ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A61J |
---|---|
管理番号 | 1092378 |
審判番号 | 不服2001-20120 |
総通号数 | 52 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-07-11 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-11-08 |
確定日 | 2004-03-11 |
事件の表示 | 平成11年特許願第288535号「人工乳首」拒絶査定に対する審判事件[平成12年 7月11日出願公開、特開2000-189496]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成10年10月20日の出願(特願平10-316899号。以下、「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明に基づき、特許法第41条の規定による優先権を主張して平成11年10月8日に出願したもの(以下、「後の出願」という。)であって、その請求項1〜4に係る発明は、平成11年12月16日付け手続補正書、平成12年6月12日付け手続補正書及び平成13年8月7日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりである。 「幼児の哺乳窩に当接可能な先端部を有する乳頭部と、 乳幼児が舌により蠕動運動を行う際に舌を波うつように移動させることができる表面を有する乳頭部及び乳首胴部と、 哺乳瓶と接続するためのベース部と、を有する人工乳首であって、 前記乳頭部及び乳首胴部のシリコンゴムから成る壁面の内側に、この壁面より肉厚の薄い伸長部が形成され、 この伸長部に隣接して、この伸長部より肉厚が厚い剛性部が交互に形成されていることを特徴とする人工乳首。」 ところで、出願人は審判請求書において「出願人は平成13年8月7日付けの意見書において述べているように、同日付けの手続補正書で、特許請求の範囲の発明を、上述の先の出願の出願当初の明細書等に記載された発明に限定するよう補正した。したがって、この補正後の特許請求の範囲の発明に関しては、特許法41条2項の規定により、特許法第29条の2の適用については、先の出願の出願日に出願されたものとみなされる。このため、補正後の特許請求の範囲の発明については、引用例1は特許法29条の2の規定による「他の特許出願」に該当しないことは明らかである。」と記載し、本願発明は、先の出願の最初に添付した明細書又は図面に記載された発明のみであるから、その全体について優先権の効果が認められるべき旨の主張をしている。 特許法第41条第2項は、「前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(当該先の出願が外国語書面出願である場合にあつては、外国語書面)に記載された発明(……)についての第二十9条、第二十9条の2本文、第三十条第一項から第三項まで、第三十9条第1項から第四項まで、第六十9条第2項第2号、第七十2条、第七十9条、第八十1条、第八十2条第1項、第百4条(……)及び第百二十6条第4項(……)……の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の出願の時にされたものとみなす。」と規定しているので、本願発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明であるかどうかについて、以下検討する。 後の出願の際に補充された「本発明の第4の実施の形態に係る人工乳首」(以下、「第11図に係る実施例」という。)は、明細書(特に、段落【0042】)の記載及び第11図の記載からみて、「乳首胴部、乳頭部及び鍔部(ベース部)を有する人工乳首において、伸長部である肉薄部が人工乳首の乳頭部及び乳首胴部の壁面の内側にかけて螺旋形状に形成され、この伸長部の螺旋形状により、伸長部に隣接して、この伸長部より肉厚が厚い剛性部が交互に形成されている」構造を有するものと認められる。 そして、第11図に係る実施例の人工乳首の「乳首胴部、乳頭部及び鍔部(ベース部)」の具体的構成についても、本願の他の実施例と同様に、「幼児の哺乳窩に当接可能な先端部を有する乳頭部と、乳幼児が舌により蠕動運動を行う際に舌を波うつように移動させることができる表面を有する乳頭部及び乳首胴部と、哺乳瓶と接続するためのベース部と、を有するシリコンゴムから成る人工乳首」となし得るものである。 そうしてみると、第11図に係る実施例は、本願発明に包含されるものと認められる。 一方、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、上記第11図に係る実施例について、何らの記載も見当たらない。 なるほど、先の出願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲には、 「【請求項1】 乳首胴部と、この乳首胴部から突出して形成されている乳頭部とを有する人工乳首であって、上記乳頭部及び/又は上記乳首胴部の少なくとも一部に伸長する伸長部が備わっていることを特徴とする人工乳首。 【請求項2】 上記伸長部に隣接して、この伸長部より剛性のある剛性部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の人工乳首。 【請求項3】 上記伸長部と上記剛性部が交互に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の人工乳首。 【請求項4】 上記人工乳首がシリコンゴムにより形成されていると共に、このシリコンゴムの厚みが、上記伸長部では比較的薄く、上記剛性部では比較的厚いことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の人工乳首。」 と記載されており、「上記伸長部に隣接して、この伸長部より剛性のある剛性部が設けられていること」、「上記伸長部と上記剛性部が交互に配置されていること」、「上記人工乳首がシリコンゴムにより形成されていると共に、このシリコンゴムの厚みが、上記伸長部では比較的薄く、上記剛性部では比較的厚いこと」という記載は、本願発明の発明特定事項である「前記乳頭部及び乳首胴部のシリコンゴムから成る壁面の内側に、この壁面より肉厚の薄い伸長部が形成され、この伸長部に隣接して、この伸長部より肉厚が厚い剛性部が交互に形成されていることを特徴とする人工乳首」における個々の要素に係る記載と表現上共通するものであるが、そもそも、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであること、に適合するものでなければならないから(特許法第36条第6項)、先の出願において、「上記伸長部に隣接して、この伸長部より剛性のある剛性部が設けられていること」、「上記伸長部と上記剛性部が交互に配置されていること」、「上記人工乳首がシリコンゴムにより形成されていると共に、このシリコンゴムの厚みが、上記伸長部では比較的薄く、上記剛性部では比較的厚いこと」という記載は、先の出願において当初より開示されている範囲に限定して解釈されるべきであり、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明において、「伸長部」が螺旋形状のものをも含んでいるとは到底いうことができない。 よって、第11図に係る実施例は、本願発明に包含されるものであるが、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず、後の出願の願書に添付した明細書又は図面において初めて記載されたものというべきである。 してみると、本願発明は、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された実施例に相当する部分のみならず、本願発明の第11図に係る実施例に相当する部分(以下、「後の発明」という。)をも包含するものであるから、上記の後の発明については、先の出願の時にされたものとみなすことはできず、優先権の効果を認めることはできない。 以上の検討によれば、出願人の上記主張は、上記の後の発明についてまで正当な理由なく先の出願の時にしたものとみなすよう主張するものであるから、これを採用することはできない。 2.先願明細書に記載された発明 上記の後の発明についての特許法第29条の2の適用については、本願出願は先の出願の時にされたものとみなすことができないから、上記の後の発明についての出願は、本願出願の現実の出願日である平成11年10月8日となる。 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平11-85326号(特開2000-271193号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の(イ)〜(リ)が記載されている。 (イ)「乳首4は上部11、胴部12および下部13に成形されている。上部11の頭頂部には吸乳口15が成形されている。」点(公報第3欄第17〜19行参照)、 (ロ)「胴部12は略円錐形に成形されており、該胴部12の内側面にはスパイラル溝16が形成されている。該スパイラル溝16は一本の連続した溝により螺旋状に形成されている。該スパイラル溝16は乳首4の胴部12の下位置より、該胴部12の内側面に沿って、上方に向かってつるまき状に形成されている。該スパイラル溝16は胴部12の全域に設けられている。・・・乳首4の胴部12のスパイラル溝16が形成されている部分は、肉薄に成形されている。すなわち、凹形状に形成されている。このため、該胴部12において、肉厚の部分(凸部)が螺旋構造となる。」点(公報第3欄第23〜33行参照)、 (ハ)「図6に示すごとく、スパイラル溝16が形成された範囲において、縦方向の引っ張りに対して有効な部分は一点鎖線Sより外側部分となる。このため、スパイラル溝16により形成される凹部は伸びやすくなる。」点(公報第3欄第38〜41行参照)、 (ニ)「胴部12のスパイラル溝16が形成された部分において、肉厚が厚く形成された凸部は、つるまきバネ状になる。これにより、一定範囲内において、胴部12が先端方向に伸び易くなる。このため、縦方向の引っ張りに対して、乳首4は伸び易くなる。すなわち、乳児が吸啜時に乳首4の胴部12が伸び、変形する。」点(公報第3欄第42〜48行参照)、 (ホ)「肉厚の部分がつるまきバネ状に形成されるので、乳首4が一定量以上引っ張られた場合には、肉厚の部分(凸部)により強度が保たれる構造になっている。さらに、肉厚部分は側方の力に対しては有効に機能するため、らせん溝を有する乳首4は側面よりかかる力には十分な復元力を維持できる。これにより、哺乳びん1内の減圧による乳首4のつぶれを抑制できる。」点(公報第4欄第1〜7行参照)、 (ヘ)「スパイラル溝16の幅は特に限定されるものではなく、必要に応じて調節することができる。また、スパイラル溝16により形成される凹部と凸部の幅は、必要に応じて、凹部の幅を凸部より広く、等しく、もしくは狭く形成することができ、所望の伸び特性をえることができる。」点(公報第4欄第28〜33行参照)、 (ト)「本発明の乳首に使用されるシリコーンゴムの特性について説明する。・・・本発明の乳首に用いるシリコーンは従来乳首に用いられていたものよりも延びやすい性質を持つものである。」点(公報第4欄第34〜48行参照)、 (チ)「スパイラル溝16を設けることにより、乳首の先端方向への伸びは向上する。しかし、乳首の側面部の肉厚部分がヘリックス状に成形されるため、側方への支持力は減少しにくい。このため、授乳の途中で乳首が陰圧でつぶれ難くなる。 また、乳首が陰圧でつぶれた際にも、スパイラル溝16により、ミルクを乳首4の上部に供給することを助成することもできる。このため、乳児が乳首をくわえ、歯茎で口腔内に固定し、舌で乳首を上顎に押しつけてしごくことによって、ミルクを飲むことができる。即ち、母乳を飲む場合に近い状態で、ミルクを飲むことができる。」点(公報第5欄第24〜34行参照)、が記載されている。また、第2、5、6、9〜11図には、 (リ)「乳首の内周面に肉薄の凹溝が形成され、この凹溝に隣接して、この凹溝より肉厚の部分(凸部)が交互に形成されている」点が記載されている。 これらの記載及び図面の記載を総合すると、先願明細書には、 「乳児の上顎に当接可能な先端部を有する乳首と、乳児が舌でしごくことができる表面を有する乳首の上部及び胴部と、哺乳びんと接続するための下部と、を有する哺乳びん用乳首であって、前記上部及び胴部のシリコンゴムから成る壁面の内側に、この壁面より肉厚の薄い凹溝が形成され、この凹溝に隣接して、この凹溝より肉厚の肉厚の部分(凸部)が交互に形成されていることを特徴とする哺乳びん用乳首」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 3.対比・判断 上記の後の発明と先願発明とを対比する。 先願発明の「乳児の上顎に当接可能な先端部を有する乳首」、「乳児が舌でしごくことができる表面を有する乳首の上部及び胴部」、「哺乳びんと接続するための下部」、「哺乳びん用乳首」は、それぞれ、その構造や乳幼児の哺乳動作からみて、上記の後の発明の「幼児の哺乳窩に当接可能な先端部を有する乳頭部」、「乳幼児が舌により蠕動運動を行う際に舌を波うつように移動させることができる表面を有する乳頭部及び乳首胴部」、「哺乳瓶と接続するためのベース部」、「人工乳首」に、相当するものである。 また、先願発明の「凹溝」は、その溝により伸びやすくなる構造であること(上記2.(ハ)の記載参照)、「肉厚の部分(凸部)」は、乳首が一定量以上引っ張られた場合には、その肉厚の部分(凸部)により強度が保たれる構造であって、肉厚部分は側方の力に対して有効に機能するために、乳首4は側面よりかかる力には十分な復元力を維持ですることができ、哺乳びん内の減圧による乳首のつぶれを抑制できる(上記2.(ホ)の記載参照)という機能・構造のものであるから、上記の後の発明の「伸長部」、「剛性部」に、それぞれ相当するものである。 そうしてみると、両者は、構成の全てにおいて一致しており、相違点は見当たらない。 4.むすび したがって、上記の後の発明は、上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、上記の後の発明は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-08-27 |
結審通知日 | 2002-08-28 |
審決日 | 2002-09-12 |
出願番号 | 特願平11-288535 |
審決分類 |
P
1
8・
161-
Z
(A61J)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 阿部 寛、安井 寿儀 |
特許庁審判長 |
梅田 幸秀 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 千壽 哲郎 |
発明の名称 | 人工乳首 |
代理人 | 新井 全 |
代理人 | 岡▲崎▼ 信太郎 |