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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1089934
異議申立番号 異議2003-72265  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-10 
確定日 2003-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3385053号「希ガスの高収率回収精製方法及び希ガスの高収率回収精製装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3385053号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件請求項1、2に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次に示すとおりのものである(以下、「本件発明1、2」という)。
「【請求項1】圧力揺動吸着分離装置を用いて希ガスを含む原料ガスから希ガスを回収し精製する方法において、圧力揺動吸着分離装置の排気ガスを原料ガスに混合しリサイクルしながら希ガスを回収する方法であって、製品希ガス中の希ガス濃度を常時測定し、上記希ガス濃度が一定になるように製品ガス流量を上記希ガス濃度に応じて常時調節し、原料ガス中の希ガス濃度に応じて、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行うことを特徴とする希ガスの高収率回収精製方法。
【請求項2】少なくとも2つの吸着塔を有する圧力揺動吸着分離装置の製品希ガスの取り出し側に希ガスの濃度を測定するための計測器を備え、原料ガス導入側に原料ガスを貯蔵し供給するための容器を有し、該容器には吸着塔からの排気ガスを導入可能に配管し、原料ガス中の希ガスの濃度を測定するための計測器を備え、且つ前記希ガス濃度を測定するための計測器からの希ガスの濃度情報を受けて、原料ガス中の希ガス濃度に応じて製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行うことが可能な開閉弁と装置全体を制御するためのシークエンサーを備えることを特徴とする希ガスの高収率回収精製装置。」
2.特許異議申立てについて
2-1.特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人福島直美は、証拠方法として甲第1、2号証を提出して、請求項1、2に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものであると主張している。
2-2.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:特開昭63-239105号公報
(a)「アルゴン含有排ガスから圧力変動吸着法によりアルゴンガスを回収する方法において、排ガス中のアルゴン濃度と、回収ガス中のアルゴン濃度および圧力変動吸着装置入側排ガス流量を用い、アルゴン収率が一定になるよう圧力変動吸着装置出側ガス流量を算出し、該算出値に基づいて出側ガス流量を制御することを特徴とするアルゴンガスの回収方法。」(請求項1)
(b)「すなわち、圧力変動吸着装置(16)に導入される排ガス中のアルゴン濃度および排ガス流量がそれぞれ排ガスアルゴン濃度計(20)および排ガス流量計(21)により測定され、この測定値と製品ガスアルゴン濃度計(25)により測定される製品ガスアルゴン濃度値が演算装置(26)に入力され、ここでアルゴン収率が一定となるための製品ガス流量が下記(4)式により算出され、この算出値に基づいて製品ガス流量調節器(23)が制御されることにより、アルゴン収率一定でアルゴンの回収が行われる。」(第3頁右上欄第7〜16行)
(c)「この発明では前記排ガス中のアルゴン濃度および製品ガス中のアルゴン濃度と、製品ガス流量計(24)により測定される製品ガス流量を用い、演算装置(26)でアルゴン収率が一定となるための入側排出ガス流量を下記(5)式により演算して求め、この値に基づいて流量調節器(22)が制御されることにより、アルゴン収率一定でアルゴンの回収が行われる。」(第3頁左下欄第1〜8行)
(d)「第1図に示す設備を用い、第1表に示す組成を有する排ガスを収率が一定になるように製品ガス流量を演算して圧力変動吸着装置を制御しアルゴンを回収した場合の操作条件と製品性状を第2表に、そのチャートを第2図aにそれぞれ示す。その際、前記演算式(4)式中のアルゴン収率を75%に設定して圧力変動吸着装置を制御した。」(第3頁左下欄第16行〜右下欄第3行)
(e)第5頁第2図(a)には、横軸が時間、縦軸がアルゴン純度Ar/(Ar+N2)(%)のグラフが示されており、アルゴン純度が時間につれて最初は98位、中間で98.5、最後は98の曲線のグラフが示されている。また同図には横軸が時間、縦軸が排ガスAr濃度(%)のグラフが示されており、排ガスAr濃度が時間につれて最初は60位、中間で70、最後は60の曲線のグラフが示されている。また同図には横軸が時間、縦軸が製品ガス流量(Nm3/H)のグラフが示されており、製品ガス流量が時間につれて最初は5.5位、中間で8.9、最後は5.5の曲線グラフが示されている。また、同図には横軸が時間、縦軸がアルゴン収率(%)のグラフが示されており、75%一定のグラフが示されている。
(2)甲第2号証:特開平4-293512号公報
(a)「【請求項1】ガス中の不純成分を分離するための圧力スイング吸着装置を備えたガス精製装置において、ガスを圧縮する圧縮機と、圧縮されたガスをそのまま上記圧力スイング吸着装置に導入するための導入ラインと、圧縮されたガスを上記圧縮機の上流側に戻すための還流ラインと、この還流ラインに設けられ、還流するガスの成分のうち精製を目的とするガス成分のみを優先的に透過させる分離膜と、上記導入ライン及び還流ラインを開閉する開閉切換手段と、圧縮されたガスの純度を検出し、この検出純度を一定値と比較して高い場合に上記導入ラインに圧縮ガスを通し、上記検出純度を一定値と比較して低い場合に上記還流ラインに圧縮ガスを通すように上記開閉切換手段の切換制御を行う切換制御手段とを備えたことを特徴とするガス精製装置。
【請求項2】請求項1記載のガス精製装置において、上記圧力スイング吸着装置で回収されなかったガスを上記圧縮機の上流側に戻す返還ラインを備えたことを特徴とするガス精製装置。」(請求項1、2)
(b)「このような吸着工程の後、パージ工程が行われるが、この時PSA装置38から得られるパージガス中にはヘリウムガスが多分に含まれているため、このパージガスは返還ライン42を通じてガスバッグ10へ返還され、再精製に供される。」(第3頁第4欄第16〜20行)
2-3.対比・判断
(1)本件発明1について
甲第1号証には、上記(1)(a)から「アルゴン含有排ガスから圧力変動吸着法によりアルゴンガスを回収する方法において、排ガス中のアルゴン濃度と、回収ガス中のアルゴン濃度および圧力変動吸着装置入側排ガス流量を用い、アルゴン収率が一定になるよう圧力変動吸着装置出側ガス流量を算出し、該算出値に基づいて出側ガス流量を制御することを特徴とするアルゴンガスの回収方法」が記載されている。
また、横軸が時間、縦軸がアルゴン純度の曲線のグラフが連続していることや、該曲線のグラフが時間につれて最初は98%位、中間で98.5%、最後は98%であることや、また、アルゴン収率(%)が75%一定のグラフが、示されている((1)(e))。
これら記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には「圧力変動吸着装置を用いてアルゴンガスを含むアルゴン含有排ガスからアルゴンガスを回収する方法において、回収ガス中のアルゴン純度を常時測定し、アルゴン収率が75%一定となるよう圧力変動吸着装置出側ガス流量を制御し、アルゴン純度が時間につれて最初は98%位、中間で98.5%、最後は98%の曲線のグラフとなるアルゴンガスの回収方法」という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の、「アルゴン」、「圧力変動吸着装置出側ガス流量」、「回収ガス中のアルゴン純度」は、本件発明1の「希ガス」、「製品ガス流量」、「製品希ガス中の希ガス濃度」にそれぞれ相当するから、両者は「圧力揺動吸着分離装置を用いて希ガスを含む原料ガスから希ガスを回収し精製する方法において、製品希ガス中の希ガス濃度を常時測定し、製品ガス流量を常時調節する希ガスの回収方法」という点で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件発明1では、圧力揺動吸着分離装置の排気ガスを原料ガスに混合しリサイクルしながら希ガスを回収する方法であるのに対して、甲1発明ではそうしていない点
相違点(ロ)本件発明1では、製品ガス中の希ガス濃度が一定になるように製品ガス流量を調節し、原料ガス中の希ガス濃度に応じて、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行うのに対して、甲1発明では、アルゴン回収率を75%一定となるように圧力変動吸着装置出側ガス流量を調節している点
相違点(ハ):本件発明1では、希ガスの高収率の回収精製であるのに対して、甲1発明では、アルゴン回収率75%、アルゴン純度が98〜98.5%の回収精製である点
次にこれら相違点のうち特に相違点(ロ)について検討する。
甲第1号証では、アルゴン純度(本件発明1に「製品ガス中の希ガス濃度」に相当)を一定とする制御は行っていないから(上記(1)(e))、甲第1号証では、相違点(ロ)は示唆されていないと云える。
この点に関し、特許異議申立人は、甲第1号証の第2図(a)の3番目のチャートを根拠に、甲第1号証では「製品ガス流量の変化速度を変化させている」と主張している(特許異議申立書第5頁第19〜24行)。
そこで甲第1号証の第2図(a)の3番目のチャートを検討すると、確かに製品ガス流量は曲線のグラフであるが、同時に、1番目のチャートの排ガスAr濃度も曲線のグラフである(上記(1)(e))。甲第1号証は上述のようにアルゴン回収率を一定とする制御であるが、排ガスAr濃度、製品ガス流量だけに着目すると、これら両者のグラフは、排ガスAr濃度の一つの値に対して、製品ガス流量の一つの値を対応させたと云えなくもない。しかしながら、このことから、原料ガス中の希ガス濃度に応じて製品希ガス流量を変えているということは云えても、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行っているとは云えない。
加えて、本件発明1での「製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行う」ということは、例えば、本件明細書に記載されているとおり「原料ガスのヘリウム濃度が高い場合には製品ガスの流量の変化が製品ガスのヘリウム純度に与える影響が少ないので、流量変化の速度を大きくして」(本件特許掲載公報第4頁第8欄第5〜8行)とするようにして、「高収率回収精製」(例えば、製品ヘリウム濃度99.99%、回収率99%(本件特許掲載公報第5頁第10欄第34、40行参照))をするというものであるが、甲第1号証では排ガスAr濃度70%の最大のとき、製品ガス流量の曲線は水平であり、得られたアルゴン純度が98.5%、回収率は75%である(上記(1)(e))。つまり、本件発明1では原料ガスのヘリウム濃度が高い場合には流量変化の速度を大きくしているが、甲第1号証では、排ガスAr濃度70%の最大のとき、曲線は水平であるから製品希ガス流量変化速度はゼロとしている。このように本件発明1と甲第1号証とは、原料ガス中の希ガス濃度と、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行うこととの関連づけの点で技術思想が全く別物であると云えるのであり、結局、甲第1号証には、原料ガス中の希ガス濃度に応じて、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節を行うことは何も示唆されていないものと云える。
また甲第2号証には、パージガスを返還ラインを通じてガスバッグへ返還され、再精製に供されることは記載されているが、原料ガス中の希ガス濃度に応じて、製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量の調節することは何も示唆されていない。
そして、この相違点(ロ)により、明細書記載の「ハンチングや調節計の暴走を抑え安定した運転が可能であり、さらに収束時間、ウオームアップ時間を短縮できる」(本件特許掲載公報第6頁第11欄第2〜4行)という効果を奏するものと云える。
してみると、相違点(ロ)は当業者が容易に想到しえるものであると云うことはできない。
したがって、本件発明1は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件発明2について
甲第1号証には、「圧力変動吸着装置に製品ガスアルゴン濃度計、排ガスアルゴン濃度計を備え、製品ガスアルゴン濃度計でアルゴン純度を常時測定し、アルゴン収率を75%一定にするよう圧力変動吸着装置出側ガス流量を制御する製品ガス流量調節器を制御する演算装置を備えたアルゴン純度が98%位〜98.5%のものが得られるアルゴンガスの回収装置」という発明(以下、「甲1装置発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明2と甲1装置発明とを対比すると、両者は「圧力揺動吸着分離装置の製品希ガスの取り出し側に希ガスの濃度を測定するための計測器を備え、また原料ガス中の希ガスの濃度を測定するための計測器を備え、且つ前記希ガス濃度を測定するための計測器からの希ガスの濃度情報を受けて、製品希ガス流量の調節を行うことが可能な開閉弁と装置全体を制御するためのシークエンサーを備える希ガスの回収装置」という点で一致し、次の点で相違している。
相違点(イ):本件発明2では、圧力揺動吸着分離装置が少なくとも2つの吸着塔を有するのに対して、甲1装置発明では、その点が不明である点
相違点(ロ):本件発明2では、原料ガス導入側に原料ガスを貯蔵し供給するための容器を有し、該容器には吸着塔からの排気ガスを導入可能に配管しているのに対して、甲1装置発明ではそうしていない点
相違点(ハ):本件発明2では、原料ガス中の希ガス濃度に応じて製品希ガス流量変化速度を変えて製品希ガス流量調節を行うのに対して、甲1装置発明ではアルゴン収率を75%一定にするように圧力変動吸着装置出側ガス流量流量調節をしている点
相違点(ニ):本件発明2では、希ガスの高収率の回収精製であるのに対して、甲1装置発明では、アルゴン純度が98〜98.5%、アルゴン収率75%、の回収精製である点
次にこれら相違点のうち特に相違点(ハ)について検討すると、上記(1)と同じことが云えるから、上記相違点(ハ)は当業者が容易に想到しえるものであると云うことはできない。
したがって、本件発明2は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
3.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1、2に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-10 
出願番号 特願平4-356925
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 野田 直人
米田 健志
登録日 2002-12-27 
登録番号 特許第3385053号(P3385053)
権利者 大陽東洋酸素株式会社
発明の名称 希ガスの高収率回収精製方法及び希ガスの高収率回収精製装置  
代理人 細井 勇  

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