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審決分類 審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H02K
審判 一部申し立て 2項進歩性  H02K
審判 一部申し立て 特29条の2  H02K
審判 一部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  H02K
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H02K
管理番号 1094612
異議申立番号 異議2003-71277  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-16 
確定日 2004-01-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3347935号「永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両」の請求項1、2、4、6、8ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3347935号の請求項1、2、4、6、8、9、10に係る特許を維持する。 
理由
1.手続の経緯

特許出願 平成 8年 3月29日
特許権設定登録 平成14年 9月 6日
(公報発行日14年11月20日)
特許異議申立て 平成15年 5月16日
(申立人 安藤康子)
取消理由通知 平成15年 9月29日
(平成15年10月10日発送)
訂正請求 平成15年12月 9日


2.訂正の適否

2-1 訂正の内容

訂正事項a.
特許請求の範囲の請求項1,10中の「備えた」を、「備えており、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、」と訂正する。

訂正事項b.
特許請求の範囲の請求項9中の「備え、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記永久磁石の外周側に位置する磁極片部は、その半径方向の厚さが一定である」を「備えており、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には、半径方向の厚さが一定である磁極片部を備えており、」と訂正する。

訂正事項c.
特許請求の範囲の請求項1,9,10に、「上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、」を挿入する。

訂正事項d.
特許請求の範囲の請求項1,9,10に、前記訂正事項cによる挿入箇所に続けて、「かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、」を挿入する。

訂正事項e.
特許請求の範囲の請求項1,9,10について、請求項1,9に「上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されている」を挿入し、請求項10に「上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されており、」を挿入する。
(なお、訂正請求書の7.訂正の理由(3)訂正事項eに「・・・請求項への挿入又は末尾が「おり、」を挿入する。」とあるのは、明らかな誤記である。)

訂正事項f.
特許請求の範囲の請求項10に、「上記固定子巻線に流れる電流が上記回転子の位置に基づいて制御され、上記永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされる」を挿入する。

訂正事項g.
特許請求の範囲の請求項3,5,7の「請求項1記載の永久磁石回転電機において、」を「固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と.上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、さらに上記永久磁石回転電機において、」と訂正する。

訂正事項g’
特許明細書の0009段落、0011段落、0013段落の「上記永久磁石回転電機において、」を、「本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、さらに上記永久磁石回転電機において、」と訂正する。

訂正事項h.
特許明細書の0007段落の「備えるように構成した」を「備えており、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されているように構成した」と訂正する。

訂正事項i.
特許明細書の0015段落の「備え、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記永久磁石の外周側に位置する磁極片部は、その半径方向の厚さが一定であるように構成した」を、「備えており、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には、半径方向の厚さが一定である磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されているように構成した」と訂正する。

訂正事項j.
特許明細書の0016段落の「備える」を、「備えており、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されており、上記固定子巻線に流れる電流が上記回転子の位置に基づいて制御され、上記永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされる」と訂正する。

訂正事項k.
特許明細書の0039段落の「82」を「32B1」と訂正する。

訂正事項l.
特許明細書の【符号の説明】の「32B2」「32B1」をそれぞれ「32B1」「32B2」と訂正する。

訂正事項m.
特許請求の範囲の請求項10の「車輪の駆動される」を「車輪が駆動される」と訂正する。


2-2 訂正の適否

訂正事項aについて
請求項1,10についての訂正事項aは、回転子が「回転子鉄心の外周部かつ永久磁石の外周側に磁極片部を備える」ことを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。回転子が「回転子鉄心の外周部かつ永久磁石の外周側に磁極片部を備える」ことは、図2、図5、図6の記載より明らかな事項であり、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項aは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項bについて
請求項9についての訂正事項bは、回転子が磁極片部を「回転子鉄心の外周部」に備えることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。回転子が磁極片部を「回転子鉄心の外周部」に備えることは、図2の記載より明らかな事項であり、訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項bは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項cについて
請求項1,9,10についての訂正事項cは、補助磁極部が、「非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたもの」であることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。補助磁極部が、「非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたもの」であることは、図2、図5、図6の記載より明らかな事項であり、訂正事項cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項cは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項cは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項dについて
請求項1,9,10についての訂正事項dは、補助磁極部が「固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるもので」あることを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。補助磁極部が「固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるもので」あることは、0039段落の「第二項がリラクタンス成分で補助磁極部32B1による成分である。」「第二項のリラクタンス成分を大きくするには補助磁極部82の周方向成分を大きくする必要がある。」との記載(なお、「補助磁極部82」は「補助磁極部32B1」の誤記である。)、及び0062段落の「補助磁極部の周方向長さを大きくすることによって、補助磁極部のリラクタンストルクを大きくすることができる。」との記載より明らかな事項であり、訂正事項dは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項dは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項dは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項eについて
請求項1,9,10についての訂正事項eは、非磁性部材が「永久磁石の端でありかつ回転子の常用の回転方向とは反対側の端から補助磁極部の境界までの周方向の全域に設けられているていると共に、固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、回転子鉄心の内部でありかつ磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されている」ことを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。非磁性部材が「永久磁石の端でありかつ回転子の常用の回転方向とは反対側の端から補助磁極部の境界までの周方向の全域に設けられているていると共に、固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、回転子鉄心の内部でありかつ磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されている」ことは、図2、図5、図6の記載、0041段落の「図4(a)で示すように永久磁石36による誘起電圧はIqに対してθだけ移動した位置に発生し」との記載、及び図4(A)の記載より明らかな事項であり、訂正事項eは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項eは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項eは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項fについて
請求項10についての訂正事項fは、「固定子巻線に流れる電流が回転子の位置に基づいて制御され、永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされる」ことを限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。「固定子巻線に流れる電流が回転子の位置に基づいて制御され、永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされる」ことは、0019段落の「回転電機10は、磁極位置検出器PSの信号と、エンコーダEの出力信号によって、図3によって後述する制御装置によって運転制御される。」との記載及び0050段落の「磁気的にも弱め界磁制御に適する構成となっており、高速回転に適した回転電機とすることができる。」との記載より明らかな事項であり、訂正事項fは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項fは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項fは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項gについて
特許異議の申立てがされていない請求項3,5,7についての訂正事項gは、請求項3,5,7が引用する請求項1を上記訂正事項a,c,d,eにより訂正することに伴い、請求項3,5,7に訂正前の請求項1の内容を取り込んで、請求項3,5,7を従属請求項の形式から独立記載形式に内容の変更なく改めるものであって、訂正事項gは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。訂正事項gは、請求項3,5,7の内容自体を変更するものではないことから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項gは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項g’,h,i,jについて
訂正事項g’,h,i,jは、特許請求の範囲を訂正する上記訂正事項a乃至gに対して、発明の詳細な説明における「課題を解決するための手段」の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。訂正事項g’,h,i,jは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項g’,h,i,jは実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項g’,h,i,jは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項kについて
訂正事項kは、0039段落の補助磁極部につき「82」を「32B1」と訂正するものであって、誤記の訂正を目的とするものである。補助磁極部が「32B」であることは図2、図4、図6の記載から明らかであり、訂正事項kは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項kは実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項kは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項lについて
訂正事項lは.特許明細書の【符号の説明】の「32B2」「32B1」をそれぞれ「32B1」「32B2」と訂正するものであって、誤記の訂正を目的とするものである。「32B1」が補助磁極片部を表し、「32B2」が磁極片部を表すことは、0024段落の「回転子鉄心32の外周部32Bを周方向に2つの部分に分けると、補助磁極部32B1と、磁極片部32B2に分けられる。補助磁極部32B1は、隣合う永久磁石挿入孔34に挟まれる領域であり、磁石の磁気回路をバイパスして、固定子の起磁力によって直接磁束を固定子側に発生させる領域である。磁極片部32B2は、回転子鉄心32の外周部32Bの中で、永久磁石36の外周側に位置する領域であり、永久磁石36からの磁束Bφがギャップを介して固定子20側に流れて磁気回路を構成する領域である。」との記載から明らかであり、訂正事項kは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項kは実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項kは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


訂正事項m.
請求項10についての訂正事項mは、永久磁石回転電機により「車輪の駆動される」を永久磁石回転電機により「車輪が駆動される」と訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。永久磁石回転電機によって車輪が駆動されることは0091段落の「永久磁石回転電機120が駆動されて、車輪110,114が回転する。」との記載から明らかであり、訂正事項mは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項kは実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項kは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。


以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項までの規定に適合するので、上記訂正を認める。


3.異議申立てについての判断

3-1 本件発明

上記のとおり、訂正は認められるから、本件特許の発明(請求項1,2,4,6,8,9,10)は、訂正された特許明細書の請求項1,2,4,6,8,9,10に記載された次のとおりのものである。


【請求項1】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されていることを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項2】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記回転子鉄心は、上記永久磁石の大きさより上記回転子鉄心の周方向に大きい開ロを有する永久磁石挿入孔を備え、
上記永久磁石は、上記永久磁石挿入孔の中に、上記回転子の常用の回転方向に偏って挿入され、
上記挿入孔に形成された空隙部が、上記非磁性材部であることを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項4】 請求項2若しくは請求項3記載の永久磁石回転電機において、
上記空隙部に非磁性材からなる樹脂を充填したことを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項6】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記永久磁石は、その形状が直方体であることを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項8】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、
上記永久磁石の外周側に位置する磁極片部は、その半径方向の厚さが一定であることを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項9】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には、半径方向の厚さが一定である磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されていることを特徴とする永久磁石回転電機。


【請求項10】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機を備え、
この永久磁石回転電機により車輪が駆動される永久磁石回転電機を用いた電動車両において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧EOが回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されており、
上記固定子巻線に流れる電流が上記回転子の位置に基づいて制御され、上記永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされることを特徴とする永久磁石回転電機を用いた電動車両。


3-2 申立の理由の概要

特許異議申立人安藤康子は、
甲第1号証(下記引用例1)を提示して、本件の請求項1,2,4,6,8,9,10に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、
甲第2〜甲第5号証(下記引用刊行物2〜5)を提示して、本件の請求項1,2,4,6,8,9,10に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、
特許法第113条第2項に該当するので取り消されるべきものである
旨主張している。


3-4 取消理由通知で引用された刊行物に記載された発明

引用例1(甲第1号証):特願平7-349596号(特開平9-182331号)の願書に最初に添付した明細書及び図面
刊行物2(甲第2号証):「電気学会研究会資料(回転機・産業計測制御合同研究会)1995年7月7日,社団法人電気学会発行」,第33頁〜第42頁「同期モータの機器定数と出力特性」
刊行物3(甲第3号証):特開平7-336919号公報
刊行物4(甲第4号証):特開平5-236684号公報
刊行物5(甲第5号証):特開平5-176487号公報


引用刊行物に記載された発明

引用例1:引用例1には「本発明は、永久磁石形同期回転電機の回転子に関する。」(第2頁第1欄第30行〜第31行、[審決注:引用例1の摘示箇所は、便宜上、公開公報に基づく。以下同様])、「そこで、本発明は、・・・・・q軸磁束の飽和を抑え、リラクタンス・トルクを利用できる永久磁石形同期回転電機の回転子を提供することを目的とする。」(第2頁第1欄第46行〜第50行)、「所定の極ピッチ角で設けた・・・・・円周かつ同方向の端面に当接させたことによる。」(第2頁第2欄第8行〜第20行)、「円板状の電磁鋼飯を積層した回転子鉄心1の内径側には、・・・・・おのおのの永久磁石挿入穴3内には、永久磁石挿入穴3の幅Bhより短い幅Bmで高さHの永久磁石4を、その端面を円周且つ同方向(例えば、回転方向)に偏らせて、永久磁石挿入穴3の端面に当接させて固定してある。その結果、永久磁石挿入穴3の他方の端面と永久磁石4の他方の端面の間には、空間31が生じる。」(第2頁第2欄第30行〜第45行)、「この例は、・・・リラクタンス・トルクを生じる。」(第2頁第2欄第47行〜第3頁第3欄第2行)等の記載があり、これらの記載及び図1〜図3の記載等から、q軸磁束の飽和を抑え、リラクタンス・トルクを利用できるようにすることを目的とした、「固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心(1)とこの回転子鉄心(1)の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数の永久磁石(4)を有する回転子とから構成された永久磁石形同期回転電機において、上記回転子鉄心(1)は、周方向に沿って配置され、上記永久磁石(4)の大きさより上記回転子鉄心(1)の周方向に大きい開口を有する永久磁石挿入穴(永久磁石挿入孔)(3)を備え、上記永久磁石(4)は、直方体の形状に形成され、上記永久磁石挿入穴(永久磁石挿入孔)(3)の中に、上記回転子の常用の回転方向に偏って挿入されることによって、上記永久磁石挿入穴(永久磁石挿入孔)(3)の、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石(4)に隣接して空間(空隙部)(31)が設けられていることを特徴とする永久磁石形同期回転電機。」が記載されている。


刊行物2:刊行物2には、「永久磁石同期モータ(PMモータ)をはじめ、小形同期モータは・・・・・、電気自動車にも用いられるようになり、多目的に使用されている。」(第33頁第5行〜第7行)、「さらにPMモータは、永久磁石の配置によって表面磁石構造PMモータ(SPM)と、埋込磁石構造PMモータ(IPM)に分類できる。」(第33頁第15行〜第16行)、「そこで定出力範囲を広くするためには・・・・・、Lq/Ldが大きいIPMが最適といえ、突極比Lq/Ldをいかに大きく設計できるかがポイントとなる。」(第41頁第20行〜第28行)等の記載があり、これらの記載及び図1の記載等から、「固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数の永久磁石を有する回転子とから構成された埋込磁石構造永久磁石同期モータにおいて、上記回転子鉄心には、周方向に複数の永久磁石挿入孔が設けられており、上記永久磁石は、直方体の形状に形成され、周方向に隣り合う永久磁石が逆極性となるように上記永久磁石挿入孔に挿入されていることを特徴とする埋込磁石構造永久磁石同期モータ。」が記載されている。
また、刊行物2には、「永久磁石同期モータ(PMモータ)として、表面磁石構造永久磁石同期モータ(SPM)と埋込磁石構造永久磁石同期モータ(IPM)が知られている」点、「永久磁石同期モータ(PMモータ)を電気自動車に用いる」点が記載されている。


刊行物3:刊行物3には、「本発明は、・・・・・関する。」(第2頁第1欄第40行〜第43行)、「本発明は、・・・・・永久磁石モータを提供することを目的とする。」(第2頁第2欄第48行〜第3頁第3欄第2行)、「図4は、・・・・・読み取れる。」(第5頁第7欄第38行〜第42行)、「突極の・・・・・後方部分に突極を設けたものである。」(第5頁第8欄第4行〜第6行)、「図6は、・・・・・示されている。」(第5頁第8欄第17行〜第20行)、「本出願人による・・・・・突極はロータ回転方向後方部分がより発生トルクに寄与することが示されており、・・・・・突極によるトルク増加の効果を大きく損なうことがない。」(第5頁第8欄第25行〜第30行)、「以上のように、・・・・・前記の効果を得ることができる。」(第5頁第8欄第47行〜第6頁第9欄第2行)等の記載があり、これらの記載及び図6の記載等から、表面磁石構造の永久磁石モータにおいて、回転方向の発生トルクを大きくするために、「回転子の常用の回転方向と反対方向に、空隙(26)を永久磁石(14)に隣接して設け、永久磁石(14)と、回転子の常用の回転方向と反対方向に設けられている突極(24)との間に空隙(26)を設ける」点が記載されている。


刊行物4:刊行物4には、「この発明は・・・・・ブラシレスDCモータに関する。」(第2頁第1欄第15行〜第18行)、「上記埋込磁石構造の・・・・・低下してしまう。」(第2頁第2欄第9行〜第14行)、「この発明は・・・・・目的としている。」(第2頁第2欄第37行〜第41行)、「図1、図2に示す・・・・・空隙2cの内部に非磁性体からなる接着性の充填剤2dを充填してある。」(第3頁第3欄第34行〜第41行)、「尚、接着性の充填材としては、・・・・・可能である。」(第3頁第3欄第43行〜第47行)等の記載があり、これらの記載から、埋込磁石構造の永久磁石モータにおいて、「磁石挿入孔に設けられる空隙部を非磁性材部とする」点、機械的強度を高めるために、「磁石挿入孔に設けられる空隙(2c)に非磁性材からなる樹脂を充填して非磁性材部とする」点が記載されている。


刊行物5:刊行物5には、「本発明は、・・・・・永久磁石形モータに関するものである。」(第2頁第1欄第24行〜第26行)、「図3に示すように、・・・・・S極に着磁されている。」(第3頁第4欄第50行〜第4頁第5欄第9行)等の記載があり、これらの記載から、「埋込磁石構造の永久磁石モータにおいて、回転子鉄心の周方向に、隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置される永久磁石を円弧形状に形成し、永久磁石の外周部と回転子鉄心の外周部との間の距離を一定とする」点、すなわち、「永久磁石を円弧形状に形成し、永久磁石の外周側に位置する磁極片部の半径方向の厚さを一定にする」点が記載されている。



3-5 引用刊行物に記載された発明との対比・判断

(1)特許法第29条の2の規定に違反するかどうかについて

本件の請求項1,9,10に係る発明と引用例1(特願平7-349596号)の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明(以下、「先願発明」という。)を対比すると、先願発明には「補助磁極部」が「非磁性材部との境を境界として作られた」ものである点については記載がされておらず、示唆もされていない。
したがって、本件の請求項1,9,10に係る発明は、先願発明と同一であるとすることはできない。

本件の請求項2,6,8に係る発明は、上記で検討した請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記と同じ理由により、先願発明と同一であるとすることはできない。

本件の請求項4に係る発明は、請求項2若しくは請求項3を引用するものであるが、請求項3は特許異議の申立てがされていない請求項であり且つ記載形式のみを変更するという明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正しか行われていない請求項であるので、請求項2を引用するものについてみると、請求項2に係る発明が上記で検討したように請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記と同じ理由により、先願発明と同一であるとすることはできない。


(2)特許法第29条第2項の規定に違反するかどうかについて

本件の請求項1,9,10に係る発明と刊行物2ないし5に記載された発明とを対比すると、後者のいずれにも、「回転子鉄心の外周部でありかつ各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備え」るものにおいて「非磁性材部は、永久磁石の端でありかつ回転子の常用の回転方向とは反対側の端から補助磁極部の境界までの周方向の全域に設けられていると共に、回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも永久磁石の端でありかつ回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されている」点、即ち、補助磁極部を有する埋込磁石構造の永久磁石モータの回転子の内部(磁極片部よりも内側の部分)に非磁性材部を永久磁石の端でありかつ回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置するようにした点、については記載もされておらず、示唆もされていない。(刊行物3に記載された発明は、回転子表面に非磁性材部を配置するものであって、回転子内部に非磁性材部を配置するものまでは示唆していない。)

そして、本件の請求項1,9,10に係る発明は、上記の配置構造の採用によって、埋込磁石構造の回転子における(永久磁石の発生磁束に起因した)モータの回転開始時に発生するトルク変動の現象を回転子内部の非磁性材部の働きにより低減するとの効果も相俟って、明細書に記載された効果である「回転方向に対する発生トルクを大きくし得る」という効果において刊行物3に記載された発明とは質的に異なる要素を含んだ効果が奏されるものである。

したがって、本件の請求項1,9,10に係る発明は、刊行物2ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

本件の請求項2,6,8に係る発明は、上記で検討した本件発明1を引用するものであるから、上記と同じ理由により、刊行物2ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

本件の請求項4に係る発明は、請求項2若しくは請求項3を引用するものであるが、請求項3は特許異議の申立てがされていない請求項であり且つ記載形式のみを変更するという明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正しか行われていない請求項であるので、請求項2を引用するものについてみると、請求項2に係る発明が上記で検討したように請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記と同じ理由により、刊行物2ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


4.結論
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1,2,4,6,8,9,10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されていることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項2】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記回転子鉄心は、上記永久磁石の大きさより上記回転子鉄心の周方向に大きい開口を有する永久磁石挿入孔を備え、
上記永久磁石は、上記永久磁石挿入孔の中に、上記回転子の常用の回転方向に偏って挿入され、
上記挿入孔に形成された空隙部が、上記非磁性材部であることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項3】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、
さらに上記永久磁石回転電機において、
上記回転子鉄心は、上記回転子鉄心の半径方向の一部であって、上記回転子の常用の回転方向と反対方向において、上記永久磁石の大きさより大きい開口を有する永久磁石挿入孔を備え、
上記永久磁石は、上記永久磁石挿入孔の中に挿入され、
上記挿入孔に形成された空隙部が、上記非磁性材部であることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項4】 請求項2若しくは請求項3記載の永久磁石回転電機において、
上記空隙部に非磁性材からなる樹脂を充填したことを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項5】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、
さらに上記永久磁石回転電機において、
上記永久磁石の周方向の長さを、隣合う上記永久磁石間に存在する上記磁性材からなる補助磁極部の周方向の長さより短くしたことを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項6】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記永久磁石は、その形状が直方体であることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項7】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、
さらに上記永久磁石回転電機において、
同一のトルク指令に対して、上記回転子の正転時と逆転時とで異なる電流を上記固定子巻線に通電することを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項8】 請求項1記載の永久磁石回転電機において、
上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、
上記永久磁石の外周側に位置する磁極片部は、その半径方向の厚さが一定であることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項9】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には、半径方向の厚さが一定である磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されていることを特徴とする永久磁石回転電機。
【請求項10】 固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機を備え、
この永久磁石回転電機により車輪が駆動される永久磁石回転電機を用いた電動車両において、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、
上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、
上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、
上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、
上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されており、
上記固定子巻線に流れる電流が上記回転子の位置に基づいて制御され、上記永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされることを特徴とする永久磁石回転電機を用いた電動車両。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両に係り、特に、内部磁石型回転電機に好適な永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両に関する。
【0002】
【従来の技術】
電動車両,特に、電気自動車において使用される駆動電動機は、電気自動車として積載されるバッテリーの量が限定され、かつ、そのバッテリー容量で十分な一充電走行距離を確保することが必要なために、小型軽量、高効率であることが望まれている。
【0003】
電動機を小型軽量化するためには、高速回転に適していることが要望される。また、高効率電動機としては、直流電動機や誘導電動機よりも永久磁石電動機が推奨できる。特に、永久磁石を回転子の外周に配置する表面磁石電動機に比較して、永久磁石よりも高い透磁率を有す、る例えば、珪素鋼板の中に永久磁石保持部を有するいわゆる内部磁石電動機が適している。内部磁石永久磁石電動機は、弱め界磁制御によって高速まで運転できる点や、弱め界磁制御によって高効率にできるためである。
【0004】
内部永久磁石回転電機としては、例えば、特開平5-219669号公報や特開平7-39091号公報の図5に記載のものが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したような内部永久磁石回転電機において、発生するトルクを大きくしようとすると、使用する永久磁石を大きくし、発生する磁束密度を大きくすることが考えられるが、永久磁石を大きくすると、回転電機本体も大型化するという問題がある。電動車両に用いる回転電機においては、小型軽量で、高速回転が可能であることが要求されている。
【0006】
本発明の目的は、従来と同様の大きさでありながら、発生するトルクを大きくすることができる永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されているように構成したものであり、かかる構成によって、回転方向に対する発生トルクを大きくし得るものとなる。
【0008】
上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記回転子鉄心は、上記永久磁石の大きさより上記回転子鉄心の周方向に大きい開口を有する永久磁石挿入孔を備え、上記永久磁石は、上記永久磁石挿入孔の中に、上記回転子の常用の回転方向に偏って挿入され、上記挿入孔に形成された空隙部が、上記非磁性材部であるようにしたものであり、かかる構成により、使用する磁石量を減らし得るものとなる。
【0009】
本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、さらに上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記回転子鉄心は、上記回転子鉄心の半径方向の一部であって、上記回転子の常用の回転方向と反対方向において、上記永久磁石の大きさより大きい開口を有する永久磁石挿入孔を備え、上記永久磁石は、上記永久磁石挿入孔の中に挿入され、上記挿入孔に形成された空隙部が、上記非磁性材部であるようにしたものであり、かかる構成により、磁石量を大きくして、発生するトルクを大きくし得るものとなる。
【0010】
上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記空隙部に非磁性材からなる樹脂を充填するようにしたものであり、かかる構成により、構造的に強固にし得るものとなる。
【0011】
本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、さらに上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記永久磁石の周方向の長さを、隣合う上記永久磁石間に存在する上記磁性材からなる補助磁極部の周方向の長さより短くするようにしたものであり、かかる構成により、補助磁極部で発生するリラクタンストルクを大きくし得るものとなる。
【0012】
上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記永久磁石は、その形状が直方体としたものであり、かかる構成により、バランスがよく、高速回転に適し得るものとなる。
【0013】
本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が互いに逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備え、さらに上記永久磁石回転電機において、好ましくは、同一のトルク指令に対して、上記回転子の正転時と逆転時とで異なる電流を上記固定子巻線に通電するようにしたものであり、かかる構成により、正転時の消費電力を小さくし得るものとなる。
【0014】
上記永久磁石回転電機において、好ましくは、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記永久磁石の外周側に位置する磁極片部は、その半径方向の厚さが一定である。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、磁性材からなる回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、上記永久磁石の形状は、円弧形状であり、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には、半径方向の厚さが一定である磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されているように構成したものであり、かかる構成によって、回転方向に対する発生トルクを大きくし得るものとなる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、固定子巻線を巻回した固定子鉄心を有する固定子と、この固定子の内周に回転可能に保持され、回転子鉄心とこの回転子鉄心の内部に上記固定子鉄心と対向して配置された複数個の永久磁石を有する回転子とから構成された永久磁石回転電機を備え、この永久磁石回転電機により車輪が駆動される永久磁石回転電機を用いた電動車両において、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記永久磁石に隣接して設けられた非磁性材からなる非磁性材部と、上記回転子の常用の回転方向と反対方向に、上記複数個の永久磁石を隣り合う永久磁石が逆極性となるように配置することによって、上記非磁性材部に隣接して設けられた補助磁極部とを備えており、上記回転子鉄心の外周部でありかつ上記各永久磁石の外周側に位置する領域には磁極片部を備えており、上記補助磁極部は、上記非磁性材部とこの非磁性材部に対して常用の回転方向と反対方向に存在する永久磁石との間に存在する回転子鉄心により作られたものであると共に、上記非磁性材部との境を境界として作られたものであり、かつ上記固定子巻線が発生する磁束によりリラクタンストルクを発生させるためのものであり、さらにその周方向長を大きくすることにより上記リラクタンストルクを増大させることができるものであり、上記非磁性材部は、上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端から上記補助磁極部の上記境界までの周方向の全域に設けられていると共に、上記固定子巻線に流れる電流のq軸電流Iqに対して、上記固定子巻線に発生する誘起電圧E0が回転方向側に位相が進む関係となるように、上記回転子鉄心の内部でありかつ上記磁極片部よりも内側の部分で、しかも上記永久磁石の端でありかつ上記回転子の常用の回転方向とは反対側の端に隣接して配置されており、上記固定子巻線に流れる電流が上記回転子の位置に基づいて制御され、上記永久磁石回転電機に対して弱め界磁制御がなされるようにしたものであり、かかる構成によって、一充電走行距離を長くし得るものとなる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機について、図1,図2,図3,図4を用いて説明する。図1は、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の正面側から見た部分断面図であり、図2は、図1のA-A断面を示し、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の断面図であり、図3は、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の制御回路の回路図であり、図4は、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の動作原理図である。
【0018】
図1において、回転電機10の固定子20は、固定子鉄心22と、この固定子鉄心22に巻回された多相の固定子巻線24と、固定子鉄心22をその内周面に固定保持するハウジング26から構成されている。回転子30は、回転子鉄心32と、回転子鉄心32に設けられた永久磁石挿入孔34に挿入された永久磁石36と、シャフト38とから構成されている。シャフト38は、ベアリング42,44によって回転自在に保持されている。ベアリング42,44は、エンドブラケット46,48によって支持されており、エンドブラケット46,48は、ハウジング26の両端にそれぞれ固定されている。
【0019】
また、回転子30の永久磁石36の位置を検出する磁極位置検出器PS及び回転子30の位置を検出するエンコーダEが、回転子30の側面側に配置されている。回転電機10は、磁極位置検出器PSの信号と、エンコーダEの出力信号によって、図3によって後述する制御装置によって運転制御される。
【0020】
図2は、図1のA-A矢視の断面図であるが、ハウジングの図示は省略してある。図2において、回転電機10は、固定子20と回転子30とから構成されている。固定子20は、固定子鉄心22と固定子巻線24から構成される。固定子巻線24は、固定子鉄心22に巻回されている。
【0021】
回転子30は、高透磁率磁性材料である,例えば、複数枚の珪素鋼板が積層されている回転子鉄心32と、回転子鉄心32に設けられた4個の永久磁石挿入孔34に挿入された4個の永久磁石36と、シャフト38から構成されている。4個の永久磁石36は、極性が互いに反対方向になるように、回転子鉄心32の周方向に等間隔で配置されている。
【0022】
回転子鉄心32は、永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれる構造となっている。永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれ珪素鋼板を積層し、貫通する永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔の中に永久磁石36及びシャフト38が挿入されて回転子30を構成する。
【0023】
永久磁石回転子30は、矢印(反時計)方向Bに回転し、電動機として運転するものとする。使用する永久磁石36の形状は、円弧形状のものとする。
【0024】
回転子鉄心32を半径方向に分けると、内周側のヨーク部32Aと、外周部32Bに分けられる。また、回転子鉄心32の外周部32Bを周方向に2つの部分に分けると、補助磁極部32B1と、磁極片部32B2に分けられる。補助磁極部32B1は、隣合う永久磁石挿入孔34に挟まれる領域であり、磁石の磁気回路をバイパスして、固定子の起磁力によって直接磁束を固定子側に発生させる領域である。磁極片部32B2は、回転子鉄心32の外周部32Bの中で、永久磁石36の外周側に位置する領域であり、永久磁石36からの磁束Bφがギャップを介して固定子20側に流れて磁気回路を構成する領域である。
【0025】
永久磁石36は、補助磁極部32B1によって周方向を覆われ、磁極片部32B2によって外周を覆われた永久磁石挿入穴34の中に収納することができ、高速回転に適した電動機とすることができる。
【0026】
ここで、特徴とする点は、永久磁石36は永久磁石挿入孔34の回転方向Bに偏って挿入されるようにしてある。永久磁石挿入孔34は、永久磁石36の大きさよりも、周方向において大きく形成されており、この永久磁石挿入孔34の中に、永久磁石36は回転方向Bに偏って挿入されている。
【0027】
電動車両に用いる回転電機としては、その回転方向は、一方向に限られている。即ち、電動車両が前進するときに、回転電機が矢印方向Bに回転するとすると、電動車両が後進するときにも、回転電機が矢印方向Bに回転するようにしている。電動車両が後進するときには、変速機構により、回転電機の回転数を減速すると同時に、伝達される回転方向を逆転するようにしている。従って、回転電機が発生するトルクは、回転方向Bに対して十分に大きなトルクを発生すればよく、矢印B方向と反対方向(時計回り方向)に回転するトルクは小さいものであってもよい。そのような観点に立って、回転電機が発生するトルクを矢印方向Bの時大きくし、反対方向の時小さくするための構成が、永久磁石36を永久磁石挿人孔34の回転方向Bに偏って挿入するようにした点にある。
【0028】
永久磁石36の反回転方向には、空隙部50ができている。空隙部50は、非磁性材部となるため、ここからの磁気漏洩が少なく、永久磁石を有効に利用できるとともに使用磁石量を少なくすることができ、磁極片部32B2及び補助磁極部32B1にかかる永久磁石36の遠心力は少なくなり、高速回転に適した構造とすることができる。
【0029】
永久磁石36の反回転方向の空隙部50は、空気が存在する空間としても非磁性材部として機能するが、空気に替えて、非磁性材,例えばワニス等によって充填することにより、構造的により強固にすることができる。
【0030】
次に、図3を用いて、本実施の形態による永久磁石回転電機を制御する制御装置について説明する。
【0031】
直流電源80よりインバータ82を介して回転電機10の固定子巻線24に電力を供給する。速度制御回路(ASR)84は、速度指令ωsと、エンコーダEからの位置情報θからF/V変換器86を介して得られる実際の速度ωfとから速度差ωeを算出し、これにPI制御(P:比例項、I:積分項)等によってトルク指令,即ち、電流指令Isと回転子30の回転角θ1を出力する。
【0032】
位相シフト回路88は、エンコーダEよりのパルス,即ち、回転子の位置情報θを、速度制御回路(ASR)84からの回転角θ1の指令に応じて位相シフトして出力する。正弦波・余弦波発生器90は、回転子30の永久磁石磁極の位置を検出する位置検出器PSと、位相シフト回路88からの位相シフトされた回転子の位置情報θに基づいて、固定子巻線24の各巻線(ここでは3相)の誘起電圧を位相シフトした正弦波出力を発生する。位相シフト量は、零の場合でもよい。
【0033】
2相-3相変換回路92は、速度制御回路(ASR)84からの電流指令Isと正弦波・余弦波発生器90の出力に応じて、各相に電流指令Isa,Isb,Iscを出力する。各相はそれぞれ個別に電流制御系(ACR)94A,94B,94Cを持ち、電流指令Isa,Isb,Iscと電流検出器CTからの電流検出信号Ifa,Ifb,Ifcに応じた信号を、インバータ82に送って各相電流を制御する。この場合、各相合成の電流は、界磁磁束に直角,あるいは位相シフトした位置に常に形成され、これによって無整流子で、かつ直流機と同等の特性を得ることができる。
【0034】
ここで、電機自動車に適用する場合には、制御装置は、速度制御回路84ではなく、直接トルクを制御するトルク制御系を有する。即ち、速度制御回路84に替えて、トルク制御回路を使用する。トルク制御回路は、入力信号として、トルクTsと、トルク検出器によって得られる実際のトルクTfとからトルクTeを算出し、これにPI制御(P:比例項、I:積分項)等によってトルク指令,即ち、電流指令Isと回転子30の回転角θ1を出力する。
【0035】
永久磁石回転電機においては、トルクは電流に直接比例するために電流制御系を速度制御回路84の代わりに配置される。
【0036】
次に、本実施の形態による永久磁石回転電機の動作原理について、図4を用いて説明する。なお、図4(A)は、本実施の形態による永久磁石回転電機の動作原理の説明図であり、図4(B)は、比較のために、従来方式の動作原理の説明図である。
【0037】
ここで、従来方式とは、図1において、永久磁石挿入孔34の全体に永久磁石を入れた方式のことである。かかる従来方式においては、図4(B)に示すように、永久磁石36’はd軸に配置され、永久磁石より高い透磁率を有する補助磁極部32B1の位置はq軸に配置される。この場合、各ベクトルは、図4(B)で表される。ここで、d軸電流-Id,q軸電流Iqの合成である電流Imは、図3に示した制御回路の電流指令Isa,Isb,Iscや電動機の磁極位置検出器PSやエンコーダEの出力位置の計算等によって図示の位置に制御される。このときのトルクは、以下の式(1)で表わすことができる。
【0038】
T=EO・Iq/ω+(Xq・Iq・Id+Xd・Id・Iq)/ω…(1)
ここで、EO:一相の誘起電圧
ω:回転速度
Iq:q軸電流
Id:d軸電流
Xq:q軸リアクタンス
Xd:d軸リアクタンス
を表している。
【0039】
式(1)は、一般の突極型の永久磁石電動機のトルクの一般式である。第一項が永久磁石による成分で、第二項がリラクタンス成分で補助磁極部32B1による成分である。第一項の永久磁石による成分を大きくするためには、永久磁石36の周方向長さを大きくする必要があり、第二項のリラクタンス成分を大きくするには補助磁極部32B1の周方向成分を大きくする必要がある。
【0040】
従来方式の構造では、図4(B)で示したように、永久磁石36と補助磁極部32B1とが直交して配置されているために発生トルクが小さいものであった。
【0041】
それに対して、本発明によれば、図1で示すように回転方向に永久磁石を配置しているために、図4(a)で示すように永久磁石36による誘起電圧はIqに対してθだけ移動した位置に発生し、以下で示すトルクが発生する。
【0042】
T=EO・Iq・cosθ/ω+(EO・Id・sinθ+Xq・Iq・Id-Xd・Id・Iq)/ω…(2)
ここで、θは、EOとIqとの位相差を示し、構造上は永久磁石36と補助磁極32B1とのなす角度の90度からのずれる角度を示したものである。また、図1において、永久磁石挿入孔34の周方向の中心位置に対して、永久磁石36の周方向の中心位置のなす角度θである。
【0043】
式(1)と、式(2)を比較すると、θが小さい間は、式(1)に比較して式(2)の第一項の減少はわずかである。一方、第二項では、sinθの値は、他の定数に対して比較的大きな値と成るために、発生トルクは大きくなる。
【0044】
これは、本発明と従来方式では、誘起電圧E0が同じとの考えで行ったためにトルクが大きくなる結果となった。実際には、本実施の形態では、永久磁石の使用量が少ないために誘起電圧が少なくなり、トルクは増加はしないが、使用磁石量に対するトルクを高めることができる。
【0045】
また、使用磁石量の減少は、高速時の永久磁石の発生電圧を押さえることができ、故障時に電動機よりバッテリへの電力変換をなくすことができ、電動機とインバータ間のコンダクタ等の機器を設置する必要をなくすることができる。
【0046】
以上のことは、反時計方向Bに回転した場合に有効である。しかし、時計方向に回転した場合には、逆に、誘機電圧EOとq軸電流の位相差は逆となり、式(2)より理解されるように、トルクは従来例より小さくなる。
【0047】
従って、以上の本実施の形態の構造においては、同じトルク指令に対して反時計方向に回転している場合の電流指令Isa,Isb,Iscと時計方向に回転している場合の電流指令Isa,Isb,Iscとでは大きさを変える必要がある。つまり、反時計方向回転の電流指令は、時計方向の電流指令よりも同一のトルク指令に対して小さくすることができるため、消費電力を小さくすることができる。
【0048】
以上のようにして、発生するトルクを回転方向によって異ならせ、一方向にのみ大きなトルクを発生するようにすることができる。従って、常用の回転方向のトルクを大きくしておけば、小型軽量でかつ高効率の回転電機とすることができる。
【0049】
また、機械的に強い珪素鋼板の中に永久磁石を収納することによって、機械的に高速回転に適した回転電機とすることができる。
【0050】
また、磁気的にも弱め界磁制御に適する構成となっており、高速回転に適した回転電機とすることができる。
【0051】
本実施の形態によれば、永久磁石を挿入孔の回転方向に偏って挿入することにより、回転方向に対するトルクを大きくすることができる。
【0052】
また、永久磁石の周囲を珪素鋼板で覆う構成とすることにより、高速回転に適したものとなる。
【0053】
次に、本発明の他の実施の形態による永久磁石回転電機について、図5を用いて説明する。図5は、本発明の他の実施の形態による永久磁石回転電機の断面図である。本実施の形態による回転電機の全体構造は、図1に示したとおりである。
【0054】
回転電機10は、固定子20と回転子30とから構成されている。固定子20は、固定子鉄心22と固定子巻線24から構成される。固定子巻線24は、固定子鉄心22に巻回されている。
【0055】
回転子30は、高透磁率磁性材料である,例えば、複数枚の珪素鋼板が積層されている回転子鉄心32と、回転子鉄心32に設けられた4個の永久磁石挿入孔34に挿入された4個の永久磁石36と、シャフト38から構成されている。4個の永久磁石36は、極性が互いに反対方向になるように、回転子鉄心32の周方向に等間隔で配置されている。
【0056】
回転子鉄心32は、永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれる構造となっている。永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれ珪素鋼板を積層し、貫通する永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔の中に永久磁石36及びシャフト38が挿入されて回転子30を構成する。
【0057】
永久磁石回転子30は、矢印(反時計)方向Bに回転し、電動機として運転するものとする。使用する永久磁石36の形状は、直方体のものとする。
【0058】
永久磁石36は、補助磁極部によって周方向を覆われ、磁極片部によって外周を覆われた永久磁石挿入穴34の中に収納することができ、高速回転に適した電動機とすることができる。補助磁極部及び磁極片部については、図2において説明したものと同じである。但し、永久磁石の形状を直方体としたことにより、磁極片部が円弧と直線で囲まれる半円形状となっている。
【0059】
ここで、特徴とする点は、永久磁石36は、永久磁石挿入孔34の回転方向Bに偏って挿入されるようにしてある。その結果、回転電機が発生するトルクは、回転方向Bに対して十分に大きなトルクを発生し、矢印B方向と反対方向(時計回り方向)に回転するトルクは小さくなっている。
【0060】
永久磁石36は、反回転方向に空隙部50ができるため、ここからの磁気漏洩が少なく、永久磁石を有効に利用できるとともに使用磁石量を少なくすることができ、磁極片部及び補助磁極部にかかる永久磁石36の遠心力は少なくなり、高速回転に適した構造とすることができる。
【0061】
永久磁石36の反回転方向の空隙部50は、非磁性材、例えばワニス等によって充填してあり、構造的により強固にすることができる。
【0062】
また、永久磁石63の周方向の長さL1を補助磁極部L2の長さより短くすることによって、矢印方向Bに回転する時に発生するトルクをより大きくすることができる。この場合、補助磁極部の周方向長さを大きくすることによって、補助磁極部のリラクタンストルクを大きくすることができる。
【0063】
永久磁石の形状を直方体とすることにより、磁石が容易に作ることができる。また、磁石挿入孔への寸法交差も少なくて済むため、バランスのよい、高速回転に適した永久磁石回転電機を提供することができる。
【0064】
本実施の形態によれば、永久磁石を挿入孔の回転方向に偏って挿入することにより、回転方向に対するトルクを大きくすることができる。
【0065】
また、直方体の磁石を用いることにより、磁石が容易に作ることができる。
【0066】
さらに、磁石挿入孔への寸法交差も少なくて済むため、バランスのよい、高速回転に適したものとすることができる。
【0067】
次に、本発明の第3の実施の形態による永久磁石回転電機について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の第3の実施の形態による永久磁石回転電機の断面図である。本実施の形態による回転電機の全体構造は、図1に示したとおりである。
【0068】
回転電機10は、固定子20と回転子30とから構成されている。固定子20は、固定子鉄心22と固定子巻線24から構成される。固定子巻線24は、固定子鉄心22に巻回されている。
【0069】
回転子30は、高透磁率磁性材料である,例えば、複数枚の珪素鋼板が積層されている回転子鉄心32と、回転子鉄心32に設けられた4個の永久磁石挿入孔34に挿入された4個の永久磁石36と、シャフト38から構成されている。4個の永久磁石36は、極性が互いに反対方向になるように、回転子鉄心32の周方向に等間隔で配置されている。
【0070】
回転子鉄心32は、永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれる構造となっている。永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれ珪素鋼板を積層し、貫通する永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔の中に永久磁石36及びシャフト38が挿入されて回転子30を構成する。
【0071】
永久磁石回転子30は、矢印(反時計)方向Bに回転し、電動機として運転するものとする。使用する永久磁石36の形状は、円弧状のものとする。
【0072】
永久磁石36は、補助磁極部によって周方向を覆われ、磁極片部によって外周を覆われた永久磁石挿入穴34の中に収納することができ、高速回転に適した電動機とすることができる。補助磁極部及び磁極片部については、図2において説明したものと同じである。
【0073】
ここで、特徴とする点は、永久磁石挿入孔34の回転方向Bと反対方向の外周に空隙部52を設けたことにある。即ち、永久磁石挿入孔34の形状は、回転子鉄心32の半径方向の一部であって、回転子の回転方向Bと反対側において、永久磁石36の大きさよりも大きい開口を有している。その結果、回転電機が発生するトルクは、回転方向Bに対して十分に大きなトルクを発生し、矢印B方向と反対方向(時計回り方向)に回転するトルクは小さくなっている。永久磁石36は、反回転方向に空隙部52ができるため、ここからの磁気漏洩が少なく、永久磁石を有効に利用できる。また、図2に比べて大きな磁石を使用できるため、発生するトルクを大きくできる。
【0074】
永久磁石36の反回転方向の空隙部52は、非磁性材、例えばワニス等によって充填してあり、構造的により強固にすることができる。
【0075】
また、永久磁石36の外周に位置する磁極片部32B2の半径方向の厚さを周方向で変えたことにある。具体的には、反回転方向の磁極片の厚さt1を厚くし、時計方向の磁極片の厚さt2を薄くする構成としている。
【0076】
このように構成することによって、無負荷時には、反時計方向Bの磁極片を介して回転子鉄心32のヨーク部32Aに磁束は漏洩し、誘起電圧を低く押さえることができる。従って、高速回転時のインバータの故障時にもバッテリへの電力の変換がなく、コンタクタ等を省略することができる。
【0077】
本実施の形態によれば、永久磁石を挿入孔の反回転方向の外周に空隙部を設けることにより、回転方向に対するトルクを大きくすることができる。
【0078】
また、磁極片部の厚さを回転方向で厚くすることにより、高速回転時のインバータの故障時にもバッテリへの電力の変換がなく、コンタクタ等を省略することができる。
【0079】
次に、本発明の第4の実施の形態による永久磁石回転電機について、図7を用いて説明する。図7は、本発明の第4の実施の形態による永久磁石回転電機の断面図である。本実施の形態による回転電機の全体構造は、図1に示したとおりである。
【0080】
回転電機10は、固定子20と回転子30とから構成されている。固定子20は、固定子鉄心22と固定子巻線24から構成される。固定子巻線24は、固定子鉄心22に巻回されている。
【0081】
回転子30は、高透磁率磁性材料である,例えば、複数枚の珪素鋼板が積層されている回転子鉄心32と、回転子鉄心32に設けられた4個の永久磁石挿入孔34に挿入された4個の永久磁石36と、シャフト38から構成されている。4個の永久磁石36は、極性が互いに反対方向になるように、回転子鉄心32の周方向に等間隔で配置されている。
【0082】
回転子鉄心32は、永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれる構造となっている。永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔が打ち抜かれ珪素鋼板を積層し、貫通する永久磁石挿入孔34とシャフト38を通す孔の中に永久磁石36及びシャフト38が挿入されて回転子30を構成する。
【0083】
永久磁石回転子30は、矢印(反時計)方向Bに回転し、電動機として運転するものとする。使用する永久磁石36の形状は、円弧状のものとする。
【0084】
永久磁石36は、磁極片部32B2によって外周を覆われた永久磁石挿入穴34の中に収納することができ、高速回転に適した電動機とすることができる。磁極片部については、図2において説明したものと同じである。但し、永久磁石の形状を直方体としたことにより、磁極片不が円弧と直線で囲まれる半円形状となっている。
【0085】
ここで、特徴とする点は、空隙長を永久磁石のそれぞれに対向する領域毎に、周方向で変えたことにある。具体的には、それぞれの永久磁石36に対向する空隙において、反時計方向Bの空隙長t3を小さくし、時計方向の空隙長t4を大きくする。永久磁石の先端側(回転方向側)の空隙長t3が、反回転方向にいくにしたがって徐々に広くなり、後端側(反回転方向側)において、最大の空隙長t4となるようになっている。かかる構成とすることによって、回転子鉄心のq軸成分は磁極片部32B2の間ではなく、その反時計方向に移動する。これによって図4(A)で示した原理と同様にトルクの向上を図ることが可能である。
【0086】
また、隣合う永久磁石挿入孔34の間には、空隙部62を設けてある。空隙部62を設けることにより、補助磁極部の幅を狭くすることができるため、漏洩磁束を小さくすることができる。空隙部62には、非磁性材、例えばワニス等によって充填してあり、構造的により強固にすることができる。
【0087】
本実施の形態によれば、永久磁石の外周の空隙長を周方向で変えることにより、回転方向に対するトルクを大きくすることができる。
【0088】
以上の説明では、回転電機について説明を行ったが、リニアモータ駆動にも適用することができる。この場合には、移動子の移動方向に対して中心位置より永久磁石をずらして配置すればよい。
【0089】
また、以上の説明では、180度通電形の永久磁石回転電機で説明したが、120度通電型のブラシレスモータ方式でも適用できることは言うまでもないことである。また、発電機としても応用することが可能である。
【0090】
次に、本発明の第5の実施の形態による永久磁石回転電機を用いた電気自動車について、図8を用いて説明する。図8は、本発明の第5の実施の形態による永久磁石回転電機を搭載した電気自動車のブロック構成図である。
【0091】
電気自動車の車体100は、4つの車輪110,112,114,116によって支持されている。この電気自動車は、前輪駆動であるため、前方の車軸154には、永久磁石回転電機120が直結して取り付けられている。永久磁石回転電機120は、制御装置130によって駆動トルクが制御される。制御装置130の動力源としては、バッテリ140が備えられ、このバッテリ140から電力が制御装置130を介して、永久磁石回転電機120に供給され、永久磁石回転電機120が駆動されて、車輪110,114が回転する。ハンドル150の回転は、ステアリングギア152及びタイロッド,ナックルアーム等からなる伝達機構を介して、2つの車輪110,114に伝達され、車輪の角度が変えられる。
【0092】
なお、以上の実施例では、永久磁石回転電機を電気自動車の車輪の駆動に用いるものとして説明したが、電気機関車等の車輪の駆動にも使用できるものである。
【0093】
本実施の形態によれば、永久磁石回転電機を電動車両、特に電気自動車に適用すれば、小型軽量高効率の永久磁石回転電機駆動装置を搭載でき、一充電走行距離の長い電気自動車を提供することができる。
【0094】
【発明の効果】
本発明によれば、永久磁石回転電機の回転方向の発生トルクを大きくすることができ、永久磁石回転電機を用いた電動車両においては、一充電走行距離を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の正面側から見た部分断面図である。
【図2】
図1のA-A断面を示し、本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の断面図である。
【図3】
本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の制御回路の回路図である。
【図4】
本発明の一実施の形態による永久磁石回転電機の動作原理図である。
【図5】
本発明の他の実施の形態による永久磁石回転電機の回転子の断面図である。
【図6】
本発明の第3の実施の形態による永久磁石回転電機の回転子の断面図である。
【図7】
本発明の第4の実施の形態による永久磁石回転電機の回転子の断面図である。
【図8】
本発明の第5の実施の形態による永久磁石回転電機を搭載した電気自動車のブロック構成図である。
【符号の説明】
10…永久磁石回転電機
20…固定子
22…固定子鉄心
24…固定子巻線
26…ハウジング
30…回転子
32…回転子鉄心
32A…ヨーク
32B…外周部
32B1…補助磁極片部
32B2…磁極片部
32B3…ブリッジ部
34…永久磁石挿入穴
36…永久磁石
38…シャフト
39…風孔
46,48…エンドブラケット
42,44…ベアリング
52,54…ブリッジ部の孔
62,64…スリット部
80…直流電源
82…インバータ
84…速度制御回路
86…F/V変換器
88…位相シフト回路
92…2相-3相変換回路
90…正弦波・余弦波発生器
94A,94B,94C…電流制御系
100…車体
110,112,114,116…車輪
130…制御装置
140…バッテリ
150…ハンドル
152…ステアリングギア
154…車軸
PS…位置検出器
E…エンコーダ
CT…電流検出器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-09 
出願番号 特願平8-76748
審決分類 P 1 652・ 121- YA (H02K)
P 1 652・ 852- YA (H02K)
P 1 652・ 16- YA (H02K)
P 1 652・ 853- YA (H02K)
P 1 652・ 851- YA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米山 毅  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 村上 哲
三友 英二
登録日 2002-09-06 
登録番号 特許第3347935号(P3347935)
権利者 株式会社日立カーエンジニアリング 株式会社日立製作所
発明の名称 永久磁石回転電機及びそれを用いた電動車両  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  

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