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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) E04G
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04G
管理番号 1092158
審判番号 無効2002-35245  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-06-11 
確定日 2004-02-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2838511号発明「コンクリート埋設物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2838511号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯

本件特許第2838511号「コンクリート埋設物」は、昭和59年1月17日に出願された特願昭59-6833号(以下、「親出願」という。)の特許出願の一部を平成1年11月24日に特願平1-306218号(以下、「子出願」という。)として分割し、該分割出願の一部を平成5年10月29日に特願平5-271610号(以下、「孫出願」という。)として分割し、該分割出願の一部を平成7年7月10日に特願平7-173552号(以下、「曽孫出願」という。)として分割し、該分割出願の一部を平成8年4月8日に特願平8-85107号(以下、「玄孫出願」という。)として分割した特許出願に係り、平成10年10月16日に発明の数2として設定登録され、平成14年6月11日に無効審判が請求され、平成14年9月3日に被請求人より審判事件答弁書が提出され、さらに平成14年9月18日及び平成14年9月26日に被請求人より上申書が提出され、平成14年12月9日に請求人より弁駁書が提出された。
なお、本件特許第2838511号については、別途平成12年11月1日に無効審判が請求(無効2000-35604号)され、平成13年2月19日付けで訂正請求がなされ、平成13年8月31日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、この審決は平成13年10月15日確定した。また、平成13年10月26日に無効審判が請求(無効2001-35479号)され、これは現在中止中である。

2 本件発明

本件特許については上記のように、無効2000-35604号事件において、平成13年2月19日付けでなされた訂正請求を認めた審決がなされたが、特許請求の範囲の訂正はなされていないから、本件特許の発明は当該訂正請求前の明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりの次のものと認められる。
「1.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。
2.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。」
(以下、請求項1、2に係る発明を「本件発明1、2」という。)

3 請求人の主張の概要

請求人は、審判請求書及び弁駁書において以下の証拠を提出して、本件特許の請求項1及び2に係る発明を無効とする審決を求め、無効理由として次のように主張する。
本件特許出願(特願平8-85107号)(玄孫出願)は、曽孫出願(特願平7-173552号)を原出願として分割出願されたものであり、曽孫出願は孫出願(特願平5-271610号)を原出願として分割出願されたものであり、孫出願は子出願(特願平1-306218号)を原出願として分割出願されたものであり、子出願は親出願(特願昭59-6833号)を原出願として分割出願されたものであるところ、この子出願の出願日は親出願(特願昭59-6833号)の出願日まで遡及しないことが確定した(子出願の特許第2562698号に対する審判請求事件(無効2000-35610号)において、子出願は親出願から適法に分割されたものではなく、したがって子出願の出願日は親出願の出願日の昭和59年1月17日ではなく、平成5年10月29日となることを根拠に、無効とする旨の審決が平成13年8月31日付けでなされ、この審決は確定した。)。また、子出願は、平成5年10月29日付け手続補正書による補正後の発明は、出願当初の明細書又は図面の記載の範囲内の事項を超えるものであるから、手続補正書が提出された平成5年10月29日に出願されたものとみなされ、本件特許出願(玄孫出願)の出願日は、その後の分割出願が仮に適法なものであったとしても、子出願の出願日である平成5年10月29日までしか遡及することができず、親出願の出願日まで遡及できるものではない。
したがって、本件特許発明は、その出願前に公知である甲第1号証(親出願の公開公報(特開昭60-152747号公報:公開日昭和60年8月12日))に記載された発明、または甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易にできた発明であるから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開昭60-152747号公報(親の公開公報)
甲第2号証:特許第2562698号公報(子出願の特許公報)
甲第3号証:無効2000-35610号の審決(子出願の特許の審決)
甲第4号証:無効2000-35610号の基本情報及び審判情報
甲第5号証:一般審査基準「出願の分割」(1)-16-15頁、特許庁編、改訂(昭和58年5月)
甲第6号証:特許庁の審査基準「第V部 特殊な出願」8〜9頁、平成6.12

4 被請求人の主張の概要

被請求人は、以下の証拠を提出して、本件無効審判請求は成り立たないとの審決を求め、次のように主張する。
(ア)請求人主張の分割不適法は、無効審判2000-35604号で既に請求人が主張し、それについて平成13年8月31日付で審決がなされ、しかも請求人は先の審判事件と相違するなんの証拠及び論拠も示さないまま、分割不適法の主張を繰り返すのみであるから、本件審判請求は一時不再理により却下されるべきである。
(イ)甲第3号証の無効審判2000-35610号の審決は、子出願について、「線状の支持部材」を限定のない「支持部材」としたことを根拠に子出願の出願日は平成5年10月29日であるとしている。
しかしながら、親出願の願書に最初に添付した明細書及び子出願への分割直前明細書、子出願の願書に最初に添付した明細書及び孫出願への分割直前明細書、孫出願の願書に最初に添付した明細書及び曽孫出願への分割直前明細書、曽孫出願の願書に最初に添付した明細書及び玄孫出願への分割直前明細書、そして玄孫出願の願書に最初に添付した明細書においては、いずれにも「線状の支持部材」との記載があり、本件特許出願(玄孫出願)は、親出願、子出願、孫出願及び曽孫出願から適法に分割されたものであることは明らかである。
子出願が、その後の手続補正により親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとなっても、それは子出願のみの問題であって、その要因が発生する前の手続補正書及び図面による分割直前明細書及び図面に基づいて孫出願が行われておれば、孫出願、曾孫出願、玄孫出願にはその影響は及ばない。そして、本件特許である玄孫出願は適法に分割されたものである。このことは、本件特許に対する別件無効審判2000-35604号においても判断されている。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定に該当せず、特許法第123条第1項の規定により無効とすることはできない。
(証拠方法)
乙第1号証:特許庁の審査基準「第V部 特殊な出願」1〜5頁、作成時期不詳
乙第2号証:平成13年(行ケ)456号事件における平成14年1月24日付け東京高等裁判所からの求釈明書
乙第3号証:親出願の出願時の明細書及び図面
乙第4号証:子出願の出願時の明細書及び図面
乙第5号証:孫出願の出願時の明細書及び図面
乙第6号証:曽孫出願の出願時の明細書及び図面
乙第7号証:玄孫出願の出願時の明細書及び図面
乙第8号証:子出願の平成5年3月19日付け手続補正書
乙第9号証:子出願の平成5年10月29日付け手続補正書

5 玄孫出願の出願日について

請求人の主張は、次のような趣旨であると解される。
つまり、本件特許出願(玄孫出願)は、曽孫出願(特願平7-173552号)を原出願として分割出願されたものであり、曽孫出願は孫出願(特願平5-271610号)を原出願として分割出願されたものであり、孫出願は子出願(特願平1-306218号)を原出願として分割出願されたものであり、子出願は親出願(特願昭59-6833号)を原出願として分割出願されたものであるところ、子出願の出願日は親出願の出願日まで遡及しないことが確定したので、現実に出願した平成1年11月24日となり、その後、子出願について平成5年10月29日にした補正が、(特許権の設定登録後に)要旨を変更するものと認められるので、子出願の出願日は平成5年10月29日とみなされ、その子出願を原出願として分割出願された孫出願以降の分割出願の出願日は、子出願以降の分割出願が仮に適法なものであったとしても平成5年10月29日までしか遡らない。
以下、検討する。
(1)特許出願の分割について定めた平成6年法律第116号による改正前の特許法44条1項は、「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる時又は期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定していた(なお、上記改正後の特許法44条1項は、特許出願を分割できる時期を「明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り」としている。)から、分割出願が適法であるための実体的な要件としては、もとの出願の明細書又は図面に二以上の発明が包含されていたこと、新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書又は図面に記載された発明の一部であること、が必要である。さらに、分割出願が原出願の時にしたものとみなされるという効果を有することからすれば、新たな出願に係る発明は、分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されているだけでは足りず、もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要すると解される(逆に、もとの出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項であれば、分割直前のもとの出願の明細書又は図面に記載されていない事項であっても、補正が可能であるから、分割の要件を満たすことになる。)。
ところで、本件特許出願(玄孫出願)は、曽孫出願を原出願として分割出願されたものであり、曽孫出願は孫出願を原出願として分割出願されたものであり、孫出願は子出願を原出願として分割出願されたものであり、子出願は親出願を原出願として分割出願されたものである。特許法には、分割出願に関する規定は同法44条以外に存在しないから、親出願、子出願、孫出願と複数回の分割がなされた場合についても同条が適用されることになる。したがって、孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには、子出願が親出願に対し分割の要件を満たし、孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし、かつ、孫出願に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要するというべきである。これは、本件特許のように孫出願からさらに分割出願がなされた場合にも同様にいえることである。
以下、検討する。

(2)本件特許の分割出願に関する手続の経緯
(ア)被請求人は、昭和59年1月17日、名称を「コンクリート埋設物の架設具および架設具を有するコンクリート埋設物」とする発明について特許出願(特願昭59-6833号(親出願))をした。
親出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(甲第1号証、乙第3号証参照)には、次のように記載されている。
(a)特許請求の範囲
「(1)手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。
(2)コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」
(b)目的
「本発明に係る架設具は従来からある埋設物に取付けることができ、これの線状の支持部を手で折り曲げることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにし、また、本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので、本発明の目的とするところは、埋設物を埋設するにあたって、埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い、作業の効率化を図ることにある。」(甲第1号証2頁左上欄3〜13行)
(c)線状の支持部と取付部とからなる架設具(第1、2図)
「まず、本発明に係る架設具について説明する。本発明に係る架設具は埋設物と別体に構成され、埋設物に取付けて使用するものである。本発明に係る架設具は、手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなっている。
以下、図面にしたがって本発明に係る架設具を説明する。
第1図および第2図において、支持部(1)はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設される部分である。支持部(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できるものである。線状の支持部(1)の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等色々考えられるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。また、支持部(1)は、曲げられた状態で型枠に埋設物本体を押圧できる突っ張り強度を有するものであって、第1図に示すように、埋設物(4)を型枠(6)に押し当てた状態のときに、埋設物(4)に対して加わる矢印(61)方向の力に対して、支持部(1)が曲げられた状態で、これに対向するように矢印(62)方向に埋設物(4)を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物(4)は支持部(1)によって、型枠(6)に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。
取付部(2)は、支持部(1)を埋設物(4)に取付けるための構造を有するものである。取付けには螺子による取付け、嵌合による取付け等種々の手段がある。取付部2の形状については埋設物(4)の外形状によって種々の態様をとる。しかし、第2図に示すように、埋設物(電気配線用ボックス)(4)に一様に支持部(1)の押圧(矢印63)が加わるような態様となるのが型枠への密着性の点から好ましい。」(同2頁左上欄15行〜左下欄18行)
(c-1)ボックスに取付ける架設具の一例(第3〜11図)
「第3図から第11図までは、電気配線用のボックス(10)に取付ける架設具についての一例である。第3図は架設具の平面図、第4図は架設具の断面図(A-A)である。この例の場合は、手による折り曲げ可能な線状の支持部(11)と板状の取付部(12)とからなり、支持部(11)は取付部(12)の両側に並設されている。取付部(12)はボックス(10)の外壁に取付けるための切り起こしによる突片(13)を有している。支持部(11)は、取付部(12)の両側に断面半円弧状に形成する凹部(14)に嵌め込まれて、スポット溶接により取付部12に固定されている。」(同6頁右下欄1〜12行)
「第6図は架設具をボックス10に取付けた状態の断面図を示したものである。」(同3頁左上欄15〜16行)
「ボックス(10)を型枠(6)に当接させ、型枠(6)にボックス(10)の開口部が密接するように架設具の支持部(11)を手で折り曲げて鉄筋(5)に架設すればよい。」(同4頁左上欄1行〜4行)
(c-2)ボックスに取付ける架設具の別例(第12〜14図)
「第12図から第14図までは、ボックス(10)に取付ける架設具の別例を示したものである。この例の場合は、架設具の取付部(12)に突片(13)ではなく、孔(20)を設けたものである。ボックス(10)の外壁には前記孔(20)に合致する孔(21)が設けられている。」(同4頁左上欄5〜10行)、
(c-3)エンドカバーに取付ける架設具の一例(第15〜18図)
「次に、電線管の端末に使用される端末保護具であるエンドカバー(30)および仮枠ブッシング(40)に取付ける架設具の例について説明する。
第15図から第18図までは、エンドカバー(30)に取付ける架設具の一例を示すものである。この例の場合は、手による折り曲げ可能な線状の支持部(31)と、一方辺に支持部(31)を固定し、もう一方辺に挿通孔(33)を設けた略L字形状の取付部32とを有している。支持部(31)は、スポット溶接により取付部32に固定されている。
この例の場合は、取付部(32)はコネクター(34)とエンドカバー(30)の前壁面との間に挟持された状態に取付けられるようになっている。」(同4頁左上欄17行〜右上欄11行)
(c-4)エンドカバーに取付ける架設具の別例(第19〜20図)
「第19図および第20図は、エンドカバー(30)に取付ける架設具の別例を示したものである。この例の場合は、略L字形状の取付部(32)のうち線状の支持部(31)を固定している一方辺が、エンドカバー(30)の背壁面の形状に沿うように形成されている。」(同4頁右下欄2行〜7行)
(c-5)仮枠ブッシングに取付ける架設具の一例(第21〜24図)
「第21図から第24図までは、仮枠ブッシング(40)に取付ける架設具の一例を示したものである。この例の場合は、中央に挿通孔(43)を有する円板状の取付部(42)と、取付部(42)にスポット溶接により固定された手による折り曲げ可能な線状の支持部(41)とからなっている。」(同4頁右下欄17行〜5頁左上欄4行)
(c-6)インサートに取付ける架設具の一例(第25〜28図)
「第25図から第28図までは、インサート(50)に取付ける架設具についての一例である。この例の場合は、インサート(50)の頭部の外形状に合致する内形状を有し、インサート(50)頭部に嵌挿される嵌挿部(53)を設けた取付部(52)と、取付部(52)上面にスポット溶接により固定された手による折り曲げ可能な線状の支持部(51)とからなっている。」(同5頁右上欄11行〜17行)
(c-7)インサートに取付ける架設具の別例(第29〜33図)
「第29図から第33図までは、インサート(50)に取付ける架設具の別例を示したものであり、支持部(51)をスポット溶接でなく取付部(52)に形成された弾性を有する凹部(54)により固定するようにしたものである。」(同5頁右下欄1〜5行)
(d)線状の支持部材よりなる架設具を有する埋設物
「次に、本発明に係るコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設する線状の支持部材よりなる架設具を有するコンクリート埋設物(以下本発明に係る埋設物という)について説明する。
本発明に係る埋設物は、埋設物とこれと一体に形成された線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになしたものである。
支持部材は、前記架設具の支持部と同様に手による折り曲げが可能であり、また曲げられた状態で埋設物を型枠に押圧できる突っ張り強度を有するものである。従って、埋設物はこの支持部材折り曲げによって所定に位置決めがなされるようになっている。この線状の支持部材の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等があるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から線状のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」(同6頁左上欄14行〜左下欄1行)
(d-1)ボックスの一例(第34〜36図)
「以下、本発明に係る埋設物として電気配線用のボックス(10)およびインサート(50)を例にあげて説明する。第34図から第36図までは、電気配線用のボックス(10)についての一例である。この例の場合は、手により折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(71)を並設してボックス(10)の外壁にスポット溶接により固定したものである。」(同6頁左下欄5〜9行)
(d-2)ボックスの別例(第37〜39図)
「第37図から第39図までは、本発明に係るボックス(10)の別例であり、ビス(72)頭部の下面で支持部材である架設具(71)を固定しボックス(10)と一体に形成したものである。すなわちボックス(10)の外壁に仮設具(71)を嵌め込む溝(73)を設け、溝(73)近くにビス(72)を止め、ビス(72)頭部の下面で溝(73)に嵌め込まれた架設具(71)を押さえて固定し、ボックス(10)と一体に形成している。」(同6頁右下欄15行〜7頁左上欄4行)
(d-3)ボックスの別例(第40〜42図)
「第40図から第42図までは、本発明に係るボックス(10)の別例を示したものである。この例の場合はボックス(10)の外壁に設けられた切り起こしによる突起(76)によって、架設具(71)をかしめボックス(10)と一体に形成したものである。この例の場合には、第41図に示すように架設具(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように架設具(71)を包むようにかしめて固定している。」(同7頁左下欄17行〜右上欄6行)
(d-4)ボックスの別例(第43図)
「第43図に示す例は、線状の支持部材である架設具(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられているものである。このように架設具(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられていると,上下方向にも広い範囲に架設具(71)の鉄筋(5)への架設が行なえる。」(同7頁右上欄7〜12行)
(d-5)インサートの一例(第44〜46図)
「第44図から第46図までは本発明に係るインサート(50)についての一例である。この例の場合は、手で折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(81)を並設してインサート(50)の頭部にスポット溶接により固定してインサート(50)と一体に形成したものである。」(同7頁右上欄15行〜左下欄2行)
(d-6)インサートの別例(第44〜46図)
「第47図および第48図は本発明に係るインサート(50)の別例である。この例の場合には、インサート(50)の頭部に弾性を有する凹部(82)を形成し、これに手で折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(81)を嵌め込んでインサート(50)と一体に形成したものである。」(同7頁左下欄17行〜右下欄4行)

(イ) 被請求人は、平成元年11月24日、名称を「コンクリート埋設物」とする発明について、親出願からの分割により、特許出願(特願平1-306218号(子出願))をしたが、その特許請求の範囲は、
「(1) 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部材を開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。
(2) コンクリート埋設物がボックスであり、その底壁に切り起こされた突起で支持部材を包むようにかしめて支持部材を底壁に一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」
というものであった(乙第4号証)。
被請求人は、子出願について、平成5年3月19日付け手続補正書(乙第8号証)により特許請求の範囲を補正した。その補正後の特許請求の範囲は、
「(1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に一体に設けて成ることを特徴とするコンクリート埋設物。
(2) 埋設物本体がボックスであり、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の支持部材を、鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた突起でかしめて一体に設けて成ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のコンクリート埋設物。」
というものであった。
(ウ) さらに、被請求人は、平成5年10月29日付けで、子出願からの分割として、特許出願(特願平5-271610号、(孫出願))(乙第5号証)をするとともに、同日付けで、子出願について手続補正書(乙第9号証)を提出した。この手続補正書は、子出願の特許請求の範囲を、
「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。
(請求項2) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。」
と補正するものであった。
そして、子出願については、上記平成5年10月29日付け補正の内容で特許された。
(エ) 孫出願は、前記(ウ)のとおり、平成5年10月29日付けで、子出願から分割して出願されたが、分割出願時の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は、分割直前の子出願の明細書、すなわち、上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載と全く同一であり、発明の詳細な説明及び図面も実質的に同一であった。
孫出願に係る明細書は、その後、平成7年7月10日付け手続補正書により、特許請求の範囲が
「(請求項1) 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、鉄筋に対し埋設物本体を任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するように埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着して成ることを特徴とするコンクリート埋設物。
(請求項2) 埋設物本体がボックスであり、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、鉄筋に対しボックスを任意の位置に設置するのに十分な長さの自由端を残して、ボックスの外方に突出するようにボックスの底壁に切り起こされた複数の突起でかしめて固着して成ることを特徴とする請求項1記載のコンクリート埋設物。」
と補正され、特許されるに至った。

(オ)曽孫出願は、平成7年7月10日付けで、孫出願から分割して出願され、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に対して埋設物本体を任意の位置に設置すべく、埋設物本体に設けられるコンクリート埋設物用の支持部材であって、
手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体を押圧できる突張り強度を有し、鉄筋に架設されるべく線状に形成されてなることを特徴とするコンクリート埋設物用の支持部材。
【請求項2】 コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に対して埋設物本体を任意の位置に設置すべく、埋設物本体に設けられるコンクリート埋設物用の支持部材であって、
手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物本体を押圧できる突張り強度を有し、鉄筋に架設されるべく線状に形成されてなり、
十分な長さの自由端を残して、埋設物本体の外方に突出するようにして埋設物本体に設けられることを特徴とするコンクリート埋設物用の支持部材。」
であった。(乙第6号証)(その後拒絶となった。)

(カ)本件特許出願(玄孫出願)は、平成8年4月8日付けで、曽孫出願から分割して出願され、特許請求の範囲は、
「1.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。
2.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。」
であり、特許されるに至った。

(3)子出願は親出願からの適法な分割出願
親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「原明細書等」という。)には、上記(2)、(ア)に記載したように、「本発明に係る架設具は従来からある埋設物に取付けることができ、これの線状の支持部を手で折り曲げることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにし、また、本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので、本発明の目的とするところは、埋設物を埋設するにあたって、埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い、作業の効率化を図ることにある。」と記載され、特許請求の範囲には、次のとおり記載されている。
「1 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。
2 コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」
このように原明細書等に記載された発明の目的ないし特許請求の範囲の記載からは、支持部ないし支持部材を手で折り曲げることによって鉄筋への架設状態を自由に設定できるためには、線状の支持部ないし支持部材であることが必須の構成であると認められる。
また、発明の詳細な説明の記載についてみても、支持部ないし支持部材については、「第1図および第2図において、支持部(1)はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設される部分である。支持部(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できるものである。線状の支持部(1)の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等色々考えられるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」(上記(2)、(ア)、(c)参照)と記載されており、線状の支持部ないし支持部材以外のものについては記載されていない。
一方、子出願に係る発明は、平成5年10月29日付け手続補正書により特許請求の範囲が上記(2)、(ウ)に記載したように補正され、同補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲では「線状の支持部材」とされていたのが、同補正により「支持部材」とされた。
この補正により、子出願に係る明細書の特許請求の範囲の「支持部材」は「線状」でないものも含むものとなったが、そのような事項は、原明細書等に記載はないものである。
したがって、子出願は、親出願から適法に分割されたものではないことになり、子出願の出願日が親出願の出願日まで遡ることはできず、子出願の出願日は、現実に出願された平成1年11月24日ということになる。
さらに、子出願については、平成5年10月29日付け手続補正書による補正により、補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲では「線状の支持部材」とされていたのが、「支持部材」とされた。
上記補正により、子出願に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1の「支持部材」は「線状」でないものも含むものとなったが、そのような事項は、子出願の出願当初明細書又は図面に記載されていない事項である。
したがって、上記手続補正書による補正は、要旨を変更するものといえ、昭和62年法律第27号によって改正された特許法第40条の規定により、子出願の出願は上記手続補正書が提出された平成5年10月29日にしたものとみなされることになる。
そして、子出願については、上記補正後の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明について特許第2562698号として登録され、その後、無効審判2000-35610号の審理において、発明の詳細な説明及び図面の一部が訂正され、当該訂正を認めるとともに、子出願は親出願から適法に分割されたものでないから特許法第29条第2項に該当することを理由として本件特許を無効とする旨の審決がなされ、その審決は既に確定しているので、訂正審判等により、特許請求の範囲を訂正することはもはやできず、子出願の出願日が現実に出願した日や親出願の出願日まで遡ることはできなくなった。

(4)孫出願は子出願からの適法な分割出願
孫出願は、平成5年10月29日付けで、子出願から分割して出願され、孫出願に係る明細書は、その後、平成7年7月10日付け手続補正書により、特許請求の範囲が上記(2)、(エ)に記載したように補正され、特許されるに至った。
孫出願に係る発明の特許についてはその後無効審判2000-35598号が請求され、平成13年2月5日に訂正請求がなされ(注:特許請求の範囲は訂正されていない。)、平成13年8月31日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、この審決は確定した。
孫出願は、平成5年10月29日付けで、子出願から分割して出願されたが、分割出願時の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項は、分割直前の子出願の明細書、すなわち、上記平成5年10月29日付け手続補正書による補正前の子出願の明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載と全く同一であり、発明の詳細な説明及び図面も同一であったが、子出願については上記(2)、(ウ)に記載したように平成5年10月29日付けで手続補正書が出され、子出願に係る発明と孫出願に係る発明とは異なるものとなり、孫出願については平成7年7月10日付けの手続補正書によって特許請求の範囲が補正され(さらに、上記無効審判2000-35598号における平成13年2月5日付けでした訂正事項は、明細書の発明の詳細な説明、図面の簡単な説明及び図面を一部訂正するものであって、特許請求の範囲は訂正していない。)、孫出願に係る発明は、子出願の明細書または図面に記載された事項の範囲内であり、かつ子出願に係る発明とは異なるものであるから、孫出願は、子出願から適法に分割されたものといえる。
そして、上記(3)に記載したように子出願の出願日は、平成5年10月29日にしたものとみなされることになったので、孫出願の出願日は、平成5年10月29日ということになる。

(5)玄孫出願の出願日について
上記したように子出願の出願日は平成5年10月29日にしたものとみなされ、孫出願の出願日も平成5年10月29日ということになった。
したがって、孫出願から曽孫出願が適法に分割され、さらに曽孫出願から玄孫出願が適法に分割出願されたとしても、玄孫出願の出願日は平成5年10月29日までしか遡ることはできない。

(6)被請求人の主張に対して
被請求人は、本件特許の出願日について概ね次のように主張する。
(ア)請求人主張の分割不適法は、本件特許について本件審判請求よりも先に請求された無効審判2000-35604号で既に請求人が主張し、それについて平成13年8月31日付で審決がなされ、しかも請求人は先の審判事件と相違するなんの証拠及び論拠も示さないまま、分割不適法の主張を繰り返すのみであるから、本件審判請求は一時不再理により却下されるべきである。
(イ)玄孫出願は、親出願、子出願、孫出願及び曽孫出願から適法に分割されたものであり、子出願が、その後の手続補正により親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとなっても、それは子出願のみの問題であって、その要因が発生する前の手続補正書及び図面による分割直前明細書及び図面に基づいて孫出願が行われておれば、孫出願、曽孫出願、玄孫出願にはその影響は及ばない。そして、本件特許出願である玄孫出願は適法に分割されたものである。このことは、本件特許に対する別件無効審判事件無効2000-35604号においても判断されている。

しかしながら、上記主張(ア)については、無効審判2000-35604号事件において、請求人が主張する分割要件違反についての無効理由の概要は、次のとおりであった。
「[理由1] 本件発明の「線状の・・・支持部材」を「埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着して成る」点について、親出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「親出願の出願当初明細書等」ということがある。)には全く記載されていない。
したがって、本件発明に係る出願の出願日は、親出願の出願日に遡及することなく、せいぜい「開口部の反対側に」を新たに加入した子出願の出願日である平成1年11月24日である。
[理由2] 本件明細書【0033】及び図43、44に記載の実施態様は、親出願の出願当初明細書等には全く記載されていない。したがって、本件発明に係る出願は適法になされた分割出願ではなく、本件発明に係る出願の出願日は、親出願の出願日に遡及することなく、明細書が補正され、図43、44が追加された子出願の出願日である平成1年11月24日である。
[理由3] 本件発明の「支持部材」は、平成9年6月27日の手続補正により「複数の支持部材」と変更された。しかしながら、親出願の出願当初明細書等には一貫して「2つの支持部材」が記載されているのみで、2つの支持部材以外の数値をも含む発明が記載されていたと認めることができない。
そうすると、本件発明に係る出願は適法になされた分割出願ではなく、本件発明に係る出願の出願日は、上記平成9年6月27日である。」
そして、平成13年8月31日付けの審決においては、[理由1]については、親出願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、線状の支持部材を「埋設物本体の開口部の反対側に」固着するという技術思想が開示されており、[理由2]については、訂正により図43及び図第44並びにその説明が削除され、[理由3]については、「複数の支持部材」とすることは、親出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものである、ことを理由に本件特許出願(玄孫出願)は適法に分割されたものであって、本件特許の出願日は親出願の出願日である昭和59年1月17日であると判断している。
つまり、先の無効審判2000-35604号において、本件特許出願(玄孫出願)の出願日は親出願の出願日である昭和59年1月17日としたのは、図43、44に記載の実施態様が訂正により削除され、本件発明における、「線状の・・・支持部材」を「埋設物本体の開口部の反対側に、線状又は複数の点状に固着して成る」点、「複数の支持部材」である点が、親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討した結果であって、子出願が親出願からの分割要件を満たす点や、本件特許出願(玄孫出願)が子出願や孫出願、曾孫出願からの分割要件を満たす点、についてはなんら判断していない。
そして、本件無効審判において請求人は、本件特許出願(玄孫出願)は、子出願を原出願として分割出願されたものであるところ、子出願の出願日は親出願の出願日まで遡及しないことが確定したので、現実に出願した平成1年11月24日となり、その後、子出願について平成5年10月29日にした補正が、(特許権の設定登録後に)要旨を変更するものと認められるので、子出願の出願日は平成5年10月29日とみなされ、その子出願を原出願として数度にわたり分割出願された本件特許出願(玄孫出願)の出願日も、平成5年10月29日より前には遡ることはない旨主張するものであって、先の無効審判2000-35604号において判断されていない事項を主張するのであるから、同一の事実に基づく審判請求とはいえず、特許法第167条の規定に該当しない。
次に、上記主張(イ)については、子出願の出願日は、平成5年10月29日にしたものとみなされることになったので、本件特許出願(玄孫出願)の出願日は平成5年10月29日より前には遡ることはできないことは既に上記(5)に記載したとおりである。
被請求人は、子出願が、その後の手続補正により親出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとなっても、それは子出願のみの問題であって、その要因が発生する前の手続補正書及び図面による分割直前明細書及び図面に基づいて数度の分割出願が行われておれば、玄孫出願にはその影響は及ばない旨主張するが、上記(1)に記載したように、孫出願の出願日が親出願の出願日まで遡及するためには、子出願が親出願に対し分割の要件を満たし、孫出願が子出願に対し分割の要件を満たし、かつ、孫出願に係る発明が親出願の出願当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内であることを要するというべきであって、その一つでも要件を満たさないときには、適法な分割出願とすることはできなくなると考えられ、これは、その後に分割された出願に対しても同様である。別件無効審判2000-35604号の審決においては、上記すべての要件について判断していない。
また、一般に、分割出願された時点においては分割要件を満たしても、その後の補正によって分割要件を満たさなくなる場合や、反対に、分割出願された時点においては分割要件を満たさなくても、その後の補正によって分割要件を満たすことができる場合があり、適法な分割であるか否かは、流動的であるといえる。
本件特許に関しても、子出願が特許登録された後の無効審判2000-35610号で、答弁書提出時に訂正請求書を出したり、審決に対する訴え中に訂正審判を請求すること等により、明細書を訂正し、分割要件を満たすようにする機会があったにも拘わらず、特許権者である被請求人はそれをしなかった。
したがって、被請求人の(イ)の主張も採用できない。

6 本件発明1、2と刊行物記載の発明との対比・判断

(1)上記のとおり、本件特許の出願日は、平成5年10月29日より前には遡ることはできず、また、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明(本件発明1、2)は、上記「2」に記載したとおりのものと認められる。
一方、請求人提出の甲第1号証(特開昭60-152747号公報(以下、「刊行物」という。)は、本件特許出願前頒布された刊行物である。
そして、上記刊行物は親出願の当初明細書及び図面の公開公報であって、記載された事項は上記「5」、(2)、(ア)に記載した事項と同じ内容である。
(2)刊行物の発明の詳細な説明及び図面の記載をみると、例えば、刊行物の2頁右上欄9行〜10行に「支持部(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できる」と記載されており、支持部材は三次元方向に自在に折り曲げ可能であるといえ、また、支持部材が「複数」であることは、刊行物の多数の図面(例えば、電気配線用のボックスについての一例を示す斜視図である第34図)に示されており、支持部材が曲げられた状態で型枠に「埋設物本体の開口部」を押圧するものであることは、刊行物の2頁右上欄17行〜左下欄9行に「支持部(1)は、曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突っ張り強度を有するものであって、第1図に示すように、埋設物(4)を型枠(6)に押し当てた状態のときに、埋設物(4)に対して加わる矢印(61)方向の力に対して、支持部(1)が曲げられた状態で、これに対向するように矢印(62)方向に埋設物(4)を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物(4)は支持部(1)によって、型枠(6)に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。」と、4頁左上欄1行〜4行に「ボックス(10)を型枠(6)に当接させ、型枠(6)にボックス(10)の開口部が密接するように架設具の支持部(11)を手で折り曲げて鉄筋(5)に架設すればよい。」と記載されており、また、第1図、第10図に開示されている。
さらに、支持部材が、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設されることは、刊行物の例えば特許請求の範囲(2)に「支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し」と記載されており、さらに、線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えた点は刊行物の発明の詳細な説明中の実施例における線状の支持部ないし支持部材の取付方法の説明の記載や多数の図面に開示されており、線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えた点は刊行物の第34図、第35図、第37図、第38図、第40図に開示されている。
そうすると、上記刊行物には、次の発明が記載されていると認められる。
「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠に埋設物本体の開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記埋設物本体の開口部の反対側に複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。」(以下、刊行物発明Aという。)
「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であると共に、曲げられた状態で型枠にボックスの開口部を押圧できる突張り強度を有し、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設される線状の複数の支持部材の各々を、前記ボックスの開口部の反対側の4隅における複数箇所で取付ける取付部を備えたことを特徴とするコンクリート埋設物。」(以下、刊行物発明Bという。)
(3)本件発明1と刊行物発明Aを比較すると、両者には構成上の差異が認められないから、本件発明1は刊行物に記載された発明ということができる。
また、本件発明2と刊行物発明Bを比較すると、両者には構成上の差異が認められないから、本件発明2は刊行物に記載された発明ということができる。

7 むすび

以上のとおり、本件特許の出願日は、平成5年10月29日より前には遡ることはできず、本件発明1及び2は、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-12-27 
結審通知日 2003-01-08 
審決日 2003-01-22 
出願番号 特願平8-85107
審決分類 P 1 112・ 113- Z (E04G)
P 1 112・ 121- Z (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 伸夫渋谷 知子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 憲子
山口 由木
登録日 1998-10-16 
登録番号 特許第2838511号(P2838511)
発明の名称 コンクリート埋設物  
代理人 樋口 武尚  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 上原 理子  
代理人 上原 健嗣  
代理人 鈴江 正二  

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