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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H04R
審判 全部申し立て 2項進歩性  H04R
管理番号 1091465
異議申立番号 異議2002-72498  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-08 
確定日 2003-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3308699号「磁気回路構造」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3308699号の請求項1に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3308699号に係る出願は、平成6年3月23日に出願されたものであって、平成14年5月17日に特許の設定登録がされ、その後、その特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明について、異議申立人小野浩一により特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年6月9日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
訂正事項a
明細書における特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正する(下線部が訂正箇所)。
「【請求項1】ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、
永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状が永久磁石の断面形状と同一の接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記接続部には、ヨーク底部の内面より永久磁石側に底部が位置し、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成されることを特徴とする磁気回路構造。」

訂正事項b
明細書における特許請求の範囲の請求項2を以下のとおりに訂正する(下線部が訂正箇所)。
「【請求項2】ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、
永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっていることを特徴とする磁気回路構造。」

訂正事項c
明細書の詳細な説明中の段落【0017】を以下のとおりに訂正する(下線部が訂正箇所)。
「【課題を解決するための手段】本発明は、ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状が永久磁石の断面形状と同一の接続部が形成され、永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、前記接続部には、ヨーク底部の内面より永久磁石側に底部が位置し、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成されることを特徴とする磁気回路構造。」

訂正事項d
明細書の詳細な説明中の段落【0018】の一部を以下の通りに訂正する(下線部が訂正箇所)。
「ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される接続部が形成され、」

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項bは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項c、dは、上記訂正事項a、bにより付随的に生じる記載不備を解消するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立ての概要
異議申立人は、甲第1号証(実願昭57-154611号(実開昭59-59094号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(実願昭55-31119号(実開昭56-134897号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(実願昭57-147454号(実開昭59-50193号)のマイクロフィルム)を提出し、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項3号、または同条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべき旨主張している。

4.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記のとおり、平成15年6月9日付の訂正請求は認容されるので、本件の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1、2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1及び請求項2に記載のとおりのものと認める。
「【請求項1】(上記2.(1)訂正事項a参照)
【請求項2】(上記2.(1)訂正事項b参照)」

(2)刊行物記載の発明
当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1(前記甲第1号証)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「マグネットの外径をD1、ボイスコイルボビンの内径をD2とした時、ヨーク内底面に0.8D1〜D2の径を有する段部を設け、この段部上にマグネット、プレートを結合して界磁部を構成してなるスピーカ。」(実用新案登録請求の範囲)
「以上のように本考案のスピーカによれば、ヨーク内底面に段部を設け、この段部上にマグネット、プレートを結合することにより界磁部を構成しているため、ボイスコイルの下端がヨークの内底面に接触するまでの距離が長くなり、結果として許容入力を向上させることができ、またヨークに段部を形成するだけでよいため、価格が大幅に高くなってしまうことがない。」(5頁1行ないし8行)
同じく、当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物2(前記甲第2号証)には、図面とともに、「第5図は、内磁型におけるこの考案の実施例を示す断面図である。同図において、磁気回路は円柱状磁石1と内磁型ヨーク2aにより構成される。」と記載されている(5頁4行ないし6行)。
また、異議申立人が甲第3号証として提出した刊行物(以下「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
「現在音響機器の小型化、薄型化によりスピーカも小型化、薄型化が要望されている。しかし、従来のスピーカの構成であると、トッププレート1の厚さTを小さくする必要があり、その結果マグネット2より出る磁束が飽和し、性能が劣化するという問題があった。」(1頁下から1行ないし2頁5行)
「本実施例のスピーカのトッププレート4は、その厚さをT、トッププレート4の半径とマグネット2の半径との差をaとするとき、周辺が半径R(RはT-a以上、T以下である。)で成形されている。なおトッププレート4の厚さTは、マグネット2より出る磁束が飽和しないように寸法が定められている。」(3頁4行ないし10行)

(3) 対比・判断
(本件発明1について)
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、
刊行物1に記載された発明は、明細書及び第2図の記載からすると、以下のように認められる。
(あ)内磁型のスピーカ、すなわち、内磁型の磁気回路構成に関する発明であると認められ、ボイスコイル15が懸架される磁気空隙が、プレート13の外周面と、プレート13を外囲するヨーク10の内周面との間に形成され、プレート13とヨーク10の底部との間にマグネット11(本件発明1の永久磁石に相当)が備えられ、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合されている。
(い)ヨーク10には、底部から突出し、マグネット11の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状がマグネットの断面形状と同一と認められる段部12(本件発明1の接続部に相当)が形成されている。
(う)マグネット11の外径と、段部12の外径とは、プレート13の外径以下であり、前記段部には、ヨーク10の底面側に開口する有底の穴が形成されている。

したがって、本件発明1と刊行物1に記載された発明は、
「ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、
永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状が永久磁石の断面形状と同一の接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記接続部には、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成されることを特徴とする磁気回路構造。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1
上記接続部に形成される「ヨークの底面側に開口する有底の穴」が、本件発明1では、ヨーク底部の内面より永久磁石側に底部が位置しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、そのようになされていない点。

そこで、相違点1について検討すると、
刊行物1に記載された発明は、ヨーク底部に段部及び有底の穴(接続部)を設けることにより、ボイスコイルの下端がヨークの内底面に接触するまでの距離を長くし、許容入力を向上させるものであり、前記段部及び有底の穴の長さ(高さ、または深さ)をどの程度の長さにするかは、磁気回路を構成する各部品の形状、大きさ、許容入力の大きさ等を勘案して、当業者が適宜決定する単なる設計事項にすぎないと認められ、さらに、前掲の刊行物2には、内磁型の磁気回路において、ヨークの底部に、段部及び有底の穴(接続部)を設けるに当たって、当該有底の穴をヨーク底部の内面より磁石側に底部が位置するように設けることが記載されている。
そうすると、上記相違点1に係る本件発明1の構成が、当業者にとって想到困難な格別のものであると認めることはできない。
そして、本件発明1の効果についてみても、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(本件発明2について)
本件発明2と刊行物1ないし3(申立人が提出した甲第1ないし3号証)に記載の発明を対比すると、刊行物1ないし3には、本件発明2の主要事項である「プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっている」が記載されておらず、また、当該事項を示唆する記載もされていない。
すなわち、刊行物1、2には、内磁型磁気回路における上面が平らなプレートが開示され、刊行物3には、内磁型スピーカにおいて、トッププレートの周辺を一定範囲の半径で成形することにより、ボイスコイルの位置を変えることができ、その結果スピーカを従来より薄くすることができることが開示されているが、プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっていることについては記載も示唆もない。
そして、本件発明2は、前記主要事項により、「プレートの中心部の断面積が拡大されるので、プレートの中心部でも磁束の飽和を防ぐことができる。これによって、永久磁石から発せられる磁束を効率良く導くことができる。」という顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとは認められないので、本件発明2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(4) むすび
以上のとおり、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
したがって、本件発明1の特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消すべきものである。
また、本件発明2の特許については、取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気回路構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状が永久磁石の断面形状と同一の接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記接続部には、ヨーク底部の内面より永久磁石側に底部が位置し、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成されることを特徴とする磁気回路構造。
【請求項2】 ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっていることを特徴とする磁気回路構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、スピーカおよびボイスコイルタイプのアクチュエータなどの磁気回路構造に関し、特に内磁型の磁気回路構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の典型的なスピーカの磁気回路構造は、大略的に外磁型と内磁型とに分けられる。一般に外磁型とは、永久磁石が外側に配置され、ボイスコイルが懸架される磁気空隙がプレートの内周面とポールピースの外周面との間に形成される構成のものを指す。このとき、永久磁石は、ポールピースの底部に設けられるフランジ部とプレートとによって挟持される。
【0003】
外磁型の従来技術には、実開昭63-92494、実開昭62-155597および特開平4-192800などが挙げられる。
【0004】
実開昭63-92494および実開昭62-155597に示される従来技術は、実開昭63-92494公報の第1図および実開昭62-155597公報の第4図に示されるように、ポールピースがボイスコイルの底部に臨む部分には凹所が設けられる。凹所を設けることによってボイスコイルの振幅が大きくとれるようになっている。
【0005】
特開平4-192800に示される従来技術は、特開平4-192800公報の第1図に示されるように、ポールピースに貫通孔が設けられる。貫通孔を設けることによって、ボイスコイルのボビン内の空気が外部と自由に流通できるようにし、低音の再生特性の向上を図っている。
【0006】
これに対し、内磁型の従来技術には、図4に示す従来技術と、実開平4-102397に示される従来技術と、図5に示す従来技術などが挙げられる。
【0007】
図4に示す従来技術は、最も典型的な内磁型の磁気回路の特徴を示し、ボイスコイル1が懸架される磁気空隙がプレート2の外周面と、プレート2を外囲するヨーク3の頂部の内周面との問に形成される。永久磁石4はプレート2とヨーク3の底部との間の内側に備えられる。
【0008】
実開平4-102397に示される従来技術では、実開平4-102397公報の図1〜図4に示されるように、ヨークの底板とヨーク本体とを別体とすることによって、ヨーク本体の頂部に設けられるボイスコイルの挿入孔の内径よりも大径の永久磁石がヨーク本体内へ装着可能になっている。
【0009】
図5に示す従来技術では、プレート2の底部を拡大させることによって永久磁石4の径の拡大化を図っている。
【0010】
一般に外磁型の磁気回路構造では、永久磁石にフェライト系磁石を用い、内磁型の磁気回路構造では、永久磁石にアルニコ系磁石やサマリウムコバルト、ネオジウムなどの希土類系磁石を用いる。希土類系磁石はフェライト系磁石に比べて高価であり、また最適動作点における磁化力が大きいので、できるだけ偏平な形状とすることが好ましく、内磁型の磁気回路構造では永久磁石の厚みは小さく設定される。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
実開昭63-92494、実開昭62-155597および特開平4-192800に示される従来技術では、永久磁石にフェライト系磁石を用いる外磁型であるので、磁気回路の大きさ、特に外径の大きさが内磁型の磁気回路構造に比べて大きく、小型化に適さない。
【0012】
図4に示す典型的な内磁型の従来技術では、コストの低減などのために、希土類系磁石である永久磁石4の厚みを小さくしており、ボイスコイル1の底部とヨーク3との間の距離L1が小さくなっている。このため、ボイスコイル1の振幅が大きくなる低音の発生時には、ボイスコイル1の底部がヨーク3の底部に衝突し、ボイスコイル1が破損してしまうなどの問題がある。したがって図4に示す従来技術は、低音の発生には使用できない。実開平4-102397に示される従来技術においても、ボイスコイルの底部と永久磁石の上面との間の距離が小さく、低音発生時にはボイスコイルが永久磁石に衝突する。
【0013】
図5に示す従来技術では、ボイスコイル1の振幅が大きくなると、プレート2の底部の傾斜面にボイスコイルが接触する。ボイスコイル1の振幅を大きくとれるようにするには、プレート2の磁気空隙に面する部分の厚みを大きくしたり、永久磁石4の厚みを大きくする方法などが挙げられるが、プレート2を厚くすると、磁気空隙における磁束密度が小さくなってしまうという問題があり、永久磁石4を厚くすると、コストが高くなるなどの問題がある。
【0014】
また図4、図5および実開平4-102397に示される内磁型の従来技術では、ボイスコイルはヨークによって覆われているために、大出力の音を継続して発生させたときなどには、ボイスコイルから生じる熱がヨーク内にこもる。ヨーク内に熱がこもると、ボイスコイルが過熱し、ボイスコイルを固着している絶縁ワニスが融けてボイスコイルが破損したり、焼損したりする恐れがある。
【0015】
前述の特開平4-129800に示される従来技術は、小型化に適さない外磁型であり、ポールピースに設けられる貫通孔は、熱を放出させるためのものではない。
【0016】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、ボイスコイルを大振幅で振動させることができ、小型で耐入力性の向上された磁気回路構造を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される断面形状が永久磁石の断面形状と同一の接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記接続部には、ヨーク底部の内面より永久磁石側に底部が位置し、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成されることを特徴とする磁気回路構造である。
【0018】
また本発明は、ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの内周面との間に形成され、プレートとヨークの底部との間に永久磁石が備えられる内磁型の磁気回路構造において、永久磁石は、板状であり、頂部磁極面がプレートの底面に接合され、
ヨークには、底部から突出し、永久磁石の底部磁極面に磁気的に接続される接続部が形成され、
永久磁石の外径と、接続部の外径とは、プレートの外径以下であり、
前記プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっていることを特徴とする磁気回路構造である。
【0019】
【作用】
本発明に従えば、ボイスコイルが懸架される磁気空隙が、プレートの外周面と、プレートを外囲するヨークの頂部の内周面との間に形成される内磁型の磁気回路構造において、ヨーク内にはヨークの底部から突出した接続部が形成される。磁束源である板状の永久磁石の頂部磁極面はプレートの底面に、底部磁極面はヨーク底部の接続部の上面にそれぞれ磁気的に接続され、永久磁石がプレートと接続部とによって挟持される。永久磁石の外径と接続部の外径とは、プレートの外径以下に設定される。
【0020】
したがって、プレートおよび永久磁石の厚みを大きくすることなく、ボイスコイルの底部と、ボイスコイルの底部に対向するヨーク底部との間の距離を大きくすることができる。これによって、本発明の磁気回路構造がスピーカなどに適用された場合、発生させる音が高音から低音になるにつれてボイスコイルの振幅が大きくなるのであるが、ボイスコイルとヨーク底部との間の距離が拡大されているので、良好な状態で低音を再生させることができる。ヨーク底部に設けられる接続部には、ヨークの底面側に開口する有底の穴が形成される。したがって、ヨーク外面の表面積を大きくすることができ、ボイスコイルから発生する熱をヨーク外部へ効率良く放出することができる。
【0021】
また本発明に従えば、プレートの上面を盛上がらせることによって、プレートの中心部の板厚方向の断面積を増大させることができる。中心部の断面積が拡大されるので、プレートの中心部でも磁束の飽和を防ぎ、永久磁石から発せられる磁束を効率良く導くことができる。
【0022】
【実施例】
図1は、本発明の一実施例である内磁型の磁気回路11の構成を示す断面図である。磁気回路11は、大略的にヨーク12と、ボビン13に巻回されるボイスコイル14と、板状のプレート15と、板状の永久磁石16とを含んで構成される。ボイスコイル14、プレート15および永久磁石16を外囲するヨーク12は、頂部20と、筒部21と、底部22と、底部22に形成される接続部23とを備えて構成される。頂部20は、筒部21の上端から内側へ張出すようにして形成され、ボイスコイル14を外囲する内周面を有する。接続部23は、底部22から上方へ突出するようにして形成され、底部22からの所定の高さをもつ接続面を有する。
【0023】
永久磁石16は、プレート15と接続部23とによって挟持される。このとき、永久磁石16の頂部磁極面はプレート15の底面に、底部磁極面は接続部23の接続面にそれぞれ接続される。プレート15の外周面と、ヨーク12の頂部20の内周面との間には、一様な間隔があけられて磁気空隙24が形成される。この磁気空隙24にはボビン13によってボイスコイル14が懸架される。永久磁石16に用いられる希土類系磁石は高価であり、また最適動作点における磁化力が大きいので、偏平な形状で使用するため永久磁石16の厚みは小さく設定される。またプレート15の厚みも、厚みを大きくしすぎると、磁気空隙24における磁束密度が小さくなるので、適切な厚さに設定される。
【0024】
永久磁石16と接続部23とは同一の断面形状、たとえば円形状を有し、これに対応してプレート15の外周面が、永久磁石16および接続部23の外周面から一様にいくらか外方へ突出するようになっている。本実施例では、永久磁石16、接続部23およびプレート15の断面形状が円形状である場合を想定しているが、特にヨーク12の外形については円形に限らず四角形状などの他の形状であってもよい。ここで、永久磁石16および接続部23の外周面が、プレート15の外周面よりも内側に引っ込んでいるので、ボイスコイル14が図の上下に振動する際、ボビン13の内周面が永久磁石16および接続部23に接触しにくくなっており、良好にボイスコイル14を振動させることができる。
【0025】
ヨーク12およびプレート15は、鉄などの透磁率の高い強磁性金属材料で形成される。ヨーク12の底部22には、底部22から上方へ突出した接続部23が形成されるので、プレート15および永久磁石16を適切な厚さに保ったままで、ボイスコイル14の底部とヨーク12の底部との間の距離L3を大きくすることができる。距離L3を大きくすることによって、ボイスコイル14の振幅を大きくとることができる。これによって、磁気回路11がスピーカなどに適用された場合、発生される音が高音から低音になるにつれて、ボイスコイル14の振幅が大きくなるのであるが、ボイスコイル14の底部がヨーク12の底部22に接触することなく、高音から低音までを良好に発生させることができる。
【0026】
また磁気回路11では、ボイスコイル14の振幅に合わせて接続部24の底部22からの高さを調節し、ボイスコイル14の底部とヨーク12の底部22との距離L3を適切な長さに設定することができる。距離L3を適切な長さに設定することによって、磁気回路11の上下方向に対する余分な厚みを減らすことができ、これによって磁気回路11の小型化および低コスト化などを実現することができる。
【0027】
なお磁気回路11において、ヨーク12は、頂部20と筒部21および底部22とが別体であってもよく、また底部22と接続部23とが別体であってもよい。たとえば、頂部20と、筒部21および底部22と、接続部23とを別体とすることによって、プレスによる打抜き加工や曲げ加工などによって安価にヨーク12を製造することができる。
【0028】
図2は本発明の他の実施例である内磁型の磁気回路11aの構成を示す断面図である。図2において、図1に示す磁気回路11と対応している部分には同一の参照符号を付す。磁気回路11aにおいて特徴とする点は、ヨーク12の接続部23に、ヨーク12の底部22の底面側へ開口する有底の穴25が形成される点である。
【0029】
穴25が形成されることによってヨーク12の外面の表面積を大きくすることができる。これによって、磁気回路11aがスピーカなどに適用されて、大出力の音を継続して発生させた場合でも、ボイスコイル14から発せられる熱を効率良くヨーク12の外部へ放出することができ、ボイスコイル14の過熱を防止することができる。このようにボイスコイル14の過熱が防止されるので、ボイスコイル14の過熱によって生じるボイスコイル12の劣化を防止することができ、磁気回路11aの耐入力性を向上することができる。
【0030】
また磁気回路11aでは、ヨーク12に接続部23内から底部22へ開口する穴25が形成されるので、ヨーク12全体をほぼ均一な厚みにすることができる。したがって、ヨーク12の底部22と接続部23とを一体に加工しようとすると、先の実施例の磁気回路11では、切削加工または鋳造などによって加工する必要があるが、本実施例の磁気回路11aでは、厚みが均一であるので量産に適したプレス加工によっても加工することができる。
【0031】
なお本実施例では、接続部23に形成される穴25を、水平面に平行な面で切断したときの断面形状は、円形であることを想定しているが、円形に限らず星型などの放熱に適した他の形状であってもよい。
【0032】
図3は、本発明のさらに他の実施例である内磁型の磁気回路11bの構成を示す断面図である。図3において、図1に示す磁気回路11と対応する部分には同一の参照符号を付す。磁気回路11bにおいて特徴とする点は、プレート15の上面26が外周部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっている点である。プレート15の上面26を盛上がらせることによって、プレート15の中心部の板厚方向の断面積を増大させることができる。
【0033】
プレート15に用いられる磁性材料などでは、その磁性材料に固有の磁気飽和量によって、永久磁石16からプレート15を介して磁気空隙に向かう磁束密度の大きさは上限が決まっていて中心部が飽和しやすいのであるが、中心部の断面積が拡大されるので、プレート15の中心部でも磁束の飽和を防ぐことができる。これによって、永久磁石16から発せられる磁束を効率良く導くことができる。
【0034】
なお上述の第1〜第3実施例では、磁気回路11,11a,11bがスピーカに適用されることを想定したが、スピーカに限らず、小型で大きな作動幅が要求されるボイスコイルタイプのアクチュエータなどに適用されてもよく、たとえば磁気ディスク記憶装置などの磁気ヘッド移動に用いられてもよい。
【0035】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、プレートおよび永久磁石を外囲して保持するヨークには、ヨークの底部から上方へ突出する接続部が形成される。永久磁石は、プレートと接続部とによって挟持される。したがって、従来ではプレートや永久磁石の厚みを大きくすることによって、ボイスコイルの底部とヨークの底部との間の距離を大きくしていたのであるが、本発明ではプレートおよび永久磁石の厚みを適切な厚みに保ったまま、ボイスコイルの底部とヨークの底部との間の距離を大きくすることができる。
【0036】
ボイスコイルとヨークとの間の距離を大きくすることによって、本発明の磁気回路構造がスピーカなどに適用された場合、発生させる音が高音から低音になるにつれて、ボイスコイルの振幅が大きくなるのであるが、特に低音発生時においてボイスコイルの底部がヨークの底部に衝突するのを防止することができる。これによって小型で高音から低音までを良好に発生することができるスピーカを実現することができる。
【0037】
さらに、接続部のヨークの底部からの高さを調節することによって、ボイスコイルの振幅に合わせてボイスコイルの底部とヨークの底部との間の距離を容易に調節することができる。これによって、磁気回路構造の上下方向に対する余分な厚みを減らすことができ、磁気回路構造の小型化および低コスト化を実現することができる。接続部にはヨークの底面側に開口する有底の穴が形成される。これによって、ヨーク外面の表面積を大きくすることができ、ボイスコイルから発生する熱を効率良くヨーク外部へ放出することができる。したがって、本発明の磁気回路構造がスピーカなどに適用されて、大出力の音が継続的に発生された場合でも、ボイスコイルの過熱を防ぎ、良好な状態で音を発生させることができる。
【0038】
また本発明によれば、プレートの上面が外部から中心部にいくにしたがって盛上がった曲面形状となっているので、プレートの中心部の板厚方向の断面積を増大させることができる。中心部の断面積が拡大されるので、プレートの中心部でも磁束の飽和を防ぎ、永久磁石から発せられる磁束を効率良く導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例である内磁型の磁気回路11の構成を示す断面図である。
【図2】
本発明の他の実施例である内磁型の磁気回路11aの構成を示す断面図である。
【図3】
本発明のさらに他の実施例である内磁型の磁気回路11bの構成を示す断面図である。
【図4】
従来の磁気回路の構成を示す。
【図5】
他の従来の磁気回路の構成を示す。
【符号の説明】
11,11a,11b 磁気回路
12 ヨーク
13 ボビン
14 ボイスコイル
15 プレート
16 永久磁石
23 接続部
24 磁気空隙
25 穴
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-29 
出願番号 特願平6-52146
審決分類 P 1 651・ 113- ZD (H04R)
P 1 651・ 121- ZD (H04R)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 松澤 福三郎  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 橋本 恵一
酒井 朋広
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3308699号(P3308699)
権利者 富士通テン株式会社
発明の名称 磁気回路構造  
代理人 杉山 毅至  
代理人 西教 圭一郎  
代理人 杉山 毅至  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 廣瀬 峰太郎  
代理人 西教 圭一郎  

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