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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41J
管理番号 1093088
異議申立番号 異議2003-70566  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-28 
確定日 2004-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3321249号「サーマルプリントヘッド」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3321249号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3321249号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成5年6月30日の出願であって、平成14年6月21日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、石井義章より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年9月30日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
a.訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】 山状の部分グレーズ層を有し、印字を10.16cm/sより大きく25.4cm/s未満の速度で行う部分グレーズ式サーマルプリントヘッドにおいて、
前記山状のグレーズ層は、セラミック基板の表面にガラス質のグレーズが印刷焼成されることによって形成され、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間にあり、
前記山状のグレーズ層の表層面に沿って薄膜の発熱ドットを形成したことを特徴とするサーマルプリントヘッド。
【請求項2】 請求項1記載のサーマルプリントヘッドを備える印字装置。」
という記載を、
「【請求項1】 山状の部分グレーズ層を有し、印字を10.16cm/sより大きく25.4cm/s未満の速度で行う部分グレーズ式のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドにおいて、
前記山状のグレーズ層は、セラミック基板の表面にガラス質のグレーズが印刷焼成されることによって形成され、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間にあり、
前記山状のグレーズ層の表層面に沿って薄膜の発熱ドットを形成したことを特徴とするバーコード印刷用のサーマルプリントヘッド。
【請求項2】 請求項1記載のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドを備える印字装置。」
という記載に訂正する(訂正箇所にアンダーラインを付した。)。
b.訂正事項b
「バーコード印刷用の」という記載を、段落【0001】における「グレーズ層を有するサーマルヘッド」の記載の「有する」と「サーマルヘッド」との間、段落【0011】における「本発明のサーマルヘッドにおいては、」の記載の「の」と「サーマルヘッド」との間、及び、段落【0027】における「本発明に係るサーマルヘッドにおいては、」の「係る」と「サーマルヘッド」との間、それぞれに、挿入する。
c.訂正事項c
段落【0006】における「例えばバーコードなどを」の記載を、「特にバーコードを」という記載に、【0007】における「バーコードなどの印字に」の記載を、「バーコードの印字に」という記載に、それぞれ訂正する。
d.訂正事項d
段落【0023】における「3個のドッが」の記載を、「3個のドットが」という記載に訂正する

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関して、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)において、「グレーズ層13の頂点の高さhが25μm以上でかつ幅wが0.4mm以上であると、1m秒以下の高速印字を行う場合には残留熱による尾引きが生じ、良好な印字を得ることはできず、このため、バーコードを高速印字(1ラインを1m秒以下で印字)した場合には読取り不良が生じることがある。この一方で、グレーズ層13の頂点の高さhが15μm以下でかつ幅wが0.1mm以下であった場合には、エネルギーの消費量が著しく大きくなり、しかもセラミック基板11表面の凸凹の影響を受けてピンホールなどの発生が増え製造が困難となるので、商品化が困難になる。ところが、本発明者の発見した範囲にグレーズ層13を設定すれば、このような問題はなくなり、非常に良好な特性が得られる。」(段落【0016】)と記載されている。
してみると、上記訂正事項aは、特許明細書又は図面に記載されていた範囲内で、特許請求の範囲の請求項1において、「サーマルプリントヘッド」が、バーコード印刷用のものであると限定したものである。
ゆえに、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a乃至dは、いずれも、実質的に特許請求の範囲を拡張変更するものでない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申し立てについての判断
(1)申立の理由の概要
申立人石井義章は、証拠として、甲第1号証(実願平3-69573号(実開平5-18837号)のCD-ROM)を提出し、また、参考文献として、参考文献1(グラフテック株式会社の計測機器のカタログ)、参考文献2(特開平4-52513号公報)及び参考文献3(特開平5-4361号公報)を提出し、本件請求項1及び2に係る発明は、こ甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができない旨の主張(以下、「主張A」という。)をすると共に、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでないから、特許法第36条第5項第2号に適合していない旨の主張(以下、「主張B」という。)をしている。

(2)本件発明
本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、上記訂正によって訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照。)。

(3)甲第1号証及び参考文献1乃至3に記載された発明
ア.甲第1号証
甲第1号証には、
a.「【実施例】図1は本考案の基礎となる構成を示すサーマルヘッド1の断面図であり、図2はサーマルヘッド1の平面図である。サーマルヘッド1は、アルミナ系セラミックなどから成る絶縁基板2上にガラスから成る蓄熱層3が形成され、その上にスパッタリングなどの薄膜技術で窒化タンタルTa3N4等を成膜して発熱抵抗体層4が形成される。発熱抵抗体層4上には、アルミニウムなどの金属をスパッタリングなどで成膜し、エッチングを施して共通電極5および個別電極6が形成され、たとえば16ドット/mmの密度で複数の発熱素子7が構成される。このような絶縁基板2は、5酸化タンタルTa2O5などから成る保護膜8で被覆される。このようなサーマルヘッド1は、プラテンローラ9との間で感熱記録紙10を挟圧し、感熱印画を行う。本実施例では、蓄熱層3の幅Wは400〜700μm、好ましくは450〜600μmで、本実施例では550μmに選ばれ、高さHは25〜40μm、好ましくは25〜35μmに選ばれ、本実施例では30μmに選ばれる。本件考案者は、蓄熱層3の幅Wと高さHとの最適な範囲を定めるために、幅Wと高さHとを種々変化したサーマルヘッドを作成し、印画速度80字/秒(48ドット漢字)で感熱印画を行い、印画出力の濃度および印画出力の文字の輪郭の明瞭度で印画特性の評価を行った。その結果を下記第1表に示す。このときの印画条件は48ドット×48ドットの漢字のフォントを用い、印字速度80キャラクタ/秒で印画動作を行った。また上記表中における記号「◎」「○」「△」「×」は印画濃度と、印画されたたとえば漢字の輪郭の明瞭度とを総合的に判断して4段階の評価とした。」(段落【0010】〜【0012】及び段落【0014】参照)
b.蓄熱層3の幅Wを、400μm、450μm、500μm、600μm、700μmから選択し、蓄熱層の高さHを、20μm、25μm、30μm、35μm、40μmから選択した組み合わせ25個のサーマルヘッドによる印画出力の濃度および印画出力の文字の輪郭の明瞭度で印画特性の評価結果を示した表1(段落【0013】参照)
c.「高さh1が20μm以下となると、蓄熱層23中におけるガラスの結晶が表面に露出し、蓄熱層23の表面が凹凸となって実用不可能である。また高さh1が40μmを超えると蓄熱作用が増大し、放熱が不十分となり印画品質は低下する。また幅W2が700μmを超えると、やはり蓄熱作用が増大し印画品質は低下する。幅W2が400μm未満となると、蓄熱層23における蓄熱量が過少となり、印画されたキャラクタがかすれることになる。したがって幅W2の最適な条件は400〜600μm、好ましくは500μmとなり、高さh1の最適な条件は25〜35μmで好適には30μmである。」(段落【0015】参照)
が図面とともに記載されている。
イ.参考文献1
参考文献1には、8ドット/mmのサーマルヘッドアレイによる感熱記録方式で、記録紙送り速度を200mm/sとすることが記載されている。
ウ.参考文献2
参考文献2には、高速感熱波形記録装置において、記録紙の送り速度を200mm/sとすることが記載されている。
エ.参考文献3
参考文献3には、山状のグレーズ層は、基板の表面にガラス質のグレーズが印刷焼成されることによって形成されること及びグレーズ層が、幅を240〜625μmの範囲、高さを40〜50μmとすることが記載されている。

(4)判断
ア.主張Aについて、
本件発明1と上記甲第1号証及び参考文献1乃至3に記載された発明とを対比すると、
上記甲第1号証及び参考文献1乃至3のいずれにも、本件発明1の構成要件である、
「印字を10.16cm/sより大きく25.4cm/s未満の速度で行う部分グレーズ式のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドにおいて、グレーズ層は、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間にあり、」
の点について、記載も示唆もされていない。
因みに、甲第1号証の16ドット/mmの密度で複数の発熱素子7が構成されるサーマルヘッド1による印画速度80字/秒(48ドット漢字)は、記録紙送り速度でいえば、24.0cm/sとなり、本件発明1の記録紙送り速度の要件を満たすものといえるものの、甲第1号証の発明は、グレーズ層の幅Wを400μm(0.4mm)未満とすることについては、「400μm未満となると、蓄熱層23における蓄熱量が過少となり、印画されたキャラクタがかすれることになる」として、積極的に排除しており、また、グレーズ層の頂点の高さHを25μm未満とすることについても、「高さh1が20μm以下となると、蓄熱層23中におけるガラスの結晶が表面に露出し、蓄熱層23の表面が凹凸となって実用不可能である」と記載され、また、甲第1号証の表1に依れば、甲第1号証の発明のグレーズ層の高さh1の下限値であるグレーズ層の高さHが25μmが、作成不可(結晶化)の範囲の上限に近いこと(上記(3)ア.b.及びc.参照)を勘案すれば、当該甲第1号証の記載に基づいて、上記点の「グレーズ層は、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間」の数値範囲を選択することが、当業者が容易に想起できることといえない。
そして、本件発明1は、上記「」内の点を構成要件として具備することにより、明細書に記載された「熱放散性が良くしかも発熱領域が大きいので、高速で良好な印字を行えるという利点がある。これに加えて、製造が容易で完成した製品の故障が少ないという利点も有している。」という作用効果を奏するものである。
ゆえに、本件発明1は、甲第1号証または参考文献1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、本件発明2は、本件発明1のサーマルヘッドを備える印字装置であるから、本件発明1の判断と同様な理由で、甲第1号証または参考文献1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
したがって、申立人の主張Aは採用することができない。
イ.主張Bについて、
申立人は、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載が、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでない理由として、以下の旨主張している。
本件特許明細書の段落【0011】等で記載している、グレーズ層に残留した熱による尾引き現象やエネルギーの飽和状態の速さ等の作用効果は、印字を行う速度やグレーズ層の幅・頂点の高さのみならず、グレーズ層の曲率半径や発熱素子の発熱温度、パルス周期、保護膜の有無、保護膜の形状、保護膜の厚み、記録媒体の感熱特性等種々の設計パラメータによって左右されるものであるのに、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、単に印字を行う速度やグレーズ層の幅、頂点の高さだけを限定するだけで、印画品質に影響を及ぼす上記の他の種々の設計パラメータについて限定していないから、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載で規定される発明には、本件特許明細書に記載された作用効果を奏しないものが存在することが明らかであり、したがって、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでない(特許異議申立書3.(4)(IV)の記載不備の理由の項参照)。
そこで、この主張について、検討するに、
主張のうち、グレーズ層に残留した熱による尾引き現象やエネルギーの飽和状態の速さ等の作用効果は、印字を行う速度やグレーズ層の幅・頂点の高さのみならず、グレーズ層の曲率半径や発熱素子の発熱温度、パルス周期、保護膜の有無、保護膜の形状、保護膜の厚み、記録媒体の感熱特性等種々の設計パラメータによって左右されるものである点については誤りではない。
しかし、本件発明1および2が、サーマルプリントヘッド自体の発明及び当該サーマルプリントヘッドを備える印字装置の発明であって、サーマルプリントヘッドの駆動方法の発明でないことを考えると、上記種々の設計パラメータのうち、サーマルプリントヘッド自体の構成に係わるものでない、発熱素子の発熱温度、パルス周期、記録媒体の感熱特性等は、構成に欠くことができない事項でないから、これらが、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されていないということで、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでないとすることができない。
また、印字部の蓄熱及び放熱特性は、山状のグレーズ層の幅と高さで規定されるグレーズ層の容積の大きさによって主に決定されるものであること、また、印字部の蓄熱及び放熱特性が、サーマルヘッド自体に係わるグレーズ層の曲率半径、保護膜の有無、保護膜の形状、保護膜の厚み等によって変化しても、サーマルヘッドの駆動条件を変更すればいいことが明らかであるから、上記種々の設計パラメータのうち、サーマルヘッド自体に係わるグレーズ層の曲率半径、保護膜の有無、保護膜の形状、保護膜の厚み等が、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されていないということで、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものでないとすることができない。
したがって、主張Bは採用することができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明についての係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サーマルプリントヘッド
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 山状の部分グレーズ層を有し、印字を10.16cm/sより大きく25.4cm/s未満の速度で行う部分グレーズ式のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドにおいて、
前記山状のグレーズ層は、セラミック基板の表面にガラス質のグレーズが印刷焼成されることによって形成され、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間にあり、
前記山状のグレーズ層の表層面に沿って薄膜の発熱ドットを形成したことを特徴とするバーコード印刷用のサーマルプリントヘッド。
【請求項2】 請求項1記載のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドを備える印字装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はサーマルプリントヘッド、特に印字効率を向上させるために改良されたグレーズ層を有するバーコード印刷用のサーマルヘッド及びそれを備える装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
サーマルプリントヘッドは、供給される駆動電流により発熱し、感熱紙などに印字を行う。この場合、セラミック基板は熱の放散性が大きいために、蓄熱層としてのグレーズ層を発熱抵抗体の下部に設けるのが一般的である。
【0003】
グレーズ層は、熱が放散してしまうのを防止し、エネルギー効率を高める。もし、このグレーズ層を設けない場合には、印字が行われるまで加熱するために多大なエネルギーを必要とし、このためエネルギー効率が非常に悪くなる。ところがこの一方で、グレーズ層があまりにも大きい場合には、熱の放散性が悪くなり、一度発熱した印字部(発熱部)がなかなか冷却しなくなり、このため残留熱による尾引き現象が生じる。
【0004】
このようにして、サーマルヘッドにおけるグレーズ層は、蓄熱層として働きエネルギー効率を高めるものである反面、印字の品質を低下させる一因ともなる。グレーズ層の形状及びその量の設定は、エネルギー効率及び印字品質との兼合いで決定されるべき重要なポイントである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のサーマルプリントヘッドは冷却時間がおよそ3m秒と長いので、これよりも速い速度で印字を行うことができなかった。印字速度を上げるためには、印字データを一旦メモリしてその内容により印字エネルギーを調整し発熱量を変化させる、いわゆる熱履歴制御が行われていたが、これを用いたとしても0.8m秒程度の記録スピードはほぼ限界であり、しかもこの速度において良好な印字を得ることは困難である。
【0006】
よって、これまでのサーマルプリントヘッドを備えた従来の印字装置では、高速印字した場合の印字品質が十分でなく、特にバーコードを高速印字した場合にはバーの印字に不良が生じ、読取りエラーが発生してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速で良好な印字を得ることができる、バーコードの印字に適したサーマルプリントヘッドを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
以上のような課題を解決するために、本発明に係るサーマルプリントヘッドにおいては、山状の部分グレーズ層を有し、印字を10.16cm/sより大きく25.4cm/s未満の速度で行う部分グレーズ式のバーコード印刷用のサーマルプリントヘッドにおいて、前記山状のグレーズ層は、セラミック基板の表面にガラス質のグレーズが印刷焼成されることによって形成され、その幅が0.1mmより大きく0.4mm未満で、かつ、頂点の高さは15μmより大きく25μm未満の間にあり、前記山状のグレーズ層の表層面に沿って薄膜の発熱ドットを形成したことを特徴とする。
【0009】
本発明は、部分グレーズ層を12μm〜28μmの間で変化させて、飽和濃度が得られるエネルギーを求める試験を行った結果、部分グレーズ層が15μmより大きく25μm未満の範囲にあればほぼ同一のエネルギーで同等の印字品質を得られるという知見に基づいている。すなわち、尾引き現象防止のために冷却時間を短くするだけであればグレーズ層の容積が0に近づけば近づくほど良いが、容積が小さくなればなるほど印字のためのエネルギーは非常に大きくなるので、実際の商品としては成り立たなくなる。また、容積が小さくなった場合には、表面が凸凹のセラミック基板の影響を受けてグレーズ層の欠点数が増え、製造が難しくなるということもある。ところが、グレーズ層の大きさを上記範囲に設定した場合には、このような問題もなく、高速印字を行った場合でも従来と同様のエネルギーで良好な印字品質を得ることができる。
【0010】
従って、これを備えた印字装置は、商品として成立するのは勿論のこと、高速印字を行った場合でも、これまでの印字装置よりもはるかに良好な印字を得ることができる。
【0011】
【作用】
上記範囲に設定された部分グレーズ層を有する本発明のバーコード印刷用のサーマルヘッドにおいては、従来装置と同様のエネルギーで迅速に飽和状態に達し、しかも発熱部(印字部)の冷却時間が短く、残留した熱による尾引き現象が生じなくなる。またこの一方で、従来とほぼ同じ大きさのエネルギーで迅速に飽和状態に達するので、印字のためのエネルギーは従来とほぼ同様であり、しかも製造過程において生ずるグレーズの欠陥も少ないため、商品化に有効である。
【0012】
【実施例】
図1は、本発明の好適な一実施例に係るサーマルプリントヘッドの構造を示す断面図である。
【0013】
本実施例に係るサーマルプリントヘッド10は、セラミック製の基板11と、この上に印刷焼成されたガラス質の部分グレーズ層13を有し、この部分グレーズ層13に発熱抵抗体15が被膜され、この上に共通電極16並びに個別電極17を被覆して形成している。共通電極16並びに個別電極17が被覆されず、発熱抵抗体15が露出している部分は発熱部19を構成する。この発熱部19に感熱紙20が接した場合には、発熱部19の発熱により印字が行われる。発熱抵抗体15、共通電極16及び個別電極17は、蒸着やスパッタなどにより作成する。発熱抵抗体15は、ニッケルクロームその他の種々の抵抗材料を用いる。
【0014】
本実施例において特徴的なことは、グレーズ層13の幅wを0.1mmより大きく0.4mm未満の範囲にし、同時に、その高さhを15μmより大きく25μm未満の間に設定していることである。このような範囲にグレーズ層13の幅w及び高さhを選ぶと、印字エネルギー、印字の鮮明度、印字速度及び製造の容易性などの各要素が非常に理想的になる。
【0015】
発熱部19の下部に設定されている部分グレーズ層13は、発熱効率を上げるために役立つものである反面、印字の品質を低下させる一因ともなる。グレーズ層の形状及びその大きさの設定は、エネルギー効率及び印字品質との兼合いで決定されるべき重要なポイントであり、発熱後の冷却特性及び印字速度等を加味して理想的な範囲を決定する必要がある。本発明者は、この理想的な範囲を追及するために種々の試験を行った。この結果、次のような事実が明らかになった。
【0016】
すなわち、グレーズ層13の頂点の高さhが25μm以上でかつ幅wが0.4mm以上であると、1m秒以下の高速印字を行う場合には残留熱による尾引きが生じ、良好な印字を得ることはできず、このため、バーコードを高速印字(1ラインを1m秒以下で印字)した場合には読取り不良が生じることがある。この一方で、グレーズ層13の頂点の高さhが15μm以下でかつ幅wが0.1mm以下であった場合には、エネルギーの消費量が著しく大きくなり、しかもセラミック基板11表面の凸凹の影響を受けてピンホールなどの発生が増え製造が困難となるので、商品化が困難になる。ところが、本発明者の発見した範囲にグレーズ層13を設定すれば、このような問題はなくなり、非常に良好な特性が得られる。
【0017】
以下に試験結果を説明する。
【0018】
(1)温度特性
図2は、本実施例に係るサーマルヘッドと従来のサーマルヘッドの温度特性を試験した結果を示す図である。この試験では、双方のサーマルヘッドの表面温度が300℃になるように0.51m秒のパルスを加えた後、これを自然冷却した時の降温特性を調べた。電圧と電流は、表面温度がそれぞれ300℃になるように適当に調整した。なお、本実施例に係るサーマルヘッドのグレーズ層の高さhは20μmであり、幅wは350μmである。従来のサーマルヘッドのグレーズ層の高さhは50μmであり、幅wは1000μmである。
【0019】
図2から明らかなように、本実施例に係るサーマルヘッドは約1.3m秒で室温まで降下しているのに対し、従来のサーマルヘッドでは3.5m秒もかかっている。このような差は、連続的なパルスを加えた場合には更に顕著になる(図3)。
【0020】
本実施例のサーマルヘッドは、パルスの印加を繰り返すと直ぐに最高温度と最低温度の値が安定し(この状態を飽和状態という)、非常に良好な印字を行うことができる。すなわち、図3に示されるように、本実施例に係るサーマルヘッドにおいては、5パルス目ぐらいで飽和が起り、立ち上りが非常に良いことがわかる。これに対し、従来のサーマルヘッドでは、11パルス目でやっと安定化し、立ち上りが良好でないことが分る。なお、図3の試験では、パルス幅は0.3m秒に設定されており、パルス周期は0.62m秒に設定されている。最高温度は300℃になるように電圧及び電流を設定している。ここで、通常の感熱紙は静発色特性が70℃程度であり、ヘッドが止った状態では70℃ぐらいで発色が起こる。ところが、ヘッド(あるいは感熱紙)が動いた状態で解読可能な程度に発色させるためには、サーマルヘッドが200℃程度に加熱されることが必要である。このことに鑑みると、従来のサーマルヘッドでは、初期状態では感熱紙の発色が悪くなるが、これとは対照的に、本実施例に係るサーマルヘッドは、印字開始当初から鮮明な印字を感熱紙に対して行うことが可能となる。
【0021】
(2)発熱分布
図4は、本実施例のサーマルヘッドと従来のサーマルヘッドの発熱分布をサーモグラフを用いて観察した結果を示す図である。図4に示されるサーマルヘッドは、シングルドットに設定されており、印加されるパルス幅は0.5m秒である。この図4に示されるように、従来のサーマルヘッドでは発熱部分(色抜き部分)が中心部に集中しているのに対し、本実施例に係るサーマルヘッドでは発熱部分が集中しておらず均一に分散していることが分る。発熱する部分が集中すると、集中した部分のみが高温になるため壊れ易くなる。本実施例に係るサーマルヘッドは、このような発熱部分の集中がないため、従来のサーマルヘッドよりも壊れ難いという利点を有している。ちなみに、本実施例に係るサーマルヘッドは、従来のサーマルヘッドよりもグレーズ層の容積が少ないことになるが、グレーズ層は小さくなったからといって、それに伴って発熱領域が小さくなったわけではないということがこの結果からも明らかである。むしろ、グレーズ層を小さくすることで発熱領域が拡大するということは、注目に値する。
【0022】
(3)周辺ドットの影響
図5は、3ドットのサーマルヘッドを0.5m秒のパルスを加えて発熱させ、その温度分布をサーモグラフで観察した結果を示す図である。図において、影の濃い部分は温度が高い。縦軸と横軸には、温度の高さが線で示されている。
【0023】
この図5に示されるように、本実施例に係るサーマルヘッドにおいては、3個のドットが均一に発熱しているのに対し、従来のサーマルヘッドでは3個のドットのうち真中のドットのみが周囲よりも加熱されてしまっていることが分る。これは、従来のサーマルヘッドではグレーズ層の蓄熱量が大きいため、隣接するグレーズ層の影響を受けて真中のドットが異常加熱するのに対し、本実施例のサーマルヘッドにおいてはグレーズ層が素早く冷却し、熱が残留し難くいため、隣接するドットの影響を受け難いためである。このようにして、本実施例に係るサーマルヘッドは、ドットの数が増えれば増えるほど、全体に亘り均一な印字を行えることが分る。よって、本実施例に係るサーマルヘッドは、多くのドットを設定する印字装置においてその威力を発揮する。
【0024】
(4)印字装置
図6は、本実施例に係るサーマルヘッドの全体像を示す外観図である。
【0025】
図6において、セラミック製の基板11は、取付や加工上の都合から一般に長方形に作成されている。このサーマルヘッドは、矢印32で示した方向あるいは矢印31で示した方向に向って移動する。この際に、適宜発熱する発熱部19を発熱させながら感熱紙などに印字を行う。本実施例においては、発熱部が7個(7ドット)設定されている。このようなサーマルプリントヘッドを備えた印字装置は、既に説明したように、高速印字を良好に行うことができる。具体的には、本発明に係るサーマルヘッドでは冷却時間が約0.5〜0.8m秒と従来の3分の1程度になっているため、従来の装置よりも3倍程度の高速度でも鮮明な印字を行うことができる。従って、熱履歴制御を行わない場合でも、大体1.1m秒より速いスピードで印字を行うことができ、熱履歴制御を行った場合には約0.3m秒程度の非常に速い記録スピードで良好な印字を行うことができる。
【0026】
図7は、本実施例と従来のサーマルヘッドの印字見本を示したものである。この印字は、同一のスピード(0.82m秒/ライン)で熱履歴制御を加えて実施したものである。この図7に示されているように、本実施例に係るサーマルプリントヘッドは、この速度における印字品質が大幅に改善されている。特に、バーコードの横バーの印字においては、尾引きが生じておらず非常に良好である。なお、従来のサーマルプリントヘッドにおいては、10.16cm/s(4インチ/秒)の速度で紙が進むようにした場合にはバーコードの印字にも対応できる印字を行うことができるが、これが15.24cm/s(6インチ/秒)の速度で移動させた場合にはある程度尾引きが生じるようになる。ところが、本実施例に係るサーマルヘッドにおいては、20.32cm/s(8インチ/秒)の速度で紙が進んだ場合でも尾引きがほとんど生じず、良好な印字を行うことができる。ちなみに、本実施例に係るサーマルヘッドでは、25.4cm/s(10インチ/秒)の速度で紙が進んだ場合に、初めて尾引きが生じるようになる。この速度において従来のサーマルヘッドで印字を行うと、バーコードの横の線がつながってしまい読取りが不可能になってしまう。
【0027】
【発明の効果】
以上のようにして、本発明に係るバーコード印刷用のサーマルヘッドにおいては、熱放散性が良くしかも発熱領域が大きいので、高速で良好な印字を行えるという利点がある。これに加えて、製造が容易で完成した製品の故障が少ないという利点も有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の好適な実施例に係るサーマルヘッドの構成を説明する断面図である。
【図2】
本実施例に係るサーマルヘッドの温度特性の試験結果を示す図である。
【図3】
連続パルスを加えたときの温度特性の試験結果を示す図である。
【図4】
サーマルヘッドの発熱時の温度分布をサーモグラフで観察した結果を示す図である。
【図5】
複数個のドットを有するサーマルヘッドが発熱させた時の発熱分布をサーモグラフで観察した結果を示す図である。
【図6】
本実施例に係るサーマルヘッドの外観図である。
【図7】
本実施例に係るサーマルヘッドの印字見本を従来と比較して示した図である。
【符号の説明】
10 サーマルプリントヘッド
11 セラミック基板
13 部分グレーズ層
15 発熱抵抗体
16 共通電極
17 個別電極
19 発熱部
w 幅
h 高さ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-12-09 
出願番号 特願平5-162765
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B41J)
P 1 651・ 534- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 清水 康司
藤井 靖子
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3321249号(P3321249)
権利者 ローム株式会社
発明の名称 サーマルプリントヘッド  
代理人 吉田 研二  
代理人 吉田 研二  
代理人 石田 純  
代理人 石田 純  

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