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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 A01N 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A01N 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01N |
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管理番号 | 1091557 |
異議申立番号 | 異議2003-72071 |
総通号数 | 51 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-06-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-13 |
確定日 | 2004-02-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3377873号「植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3377873号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3377873号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成6年12月5日に特許出願がされ、平成14年12月6日に、その発明について特許権の設定登録がなされたところ、平成15年8月13日に、全請求項に係る発明の特許について、伊藤廣美(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。 2.本件特許 特許第3377873号の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものである。 【請求項1】植物栽培において、生育期間中にアミノ酸発酵液を投与することを特徴とする植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法。 【請求項2】散布時のアミノ酸発酵液中のアミノ酸の合計濃度が5〜200ppmである請求項1記載の植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法。 【請求項3】アミノ酸発酵液が、糖類、尿素および/またはアンモニウム塩および酵母エキスを含む原料溶液をアミノ酸発酵して得られたものである請求項1または2記載の植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法。 3.申立ての理由の概要 異議申立人は、証拠方法として下記の甲第1〜5号証を提示して、以下の(1)〜(3)の取消理由を主張する。 (1)本件発明1〜3に係る特許は、その出願前の出願であって、その出願日後に出願公開された甲第1号証で特定される特願平6-292492号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)本件発明1〜3に係る特許は、その出願の日前に頒布された甲第2〜5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)本件明細書の記載には不備があり,本件特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 提示された甲各号証: 甲第1号証:特開平08-151304号公報、 甲第2号証:船山富晴編,「土壌汚染問題と土壌改良剤・土壌微生物の有効 利用」,有限会社研修社・工業技術会株式会社,1992年9月20日, p.176-186、 甲第3号証:高倍鉄子,“塩ストレスによる遺伝子発現-浸透圧調節機構の 分子生物学-”,植物細胞工学,1991,Vol.3,No.7, p.639-643、 甲第4号証:Kent F. McCue, et al.,“Drought and salt tolerance: towards understanding and application”,Trends in Biochem technology,1990,Vol.8,p.358-362、 甲第5号証:村松安男著,「高品質・高糖度のトマトつくり-低水分管理の しくみと実際」,第3刷,社団法人 農山漁村文化協会,1994年4月 30日,p.81〜85 4.甲各号証の記載 4-1.甲第1号証: a.「5-アミノレブリン酸、その誘導体及びそれらの塩、並びにヘミン類から選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分とする植物の耐塩性向上剤。」(【請求項1】)及び「5-アミノレブリン酸、その誘導体及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする植物の耐塩性向上剤。」(【請求項2】) b.「本発明は、高塩度条件下においても植物の育成を可能にする植物の耐塩性向上剤に関する。」(段落【0001】) c.「次に、本発明の植物の耐塩性向上剤を用い、高塩度条件下で植物を栽培する方法について説明する。」(段落【0027】)、「本発明の耐塩性向上剤の植物に対する適用方法としては、植物が有効成分を吸収できるならばどのような処理方法を用いてもよく、例えば茎葉に散布する茎葉処理、土壌に散布する土壌処理、水耕栽培時などに水などの培地に溶解又は懸濁して根から吸収させる水耕処理等が挙げられる。また、植物を植え付けたり、挿し木等する前に吸収させてもよい。」(段落【0032】)、「上記のいずれの処理に関しても、植物の生育のどの段階で行っても効果を得ることができる。」(段落【0035】) d.「実施例1及び比較例1〜11 内径12cmの排水穴のない磁器製ポットに畑土壌を600g充填し、ワタの種子(品種;M-5 Acala)を7〜8粒播種して1cm覆土し、温室内で育成させた。その後通常の管理を行い、子葉展開時に、表1及び表2に示す濃度の供試化合物と展着剤(ネオエステリン:クミアイ化学社製)を0.05%(V/V)含有する耐塩性向上剤を調製し、10アール当たり100リットルの散布水量で茎葉に散布処理した。各々の供試化合物は通常の使用濃度などを参考に最適濃度を適宜選択した。4日後、表1及び表2に示すように土壌重量当たり0〜1.5重量%に相当する量の塩化ナトリウムを30mlの水に溶解させて土壌に滴下処理した。更に通常の栽培を続け、23日後に調査を行った。調査は目視観察によって行い、結果は塩害を以下に示す6段階で評価した。結果を表1及び表2に示す。」(段落【0043】) 4-2.甲第2〜5号証: 甲第2号証: e.「一方,アミノ酸発酵の生産工程で発生するアミノ酸含有副生物を肥料や土壌改良資材の配合原料として活用することが開発された。アミノ酸の大手メーカーである味の素(株)では,既に戦前より,グルタミン酸ソーダ(MSG)製造時の副生物の肥料化を企業化している。このことは,アミノ酸生産の原料となる大豆や小麦の大半を,また有機質肥料の大豆粕やなたね粕を数十万屯輸入に頼らざるを得ない少資源国わが国の実状では,今日の環境問題の対策というよりは,原料を全部利用しつくすことや,代替品として充分役立つ点では,時宜を得た合理的な開発技術なのである。その後,発酵技術の有力メーカーの協和発酵(株)などが肥料化を推進し,アミノ酸発酵の副生物が発生する場で,活性汚泥など他の副生物や,肥料成分を補足する化学肥料と配合粒状化する化成肥料や,他の肥料メーカーへの有機質肥料原料としての供給などにより,副生物は有効利用されてきた。」(176頁11〜21行) f.「アミノ酸(グルタミン酸,リジンなど)発酵工業で発生する副生物は,濃縮または乾燥することにより,肥料取締法の規格での,窒素と加里を含む液状複合肥料と副産複合肥料の範疇に入る肥料が得られる。そしてアミノ酸関係の副生肥料は,表1の7種類に分類される。」(177頁5〜8行)、 g.「表1 アミノ酸発酵副生肥料の分類 グリシン グルタミン酸ナトリウム グルタミン発酵残液 アミノ酸液 アミノ酸含有液 脱硫安リジン発酵液 副産有機質原料」(第177頁、表1) 甲第3号証: h.「塩ストレスを受けた細胞は不可避的に塩の流入が起こるため,細胞内の塩濃度が上昇する.高濃度の塩は多くの酵素反応を阻害するため,そのほとんどは液胞内に取り込まれる.一方,代謝の場として重要な細胞質や葉緑体などでは,阻害効果のない適合溶質を蓄積し,浸透圧の調節を行う.植物の適合溶質には各種の糖ならびにアミノ酸のプロリンや4級アンモニウム化合物のグリシンベタイン(ベタイン)などがあり,植物種によって主要に蓄積する適合溶質は異なる.特にベタインとプロリンはアカザ科,ナス科,イネ科などのいくつかの作物の浸透圧調節に関与していることが知られている.そこで,ベタインとプロリンの合成に関与する酵素とその遺伝子について述べる.」(第639頁 「I.塩ストレスによる適合溶質(compatible solute)合成系の誘導」の欄、左欄第14行〜右欄第9行) 甲第4号証: i.「植物体内の浸透作用防御剤 遺伝子工学者にとって、どんな種類の生化学的ストレス耐性特性が十分に明確化されているであろうか?ここに我々は、乾燥ストレスと塩ストレスの生理機構の背景について、グリシンベタインの蓄積から提示する。乾燥環境又は塩環境に置かれたすべての生体にとっての問題は、含水量を保つことである。含水量の保持は、溶質の蓄積によって達成され、その蓄積は、溶質の潜在能力を下げるものである。細胞質に蓄積した溶質は、代謝過程において無毒(相性が良い)で、つまり高濃度の蓄積でも蛋白質構造や機能を阻害するものではない。」(左下欄第13〜31行、異議申立人の部分和訳参照)。 甲第5号証: j.「(6)細根、根毛はアミノ酸をとり込む・・・皮層細胞のくびれ込みで有機態の養分をとり込むことが明らかにされている。・・・コモチカンランでも、根から吸収され導管に入った液中には、硝酸態チッソよりグルタミンがはるかに多いことを示している。・・・ここで大事なことは、硝酸イオンは体内で必ずアンモニアを経由してアミノ酸に変えなければならないが、アミノ酸でとり込めば、その経路が省略されることである。・・・アミノ酸を吸収した場合はその必要がなく、大変な「省エネ」となる。」(81頁2行〜82頁9行参照)。 5.対比・判断 5-1.取消理由(1)(特許法第29条の2)について 先願明細書に記載された発明(以下、「先願発明」という。)について検討するに、先願明細書は甲第1号証に相当するものであるから、先願発明は甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)である。 したがって、以下、本件発明1〜3と甲1発明とを比較する。 甲1発明は、前記4-1のa〜dの記載からみて、「植物栽培において、生育期間中に5-アミノレブリン酸、その誘導体及びそれらの塩、並びにヘミン類から選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分とする植物の耐塩性向上剤を適用し、植物の耐塩性を向上する方法。」を内容とするものであると解され、本件発明1〜3と同様に「植物栽培において、生育期間中にアミノ酸成分を投与することを特徴とする植物の耐塩性を増加させる方法。」を内容とするものであるということができる。 しかし、植物の耐塩性を向上するために投与する成分についてみると、本件発明1〜3は、「アミノ酸発酵液」であるのに対し、甲1発明は「5-アミノレブリン酸、その誘導体及びそれらの塩、並びにヘミン類から選ばれる1種又は2種以上の化合物」である点で相違する。 ところで、本件発明1〜3における「アミノ酸発酵液」は、アミノ酸以外に、発酵原料の残留物やアミノ酸発酵代謝産物等の成分をも含むものであり(本件発明2及び3は、いずれも本件発明1を引用する発明であるから、本件発明1と同様の構成を有する。)、アミノ酸以外の発酵原料の残留物やアミノ酸発酵代謝産物等の成分が耐塩性の向上に有効に機能することは、本件明細書の以下の記載から明かである。 すなわち、本件明細書の段落番号0028には、「本発明ではアミノ酸発酵液であればそのアミノ酸の種類は問わないが、特に主成分がプロリンであるものが一般的である。プロリンは植物細胞内の浸透圧調節物質としての役割を果たしているため、投与によるプロリンの細胞内での蓄積が植物に効果を発揮するものと考えられるが、実施例にあるようにプロリンその他のアミノ酸の実用濃度での施用では顕著な効果は認められない。」と記載され、段落番号0029には、「本発明の効果は、アミノ酸の作用はもちろんのこと、発酵原料の残留物及びアミノ酸発酵代謝産物の総合的な作用によるところが大きいものと推察される。」と記載され、さらに、段落番号0034〜0058に、アミノ酸発酵液を投与した場合とアミノ酸のみを投与した場合とが具体的に示されており、前者が後者に較べて優れていることが具体的に示されている。 これに対して、甲1発明は、植物の耐塩性を向上するために投与する成分について、甲第1号証の段落番号0011に「全く意外にも植物成長促進剤として知られる5-アミノレブリン酸(以下、「5-ALA」と略すこともある。)、その誘導体及びそれらの塩、ならびにヘミン類から選ばれる1種又は2種以上を用いれば、植物の耐塩性を向上させる効果が得られることを見出し、本発明を完成した。」と記載され、随所に「5-アミノレブリン酸、その誘導体及びそれらの塩、並びにヘミン類から選ばれる1種又は2種以上の化合物」を適用することが明示されているものの、本件発明1〜3のような、発酵原料の残留物やアミノ酸発酵代謝産物等の成分をも含む「アミノ酸発酵液」を用いることを示す記載はない。 してみると、本件発明1〜3は、甲1発明と同一であるとすることができず、したがって、前記先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。 よって、本件発明1〜3の特許が特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとすることはできない。 なお、甲第1号証の段落番号0014の「5-アミノレブリン酸及びその塩は公知の化合物であり、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの方法によっても製造することができる。微生物又は酵素による生産を用いる場合、その生産物は、植物に対して有害な物質を含まない限り分離精製することなく、そのまま用いることができる。」との記載は、「植物に対して有害な物質を含まない限り」という前提のもとに「分離精製することなく、そのまま用いることができる。」としているにすぎず、甲第1号証の全体をみても、分離精製しない生産物が植物に対して有害な物質を含まない場合を具体的に示す記載はないから、甲第1号証の前記記載が「アミノ酸発酵液」を用いることを示しているとすることはできない。 5-2.取消理由(2)(特許法第29条第2項)について 甲第2号証には、前記した4-2のe〜gからみて、アミノ酸含有副生物を、肥料や土壌改良資材の配合原料として活用することが記載され、アミノ酸成分以外のアミノ酸発酵液成分をも植物に投与することが記載されていると解されるものの、「植物の耐乾燥性または耐塩性」について言及するところはなく、アミノ酸成分以外のアミノ酸発酵液成分が、アミノ酸と併用した場合、植物の耐乾燥性または耐塩性に対してどのような影響を与えるかについて示すところはないから、甲第2号証に、本件発明1〜3の「植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法においてアミノ酸とそれ以外のアミノ酸発酵液成分を使用する」という内容の構成(以下、「本件発明の構成A」という。)が当業者に容易に想到できる程度に記載されているとすることはできない。 また、甲第3〜5号証には、アミノ酸そのものが植物に取り込まれることや、耐乾燥性や耐塩性の向上に関与することが示されているものの、アミノ酸成分以外のアミノ酸発酵液成分をアミノ酸とともに植物に投与することや、当該成分を植物に投与したときに耐乾燥性や耐塩性がどのように変化するかについて言及するところがないので、甲第3〜5号証にも、前記した本件発明の構成Aが当業者に容易に想到できる程度に記載されているとすることはできない。 してみると、本件発明1〜3の構成が甲第2〜5号証に記載された発明から当業者に容易に想到できたものであるとすることはできない。 そして、本願発明1〜3は、前記した本件発明の構成Aを採用することにより、上記5-1で述べたように、アミノ酸を単独に投与する場合に比して、植物の耐乾燥性および耐塩性をより向上させることができるという、甲第2〜5号証からは予期し得ない、明細書記載の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1〜3は、甲第2〜5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 よって、本件発明1〜3の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 5-3.取消理由(3)(特許法第36条第4項)について 取消理由(3)は、「本件特許明細書は、効果が確認されているアミノ酸の種類が極端に少なく、かつすべてのアミノ酸発酵液が上記効果を奏することに強い疑念がある以上、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載されいているとは言い難い。」との主張に基づくものである。 しかし、本件明細書には、上記5-1で示したように、本件発明1〜3の構成により、植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させるという点で予期し得ない効果を奏することについて、段落番号0028及び0029、さらには、実施例の項の記載により、当業者に理解できる程度に記載されている。 したがって、前記主張をみても、本件明細書の記載が特許法第36条第4項の規定を満足しないとすることはできない。 なお、異議申立人は、前記「強い疑念がある」とする根拠として甲第5号証の記載を挙げているが、甲第5号証は各種アミノ酸そのものの植物の生育への影響について述べたものにすぎず、アミノ酸発酵液の植物に対する耐乾燥性または耐塩性への影響に係る本件明細書の記載に疑念をもたらすものではない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および証拠によっては、本件発明1〜3に係る特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。 また、他に本件発明1〜3に係る特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとする理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-01-14 |
出願番号 | 特願平6-300610 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
Y
(A01N)
P 1 651・ 121- Y (A01N) P 1 651・ 531- Y (A01N) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
雨宮 弘治 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 関 美祝 |
登録日 | 2002-12-06 |
登録番号 | 特許第3377873号(P3377873) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 植物の耐乾燥性または耐塩性を増加させる方法 |