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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C23C
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C23C
管理番号 1090643
審判番号 無効2000-35087  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-09 
確定日 2003-10-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2799275号「メッキ設備及びその運転方法」の特許無効審判事件についてされた平成13年月31日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第0444号平成15年 7月 3日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2799275号の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2799275号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成5年2月26日に出願され(特願平5-38135号)、平成10年7月3日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、請求人より、平成12年2月9日に、請求項1〜6に係る発明の特許に対して特許の無効の審判が請求され、被請求人より訂正請求書及び答弁書が提出され、請求人より弁ぱく書が提出され、口頭審理がなされ、両当事者から上申書が提出され、平成13年8月31日に、前記訂正請求に係る訂正は認めるが、前記特許の無効の審判の請求は成り立たないとする審決がなされた。
これに対して、請求人は、前記審決に対する訴え(平成13年(行ケ)第444号審決取消請求事件)を東京高等裁判所に提起し、平成15年7月3日に、前記審決を取り消すとの判決が言い渡された。

2.訂正請求について
(2-1)訂正事項
a.願書に添付した明細書(以下、特許明細書という。)の特許請求の範囲の「【請求項1】熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにしたことを特徴とするメッキ設備。」を、「【請求項1】熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けたことを特徴とするメッキ設備。」と訂正する。
b.特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除し、同請求項3、4、5、6をそれぞれ請求項2、3、4、5に訂正する。
c.特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の「請求項1記載のメッキ設備において、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを圧延することを特徴とするメッキ設備。」を、「請求項1記載のメッキ設備において、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延することを特徴とするメッキ設備。」と訂正する。
d.特許明細書の発明の詳細な説明の「【0002】【従来の技術】従来、熱延ストリップコイル(以下、適宜ホットコイルという)を材料としてメッキ鋼板を製造するメッキ設備では、例えば「製鉄機械設備総覧」(昭和55年3月25日発行)に記載のように、ホットコイルはコイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗ラインを経て加熱・還元炉を通り、メッキ浴槽でメッキされ、次いでスキンパスミル等を経て製品となる構成が採用されている。この設備で作られる製品は熱延材メッキ鋼板と呼ばれている。」を、「【0002】【従来の技術】従来、熱延ストリップコイル(以下、適宜ホットコイルという)を材料としてメッキ鋼板を製造するメッキ設備では、例えば「三菱重工技報」Vol.29 No.3(1992)p.267(平成4年5月31日発行)に記載のように、ホットコイルはコイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗ラインを経て加熱・還元炉を通り、メッキ浴槽でメッキされ、次いでスキンパスミル等を経て製品となる構成が採用されている。この設備で作られる製品は熱延材メッキ鋼板と呼ばれている。」と訂正する。
e.特許明細書の発明の詳細な説明の「【0009】【課題を解決するための手段】上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにする。また、好ましくは、前記冷間圧延機は、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行えるようにする。更に、好ましくは、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを圧延するものとする。 また、上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備の運転方法において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なう。すなわち、メッキ製品の板厚の厚いものは第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは第2の工程を選択してメッキ処理を施す。」を、
「【0009】【課題を解決するための手段】 上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けるものとする。また、好ましくは、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延するものとする。 また、上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備の運転方法において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なう。すなわち、メッキ製品の板厚の厚いものは第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは第2の工程を選択してメッキ処理を施す。」と訂正する。

(2-2)訂正の可否に対する判断
(2-2-1)訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1の発明に係るメッキ設備が、請求項1に記載された要件に加えて、「前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けた」という要件をも備えるとしたものであり、請求項1に係る特許請求の範囲を、特許明細書の以下の(い)〜(は)の記載に基づいて減縮したものであり、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(い)請求項2の「請求項1記載のメッキ設備において、前記冷間圧延機は、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行えるようにしたことを特徴とするメッキ設備。」との記載、
(ろ)段落番号【0022】の「図2は冷間圧延機7及びその制御系を示す。本実施例では、冷間圧延機7は・・・となっている。」との記載、
(は)段落番号【0023】の「また、冷間圧延機7においては、従来の板厚制御方法と同様にして圧延材1の板厚がフィードバック制御せしめられる。すなわち、・・・また、板厚制御目標値を圧延材1の板厚よりも大きく設定すれば圧延荷重が0となり、圧延機をオープンにして空パスさせることができる。」との記載。
(2-2-2)訂正事項bについて
請求項2の削除は特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、請求項3、4、5、6をそれぞれ新請求項2、3、4、5に訂正することは請求項2の削除に伴い生じた請求項の番号に係る明りょうでない記載を釈明するものであり、ともに、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(2-2-3)訂正事項cについて
訂正事項cは、「【請求項3】・・・前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、・・・前記熱延ストリップコイルを圧延することを特徴とするメッキ設備。」を「【請求項2】・・・前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、・・・前記熱延ストリップコイルを冷間圧延することを特徴とするメッキ設備。」と訂正するものであるが、冷間圧延機が行う圧延の種類が「冷間圧延」であることを明確にするとともに、請求項の番号を訂正事項bに従って訂正したものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2-2-4)訂正事項dについて
訂正事項dは、「例えば「製鉄機械設備総覧」(昭和55年3月25日発行)に記載のように、」を「例えば「三菱重工技報」Vol.29 No.3(1992)p.267(平成4年5月31日発行)に記載のように、」と訂正するものであるが、例示された文献名である「製鉄機械設備総覧」(昭和55年3月25日発行)は甲第1号証に相当し、「三菱重工技報」Vol.29 No.3(1992)p.267(平成4年5月31日発行)は乙第1号証に相当するものであるところ、「従来、熱延ストリップコイル(以下、適宜ホットコイルという)を材料としてメッキ鋼板を製造するメッキ設備では、・・・ホットコイルはコイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗ラインを経て加熱・還元炉を通り、メッキ浴槽でメッキされ、次いでスキンパスミル等を経て製品となる構成が採用されている。」ことが記載されているのは甲第1号証でなく乙第1号証であるから、訂正事項dは誤って例示された文献名を正しい文献名に訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2-2-5)訂正事項eについて
訂正事項eは、「また、好ましくは、前記冷間圧延機は、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行えるようにする。更に、好ましくは、」を「とともに、前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けるものとする。また、好ましくは、」と訂正するとともに、「圧延」を「冷間圧延」と訂正するものであるが、これらの訂正は、訂正事項aおよびcに係る訂正に伴い生じた不整合を解消させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2-2-6)むすび
以上のとおりであるから、前記訂正請求に係る訂正は、特許法第134条第2項および同条第5項で準用する特許法第126条第2項および第3項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。

3.当事者の主張及び証拠方法
(3-1)請求人の主張
証拠方法として甲第1号証から甲第4号証を提出し、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置して用いることが甲第4号証等で周知であり、冷間圧延機を用いて冷間圧延したり空パスさせたりすることが甲第3号証等で全く当たり前のことであるとしたうえで、以下のA〜Cを主張。
A:本件の前記訂正前の請求項1〜6に係る発明(以下、本件訂正前発明1〜6という。)は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
B:本件訂正前発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないものである、
C:本件訂正前発明2〜6は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-2)被請求人の主張
証拠方法として乙第1号証[「三菱重工技報」Vol.29 No.3(1992)(平成4年5月発行)]を提出するとともに、訂正請求書および答弁書を提出し、訂正明細書の請求項1〜5に係る発明(以下、本件訂正後発明1〜5という。)は、請求人の主張する上記A〜Cに該当しない旨を主張。

(3-3)請求人は、証拠方法として甲第5〜9号証を提出するとともに、弁ぱく書を提出し、酸洗はデスケーリングの一手段であること及び冷間圧延機での冷間圧延や空パスを選択的に行わせることが、それぞれ甲第5号証及び甲第6〜9号証に記載され甲第2号証の頒布時における技術常識であるとしたうえで、以下のD〜Hを主張。
D:甲第5〜9号証は請求人が審判請求書で主張の前提としていた技術常識(甲第2号証の頒布時の)を裏付けるものである、
E:本件訂正後発明1は、甲第5〜9号証により裏付けられる技術常識からみて、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないものである、
F:本件訂正後発明1は、甲第2号証をもとに、甲第3号証および甲第6〜9号証に記載の周知事項を参照することにより容易に発明されるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
G:本件訂正後発明2〜5は、甲第5〜9号証により裏付けられる技術常識からみて、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
H:本件訂正後発明1〜5は、甲第5〜9号証により裏付けられる技術常識からみて、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-4)被請求人は、上申書を提出し、以下のJ〜Lを主張。
J:請求人のFの主張は、審判請求書の要旨を変更するものである、
K:請求人が甲第6〜9号証により裏付けられるとする技術常識は、審判請求書に記載されたものでないから、該技術常識を前提とする旨の前記E〜Hの主張は、請求書の要旨を変更するものである、
L:本件訂正後発明1〜5は前記E、G、Hに該当するものでない。

(3-5)請求人は、審判における争点および無効理由を説明する資料として参考資料1〜4を提出するとともに、当該資料に基づく上申書を提出し、本件訂正後発明1〜5は前記E〜Hに該当するものであると主張。

4.審判の請求の理由に対する判断
(4-1)本件特許発明
本件の請求項1〜5に記載された発明は、訂正明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けたことを特徴とするメッキ設備。
【請求項2】請求項1記載のメッキ設備において、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延することを特徴とするメッキ設備。
【請求項3】熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備の運転方法において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なうことを特徴とするメッキ設備の運転方法。
【請求項4】請求項3記載のメッキ設備の運転方法において、メッキ製品の板厚の厚いものは前記第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは前記第2の工程を選択してメッキ処理を施すことを特徴とするメッキ設備の運転方法。
【請求項5】請求項3記載のメッキ設備の運転方法において、熱延ストリップコイルでの材料の板厚は同じとし、前記第1の工程または第2の工程の選択と、第2の工程において前記冷間圧延機での圧下率を変えることにより多種の板厚を有するメッキ製品を製造することを特徴とするメッキ設備の運転方法。
(以下、本件の請求項1〜5に記載された発明を「本件特許発明1〜5」という。)

(4-2)審判請求書に記載の請求の理由(以下、無効理由という。)
前記3.に記載した当事者の主張および以下に記載する理由a〜cからみて、無効理由は次のイ〜ハに記載のとおりのものと認める。
無効理由イ:
本件特許発明1は、甲第3〜9号証に記載された技術常識からみて、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
無効理由ロ:
本件特許発明1〜5は、甲第3〜9号証に記載された技術常識からみて、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
無効理由ハ:
本件特許発明2〜5は、甲第3〜9号証に記載された技術常識からみて、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
a:本件訂正前発明1〜6は本件訂正後発明1〜5に訂正され、本件訂正後発明1〜5は本件特許発明1〜5に相当する。
b:当事者のF,Jの主張について;本件特許発明1は本件訂正前発明1を訂正したものであるところ、審判請求書には、本件訂正前発明1について、甲第2号証に記載された発明である、および、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張はなされているが、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張はなされていないから、本件特許発明1が甲第2号証をもとに、周知事項を参照して容易に発明されえたものであるとの主張、すなわち、請求人のFの主張は、審判請求書に記載されていない主張であり、審判請求書の請求の理由を変更するものであって採用できない。
c:被請求人のKの主張について;審判請求書には、従来のメッキ設備において冷間圧延機での冷間圧延や空パスが全く当たり前のことであると記載されている(審判請求書、特に8〜9頁の記載参照)から、前記A〜Cの主張が、冷間圧延機での冷間圧延や空パスが全く当たり前のことであるとの認識のもとになされたことは明らかであり、この認識は甲第6〜9号証を追加した弁ぱく書においても異なるものでないから、弁ぱく書における主張が審判請求書に記載されていない認識に基づく主張であるとは認められず、また、甲第6〜9号証の追加も前記認識に至った根拠を示すために提出されたものにすぎない(弁ぱく書、特に5〜6頁の記載参照)と認められるから、請求人の主張E〜Hが請求書の要旨を変更するものであるとはいえない。

(4-3)甲各号証の記載
甲第1号証[「’80製鉄機械設備総覧」、株式会社重工業新聞社発行(昭和55年3月25日)p.573〜582]:
1-1:亜鉛メッキ設備の分類として「ライン内焼鈍式」と「ライン外焼鈍式」とがあること(579頁右欄)、
1-2:「ライン内焼鈍式」とは「メッキ設備の前に連続焼鈍設備を組合わせて冷間圧延されたままのコイルを材料として、焼鈍とメッキを同一ライン内でおこない、直接亜鉛鉄板を製造する連続亜鉛メッキ方式」(579頁右欄)であり、「ライン外焼鈍式」とは「ライン内に焼鈍炉を持たず、電気メッキ設備の場合と同じ様に、焼鈍ずみの冷延薄板コイルを材料として熱漬亜鉛メッキを行なう」ものであること(579頁右欄)、
1-3:ライン外焼鈍式の「代表的なものは、ホイーリングタイプとシーラス炉タイプとがある。・・・材料コイルは焼鈍ずみの冷延薄板が主である。」(579頁右欄)、
1-4:「5-1-2 ライン内焼鈍式 ・・・代表的なものとして、ゼンジマータイプとUSスチールタイプとがある。(図12参照)材料コイルは一般の表面処理ラインと異なり、冷間圧延されたままの未焼鈍コイルを主とするところが大きな特徴である。ゼンジマータイプとUSスチールタイプとの違いは、前処理の違いによるもので、USスチールタイプが通常のアルカリ脱脂、酸洗による処理であるのに対し、ゼンジマータイプは酸化炉と称する炉で前処理を行う。・・・表面の圧延油を除かれ清浄化されたストリップは還元炉に入る。・・・還元炉内に入ったストリップは焼鈍温度まで加熱され、焼鈍されるとともに表面の酸化膜が水素によって還元され、完全に清浄な表面となる。・・・連続焼鈍炉の後半でストリップは450℃近くまで冷却され、スナウトと称するダクトを通って空気に触れることなく溶融亜鉛ポットの中へ入ってメッキされる。」(580頁左下欄〜581頁左欄参照)、
1-5:「5-3 後処理装置 メッキを終ったストリップは冷却塔上にあるブロアーで空冷され、さらに水冷されて、常温まで冷却される。その後にレベラーがあり、・・・塗油は捲取リール直前・・・で行なう。」(582頁右欄参照)、
1-6:ゼンジマータイプは、ベイオフリール、粗レべラー、ウエルダー、酸化炉、還元炉、冷却帯、ポット、冷却帯、後処理、巻取り等の工程からなること(580頁の図12の「3.ライン内焼鈍(ゼンジマータイプ)」)、
1-7:USスチールタイプは、ペイオフリール、粗レべラー、ウエルダー、電解アルカリ脱脂、ブラッシング、水洗、還元炉、ポット、冷却帯、後処理、レベラー、塗油、巻取り等の工程からなること(580頁の図12の「4ライン内焼鈍(USスチールタイプ)」)。

甲第2号証[特開昭57-19105号公報]:
2-1:「冷延ストリップおよび表面処理鋼板の一般的な製造プロセスは、ホットコイルを出発材料として(1)酸洗、(2)冷間圧延、(3)電気清浄、(4)連続焼鈍、(5)精整、(6)メッキの各工程から構成されている。従来の製造プロセスでは、材料は各工程でコイル単位ごとに処理あるいは加工される、すなわち不連続なプロセスとなっている。・・・このように製造プロセスが不連続であると、各工程間に巻取りおよび巻戻しリールを要し、製造ラインが長くなり設備費が増大すると同時に鋼板表面に傷等の欠陥を生ずる。・・・また、従来の冷延ストリップの製造プロセスでは5〜6基の圧延スタンドによる夕ンデム圧延あるいは1基の圧延スタンドによる5〜6パス圧延が行なわれる。このような圧延では圧延スタンド数が多いため多額の設備費およびランニングコストを要し、また圧延パス数が多いため作業能率の低下を免れることはできない。この発明は、冷延ストリップの製造における上記のような問題を解決したもので、設備費およびランニングコストを低減するとともに、製造仕掛日数を著しく短縮することができる冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備を提供しようとするものである。」(第1頁左下欄18行〜第2頁左上欄9行)、
2-2:「デスケーリング装置、冷間圧延機清浄装置、連続焼鈍設備、調質圧延機、精整装置、メッキ装置で構成されている冷延プロセスでこれら各装置の少なくとも冷間圧延機を含む組合せの連続ラインにおいて、ストリップを挟んで相対向する上下ワークロールに任意に径差を付与し、少なくとも一方をクラスターロールとして圧延機を単スタンドあるいは複数スタンド有する冷間圧延設備を配することを特徴とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備。」(特許請求の範囲)、
2-3:「第1図は、本発明の製造設備を示すもので、これに従って製造プロセスの概略を説明すると、巻戻しリール1により繰り出された圧延材(ホットコイル)Sは前端部が溶接機2により先行する圧延材Sの後端部に溶接接続され、後続の各工程に連続して供給される。圧延材Sは、まずデスケーリング装置3により熱間圧延時に生じたスケールを除去され、ついで圧延スタンド4により冷間圧延される。この発明の一つは、従来の冷間圧延スタンドに加えて1パス高圧下可能な超異径ロール圧延機(・・・)を用いることにより、従来に比し圧延スタンド数を減らしたことである。従来・・・所要の圧下率を得るのに5〜6基の圧延機をタンデムに配列した圧延設備を用いている。・・・。このようにして、冷間連続圧延された圧延材Sは電気清浄機5を経て、連続焼鈍設備6に送られる。連続焼鈍設備6は・・・より構成され、圧延材Sはこれらの帯域を連続的に通過して所要の加熱サイクルにより焼鈍される。上記冷間圧延された圧延材Sは、一たんコイルに巻取られることなくそのまま連続焼鈍設備6に送られる。・・・焼鈍された圧延材Sは調質圧延機7により成品に要求される機械的性質に応じた調質圧下率で圧延され、巻取りリール8により巻取られる。」(第2頁左上欄11行〜左下欄17行)、
2-4:「この発明は、冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備において、冷間圧延工程と連続焼鈍工程とを連続化、あるいは全工程を連続化するとともに、超異径ロール圧延機を用いることにより圧延スタンド数を減らしているので次のような利点を有している。1)圧延スタンド数の減少、各工程間に設けられる巻取り・巻戻しリールの省略および製造ラインの短縮により設備費を著しく低減することができる。2)省エネルギー、省力、およびコイルのトップ・ボトムにおけるオフゲージの減少による歩留向上および高生産性によりランニングコストの低減を図ることができる。3)製造仕掛り日数を短縮することができる。例えば、従来11日であった仕掛り日数を0にすることができる。」(第2頁右下欄17行〜第3頁左上欄13行)。

甲第3号証[特開平1-208445号公報]:
3-1:「調質圧延機14が1基であるとロール替え時には調質圧延不可能であり、どうしても調質圧延を施さないノースキンパス材が生じることになる」(第1頁下右欄第14行〜第17行)、
3-2:「鋼帯の連続溶融金属めつきライン上に配設されている金属めつき浴とテンションレベラとの間に2基の調質圧延機を、一方の調質圧延機を調質圧延を行う側に他方の調質圧延機をロール替えを行う側に交互に切替可能にシリーズに配列して設置したことを特徴とする鋼帯の連続溶融金属めつき装置。」(特許請求の範囲)、
3-3:「鋼帯を所定のスピードで連続溶融金属めつき処理を継続したまま退避状態に切替えた側のロール替え作業を行うものである。したがってノースキンパス材の発生を防止すると共に後処理装置にも何ら影響を及ぼすことなくロール替えを行うことができる。」(第2頁左下欄7〜12行)。

甲第4号証[「ぶりきとティンフリー・スチール」東洋鋼鈑株式会社著、株式会社アグネ発行(1974年5月10日)p.46〜47]:
4-1:「通板のための各スタンドのロール間隙の設定は、圧延する材料の厚み、幅、硬さ、仕上厚み、ロール・クラウンおよび圧延機によって異なる」こと(第46頁第7〜8行)、
4-2:ロール設定間隙例として、材料寸法740×2mmで仕上厚み0.247mmの場合のNo.1〜No.5スタンドのロール間隙と、材料寸法740×2mmで仕上厚み0.328mmの場合のNo.1〜No.5スタンドのロール間隙が異なること(第46頁、表III-3-4)。

甲第5号証[「第3版鉄鋼便覧第III巻(1)圧延基礎・鋼板」(日本鉄鋼協会編、丸善株式会社発行、昭和55年5月15日発行)第507〜512頁]:
5-1:「8・3酸洗 8・3・1脱スケール」(第507頁左欄)、
5-2:「(1)メカニカルデスケーリング 酸を使用するデスケーリング法は廃酸処理の問題や、ライン停止時の品質上の問題がある。そこで酸を使用しないデスケーリング法が開発され一部実用化されている。表8・14にその方式と特徴を示す。」(第511頁左欄)。

甲第6号証[「川崎製鉄技報第18巻第2号」(川崎製鉄株式会社発行、昭和61年6月発行)第9〜15頁]:
6-1:「ホットストリップミル仕上スタンド間厚さ計の開発」(第9頁タイトル)、
6-2:「6.5 スタンド間厚さ計の利用技術 従来正確に計測できなかったスタンド間の板厚を、スタンド間厚さ計を使って実測できるため、従来の板厚制御のレベルアップを図ることができる。以下にその応用例を示す。(1)モニターAGC 従来のモニターAGCは最終スタンド出側にあるX線厚さ計を使って制御するのに対し、スタンド間に設置したスタンド間厚さ計を使ってモニターAGCを行えば、むだ時間を短縮でき板厚精度が向上する。とくに途中スタンド仕上材に対して効果がある。」(第14頁右欄)。

甲第7号証[特開昭53-48048号公報]:
7-1:「この発明は以上の点に鑑み、幾つかのL′の値の水準をもつ圧延機を圧延機列中に設けておき、そのときの板幅水準に対応したL′の値を有する圧延機を使用して圧延を行うようにしたので、最大板幅に合せた1つのL′値を決めて圧延するより一層高精度に板クラウンを制御することが可能となる。その際そのときの板幅水準に合致しないL′値を有する圧延機は空パスとするかあるいは極めて軽度の圧下率を適用するようにすればよい。」(第3頁右上欄5〜13行)、
7-2:「圧延機列において、たとえば7フィート幅の板材を圧延するときには、3フィート用の#5スタンドは空パスあるいは極く軽圧下とし、主として#4スタンドでクラウン制御を行なう。 以下同様にして各板幅水準に対応して何れかのスタンドを空パスあるいは極く軽圧下パスとし、主としてその板幅水準に対応したスタンドでクラウン制御を行えばよいことになる。」(第3頁左下欄7〜15行)。

甲第8号証[特開昭53-87957号公報]:
8-1:「熱間圧延のタンデム圧延機群において、1または数スタンドの圧延機予備を持ち、圧延中にこの圧延機を交互に使うことにより、予備となった圧延機のロールを板から浮かせ冷却しつつ他の圧延機スタンドで圧延することを特徴とする連続熱間圧延方法。」(特許請求の範囲)、
8-2:「1台のスタンドを空パス(板からロールを浮かせること)とし1本圧延する毎に1スタンドづつ空パスとし、かつ1本圧延中に1回づつ空パスの交換を本方式で行ったところ3秒のアイドルタイムにもかかわらず、60本の圧延が可能で、ロール抽出後のロール表面温度も60℃と低い温度に維持する事が出来た。」(第3頁左上欄2〜8行)。

甲第9号証[特開昭56-19904号公報]:
9-1:「(1)エッジング孔型と造形孔型を交互に使用して圧延素材をビームブランクに圧延するに際し、エッジング孔型を用いて圧延素材のトップを所定長さ分だけ所定圧下量以上の圧下量で圧下し続いてこの圧延素材をいったん後退させた後、前記所定圧下量で全体に亘ってエッジングし、次いで造形孔型を用いてこの圧延素材のボトムを所定長さ分だけ所定圧下量で圧下した後この圧延素材を空パスで通し、続いてエッジングにおいて所定圧下量以上に圧下された圧延素材のトップを圧延トップとして前記所定圧下量で造形圧延することを特徴とするビームブランクの製造方法。」(特許請求の範囲)。

(4-4)無効理由に対する判断
(4-4-1)本件特許発明1について:
1)甲第2号証に記載の発明(以下、「甲第2号証発明」という。):
甲第2号証には、以下の1〜3の理由からみて、酸洗装置、単スタンドあるいは複数スタンドの冷間圧延機、清浄装置、連続焼鈍設備、調質圧延機、精整装置、メッキ装置で構成されているホットコイルを出発材料とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備であって、巻戻しリール、ホットコイルを溶接接続する溶接機,酸洗装置、冷間圧延機(1パス高圧下可能なもの)、連続焼鈍設備、巻取りリールをこの順序で配置した設備に係る発明が記載されているものと認める。

1:甲第2号証には、その特許請求の範囲に、「デスケーリング装置、冷間圧延機清浄装置、連続焼鈍設備、調質圧延機、精整装置、メッキ装置で構成されている冷延プロセスでこれら各装置の少なくとも冷間圧延機を含む組合せの連続ラインにおいて、ストリップを挟んで相対向する上下ワークロールに任意に径差を付与し、少なくとも一方をクラスターロールとして圧延機を単スタンドあるいは複数スタンド有する冷間圧延設備を配することを特徴とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備。」と記載(2-2参照)されていること。
2:甲第2号証には、「第1図は、本発明の製造設備を示すもので、これに従って製造プロセスの概略を説明する」として、巻戻しリール、ホットコイルを溶接接続する溶接機,デスケーリング装置、冷間圧延するための1パス高圧下可能な超異径ロール圧延機、連続焼鈍設備、巻取りリールをこの順序で配置した設備が記載(2-3参照)され、「冷間圧延するための1パス高圧下可能な超異径ロール圧延機」は「冷間圧延機」に相当すると解されること。
3:甲第2号証には、次のとおりの記載があり、その特許請求の範囲の発明は、従来の酸洗を含む冷延ストリップおよび表面処理鋼板の一般的な製造プロセスを、連続化し、圧延スタンド数を減らすという点で改善したものである、旨の記載がなされているものの、酸洗を行わないようにしたものであるとの記載はなく、甲第5号証の、鋼板の製造プロセスにおける酸洗は酸による脱スケールであるとの記載(前記5-1参照)を参照すると、甲第2号証の「デスケーリング」と「酸洗」とは脱スケールという点で対応するプロセスであるから、前記発明における「デスケーリング装置」は「酸洗装置」をも含むものと解される。
甲第2号証の記載:「冷延ストリップおよび表面処理鋼板の一般的な製造プロセスは、ホットコイルを出発材料として(1)酸洗、(2)冷間圧延、(3)電気清浄、(4)連続焼鈍、(5)精整、(6)メッキの各工程から構成されている。従来の製造プロセスでは、・・・不連続なプロセスとなっている。・・・このように製造プロセスが不連続であると、・・・製造ラインが長くなり設備費が増大すると同時に鋼板表面に傷等の欠陥を生ずる。・・・また、従来の冷延ストリップの製造プロセスでは・・・圧延スタンド数が多いため多額の設備費およびランニングコストを要し、また圧延パス数が多いため作業能率の低下を免れることはできない。この発明は、冷延ストリップの製造における上記のような問題を解決したもので、・・・」(2-1参照)、「第1図は、本発明の製造設備を示すもので、・・・圧延材Sは、まずデスケーリング装置3により熱間圧延時に生じたスケールを除去され、ついで圧延スタンド4により冷間圧延される。・・・」(2-3参照)、「この発明は、冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備において、冷間圧延工程と連続焼鈍工程とを連続化、あるいは全工程を連続化するとともに、超異径ロール圧延機を用いることにより圧延スタンド数を減らしているので・・・」(2-4参照)。

2)甲第2号証発明と本件特許発明1との比較:
甲第2号証発明と本件特許発明1とを比較すると、前者の「ホットコイル」は、後者の「熱延コイル」及び「熱延ストリップコイル」に相当し、前者の「巻戻しリール」、「ホットコイルを溶接接続する溶接機」、「メッキ装置」、「巻取りリール」および「・・・メッキ装置で構成されているホットコイルを出発材料とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備」は、後者の「熱延コイル巻出機」、「ストリップ溶接機」、「メッキ浴槽」、「コイル巻取機」および「熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備」に相当し、前者の「単スタンドあるいは複数スタンドの冷間圧延機(1パス高圧下可能なもの)・・・で構成されているホットコイルを出発材料とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備」は、後者の「少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするメッキ設備」に相当するものであるから、
両者は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置とコイル巻取機の間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにすることを特徴とするメッキ設備である点において一致し、
以下の(1)および(2)の点で相違する。
(1)本件特許発明1は、酸洗装置とコイル巻取機の間に、冷間圧延機、加熱・還元炉、メッキ浴槽をこの順序で配置したメッキ設備であるのに対し、甲第2号証発明は、酸洗装置とコイル巻取機の間に、冷間圧延機、連続焼鈍設備をこの順序で配置したメッキ設備であるものの、メッキ浴槽の位置および連続焼鈍設備が加熱・還元炉であることについては記載がない点(以下 、相違点1という。)、
(2)本件特許発明1は、「冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けたメッキ設備」であるのに対し、甲第2号証発明は、そのことについて何も規定していない点(以下、相違点2という。)。

3)前記相違点1、2についての検討
3-1)相違点1[加熱・還元炉およびメッキ浴槽の位置]について:
甲第2号証発明において、本件特許発明1のように、酸洗装置とコイル巻取機の間に冷間圧延機、加熱・還元炉、メッキ浴槽をこの順序で配置すること、すなわち、前記相違点(1)に係る本件特許発明1の構成とすることは、以下の理由により、甲第1、2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することにすぎない。
すなわち、加熱・還元炉と連続焼鈍設備との関係については、表面処理鋼板の1つとして亜鉛メッキ鋼板は周知であり、亜鉛メッキ鋼板の製造設備において連続焼鈍に焼鈍温度まで加熱された還元炉を用いることは甲第1号証にも記載されているところであるから、甲第2号証発明に係る表面処理鋼板の製造設備における連続焼鈍設備として加熱・還元炉を用いることは当業者にとって容易なことであり、メッキ浴槽の位置については、以下の5〜7の理由により、甲第2号証発明におけるメッキ浴槽は、記載はないものの、酸洗、冷間圧延、電気清浄、連続焼鈍、精整の各工程を終了した最終工程としてのメッキ工程に位置し、コイル巻取り装置より前と解されるから、本件特許発明1がメッキ浴槽の位置において甲第2号証発明と実質的に相違するとすることはできない。
理由5:甲第2号証に「冷延ストリップおよび表面処理鋼板の一般的な製造プロセスは、ホットコイルを出発材料として(1)酸洗、(2)冷間圧延、(3)電気清浄、(4)連続焼鈍、(5)精整、(6)メッキの各工程から構成されるている。」(前記2-1参照)と記載されていること。
理由6:甲第2号証の特許請求の範囲に「デスケーリング装置、冷間圧延機清浄装置、連続焼鈍設備、調質圧延機、精整装置、メッキ装置で構成されている冷延プロセス・・・の連続ラインにおいて、・・・ことを特徴とする冷延鋼板および表面処理鋼板製造設備。」(前記2-2参照)と記載されていること。
理由7:甲第1号証に記載された表面処理鋼板製造設備においても、メッキ工程は酸洗や冷間圧延や焼鈍の各工程を終了した後の工程とされていること。

3-2)相違点2[空パス]について:
大型の設備を必要とする製造業において、設備費の増大や設置面積の増大等の不利益を回避し、設備の稼働能率を向上させて製造コストを下げることは、一般的な要請であり、そのための方策の1つとして同一設備を複数の目的に使用しようとすることについては、特にそれを不合理とする技術的あるいは経済的な事情がない限り、一般的な動機付けがあるといえる。
これをメッキ鋼板(表面処理鋼板)の製造設備に関連する技術分野についてみるに、同一のメッキラインで熱延鋼板と冷延鋼板の両方をメッキすることが、本件特許発明の出願前に知られ、実行に移されていたこと[必要ならば、川鉄テクノリサーチ技術情報センター編「鉄鋼主要設備動向」1989年5月発行、8-34頁(前記した平成13年(行ケ)第444号審決取消請求事件における甲第21号証)の「63年 堺・溶融メッキラインの新設を決定。(10月)・・・熱延鋼板(3mm以下)、冷延鋼板兼用。」との記載参照。]からすれば、同一の装置を使用して冷延鋼板のみならず熱延鋼板のメッキも行えるように、メッキ装置を含む連続工程設備を改良しようという動機付けは、当然に働くというべきである。
ところで、メッキ鋼板には熱延メッキ鋼板と冷延メッキ鋼板とがあり、熱延メッキ鋼板とは、熱延鋼板の板表面にメッキを施したものをいい、冷延メッキ鋼板とは、熱延鋼板を冷間圧延して得られる冷延鋼板の板表面にメッキを施したもの(本件明細書の段落【0002】【0003】参照)であるから、冷延メッキ鋼板と熱延メッキ鋼板の製造工程との相違は、冷間圧延工程の有無にあることが明らかである。
そうすると、前記の動機付けに従い、メッキ工程まで連続化した連続ラインを冷延メッキ鋼板の製造だけでなく熱延メッキ鋼板の製造にも使用可能なものにしようとすることは、着想として何ら格別のものではない。また、この着想に基づいて、連続ラインの構成を、熱延鋼板を材料とする場合には不要となる冷間圧延工程をスキップ可能な構成とすることも、当業者が容易に想到し得ることといってよい。
そして、必要に応じて冷間圧延機を空パスさせること及びそのための手段は、甲第3、7〜9号証中の記載によれば、周知の事項と認められるから、メッキ工程まで連続化した連続ラインにおいて、冷間圧延が不要な場合(熱延メッキ鋼板を製造する場合)に冷間圧延機を「空パス」をさせる構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。
してみると、メッキ工程まで連続化した連続ラインにおいて、製造するメッキ製品の種類に応じて冷間圧延機を空パスさせる構成を採用し、そのための制御手段を設けること、すなわち、相違点2に係る本件特許発明1の構成に想到することは、甲第2号証に記載された発明および前記した周知事項に基いて当業者が容易に想到し得たことである。

3-3)効果について:
本件特許発明1における「熱延メッキ材に近い安いコストで、ホットストリップミルで圧延困難な薄物圧延を行わずに、ユーザの要望する多品種のメッキ鋼板を即刻生産することができる」という効果は、メッキ工程まで連続化した連続ラインにおいて、製造するメッキ製品の種類に応じて冷間圧延機で圧延を行うか、空パスさせるという構成を採用することにより奏される効果として当業者に容易に想起されるものであるから、当該効果が格別のものであるとすることはできない。

3-4)むすび
したがって、本件特許発明1は、甲第3〜9号証に記載された技術常識および周知事項からみて、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4-2)本件特許発明2について:
本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに限定するものであり、「少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延する」(以下、「構成1」という。)を構成とするものである。
そこで、当該の構成1について検討する。
甲第2号証には、(4-3)の2-3において前記したように、「この発明の一つは、従来の冷間圧延スタンドに加えて1パス高圧下可能な超異径ロール圧延機(・・・)を用いることにより、従来に比し圧延スタンド数を減らしたことである。従来・・・所要の圧下率を得るのに5〜6基の圧延機をタンデムに配列した圧延設備を用いている。」と記載されており、甲第2号証発明においても、従来に比し圧延スタンド数は減少するものの従来の冷間圧延スタンドを用いるとされており、かつ、従来より5〜6基の圧延機をタンデムに配列した圧延設備が用いられていたとされているのであるから、甲第2号証発明において用いる複数の従来型の冷間圧延スタンドをタンデム状に配置すること、すなわち、「少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置した」との構成は甲第2号証の記載から当業者が容易に想起できる構成にすぎない。
また、「複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延する」ことは、甲第2号証にその発明の課題が設備費およびランニングコストを低減することであるとされていること、および要求される製品の板厚には各種あることを考慮して、当業者が容易に想到できることである。
してみると、前記した構成1は、当業者が甲第2号証に記載された発明から容易に想到できる構成にすぎない。
そして、本件明細書の記載をみても、本件特許発明2が前記した構成1を採用したことにより予期しえない効果を奏したとも認められない。
したがって、本件特許発明2は、上記した理由および本件特許発明1について記載した理由により、甲第3〜9号証に記載された技術常識および周知事項、さらに、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4-3)本件特許発明3について:
本件特許発明3は、「熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し」(以下、「構成2」という。)、「前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し」(以下、「構成3」という。)、「熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備」(以下、「構成4」という。)の運転方法に係り、「メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なうことを特徴とするメッキ設備の運転方法」(以下、「構成5」という。)を構成とするものである。
そこで、検討するに、前記した構成2〜4は、本件特許発明1の「熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、」という構成に相当するものであるから、当該構成は、前記した本件発明1について示した理由により当業者が容易に想到できるものである。
また、前記した構成5は、本件特許発明1のメッキ設備が備えている「熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる」という制御手段を作動させた場合に、必然的にもたらされるメッキ設備の稼働状態を、運転方法という観点から表現したものにすぎない。
そして、メッキ設備を当該設備が備えている制御手段により作動させることは、稼働に際しての当然の行為であって、当業者が何らの困難を伴うことなくなしうることである。
してみると、本件特許発明3は、上記した理由および本件特許発明1について前記した理由により、甲第3〜9号証に記載された技術常識および周知事項、さらに、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4-4)本件特許発明4について:
本件特許発明4は、本件特許発明3を限定するものであり、「メッキ製品の板厚の厚いものは前記第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは前記第2の工程を選択してメッキ処理を施す」(以下、「構成6」という。)を構成とするものである。
そこで、構成6について検討する。
構成6は、本件特許発明3における「メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なう」という構成において、メッキ製品の種類を板厚の厚いものと板厚の薄いものとに区分したうえで、前者については「熱延ストリップコイルを冷間圧延を空パスさせる」とし、後者については「熱延ストリップコイルを冷間圧延を行う」としたものであるところ、冷間圧延を空パスさせるのが板厚の厚い製品を望む場合であり、冷間圧延を行うのが板厚の薄い製品を望む場合であることは自明なことであるから、構成6は本件特許発明3の構成から自明な構成を示したにすぎないものであり、当業者が容易に想到できることである。
してみると、本件特許発明4は、上記した理由および本件特許発明3について前記した理由により、甲第3〜9号証に記載された技術常識および周知事項、さらに、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4-5)本件特許発明5について:
本件特許発明5は、本件特許発明3を限定するものであり、「熱延ストリップコイルでの材料の板厚は同じとし、前記第1の工程または第2の工程の選択と、第2の工程において前記冷間圧延機での圧下率を変えることにより多種の板厚を有するメッキ製品を製造する」(以下、「構成7」という。)を構成とするものである。
そこで、構成7について検討する。
冷間圧延機での圧下率を変えることにより各種の板厚製品を製造することは本出願前に周知である。
したがって、本件特許発明3の冷間圧延において、冷間圧延機での圧下率を変え各種の板厚製品を製造するようにすることは当業者が容易に想到できることである。
そして、本件特許発明3において、冷間圧延機での圧下率を変えた場合に、多種の板厚を有するメッキ製品が製造できることは当業者が容易に予期するところである。
してみると、本件特許発明5は、上記した理由および本件特許発明3について前記した理由により、甲第3〜9号証に記載された技術常識および周知事項、さらに、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4-4-6)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1〜5は、前記した無効理由ロの主張のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1〜5に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
メッキ設備及びその運転方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、
前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、
前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けたことを特徴とするメッキ設備。
【請求項2】
請求項1記載のメッキ設備において、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延することを特徴とするメッキ設備。
【請求項3】
熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備の運転方法において、
前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なうことを特徴とするメッキ設備の運転方法。
【請求項4】
請求項3記載のメッキ設備の運転方法において、メッキ製品の板厚の厚いものは前記第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは前記第2の工程を選択してメッキ処理を施すことを特徴とするメッキ設備の運転方法。
【請求項5】
請求項3記載のメッキ設備の運転方法において、熱延ストリップコイルでの材料の板厚は同じとし、前記第1の工程または第2の工程の選択と、第2の工程において前記冷間圧延機での圧下率を変えることにより多種の板厚を有するメッキ製品を製造することを特徴とするメッキ設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はメッキ設備の運転方法に係わり、特に、熱延ストリップコイルを材料として亜鉛メッキ鋼板を製造するメッキ設備及びその運転方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱延ストリップコイル(以下、適宜ホットコイルという)を材料としてメッキ鋼板を製造するメッキ設備では、例えば「三菱重工技報」Vol.29 No.3(1992)第267頁(平成4年5月31日発行)に記載のように、ホットコイルはコイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗ラインを経て加熱・還元炉を通り、メッキ浴槽でメッキされ、次いでスキンパスミル等を経て製品となる構成が採用されている。この設備で作られる製品は熱延材メッキ鋼板と呼ばれている。
【0003】
一方、冷延材メッキ鋼板は、例えば特開昭56-122611号公報に記載のように、ホットコイルを酸洗ラインを通した後、可逆式又はタンデム式の冷間圧延機を通して冷延材メッキラインに通す設備にて製造される。この設備の場合、通常、酸洗ライン、圧延ライン、メッキライン等は独立した設備として構成され、これら独立したラインを順次通すため各設備が、巻出機及び巻取機を備えている。これら各設備のうち圧延ラインについては、ホットコイルから一貫して製造する一貫製鉄所ではタンデム式の冷間圧延機を使用する例が多く、ホットコイルを購入するいわゆる単圧メーカーと呼ばれるメーカーでは、可逆式冷間圧延機を採用するのが一般である。
【0004】
また、上記の特開昭56-122611号公報に記載の従来技術では、酸洗ライン、圧延ライン、メッキライン等の各設備に巻出機及び巻取機を設け、これらを独立した設備として構成しつつ、各設備を結合して設備間の整合をプロセスコンピュータで制御することにより、独立した設備としての処理工程と連続した処理工程とを選択することが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題がある。
熱延材メッキ鋼板を製造する従来のメッキ設備では、冷延材メッキ鋼板に比較し大幅に安いコストでメッキ鋼板を製造できるが、板厚を薄くするには熱間圧延の仕上り厚を薄くすることが困難なため限界がある。すなわち、通常のホットストリップミルは通常5〜7スタンドのタンデム式仕上ミルで構成されている。実用的な板厚の最小値は1.2mmであるが仕上ミルが6〜7スタンドでも1.2mmの板厚の鋼板を生産するには、強圧下による作業ロールの肌荒れ、並びに通板・尻抜時の板曲りや絞り込みなどが多発するため生産性が極めて悪い。然るに市場ではそれより薄い1.0〜0.8mmの板厚が要望されているが実現されていない。
【0006】
冷延材メッキ鋼板の製造設備では、製品板厚はより薄くできるが、酸洗ライン、圧延ライン、メッキライン等の独立したラインを順次通すため各設備が、巻出機、巻取機、ストリップ接合用の溶接機などを重複して必要となり、全体の設備費が嵩む上に各設備間のコイルの搬送費が付加され、生産費が上昇する。特開昭56-122611号公報に記載の従来技術にも同様にこの問題がある。また、単圧メーカーのように可逆式冷間圧延機を使用する場合は、当該設備費、搬送費の問題の他、可逆式冷間圧延機の宿命たるコイルの先端・後端を圧延できず、歩留りも低下する欠点を有する。
【0007】
また、上記従来技術では、ユーザの要望する多品種のメッキ鋼板を即刻生産することは困難である。例えば冷延材メッキラインのみを有するメーカーは、多品種、小ロツトのコイルをタイムリーに購入することができないし、これは熱延メッキ業者にとっても同じ悩みである。これは、たとえ一貫製鉄所であっても、ホットストリップミルに細切れな生産計画で操業を困難にする犠牲を強いない限り同じ問題が存在する。
【0008】
本発明の目的は、熱延メッキ材に近い安いコストで、ホットストリップミルで圧延困難な薄物圧延を行わずに、ユーザの要望する多品種のメッキ鋼板を即刻生産できるメッキ設備及びその運転方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、前記熱延ストリップコイルを1パス圧延し得るようにするとともに、 前記冷間圧延機に対し、メッキ製品の種類に応じて、前記熱延ストリップコイルを冷間圧延を行うか、空パスさせるかを選択的に行わせる制御手段を設けるものとする。また、好ましくは、前記少なくとも1スタンドの冷間圧延機は、冷間圧延機を複数スタンドタンデム状に配置したものであり、該複数スタンドの冷間圧延機を選択的に使用して前記熱延ストリップコイルを冷間圧延するものとする。また、上記目的のため、本発明は、熱延コイル巻出機、ストリップ溶接機、酸洗装置、加熱・還元炉、メッキ浴槽、コイル巻取機をこの順序で配置して有し、熱延ストリップコイルを材料として板表面にメッキを行うメッキ設備の運転方法において、前記酸洗装置と前記加熱・還元炉との間に少なくとも1スタンドの冷間圧延機を配置し、メッキ製品の種類に応じて、前記冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのまま前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第1の工程と、前記冷間圧延機にて冷間圧延を行った後に前記メッキ浴槽にてメッキ処理を施す第2の工程とを選択的に行なう。すなわち、メッキ製品の板厚の厚いものは第1の工程を選択してメッキ処理を施し、メッキ製品の板厚の薄いものは第2の工程を選択してメッキ処理を施す。
【0010】
【作用】
以上のように構成した本発明では、まず、板厚の厚いメッキ製品を製造する場合には第1の工程を選択し、冷間圧延機をオープンにして空パスさせそのままメッキ処理を施す。すなわち、従来の熱延材メッキ設備として使用できる。
【0011】
板厚の薄いメッキ製品を製造する場合は第2の工程を選択し、冷間圧延機にて冷間圧延を行った後にメッキ処理を施す。例えば厚さ2mmのホットコイルを用い1スタンドの冷間圧延機で厚さ1.0mmのメッキ鋼板、厚さ1.6mmホットコイルで厚さ0.8mmのメッキ鋼板を生産することができる。また、例えば生産容易な1.6mmの厚さ一定のホットコイルを用い、圧下率を20〜50%と可変にすれば、厚さ1.28〜0.8mmの範囲で製品板厚を変えることができ、小ロット多品種の製品をタイムリーに出荷することができる。
【0012】
また、本発明では、冷間圧延機以外はすべて熱延材メッキ設備の機器を利用できるため、巻出機、巻取機、ストリップ接合用の溶接機などの重複設置が不要で、設備費も運転費も僅かの上昇に抑えられる。
【0013】
さらに、本発明では、スケールロスの低減のメリットがある。すなわち、一般に熱延ストリップの表面には酸化スケールが、片側で約15μm、両面で計30μm程度付着し、これは酸洗でデスケールされるがこのスケールの厚みは板厚には無関係である。
【0014】
今、厚さ1.0mmのホットコイルをデスケールすると、スケール損失は0.03/1.0=3%の歩留り低下となる。
【0015】
本発明により厚さ2.0mmのホットコイルで厚さ1.0mmの製品を作れば、0.03/2=1.5%となり、歩留りが1.5%向上することになる。
【0016】
以上により本発明においては、熱延メッキ材に近い安いコストで、ホットストリップミルで圧延困難な薄物圧延を行わずに、ユーザの要望する多品種のメッキ鋼板を即刻生産することができる。
【0017】
なお、熱延材メッキの場合は、焼鈍の必要がないため加熱炉での加熱温度は500℃程度で済むが、冷間圧延されたものは焼鈍を要するため700℃以上に加熱する必要がある。ただし、熱延材は板厚が最大4〜6mmと厚い場合が多く、そのための加熱容量を炉が保有している。冷間材は加熱温度を上げる必要があるが冷間圧延後の板厚は1mm前後と薄いので、通板速度を特に落さずに操業できる。また、上述の冷間圧延機を例えば3台タンデムに設ければ、連続式冷延メッキ材の最小板厚といわれる0.27mmも、厚さ1.8mmのホットコイルから各スタンドの圧下率を50%、50%、40%と実現可能な圧下率によって得ることができる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面により説明する。
まず、本発明を熱延材メッキ鋼板へ適用した実施例を図1及び図2により説明する。
【0019】
図1において、本実施例のメッキ設備は、ホットコイル1a,1bの巻出機50a,50b、ストリップ接合用の溶接機2、No.1ブライドルロール3、入側ルーパー4、酸洗装置5、No.2ブライドルロール6、冷間圧延機7、テンションメーター8、板厚計9、No.3ブライドルロール10、炉入側デフレクターロール11、加熱及び還元炉12、シンクロール14及びメッキ浴16を有するメッキポット13、メッキ厚制御装置15、デフレクターローラー17、No.4ブライドルロール18、スキンパスミル19、デフレクターローラー20、出側ルーパー21、No.5ブライドルロール22、出側シャー23、製品コイル24の巻出機51をこの順序で配置して構成されている。
【0020】
冷間圧延機7は酸洗装置5と加熱及び還元炉12との間に配置されている。冷間圧延機7は本実施例では1台であり、薄物メッキ鋼板製造の場合は冷間圧延機7で20〜50%の圧下を行なう。厚物の場合は、冷間圧延機7はオープンにして空パスさせる。
【0021】
冷間圧延機7は小型で大圧下できること、及び圧下率を変化させても板形状を損わない機能を有するものが望ましい。その最適な圧延機としてベンディング力が付与されるワークロールと軸方向シフト可能な中間ロールを有する6段ミルからなるHC-MILLがあり、さらに中間ロールにもベンディング力を付与する手段を設けたUC-MILLも最適である。これらの圧延機は1パスで50%の圧下率を容易に達成し得、かつ圧下率即ち圧延荷重を変えても板形状を平坦に安定して維持する機能を有する。
【0022】
図2は冷間圧延機7及びその制御系を示す。本実施例では、冷間圧延機7は例えばHC-MILLであり、補強ロール26,26と、中間ロール27,27と、ワークロール28,28とを有し、中間ロール27,27は軸方向にシフト可能であり、ワークロール28,28にはベンディング力が付与される構成となっている。
【0023】
また、冷間圧延機7においては、従来の板厚制御方法と同様にして圧延材1の板厚がフィードバック制御せしめられる。すなわち、冷間圧延機7の下流側には板厚計9が設けられており、冷間圧延機7のワークロール28,28間で圧延された圧延材1の板厚が、かかる板厚計9で測定されるようになっている。そして、板厚計9で測定された板厚測定値:ha が板厚制御目標設定装置34からの板厚制御目標値:hAGC と板厚比較装置33で比較され、それらの偏差に応じた信号が圧延荷重調節装置32に送られる。圧延荷重調節装置32には、上記板厚比較装置33からの板厚偏差信号と、ロードセル25からの冷間圧延機7における圧延荷重信号と、圧下位置検出器30からの圧下位置信号が入力され、圧延荷重信号として、油圧圧下制御装置31へ出力されるようになっている。また、板厚制御目標値を圧延材1の板厚よりも大きく設定すれば圧延荷重が0となり、圧延機をオープンにして空パスさせることができる。
【0024】
図3は、冷延材メッキ鋼板を主体により薄いメッキ鋼板を製造するラインを示すもので、冷間圧延機としてNo.1〜No.3の3台の圧延機7A,7B,7Cが設けてあり、厚さ1.8mm程度のホットコイルから最低、厚さ0.27mmのメッキ鋼板を製造し得るものである。各圧延機の間にテンションメーター8A,8Bが配置されている。
【0025】
図3の例で、No.2の圧延機7Bのワークロールを交換する場合、No.1の圧延機7AとNo.3の圧延機7Cのみで圧延できる板厚に設定し、No.2の圧延機7Bはロール間隙をオープンにしてワークロール交換を行なう。新ロールを交換後は、3台の圧延機7A,7B,7Cを使用して圧延を行なう。その切換時の圧延機モーターの速度は最終スタンドの速度を一定にし、板破断を起さぬよう、スタンド間のテンションメーター8A,8Bにより板張力を一定に保つように他のスタンド速度を制御する。
【0026】
上記の図1〜図3の実施例によれば、まず、熱延材メッキ鋼板の薄物用の代わりとして経済的なメッキ鋼板を提供できる。通常のホットストリップミルで商業上可能な最低板厚は1.2mmで、これらも強圧下によるロールの肌あれ、通板尻抜け時の板曲りや絞り込みによるトラブルの発生頻度が高く、操業上細心の注意を要する圧延で、当然ながら生産コストも大幅に割高となる。さらにこれを薄くしたいとの要望があるも、操業の困難性はさらに厳しくなる。仮りに厚さ1.0mmの熱間圧延ができたとしても、厚さ2.0mmの圧延に比べれば生産性は2分の1に低下するし、スケールロスは1.5%が3%に上昇し、コイル1トン当り900¥の損失となる。
【0027】
一方、厚さ2.0mmから1.0mmに冷間圧延するに要するエネルギーはトン当り15KWHrで300¥程度で済み、トン当り600¥の節減となる。
【0028】
また、通常の冷延材メッキ鋼板製造ラインの如く、板厚を最低0.27mm確保するためには、厚さ1.8mmの熱延材を材料とし冷間圧延機を3台設ける必要がある。本実施例では、酸洗装置5、冷間圧延機7A,7B,7C(図3参照)、メッキ装置13が一貫となっているため、通常の独立した酸洗ライン、冷間圧延機、メッキラインの如く巻出機、巻取機、ストリップ接合用の溶接機の重複設置が避けられて設備費も経済的となり、かつライン間の2回のコイル搬送がなくなり平均して5K¥/トンの節約となる。
【0029】
また、操業に必要な人員も合理化できる。大手の一貫製鉄所を除けば上記ラインの中で冷間圧延機は1スタンドの可逆式圧延機が一般に使用されている。この例についていえば、酸洗ライン2名、圧延機2名、メッキライン3名、都合7名3交替として計21名の人員が必要である。これを本実施例の一貫ラインでは4名×3=12名で済み、9名の低減が計れる。また、歩留りにしても可逆式冷間圧延機ではコイル先後端の非圧延部が残り、歩留り低下は一般に3%である。本実施例では、これがゼロになることが可能となり、トン60K¥として1800¥、年20万トンの生産として、3億6000万円の収益向上となる。
【0030】
さらに、冷間圧延機7(または7A,7B,7C)は通常の可逆式圧延機の圧延速度(1000〜1400m/min)に比し180m/min以下の低速のため、作業ロール径は通常の400〜500mmに比し200〜300mmと小さくできるため、圧延荷重も小さく小型に製作することができる。また、可逆式圧延機のように左右の巻取機やコイルの巻出装置などが不要のため、3台の圧延機でも高速の可逆式圧延機とほぼ同じ設備費で製作できる。
【0031】
なお、ロール組替時にメッキラインを止めないためにルーパーを設けることも考えられるが、図3に示す実施例ではロール組替時には3スタンド中2スタンドで圧延できる板厚としておき、組替えるべきスタンドを空パスさせておく状態でロール交換を行えば、このためのルーパーは不要である。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、熱延メッキ材に近い安いコストで、ホットストリップミルで圧延困難な薄物圧延を行わずに、ユーザの要望する多品種のメッキ鋼板を即刻生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例によるメッキ設備の概略図である。
【図2】
図1に示す冷間圧延機及びその制御計を示す図である。
【図3】
図1で冷間圧延機を3台にした例を示す。
【符号の説明】
1a,1b 熱延材コイル
2 溶接機
3 No.1ブライドルロール
4 入側ルーパー
5 酸洗装置
6 No.2ブライドルロール
7 冷間圧延機
7A,7B,7C 冷間圧延機
8 テンションメーター
9 板厚計
10 No.3ブライドルロール
11 炉入側デフレクターロール
12 加熱及び還元炉
13 メッキポット
14 シンクロール
15 メッキ厚制御装置
16 メッキ浴
17 デフレクターローラー
18 No.4ブライドルロール
19 スキンパスミル
20 デフレクターローラー
21 出側ルーパー
22 No.5ブライドルロール
23 出側シャー
24 製品コイル
50a,50b コイル巻出機
51 コイル巻取機
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2001-07-23 
結審通知日 2001-07-27 
審決日 2001-08-31 
出願番号 特願平5-38135
審決分類 P 1 112・ 113- ZA (C23C)
P 1 112・ 121- ZA (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 寺本 光生  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 三崎 仁
雨宮 弘治
登録日 1998-07-03 
登録番号 特許第2799275号(P2799275)
発明の名称 メッキ設備及びその運転方法  
代理人 春日 讓  
代理人 鳥巣 実  
代理人 細見 吉生  
代理人 春日 讓  

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