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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  B23K
管理番号 1091533
異議申立番号 異議2003-71405  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-26 
確定日 2004-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3351139号「低合金高張力鋼の溶接方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3351139号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3351139号の請求項1乃至2に係る発明は、平成6年12月8日に特許出願され、平成14年9月20日にその発明について特許権の設定登録がなされた後、請求項1に係る特許について平成15年5月26日に特許異議申立人JFEスチール株式会社より特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議申立てについて
(1)本件発明
本件特許第3351139号の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、設定登録時の願書に添付した明細書(以下、本件特許明細書という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたの次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 重量割合にて、Ti: 0.003〜0.06%およびsol.Al: 0.001〜 0.015%を含む低合金高張力鋼を、高エネルギー密度ビームの照射により溶接する際、溶接部分を分圧10Pa〜40kPaの酸素を含み残部は不活性ガスからなる雰囲気でシールドすることを特徴とする低合金高張力鋼の溶接方法。」

(2)申立の理由の概要
特許異議申立人は、本件の出願日前の出願に係る甲第1号証(特願平6-280582号の願書に最初に添付された明細書[特開平8-141763号公報])を提示し、本件発明は、甲第1号証に記載された発明(以下、甲1号証記載の発明という。)と同一であり、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(3)甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、下記の発明が記載されている。
「 重量割合にて、Ti:0.01〜0.50%を含み、成分組成において、下記式(1) であらわされるPcm 値が0.05〜0.20wt%の範囲にある鋼を、高エネルギー密度ビームの照射により溶接する際、溶接部分を1〜10%の酸素を含み残部はArガス、あるいは1〜10%の酸素を含み残部はHeガスからなる雰囲気でシールドする鋼の溶接方法。
〔記〕
Pcm wt%=C wt%+Siwt%/30+Mnwt%/20+Crwt%/20+Niwt%/60+Mowt%/15+V wt%/10+5Bwt%+Cuwt%/20 ‥‥ (1)」

(4)対比
本件発明と甲第1号証記載の発明とは下記の点で相違する。
相違点1
本件発明は、鋼が含む成分として、重量割合にて、Ti: 0.003〜0.06%およびsol.Al: 0.001〜 0.015%を含み、溶接部分を分圧10Pa〜40kPaの酸素を含み残部は不活性ガスからなる雰囲気でシールドするのに対し、甲第1号証記載の発明においては、重量割合にて、Ti:0.01〜0.50%を含むもののAl成分を含んでおらず、また、雰囲気中に酸素を含むものの、その分圧の値については特定されていない点。
相違点2
本件発明は、鋼が「低合金高張力鋼」であるのに対し、甲第1号証記載の発明においては、鋼の種類について明らかでない点。

(5)当審の判断
上記相違点1について検討するに、本件発明においては、溶接金属部分でsol.Alをほとんどすべて酸化させてしまうことを狙いとしており(本件特許明細書記載段落【0025】)、溶接金属中の組織を微細化し低温靱性を向上させるための成分であるTiの酸化物がsol.Alに容易に還元されてしまうところ(同【0009】)、sol.Alの含有量を特定の値とし、溶接部分の雰囲気の酸素分圧を特定の値とすることにより、溶接金属のなかに、Alの酸化物が増し清浄度が低下して靱性が劣化するのを防止し、且つ、Tiの酸化物が過剰に還元されるのを防止しているのである(同【0025】、【0026】、【0040】)。これらのことからみれば、本件発明は、Tiと共にsol.Alが特定の値含まれること、及び溶接部分の酸素分圧を特定の値とすることによって本件特許明細書記載段落【0013】乃至【0015】及び【0060】記載の作用効果が得られるのである。
異議申立人は異議申立書にて、甲第1号証記載の発明は鋼にAlを含有していないことについて、参考資料1(特開平8-155659号公報)、参考資料2(特開平5-39540号公報)、及び、参考資料3(特開平5-39538号公報)を提示し、鋼材にAlを添加して脱酸効果を高めることは本件発明の出願当時には広く知られていた旨主張している。
これら参考資料1乃至3について検討するに、参考資料1は本件の特許出願日前に公知の文献でない。また参考資料2記載のものは、鋼の成分としてAlを含むものの、Tiは含有していない。よって、これら参考資料1乃至2は、上記相違点1を検討するに当たっての証拠として採用することはできない。
参考資料3記載のものは、鋼の成分としてTi及びAlを含んでいるが、溶接部分の雰囲気について記載されていないこと、及び、「Alは電子ビーム溶接部靱性向上のために、重要な元素で無添加にすることにより、・・・靱性が大幅に向上する。0.004%を超えて添加するとこの効果が減少するため、上限を0.004%とする。」(参考資料3の公報第3頁右欄第8乃至12行)と記載されていることからみて、溶接金属部分においてsol.Alをほとんどすべて酸化させるという本件発明の技術思想を欠いている。なお、異議申立人は、同参考資料3の表1Aに開示されているように、鋼には、通常、0.001〜0.003wt%のAlは含まれているものである旨主張しているが、同参考資料3全体を参酌しても、同表1Aに開示されている鋼の成分のAlが、通常、鋼に含まれているものであるか否かはについては不明である。してみれば、参考資料3記載の、鋼の添加成分としてTi及びAlを含むものが周知であったとしても、そのことのみをもってして、Alを含まない甲第1号証記載の発明が、sol.Alを特定量含む鋼を特定の値の分圧の酸素を含む雰囲気で溶接するものであるとすることはできない。
このように、相違点1について、甲第1号証に記載されているとすることはできない以上、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は甲第1号証記載の発明と同一であるとすることはできない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-07 
出願番号 特願平6-304880
審決分類 P 1 652・ 161- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 上原 徹
鈴木 孝幸
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3351139号(P3351139)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 低合金高張力鋼の溶接方法  
代理人 小林 英一  

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