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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 発明同一  H01B
管理番号 1094606
異議申立番号 異議2003-70961  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2004-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3334240号「導電ペースト組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3334240号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3334240号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年3月31日に特許出願され、平成14年8月2日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、雨山範子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成15年10月20日付けで訂正請求がなされたが、訂正明細書の請求項1に記載不備が発見されたので、再度取消理由通知がなされ、平成15年10月20日付け訂正請求書が取り下げられると共に、再度平成16年1月20日付けで訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
平成16年1月20日付け訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至eのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:請求項1の「Pd粉」を「多結晶のPd粉」と訂正する。
(2)訂正事項b:特許明細書の段落【0004】の「Pd粉」を「多結晶のPd粉」と訂正する。
(3)訂正事項c:特許明細書の段落【0005】の「Pd粉は単結晶でもその微結晶が多い程、多結晶でも」を「Pd粉は多結晶でも」と訂正する。
(4)訂正事項d:特許明細書の段落【0005】の「この微結晶あるいは微結晶粒」を「この微結晶粒」と訂正する。
(5)訂正事項e:特許明細書の段落【0010】の「出願人製造のPd粉」を「出願人製造の多結晶Pd粉」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1の「Pd粉」を「多結晶のPd粉」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項b乃至eは、上記特許請求の範囲の減縮に伴って特許明細書の記載をその特許請求の範囲の内容と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、上記訂正事項a乃至eは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、いずれも新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件訂正発明
本件請求項1に係る発明は、上記訂正を認容することができるから、訂正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」という)。
「【請求項1】結晶子径が600Å以上であり、平均粒径が0.4〜1μmである多結晶のPd粉を導電粉末として含有する導電ペースト組成物。」
4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証を提出して、次のとおり主張している。
(1)訂正前の請求項1に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に公開された出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という)である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書には、本件発明の「Pd粉」の具体的な製造方法について何ら記載されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていないから、本件特許明細書は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
4-2.証拠の記載内容
(1)甲第1号証:特願平4-310734号(特開平6-124847号公報)
(a)「本発明者は、導電体粒子であるPd粉末についてその酸化を詳細に検討した。従来使用されているPd微粉末は、単分散された1μm前後の球形の微粒子であるにもかかわらず、その内部構造は30nm程度の微結晶からなる多結晶粒子である。この粒子は、粒子表面および多結晶粒界から酸素が拡散する速度が非常に速い為、10℃/minの昇温速度で加温された時、800℃でほぼ100%酸化された状態となる。この酸化により全体の重量は15%増加する。」(段落【0005】)
(b)「本発明者はさらに研究した結果、導電粒子として多結晶粒子を使用する限りこの酸化膨張は防止出来ないことを知り、粒子の結晶性を向上することを考えた。」(段落【0007】)
(c)「この製造法により得られる粉末は研究の結果、従来粉末の30nm程の微結晶からなる多結晶粒子ではなく、実質的に単結晶粒子であった。この粒子は、単結晶であるので結晶粒界がなく、酸素の拡散は粒表面からの体積拡散のみとなり、酸化による膨脹が非常に少ない特徴を有している。この単結晶粒子を使用するとコンデンサの体積膨脹が小さく長さ方向で0.2%程度で従来の最も膨脹の小さいコンデンサが0.6%であったことからみると1/3の膨脹しか発生しない。」(段落【0008】
(d)「実施例1
硝酸パラジウムの1mol/l水溶液を噴霧して微小液滴となし、この液滴を1650℃に加熱された炉中に導きパラジウムを含んだ液滴が分解し、生成したPd粒子が融点より高い温度になるまで加熱されるに十分な滞留時間をもって通過させる。これによって生成した単分散状態のPd粒子をX線回折計および高分解能SEMで観察した結果、粒子径0.5〜1.0μmのほぼ単結晶状態にあるPd微粒子であることがわかった。・・・次にこの粉末100重量部にエチルセルロースを用いたビヒクル90重量部を加え、三本ロールミルを用いてペースト化を行なった。このペーストをチタン酸バリウムを主成分とするセラミックグリーンシートに印刷し、乾燥したものを60層重ね合わせて60℃、100Kg/cm2で熱プレスして、積層セラミックコンデンサのグリーンチップを得た。」(段落【0010】)
4-3.当審の判断
(1)上記(1)の主張について
先願明細書の上記(d)には、粒子径0.5〜1.0μmのほぼ単結晶のPd粉をペースト化してセラミックグリーンシートに印刷しこれを乾燥・積層して積層セラミックコンデンサのグリーンチップを得たことが記載されているから、先願明細書には、「平均粒径が0.5〜1.0μmである単結晶のPd粉を導電粉末として含有する導電ペースト組成物」の発明(以下、「先願明細書発明1」という)が記載されていると云えるが、この先願明細書発明1は、その結晶状態が「単結晶」であるから、「多結晶」の本件訂正発明1とは別異の発明であると云うべきである。
また、先願明細書の上記(a)には、従来粉末として「1μm前後の球形の微粒子であるにもかかわらず、その内部構造は30nm程度の微結晶からなる多結晶粒子」のPd粉も記載されているから、先願明細書には、「結晶子径が300Åであり、平均粒径が1.0μmである多結晶のPd粉を導電粉末として含有する導電ペースト組成物」の発明(以下、「先願明細書発明2」という)も記載されていると云えるが、この先願明細書発明2は、その結晶子径が300Åであるから、本件訂正発明1の「結晶子径が600Å以上」という条件を満足するものではない。また、本件訂正発明1では、この「結晶子径が600Å以上」という条件によって、特許明細書の「結晶子径が600Å以上のPd粉は、結晶子径が600Å未満のPd粉に比して酸化率が少ないことが分かった。」(段落【0007】)という記載や表1の結果から明らかなように、Pd粉の酸化抑制という効果が発揮されるものであるが、これに対し、先願明細書発明2では、先願明細書の上記(b)の「導電粒子として多結晶粒子を使用する限りこの酸化膨張は防止出来ないことを知り、粒子の結晶性を向上することを考えた。」という記載から明らかなように、Pd粉の酸化抑制という効果が期待できないから、本件訂正発明1は、その効果の点でも先願明細書発明2とは相違していると云うべきである。
してみると、本件訂正発明1は、先願明細書に記載された上記いずれの発明とも相違しているから、先願明細書に記載された発明であるとすることはできない。
したがって、特許異議申立人の上記(1)の主張は採用することができない。
(2)上記(2)の主張について
訂正された特許明細書には、多結晶のPd粉の結晶子径(結晶粒子径)を「600Å以上」とする具体的な手段について記載されていないが、多結晶の結晶粒子径の制御は、その温度条件等の製造条件を調整して一般的に行われていることであるから、特許明細書に具体的な手段が記載されていなくとも当業者であれば容易に実施することができると云うべきである。
したがって、特許異議申立人の上記(2)の主張も採用することができない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電ペースト組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶子径が600Å以上であり、平均粒径が0.4〜1μmである多結晶のPb粉を導電粉末として含有する導電ペースト組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、Pd粉を導電材料とする、特に積層セラミックコンデンサーの内部電極を形成するに好適な導電ペースト組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
Pd粉は約500℃から酸化し始め体積膨張し、800℃を超えると逆に還元して体積収縮する。そのため、例えば積層セラミックコンデンサーの内部電極形成用の、Pd粉を導電材料とする導電ペースト組成物においては、温度1300〜1500℃で焼成して内部電極を形成する過程で、Pd粉の酸化程度が大きい程、Pdの酸化に起因する体積膨張のために、内部電極と誘電体との界面でデラミネーションと呼ばれている剥離が生じ易くなる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、デラミネーションの発生が極めて少ないPd粉を含有する導電ペースト組成物を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の導電ペースト組成物において、結晶子径が600Å以上であり、平均粒径が0.4〜1μmである多結晶のPb粉を導電粉末として含有する導電ペースト組成物にある。
【0005】
【作用】
本発明は、Pb粉は多結晶でもその結晶粒が極めて細かい程、Pd粉中に多くの欠陥が存在するため酸化量が大きくなることに着目したものである。この微結晶粒の大きさは結晶子径と呼ばれている。この結晶子径は光学顕微鏡では測定できず、Scherrer法として知られているX線回析により測定される。この方法は、結晶の内部欠陥のために回析線が散乱され回析ピークの幅が広がることを利用して結晶子径を評価するものである。
【0006】
そして、出願人の製造した種々のPd粉の結晶子径を測定し、種々の結晶子径を有するPd粉約20gを試料として、熱重量分析装置により、窒素流量500ml/分で、500℃まで昇温速度100℃/分で昇温後、空気流量200ml/分に切り替え100分保持した後の重量を測定し、重量増加率を調べた。その結果を表1に示す。
【0007】
その結果、結晶子径が600Å以上のPd粉は、結晶子径が600Å未満のPd粉に比して酸化率が少ないことが分かった。この結果に基づいて、導電ペースト組成物を作成しデラミネーションの発生率を調べた結果、結晶子径が600Å以上のPd粉を使用すればデラミネーションの発生率を極めて少なくできることを見いだしたものである。
【0008】
しかしながら、Pd粉の平均粒径は0.4μm未満であると酸化率が大きくなり、一方1μmを超えると電極形成直後の電極厚みを薄くすることが困難となるので、Pd粉の平均粒径は0.4〜1μmのものを用いるのがよい。
【0009】
本発明導電ペースト組成物は、Pd粉とビヒクルとからなるか、Pd粉と銀粉、或はPd粉とRuO2粉、ガラス粉末、ビヒクル等とからなるものであってもよく、Pd粉その他の配合割合は、通常用いられている範囲が用いられる。
【0010】
【実施例】
出願人製造の多結晶Pb粉を走査型電子顕微鏡によりランダムに選んだ100個の粒子径を測定してその平均を平均粒径とした。このPd粉は凝集しておらず完全に分散していた。
【0011】
次に各平均粒径の結晶子径を測定した。測定はX線回析装置(理学電気株式会社製の商品名RAD-rVD)を使用し、CuターゲットとDS(ダイバージェントスリット)1deg.RS(レシービングスリット)0.3mmのスリットを使用し、測定条件は電圧40kV、電流150mA、スキャンスピード2deg/minで測定した。
【0012】
測定板面は(111)ピークを測定し、コンピュータソフト(株式会社リガク、RAD-Bシステムアプリケーションソフト Kα1Kα2のピーク分離プログラム)により分離したKα1プロフィルを用いて、Scherrer法により結晶子径を測定した。
【0013】
なお、Scherrerの式 R=0.9・λ/B・cosθ におけるBはB2=Bm2-Bs2を採用し、Rは結晶子径、λはX線の波長、θは回析角、Bmは測定された半値幅、Bsは標準試料の半値幅である。標準試料は粒径約0.25μmのα石英を約800℃でアニールしたものを利用した。表1にそれぞれのPd粉の結晶子径と平均粒径、前記の酸化率を示す。
【0014】
次に、表1に示す各Pd粉50gと、約15重量%のエチルセルロースを含むターピネオール32.85gとを三本ロールミルで30分間混練した後、ミネラルスプリッツ16gを添加して更に10分間混練して導電ペースト組成物を作った。
【0015】
厚さ30μmのチタン酸バリウム系セラミック上に、内部電極として上記の導電ペースト組成物をスクリーン印刷し、これを30層積層し、1300℃で焼成して5mm×3mmの積層セラミックコンデンサーを各20個ずつ作成し、デラミネーション発生率を調べた。尚、焼成した内部電極の厚さは2.5〜3μmである。結果を併せて表1に示す。これによると、本発明導電ペースト組成物によれば、デラミネーションの発生が極めて少ないことが分かる。
【0016】
【表1】

【0017】
【発明の効果】
本発明によれば、デラミネーション発生率の極めて小さい導電ペースト組成物を提供できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-22 
出願番号 特願平5-97200
審決分類 P 1 651・ 161- YA (H01B)
P 1 651・ 536- YA (H01B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 吉水 純子
後藤 政博
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334240号(P3334240)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 導電ペースト組成物  
代理人 山本 正緒  
代理人 山本 正緒  

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