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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03B
管理番号 1091471
異議申立番号 異議2003-70323  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-03 
確定日 2003-11-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3310460号「背面投写型スクリーン」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3310460号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3310460号の発明は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成6年5月19日(優先日:平成5年5月31日、出願番号:特願平5-152923号)の出願であって、平成14年5月24日にその特許の設定登録がなされたものであり、その後、株式会社 ディスクより特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年6月16日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)[訂正の内容]
訂正請求書による訂正事項は次のとおりである。
訂正事項a:
特許請求の範囲の請求項1および特許明細書の段落【0010】において、
「中間領域のライズ角よりも小さ」に続いて、「く、フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大き」を挿入する。
特許明細書の段落【0021】において、
「一般には、」を削除し、「以下とすることが好ましく、」を「以下とすることが必要であり、」と訂正し、「より大きくすることが好ましい。」を「より大きくすることが必要である。」と訂正する。
訂正事項b:
特許請求の範囲の請求項2を
「フレネルレンズの中心領域が背面投射型スクリーンの対角の中心から1/4〜1/3の範囲であり、中間領域がその外側に隣接した領域である請求項1記載の背面投射型スクリーン。」と訂正する。
訂正事項c:
特許請求の範囲の請求項4、5を削除する。
特許明細書の段落【0012】において、
「等の光拡散板」を削除する。
特許明細書の段落【0026】において、
「一方、本発明において、光拡散板については特に制限はなく、種々のレンチキュラーレンズシートや、光拡散性樹脂が分散されているフラット板もしくはフラットシートを使用することができる。例えば、」を削除する。

(2)[訂正の範囲の適否、拡張・変更の存否]
本件訂正事項aの「く、フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大き」を付加することは、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許時の請求項2の記載を組み込んだものである。また、この訂正と整合させるため、明りょうでない記載の釈明を目的として段落【0021】を訂正したものである。
本件訂正事項bの訂正は、削除される請求項4の記載を組み込んだものである。
本件訂正事項cの訂正は、本件訂正事項bの訂正により請求項4を削除し、また特許請求の範囲の減縮を目的として請求項5を削除するものである。さらに、この請求項5の削除に伴い、この訂正と整合させるため、明りょうでない記載の釈明を目的として段落【0012】、【0026】を訂正したものである。
したがって、本件訂正事項a、b、cは特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、本件訂正事項a、b、cは、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。

(3)[結び]
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)[申立ての理由の概要]
特許異議申立人株式会社 ディスクは、下記甲第1、2号証を提出し、請求項1〜5に係る発明は、刊行物1記載の発明と同一であり、特許法第29条第1項3号の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべき旨、また、請求項1〜5に係る発明は、上記刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。
甲第1号証:特開昭62-175087号公報
甲第2号証:特開昭59-101号公報

(2)[本件発明]
本件請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 フレネルレンズとレンチキュラーレンズシートとからなる背面投射型スクリーンにおいて、該フレネルレンズのライズ面とフレネルレンズの法線とのなす角として定義されるライズ角につき、フレネルレンズの中心領域のライズ角が、フレネルレンズの中間領域のライズ角よりも小さく、フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大きいことを特徴とする背面投射型スクリーン。
【請求項2】 フレネルレンズの中心領域が背面投射型スクリーンの対角の中心から1/4〜1/3の範囲であり、中間領域がその外側に隣接した領域である請求項1記載の背面投射型スクリーン。
【請求項3】 フレネルレンズの中心領域から中間領域に至るライズ角が漸増している請求項1又は2記載の背面投射型スクリーン。」

(3)[引用刊行物記載の発明]
刊行物1:特開昭62-175087号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭59-101号公報(甲第2号証)
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物1には、
「第1図は、後方投写テレビジョン装置(PTV)の略図である。3個の画像源、例えば、陰極線管T1,T2及びT3が、夫々、赤色、緑色及び青色の画像を形成する。次に、投写レンズL1,L2及びL3がこれらの画像を拡大し、それらを単一の画像面IPに投写する。角γは、収束角である。投写スクリーンSCをこの面に置き、光を第1図の右側にいる視聴者の方に向ける。スクリーン自体は、「アイ・イー・イー・イー トランザクションズ オン コンシューマー エレクトロニクス」(IEEE Transactions on Consumer Electronics),1985年8月号に載っている論文「ウルトラワイド ビューイング アングル リア プロジェクション テレビジョン スクリーン」(Ultawide Viewing Angle Rear Projection Television Screen)にやや詳しく述べられている。投写スクリーンの一つの要素はフレネルレンズであり、これは光束を視聴者の方に曲げることにより視野レンズとして働く。
本発明は、レンズの中心からの半径方向距離の関数としてのフレネルレンズのライザ角(riser angle)の設計に関するものである。第2図はフレネルレンズの断面を示す。このレンズは平面PSと、いくつかのファセット(facet)を具える第2の面とを有する。各ファセットはファセット面FSとライザ面RSとを有する。レンズのファセット面と平面との間の角αはファセット角(facet angle)と呼ばれる。レンズの中心から外側の縁に向かって、ファセット角は増大する。第2図はまたライザ角ψを示しているが、これはスクリーン又はレンズの基板は法線とフレネルレンズのファセットの立上り面との間の角度である。」(3頁左上欄16行〜左下欄7行)、
「第8a図は、半径方向距離hの関数としてライザ角ψの9通りの可能な関数(A〜I)を示す。ライザ角が何時もφ2′より小さいと、中心投写レンズからの光は全てフレネルレンズを通り抜ける。第8b図は、ライザ角ψを(A〜I)とした場合の効率の損失(LE)をプロットしたものである。損失が最も小さく、それ故、最も効率が高いのは、ライザ角がφ1″とφ3″の平均であるFの場合である。従って、最適なライザ角は、これらの2個の角度の平均である。
製造上の理由で、ライザ角は最小にする(ψmin)必要がある。実際のライザ角の関数を第9図に示す。」(5頁右下欄6行〜最下行から3行目)
が記載されている。
さらに、この刊行物1の第9図の記載から、製造上の理由から定められる最小のライザ角ψminは約4°であると認める。
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物2には、
「本発明は前記光線の全く通過しない△abcに前述の離型時に成形用型から最大の圧力が加わるため△abcの部分を除去すれば離型を容易に行うことができるという点に着目して発明されたもので、第2図に本発明の実施例のフレネルレンズを用いたビデオプロジエクターの中心から一端までの断面図を示す。図において(9)はフレネルレンズ、(10)はフレネルレンズ(9)の非レンズ面、(11)はレンズ面、(12)は投写レンズ、(13)はCRTである。
この時のフレネルレンズ(9)のサイズは対角45”、投写レンズ(12)とフレネルレンズ(9)との間の距離を1mとした場合にはフレネルレンズ(9)最外部への光線の入射角θ1は約80°となる。従つて第2図の実施例においてはフレネルレンズ(9)の最外部の非レンズ面の光軸に対するθ2は約80とすればよくそれより中心に近い非レンズ面の角度は中心に近づくほど80°より少さい値にしていく。
このような形状にすると発生する収縮力は、非レンズ面(10)だけでなくレンズ面(11)にも働いて、この両面に働く力はフレネルレンズ(9)を成形用型から引き離す向きに離形を助けるように働く。
ところでフレネルレンズ(9)の最外部の非レンズ面の角度θ2は、そのつどそのつどのフレネルレンズのサイズとか、投写レンズとフレネルレンズの間の距離等によつて適宜決めることのできる値である。
以上のようにこの発明によれば、フレネルレンズの非レンズ面の光軸に対する角度を入射光のレンズ内での光軸に対する角度に等しくしたので、離型を防害していたレンズの材質の収縮力が離型を助ける向きに働かせることができるという効果がある。」(2頁左上欄7行〜右上欄下から3行目)
が記載されている。

(4)[対比・判断]
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明は、本件発明1が具備する「フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大きい」という構成を具備していない。
また、かかる点は、前記刊行物2に記載も示唆もなされていない。
しかも本件発明1は、刊行物1記載の発明とは課題が異なるものであり、中間領域に生じる黄色及びシアン色の着色と中心領域に生じるカラーコーンと称される着色について、前記数値限定を伴う構成を有することで、明細書記載の「背面投射型スクリーンの中間領域に生じる着色と、中心領域に生じる着色の双方を解消する」といった顕著な効果を奏するものと認められる。
してみると、本件発明1は、刊行物1に記載された発明と同一であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものとも認められない。
したがって、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項のいずれの規定にも違反してなされたものではない。

[本件発明2、3について]
本件発明2、3は、本件発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明2、3は、刊行物1に記載された発明と同一であるとも、また刊行物1、2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明することができたとも認めることはできない。
したがって、本件発明2、3の特許は、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項のいずれの規定にも違反してなされたものではない。

(5)[結び]
したがって、特許異議申立ての理由および証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
背面投写型スクリーン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 フレネルレンズとレンチキュラーレンズシートとからなる背面投射型スクリーンにおいて、該フレネルレンズのライズ面とフレネルレンズの法線とのなす角として定義されるライズ角につき、フレネルレンズの中心領域のライズ角が、フレネルレンズの中間領域のライズ角よりも小さく、フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大きいことを特徴とする背面投射型スクリーン。
【請求項2】 フレネルレンズの中心領域が背面投射型スクリーンの対角の中心から1/4〜1/3の範囲であり、中間領域がその外側に隣接した領域である請求項1記載の背面投射型スクリーン。
【請求項3】 フレネルレンズの中心領域から中間領域に至るライズ角が漸増している請求項1又は2記載の背面投射型スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、透過型プロジェクションテレビジョンに用いられる背面投射型スクリーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
透過型プロジェクションテレビジョン(以下、背面投射型TVと称する)は、CRTや液晶パネル等から光学像を投射レンズにより背面投射型スクリーンに拡大投射し、大画面の映像を得られるようにする映像表示装置である。
【0003】
図7は、このような背面投射型TVの構成例である。同図に示したように、背面投射型TVにおいては、一般に、赤色R、緑色G、青色Bの3原色のCRT1からの光学像が投射レンズ2により拡大され、背面投射型スクリーン3に結像される。ここで、背面投射型スクリーン3は、投射レンズ2から投射される光を観察者の方向に集光するフレネルレンズ4と、フレネルレンズ4からの光を水平方向及び垂直方向に分散させて視野角を広げるレンチキュラーレンズシート等の光拡散板5との2枚1組で構成される。
【0004】
また、このフレネルレンズ4は凸レンズとなっており、図8(同図B)に示すように、凸レンズ(同図(A))のレンズ面を同心円状に分割し、平板上に配置した構造(同図(B))を有している。そのため、フレネルレンズ4のレンズ面上には、凸レンズのレンズ面となるフレネル面4xと、分割されたフレネル面同士の間に形成されるライズ面4yと称される面が存在する。そして、図9に示すように、フレネルレンズ4の平板面とフレネル面4xとのなす角がフレネル角ηと称され、フレネルレンズ4の法線とライズ面4yとのなす角がライズ角θと称される。
【0005】
フレネルレンズの作製は、通常、2P法やプレス法等によって行われ、この場合、金属板等を旋盤で切削して得た金型が使用される。金型の切削は、約30°〜90°の刃先角を有するバイトを用いて行われる。このとき、図12に示すように、バイト6の先端の通った金型7の部分yがフレネルレンズのライズ面となり、バイト6を切り進める方向の切削面xがフレネルレンズのレンズ面となる。フレネル角ηが小さく、フレネル角ηとバイト6の刃先角との和が90°以下となる範囲では、フレネル角ηはバイト6の面の向きによって定まり、ライズ角θはバイト6を切り進める方向によって定まるので、フレネル角ηとライズ角θとはそれぞれ独立的に定まる。これに対して、フレネル角ηが大きくなるとバイト6の刃先の両面によって金型7が切削されるようになり、フレネル角ηの増加に伴いライズ角θも大きくなる。例えば、刃先角50°のバイトを使用する場合に、フレネル角ηが40°を超えるとライズ角θ≧(フレネル角η+刃先角5°)-90°となる。
【0006】
図1は、フレネルレンズの半径とライズ角との関係を示す図である。従来のフレネルレンズは、ケースaのように刃先の切り込み角により定まる一定のライズ角θを有する領域と、フレネル角ηを増加させることに伴ってライズ角θが大きくなった周辺領域とを有している。なお、ケースaのライズ角θが一定の領域において、ライズ角θがほぼ1°となっているのは、金型から成型品を容易に脱型できるようにするためである。
【0007】
ところで、近年、図7に示した背面投射型TVには薄型化が求められており、したがって、投射レンズ2と背面投射型スクリーン5との距離が短くなってきている。この場合、画面の明るさを確保するため、CRT1や投射レンズ2の大きさは変えられていない。したがって、緑色Gを投射する投射系の光軸に対する赤色R及び青色Bの投射系の光軸の角度(以下、集中角と称する)εが大きくなり、そのために観察するスクリーンの位置により色調が異なるというホワイトユニホーミティーの低下の問題が生じていた。例えば、対角40インチで集中角の大きいTVセットの場合、全白信号を入力し、背面投射型スクリーンの正面の約3mの距離から画面を観察すると、図10のように、スクリーンの中心から半径約200〜300mmという中間領域に黄色及びシアン色の着色が観察されるという問題が生じる。
【0008】
また、背面投射型TVに全白信号を入力し、背面投射型スクリーンの正面1.5mの位置で上方約30°から画面を観察すると、図11のように、スクリーンの中心から上方の約150mmという中心領域にカラーコーンと称される着色が観察され、画面の品位が低下するという問題も生じていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、背面投射型スクリーンの中間領域に生じる着色と、中心領域に生じる着色の双方を解消することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、この目的を実現するため、フレネルレンズと光拡散板とからなる背面投射型スクリーンにおいて、該フレネルレンズの中心領域のライズ角が、中間領域のライズ角よりも小さく、フレネルレンズの中心領域のライズ角が3°以下であり、中間領域のライズ角が3°よりも大きいことを特徴とする背面投射型スクリーンを提供する。特に、このような背面投射型スクリーンであって、フレネルレンズの中心領域から中間領域に至るライズ角が漸増しているものを提供する。
【0011】
また、このような背面投射型スクリーンであって、フレネルレンズの中心領域が背面投射型スクリーンの対角の中心から1/4〜1/3の範囲にあり、中間領域がその外側に隣接した領域であるものを提供する。
【0012】
本発明の背面投射型スクリーンは、フレネルレンズと、レンチキュラーレンズシートとからなり、そのフレネルレンズとして、中心領域では、フレネルレンズに入射した光のうちライズ面で全反射された後フレネル面を射出する光が低減するように、ライズ角が小さく定められ、中心領域の外側に隣接した中間領域では、フレネルレンズに入射した光のうちフレネル面を射出後ライズ面に入射する光が低減するように、中心領域に比してライズ角が大きく定められているものを使用することを特徴としている。
【0013】
このようにフレネルレンズのライズ角をフレネルレンズの領域に応じて異ならせるのは以下のような本発明者らの知見に基づくものである。即ち、本発明者らは、従来の背面投射型スクリーンの中心領域と中間領域のそれぞれにおける着色の問題の原因を解析するために、画面サイズ40インチ、スクリーンまでの投射距離730mm、集中角ε11.5°、各投射レンズの射出瞳間の距離140mmの背面投射型TVを例にとり、フレネルレンズに入射した光の光路について詳細に検討した。この場合、フレネルレンズとしては、焦点距離が中心で660m、最外周で730mm、中心から最外周の間で徐々に増加し、ライズ角が図1のケースaのように変化するものを使用した。この結果を図2〜6に示す。
【0014】
図2は、フレネルレンズ内部において、赤色R、緑色G、青色Bの各色の光線がフレネルレンズの法線となす角度(フレネルレンズ内光線角度)を、フレネルレンズの中心からの距離に対して表したものである。図中、角度の+は収束方向を示し、-は発散方向を示している。また、破線は、図1のケースaのライズ角を示している。
【0015】
また、図3は、フレネルレンズから出射した、赤色R、緑色G、青色Bの各色の光線がフレネルレンズの法線となす角度(フレネルレンズからの出射光線角度)を、フレネルレンズの中心からの距離に対して表したものである。この図においても、破線は、図1のケースaのライズ角を示している。同図から、青色B光のみがフレネルレンズの全領域において発散方向に出射していることがわかる。
【0016】
図4は、フレネルレンズ4の半径50mmの位置における、赤色R、緑色G、青色Bの各色の光線の光路を示したものである。同図から、B光線は、斜線で示した区域の光線がフレネル面4xから射出した後、ライズ面4yに当たっていることがわかる(以下、この現象を現象Aと称する)。また、R光線は、斜線で示した区域の光線がフレネルレンズを射出する前にライズ面4yに当たっていることがわかる(以下、この現象を現象Bと称する)。
【0017】
現象A及び現象Bについて詳細に検討するために、フレネルレンズの半径25mm及び半径250mmの位置における光路追跡を行った。その結果を図5(半径25mm)及び図6(半径250mm)に示す。
【0018】
図5から、フレネルレンズ4の半径25mmの位置では、R光線が、フレネルレンズを射出する前にライズ面4yに当たるというB現象を示しており、ライズ面4yに当たった後全反射し、フレネル面4xを4°の角度で発散方向に射出していることがわかる。図示していないが、半径25mmの左右対象の位置では、B光線が同様にB現象を示し、発散方向に射出する。このようにフレネルレンズの中心領域において、発散方向に射出する光線が存在することがカラーコーンの原因であると考えられる。なお、図5においてB光線は、フレネル面4xから射出した後、ライズ面yに当たるというA現象を示しているが、ライズ面4yからフレネルレンズ内に入射した後、フレネル面4xで全反射している。したがって、このB光線は画像上に悪影響を及ぼすことはないと考えられる。
【0019】
また、図6から、フレネルレンズ4の半径250mmの位置では、R光線は、フレネルレンズを射出する前にライズ面4yに当たるB現象は示していないが、B光線は、フレネル面4xから射出した後、ライズ面4yに当たるというA現象を示しており、ライズ面4yに当たった後フレネルレンズ内に入射し、フレネル面4xを53°の発散方向に出射している。しかもこのようにA現象を示すB光線の割合は相当に増加している。この結果、フレネルレンズを射出してスクリーン上に投射されるべき光線のうち、相当量のB光線が欠けることとなり、画面が白色から黄色方向へシフトすることとなる。このようにして生じる色のシフトが、スクリーンの中心から半径約200〜300mmの中間領域に生じる着色であると考えられる。
【0020】
以上のように、本発明者らはスクリーンの中心領域に生じる着色は、フレネルレンズを射出する前にライズ面に当たるというB現象が原因であり、スクリーンの中間領域に生じる着色は、フレネル面から射出した後、ライズ面に当たるというA現象が原因であることを知見した。そこで、本発明においては、フレネルレンズの中心領域においては、フレネルレンズに入射した光のうち、フレネルレンズを射出する前にライズ面に当たり、そのライズ面で全反射され、フレネル面を発散方向に射出する光が低減するように、フレネルレンズのライズ角θを小さくする。また、フレネルレンズの中間領域においては、フレネルレンズに入射した光のうち、フレネル面から射出後ライズ面に入射し、フレネル面を発散方向に再度射出する光が低減するように、フレネルレンズのライズ角θを中心領域に比して大きくする。
【0021】
このようにフレネルレンズの領域に応じて定められるライズ角の大きさは、投射距離、各投射レンズ間の距離、フレネルレンズの屈折率、フレネルレンズの焦点距離等にもよるが、フレネルレンズの中心領域では3°以下とすることが必要であり、中間領域では3°より大きくすることが必要である。例えば、本発明で使用するフレネルレンズは、図1にケースcとして示したように、その中心領域ではライズ角が2°以下であり、その外側の領域ではライズ角が4°以上のものである。これに対して、前述のケースaに示したように、中心領域及び中間領域においてライズ角を約1°の一定値とすると、スクリーンの中間領域に上述の現象Aに基づく着色が生じ易くなる。また、図1にケースbとして示したように、中心領域及び中間領域においてライズ角を5°程度の一定値とすると、スクリーンの中心領域に上述の現象Bに基づく着色が生じ易くなる。
【0022】
本発明において、フレネルレンズのライズ角をフレネルレンズの中心領域とその外側に隣接した中間領域とで異ならせるに際し、ライズ角を不連続的に変化させるか、あるいは連続的に変化させるか等の変化態様に特に制限はない。図1にケースcとして示したように、中心領域と中間領域とでライズ角を不連続的に変えてもよく、ケースdに示したように、中心領域と中間領域ではそれぞれ一定のライズ角とし、双方の境界部でライズ角を徐々に変化させてもよく、また、同図ケースeに示したように中心から中間領域の全ての領域で徐々に変化させてもよい。一般には、ケースd又はケースeに示したように、ライズ角を徐々に変化させる方が好ましい。これにより、外光反射光が不連続的に見えることを防止できる。特に、背面投射型スクリーンに写し出される映像が暗い場合に、画面の均一性を向上させることができるので好ましい。
【0023】
なお、図1のケースaに示した従来のフレネルレンズにおいても、半径275mmより外側の周辺領域の方が中心領域よりもライズ角が大きいが、本発明で使用するフレネルレンズは、周辺領域よりも内側であって、中心領域の外側に隣接した中間領域のライズ角を中心領域のライズ角と異ならせる点で従来のフレネルレンズと明確に区別される。
【0024】
また、フレネルレンズにおける中心領域、中間領域及び周辺領域は、次のように区別される。即ち、中心領域は、フレネルレンズ内のR、G、Bの各光線について、フレネルレンズ内光線角度が収束方向となるものが存在する半径領域をいう。例えば、図2では中心からの距離が約140mm以内の領域でR光線が収束方向となっているので、中心から半径約140mmの領域が中心領域となる。このように定義される中心領域は、一般には、背面投射型スクリーンの対角の1/4〜1/3よりも内側である。よって、一般には、対角の1/4〜1/3よりも内側部分のライズ角を3°以下とすればよい。
【0025】
中間領域は中心領域の外側に隣接した領域であって、かつ図1のケースaのように、中心領域とその外側に隣接した領域のライズ角を一定とした場合に、フレネルレンズから出射したR、G、Bの各光線のうち、ライズ面に入射する光線が存在する半径領域を言う。例えば、図3では、中心からの距離が約380mmの位置でB光線が破線(ライズ角)と交差しているから、これより内側の領域ではB光線はフレネルレンズを出射した後ライズ面に入射することがわかる。したがって、半径約140mmよりも外側でかつ半径380mm以内の領域が中間領域となる。また、周辺領域は、このように定義される中間領域の外側となる。
【0026】
レンチキュラーレンズシートとしては、一つの樹脂層の入射側面と出射側面にそれぞれレンズが形成されている単層のレンズシートや、入射側と出射側が別個の樹脂層で形成されている複層のレンズシートのいずれも使用することができる。これらのレンズシートには光拡散性粒子が分散されていてもよく、また出射側面に光吸収層が設けられていてもよい。
【0027】
【実施例】
ついで実施例により本発明を具体的に説明する。
【0028】
実施例1投射距離が850mm、集中角が10°の背面投射型TVに使用する背面投射型スクリーン用のフレネルレンズとして、焦点距離が中心から最外周に向かって780〜820mmである50インチサイズのフレネルレンズを作製した。この場合、フレネルレンズのライズ角は図1のケースdの分布を有するようにし、中心領域のライズ角を1°、中間領域のライズ角を5°とし、半径150〜175mmの範囲にある境界部ではライズ角が徐々に変化するようにした。
【0029】
このフレネルレンズと、ピークゲイン8.5のレンチキュラーレンズシートとを組み合わせて背面投射型スクリーンとし、TVセットに取り付け、全白信号を入力した。そのときの画像をスクリーンの正面3mの位置から観察したところ、図10に示したような着色は認められなかった。また、スクリーンの正面1.5mの位置の上方30°から画像を観察したところ、図11に示したようなカラーコーンもほとんど認められなかった。
【0030】
比較例1、比較例2フレネルレンズの作製にあたり、ライズ角の分布を図1のケースaのように中心領域及び中間領域のライズ角を1°とするか(比較例1)、又はケースbのように中心領域及び中間領域のライズ角を5°とし(比較例2)、その他は実施例1と同様にして背面投射型スクリーンを構成し、TVセットに取り付け、全白信号を入力した。そしてそのときの画像をスクリーンの正面3mの位置から観察した。その結果、比較例1の背面投射型スクリーンを使用した画面には、スクリーンの中心から半径200〜350mmの位置に黄色及びシアン色の着色が認められた。このような着色は比較例2の背面投射型スクリーンを使用した画面には認められなかった。また、スクリーンの正面1.5mの位置の上方30°から画像を観察したところ、比較例1の背面投射型スクリーンを使用した画面にはカラーコーンによる着色はほとんど認められなかったが、比較例2の背面投射型スクリーンを使用した画面にはスクリーンの中心から半径150mmの範囲内に青色及び赤色の強いカラーコーンの着色が認められた。
【0031】
【発明の効果】
フレネルレンズのライズ角を中心部と中間部で変えることにより、均一で高品位な画像を表示するスクリーンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明及び従来の背面投射型スクリーンにおけるフレネルレンズの半径とライズ角θとの関係図である。
【図2】
フレネルレンズ内部での光線の角度を、フレネルレンズの中心からの距離に対して表した図である。
【図3】
フレネルレンズから出射した光線の角度を、フレネルレンズの中心からの距離に対して表したものである。
【図4】
フレネルレンズの半径50mmの位置における光路図である。
【図5】
フレネルレンズの半径25mmの位置における光路図である。
【図6】
フレネルレンズの半径250mmの位置における光路図である。
【図7】
背面投射型スクリーンを使用した背面投射型TVの一般的な概略構成図である。
【図8】
フレネルレンズの断面図である。
【図9】
フレネルレンズの部分拡大断面図である。
【図10】
従来の背面投射型スクリーンの中間領域の着色状態の説明図である。
【図11】
従来の背面投射型スクリーンの中心領域の着色状態の説明図である。
【図12】
フレネルレンズ作製するための金型の切削方法の説明図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-29 
出願番号 特願平6-129546
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G03B)
P 1 651・ 113- YA (G03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 青木 和夫
柏崎 正男
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3310460号(P3310460)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 背面投写型スクリーン  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 菅井 英雄  
代理人 米澤 明  
代理人 内田 亘彦  
代理人 韮澤 弘  
代理人 白井 博樹  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 青木 健二  

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