより小さくしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項5】 前記野菜室より上方に配置される前記第1の冷凍室内に、氷を貯える貯氷室を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項6】 前記第1の冷凍室用送風路に温度調節用のダンパを設け、前記第1の冷凍室を、冷凍温度帯から、チルド、冷蔵等の温度帯に切替可能としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項7】 前記第2の冷凍室用送風路に温度調節用のダンパを設け、前記第2の冷凍室を冷凍温度帯から、チルド、冷蔵等の温度帯に切替可能としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項8】 冷蔵庫本体を上下に分割して上側に前記冷蔵室を形成する第1の仕切部と、この第1の仕切部によって仕切られた前記冷蔵庫本体の下側後方に、冷却器を有する冷却器室を区画形成する第2の仕切部と、この第2の仕切部の前側を上下に分割して下側に冷凍室を形成する第3の仕切部と、前記第1の仕切部と前記第3の仕切部との間の空間を2つの室に分割し、前記第3の仕切部の上に前記野菜室を形成する第4の仕切部と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項9】 前記冷蔵庫本体を上下に分割して上側に前記冷蔵室を形成する第1の仕切部と、この第1の仕切部によって仕切られた前記本体の下側を上下に分割して下側に前記冷凍室を形成する第3の仕切部と、この第1の仕切部と前記第3の仕切部によって仕切られた空間の後方に、冷却器を有する冷却器室を区画成形する第2の仕切部と、この第2の仕切部の前側を上下に分割して、前記第3の仕切部の上に前記野菜室を形成する第4の仕切部と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項10】 前記冷蔵庫本体を上下に分割する第1の仕切部と、前記第1の仕切部の上を上下に分割して上側に前記冷蔵室を形成する第5の仕切部と、この第1の仕切部によって仕切られた前記本体の下側後方に、冷却器を有する冷却器室を区画形成する第2の仕切部と、この第2の仕切部の前側を上下に分割して上側に野菜室を形成し、下側に冷凍室を形成する第3の仕切部と、前記第1の仕切部によって仕切られた前記冷蔵庫本体の上側後方に、前記冷蔵室、前記第1の冷凍室用風路を有する一体のダクトと、を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項11】 前記第2の仕切部に、前記冷却器室から各室への前記冷気を供給するための送風路と、前記冷却器室へ各室から前記冷気を戻すための帰還風路とを設けたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項12】 前記第2の仕切部に、冷気を各室へ供給するファン装置を一体に設けたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の冷蔵庫。

【請求項13】 前記第1の冷凍室を断熱材を有する仕切部によって並列に仕切り、貯氷室と切替室を配置するようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の冷蔵庫。

3.特許異議申立ての概要
平成15年3月7日付けで松野靖恵から特許異議の申立がなされた。その概要は以下のとおりである。

(1)新規事項について
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願の明細書補正の経緯からすると出願当初の明細書又は図面に記載された実施の形態2及び実施の形態10に基づくものであるが、実施の形態2及び10のいずれにも同請求項1に係る発明の構成要件のすべては開示されていない。

実施の形態2及び実施の形態10を組み合わせたものが出願当初の明細書又は図面に開示されているとはいえないし、仮に、実施の形態2及び10を組み合わせたとしても、「第1の冷凍室、貯氷室、野菜室、第2の冷凍室の各々の室の前面を開閉ドアとは独立して開閉可能に塞ぐ引出扉」の開示がない。

また、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件の内、出願当初の明細書又は図面に開示されていないものは、同明細書又は図面から直接的かつ一義的に導き出せるものでもない。

したがって、本件特許の請求項1に係る発明、及び同請求項1に係る発明を引用した請求項2ないし13に係る発明は、出願当初の明細書又は図面に開示されたものではなく、また、同明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に導き出せるものでもない。

よって、本件特許は、新規事項を追加した特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第1項第1号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)進歩性について

(a)進歩性の判断基準時
本件特許の請求項1に係る発明は、出願当初の明細書又は図面に記載された実施の形態2および実施の形態10に基づくものであるが、実施の形態2は、平成9年11月7日に出願された特願平9-305089号で初めて開示され、実施の形態10は、平成10年3月17日に出願された特願平10-66429号で初めて開示されたものであることから、同請求項1に係る発明についての進歩性の判断基準時は、平成10年3月17日である。

同様に、請求項2ないし請求項8、及び請求項13に係る発明についての進歩性の判断基準時は、平成10年3月17日である。

請求項9ないし請求項12に係る発明についての進歩性の判断基準時は、平成10年11月6日である。

(b)請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明についての進歩性の判断基準時(平成10年3月17日)前である平成10年1月23日に公開された甲第9号証(特開平10-19444号公報)には、同請求項1に係る発明の「第1の冷凍室及び貯氷室と第2の冷凍室との間に断熱材を有する仕切部により区画した野菜室」以外の点がすべて開示されている(甲第9号証では「第1の冷凍室」に相当する部分は「セレクト室」となっているが、この「セレクト室」を「冷凍室」に切り替える例が記載されている(段落【0032】)。)。

「甲第9号証の発明においては野菜室が下部にあり、第2の冷凍室がその上にあるのに対し、本件特許発明では第2の冷凍室が下部にあり、野菜室がその上にある点のみが異なる。言い換えれば本件特許発明と甲第9号証の発明では、野菜室と第2の冷凍室の位置が入れ換わっている。」(異議申立書第28頁第14-18行)

「冷蔵庫の設計において各室の位置を適宜入れ換えることは、設計者が適宜決定すべき事項に過ぎない。しかも、野菜室を冷蔵庫の最下部に配置しないで中ぐらいの高さの位置に配置することは、本請求項の進歩性の基準日前に頒布された甲第10号証(又は甲第12号証)に開示されていたのであるから、当業者にとって本件発明に想到することはいっそう容易であった。」(異議申立書第28頁第19-24行)(甲第10号証:特開平8-338681号公報、甲第12号証:特開平2-275280号公報)

「本件特許発明の効果のうち、甲第9号証の発明によって達成されないものは、「野菜室は腰を屈めずに出し入れ可能な位置にあり、大きな野菜類も収納しやすく使い勝手が良い」という一点のみである。」(異議申立書第29頁第3-6行)

したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第9号証に記載の発明に甲第10号証に記載された構成を適用することにより容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであることから、同発明に係る特許は、同法第113条第1項第2号に該当し取り消されるべきものである。

(c)請求項2ないし請求項13に係る発明の進歩性について
請求項2ないし請求項13に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明を引用したものであり、甲第9号証及び甲第10号証に加えて、甲第11号証ないし甲第16号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものであることから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

4.当審の判断
(1)新規事項の追加について
実施の形態10には、本件特許の請求項1に係る発明の「冷蔵室の前面開口部を塞ぐ開閉ドアと、第1の冷凍室、貯氷室、野菜室、第2の冷凍室の各々の室の前面を前記開閉ドアとは独立して開閉可能に塞ぐ引出扉」以外の点がすべて記載されており、この記載されていない点の内、「第1の冷凍室、貯氷室、野菜室、第2の冷凍室の各々の室の前面を開閉可能に塞ぐ引出扉」の点は実施の形態4に記載され、「冷蔵室の前面開口部を塞ぐ開閉ドア」の点は実施の形態1に記載されている(実施の形態4及び10では「第1の冷凍室」に相当する部分は「切替室」となっているが、各実施の形態において、この「切替室」を「冷凍室」に切り替える例が記載されている(出願当初の明細書の段落【0056】及び段落【0087】参照)。)。

また、本件特許明細書の各実施の形態は、それぞれの特徴点を中心に説明されたものであって、特徴点以外の部分についてはその記載が省略されているものと認められ、しかも、実施の形態10と実施の形態4とは、冷蔵室、第1の冷凍室、貯氷室、野菜室、および第2の冷凍室の配置が同じであることから、実施の形態10に記載のない開閉ドアと引き出し扉の点を実施の形態4及び実施の形態1から摘出して実施の形態10に適用することは、新規事項の追加に当たらない。

したがって、本件特許の請求項1に係る発明、及び同請求項1に係る発明を引用した請求項2ないし13に係る発明は、出願当初の明細書又は図面に記載されたものであり、本件特許は新規事項を追加した特許出願に対してされたものであるとはいえない。

(2)請求項1に係る発明の進歩性について
(a)進歩性の判断基準時
本件特許の請求項1に係る発明は、上記したように、出願当初の明細書又は図面に記載された実施の形態1、実施の形態4,及び実施の形態10に基づくものであるが、実施の形態1及び4は、平成9年11月7日に出願された特願平9-305089号で初めて開示され、実施の形態10は、平成10年3月17日に出願された特願平10-66429号で初めて開示されたものであることから、同請求項1に係る発明についての進歩性の判断基準時は、平成10年3月17日である。

(b)進歩性について
甲第9号証の記載内容、および本件特許の請求項1に係る発明と甲第9号証に記載された発明との相違点は、異議申立人の前記主張のとおりのものと認められる。

しかし、本件特許の請求項1に係る発明は当業者が容易に想到できたとの異議申立人の前記主張は採用できない。

すなわち、本件特許明細書及び図面の従来例に記載されるように(図25及び図26参照)、従来から冷蔵庫における2つの冷凍室は一体として取り扱われ、これを分離するという技術思想が存在しないことから、甲第9号証に記載された冷蔵庫において、セレクト室及び製氷室(冷凍室の一種)と冷凍室との間に断熱材を有する仕切部により区画した野菜室を配置することは、単なる設計事項とは言えない。

また、甲第10号証(又は甲第12号証)に記載された、野菜室を冷蔵庫の最下部に配置しないで中ぐらいの高さの位置に配置する点を甲第9号証に記載された冷蔵庫に単に適用するだけでは、セレクト室及び製氷室の上に野菜室が来ることになり、結局、甲第10号証(又は甲第12号証)に記載された冷蔵庫と同じ配置になる。

セレクト室及び製氷室と冷凍室との間に断熱材を有する仕切部により区画した野菜室を配置するには、夏場における製氷室の使い勝手を良くし、また、氷が野菜の泥等により汚れないようにする等の技術課題があって初めて可能になるが、このような技術課題は甲第9号証又は甲第10号証に記載されていない。

また、本件特許の請求項1に係る発明は、貯氷室も野菜室と同様に使い勝手が良く、氷が野菜の泥等により汚れないという、甲第9号証および甲第10号証に記載された冷蔵庫にはない格別の効果を奏するものである。

したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第9号証および甲第10号証に記載された発明から、すなわち異議申立の理由および証拠から当業者が容易に想到できたとはいえない。

(3)請求項2ないし13に係る発明の進歩性について
本件特許の請求項1に係る発明が、異議申立の理由および証拠から当業者が容易に想到できたといえない以上、請求項1に係る発明を引用した本件特許の請求項2ないし請求項13に係る発明も、異議申立の理由および証拠から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、異議申立の理由および証拠から取り消すことはできない。

また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-25 
出願番号 特願平11-356848
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F25D)
P 1 651・ 561- Y (F25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長崎 洋一  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
原 慧
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3327278号(P3327278)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 冷蔵庫  
代理人 宮田 金雄  
代理人 高瀬 彌平  

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