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審決分類 審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B21D
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B21D
管理番号 1094075
審判番号 審判1999-35580  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-02-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-10-20 
確定日 2004-04-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第2816548号発明「ボス部を有する板金物及びボス部の形成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2816548号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 当事者の求めた審決
1 請求人
結論同旨
2 被請求人
本件審判の請求は、成り立たない。
訴訟費用は、請求人の負担とする。
第2 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人の所有する特許第2816548号の請求項1に係る発明についての特許について、特許法第29条の規定に違反してされたものであることを理由として無効を求めている事案である。
1 手続の経緯
本件特許については、被請求人が、平成4年1月10日に出願した特許出願(特願平4-502789号、以下「原出願」という。)につき、同9年4月28日にその一部を分割して新たな特許出願(特願平9-111340号、以下「本件特許出願」という。)がされ、同10年8月21日に設定の登録がされ、同11年10月20日に請求人により本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする請求がされ、同12年2月14日に被請求人より答弁書が提出され、その後、同12年3月22日付で当審より無効理由が通知され、その指定期間内である同12年5月12日に本件特許出願の登録時の明細書(以下「本件特許明細書」という。)について訂正の請求がされ、同12年7月12日付で当審より訂正拒絶理由が通知された。
2 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載内容
「平坦部から曲げられて一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されていることを特徴とするボス部を有する板金物。」
3 請求人の主張の概要
本件特許の請求項1に係る発明は、原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(実願昭53-16869号(実開昭54-121149号)のマイクロフィルム)又は甲第2号証(特公平2-20340号公報)記載の発明であるか、或いは、甲第1号証、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである。
4 当審の通知した無効理由の概要
本件特許の請求項1に係る発明は、刊行物1(上記甲第1号証)及び刊行物2(原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である橋本明著「プレス作業と型工作法」第3版 昭和34年5月30日 日刊工業新聞社発行(第176〜179頁))記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、無効とすべきである。
5 訂正の請求の内容
被請求人は、訂正請求書において、本件特許明細書を以下のように訂正しようとするものである。
(1) 訂正事項a
特許請求の範囲における請求項1の「曲げられて一体に」を「曲げられて該平坦部の一側方向に一体に」と、また、「高く形成されている」を「高く形成され、かつ前記ボス部の基部の内周面が前記平坦部の他側方向に向けて突出されている」と訂正し、請求項1を全体として次のように訂正する。
「平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成され、かつ前記ボス部の基部の内周面が前記平坦部の他側方向に向けて突出されていることを特徴とするボス部を有する板金物。」
(2) 訂正事項b
段落番号【0005】【課題を解決するための手段】における第1行目の「曲げられて一体に」を「曲げられて該平坦部の一側方向に一体に」と、また、第3行目の「高く形成されている」を「高く形成され、かつ前記ボス部の基部の内周面が前記平坦部の他側方向に向けて突出されている」と訂正する。
(3) 訂正事項c
段落番号【0023】及び段落番号【0028】における第6,7行目の「その高さおよび肉厚はほとんど変化しない。」を「そのボス部6の平坦部8の一側方の上面(ボス部6の先端側が突出している側の面)からの高さおよび肉厚はほとんど変化しないと共に、ボス部6の基部の内周面が平坦部8の他側方の下面方向に向けて突出する。」と訂正する。
6 当審の通知した訂正拒絶理由の概要
訂正された請求項1に係る発明(以下「訂正発明1」という。)は、上記刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに刊行物3(原出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭58-156537号(実開昭60-62627号)のマイクロフィルム)記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正の請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、当該訂正は認められない。
7 被請求人の主張の概要
甲第1号証(刊行物1)及び甲第2号証記載の発明は、「筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されている」ものではなく、また、刊行物2記載のものは、「ボス部の基部の内周面が前記平坦部の他側方向に向けて突出されている」ものではない。
刊行物3記載のボス部3は、バーリング加工によって形成したバーリング部8aの内周面をさらに拡径して、前方鍔部4と後方鍔部6とを形成しているものであるから、その前方鍔部4と後方鍔部6の内周面は上記バーリング部8aの内周面よりさらに拡径することになり、上記バーリング部8aの内周面を後方に突出するものではないのに対して、訂正発明1は、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されている構成であり、ボス部の内径(内周面)が拡径されている構成ではなく、上記刊行物3記載のボス部3とは構成が大きく相違しており、刊行物3記載のボス部3は、訂正発明1のボス部と技術思想も構成も作用効果も大きく相違しているものであって、このような刊行物3記載のボス部3からでは訂正発明1のボス部の動機づけになるものではなく、また、当業者がこのボス部を容易に想到することもできない。
したがって、本件訂正の請求は、容認されるべきものであり、本件審判の請求は、成り立たない。
第3 当審の判断
1 訂正の請求の適否について
(1) 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否
1) 訂正事項aは、イ)本件特許明細書の段落番号【0023】の第6行目及び【0028】の第6行目の「前記平坦部8の材料の一部が流動してくる」の記載、ロ)ボス部6の断面形状、ボス部6の基端側の突出部を受け入れる形の凹部を有する下型14、内型16,20のそれぞれについて記載された図15〜図18、上型24、下型25、内型27のそれぞれについて記載された図19〜図21に基づき、ボス部6の構成をより限定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮に相当し、且つ、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
2) 訂正事項b及び訂正事項cは、上記1)の特許請求の範囲の減縮に対応してなされた発明の詳細な説明の訂正であり、明りょうでない記載の釈明に相当し、且つ、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2) 独立特許要件の判断
1) 訂正発明1
訂正発明1は、訂正された明細書及び本件特許の登録時の図面の記載からみて、第2の5(1)に示す訂正された請求項1に記載されたとおりの「板金物」であると認める。
2) 各刊行物の記載内容
これに対して、当審の通知した訂正拒絶理由に引用した刊行物1、刊行物2及び刊行物3には、それぞれ以下の発明乃至技術的事項が記載されていると認める。
刊行物1:
平坦部から曲げられて一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部を有するVプーリー。
刊行物2:
プレス加工により、平坦部から曲げられて一体に突出された筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているボス部を有する板金物。
刊行物3:
「第4図は、本考案の回転伝達体のハウジング構造をVプーリーに適用した実施例を示すもので、このVプーリーAは一枚の円状鋼板から形成された本体1の中央部に、軸受5を支持するためのボス部3が設けられ、外周部にはリム部9が設けられ、V型の溝9aが形成されている。前記ボス部3は、円状鋼板の中央に穿設された支持孔2を、軸方向前方にバーリングされた前方鍔部4と、この前方鍔部4に連続して後方押出しされた後方鍔部6とからなる。」(明細書第3頁第12行〜第4頁第1行及び第4図参照)
3) 対比
訂正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明は「Vプーリー」であるが、「板金物」と云うこともできるものであるから、両者は、「平坦部から曲げられて該平坦部の一側方向に一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部を有する板金物。」である点で一致し、以下の2点で相違している。
相違点1:
訂正発明1では、ボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているのに対して、刊行物1記載の発明では、ボス部の突出高さとボス部内径の半径寸法との大小関係が明らかでない点。
相違点2:
訂正発明1では、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されているのに対して、刊行物1記載の発明では、そのようになっていない点。
4) 判断
そこで、まず相違点1について検討すると、刊行物2記載の板金物は、平坦部から曲げられて一体に突出された筒状のボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されており、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して訂正発明1のように構成することは、当業者が容易に想到し得る事項である。
次に、相違点2について検討すると、刊行物3記載の事項におけるボス部3は、一枚の円状鋼板から曲げられて形成されており、ボス部3の後方鍔部6は、訂正発明1の平坦部の他側方向に向けて突出されているボス部の基部の内周面を含む部分であることが明らかである。
したがって、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を適用して訂正発明1のように構成することも、当業者が容易に想到し得る事項である。
なお、この点に関して、被請求人は、第2の7に示すように、刊行物3記載のボス部3は、バーリング加工によって形成したバーリング部8aの内周面をさらに拡径して前方鍔部4と後方鍔部6とを形成しているものであるから、その前方鍔部4と後方鍔部6の内周面は上記バーリング部8aの内周面よりさらに拡径することになり、上記バーリング部8aの内周面を後方に突出するものではないのに対して、訂正発明1は、ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されている構成であり、ボス部の内径(内周面)が拡径されている構成ではない旨主張している。
しかしながら、訂正発明1は、先に認定したように「板金物」に関する物の発明であって、そのボス部がどの様な方法で形成されたかは、その構成要件ではないものであるところ、刊行物3記載のボス部3の後方鍔部6は、ボス部の内径(内周面)が拡径されたものであったとしても、平坦部の他側方向に向けて突出されているボス部の基部の内周面を含む部分であることに間違いはなく、「ボス部の基部の内周面が平坦部の他側方向に向けて突出されている」ものであって訂正発明1と異なるところはない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
そして、訂正発明1の採用する構成によってもたらされる効果も、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに刊行物3記載の事項から予期できる程度のものであって格別のものではない。
以上のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物1及び刊行物2記載の発明並びに刊行物3記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) むすび
このように、本件訂正の請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項及び同条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するものの同条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
2 特許無効の請求について
(1) 本件発明1
上記のように、本件訂正の請求は、容認できず、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、第2の2に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「板金物」であると認める。
(2) 各刊行物の記載内容
これに対して、当審の通知した無効理由に引用した刊行物1及び刊行物2には、上記1(2)2)に示す発明が記載されていると認める。
(3) 対比・判断
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、「平坦部から曲げられて一体に突出された回転軸嵌合用の筒状のボス部を有する板金物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点:
本件発明1では、ボス部の突出高さが、ボス部内径の半径寸法よりも長い寸法で高く形成されているのに対して、刊行物1記載の発明では、ボス部の突出高さとボス部内径の半径寸法との大小関係が明らかでない点。
ところで、この相違点は、上記1(2)3)に示す相違点1と同じであり、同4)に示すように当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び刊行物2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるので、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきものである。
よって、本件審判費用の負担については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-10-10 
結審通知日 2000-10-20 
審決日 2000-11-01 
出願番号 特願平9-111340
審決分類 P 1 122・ 832- ZB (B21D)
P 1 122・ 121- ZB (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川端 修加藤 友也福島 和幸  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 鈴木 孝幸
宮崎 侑久
登録日 1998-08-21 
登録番号 特許第2816548号(P2816548)
発明の名称 ボス部を有する板金物及びボス部の形成方法  
代理人 鈴江 正二  
代理人 小林 保  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 大塚 明博  

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