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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1091437
異議申立番号 異議2002-72331  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-25 
確定日 2003-11-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3269212号「ガラス繊維強化液晶性樹脂組成物」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3269212号の請求項1〜5に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3269212号は、平成5年9月29日(優先権主張、平成4年9月29日、平成4年12月25日)に出願された特願平5-242371号に係り、平成14年1月18日に設定登録がなされた後、新日本石油化学株式会社から特許異議の申立てがあり、平成14年12月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年2月24日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]本件訂正前の特許に対する特許異議申立人の主張の概要
本件訂正前の特許に対し、特許異議申立人 新日本石油化学株式会社は、
甲第1号証(特開平2-77443号公報)、
甲第2号証(新日本石油化学株式会社 室内聡士による平成14年9月10日付け実験報告書)、
甲第3号証(特開昭63-101448号公報)、
甲第4号証(特開平3-281566号公報)
甲第5号証(日本製鋼所のホームページコピー(http://www.jsw.co.jp/kikai_f/tex_f/tex_index.htm, http://www.jsw.co.jp/kikai_f/tex_f/tex_intro.htm, http://www.jsw.co.jp/kikai_f/tex_f/tex_merit1.htm, http://www.jsw.co.jp/kikai_f/tex_f/tex_spec.htm, http://www.jsw.co.jp/kikai_f/tex_f/tex_app.htm,))及び
甲第6号証(フィラー研究会編集、機能性フィラーの最新技術、株式会社シーエムシー、1990年1月26日発行、第302〜317頁)を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であり、訂正前の請求項2〜5に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、又は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、訂正前の本件請求項2〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、更に、訂正前の明細書の記載には不備があり、訂正前の本件請求項1〜5に係る特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項及び第5項第2号に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものであるから、訂正前の本件請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきものであると主張する。

[3] 本件訂正請求
本件訂正請求は、次のとおりである。
(a)訂正事項a
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1における「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%」なる記載を、「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)」と訂正する。
(b)訂正事項b
訂正事項bは、明細書の段落【0009】の「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%」なる記載を、「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)」と訂正する。
(c)訂正事項c
訂正事項cは、明細書の段落【0046】の「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8.0重量%、好ましくは0.4〜6.0重量%、特に、0.5〜4.0重量%が好ましい。」なる記載を、「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8.0重量%、好ましくは0.4〜6.0重量%、特に、0.5〜4.0重量%が好ましい。(ただし、いずれの場合も0重量%は含まない)」と訂正する。
(d)訂正事項d
訂正事項dは、明細書の段落【0050】の「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%、」なる記載を、「繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、」と訂正する。

[4] 訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(a)訂正事項a
訂正事項aは、訂正前の本件請求項1に係る特許が特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである旨の取消理由に対し、引用刊行物1(特開平2-77443号公報)に記載された発明との重複を避けようとするものであるから、訂正前の明細書に記載された範囲内で特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかである。
(b)訂正事項b〜d
訂正事項b〜dは、上記訂正事項aの訂正における特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
そして、訂正事項a〜dの訂正により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号により改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[5]本件発明
本件特許第3269212号の訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下、順次「訂正後の本件発明1」〜「訂正後の本件発明5」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂および/または液晶性ポリエステルアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種以上の液晶性樹脂(A)100重量部に対して、平均繊維径が3〜15μmのガラス繊維(B)5〜300重量部を充填してなり、該組成物中の重量平均繊維長が0.08〜0.30mmの範囲にあって、かつ、繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、かつ、繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率であることを特徴とするガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項2】 液晶性ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)、(II)、(III) 、(IV)からなる液晶性ポリエステル樹脂である請求項1記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。【化1】

(ただし、式中のR1 は【化2】

から選ばれた1種以上の基を、R2 は【化3】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)
【請求項3】 液晶性ポリエステル樹脂(A)の構造単位(III) 、(IV)中のR1、R2が、【化4】

であり、構造単位(I)および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III) の合計に対して60〜95モル%、構造単位(III) が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5であり、対数粘度が1.0〜3.0dl/gである請求項2記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項4】 液晶性ポリエステル樹脂(A)の構造単位(III) 、(IV)中のR1、R2が、【化5】

であり、構造単位(I)および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して80〜99モル%、構造単位(III) が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して20〜1モル%、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5、構造単位(II)の(III)に対するモル比[(II)/(III)]が90/10〜40/60であり、対数粘度が3.0〜10.0dl/gである請求項2記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項5】 液晶性ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(V)、(VI) 、(VII) からなる液晶性ポリエステル樹脂である請求項1記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【化6】

(ただし、式中のR3 は【化7】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)」

[6]本件特許異議申立のうち、特許法第36条第4項について
訂正後の本件発明1〜5は、ガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の発明であり、組成物中に存在するガラス繊維が、「重量平均繊維長が0.08〜0.30mmの範囲にあって、かつ、繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、かつ、繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率であること(以下、「構成要件(A)という。」)」を構成要件とするものである。
このような重量平均繊維長及び繊維長と比率の関係を有するガラス繊維を製造する方法として、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、
「【0054】本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造方法については組成物中のガラス繊維を特定範囲の数平均繊維長かつ、特定範囲の繊維長分布にする必要があるため、通常の単純な押出技術では目的とするものを得ることは困難である。
【0055】本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが例えば、以下の方法による溶融混練法を適用することが推奨される。
【0056】(1)液晶性樹脂(A)とガラス繊維(B)を溶融混練し組成物とする際に、2軸押出機を使用し、液晶性樹脂(A)、ガラス繊維(B)の順に、逐次かつ連続的に該押出機に供給する方法により製造する。具体的には、2軸押出機の原料投入口からノズル部の間の任意の位置にさらに別の投入口を設け、半溶融状態または溶融状態の液晶性樹脂(A)にガラス繊維(B)が連続的に供給されるようにする。
【0057】(2)液晶性樹脂(A)の融点(Tm)以上-30℃以上、融点(Tm)+30℃以下の温度で溶融混練して組成物とする。
【0058】(3)押出時に、該2軸押出機のスクリューアレンジメントとしては液晶性樹脂を溶融するゾーンおよびガラス繊維を所定のサイズまで折り、ついで混練するゾーンを設け溶融混練して組成物とする。
【0059】上記(1)〜(3)の方法の少なくとも1つを採用することは、本発明の組成物の製造を容易にする。従って、本発明の組成物は、かくなる特殊技術により、初めて容易に製造されるということができる。」と記載され、実施例1〜9として、
「【0068】実施例1〜5
ポリマ供給口と2箇所の中間添加口(中間添加口1,中間添加口2)を有する44mmφの2軸押出機(日本製鋼所社製TEX44α)を用い、スクリューアレンジメントとしてはポリマ供給口から中間添加口1の間にポリマの溶融ゾーン(Z-1)を設け、中間添加口1の直後に混練ゾーン(Z-2)を設け、更に、中間添加口2の直後に混練ゾーン(Z-3)を設けた構造とし、シリンダ温度を液晶性樹脂の融点に設定し、スクリュー回転数を300rpmの条件で、ポリマの供給口から参考例1と同じ方法で得られた液晶性ポリエステル樹脂(A-1)、ポリマ供給口、中間添加口1、中間添加口2のうちの1箇所以上からガラス繊維(6μm径、3mm長チョップドストランド…日本電気硝子社製ECS-03T-790DE)を、ポリマ(A-1)100重量部に対して第1表に示した配合量になるように連続的に供給し、溶融混練後ペレタイズした。得られた組成物ペレットからポリマ成分を燃焼除去せしめ残存したガラス繊維の重量平均繊維長および繊維長分布を前述した方法で求めた。結果を第1表に示す。」、
「【0074】実施例6
実施例2のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とし、10μm径、40μm長のガラス繊維を50重量部および10μm径、3mm長のガラス繊維を50重量部とした以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0075】実施例7
液晶性ポリエステルとして参考例2と同じ方法で得たポリマ(A-2)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。
【0076】実施例8
液晶性ポリエステルとして参考例3と同じ方法で得たポリマ(A-3)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。
【0077】実施例9
液晶性ポリエステルとして参考例4と同じ方法で得たポリマ(B)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。」と記載され、比較例1〜5として、
「【0078】比較例1
実施例3のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0079】比較例2
押出機に40mmφ単軸押出機を用いてガラス繊維の供給をポリマの供給口からポリマと同時に供給する以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0080】比較例3
実施例7のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例7と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0081】比較例4
実施例8のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以
外は実施例8と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0082】比較例5
実施例9のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例9と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。」と記載され、
表1にて、重量平均繊維長、繊維長1mmを越えるGFの比率(%)及び繊維長0.1mm以下のGFの比率(%)の値が、実施例1〜9及び比較例1〜5について記載されている。
本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを検討すると、発明の詳細な説明には、本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造方法については、組成物中のガラス繊維を特定範囲の数平均繊維長かつ、特定範囲の繊維長分布にする必要があるため、通常の単純な押出技術では目的とするものを得ることは困難である(段落【0054】)と記載されているが、構成要件(A)を満たすための製造方法は例示にとどまり、構成要件(A)を満足するための具体的な製造方法が記載されているとはいえない。
また、同じく発明の詳細な説明に記載された実施例及び比較例は、特定の液晶ポリエステル樹脂を使用し、特定のガラス繊維の配合割合の場合において、特定の製造方法により、特定の重量平均繊維長を有し、特定の繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率及び繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率を有するものが得られることを示すものではあるが、これらの実施例、比較例は限られた場合の結果を示したものにすぎない。更に、これらの実施例及び比較例の記載並びに本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を勘案しても、どのような条件をどの程度変更すれば構成要件(A)を満足することができるのかが記載されているとはいえない。
この点に関連して、特許権者は特許異議意見書にて、ガラス繊維の繊維長分布を制御する方法について、押出機のスクリューアレンジメントによることは、公知の技術であるといえ、重要なスクリューアレンジメントとしては、ポリマ供給口、ポリマ溶融ゾーン、ガラス繊維供給口、ガラス繊維を折るゾーンおよび混練ゾーンの位置関係が挙げられ、これらのスクリューアレンジメントと共に、押出温度およびスクリュー回転数などの条件を組合わせることによって、組成物中のガラス繊維の繊維長分布を請求項1の範囲に制御することが可能である旨を言及した上で、当業者であれば、液晶ポリエステルとガラス繊維の種類、ガラス繊維の量とその添加位置、押出機の種類、スクリューアレンジメント、押出温度およびスクリュー回転数などの条件を組合わせることにより、得られる樹脂組成物中のガラス繊維の繊維長分布を、請求項1の範囲に容易に制御することが可能である。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明、特に実施例・比較例の記載事項に基づけば、当業者は何ら試行錯誤を必要とせずとも、容易に本件特許の実施を行うことが可能であり、この点で本件特許明細書は記載不備を包含するものではないと主張する。
しかしながら、この主張は、単に、組成物を構成する構成成分の種類と量、混練条件、押出条件を組み合わせれば、樹脂組成物中のガラス繊維の繊維長分布を容易に制御できること示すにとどまり、これらの条件を、どのように制御し、組み合わせれば、構成要件(A)を満足する樹脂組成物が得ることができるのかを示したものではない。また、この主張に加えて発明の詳細な説明の記載、特に実施例、比較例における記載を検討したとしても、これらの条件を、どのように制御し、組み合わせれば、構成要件(A)を満足する樹脂組成物が得ることができるのかを理解することはできない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、訂正後の本件発明1〜5を、当業者が容易に実施できる程度に記載しているとはいえない。

[7]むすび
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものである。
したがって、訂正後の本件発明1〜5についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラス繊維強化液晶性樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂および/または液晶性ポリエステルアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種以上の液晶性樹脂(A)100重量部に対して、平均繊維径が3〜15μmのガラス繊維(B)5〜300重量部を充填してなり、該組成物中の重量平均繊維長が0.08〜0.30mmの範囲にあって、かつ、繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、かつ、繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率であることを特徴とするガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項2】 液晶性ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる液晶性ポリエステル樹脂である請求項1記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【化1】

(ただし、式中のR1は
【化2】

から選ばれた1種以上の基を、R2は
【化3】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)
【請求項3】 液晶性ポリエステル樹脂(A)の構造単位(III)、(IV)中のR1、R2が、
【化4】

であり、構造単位(I)および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して60〜95モル%、構造単位(III)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5であり、対数粘度が1.0〜3.0dl/gである請求項2記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項4】 液晶性ポリエステル樹脂(A)の構造単位(III)、(IV)中のR1、R2が、
【化5】

であり、構造単位(I)および(II)の合計が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して80〜99モル%、構造単位(III)が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して20〜1モル%、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]が75/25〜95/5、構造単位(II)の(III)に対するモル比[(II)/(III)]が90/10〜40/60であり、対数粘度が3.0〜10.0dl/gである請求項2記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【請求項5】 液晶性ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(V)、(VI)、(VII)からなる液晶性ポリエステル樹脂である請求項1記載のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物。
【化6】

(ただし、式中のR3は
【化7】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は耐熱性、成形性、機械的特性、表面外観に優れ、薄肉成形性が良好であり、とりわけ薄肉成形品の寸法異方性および機械的異方性が極めて改良された成形品を与え得る均衡した性能を液晶性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマが数多く開発され、市場に供されているが、なかでも特に分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶ポリマが優れた機械的性質および成形性を有する点で注目されている。
【0003】
異方性溶融相を形成する液晶ポリマとしてはたとえばp-ヒドロキシ安息香酸にポリエチレンテレフタレートを共重合した液晶ポリマ(特開昭49-72393号公報)、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を共重合した液晶ポリマ(特開昭54-77691号公報)、p-ヒドロキシ安息香酸に4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、イソフタル酸を共重合した液晶ポリマ(特公昭57-24407号公報)などの液晶性ポリエステル樹脂、また、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、p-アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶ポリマ(特開昭57-172921号公報)、p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェノールとテレフタル酸、p-アミノ安息香酸およびボリエチレンタレフタレートから生成した液晶ポリマ(特開昭64-33123号公報)などの液晶性ポリエステルアミド樹脂が知られている。
【0004】
また、液晶ポリマの耐熱性と機械的強度を向上させる目的でガラス繊維を配合することがラバーダイジェスト,27巻,8号,7〜14頁,1975に開示され、液晶ポリマの寸法精度を向上させる目的で重量平均繊維長0.15〜0.60mmのガラス繊維を配合することが特開昭63-101448号公報に開示され、さらに、強度、剛性、耐衝撃性、耐熱性を向上させる目的でミルドグラスファイバーとチップドストランドグラスファイバーを併用することが特開平2-77443号公報に開示されている。また、特開昭57-10641号公報にはミルドグラスファイバーを配合することも開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらのガラス繊維を配合した液晶ポリマとしてこれまで知られているものは液晶ポリマの耐熱性や機械的強度や異方性はある程度改良されているものの、成形時の流動性や成形品の外観が必ずしも十分でなかったり、また、ミルドグラスファイバーを配合する方法においては流動性や成形品の外観は改良されるものの異方性や機械的特性が不良となったりして成形性と成形品の外観や物性のバランスした液晶ポリマを得ることは困難であった。
【0006】
特に、液晶ポリマの特徴である良流動性を生かした、薄肉の成形品においては、薄肉成形性と寸法異方性および機械的強度のバランスが不十分であり、各種のケースやハウジング類などの用途においては液晶ポリマが使用できないなどの問題もあることがわかった。
【0007】
よって本発明は上記の問題を解決し、成形性と機械的特性、耐熱性に優れ、とりわけ薄肉形成性と寸法異方性、機械的異方性および機械的強度が改良された成形性と成形品の外観や物性が均衡して優れたガラス繊維強化液晶性樹脂組成物を得ることを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂および/または液晶性ポリエステルアミド樹脂から選ばれた少なくとも1種以上の液晶性樹脂(A)100重量部に対して、平均繊維径が3〜15μmのガラス繊維(B)5〜300重量部を充填してなり、該組成物中の重量平均繊維長が0.08〜0.30mmの範囲にあって、かつ、繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、かつ、繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率であることを特徴とするガラス繊維強化液晶性樹脂組成物、前記液晶性樹脂が下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる液晶性ポリエステル樹脂であるガラス繊維強化液晶性樹脂組成物および
【化8】

(ただし、式中のR1は
【0010】
【化9】

から選ばれた1種以上の基を、R2は
【0011】
【化10】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)
【0012】
前記液晶性樹脂が下記構造単位(V)、(VI)、(VII)からなる液晶性ポリエステル樹脂であるガラス繊維強化液晶性樹脂組成物を提供するものである。
【0013】
【化11】

(ただし、式中のR3は
【0014】
【化12】

から選ばれた1種以上の基を示す。また式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)
【0015】
本発明における液晶性ポリエステル樹脂とは芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルであり、液晶性ポリエステルアミド樹脂とは上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルアミドである。
【0016】
本発明における液晶性ポリエステル樹脂の上記構造単位(I)は、p-ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位を、上記構造単位(II)は4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、上記構造単位(III)は3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルおよびエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸および4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた一種以上の芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
【0017】
構造単位(III)としてはエチレングリコールまたは2,6-ジヒドロキシナフタレンから生成した構造単位が好ましく、構造単位(IV)としてはテレフタル酸から生成した構造単位が好ましい。
【0018】
上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、流動性と耐熱性の点から次の共重合量であることが好ましい。すなわち、上記構造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して60〜95モル%であることが好ましく、80〜92モル%であることが特に好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%が好ましく、20〜8モル%であることが特に好ましい。また、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]は75/25〜95/5が好ましく、構造単位(IV)は実質的に構造単位(II)および(III)の合計と等モルである。
【0019】
上記液晶性樹脂の上記構造単位(V)は、p-ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位を、上記構造単位(VI)としてはエチレングリコールから生成した構造単位が好ましく、構造単位(VII)としてはテレフタル酸から生成した構造単位が好ましい。
【0020】
上記構造単位(V)、(VI)および(VII)の共重合量は任意であるが流動性と耐熱性の点から次の共重合量であることが好ましい。すなわち、上記構造単位(V)は[(V)+(VI)]の30〜95モル%が好ましく、40〜95モル%であることがより好ましい。
【0021】
構造単位(VII)は実質的に構造単位(VI)と等モルである。
【0022】
さらに、本発明に使用する液晶性ポリエステル樹脂(A)として特に好ましい例として具体的に以下のものが挙げられる。
【0023】
すなわち、(i)上記構造単位(III)がエチレングリコールから生成した構造単位であり、構造単位(IV)がテレフタル酸から生成した構造単位である場合(以下、本発明におけるこのような液晶性ポリエステル樹脂を(A-1)と表記する)、
【0024】
【化13】

【0025】
上記構造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)]の合計に対して60〜95モル%であることが好ましく、80〜93モル%であることがより好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%が好ましく、20〜7モル%であることが特に好ましい。また、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]は75/25〜93/7が好ましく、85/15〜92/8がより好ましい。さらに、構造単位(IV)は実質的に構造単位(II)および(III)の合計と等モルである。
【0026】
(ii)上記構造単位(III)が2,6-ジヒドロキシナフタレンから生成した構造単位であり、構造単位(IV)がテレフタル酸から生成した構造単位である場合(以下、本発明におけるこのような液晶性ポリエステル樹脂を(A-2)と表記する)、
【0027】
【化14】

【0028】
上記構造造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して80〜99モル%であることが好ましく、88〜98モル%であることがより好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して20〜1モル%が好ましく、12〜2モル%であることが特に好ましい。また、構造単位(I)に対する(II)のモル比[(I)/(II)]は75/25〜95/5が好ましく、80/20〜90/10がより好ましい。さらに、構造単位(II)の(III)に対するモル比[(II)/(III)]は90/10〜40/60が好ましく、85/15〜45/55がより好ましい。この場合も、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルである。
【0029】
(i)、(ii)いずれの場合も上記の好ましい組成範囲を外れると流動性や耐熱性が損なわれる傾向がある。
【0030】
本発明に使用する液晶性ポリエステル樹脂(A)の製造方法については特に限定するものではなく、公知のポリエステルの重縮合方法に準じて製造できるが特に好ましい液晶性ポリエステル樹脂(A-1)は1)の方法で、(A-2)は2)の方法で製造するのが好ましい。
【0031】
1) p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルと無水酢酸およびテレフタル酸とポリエチレンテレフタレートのポリマ、オリゴマ、またはビス-(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートを反応させ、溶融状態で脱酢酸重合によって製造する方法。
【0032】
2) p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルと無水酢酸、2,6-ジアセトキシナフタレンおよびテレフタル酸を反応させ、溶融状態で脱酢酸重合によって製造する方法。
【0033】
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸ナトリウムおよび酢酸カリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウム等の金属化合物を添加した方が好ましいときもある。
【0034】
かくして得られる、本発明に使用する特に好ましい液晶性ポリエステル樹脂(A-1)の融点(Tm,℃)は下記(1)式を、(A-2)の融点(Tm,℃)は下記(2)式を満足するものが好ましい。
【0035】
|Tm+5.89x-385.5|<10 …(1)
|Tm+7.70x-374.4|<10 …(2)
ここに(1)および(2)式中のxは構造単位(III)の[(I)+(II)+(III)]に対する割合(モル%)を示す。
【0036】
本発明に使用する特に好ましい液晶性ポリエステル樹脂(A-1)、(A-2)において構造単位(I)〜(IV)の組成比が上記の条件を満足し、上記(1)および(2)式の融点を満足する場合にはポリマの組成分布、ランダム性が好ましい状態になり、流動性、成形品の耐熱性および機械特性のバランスが極めて優れたものとなり、高温時でもポリマの分解がほとんど起こらず好ましいものとなる。ここで、融点(Tm)とは示差走査熱量計により、20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度Tm1の観測後Tm1+20℃の温度まで昇温し、同温度で5分間保持した後20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却する。再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度をいう。
【0037】
なお、上記(I)〜(IV)または(V)〜(VI)からなる液晶性ポリエステル樹脂を重縮合する際には上記構造単位(I)〜(IV)および(V)〜(VI)を構成する成分以外に3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸、p-アミノフェノール、p-アミノ安息香酸および芳香族イミド化合物などを本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0038】
また、本発明に使用する液晶性ポリエステル樹脂および/または液晶性ポリエステルアミド樹脂(A)の対数粘度は、0.1g/dl濃度、60℃のペンタフルオロフェノールで測定した値が、0.8〜10.0dl/gが機械的特性、流動性の点から好ましい。また、特に好ましい液晶性ポリエステル樹脂(A-1)の場合、1.0〜3.0dl/gが好ましく、1.3〜2.5dl/gが特に好ましく、液晶性ポリエステル樹脂(A-2)の場合、3.0〜10.0dl/gが好ましく、3.5〜7.5dl/gが特に好ましい。
【0039】
本発明に使用する液晶性ポリエステル樹脂および/または液晶性ポリエステルアミド樹脂(A)の溶融粘度は100〜20,000ポイズが好ましく、特に100〜1,000ポイズが好ましい。
【0040】
なお、この溶融粘度は(融点(Tm)+10)℃でずり速度1,000s-1の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0041】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物に使用するガラス繊維(B)としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点ですぐれており、本発明に好ましく使用できる。
【0042】
また、ガラス繊維はエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、エポキシ系が特に好ましい。またシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤が特に好ましい。
【0043】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造に用いるガラス繊維(B)の平均繊維径は3〜15μmであり、繊維の長さは通常20〜10000μm、40〜5000μmが好ましく、特に好ましくは500〜4000μm、充填量は液晶性ポリエステル100重量部に対して5〜300重量部、好ましくは10〜200重量部である。ガラス繊維の平均径が3μm未満では、補強効果が小さく異方性減少効果が少なく好ましくない。一方、15μmより大きいと成形時流動性が低下するばかりか表面外観も悪化するので好ましくない。
【0044】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物において、該組成物中のガラス繊維の重量平均繊維長、繊維長分布が本発明効果に重要な影響を与える。
【0045】
すなわち、該組成物中のガラス繊維の重量平均繊維長は、0.08〜0.30mmの範囲である。組成物中のガラス繊維の重量平均繊維長が0.08mm未満の場合は成形品の異方性が大きく、機械的強度も十分ではない。また、重量平均繊維長が0.30mmよりも大きい場合は成形時の流動性や成形品の外観が損なわれるため、いずれの場合も好ましくない。
【0046】
また、組成物中のガラス繊維の繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8.0重量%、好ましくは0.4〜6.0重量%、特に、0.5〜4.0重量%(ただし、いずれの場合も0重量%は含まない)が好ましい。
【0047】
組成物中のガラス繊維の繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率は55重量%以上が好ましく、58重量%以上が特に好ましい。
【0048】
組成物中のガラス繊維の繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の8重量%を越えた場合は成形時の流動性が不十分となって薄肉成形性が不良になり好ましくない。組成物中のガラス繊維の繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50%以下では成形時の流動性が不十分となって薄肉成形性が不良になるばかりか、成形品にバリが発生しやすくなり寸法精度が不良になるなどの問題が生じ好ましくない。
【0049】
なお、ガラス繊維の繊維長分布および重量平均繊維長の測定方法は組成物のペレット約5gをるつぼ中で灰化した後、残存したガラス繊維のうちから100mmgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させる。次いで、分散液をスポイトを用いて1〜2滴スライドガラス上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影する。写真に撮影されたガラス繊維の繊維長を測定する。測定は500本以上行い、繊維長0.010mm間隔で繊維長の分布図を作成すると同時に重量平均繊維長を求める。
【0050】
本発明の効果は組成物中のガラス繊維の重量平均繊維長が0.08〜0.30mmの範囲にあって、かつ、繊維長が1mmを越えるガラス繊維の比率が該ガラス繊維の0〜8重量%(ただし、0重量%は含まない)、かつ、繊維長が0.1mm以下のガラス繊維の比率が該ガラス繊維の50重量%を越える比率である条件を同時に満足したときに発現され、機械的特性、耐熱性、成形性、成形品の外観に優れ、とりわけ超良流動性と低異方性を同時に満足する薄肉形成性が改良された均衡して優れたガラス繊維強化液晶性樹脂組成物を得ることができる。
【0051】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物には、更に、ガラス繊維以外の充填剤を含有させることも可能である。
【0052】
本発明に用いることができる充填剤としては炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、石コウ繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、ボロンウイスカ繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、ワラステナイト、酸化チタン、グラファイト等の繊維状、粉状、粒状あるいは板状の無機フィラーが挙げられる。
【0053】
更に、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない程度の範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0054】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造方法については組成物中のガラス繊維を特定範囲の数平均繊維長かつ、特定範囲の繊維長分布にする必要があるため、通常の単純な押出技術では目的とするものを得ることは困難である。
【0055】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが例えば、以下の方法による溶融混練法を適用することが推奨される。
【0056】
(1)液晶性樹脂(A)とガラス繊維(B)を溶融混練し組成物とする際に、2軸押出機を使用し、液晶性樹脂(A)、ガラス繊維(B)の順に、逐次かつ連続的に該押出機に供給する方法により製造する。具体的には、2軸押出機の原料投入口からノズル部の間の任意の位置にさらに別の投入口を設け、半溶融状態または溶融状態の液晶性樹脂(A)にガラス繊維(B)が連続的に供給されるようにする。
【0057】
(2)液晶性樹脂(A)の融点(Tm)以上-30℃以上、融点(Tm)+30℃以下の温度で溶融混練して組成物とする。
【0058】
(3)押出時に、該2軸押出機のスクリューアレンジメントとしては液晶性樹脂を溶融するゾーンおよびガラス繊維を所定のサイズまで折り、ついで混練するゾーンを設け溶融混練して組成物とする。
【0059】
上記(1)〜(3)の方法の少なくとも1つを採用することは、本発明の組成物の製造を容易にする。従って、本発明の組成物は、かくなる特殊技術により、初めて容易に製造されるということができる。
【0060】
かくして得られる本発明の液晶性樹脂組成物は射出成形、押出成形、ブロー成形などの通常の成形方法により優れた耐熱性、成形性、機械的特性、表面外観を有し、とりわけ異方性の小さい機械的特性を有する三次元成形品、シート、容器パイプなどに加工することが可能であり、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途に有用である。
【0061】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。
【0062】
参考例1
p-ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4´-ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部及び無水酢酸960重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、重縮合を完結させ樹脂(A-1)を得た.この樹脂の融点(Tm)は314℃であり、324℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は52Pa・secであった。
【0063】
参考例2
p-ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル222重量部、2,6-ジアセトキシナフタレン147重量部、無水酢酸1078重量部およびテレフタル酸299重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、重縮合を完結させ樹脂(A-2)を得た。
【0064】
この樹脂の融点(Tm)は336℃であり、346℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は46Pa・secであった。
【0065】
参考例3
特開昭49-72393号公報に従って、p-アセトキシ安息香酸1296重量部と固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート346重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み重縮合を行い、樹脂(A-3)を得た。この樹脂の融点(Tm)は283℃であり、293℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は130Pa・secであった。
【0066】
参考例4
特開昭54-77691号公報に従って、p-アセトキシ安息香酸921重量部と6-アセトキシーナフトエ酸435重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、樹脂(B)を得た。
【0067】
この樹脂の融点(Tm)は283℃であり、293℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は200Pa・secであった。
【0068】
実施例1〜5
ポリマ供給口と2箇所の中間添加口(中間添加口1,中間添加口2)を有する44mmφの2軸押出機(日本製鋼所社製TEX44α)を用い、スクリューアレンジメントとしてはポリマ供給口から中間添加口1の間にポリマの溶融ゾーン(Z-1)を設け、中間添加口1の直後に混練ゾーン(Z-2)を設け、更に、中間添加口2の直後に混練ゾーン(Z-3)を設けた構造とし、シリンダ温度を液晶性樹脂の融点に設定し、スクリュー回転数を300rpmの条件で、ポリマの供給口から参考例1と同じ方法で得られた液晶性ポリエステル樹脂(A-1)、ポリマ供給口、中間添加口1、中間添加口2のうちの1箇所以上からガラス繊維(10μm径、3mm長チョップドストランド…日本電気硝子社製ECS-03T-790DE)を、ポリマ(A-1)100重量部に対して第1表に示した配合量になるように連続的に供給し、溶融混練後ペレタイズした。得られた組成物ペレットからポリマ成分を燃焼除去せしめ残存したガラス繊維の重量平均繊維長および繊維長分布を前述した方法で求めた。結果を第1表に示す。
【0069】
次に得られたペレットを住友ネスタール射出成形機プロマット(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度を融点+10℃、金型温度90℃の条件で1mm厚×70mm×70mmの角板を成形した。
【0070】
上記角板の成形流動方向(MD)および成形流動方向に直角の方向(TD)の成形収縮率を測定し、
|流動方向(MD)の成形収縮率-直角方向(TD)の成形収縮率|
を求め寸法異方性を評価した。
【0071】
また、この角板から成形流動方向に対し、平行方向(MD)および直角方向(TD)にそれぞれ14mm幅の短冊型試験片を切り出し、ひずみ速度1mm/分、スパン間距離40mmの条件でASTM D790規格にしたがい曲げ弾性率の測定を行ない、下記式により機械的異方性を求めた。
【0072】
機械的異方性=MD方向曲げ弾性率/TD方向曲げ弾性率
【0073】
また、薄肉成形性の評価として上記の成形機を用いて、シリンダー温度324℃、金型温度90℃の、射出速度99%、射出圧力1030kgf/cm2の条件で0.3mm厚×12.7mm幅の試験片の流動長さ(棒流動長)を求めた。
【0074】
実施例6
実施例2のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とし、10μm径、40μm長のガラス繊維を50重量部および10μm径、3mm長のガラス繊維を50重量部とした以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0075】
実施例7
液晶性ポリエステルとして参考例2と同じ方法で得たポリマ(A-2)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。
【0076】
実施例8
液晶性ポリエステルとして参考例3と同じ方法で得たポリマ(A-3)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。
【0077】
実施例9
液晶性ポリエステルとして参考例3と同じ方法で得たポリマ(B)を用いた以外は実施例3と同様に行った。これらの結果を第1表に示す。
【0078】
比較例1
実施例3のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0079】
比較例2
押出機に40mmφ単軸押出機を用いてガラス繊維の供給をポリマの供給口からポリマと同時に供給する以外は実施例3と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0080】
比較例3
実施例7のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例7と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0081】
比較例4
実施例8のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例8と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0082】
比較例5
実施例9のスクリューアレンジメントについてZ-3ゾーンをなくした構成とした以外は実施例9と同様にして行った。これらの結果を第1表に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【発明の効果】
本発明のガラス繊維強化液晶性樹脂組成物は、成形性、耐熱性、機械的特性、表面外観に優れ、とりわけ優れた薄肉成形性および寸法異方性、機械的異方性が小さく寸法精度に優れるので電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連機器など、その他各種用途に好適な材料である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-18 
出願番号 特願平5-242371
審決分類 P 1 651・ 531- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐藤 健史
船岡 嘉彦
登録日 2002-01-18 
登録番号 特許第3269212号(P3269212)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ガラス繊維強化液晶性樹脂組成物  
代理人 秋元 輝雄  

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