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審決分類 審判 全部無効 一時不再理 審決却下 B23K
管理番号 1094214
審判番号 無効2002-35031  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-01-30 
確定日 2004-04-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第2605154号発明「金属触媒担体を膠着しろう付けする方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.本件特許の経緯
本件特許第2605154号(以下、「本件特許」という。)は、平成1年2月10日の国際特許出願(優先権主張1988年5月31日ドイツ国)であって、平成9年2月13日に登録されたものである。
本件特許については、平成11年1月18日付けで新日本製鐵株式会社より無効審判(平成11年審判第35024号、以下、「先の無効審判」という。)の請求がされ、平成13年3月21日付けで請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする、請求項9に係る発明について審判請求は成り立たないとの審決がされ、この審決は、平成13年7月31日に確定し、登録がされている。

2.本件無効審判の経緯
審判請求人新日本製鐵株式会社は、本件請求項9に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、無効審判を請求した。
これに対して、被請求人は、答弁書提出期間内に、答弁書を提出した。

3.本件特許発明
本件特許の請求項9に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「A.交互に平坦な薄板と波状薄板とからなる層から巻き上げられるか積層され、流体の流れる多数の溝を有する金属触媒担体用のハニカム体を膠着し、ろう付けする方法において、
B.波状薄板が、巻き上げ又は積層される前に、後にろう付けすべき領域として波形円頂部にのみ接着剤又は結合剤を塗布され、
C.波状薄板の波形の一部は波形円頂部の全長にわたって、波形の他の部分は波形円頂部の部分領域にのみ接着剤又は結合剤が塗布され、
D.次いで薄板がハニカム体に巻き上げられるか積層され、
E.ハニカム体にろう粉末が送り込まれ、このろう粉末が接着剤又は結合剤を塗布された領域に付着残留するようにし、
F.余分なろう粉末がハニカム体から除去される
ことを特徴とする金属触媒担体用のハニカム体を膠着しろう付けする方法。」
便宜上、特許請求の範囲を構成要件毎に分説し、各構成要件にA〜Fの符号を付した。

4.審判請求人の主張
請求人は、本件特許発明について、
甲第1号証として米国特許第3479731号明細書(1969年11月25日発行)を、甲第2号証としてドイツ連邦共和国特許出願公開第2924592号明細書(1981年1月15日発行)を、甲第3号証としてドイツ連邦共和国特許公開第3312944号明細書(1984年10月11日発行)を、甲第4号証として「自動車産業レポート」第230号、1990年4月25日株式会社アイアールシー発行、第2-4頁を、甲第5号証として特開昭59-171640号公報を、甲第6号証として実願昭56-17862号(実開昭57-131987号)のマイクロフィルムを、乙第1号証として「SAE TECHNICAL PAPER SERIES」1991年発行、第1-9頁を提示し、
a.本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証、甲第3号証に記載された内容を適用したものに相当するが、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証、甲第3号証に記載された内容を適用することはその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが甲第4〜6号証の記載を参酌することにより容易に推考しうるものであるから、本件特許発明は、甲第1号証乃至6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、
旨主張している。
また、甲第5,6号証の証拠の存在下では前記先の無効審判とは証拠が異なるので、本件審判は前記審決の既判力によって拘束されるものではない、旨主張する。

5.審判被請求人の主張
これに対して被請求人は、無効審判の請求の理由の大部分は、先の無効審判において申し立てられた論拠を繰返しているにすぎないとして、
本件特許発明の構成要件C.は、甲各号証から容易に類推し得たものではない旨主張する。
また、甲第2号証の部分的又は相互的組合わせが適用されることについては、前記先の無効審判の審決において特許庁の判断が既になされていると主張する。

6.請求人の示した甲各号証及び乙第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「本発明は、比較的に狭い接触面、または事実上直線といってよいような接触面で、二つの金属面を互いにロウ付けし、強力で有効且つボイドのない接合を得る方法に関する。さらに詳しく述べれば、本発明は、多くの狭いロウ付け接合部、または事実上直線状のろう付け接合部を必要とし、これら接合部の多くは、従来の手法では事実上アセンブリーの外部から操作できないような、複雑な金属アセンブリーのロウ付け方法に関する。・・・このタイプの製品例としては、ラジエーター、コンデンサー、蓄熱器、及びその他熱交換器類などがある。」(翻訳文第2頁1-13行目)、「ロウ付け合金の粒子がどんなに小さくても、これを金属面に予め塗ると、先ずこの粒子が金属間の密着を妨害してしまうことが観察されている。このような接触箇所が多ければ、それだけ問題が大きくなり、最終的なアセンブリーがガタガタの「緩んだ」状態になってしまい、実際にロウ付けが行える状態ではなくなってしまう。そこで、アセンブリーを加熱してロウ付け合金を溶融させようとしても、それまで未溶融合金の粉が占拠していた金属部材間の空間がロウ付け用のフィレットで完全にシールさせることは不可能である。その結果、接合強度が弱くなり、接合部には多くのボイドが含まれることになる。」(同第3頁9-16行目)、「さらに本発明の目的は、一度組み立ててからロウ付け合金の融点まで加熱しても、各接合部で希望するメタル-メタル接触が得られるように、これらの部材がすぐには位置を変えられないような状況下で、多部材金属アセンブリーをロウ付けして、その形状が事実上直線状の複数の接合部を得る方法を提供することにある。」(同第3頁28行目-第4頁3行目)、「図1に示した蓄熱機ホイールは、排ガスの熱を流入空気へ移すことにより排ガスから熱を回収するために、ガスタービン・エンジンに使用されてきたものである。」(同第5頁9-11行目)、「ハブの外周面14には、波形シート状の金属部材20及び平らな帯シート状の金属部材22がスパイラル状に巻き付けてあり、・・・このチャンネル26を通して、タービンエンジンの排ガス及び吸入空気が交互に流れる。」(同第5頁15-21行目)、「粘着性物質を平板状ステンレス製帯シート部材22の両側に、組立て前に塗布する。」(同第6頁19-20行目)、「この粘着性物質は、必要なら、粘着性物質の添加とロウ付け合金塗布の間で加工操作を中断できるように、少なくとも48時間は乾燥または硬化しないものであることが望ましい。」(同第6頁25-28行目)、「ハブ・メンバーの周囲に、波形帯シート及び平板状帯シートをスパイラル状にしっかりと巻き、」(同第7頁2-3行目)、「波形帯シート20の各頂部30と平板状帯シート22の隣接面との間に、密接したメタル-メタル接触が達成できるように、充分な張力及び圧力がかかるよう注意する。図1及び2に示すように、チャンネル26は、図面に対して垂直に横たわっている。頂部30と平板状帯シート22の間の接触が、それぞれ事実上直線状であることは明らかである。面間圧力により、過剰なエポキシ樹脂を接触面の間から押し出す。」(同第7頁4-9行目)、「適切な張力がかかった状態で、適切なロウ付け合金の粉を未接合のアセンブリーに振りかける。」(同第7頁11-12行目)、「過剰な粉はアセンブリーから流し出し、回収して再度使用する。」(同第7頁17-19行目)、「個々のロウ付け接合部が、蓄熱機ホイールの場合における程互いに近接していない場合、粘着性物質はロウ付けを行う場所だけに塗布すれば充分であることも理解できる。」(同第8頁23-25行目)及び「ロウ付け合金の表面張力によってロウ付け合金が接合部の中またはその周辺に流入することにも期待できる」(同第8頁27-28行目)と記載され、図1及び図2には平板状帯シートと波板状帯シートを巻き上げ、流体の流れる多数の溝を有するハニカム体が記載されている。
甲第2号証には、「本発明は触媒材料を層状に被覆してあり、平滑な鋼板と波打ち鋼板とが交互に層をなして重なっていて、個々の板層がスポット溶接(点ろう接)的にあるいは全面溶接的に互いに上下にろう接されている、高温に耐える耐熱鋼板から形成される自動車内燃機関の排ガス浄化用触媒反応装置の一構成部分である担体マトリリックスの製造方法に関するものである。」(翻訳文第5頁8-12行目)、「鋼板の交互層状重ね合わせに先立って、その都度平滑な鋼板と波打ち鋼板とのうちの少なくとも一枚の鋼板にろうを施すこと、施ろうは波打ち鋼板の波の向きあるいはこれに垂直な向きに細長く行うこと、そして引き続きマトリックスを加熱して互いに上下に接するすべての層の同時ろう接を実現すること」(同第5頁25-29行目)、「もっぱら平滑な鋼板の縦方向に伸び通る細長い帯状の部分にのみろうを被着する様にすれば、ろうの節約になって有利である。」(同第6頁8-9行目)、「最初の実施例によれば、ろうを波打ち鋼板の丸みを帯びた各波頭部の全長にわたり被着する。これに反して一変容によれば、ろうを波打ち鋼板の丸みを帯びた各波頭部の全長をいくつかに区分したその一つだけ又はいくつかにわたり被着するにとどめる。」(同第6頁17-20行目)、「ろうを被着する前に、ろうを被着する予定位置に供給装置によりバインダー(結合剤)あるいは接着剤を塗り付けておく」(同第6頁22-24行目)、「ろうの被着には粉末状のろうを使用しこれを分散装置にかけてろう被着を施すのが目的にかなう。」(同第6頁28-29行目)、「図3は、波打ち鋼板の丸みを帯びた波頭部への液状ろうペーストの被着を示す。図4は、丸みを帯びた各波頭部の全長をいくつかに区分した一つだけ又はいくつかへのろうの被着を示す。」(同第8頁27-29行目)、「部分的被着は、機械的および熱的な強さが十分であれば、ろうの消費量が少なくなるという利点に加えて、母材のごく小部分(数%程度)がろうで覆われるに過ぎずこのため後刻の積層を顧慮するとき母材の性質が高度に維持されるという利点もある。」(同第10頁10-13行目)、「ろうの過剰適用は合金化を招く恐れがある」(同第12頁25-26行目)及び「本発明は、以上に図示し又説明したプロセス手段および特徴に限られるものではない。本発明は、一切の専門的変容と更なる進展ならびに部分的そして相互的組み合わせをも包含する。」(同第14頁5-7行目)と記載され、第2図にはハニカム体の内部でハニカム体の端面から距離をおいて延びる条片状の被着領域が、第3図にはろうを波打ち鋼板の丸みを帯びた波頭部36´に被着する状況が、第4図にはろうを波頭部の両端部及び中央の3部位36”に被着する状況が、第5図にはバインダーあるいは接着剤用タンク37,39からバインダー被着ロール38,40を経て波帯2にバインダーあるいは接着剤が塗り付けられ、次いで粉末状ろう分散装置41によってろうが被着される状況が、それぞれ示されている。
甲第3号証には、内燃機関の排ガス浄化用触媒の金属担体に関し、「本発明の課題は、使用時に高い熱負荷のもとでも繰り返し塑性変形を受けず、上記の欠点を回避する上記の基本的構造を持つ排ガス触媒のための金属担体ケーシングを作ることである。」(翻訳文第3頁13-15行目)、「明らかになったのは、平滑帯板と波形帯板のすべての接触箇所を継ぎ合わせ方式で接合すると、きわめて急峻な形が生まれ、これが、熱的および機械的な繰返し負荷を受けたときにジャケットによるひずみ阻止のゆえに繰返し塑性変形にさらされ、その結果、マトリクスセル壁のひび割れによる損傷が生じるということになる。ところが、本発明の提案では、接触箇所が部分的にしか継ぎ合わせ方式で接合されていないので、その次の接合箇所までにかなり大きな距離が生じ、それがしかも、波形帯板または湾曲帯板の帯からなる。このようにして、図に則してなお詳細に分かる通り、熱的および機械的な繰返し応力を受けた時に塑性変形をこうむる代わりにいよいよ弾性変形をこうむるだけとすることが可能である。冷却時、すなわち担体マトリクスの収縮時、継ぎ合わせ方式で接合されないセル構造の接触点は互いに少し浮き上がり、そうすることで、セル壁とその接合箇所において強い引張力を避ける。」(同第3頁22行目-第4頁5行目)、「第1図は、波形帯板と平滑帯板を交互に巻いた、基本的に従来公知の触媒担体の2つの状態の概略を示す。図示してあるのは、平滑帯板(1)の3つの部分と、その間に位置する波形帯板(2)の3つの部分である。こうして巻かれた帯板は、縦方向において開かれた多数のマトリクスセル(10)を形成し、この中を内燃機関の排ガスが通せるようになっている。」(同第6頁2-6行目)、「このような排ガス触媒のための金属担体ケーシングの本発明による一実施態様では、波形帯板と平滑帯板の間の接触箇所がすべて継ぎ合わせ方式で接合されているのでなく、そのうちの少しがほぼ同じ間隔で接合されているだけである。第1図が示す通り、各波形板の波形のいくつかが外側の平滑帯板と、例えばはんだ付け、溶接または接着によって接合され(3)、残りが内側の帯板と接合箇所(4)で接合されている。かかる接合箇所の間にそれぞれいくつかの、継ぎ合わせ方式で互いに接合されていない接触箇所がある。このような継ぎ合わせ方式の接合が触媒の低温状態にとってどのように働くかは、第2図に示してある。」(第7頁7-21行目参照)及び「第3図では、後に巻かれる担体の半径方向に接合点(6および7、8および9)が交互に配置されている上、縦方向にも接合がある。もちろん、接合箇所はそれぞれ隣接する波形の山のいくつかに及んでいても、縦方向の寸法が図示されたより大きくてもよい。」(同第7頁10-13行目)と記載されている。
甲第4号証には、「排気系を中心に急増、ステンレス部品の生産状況ー触媒担体ー」と題して「メタルハニカムは、85年より西独・ベンツがFe(鉄)-Cr(クロム)-Al(アルミニウム)系合金を素材としたものを採用、86年には米・GMのACスパークプラグ事業部が中心となり鉄製のメタルハニカムを開発しGMはセラミックス製と同等の価格を設定して、日本の自動車メーカーに採用を働きかけた経緯がある。日本では、日産自動車が超薄面のステンレス箔を使ったものを88年9月に新設定したセフィーロのRB20DETエンジン搭載車に初めて採用した。」(第3頁下から20-15行目)と記載されている。
甲第5号証には、不接着部分を剥離可能とした新規な多層合紙に関し、「従来、複数枚の紙を貼り合せてなる多層合紙の構造そのものについては公知であるが、従来の多層合紙は全面を均一に接着してこそ合紙となり得るものであるから、不接着部分を設けることは合紙の目的から見て考えられなかった。合紙は如何にして均一な接着をするかが課題であって、不接着部分を除去し部分剥離のない積層体としたのが良質のものとされている。この発明は従来の合紙の目的に反して適宜の個所に故意に不接着部分を設け、この不接着部分を剥離可能としたことを特徴とする。」(第1頁右下欄9-19行目)及び「この感熱接着剤5による接着部分6と感熱接着剤5が塗布されていない不接着部分7を有する。」(第2頁右上欄3-5行目)と記載され、第1〜4図には、額縁上の部分的な接着領域としたものが開示されている。
甲第6号証には、扉や雨戸等に使用されるハニカム芯材の断熱パネルの改良に関し、「このようなポリウレタン等の断熱部材の一面に板部材を剛接合により組付けた断熱部材の他方の面をハニカム芯材のパネル部材に組付ける場合、全面接着等の剛接合で組付けると、断熱パネルの内外に温度差を生じた場合、見掛け上2つのサンドイッチパネル(ハニカム材を芯材とするサンドイッチパネルと断熱材を芯材とするサンドイッチパネル)が熱変形する形となり、2つのサンドイッチパネルの曲げ剛性が均り合った状態の反りを生じてしまい、断熱材を組付ける効果が減少してしまう欠点がある。また接着しないで組付けると、断熱材が自重で変形し外面が波形となり見苦しい欠点がある。このような欠点を本考案の特徴とする柔接合すなわち全面積の約5〜35%で全面にほぼ均一に分布せる断続的な面積部分で接着することにより解決したのである。」(明細書第5頁9行目-第6頁9行目)「強度部材3と断熱部材6との柔接合は、本考案の特徴として全面接合ではなく、断続的な面積部分7にてフェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、メラミン樹脂系、合成ゴム系の適当な接着剤により行われる。(同第9頁13行目-第10頁2行目)及び「このような接合面積部分7は個々に等しい面積である必要はなく、また略正方形として示したが何れの形状でもよく、さらに配列法についても千鳥状でもよい。」(同第10頁6-9行目)と記載されており、第6図及び第7図にそれぞれ、帯状及び格子状の部分接合領域の例が示されている。
乙第1号証には、「金属担体でのろう付け構造の開発」の項に、「平坦な薄板及び波形薄板の一対がら旋状に巻き上げられ、ハニカム・コアにろう付けされる。このハニカム・コアの一番外側の薄板はジャケットにろう付けされた平坦な薄板であった。熱応力/ひずみを減少させるためには波形薄板と平坦な薄板とがどこでろう付けされ又はろう付けされないかが重要である。3種類のろう付け構造が機械的耐久性を評価するために設計された。これらは図14(a),(b)及び(c)に概略的に示されている。上述した3種類の金属担体はエンジン台を用いて耐久性を試験された。図14(a)に示されたろう付け構造は主として半径方向の熱応力を減少させることを狙っている。図14(b)に示された第2番目はハニカム・コアの外側部分を強化するために設計され、それゆえこの外側部分は長手方向に沿って入口側から出口側へろう付けされている。強化された外側部分は以下においては″強化外側層″と称される。図14(c)に示された第3番目は入口側のみがろう付けされ、出口がろう付けされていない。この非対称ろう付け設計は長手方向の熱応力/ひずみを減少させることを意図されている。耐久性試験の結果は表4にまとめられている。」(翻訳文第1頁3-17行目)及び「ジャケットからのハニカム・コアの変位は金属担体Aでは150回の繰返し前に生じた。この変位は図15に示されている。金属担体B、Cは900回の繰返し後もこのような変位を生じなかった。金属担体Bはしかしながらハニカム・コアの一部を入口側に押出された。この報告書では後で″押出し″と称するこのような現象は図16に示されている。金属担体Cは変位も押出しも生じない。」(同第2頁1-5行目)と記載され、図14に(a)〜(c)の3種類のろう付構造金属担体の縦断面図が示されている。

7.一事不再理についての判断
本件無効審判の請求が、特許法第167条の規定に違反してなされたものであるか否かについて判断する。
(1)前記先の無効審判の請求項9に係る発明についての当事者の主張及び審決の理由は、それぞれ、以下、a〜cのとおりである。
a.審判請求人は、甲第1号証として米国特許第3479731号明細書(1969年11月25日発行)を、甲第2号証としてドイツ連邦共和国特許出願公開第2924592号明細書(1981年1月15日発行)を、甲第3号証としてドイツ連邦共和国特許公開第3312944号明細書(1984年10月11日発行)を、甲第4号証として欧州特許公開第49489号パンフレット(1982年4月14日発行)を、第5号証として「自動車産業レポート」第230号、1990年4月25日株式会社アイアールシー発行、第2-4頁を、甲第6号証として日本規格協会編「JIS用語辞典 V 金属・化学・窯業編」1978年11月1日財団法人日本規格協会発行、第531頁を、甲第7号証としてろう接の生産技術編集委員会編「ろう接の生産技術」1982年5月30日溶接新聞社発行、第434-435頁を、甲第8号証として日本機械学会編「機械工学便覧 改定第6版」昭和52年7月15日社団法人日本機械学会発行、第14編118-119頁を、甲第9号証としてろう接の生産技術委員会編「ろう接の生産技術」1982年5月30日溶接新聞社発行、第19-21、96、102-105、187-189、378-379頁を、及び甲第10号証として特公昭55-50706号公報を提示し、
本件請求項9に係る発明は、平成8年8月23日付け手続補正により新たに付加された請求項であり、出願当初の明細書及び図面には、巻き上げ前における膠着処理の種々の可能性と、その可能性を組み合わせることが記載されている。そして、請求項9に係る発明の構成は、これら種々の可能性のうちの特定のものを組み合わせたものであるが、出願当初の明細書及び図面には、この特定の組合わせを特に指定したものは記載されておらず、またその組合わせによっていかなる有利な効果が得られるかについては記載がない。また、甲第2号証には、巻き上げ前における膠着処理の種々の可能性と、その可能性を組み合わせることが記載されている。したがって、請求項9に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
旨主張した。
b.被請求人は、乙第1号証として、乙第1号証として「SAE TECHNICAL PAPER SERIES」1991年発行、第1-9頁を提示し、
請求項9について、甲第2号証及び甲第3号証のいずれにも、2つの異なった形状の接着剤塗布を同一の薄板で同時に行なうことは、記載されていないから、審判請求人の主張は理由がない。また、無効審判請求人である新日本製鐵株式会社に勤務している者の執筆した乙第1号証からも、請求項9に係る発明に特許性があることが証明される。
旨主張した。
c.審決は、請求項9に係る発明と、甲第1〜10号証に記載されたものとを対比すると、前記甲各号証には、請求項9に係る発明の必須の構成である「波状薄板が、巻き上げ又は積層される前に、後にろう付けすべき領域として波形円頂部にのみ接着剤又は結合剤を塗布され、波状薄板の波形の一部は波形円頂部の全長にわたって、波形の他の部分は波形円頂部の部分領域にのみ接着剤又は結合剤が塗布され」る構成が記載されておらず、かつ、該構成が示唆されているとすることもできない。
甲第2号証には、「最初の実施例によれば、ろうを波打ち鋼板の丸みを帯びた各波頭部の全長にわたり被着する。これに反して一変容によれば、ろうを波打ち鋼板の丸みを帯びた各波頭部の全長をいくつかに区分したその一つだけ又はいくつかにわたり被着するにとどめる。」(第7頁32-36行目参照)、「図3は、波打ち鋼板の丸みを帯びた波頭部への液状ろうペーストの被着を示す。図4は、丸みを帯びた各波頭部の全長をいくつかに区分した一つだけ又はいくつかへのろうの被着を示す。」(第10頁30-34行目参照)と記載され、図3には、全ての波頭部の全長にわたってろうが被着されたものが、図4には、全ての波頭部の長さ方向の一部のみにろうが被着されたものが示されており、また、「本発明は、以上に図示し又説明したプロセス手段及び特徴に限られるものではない。本発明は、一切の専門的変容とさらなる進展並びに部分的そして相互的組合わせをも包含する。」(第16頁36行目-第12頁3行目参照)と記載されているが、当該第16頁36行目-第12頁3行目の記載は、特許明細書に一般的に使用される常套句であって、特別に意味のあるものではなく、この記載が、図3に示されたものと図4に示されたものとの組合わせを直接に示唆するといえるものではない。また、図3に示されたものと、図4に示されたものとは、いずれも、全ての波頭部にろうが被着されるものであるから、これを重ね合わせれば、図3に示されたろうの被着状態となってしまうから、甲第2号証に記載されたものにおいて、図3に示されたものと、図4に示されたものとを組み合わせることを予定しているとは認められない。
なお、審判請求人は、本件特許の出願当初の明細書と、甲第2号証の記載とを対比し、本件特許の出願当初の明細書と甲第2号証との記載は実質的に異なることはないから、出願当初の明細書に記載された範囲内の発明である請求項9に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に推考しうるものである旨主張するが、本件特許に係る出願の出願当初の明細書には、「まだ完全には巻き上げられていない薄板1、2の部分片を用いて、巻き上げ前における膠着処理の種々の可能性を図面で説明する。1つの膠着処理法は例えば平坦な薄板1の縁帯域3、4で行なうが、巻き上げるべきハニカム体8の内部における条片部5でも可能である。さらに波状薄板2を膠着することも好ましく、この場合にも多くの可能性が提案される。接着剤又は結合材は波形の円頂部にのみ塗布することが好ましい。これは膠着された帯域6に図示されているように、薄板の全幅にわたっていてよい。他の可能性は、帯域7によって図示されているように、薄板の縁帯域で全ての円頂部又は間隔を置いて若干の円頂部をろう付することである。上記の可能性を組み合わせることも有利である。」(第5頁3?14行目)と記載され、接着剤又は結合材の塗布の複数の可能性と、「上記の可能性を組み合わせることも有利である。」との、それら可能性の組合わせを直接示唆する記載があり、また、甲第2号証には記載がない、「間隔を置いて若干の円頂部をろう付けするもの」が可能性として記載されていることからすると、本件特許の出願当初の明細書と甲第2号証の記載が実質的に同一であるとする審判請求人の主張は採用できない。
したがって、本件特許発明は、前記甲第各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
との理由により、請求項9に係る発明についての審判請求は成り立たないとした。

(3)本件無効審判において提示された甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証は、それぞれ先の無効審判において審判請求人が提示した甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証と同一である。
また、本件無効審判において提示された乙第1号証は、先の無効審判において被請求人が提示した乙第1号証と同一である。
本件無効審判において提示された甲第5号証及び甲第6号証は、先の無効審判において提示されていない。

(4)そこで、甲第5号証及び甲第6号証について検討する。
無効審判請求の理由における甲第5号証及び甲第6号証の位置付けについてみると、本件特許発明が、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証、甲第3号証に記載された内容を適用したものに相当することを前提として、この適用容易性の根拠を甲第5号証及び甲第6号証に記載された内容に求めるものと認められる(審判請求書第21頁25-29行目)。
そして、甲第5号証及び甲第6号証について審判請求書には、「二つの部材を接合するにあたり、接着剤の塗布領域を全面とすることなく構成Cの塗布領域に相当する額縁状や格子状等の塗布領域とすることは、甲第5号証や甲第6号証にも記載されているように格別新規な事項ではない。即ち、全面を均一に接着することが通常である接着方法において、故意に不接着部分を設け額縁状に接着することは甲第5号証に記載されており、また、全面を接着することに代えて縦方向(帯状)、縦方向と横方向(格子状)、島状、千鳥状等の部分的に接着することが甲第6号証に記載されている。つまり、二つの部材を接着する際には、全面接着する場合以外にも、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することは、甲第5号証及び甲第6号証にも開示されるように本件特許出願前から当業者が任意に行なう常套手段であるから、ろうの節約を主たる目的として請求項9の発明の構成Cのように接着剤の塗布領域を想定することは格別の創作力を要するものではなく、当業者が任意になし得る程度のことである。」(同第18頁下から10行目-第19頁3行目)と記載されていることから、甲第5号証及び甲第6号証は、二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することがあるということが、当業者において、本件特許出願前から慣用されていた技術であるという事実を証するためのものと認められる。

(5)ところで、周知・慣用の技術とは、本来当業者が熟知している事項であって、当業者の常識とも言うべきものである。そして、本件審判請求における甲第5号証及び甲第6号証によって、慣用技術であると立証しようとする「二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することがあるということ」は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載されている技術という具体的事実のもとに、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証、甲第3号証に記載された内容を適用することが容易であるとの結論を導き出すための論理過程を具体的に説明する際に用いられた常識というべきものであって、特許法第167条の「事実」にあたるものではない。
また、例え前記慣用技術が、特許法第167条の「事実」にあたるものであったとしても、特許法第29条第2項の発明の進歩性の判断において、複数の文献にそれぞれ記載された発明の組合わせが容易であるか否かを判断する際には、当業者において、周知又は慣用されている技術を考慮することは、当然であり、二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することが当業者に慣用されていることは、先の無効審判においても、当然に事実として認定し、判断されているものである。しかも、二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することがあることは、当業者のみならず、一般に慣用されていると言い得るものであるから、格別に主張がないからといって、無効審判の請求において、事実としての主張がなかったと言い得るものではない。
したがって、二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することがあることが、当業者において、本件特許出願前から慣用されていた技術であるという事実及びこのような慣用技術が甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証、甲第3号証に記載された内容を適用する際の容易性の根拠となるという事実は、先の無効審判において、主張され、判断の根拠とされていたものである。

(6)当業者において、周知又は慣用の技術とは、証拠を示すまでもなく、当業者であれば熟知しているものである。そして、前記(5)のとおり、二つの部材を接着する際に、必要に応じて任意の形状の接着領域で部分的に接着することがあることは、特許法第167条の「事実」にはあたらず、また「事実」にあたるとしても、当該事実が、既に、先の無効審判において、既に主張され、判断の根拠とされていた以上、甲第5号証及び甲第6号証を、実質的に新たな証拠とすることはできない。

(7)以上のとおりであるから、本件無効審判の請求は、実質的に、前記先の無効審判と同一の事実及び同一の証拠に基づいて審判を請求したものと認められる。

8.結論
したがって、本件審判請求は、特許法第167条の規定に違反してされた不適法な審判請求であるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
よって結論の通り審決する。
審判費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-12-06 
結審通知日 2002-12-11 
審決日 2002-12-26 
出願番号 特願平1-501872
審決分類 P 1 112・ 07- X (B23K)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 宮崎 侑久
三原 彰英
登録日 1997-02-13 
登録番号 特許第2605154号(P2605154)
発明の名称 金属触媒担体を膠着しろう付けする方法  
代理人 田中 久喬  
代理人 山口 巖  
代理人 内藤 俊太  

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