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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B65H
審判 全部申し立て 産業上利用性  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1091436
異議申立番号 異議2002-71981  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-07-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-08 
確定日 2003-11-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3257309号「巻取機の糸切換方法及びその装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3257309号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 同請求項3に係る特許を維持する。 
理由 I.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に、
「複数のボビンホルダを適宣移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンに連なっている糸を空ボビンに非接触にし、この糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。」と記載されているのを、
「糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。」と訂正する。
訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2に、
「満ボビンと空ボビンとを交換すベく適宜移動する複数のボビンホルダを有した巻取機において、満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機。」
と記載されているのを、
「満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機。」
と訂正する。
訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3に、
「満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する複数のボビンホルダを有した巻取機において、上記満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材を設け、上記空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ、上記糸屈折部材を動作させて上記糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込むように構成した巻取機。」
と記載されているのを、
「満ボビンと空ボビンとを交換すベく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成すると共に、上記満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材を設け、上記空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ、上記糸屈折部材を動作させて上記糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込むように構成した巻取機。」
と訂正する。
訂正事項d
明細書の【0005】の第2行目に、「本発明は、複数のボビンホルダを」
と記載されているのを、「本発明は、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを」と訂正する。
訂正事項e
明細書の【0005】の第3行目に、「と共に、満ボビンに連なっている糸を空ボビンに非接触にし、この糸を」と記載されているのを、「と共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を」と訂正する。
訂正事項f
明細書の【0005】の第3行〜第4行目に、「この糸をローラと空ボビンとの間に」と記載されているのを、「この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に」と訂正する。
訂正事項g
明細書の【0005】の第5行目に、「渡すものである。」と記載されているのを、「渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法である。」と訂正する。
訂正事項h
明細書の【0006】の第2行目に、「適宜移動する複数のボビンホルダを有した巻取機において、」と記載されているのを、「適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、」と訂正する。
訂正事項i
明細書の【0006】の第2行〜第3行目に、「巻取機において、満ボビンに連なっている糸を、」と記載されているのを、「巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、」と訂正する。
訂正事項j
明細書の【0006】の第4行目に、「離すための糸ガイド部材と、」と記載されているのを、「離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、」と訂正する。
訂正事項k
明細書の【0006】の第5行目に、「糸屈折部材とを備えたものである。」
と記載されているのを、「糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機である。」と訂正する。
訂正事項l
明細書の【0006】の第5行目に記載された「備えたものである。」の後を改行して、「また、」から移行の文章を【0006】の第二段落とする。
訂正事項m
明細書の【0006】の第6行目に、「適宜移動する複数のボビンホルダを有した巻取機において、」と記載されているのを、「適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、」と訂正する。
訂正事項n
明細書の【0006】の第6行〜第7行目に、
「巻取機において、上記満ボビンに連なっている」と記載されているのを、
「巻取機において、上記二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成すると共に、上記満ボビンに連なっている」と訂正する。
訂正事項o
明細書の【0006】の第11行目(末行)に、「構成したものである。」
と記載されているのを、「構成した巻取機である。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項a〜cについて
訂正事項aは、請求項1に係る発明について、糸切換方法が、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された、いわゆる逆取りの巻取機についてのものである点、巻取機のボビンホルダが二本である点、満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに対して非接触にする点、及び、糸をローラと空ボビンとの間に押し込んで接触させるのが、糸屈折部材の働きである点を限定するものであるので、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは、請求項2に係る発明について、巻取機のボビンホルダが二本である点、この巻取機がいわゆる逆取りの巻取機である点、及び、糸ガイド部材が空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられており、満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で前記糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに対して非接触にする点を限定するものであるので、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項cは、請求項3に係る発明について、巻取機のボビンホルダが二本である点、この巻取機がいわゆる逆取りの巻取機である点、及び、二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成されている点を限定するものであるので、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、上記ボビンホルダが二本である点は、明細書の【0003】の第1行〜第6行目及び【0013】の末行目、図1並びに図4に記載されており、逆取りの巻取機である点は、明細書の【0003】の第1行〜第6行目及び【0013】の末行目、図1並びに図4に記載されており、満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに対して非接触にする点は、明細書の【0010】の第1行〜第4行目及び【0012】の第2行〜第7行目に記載されている。また、糸屈折部材が糸をローラと空ボビンとの間に押し込んで接触させる点は、明細書の【0007】の第3行〜第5行目及び【0012】の第10行〜第12行目に記載されており、二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成されている点は、明細書の【0014】の第1行〜第6行目に記載されている。
そこで、訂正事項a〜cは、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。また、該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正事項d〜oについて
訂正事項d、e、fは、いずれも請求項1に係る発明を訂正したことに伴い、これに合わせて明細書の記載を訂正するものである。
訂正事項gは、訂正前の文言が「渡すものである。」と記載され、その主体が不明りょうであったものを、明細書の【0006】の第1行目の記載に合わせ、「渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法である。」と訂正するものである。 訂正事項h、i、jは、いずれも請求項2に係る発明を訂正したことに伴い、これに合わせて明細書の記載を訂正するものである。
訂正事項kは、訂正前の文言が「糸屈折部材とを備えたものである。」と記載され、その主体が不明りょうであったものを、明細書の【0006】の第1行目の記載に合わせ、「糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機である。」と訂正するものである。
訂正事項lは、前後の文章が請求項2に係るものと、請求項3に係るものであるため、これらの区切りを明確にすることを目的として改行したものである。
訂正事項m、nは、いずれも請求項3に係る発明を訂正したことに伴い、これに合わせて明細書の記載を訂正するものである。
訂正事項oは、訂正前の文言が「構成したものである。」と記載され、その主体が不明りょうであったものを、明細書の【0006】の第1行目の記載に合わせ、「構成した巻取機である。」と訂正するものである。
したがって、訂正事項d〜oは、いずれも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項d〜oは、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項の規定、及び第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116条による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するので、該訂正を認める。

II.特許異議申立てについての判断
1.当審が通知した取消理由
当審は、取消理由において、本件の請求項1、2に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、また、請求項3に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該請求項に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨通知し、また、本件特許明細書には、「ボビンホルダ21,22を互いに独立して同じ円軌道23上を移動するように構成」することについて、当業者が容易に実施をすることができる程度に、発明の構成が記載されていないので、本件特許は、特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである旨通知した。

刊行物1:特開平6-321424号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平2-276771号公報(甲第2号証)
刊行物3:実公昭42-7073号公報

2.本件発明1ないし3
訂正明細書の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。

【請求項2】満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機。

【請求項3】満ボビンと空ボビンとを交換すベく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成すると共に、上記満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材を設け、上記空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ、上記糸屈折部材を動作させて上記糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込むように構成した巻取機。」

3.引用刊行物の記載事項
3-1.刊行物1の記載事項
刊行物1(特開平6-321424号公報)には、図面とともに、以下のaないしcの事項が記載されている。

a.(2ページ1欄12行〜25行)
「【請求項2】 糸綾振り用のトラバース機構と、接圧用ローラと、チューブ緊締用のスピンドルとが糸条の走行方向の上流側から下流側に位置するよう順次設置された巻取機において、前記接圧用ローラの上流側に、糸条がバンチ巻き位置に向って走行するように案内するための上部糸道規制用ガイドを設けると共に、前記上部糸道規制用ガイドによって案内されて走行している糸条をスピンドルに緊締された空チューブの端面同士が当接する接合部、あるいはチューブの端面と前記スピンドルに設けられたチューブ位置決め用の段部側面が当接する接合部によって形成される糸捕捉部に係合させるための糸巻付け用ガイドを、前記接圧用ローラとスピンドルに緊締された空チューブによって形成される凹状の空間部に位置するように設けたことを特徴とする糸条巻取機。」

b.(6ページ10欄42行〜7ページ11欄40行)
「【0055】次に、満巻チューブから空チューブへの糸条切替え動作を図21から図26に基づいて説明する。
【0056】予め設定された量の糸条80がチューブに巻取られて満巻になると、タレット部材2が回動されて巻取操作位置にある満巻チューブ71が玉揚操作位置に、玉揚操作位置にある空チューブ70が巻取操作位置に移動される。
【0057】すると、図21に示すように下部糸条切替え機構9のアーム25と仕切板26が回動されて該仕切板26が空チューブ70と満巻チューブ71の間に移動する。該動作と同時に上部糸条切替え機構8の糸外しガイド20が糸条の走行方向と直交する方向に移動されてトラバース機構6のトラバースガイド6aから糸条80が押出されると、糸条80は綾振り中心側に向って移動する。
【0058】次いで、図22に示すように糸寄せガイド22が待機位置から(ハ)方向に移動してその途中で糸条80が捕捉され、該糸条80がバンチ巻き形成位置に搬送される。該動作と同時に糸探り用ガイド29が(ハ)方向に移動される。
【0059】そして、糸探り用ガイド29が糸巻付け機構11の糸巻付け用ガイド37と同じ垂直線上を糸条80が走行する位置まで移動される。この時、満巻チューブ71に向って走行する糸条はバンチ巻き形成ガイド30によって糸道が規制され、糸巻取層71aのバンチ巻き(E)位置に巻取られる。
【0060】すると、図23に示すように糸巻付けガイド機構11の糸巻付け用ガイド37が接圧用ローラ7と巻取位置にある空チューブ70によって形成される凹部(A)に向って突出し、糸条80が空チューブ70の端部同士が当接する接合部、および空チューブ70の端部と軸体12の端部12cが当接する接合部によって形成される糸捕捉部(B)に係合するように案内される。
・・・・・(中略)・・・・・
【0061】上述の動作によって糸条80が糸捕捉部(B)に食い込んで捕捉されると、図19に示すように空チューブ70と満巻チューブ71がどちらも糸条巻取方向に回転しているため、空チューブ70と満巻チューブ71の間で糸条80が引張られて切断されると、図24に示すように接合部(B)に捕捉された糸条80はチューブ70が所定量(30°〜50°)回転すると直ちに糸巻付け用ガイド37から離脱し、糸条80が糸支持ガイド24の案内部24bによって糸道規制されてバンチ巻き形成位置に向って移動する。」

c.(図19〜図24等)
図19には、満巻チューブに連なる糸条が、仕切板26を含む第2糸道規制ガイドによって、空チューブ70から引き離された状態と、糸巻付け用ガイド37によって、接圧用ローラ7と空チューブ70との間の凹部(A)に向かって屈曲させられている状態とが開示されている。
また、図19〜図24等には、、空チューブへの糸条切替え動作の際、糸条の走行方向と、空ボビンの回転方向とが逆向きに設定されていることが開示されている。

上記事項によれば、巻取機の糸切換方法について、刊行物1には、二本のスピンドルを有する糸条巻取機(記載事項a、図19等)の、「満巻チューブから空チューブへの糸条切替え動作」が記載されており(記載事項bの【0055】段落)、「予め設定された量の糸条80がチューブに巻取られて満巻になると、タレット部材2が回動されて巻取操作位置にある満巻チューブ71が玉揚操作位置に、玉揚操作位置にある空チューブ70が巻取操作位置に移動される」ことが記載されている(記載事項bの【0056】段落)。
また、図19等によれば、空チューブへの糸条切替え動作の際、糸条の走行方向と、空ボビンの回転方向とが逆向きに設定されていることが明らかであるので、刊行物1には、逆取りの巻取機の糸切換方法が記載されている。
次に、刊行物1には、「巻取操作位置にある満巻チューブ71が玉揚操作位置に、玉揚操作位置にある空チューブ70が巻取操作位置に移動される」と、「図21に示すように下部糸条切替え機構9のアーム25と仕切板26が回動されて該仕切板26が空チューブ70と満巻チューブ71の間に移動する」(記載事項bの【0056】、【0057】段落)ことが記載され、図19を参照すると、仕切板26により、満巻チューブに連なる糸条を引っ掛けて、空チューブに非接触にすることが記載されている。
さらに、刊行物1には、「図23に示すように糸巻付けガイド機構11の糸巻付け用ガイド37が接圧用ローラ7と巻取位置にある空チューブ70によって形成される凹部(A)に向って突出し、糸条80が空チューブ70の端部同士が当接する接合部、および空チューブ70の端部と軸体12の端部12cが当接する接合部によって形成される糸捕捉部(B)に係合するように案内され」、「糸条80が糸捕捉部(B)に食い込んで捕捉される」(記載事項bの【0060】、【0061】段落)ことが記載されている。
してみると、刊行物1には、次の発明Aが記載されていると認められる。

(発明A)
「糸渡しの際に糸条の走行方向と該糸条を巻き取る空チューブの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のスピンドルを適宜移動させることにより満巻チューブと空チューブとを交換するに際して、上記空チューブを巻取側に備えられた接圧用ローラに接触させると共に、上記満巻チューブを巻取操作位置から玉揚操作位置へ移動させると、空チューブと満巻チューブとの間の適宜位置に設けられた仕切板が満巻チューブに連なっている糸条を引っ掛けて空チューブに非接触にし、この糸条を糸巻付け用ガイドで上記接圧用ローラと上記空チューブとの間に押し込んで空チューブに接触させることにより上記糸条をチューブに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。」

また、巻取機について、刊行物1には、「巻取操作位置にある満巻チューブ71が玉揚操作位置に、玉揚操作位置にある空チューブ70が巻取操作位置に移動される」ようにした(記載事項bの【0056】段落)、二本のスピンドルを有する、逆取りの糸条巻取機が記載されている(記載事項a、図19等)。
また、刊行物1には、この巻取機が、空チューブが接触する「接圧用ローラ」と(記載事項bの【0066】段落、図19等)、「空チューブ70と満巻チューブ71の間に移動」して糸条を引っ掛け、空チューブの表面から糸条を離す「仕切板26」と(記載事項bの【0056】段落、図19等)、「接圧用ローラとスピンドルに緊締された空チューブによって形成される凹状の空間部に位置するように設け」られ、「凹部(A)に向って突出し」、糸条を屈曲させる「糸巻付け用ガイド」(記載事項bの【0060】、【0061】段落、図19等)とを備えていることが記載されている。
そこで、刊行物1には、次の発明Bが記載されていると認められる。

(発明B)
「満巻チューブと空チューブとを交換すべく適宜移動する二本のスピンドルを有し、糸渡しの際に糸条の走行方向と該糸条を巻き取る上記空チューブの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満巻チューブを巻取操作位置から玉揚操作位置へ移動させた後、満巻チューブに連なっている糸条を引っ掛けて該糸条を、巻取側に備えられた接圧用ローラと接触した空チューブの表面から離すための空チューブと満巻チューブとの間の適宜位置に設けられた仕切板と、離された糸条を上記空チューブと上記接圧用ローラとの接触点側に屈折させるための糸巻付け用ガイドとを備えたことを特徴とする巻取機。」

3-2.刊行物2の記載事項
刊行物2(特開平2-276771号公報)の、特許請求の範囲の請求項18には、図3A,3Bとともに「・・・糸を空の巻き管の手前で掴みスリット(37)の範囲にもたらして糸掴みスリット(37)で保持させ、・・・ことを特徴とする、巻き取り装置でボビンを交換するための方法」について記載されている。

3-3.刊行物3の記載事項
刊行物3(実公昭42-7073号公報)には、いわゆるターレット式の連続巻取装置が記載されており、、第7図とともに、その2ページ左欄29〜31行には「図は2個の例を示したがボビンの数は第7図に示すごとく3個又は4個等にすれば作業者の作業間隔をふやし持台数をふやすことができる」と記載されている。

4.対比・判断
4-1.本件発明1について
刊行物1記載の発明Aを、本件発明1と比較すると、発明Aの「糸条」、「空チューブ」、「スピンドル」、「満巻チューブ」、「接圧用ローラ」、「巻取操作位置から玉揚操作位置へ移動させ」、「仕切板」、「糸巻付け用ガイド」は、それぞれ、本件発明1の「糸」、「空ボビン」、「ボビンホルダ」、「満ボビン」、「ローラ」、「巻取側の位置から待機位置へ移動させ」、「糸ガイド部材」、「糸屈折部材」に相当する。
そこで、両者は、本件発明1の用語で記載すると、次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。

(一致点1)
「糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させ、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。」

(相違点1)
本件発明1は、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、「上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で」、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にしているのに対し、発明Aは、「上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させると」、すなわち、移動させた後に、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にしている点。

(相違点1についての判断)
刊行物1記載の巻取機は、チューブが、下部糸条切替え機構と干渉しない位置に移動した後は、空チューブが巻取操作位置に到達するのを待つことなく、下部糸条切替え機構を移動させ、仕切板により、糸条を空チューブに非接触にすることが可能な機構となっている。
そこで、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより、満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、空ボビンへの糸切り替え動作を速やかに行う等の目的で、ボビンの移動の完了を待つことなく、ボビンの移動中に、糸切り替え動作の一部を開始し、相違点1に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4-2.本件発明2について
刊行物1記載の発明Bを、本件発明2と比較すると、発明Bの「糸条」、「空チューブ」、「満巻チューブ」、「スピンドル」、「接圧用ローラ」、「仕切板」、「糸巻付け用ガイド」は、それぞれ、本件発明1の「糸」、「空ボビン」、「満ボビン」、「ボビンホルダ」、「ローラ」、「糸ガイド部材」、「糸屈折部材」に相当する。
そこで、両者は、本件発明2の用語で記載すると、次の一致点2で一致し、相違点2で相違する。

(一致点2)
「満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させ、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機。」

(相違点2)
本件発明2の「糸ガイド部材」は、「満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離す」ものであるのに対し、「糸ガイド部材」に相当する、発明Bの「仕切板」は、「満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させた後に、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離す」ものである点。

(相違点2についての判断)
刊行物1記載の巻取機は、チューブが、下部糸条切替え機構と干渉しない位置に移動した後は、空チューブが巻取操作位置に到達するのを待つことなく、下部糸条切替え機構を移動させ、仕切板により、糸条を空チューブに非接触にすることが可能な機構となっている。
そこで、空ボビンへの糸切り替え動作を速やかに行う等の目的で、「仕切板」が、ボビンの移動の完了を待つことなく、ボビンの移動中に、糸切り替え動作の一部を開始できるように構成し、相違点2に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

4-3.本件発明3について
本件発明3の、「二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成」した点は、上記刊行物1〜3のいずれにも、記載も示唆もない。
そして、本件発明3は、係る構成を前提として、特に、「空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ」るように構成したものであるので、本件発明3は、刊行物1〜3に記載された発明より、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.特許法第36条第4項について
本件発明に係る種類の巻取機において、二本のボビンホルダーを、同じ軌道上で移動させるには、例示されたターレット盤以外にも、種々の機構があることは、周知の事項であり、このようなものとして、例えば刊行物3に記載されたもののように、同心的に回動する2本のアームに、二本のボビンホルダーを取り付けたものや、特許権者が提出した乙第1号証、乙第2号証である、特開平4-358670号公報や特開平5-162925号公報に示されるような機構が良く知られている。
そして、2本のアームで移動させるものであれば、これを時計の針のように構成し、あるいは、乙号証の機構であれば、これを円形に構成することにより、容易に、二本のボビンホルダーが、互いに独立して同じ円軌道23上を移動するように構成できるものである。
したがって、ボビンホルダ21,22を互いに独立して同じ円軌道23上を移動させる手段は、明細書に格別その具体的な開示がなくとも、二本のボビンホルダーを同じ軌道上で移動させる周知の手段より、当業者が容易に構成し得る程度のものであると認められるので、本件特許出願は、特許法第36条第4項の規定を満たしているものと認められる。

6.その他の異議申立の理由について
本件発明3の特許は、その他の異議申立理由によっても、取り消すことができない。

III.むすび
以上のとおりであるので、本件発明1ないし2は、刊行物1に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1ないし2についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明3に係る発明の特許については、取消の理由を発見しない。

よって、結論の通り決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
巻取機の糸切換方法及びその装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法。
【請求項2】満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機。
【請求項3】満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成すると共に、上記満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材を設け、上記空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ、上記糸屈折部材を動作させて上記糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込むように構成した巻取機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、巻取機の糸切換方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図3に示すように、巻取機1は、多数のボビン(紙管)を挿着させる二本の平行なボビンホルダ2,3を有し、これらをスピンドルモータ(図示せず)にてそれぞれ高速回転させるようになっている。ボビンホルダ2,3はターレット盤4の回転に従って移動できるようになっており、タッチローラ5に接触して糸Yの巻き取りを行っている側が満管(満ボビン6)となったなら、これと180度の位相で待機されている空ボビン7と交換して、トラバース装置8によりトラバースされる糸Yを巻き取るようになっている。またタッチローラ5の位置にドライブローラを設けて、その摩擦接触によりボビンを回転させるタイプの巻取機もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで巻取側に移動された空ボビン7に糸Yを渡すに際しては、図4(a)に示すように、ボビン7の端部に形成された案内溝8により糸Yを捕捉溝9まで導いて捕捉させるようになっている。しかしながらこのときの糸Yの走行方向と空ボビン7の回転方向とは逆になっているので(逆取り)、図4(b)に示すように、糸渡しの瞬間に空ボビン7の上流側の張力が緩み、巻取機1の上流側に設置されている延伸用熱ローラやゴデットローラ(図示せず)に糸Yが巻き付き、糸切れが発生するという問題があった。この緩みは、糸渡しの前後で空ボビン7のボビンホルダ2が加速されることで、時間の経過と共に解消されるが、解消に必要となる時間が長いほど、上流側のローラに巻き付く可能性が大きくなる。特に、低巻取テンションが必要なとき、縮み代のない糸(スピンドロー糸)であるとき、或いは糸が付着しやすい油剤を使用しているときなどは糸切れが発生し易く、生産性の低下につながってしまう。
【0004】
そこで本発明は、巻取機における糸渡しの際の糸切れを防止できる巻取機の糸切換方法及びその装置を提供すべく創案されたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機の糸切換方法において、二本のボビンホルダを適宜移動させることにより満ボビンと空ボビンとを交換するに際して、上記空ボビンを巻取側に備えられたローラに接触させると共に、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材が満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて空ボビンに非接触にし、この糸を糸屈折部材で上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込んで空ボビンに接触させることにより上記糸を上記空ボビンに受け渡すことを特徴とする巻取機の糸切換方法である。
【0006】
また本発明は、この方法を実施するための装置であって、満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記満ボビンを巻取側の位置から待機位置へ移動させている過程で、満ボビンに連なっている糸を引っ掛けて該糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンの表面から離すための空ボビンと満ボビンとの間の適宜位置に設けられた糸ガイド部材と、離された糸を上記空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材とを備えたことを特徴とする巻取機である。
また、満ボビンと空ボビンとを交換すべく適宜移動する二本のボビンホルダを有し、糸渡しの際に糸の走行方向と該糸を巻き取る上記空ボビンの回転方向とが逆向きに設定された逆取りの巻取機において、上記二本のボビンホルダが互いに独立して同じ円軌道を移動できるように構成すると共に、上記満ボビンに連なっている糸を、巻取側に備えられたローラと接触した空ボビンと上記ローラとの接触点側に屈折させるための糸屈折部材を設け、上記空ボビンが上記ローラに接触したときに、満ボビンに連なっている糸が空ボビンに接触しないように満ボビンを位置させ、上記糸屈折部材を動作させて上記糸を上記ローラと上記空ボビンとの間に押し込むように構成した巻取機である。
【0007】
【作用】
上記構成によって、糸ガイド部材は、糸が糸屈折部材の動作前に空ボビンに接触しないように、空ボビンの表面から離した状態に保持する。また糸屈折部材は、満ボビンに連なり空ボビンと非接触になっている糸をローラと空ボビンとの接触点側に屈折させることで、糸をローラに近い位置で空ボビンに受け渡す。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の実施例を添付図面に従って説明する。
【0009】
図1は、本発明に係わる巻取機の糸切換装置の一実施例を示したものである。この切換装置は、満ボビン6と空ボビン7とを交換する際に、糸Yを空ボビン7の表面から離すための糸ガイド部材11と、その糸Yをタッチローラ5と空ボビン7との接触点Aの側に屈折させるための糸屈折部材12とが備えられて構成されている。空ボビン7は、適宜間隔でボビンホルダ3に多数(例えば6個)挿着され、スピンドルモータの回転によって、紡糸機(図示せず)から紡出された糸Yをそれぞれ巻き取るようになっている。空ボビン7の端部近傍には、横断面V字状の案内溝8と、案内溝8に連続し幅が狭められた捕捉溝9とが同一周方向に沿って形成され、この捕捉溝9に糸Yを係止させることで巻き取りを開始できるようになっている。タッチローラ5は、空ボビン7に巻き取られる糸層に所定の接圧を付加するものであり、巻径が拡大するに従って上方に移動するように形成されている。またトラバース装置によりトラバースされた糸Yは、このタッチローラ5を経由して、空ボビン7に巻き取られるようになっている。
【0010】
糸ガイド部材11は、糸Yを引っ掛ける糸掛ロッド13と、糸掛ロッド13を支持する支持板14とで構成されている。この糸ガイド部材11は、満ボビン6が下方の待機位置まで移動する途中で、その糸層15に連なっている糸Yに係合するように、空ボビン7と満ボビン6との間の適宜位置に設けられている。この糸ガイド部材11としては、ボビン6,7の回転移動に干渉しないように形成してあれば巻取機のフレーム(図示せず)に固定するものとしてもよいし、ボビン交換の時に所定位置に進出するように構成してもよい。糸屈折部材12は、糸Yに係合する係合ロッド16と、係合ロッド16を支持する揺動アーム17とで成り、上方の枢支点(図示せず)回りに揺動アームが揺動することで、係合ロッド16が糸Yをタッチローラ5と空ボビン7との間に押し込むようになっている。この糸屈折部材12は、揺動させるものとは限らず、押し込む方向にスライドするように構成してもよい。
【0011】
次に本発明に係わる巻取機の糸切換方法の一実施例を、上記構成の作用として説明する。
【0012】
巻取側に位置されたボビンは、タッチローラ5により所定の接圧を与えられつつ、トラバースされた糸Yを巻き取る。そのボビンが満管になったなら、両方のボビンホルダ2,3を回転移動させ、空ボビン7をタッチローラ5の下端に接触させると共に、満ボビン6を下方の待機位置へと移動させる。すなわち満ボビン6は、図1中一旦右側に動いてから中央側に戻ることとなり、この過程で糸ガイド部材11は、満ボビン6に連なっている糸Yを引っ掛けて、空ボビン7に接触させないようにする。そしてこの過程或いは回転移動が終了した後に、糸寄せガイド(図示せず)が糸Yをトラバース装置から外して、巻取幅外に糸道を寄せ、捕捉溝9の位置に保持する。糸Yが寄せられたなら、糸屈折部材12を揺動させて、タッチローラ5と糸ガイド部材11との間に伸びている糸Yを接触点A側に押し込む。この押し込みにより糸Yは屈折して、空ボビン7の回転により案内溝8及び捕捉溝9に入って係止される。すなわち屈折された糸道Y1の空ボビン7に対する接点が捕捉点Bとなる。
【0013】
この捕捉溝9における捕捉点Bは、ボビンホルダ3の回転軸心Oの位置よりもタッチローラ5に近い位置となり、捕捉点Bが接触点Aを越えるまでは、捕捉点Bとタッチローラ5と糸Yとの接触点Cとの区間で張力が緩むが、この区間は極めて短いものであるので、ボビンホルダ3(スピンドルモータ)の高速回転によって緩みは速やかに解消されて、上流側への影響を抑えることができる。すなわち糸切れを防止できる。また糸Yの受け渡しの直後に、糸屈折部材12を更に若干押し込んで、逆取りによる糸Yの緩みをより少なくすることもできる。
【0014】
図2は本発明の他の実施例を示したもので、ボビンホルダ21,22が互いに独立して同じ円軌道23上を移動するように構成されている。すなわちそれぞれのボビンホルダ21,22に、回転移動させるための移動機構(図示せず)が備えられている。そしてボビン交換時において、空ボビン7がタッチローラ5に接触する巻取側に位置したときに、その糸道が空ボビン7に接触しないように、満ボビン6を位置させるものとする。そして糸Yを捕捉溝9の位置まで寄せた後、糸屈折部材12を動作させて、タッチローラ5と満ボビン6との間に直線状に伸びている糸Yを、タッチローラ5と空ボビン7との間に押し込み、タッチローラ5に近い位置で空ボビン7に係止させるものとする。このように構成すれば、前記実施例の糸ガイド部材14は不要になる。なお満ボビン6のボビンホルダ22は、糸渡し後に下方の待機位置まで移動させるようにしてよい。
【0015】
なお以上の実施例において、糸屈折部材12は、空ボビン7に対して略その接線方向に移動させることで糸Yを押し込むことができるが、さらに軸方向にも移動(斜めに移動)するように構成して、トラバース装置から外した糸Yを捕捉溝9の位置に寄せながら押し込むようにしてもよい。このようにすれば、タッチローラ5の上流側に設けられる糸寄せ部材を省略することができる。またボビン6,7に接触するローラをタッチローラ5としたが、摩擦接触により回転力を付与するドライブローラを設けた巻取機においても本発明は当然適用できる。
【0016】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、糸渡し時における糸の緩みを防止でき、糸切れ発生率を低下させることができるという、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる巻取機の糸切換方法及びその装置の一実施例を示した正面図である。
【図2】本発明の他の実施例を示した正面図である。
【図3】従来の巻取機を示した正面図である。
【図4】従来の巻取機における課題を説明するための図であり、(a)は糸の受け渡しが行われた状態の正面図、(b)は受け渡しが行われた後の正面図である。
【符号の説明】
2,3 ボビンホルダ
5 タッチローラ(ローラ)
6 満ボビン
7 空ボビン
9 捕捉溝
11 糸ガイド部材
12 糸屈折部材
A 接触点
B 捕捉点(ローラに近づけた位置)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-19 
出願番号 特願平6-319965
審決分類 P 1 651・ 531- ZD (B65H)
P 1 651・ 121- ZD (B65H)
P 1 651・ 14- ZD (B65H)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 山崎 豊
松縄 正登
登録日 2001-12-07 
登録番号 特許第3257309号(P3257309)
権利者 村田機械株式会社
発明の名称 巻取機の糸切換方法及びその装置  
代理人 内田 敏彦  
代理人 内田 敏彦  

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