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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01P
管理番号 1094641
異議申立番号 異議2003-70374  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-12 
確定日 2004-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3312531号「回転速度検出装置付ハブユニット」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3312531号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成7年5月31日に特許出願(特願平7-133598号)され、平成14年5月31日に特許権の設定登録がされ、同年8月12日にその特許掲載公報が発行された特許第3312531号(以下「本件特許」という。)につき、平成15年2月12日にその請求項1及び2に係る特許に対して田中雅久より特許異議の申立てがされたものであり、当審において平成15年6月20日付けで取消理由を通知(同年7月1日発送)したところ、同年8月19日に訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、当審において平成15年12月16日付けで、更に取消理由を通知(平成16年1月6日発送)したところ、平成15年8月19日に提出された訂正請求書についての訂正請求取下書及び新たな訂正請求書が平成16年1月7日に提出されたものである。

第2 平成16年1月7日に提出した訂正請求書による訂正について
1 訂正の内容
本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに以下のように訂正する。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の9行末尾の「上記ト」の前に、「このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは、それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、」を加入する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
発明の詳細な説明の欄の段落【0023】下から7行の「コイルとから成り、」の後に、「このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは、それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、」を加入する。
(4)訂正事項4
発明の詳細な説明の欄の段落【0025】2行の「第一実施例」を「技術的範囲から外れる参考例の第1例」と訂正する。
(5)訂正事項5
同段落同行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(6)訂正事項6
同段落下から2行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(7)訂正事項7
段落【0028】下から5行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(8)訂正事項8
段落【0030】下から2行の「実施例」を「参考例」と訂正する。
(9)訂正事項9
段落【0031】1行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(10)訂正事項10
段落【0034】1行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(11)訂正事項11
同段落7行の「本発明」を「本参考例」と訂正する。
(12)訂正事項12
段落【0035】1行の「第二実施例」を「技術的範囲から外れる参考例の第2例」と訂正する。
(13)訂正事項13
同段落同行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(14)訂正事項14
同段落3行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(15)訂正事項15
同段落下から2行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(16)訂正事項16
同段落最下行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(17)訂正事項17
段落【0036】1行の「第三実施例」を「技術的範囲から外れる参考例の第3例」と訂正する。
(18)訂正事項18
同段落同行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(19)訂正事項19
同段落3行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(20)訂正事項20
段落【0037】1行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(21)訂正事項21
同段落3行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(22)訂正事項22
同段落4〜5行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(23)訂正事項23
同段落5行の「第二実施例」を「参考例の第2例」と訂正する。
(24)訂正事項24
段落【0038】1行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(25)訂正事項25
同段落5行の「実施例」を「参考例」と訂正する。
(26)訂正事項26
同段落最下行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(27)訂正事項27
段落【0039】1行の「第四実施例」を「技術的範囲から外れる参考例の第4例」と訂正する。
(28)訂正事項28
段落【0040】1行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(29)訂正事項29
段落【0041】下から3行の「各実施例」を「各参考例」と訂正する。
(30)訂正事項30
段落【0043】5〜6行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(31)訂正事項31
同段落7行の「実施例」を「参考例」と訂正する。
(32)訂正事項32
段落【0044】1行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(33)訂正事項33
同段落5行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(34)訂正事項34
段落【0046】下から3行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(35)訂正事項35
同段落最下行の「第一実施例」を「参考例の第1例」と訂正する。
(36)訂正事項36
段落【0047】1行の「第五実施例」を「実施例」と訂正する。
(37)訂正事項37
同段落下から2行の「そして、」の前に、「又、上記ステータ37cのうちの円筒部48の先端寄り部分を、上記トーンホイール29cのうちの外側円筒部53の内径側に配置し、コイル38cを、上記円筒部48の内径側に配置し、永久磁石36cを、上記コイル38cの内径側に配置している。且つ、上記外側円筒部53と、上記円筒部48と、上記コイル38cと、上記永久磁石36cとを、それぞれの軸方向一部同士を、ラジアル方向(図11〜12の上下方向)に関して互いに重畳させている。」と加入する。
(38)訂正事項38
段落【0052】1行の「応用例の第1例」を「技術的範囲から外れる参考例の第5例」と訂正する。
(39)訂正事項39
同段落2行の「第四〜第五実施例」を「参考例の第4例及び本発明の実施例」と訂正する。
(40)訂正事項40
段落【0053】下から2行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(41)訂正事項41
段落【0054】下から3行の「実施例」を「参考例」と訂正する。
(42)訂正事項42
同段落下から2行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(43)訂正事項43
段落【0060】5行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(44)訂正事項44
同段落最下行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(45)訂正事項45
段落【0061】1行の「第六実施例」を「技術的範囲から外れる参考例の第6例」と訂正する。
(46)訂正事項46
同段落同行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(47)訂正事項47
段落【0063】1行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(48)訂正事項48
同段落同行の「第四実施例」を「参考例の第4例」と訂正する。
(49)訂正事項49
同段落2行の「第四実施例」を「参考例の第4例」と訂正する。
(50)訂正事項50
同段落4行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(51)訂正事項51
同段落下から4行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(52)訂正事項52
同段落同行の「第四実施例」を「参考例の第4例」と訂正する。
(53)訂正事項53
段落【0064】1行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(54)訂正事項54
同段落下から4行の「本実施例」を「本参考例」と訂正する。
(55)訂正事項55
同段落下から4行〜下から3行の「第一〜第五実施例」を「参考例の第1〜4例及び実施例」と訂正する。
(56)訂正事項56
同段落下から3行の「応用例」を「参考例の第5例」と訂正する。
(57)訂正事項57
段落【0069】1行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(58)訂正事項58
段落【0072】1行の「各実施例」を「各参考例及び実施例」と訂正する。
(59)訂正事項59
図面の簡単な説明の【図1】の「の第一実施例」を「に関する参考例の第1例」と訂正する。
(60)訂正事項60
同【図4】の「の第二実施例」を「に関する参考例の第2例」と訂正する。
(61)訂正事項61
同【図6】の「の第三実施例」を「に関する参考例の第3例」と訂正する。
(62)訂正事項62
同【図8】の「の第四実施例」を「に関する参考例の第4例」と訂正する。
(63)訂正事項63
同【図11】の「第五実施例」を「実施例」と訂正する。
(64)訂正事項64
同【図13】の「の応用例」を「に関する参考例の第5例」と訂正する。
(65)訂正事項65
同【図15】の「の応用例」を「に関する参考例の第5例」と訂正する。
(66)訂正事項66
同【図17】の「応用例」を「参考例の第5例」と訂正する。
(67)訂正事項67
同【図18】の「の第六実施例」を「に関する参考例の第6例」と訂正する。
2 訂正の適否
訂正事項1は、請求項1に「このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは.それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、」との限定を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。この付加された点については、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に「【0048】・・・回転側除肉部である切り欠き47を形成した外側円筒部53がセンサ35cの外径側に存在する」、「【0051】・・・本実施例の様に、それぞれが円環状である永久磁石36cとコイル38cとをラジアル方向に重ねる構造」との記載がされ、図11及び12には、その断面図が示されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項2は、請求項2を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項3から訂正事項67までは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項3から訂正事項67までは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正は平成6年法律第116号附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4、3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書、2項及び3項の規定に適合するので、これを認める。

第3 特許異議の申立ての理由の要点
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第1号証(米国特許第5296805号公報)、甲第2号証(欧州特許出願公開第557931号公報)、甲第3号証(米国特許第3927339号公報)、甲第4号証(米国特許第3541368号公報)及び甲第5号証(特開平5-107255号公報)に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。

第4 本件特許の請求項に係る発明
本件特許の請求項に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成16年1月7日提出の訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】内周面に外輪軌道を有する、回転しない外輪と、使用時に回転するハブと、外周面に内輪軌道を有し、このハブの外周面に外嵌固定された内輪と、上記外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数の転動体と、上記外輪の開口端部に嵌合固定されたカバーと、このカバーに支持された円環状のセンサと、上記内輪の端部外周面に外嵌固定されて使用時に回転する、磁性材製で回転側除肉部を円周方向に亙って等間隔に形成したトーンホイールとを備え、上記センサは、それぞれが円環状に形成された永久磁石と、磁性材製で円周方向に亙って固定側除肉部を、上記回転側除肉部と等ピッチで形成したステータと、このステータ中の磁束の流れの変化を電圧に変換する円環状のコイルとから成り、このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは、それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、上記トーンホイールの一部で上記回転側除肉部を形成した部分と上記ステータの一部で上記固定側除肉部を形成した部分とを、それぞれの全周に亙り微小隙間を介して対向させており、上記コイルは、上記永久磁石と上記ステータと上記トーンホイールと上記微小隙間とのみで中心軸を含む仮想平面に関する断面の全周を囲まれており、このうちの永久磁石及びステータは、これらステータ又は永久磁石以外の磁性材製の部材とは接触していない回転速度検出装置付ハブユニット。」

第5 甲第1号証から甲第5号証までに記載された発明
1 甲第1号証には、図面とともに、「まず、FIG1に示すように、非駆動すなわち従動形式の車輪軸受は、円筒形のハブ12により取り囲まれた中実の回転スピンドル10を含む。この円筒形のハブ12は、車両の懸架装置に固定される。」(2欄26〜29行)、「また、上記スピンドル10の自由端は、一つの円筒状の配列をなす軸方向に延在する励磁器リング歯16を搭載している。上記励磁器リング歯16は、スピンドル10の軸に略直角な環状肩部18を含む鋼の打ち抜き品の部分である。上記スピンドル10とともに回転する励磁器リング歯16は、磁気回路によって確立された磁束を急速に遮断するように動作して、その磁束の検知された変動は、スピンドル10及びそれに取り付けられた図示しない車輪の速度に対応する。」(2欄34〜42行)、「次に、FIG2に示すように、上記車輪速度センサ20は、22で全体的に示されたステータアセンブリ(静止ハブ12に固定されているからそのように呼ぶ)と、24で全体的に示されて上記ステータアセンブリ22に取り外し可能に取り付けられたセンサアセンブリとの2つの基本的なサブアセンブリを含んでいる。上記ステータアセンブリ22は、中心穴28を有する段付きシリンダー形状の成形された樹脂製エンドキャップ26を含む。この樹脂製エンドキャップ26は、ハブ12の軸方向外側に面する凹外面と、ハブ12の軸方向内側に面する凸内面とを有する。」(2欄48〜58行)、「中心穴28に同軸な平たいウェブ30を含む打ち抜きの鋼からなるステータが、樹脂製エンドキャップ26に一体にモールドされている。そのウェブ30から、一組の短い歯32が、上記励磁器リング歯16に同軸で、かつ、上記励磁器リング歯16のちょっと半径方向内側に上記一組の短い歯32を配置するような直径をもつ円筒形状の配列をなして、軸方向に延在している。」(2欄58〜63行)、「強力な環状永久磁石34が、上記中心穴28の内面に圧入されると共に、ステータウェブ30のむきだしの背面に当接している。上記永久磁石34は、ステータ歯32と同じ外径を有する。」(2欄68行〜3欄4行)、「センサーサブアッセンブリー24は、成型された樹脂プラグ36を含み、・・・プラグ36は、一般に銅線からなる環状センサーコイル40を支持する。」(3欄4〜9行)との記載がされている。
2 甲第2号証には、図面とともに、「この発明は、車輪を支持する部材のような2つの相対的に回転する部材の相対的な回転速度を測定する装置の技術分野に属する。」(1欄1〜4行)、「図に示すように、この測定装置は、測定コイル11に対向して配置された磁気リング10を備え、これらは、磁束集中器として知られるL字断面形状の金属リング13内に収容されている。この要素は、車両の固定部(簡明にするために図示していない。)に固定されている。この発明によれば、この装置の回転部は、歯付き金属ホイール14である。この歯付き金属ホイール14は、上記磁気リング10に対向する歯または開口を設けられた部分15と、本実施例では簡明さのために円筒形である連続部16を備える。上記歯付きホイール14は、監視される回転要素、本実施例(図2)では、車輪の軸受の内輪20に直接に締め付けで取り付けられている。」(2欄46行〜3欄2行)、「また、本発明による装置は、上記リング10とコイル11を、プラスチックモールドを使用する予め組み立てられたユニットとして形成して、上記ホイール14を簡単な操作で取り付けられるようにするのに、特に、適していることに注目すべきである。」(3欄37〜41行)、「請求の範囲 1 基板上の電子コントロールユニットに連結されると共に、回転部分、すなわち、ホニックホイール14に磁気的に連結されたセンサーすなわちコイル11を備える形式てあって、車輪を支持する部材のような2つの相対回転する部材の相対回転速度を測定する装置において、上記コイル11と磁気リング10は互いに対向して配置されると共に、車両の固定部に固定されており、上記ホニックホイール14は、監視されるべき回転要素に配置されると共に、歯または開口が設けられた金属リングからなって、その歯または開口が設けられた部分15は、磁気リング10の極に面していることを特徴とする装置。」(3欄55行〜4欄13行)との記載がされている。
3 甲第3号証には、図面とともに、「参照番号12で全体的に指し示された環状の周波数送信機は、差動ギアーアッセンブリの各軸受カバーに、別体の環状挿入部材11の内側に位置するように、配置している。上記周波数送信機12は、これによって、従来のブレーキスリップ制御システムのための信号を生成する。このブレーキスリップ制御システムは、本発明の部分を形成していないから、ここでは詳細には図示されていない。上記環状挿入部材11は、例えば、アルミニュームダイキャストからなる非磁性材料で作られている。それは、環状の永久磁石13を収容し、コイル15を有するコイル支持体14の回りに同心に配置されている。2つの磁気的な導通材料の円板16及び17は、この構造ユニットの両側に配置されている。これらの円板の内周面には歯18が設けられている。それらの歯が設けられた手段が周方向に関して厳密に同じ位置になるように、互いに配置され、かつ、固定されている。スリーブすなわちブッシュ20は、出力すなわち被駆動軸19に固定されている。このスリーブすなわちブッシュは、上記円板16及び17に設けられた2つの歯手段18と対向して配置される連続した1つの歯手段21を有する。それゆえ、磁束は、部分13、16、17、20を通り、2つのアクティブな歯手段を通って案内される。」(4欄8〜32行)、「さらに、上記図面において、鎖線Mで示された磁束は、2つのアクティブな歯手段16、21及び17、21に、非常に強い信号が生成されるように、鋭く集中させられる。この集中は、上記非磁性材料の環状挿入部材11によって、強められる。というのは、それによって、迷走磁束が防止されるからてある。」(5欄4〜11行)との記載がされている。
4 甲第4号証には、図面とともに、「この発明は、電気速度センサに関する。特に、車輌のスキッド制御システムに使用するために、回転速度を検出するために」(1欄24〜26行)、「図面のFIGS.1-3に示すように、センサアッセンブリは、全体的に、参照番号10で示されていて、固定部材12と回転部材14との組み付け関係が示されている。上記センサアッセンブリは、U字形状の断面を有する環状に延在するステータ部材22を含むステータアッセンブリ20を含み、このステータアッセンブリ20には、環状に延在するコイルアッセンブリ24が搭載されている。このコイルアッセンブリ24は、プラスチックボビン28に支持されたコイル部材26を含む。環状に延在する永久磁石30が上記ステータ部材22の内側のシャントレッグ(分路足部)32に近接して配置されている。上記ステータ部材22は、第2の外側のレッグ(足部)34を有する。復帰部材36は、全体的にワッシャー状に形成されていて、上記磁石30に隣接して配置されている。非磁性材料からなる環状の収容部材37は、ステータ22、コイルアッセンブリ24、磁石30および復帰部材36を一緒に含むステータアッセンブリ30を収容して、固定部材12に搭載されるようになっている。上記レッグ32、34の半径方向の内端には、夫々、複数の周方向に配分されて軸方向に延在する歯38、40が設けられている。上記復帰部材36の半径方向の内端は、全体的に滑らかになっている。ロータ44は、ステータアッセンブリ20と略同軸に配置されて、回転部材14に支持されている。上記ロータ44は、環状に延在して、複数の周方向に分配されて軸方向に延在する歯46が設けられている。この歯46は、夫々、レッグ32、34の歯38、40に対向するように、軸方向に十分に延在している。」(2欄9行〜37行)との記載がされている。
5 甲第5号証には、図面とともに、「【0006】・・・更に、上記外輪10の内端(図4の右端)開口部には、金属板を深絞り形成して成るカバー15を嵌合固定している。そして、このカバー15に支持した、回転速度検出用のセンサ16を、前記パルスロータ8の凹凸部9に対向させている。【0007】このセンサ16は、一端面(図4の左端面)を上記パルスロータ8の凹凸部9に対向させた磁性材製のポールピース17と、このポールピース17の周囲に巻回されたコイル18と、その一端面(図4の左端面)を上記ポールピース17の他端面(図4の右端面)に当接させた永久磁石19とから構成される。この永久磁石19は、軸方向(図4の左右方向)に亙り着磁されたもので、上記ポールピース17は、一方の磁極に突き当てられた状態となる。」、「【0010】【発明が解決しようとする課題】ところが、上述の様に構成される従来の回転速度検出用転がり軸受ユニットは、車輪と共にハブ1が回転した場合でも、回転速度検出用のセンサ16の出力が十分に大きくならない。」、「【0020】・・・一方の円板部23を、カバー15の内側にセンサ16を組み付ける際に、ポールピース17、コイル18、永久磁石19と共に、合成樹脂20内に埋設している。」、「【0023】【発明の効果】本発明の回転速度検出用転がり軸受ユニットは、以上に述べた通り構成され作用する為、特に大きな磁力を有する永久磁石を使用しなくても、回転速度検出用のセンサの出力を十分に大きく出来る。」との記載がされている。

第6 当審の判断
本件発明と甲第1号証から甲第5号証までに記載された発明とを対比すると、甲第1号証から甲第5号証までに記載された発明は、いずれも本件発明の構成要件である「ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは.それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳」する点を備えていない。
本件発明は、この点により明細書記載の作用、効果を奏するものであり、当業者が甲第1号証から甲第5号証までに記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、本件発明についての特許が特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転速度検出装置付ハブユニット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 内周面に外輪軌道を有する、回転しない外輪と、使用時に回転するハブと、外周面に内輪軌道を有し、このハブの外周面に外嵌固定された内輪と、上記外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数の転動体と、上記外輪の開口端部に嵌合固定されたカバーと、このカバーに支持された円環状のセンサと、上記内輪の端部外周面に外嵌固定されて使用時に回転する、磁性材製で回転側除肉部を円周方向に亙って等間隔に形成したトーンホイールとを備え、上記センサは、それぞれが円環状に形成された永久磁石と、磁性材製で円周方向に亙って固定側除肉部を、上記回転側除肉部と等ピッチで形成したステータと、このステータ中の磁束の流れの変化を電圧に変換する円環状のコイルとから成り、このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは、それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、上記トーンホイールの一部で上記回転側除肉部を形成した部分と上記ステータの一部で上記固定側除肉部を形成した部分とを、それぞれの全周に亙り微小隙間を介して対向させており、上記コイルは、上記永久磁石と上記ステータと上記トーンホイールと上記微小隙間とのみで中心軸を含む仮想平面に関する断面の全周を囲まれており、このうちの永久磁石及びステータは、これらステータ又は永久磁石以外の磁性材製の部材とは接触していない回転速度検出装置付ハブユニット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットは、自動車の車輪を懸架装置に回転自在に支持すると共に、この車輪の回転速度を検出する為に利用する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)、或はトラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為に、この車輪の回転速度を検出する為の回転速度検出装置付ハブユニットとして、例えば米国特許第4907445号明細書には、図20に示す様なユニットが記載されている。
【0003】
この図20に示した回転速度検出装置付ハブユニットは、外端部(図20の左端部)に車輪固定用のフランジ部1を有し、中間部外周面に第一の内輪軌道2aを形成したハブ3と、外周面に第二の内輪軌道2bを有し、このハブ3の中間部外周面に外嵌された内輪4と、上記ハブ3の内端部(図20の右端部)外周面に形成された雄ねじ部5に螺合し、螺合に伴って上記内輪4の内端面を押圧し、この内輪4をハブ3の外周面の所定位置に固定するナット6と、図示しない懸架装置に支持する為の取付部7を外周面に有し、内周面に複列の外輪軌道8a、8bを形成した外輪9と、上記ハブ3と外輪9との間に設けられた複数の転動体10、10とを有する。そして、懸架装置に支持される外輪9の内側に、車輪を固定するハブ3を回転自在に支持する。
【0004】
上記内輪4の内半部(図20の有半部)には円筒状のトーンホイール11を外嵌固定している。このトーンホイール11の内端面(車両への組み付け状態で幅方向内側になる端面を言い、図20の右端面)には凹凸部12を形成する事で、この内端面の磁気特性を、円周方向に亙って交互に、且つ等間隔で変化させている。又、上記外輪9の内端開口部に、この開口部を覆った状態で装着したカバー13にはセンサ14を固定し、このセンサ14の外端面を上記凹凸部12に対向させている。
【0005】
上述した様な回転速度検出装置付ハブユニットの使用時には、ハブ3の外端部に設けられたフランジ部1に固定された車輪を、外輪9を支持した懸架装置に対して回転自在に支持する。又、車輪の回転に伴って、内輪部材4に外嵌固定したトーンホイール11が回転すると、このトーンホイール11の内端面に形成した凹凸部12と対向したセンサ14の出力が変化する。このセンサ14の出力が変化する周波数は車輪の回転速度に比例する為、センサ14の出力信号を図示しない制御器に入力すれば、上記車輪の回転速度を求め、ABSやTCSを適切に制御できる。
【0006】
ところが、上述の様に構成され作用する従来の回転速度検出装置付ハブユニットの場合には、小型化が難しく、搭載可能な車種が比較的大型の自動車に限られた。即ち、車輪の回転速度検出を行なうべく、トーンホイール11の内端面に形成した凹凸部12にセンサ14を、軸方向に亙り対向させている為、回転速度検出部分の軸方向に亙る寸法が大きくなる事が避けられなかった。
【0007】
特に、比較的安価な装置の場合には、トーンホイール11として(永久磁石製ではなく)単なる磁性材製のものを使用し、このトーンホイール11に対向するセンサ14として、磁性材製の芯材にコイルを巻回した、所謂パッシブ型のものを使用する。この様なパッシブ型のセンサ14の場合には、センサ14の出力を確保する為に、このセンサ14の軸方向に亙る寸法も或る程度大きくなる。従って、回転速度検出装置付ハブユニットの軸方向寸法が大きくなる程度も著しくなる。
【0008】
回転速度検出装置付ハブユニットとしてはこの他にも、特開平1-175502号公報、実開平3-99676号公報に記載されたものが、従来から知られている。これら各公報に記載された構造の場合には、トーンホイールの内周面又は外周面の磁気特性を円周方向に亙って変化させ、この内周面又は外周面にセンサの検出部を対向させている。ところが、これら各公報に記載された構造の場合には、パッシブ型センサの芯材を軸方向に配置している為、必ずしも十分な小型化を図れない。
【0009】
又、実開平4-36121号公報には、外輪部材と共に回転するトーンホイールの内周面とセンサとを対向させる構造が記載されている。ところが、この公報に記載された構造の場合には、前提とする構造が、本願発明が対象とする構造と異なり、使用状態が限られる。
【0010】
更に、欧州特許公開0 426 298 A1には、車輪と共に回転するハブの端部に固定したトーンホイールの外周面と、外輪の開口端部に嵌合固定したカバーに支持した円環状のセンサの内周面とを対向させる構造が記載されている。この構造の場合には、上記ハブに外嵌した内輪の抜け止めを図るストップリングと上記トーンホイールとを、上記ハブの軸方向に亙って直列に配置している。この様な従来構造の場合には、センサを円環状に構成している為、このセンサの出力増大を図れる反面、トーンホイールの設置スペースが嵩む為、小型化を図りにくい。
【0011】
【先発明の説明】
この様な問題に対処する為の構造として本出願人は先に、軸方向に亙る寸法を小さくして、小型自動車等設置スペースが限られた車両への組み付けも可能となり、車両設計の容易化を図れる構造を提案した(実願平5-48365号)。図21〜22は、この先発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットを示している。ハブ3の外端部(車両への組み付け状態で幅方向外側になる端部を言い、図21の左端部)外周面には、車輪を固定する為のフランジ部1を形成し、中間部外周面には、第一の内輪軌道2aと段部15とを形成している。又、このハブ3の外周面には、その外周面に同じく第二の内輪軌道2bを形成した内輪4を、その外端面(図21の左端面)を上記段部15に突き当てた状態で、外嵌支持している。尚、上記第一の内輪軌道2aは、ハブ3の外周面に直接形成する代りに、ハブ3とは別体の内輪(図示せず)に形成し、この内輪と上記内輪4とを、ハブ3に外嵌固定する場合もある。
【0012】
又、ハブ3の内端寄り部分(車両への組み付け状態で幅方向内側寄りになる部分を言い、図21の右寄り部分)には雄ねじ部16を形成している。この雄ねじ部16にはナット6を螺合し、更に緊締する事で、上記内輪4をハブ3の外周面の所定部分に固定している。ハブ3の周囲に配置された外輪9の中間部外周面には、この外輪9を懸架装置に固定する為の取付部7を設けている。又、この外輪9の内周面には、それぞれが上記第一、第二の内輪軌道2a、2bに対向する、外輪軌道8a、8bを形成している。そして、第一、第二の内輪軌道2a、2bと1対の外輪軌道8a、8bとの間に、それぞれ複数の転動体10、10を設けて、外輪9の内側でのハブ3の回転を自在としている。
【0013】
又、上記外輪9の外端部内周面と、ハブ3の外周面との間には、シールリング17を装着して、外輪9の内周面と上記ハブ3の外周面との間に存在し、上記複数の転動体10、10を設けた空間の外端開口部を塞いでいる。又、上記ハブ3の内端部で、前記雄ねじ部16よりも更に内端側に位置し、且つ前記ナット6の内端面から突出した部分の外周面には、軸方向に亙って太さが変化しない円筒面部22を形成し、この円筒面部22にトーンホイール18を支持している。円筒面部22の外径は上記雄ねじ部16の谷径よりも小さい。
【0014】
上記トーンホイール18は、鋼板等の磁性金属板に、プレス加工、絞り加工等の塑性加工を施す事により造られる。このトーンホイール18は、小径の内側円筒部19と、大径でこの内側円筒部19と同心の外側円筒部20と、両円筒部19、20同士を連続させる円輪部21とから成り、断面クランク形で全体を円輪状に形成している。そして、上記外側円筒部20には複数の透孔23を、円周方向に亙って等間隔で形成する事により、上記外側円筒部20の外周面の磁気特性を、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。この様なトーンホイール18は、上記内側円筒部19を上記ハブ3の内端部に形成した円筒面部22に外嵌する事で、ハブ3に対し固定している。この様にトーンホイール18をハブ3に固定した状態で、上記外側円筒部20は、上記ナット6の周囲に位置する。
【0015】
一方、外輪9の内端開口部はカバー24で塞ぐ事により、この内端開口部から外輪9内への塵芥や雨水の進入防止を図っている。このカバー24は、ステンレス鋼板等の金属板を絞り加工する等により造られている。このカバー24は、外端部(図21〜22の左端部)が開口しており、外周面の開口寄り部分には、フランジ状の係止突条25を有する。カバー24の開口部の自由状態での外径は、外輪9の内端開口部の内径と同じか、これよりも僅かに大きくしている。この結果、上記カバー24の開口寄り部分は、上記係止突条25が外輪9の内端面に突き当たる迄、上記外輪9の内端開口部に内嵌自在である。
【0016】
そして、このカバー24内にパッシブ型のセンサ14を、位置規制した状態で保持固定している。このセンサ14の出力信号は、上記カバー24の外面に設けたコネクタ26に接続した導線(図示せず)を通じて取り出される。又、このセンサ14の検出部27は、上記カバー24の直径方向内方に向いている。この検出部27は、上記カバー24を前記外輪9の内端部に嵌合固定した状態で、上記外側円筒部20の外周面に、0.6〜1.0mm程度の微小隙間28を介して対向する。更に、上記センサ14を構成する芯材は、上記トーンホイール18の円周方向(図21〜22の表裏方向)に亙って配置している。この芯材の少なくとも一端は、直径方向内側に曲げて上記検出部27とし、上記トーンホイール18の外周面に近接対向させている。
【0017】
上述の様に構成される先発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットにより、懸架装置に対して車輪を回転自在に支持すると共に、ハブ3のフランジ部1に固定された車輪の回転速度を検出する際の作用自体は、前述した従来の回転速度検出装置付ハブユニットと同様である。
【0018】
特に、先発明の回転速度検出装置付ハブユニットの場合、パッシブ型で長さ寸法が或る程度嵩むセンサ14を、トーンホイール18の直径方向外側に配置し、しかも円周方向に長く配置できる為、回転速度検出装置付ハブユニットの軸方向並びに直径方向に亙る寸法を小さくして、小型自動車等の限られたスペースにも設置可能となる。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
上述の様に構成される先発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットの場合、軸方向に亙る寸法を小さくして、小型自動車等設置スペースが限られた車両への組み付けも可能となり、車両設計の容易化を図れる、と言った、従来構造に比べて優れた効果を得られるが、依然として次に述べる様な点を改良する事が望まれている。
【0020】
即ち、ハブ3に固定された車輪の回転速度検出を確実に行なわせる為には、センサ14の出力を高く(出力電圧の変化量を大きく)する事が好ましい。一方、ヨーク或はステータを通過する磁束の密度変化に伴って電圧を変化させる、所謂パッシブ型のセンサ14の出力を大きくする為には、このセンサ14を大型化するか、或はこのセンサ14に組み込まれた永久磁石の磁束密度を高くする(磁力を大きくする)必要がある。
【0021】
一方、上記センサ14を設置可能なスペースは限られており、このセンサ14の大型化には限度がある。又、永久磁石の磁束密度を高くする事も限界があるだけでなく、小型で断面積が小さなヨーク或はステータしか持たないセンサ14に、単に磁束密度が高い永久磁石を組み込んでも、これらヨーク或はステータ内で磁束が飽和し易くなる。そして、磁束が飽和した場合には、センサ14の出力が却って低下してしまう。
【0022】
前記欧州特許公開0 426 298 A1に記載された構造の場合には、センサが円環状に造られているので、上記出力の低下に結び付く磁束飽和が生じにくいが、軸方向寸法が嵩む為、設置スペースが限られて小型自動車等に使用する回転速度検出装置付ハブユニットとしての実用性に問題がある。本発明の回転速度検出装置付ハブユニットは、この様な事情に鑑みて発明したもので、狭い設置空間に組み込み可能で、しかもセンサの出力を十分に大きくできる構造を得させるものである。
【0023】
【課題を解決する為の手段】
本発明の回転速度検出装置付ハブユニットは、内周面に外輪軌道を有する、回転しない外輪と、使用時に回転するハブと、外周面に内輪軌道を有し、このハブの外周面に外嵌固定された内輪と、上記外輪軌道と内輪軌道との間に設けられた複数の転動体と、上記外輪の開口端部に嵌合固定されたカバーと、このカバーに支持された円環状のセンサと、上記内輪の端部外周面に外嵌固定されて使用時に回転する、磁性材製で回転側除肉部を円周方向に亙って等間隔に形成したトーンホイールとを備える。そして、上記センサは、それぞれが円環状に形成された永久磁石と、磁性材製で円周方向に亙って固定側除肉部を、上記回転側除肉部と等ピッチで形成したステータと、このステータ中の磁束の流れの変化を電圧に変換する円環状のコイルとから成り、このステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分を、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記コイルを、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分の内径側に配置しており、上記永久磁石を、上記コイルの内径側に配置しており、且つ、上記トーンホイールのうちで上記回転側除肉部を形成した部分と、上記ステータのうちで上記固定側除肉部を形成した部分と、上記コイルと、上記永久磁石とは、それぞれの軸方向一部同士がラジアル方向に関して互いに重畳しており、上記トーンホイールの一部で上記回転側除肉部を形成した部分と上記ステータの一部で上記固定側除肉部を形成した部分とを、それぞれの全周に亙り微小隙間を介して対向させている。又、上記コイルは、上記永久磁石と上記ステータと上記トーンホイールと上記微小隙間とのみで中心軸を含む仮想平面に関する断面の全周を囲まれており、このうちの永久磁石及びステータは、これらステータ又は永久磁石以外の磁性材製の部材とは接触していない。
【0024】
【作用】
上述の様に構成される本発明の回転速度検出装置付ハブユニットによれば、センサを限られた空間に設置可能にし、しかもこのセンサの出力を十分に大きくして、車輪等、ハブと共に回転する部材の回転速度検出を確実に行なえる。即ち、本発明の回転速度検出装置付ハブユニットを構成する永久磁石、ステータ、及びコイルは、それぞれトーンホイールの全周を囲む円環状に形成されている為、上記ステータの内部を流れる磁束の量を、このステータ全体として十分に多くできる。従って、このステータを通過する磁束の密度変化に対応する、上記コイルの電圧変化も十分に大きくできる。又、この様なセンサをカバーの内周面と上記ナットの外周面との間に設ければ、軸方向に亙る寸法が嵩む事がなく、小型の回転速度検出装置付ハブユニットを得られる。
【0025】
【実施例】
図1〜3は、本発明の技術的範囲から外れる参考例の第1例を示している。尚、本参考例の特徴は、ハブ3(と共に回転する部材)の回転速度を検出する為の回転速度検出装置部分にあり、ハブユニット部分の構造及び作用は、前述した先発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットと同様である。よって、先発明と同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本参考例の特徴部分を中心に説明する。
【0026】
トーンホイール29は、鋼板等の磁性金属板により全体を円筒状に形成している。このトーンホイール29は、互いに同心に形成された小径部30と大径部31とを段部32により連続させて成る。この様なトーンホイール29は、上記大径部31を内輪4の端部外周面に外嵌し、上記段部32をこの内輪4の端縁部に当接させた状態で、この内輪4に支持固定している。従って上記小径部30は、上記内輪4と同心に支持される。そして、この小径部30に、回転側除肉部である複数の透孔33を、円周方向に亙って等間隔に形成している。各透孔33は同形状で、例えば軸方向(図1〜3の左右方向)に長い矩形としている。
【0027】
外輪9の内端開口部は、請求項2に記載した様に、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板等の金属板を絞り加工する等により造られた、カバー34で塞いでいる。このカバー34の形状は、前述した先発明の構造に組み込まれたカバー24(図21〜22)の形状と異なり、全周に亙り同じ形状(中心軸に対して対称な形状)としている。尚、このカバー34は、次述するセンサ35を構成する永久磁石36からの磁束を流す為に使用する事はない。従ってこのカバー34の材質は、先発明の場合とは異なり、好ましくは、合成樹脂、アルミニウム合金、銅等の非磁性材とする。従って、ステンレス鋼板により造る場合も、非磁性のものを使用する事が、磁束の漏洩防止の面からは好ましい。その他は、先発明に組み込まれたカバー24と同様である。そして、このカバー34の内側に、全体を円環状に形成されたパッシブ型のセンサ35を内嵌固定し、このセンサ35を上記カバー34の内周面とナット6の外周面との間に配置している。
【0028】
このセンサ35は、永久磁石36と、鋼板等の磁性材により造られたステータ37と、コイル38とを備えており、これら各部材36、37、38を合成樹脂44中に包埋する事により、全体を円環状に構成している。このうちの永久磁石36は、全体を円輪状に形成されて、直径方向に亙り着磁されている。即ち、図示の例では、この永久磁石36の内周面をS極とし、外周面をN極としている。但し、着磁方向は逆でも差し支えない。そして、この永久磁石36の内周面(S極)を、上記トーンホイール29を構成する小径部30の先端部で、上記透孔33を形成していない部分の外周面に、微小隙間28を介して対向させている。尚、上記永久磁石36としては、単位面積当り高磁束密度を得られる希土類磁石を使う事が考えられる。但し、本参考例の構造の場合には、単位面積当りの磁束密度がそれほど高くなくても、センサ35の出力を十分に大きくできる。従って、上記永久磁石36として、合成樹脂中にフェライトを混入したプラスチック磁石、或は一般的なフェライト磁石の様に、安価なものを使用して、製作費の低減を図る事も可能である。
【0029】
又、上記ステータ37は、断面がL字形で全体を円環状に造られている。即ち、このステータ37は、円筒状の保持部39と、この保持部39の一端(図1〜3の左端)から直径方向内側に折れ曲がった折れ曲がり部40とを備える。そして、上記保持部39の他端部(図1〜3の右端部)内周面と上記永久磁石36の外周面とを近接若しくは当接させている。又、上記折れ曲がり部40の内周縁部を、上記トーンホイール29の一部で、上記複数の透孔33を形成した部分に対向させている。上記折れ曲がり部40には、この折れ曲がり部40の円周方向に亙って、固定側除肉部である複数の切り欠き41を、前記透孔33と等ピッチで形成している。従って、上記折れ曲がり部40は、櫛歯状に形成されている。
【0030】
更に、上記コイル38は、円環状に形成されて、上記ステータ37の内周面の一部で、上記永久磁石36と上記折れ曲がり部40との間部分に添設されている。従って上記コイル38は、図1〜3からも明らかな通り、上記永久磁石36と上記ステータ37と上記トーンホイール29と上記微小隙間28とのみで、図1〜3に表した断面、即ち、中心軸を含む仮想平面に関する断面の全周を囲まれている。又、前記センサ35を構成する上記永久磁石36及びステータ37は、これらステータ37又は永久磁石36以外の磁性材製の部材とは接触していない。即ち、これら永久磁石36及びステータ37は、互いに接触する他は、非磁性材である前記合成樹脂44に接触しているのみで、他の磁性材には接触していない。この様に、上記永久磁石36と上記ステータ37と上記トーンホイール29と上記微小隙間28とのみで断面の全周を囲まれた、上記コイル38に惹起される起電力は、カバー34の外面に突設したコネクタ26から取り出す。従って、上記ステータ37の一部には通孔(図示せず)を形成し、この通孔に、上記コイル38とコネクタ26とを結ぶ導線を挿通している。尚、上記コイル38に起電力を惹起させる為には、このコイル38をステータ37の外周面に添設しても良いが、図示の参考例の様に、内周面の一部で上記永久磁石36と上記折れ曲がり部40との間部分に添設する事で、空間の有効利用を図れる。
【0031】
上述の様に構成される本参考例の回転速度検出装置付ハブユニットの使用時、ハブ3と共にトーンホイール29が回転すると、このトーンホイール29と対向するステータ37内の磁束密度が変化し、上記コイル38に惹起される電圧が、上記ハブ3の回転速度に比例した周波数で変化する。ステータ37を流れる磁束の密度変化に対応して上記コイル38に惹起される電圧が変化する原理は、従来から広く知られた回転速度検出用センサの場合と同じである為、説明を省略し、以下、トーンホイール29の回転に応じてステータ37に流れる磁束の密度が変化する理由に就いて説明する。
【0032】
上記トーンホイール29に設けた複数の透孔33と、ステータ37に設けた切り欠き41とは、互いのピッチが等しい為、トーンホイール29の回転に伴って全周に亙って同時に対向する。そして、これら透孔33と切り欠き41とが互いに対向した状態では、隣り合う透孔33同士の間に存在する磁性体である柱部42と、やはり隣り合う切り欠き41同士の間に存在する磁性体である舌片43とが、微小隙間28を介して互いに対向する。この様にそれぞれが磁性体である柱部42と舌片43とが互いに対向した状態では、上記トーンホイール29とステータ37との間に、高密度の磁束が流れる。
【0033】
これに対して、上記透孔33と切り欠き41との位相が半分だけずれると、上記トーンホイール29とステータ37との間で流れる磁束の密度が低くなる。即ち、この状態では、トーンホイール29に設けた透孔33が上記舌片43に対向すると同時に、ステータ37に設けた切り欠き41が上記柱部42に対向する。この様に柱部42が切り欠き41に、舌片43が透孔33に、それぞれ対向した状態では、上記トーンホイール29とステータ37との間に比較的大きな空隙が、全周に亙って存在する。そして、この状態では、これら両部材29、37の間に流れる磁束の密度が低くなる。この結果、前記コイル38に惹起される電圧が、前記ハブ3の回転速度に比例して変化する。尚、この様な磁束密度変化を十分に行なわせる為には、透孔33の幅を舌片43の幅よりも広くし、切り欠き41の幅を柱部42の幅よりも広くする事が好ましい。この為には、透孔33及び切り欠き41の幅を、柱部42及び舌片43の幅よりも(例えば1.5倍程度に)広くする。
【0034】
本参考例の回転速度検出装置付ハブユニットを構成するセンサ35は、上述の様に作用する事で、コイル38に惹起される出力電圧を、ハブ3の回転速度に比例した周波数で変化させる。この様なセンサ35を設置する外輪9の開口端部で、前記ナット6の周囲部分には、元々円環状の空間が存在する。従って、上記センサ35を限られた空間に設置可能にし、しかもこのセンサ35の出力を十分に大きくして、ハブ3と共に回転する車輪の回転速度検出を確実に行なえる。即ち、本参考例の回転速度検出装置付ハブユニットを構成する永久磁石36、ステータ37、及びコイル38は、それぞれトーンホイール29の全周を囲む円環状に形成されている。そして、上記永久磁石36から出る磁束を、上記ステータ37の全周に亙って流す様にしている為、このステータ37の内部を流れる磁束の量を、このステータ37全体として十分に多くできる。従って、このステータ37を通過する磁束の密度変化に対応する、上記コイル38の電圧変化も十分に大きくできる。
【0035】
次に、図4〜5は、本発明の技術的範囲から外れる参考例の第2例を示している。本参考例の場合には、トーンホイール29aを2段に亙って絞る事により、小径部30aの直径を、上述した参考例の第1例の場合に比べて小さくしている。そして、この様に小径部30aの直径を小さくした分だけ、センサ35aを構成する永久磁石36a、ステータ37aの折れ曲がり部40a、及びコイル38aの、直径方向(図4〜5の上下方向)に亙る厚さ寸法を大きくしている。又、上記折れ曲がり部40aに形成した切り欠き41aの深さ寸法(図4の上下方向に亙る寸法)を大きくしている。各部の寸法をこの様にする事で、上記コイル38aに惹起される電圧の変化量を、上述した参考例の第1例に比べても、より大きくできる。その他の構成及び作用は、上述した参考例の第1例と同様である。
【0036】
次に、図6〜7は、本発明の技術的範囲から外れる参考例の第3例を示している。本参考例の場合には、カバー34aの開口端部(図6〜7の左端部)を外輪9の開口端部に外嵌する事で、このカバー34aを外輪9に連結支持している。従って本参考例の場合には、カバー34aの内周面とトーンホイール29の小径部30の外周面との間隔を大きくし、直径方向(図6〜7の上下方向)に亙る厚さ寸法が大きいセンサ35bの設置を可能にしている。
【0037】
又、本参考例の場合には、センサ35bを構成するステータ37bの断面形状を略J字形として、このステータ37bの端部で切り欠き41bを形成した部分により、コイル38bを抱持している。従って、本参考例の場合には、上記トーンホイール29側の柱部42とステータ37b側の舌片43とが、前述した参考例の第1例及び上述した参考例の第2例の場合に比べてより広い面積で対向自在となる。従って、上記柱部42と舌片43とが対向した状態で、微小隙間28部分で磁束の飽和が起こりにくくなり、永久磁石36bとしてより強い磁束のものを使用して、センサ35bの出力をより高くする事が可能となる。
【0038】
又、本参考例の場合には、磁気抵抗が大きい空気中の経路の面積を十分に大きく(広く)しているので、この空気中の経路部分での抵抗を小さくできる。この結果、磁気回路全体としての磁気抵抗が小さくなって、この磁気回路中に流れる磁束が多くなり、上記コイル38b部分で惹起される電圧(センサ35bの出力電圧)が高くなる。尚、図示の参考例では、折れ曲がり部40に対して舌片43を、保持部39と同じ側に折り曲げる事により、ステータ37bの断面形状を略J字形に形成している。これに対し、上記折れ曲がり部40に対して舌片43を、保持部39と逆側(図6〜7の右側)に折り曲げる事により、ステータ37bの断面形状をクランク形に形成する事もできる。この場合、ステータ37b及びこのステータ37bを含むセンサ35bの軸方向(図6〜7の左右方向)に亙る長さ寸法が多少大きくなるが、その他の作用効果は同様に得られる。その他の構成及び作用は、前述した参考例の第1例と同様である。
【0039】
図8〜10は、本発明の技術的範囲から外れる参考例の第4例を示している。トーンホイール29bは、鋼板等の磁性金属板により全体を円環状に形成している。このトーンホイール29bは、円筒部45と、この円筒部45の内端部(図8〜10の右端部)から直径方向(図8〜10の上下方向)外側に折れ曲がったフランジ状の円輪部46とから成る、断面L字形に形成されている。この様なトーンホイール29bは、上記円筒部45を、磁性材である軸受鋼製の内輪4の端部外周面に外嵌する事で、この内輪4に支持固定している。又、上記円輪部46の外周寄り半部に、回転側除肉部である複数の切り欠き47を、円周方向に亙って等間隔に形成している。従って上記円輪部46は、櫛歯状に形成されている。
【0040】
外輪9の内端開口部は、前述した参考例の第1例と同様に、ステンレス鋼板、アルミニウム合金板等の金属板を絞り加工する等により造られた、カバー34で塞いでいる。そして、このカバー34の内側に、全体を円環状に形成されたパッシブ型のセンサ35cを、内嵌固定している。
【0041】
このセンサ35cは、永久磁石36cと、鋼板等の磁性金属板により造られたステータ37cと、コイル38cとを備えており、これら各部材36c、37c、38cを合成樹脂44中に包埋する事により、全体を円環状に構成している。このうちの永久磁石36cは、全体を円輪状に形成されて、軸方向(図8〜10の左右方向)に亙り着磁されている。即ち、図示の例では、この永久磁石36cの内端面(図8〜10の右端面)をS極とし、外端面(図8〜10の左端面)をN極としている。但し、着磁方向は逆でも差し支えない。そして、この永久磁石36cの外端面(N極)を、上記トーンホイール29bの内周縁部から前記内輪4の内端面外周寄り部分に、微小隙間28aを介して対向させている。尚、上記永久磁石36cとしては、前述の各参考例の場合と同様に、希土類磁石を使う事が考えられるが、プラスチック磁石、或は一般的なフェライト磁石の様に、安価なものを使用して、製作費の低減を図る事も可能である。
【0042】
又、上記ステータ37cは、断面がL字形で全体を円環状に造られている。即ち、このステータ37cは、円筒部48と、この円筒部48の一端(図8〜10の右端)から直径方向内側に連続する、内向フランジ状の円輪部49とを備える。そして、上記円輪部49の外側面(図8〜10の左側面)内周寄り部分と上記永久磁石36cの内端面(図8〜10の右端面)とを近接若しくは当接(好ましくは当接)させている。又、上記円筒部48の外端縁部(図8〜10の左端縁部)を、上記トーンホイール29bの一部で上記複数の切り欠き47を形成した部分に対向させている。又、この円筒部48の外端縁部には、この円筒部48の円周方向に亙って、固定側除肉部である複数の切り欠き50を、前記トーンホイール29b側に形成した(回転側除肉部である)切り欠き47と等ピッチで形成している。従って、上記円筒部48の外端縁部も、櫛歯状に形成されている。
【0043】
更に、前記コイル38cは、円環状に形成されて、上記ステータ37cの内周面と記永久磁石36cの外周面との間に装着されている。従ってこのコイル38cは、上記ステータ37c及び永久磁石36cと、直径方向に亙り重畳した状態で配置されている。又、上記コイル38cに惹起される起電力は、カバー34の外面に突設したコネクタ26から取り出す。この部分の構造は、前述した参考例の第1例と同様である。尚、上記コイル38cに起電力を惹起させる為には、このコイル38cをステータ37cの外周面に添設しても良いが、図示の参考例の様に、永久磁石36cの外周面とステータ37cを構成する円筒部48の内周面との間に必須の空間にコイル38cを配設すれば、ナット6の外周面とカバー34の内周面との間の限られた空間の有効利用を図れる。
【0044】
上述の様に構成される本参考例の回転速度検出装置付ハブユニットの使用時、ハブ3と共にトーンホイール29bが回転すると、このトーンホイール29bと対向するステータ37c内の磁束密度が変化し、上記コイル38cに惹起される電圧が、上記ハブ3の回転速度に比例した周波数で変化する。この様にコイル38cに惹起される電圧が変化する機構は、前述した参考例の第1例とほぼ同様である。
【0045】
即ち、前記切り欠き47と切り欠き50とが互いに対向した状態では、隣り合う切り欠き47同士の間に存在する磁性体である回転側舌片51と、やはり隣り合う切り欠き50同士の間に存在する磁性体である固定側舌片52とが、微小隙間28aを介して互いに対向する。この様にそれぞれが磁性体である回転側舌片51と固定側舌片52とが互いに対向した状態では、上記トーンホイール29bとステータ37cとの間に、高密度の磁束が流れる。
【0046】
これに対して、上記切り欠き47と切り欠き50との位相が半分だけずれると、上記トーンホイール29bとステータ37cとの間で流れる磁束の密度が低くなる。即ち、この状態では、トーンホイール29bに設けた切り欠き47が上記固定側舌片52に対向すると同時に、ステータ37cに設けた切り欠き50が上記回転側舌片51に対向する。この様に回転側舌片51が切り欠き50に、固定側舌片52が切り欠き47に、それぞれ対向した状態では、上記トーンホイール29bとステータ37cとの間に比較的大きな空隙が、全周に亙って存在する。そして、この状態では、これら両部材29b、37cの間に流れる磁束の密度が低くなる。この結果、前記コイル38cに惹起される電圧が、ハブ3の回転速度に比例して変化する。尚、この様な磁束密度変化を十分に行なわせる為には、やはり前述した参考例の第1例の様に、切り欠き47及び切り欠き50の幅を、回転側舌片51及び固定側舌片52の幅よりも広くする。その他の構成及び作用は、前述した参考例の第1例と同様である。
【0047】
次に、図11〜12は、本発明の実施例を示している。本実施例の場合には、トーンホイール29cを断面クランク型に形成して外側円筒部53を設けると共に、この外側円筒部53に、回転側除肉部である切り欠き47を、円周方向に亙って等間隔に形成している。又、ステータ37cを構成する円筒部48の先端寄り(図11〜12の左端寄り)部分で、上記切り欠き47に対向する部分に、この切り欠き47と同数の、固定側除肉部である切り欠き50を、円周方向に亙り等ピッチで形成している。又、上記ステータ37cのうちの円筒部48の先端寄り部分を、上記トーンホイール29cのうちの外側円筒部53の内径側に配置し、コイル38cを、上記円筒部48の内径側に配置し、永久磁石36cを、上記コイル38cの内径側に配置している。且つ、上記外側円筒部53と、上記円筒部48と、上記コイル38cと、上記永久磁石36cとを、それぞれの軸方向一部同士を、ラジアル方向(図11〜12の上下方向)に関して互いに重畳させている。そして、上記外側円筒部53の内周面と上記円筒部48の外周面とを、微小隙間28を介して対向させている。
【0048】
上述の様に構成される本実施例の場合には、磁気抵抗が大きい空気中の経路、即ち上記微小隙間28の面積を十分に大きく(広く)しているので、この空気中の経路部分での抵抗を小さくできる。この結果、磁気回路全体としての磁気抵抗が小さくなって、この磁気回路中に流れる磁束が多くなり、コイル38c部分で惹起される電圧(センサ35cの出力電圧)が高くなる。又、回転側除肉部である切り欠き47を形成した外側円筒部53がセンサ35cの外径側に存在する為、この外側円筒部53の周速を速くしてセンサ35cの出力増大を図れる。更に、センサ35cの構成部品の一部を、上記トーンホイール29cの先端縁から軸方向に外れた位置に設け、このトーンホイールの軸方向寸法が徒に大きくならない様にしている。
【0049】
尚、本実施例の場合には、センサ35cが合成樹脂44に片持ち式に支持されている。この為、走行時の振動に起因してセンサ35cが直径方向(図11〜12の上下方向)に変位し、このセンサ35cの外周面とトーンホイール29cの内周面との間の微小隙間28の厚さ寸法(図11〜12の上下方向寸法)が変化する事が考えられる。但し、本発明の回転速度検出装置付ハブユニットの場合には、トーンホイール29cだけでなくセンサ35cも円環状に形成している為、上記微小隙間28の厚さ寸法が直径方向一方の側で小さくなると他方の側で大きくなる。従って、上記センサ35cが直径方向に変位した場合でも、このセンサ35cの出力の変化は僅少になる。例えば、前記図21〜22に示す様に、センサを円周方向一部にのみ設けた構造の場合には、センサの変位に起因して、図24に破線aで示す様に、このセンサの出力が変化する。これに対して、本発明の様に円環状のセンサを使用した場合には、センサの変位に起因して、図24に実線bで示す様に、このセンサの出力が変化する。この実線bから明らかな様に、図11〜12に示した構造でセンサ35cが直径方向に変位しても、このセンサ35cの出力変化する程度は実用上問題とならない程度に過ぎない。
【0050】
この様に、本発明の構造によれば、センサ35cを合成樹脂により片持ち式に支持する事が可能である。但し、センサ35cとトーンホイール29cとの接触を防止する必要等、出力以外の面でセンサ35cの変位を抑える必要があれば、このセンサ35cをカバー34に固設した金属部材により支持する等して、このセンサ35cの変位を抑える事も可能である。尚、実施例の構造の様に、ステータ37cの円筒部をトーンホイール29c側に延ばす事により、トーンホイール29cの軸方向長さを短かくする事ができる。この様にすると、トーンホイール29cの振れ回りの危険がなくなる。又、センサ35cとトーンホイール29cとがオーバラップしている軸方向長さも短かくなるので、センサ35cとトーンホイール29cとが接触しない様にできる。センサカバー圧入時の許容傾き角が大きくなり、センサ35cを保持したカバー34を外輪9に圧入する時に、センサ35cがトーンホイール29cに接触する危険性を少なくし、これら両部材35c、29cの破損防止を図れる。
【0051】
又、本実施例の様に、それぞれが円環状である永久磁石36cとコイル38cとをラジアル方向に重ねる構造は、ラジアル方向の断面高さが大きくとれない用途では、永久磁石36cの断面板厚が3.5mm以下になってしまう。この様な板厚になると、燒結で永久磁石36cを加工するのは非常に困難である。又、カバー34と一体にする為のモールド時に発生する圧力によって、燒結製の永久磁石が割れる恐れがある。この様な時には、燒結製の永久磁石を用いずに、プラスチックマグネットを用いれば、靭性が向上して永久磁石36cの薄肉化が可能になり、より多くのコイル38dの断面スペースが得られる。本実施例は永久磁石36cの断面板厚が3.5mm以下のプラスチックマグネットを用いた構造例である。
【0052】
次に、図13〜17は、技術的範囲から外れる参考例の第5例を示している。本例を構成するセンサ35dも、前述した参考例の第4例及び本発明の実施例と同様に、永久磁石36dと、鋼板等の磁性材により造られたステータ37dと、コイル38dとを備えている。そして、これら各部材35d、36d、37d、38dを合成樹脂44中に包埋する事により、全体を円環状に構成している。このうちの永久磁石36dは、図17に示す様に全体を円輪状に形成され、軸方向に亙り着磁されている。着磁方向は、円周方向に亙って交互に、且つ等ピッチで変化させている。着磁方向が変化する回数(S極とN極との境界の数)は、トーンホイール29dに形成した切り欠き47の数の2倍としている。従って、上記永久磁石36dの軸方向両端面には、それぞれ上記切り欠き47と同数のS極及びN極が、それぞれこの切り欠き47と等ピッチで存在する。
【0053】
又、上記ステータ37dは、断面がL字形で、全体を円環状に造られている。即ち、このステータ37dは、円筒部48と、この円筒部48の内端(図13〜16の右端)から直径方向(図13〜16の上下方向)外側に折れ曲がった外向フランジ状の円輪部49とを備える。そして、上記円筒部48の外端縁部(図13〜16の左端縁部)を、磁性材製の内輪4の内端面に、微小隙間28aを介して対向させている。尚、上記円筒部48の外端部(図13〜16の左端部)を直径方向内側又は外側に向け直角に折り曲げて、上記ステータ37dと上記内輪4との対向面積を広くする事もできる。尚、前述した各参考例及び実施例の場合とは異なり、上記ステータ37dには切り欠き等の固定側除肉部は形成しない。
【0054】
更に、前記コイル38dは、円環状に形成されて、前記永久磁石36dの内周面と上記ステータ37dの外周面との間部分に設置している。このコイル38dに惹起される電圧は、カバー34の外面に突設したコネクタ26(図1参照)から取り出す。尚、上記コイル38dに電圧を惹起させる為には、このコイル38dをステータ37dを構成する円筒部48の内周面に添設しても良いが、図示の参考例の様に、上記永久磁石36dの内周面と上記円筒部48の外周面との間部分に設ける事により空間の有効利用を図れる事は、前述した各参考例及び実施例と同様である。
【0055】
上述の様に構成される本例の回転速度検出装置付ハブユニットの使用時、ハブ3と共にトーンホイール29dが回転すると、このトーンホイール29dに対して磁気的に結合された内輪4の内端面と対向するステータ37d内の磁束密度及び磁束の流れ方向が変化する。そして、これに合わせて、上記コイル38dに惹起される電圧の大きさ及び向き(正負)が、上記ハブ3の回転速度に比例した周波数で変化する。ステータ37dを流れる磁束の密度変化に対応して上記コイル38dに惹起される電圧が変化する原理は、従来から広く知られた回転速度検出用センサの場合と同じである為、説明を省略し、以下、トーンホイール29dの回転に応じてステータ37d内での磁束の流れ方向が変化する理由に就いて説明する。
【0056】
前述した様に、上記トーンホイール29dに設けた複数の切り欠き47のピッチと、永久磁石36dの端面に交互に配置したS極とN極とのうちで同極同士(S極同士、N極同士)のピッチとは互いに等しい。この為、トーンホイール29dの回転に伴って総てのS極(或は総てのN極)が上記切り欠き47に、全周に亙って同時に対向する。そして、同一の極が総て切り欠き47に対向した状態では、これと異なる極は総て、隣り合う切り欠き47同士の間に存在する回転側舌片51に対向する。
【0057】
先ず、図13に示す様に、永久磁石36dの外端面に存在する複数のN極が総て切り欠き47に対向した状態では、各N極とトーンホイール29dとの間の磁気抵抗が大きくなり、これら各N極からトーンホイール29dに向けては磁束が流れにくくなる。同時にこの状態では、図14に示す様に、永久磁石36dの外端面に存在する複数のS極が、総て上記回転側舌片51に対向する。そしてこの状態では、各S極とトーンホイール29dとの間の磁気抵抗が低くなり、前記ステータ37dを通じてこのトーンホイール29dに流れた磁束が、微小隙間28aを通じて、上記永久磁石36dのS極側に流れ込む。即ち、この状態では上記ステータ37d内で磁束が、図14に矢印で示す様に、円筒部48内で内側から外側に、ステータ37dの全周に亙って流れる。
【0058】
これに対して、図15に示す様に永久磁石36dの外端面に存在する複数のS極が、総て切り欠き47に対向した状態では、図16に示す様に永久磁石36dの外端面に存在する複数のN極が、総て上記回転側舌片51に対向する。そしてこの状態では、上記ステータ37d内で磁束が、図16に矢印で示す様に上述の場合とは逆に、円筒部48内で外側から内側に、ステータ37dの全周に亙って流れる。尚、各切り欠き47の円周方向に亙る幅寸法と各回転側舌片51の円周方向に亙る幅寸法とを比較した場合、切り欠き47の幅寸法を回転側舌片51の幅寸法以上にする事が、磁束密度の変化量を多くする為には好ましい。
【0059】
上記各極と切り欠き47とが対向する状態は瞬間的に切り換わるのではなく、上記トーンホイール29dの回転に伴って連続的に切り換わる。従って、図14に示す様に磁束が流れて、一方向(例えば+)の電圧が最大になる状態と、図16に示す様に磁束が流れて、逆方向(例えば-)の電圧が最大となる状態とは、それぞれの中間状態(各切り欠き47にS極とN極とがほぼ均等に対向し、ステータ37d内の磁束密度がほぼ零の状態を含む)を介して連続的に変化する。従って、このステータ37dに添設した前記コイル38dには交流が発生する。
【0060】
本例の回転速度検出装置付ハブユニットを構成するセンサ35dでは、上記永久磁石36dの外端面にそれぞれ複数ずつ形成したS極とN極とが、同じ極が同時にトーンホイール29dの切り欠き47或は回転側舌片51に対向する結果、上記コイル38dに交流が発生する。そして、センサ35dの出力の最大値と最小値との差が大きくなって、上記回転速度検出の確実性が、前述した各参考例及び実施例の場合に比べて、より一層向上する。即ち、総てのS極が切り欠き47に対向し、図16に矢印で示した方向での磁束密度が最大となる瞬間に上記コイル38dに+Eなる電圧が発生し、総てのN極が切り欠き47に対向し、図14に矢印で示した方向での磁束密度が最大となる瞬間に上記コイル38dに-Eなる電圧が発生するとした場合、ABSやTCSの制御器は、上記センサ35dの出力として2Eなる電位差を利用できる。これに対して、磁束の方向を変化させず、単なる磁束密度変化のみでコイルに電圧を惹起させる、従来或は先発明の構造の場合には、Eなる電位差しか利用できない。この事からも、本例がセンサの出力増大効果が大きい事が分る。但し、円周方向に隣り合うS極とN極とのピッチを細かくする事が難しい為、回転速度検出の精度向上を図れない(低速時に正確な速度を検出しにくい)。この理由に就いては後述する。その他の部分の構成及び作用は、前述した各参考例及び実施例と同様である。
【0061】
次に、図18〜19は、本発明の技術的範囲から外れる参考例の第6例を示している。本参考例の場合には、永久磁石36eとして直径方向(図18〜19の上下方向)に亙って着磁したものを使用している。着磁方向が円周方向に亙って変化する事はない。従って、上記永久磁石36eの内周面には全周に亙って同じ極(図示の例ではN極)が、同じく外周面にも全周に亙って同じ極(図示の例ではS極)が、それぞれ存在する。又、ステータは互いに同心に配置された第一のステータ54と第二のステータ55との1対設けられている。
【0062】
これら第一、第二のステータ54、55のうち、直径方向外側に配置された第一のステータ54の軸方向(図18〜19の左右方向)内端部(図18〜19の右端部)内周面は、上記永久磁石36eの外周面に当接若しくは近接している。又、直径方向内側に配置された第二のステータ55の軸方向(図18〜19の左右方向)内端部(図18〜19の右端部)外周面は、上記永久磁石36eの内周面に当接若しくは近接している。そして、上記第一のステータ54の外端部(図18〜19の左端部)に、固定側除肉部である切り欠き50を形成している。即ち、この切り欠き50は、トーンホイール29dに回転側除肉部として形成した切り欠き47と同じ数だけ、円周方向に亙って等ピッチで形成している。そして、この切り欠き50を形成した部分を、上記切り欠き47を形成した、上記トーンホイール29dの被検出部に、微小隙間28aを介して対向させている。
【0063】
本参考例は、磁気回路的には、前述した参考例の第4例の場合と同じである。即ち、前述した参考例の第4例が、軸方向に着磁した永久磁石36cの軸方向外端面を上記トーンホイール29dの内周縁部から前記内輪4の内端面外周寄り部分に、微小隙間28aを介して対向させているのに対して、本参考例の場合には、直径方向に亙って着磁した永久磁石36eの内周面側から出た磁束を、第二のステータ55により、上記トーンホイール29dの内周縁部から前記内輪4の内端面外周寄り部分に導いている。従って、本参考例の場合も、前述した参考例の第4例の場合と同様の作用により、第一、第二のステータ54、55に流れる磁束の密度が変化し、コイル38dに惹起される電圧が、回転輪の回転速度に比例した周波数で変化する。
【0064】
尚、本参考例の変形例として、切り欠き50を、第一のステータ54の外端縁部だけでなく、第二のステータ55の外端縁部にも設ける事もできる。この場合には、これら両ステータ54、55に形成した固定側除肉部の位相を一致させ、且つ、これら両ステータ54、55の外端縁部を何れも、トーンホイール29dに形成した切り欠き47に対向させる。この様に構成する事で、トーンホイール29dの回転に伴う、第一、第二のステータ54、55内を流れる磁束の密度変化を大きくできる。又、図18〜19に記載した構造から、第一のステータ54の外端部を直径方向外方又は内方に折り曲げる事で、上記切り欠き50を形成した部分と上記トーンホイール29dの被検出部との対向面積を広くする事もできる。但し、第一のステータ54の外端部を直径方向内方に折り曲げる場合には、この折り曲げ部の先端縁が上記第二のステータ55の外端縁に近付き過ぎない様に注意する必要がある。近付き過ぎた場合には、第一、第二のステータ54、55の間で直接磁束が流れる様になって、回転速度検出を行なえなくなる。同様に、第二のステータ55の外端部を直径方向に折り曲げて、この第二のステータ55とトーンホイール29d或は内輪4との間の磁気抵抗を小さくする事もできる。この場合も、直径方向外方に折り曲げる場合には、第二のステータ55の外端縁と近付き過ぎない様に注意が必要である。尚、本参考例及び前述した参考例の第1〜4例及び実施例の場合には、上述した参考例の第5例に比べて、回転速度検出の精度を向上させられると共に、永久磁石36dの製作が容易で、部品代を安価にできる効果がある。
【0065】
この様に、永久磁石の着磁方向を円周方向に亙って変化させない構造の場合に回転速度検出の精度を向上させられる理由に就いて説明する。S極とN極とを円周方向に亙って交互に配列する構造の場合には、隣り合うS極とN極との間で(トーンホイールを経由する事なく)直接流れる磁束を少なく抑える必要がある。例えば、円周方向にS極とN極とを交互に繰り返すピッチPと、永久磁石の着磁方向端面とトーンホイールとの間の微小隙間の厚さ寸法Tとの比(P/T)が小さくなると、各N極から隣接するS極に直接流れる磁束の割合が多くなる。
【0066】
図23は、着磁方向を円周方向に亙って変化させた永久磁石を使用した構造で、上記比(P/T)がセンサの出力電圧に及ぼす影響を知る為に本発明者が行なった実験の結果を示している。この図23は、上記比(P/T)が10である場合のセンサの出力電圧を1.0とし、この比(P/T)を変化させた場合の出力の大きさを示している。この図23から明らかな様に、上記比(P/T)が6.5を境に、上記出力電圧が急激に低下する。
【0067】
一方、永久磁石の着磁方向端面とトーンホイールとの間の微小隙間の厚さ寸法Tは、最低でも0.6mm程度は必要である。これは、ハブユニットの運転時に構成部品の弾性変形等に拘らず、センサとトーンホイールとが接触するのを防止する為である。従って、上記永久磁石の着磁方向端面でS極とN極とが交互に繰り返されるピッチP(=トーンホイールに形成する切り欠きのピッチ)は、0.6mm×6.5=3.9mm以上確保する事が、十分な出力を得る為に必要になる。一方、このピッチPを大きく(3.9mm以上に)すると、円周方向に亙るS極及びN極の数及びトーンホイールに形成する切り欠きの数を多くできない。これらS極及びN極と切り欠きとの数を多くできないと、1回転当たりの出力の変化回数が少なくなり(出力が変化する間隔が長くなり)、低速時に正確な回転速度を知る事ができなくなる。言い換えれば、回転速度検出の精度が低下する。
【0068】
これに対して、永久磁石の着磁方向を円周方向に亙って変化させない構造の場合には、回転側除肉部及び固定側除肉部のピッチを3.9mm以下にしても、磁束の大部分をトーンホイールを通じて流せる。この結果、図23に示す様な特性とは異なり、上記各除肉部のピッチを3.9mm以下にしても急激に出力が低下する事はない。従って、これら各除肉部のピッチを小さくし、回転速度検出の精度を向上させる事ができる。
【0069】
尚、前述した各参考例及び実施例で、永久磁石の着磁方向端面から出てステータ及びトーンホイールを流れる磁束の最大密度(最大磁束密度)を1000ガウス(Gauss)以上とする事が、正確な回転速度検出を行なう為に好ましい。この理由は、次の通りである。ハブユニットに組み込まれる回転速度検出装置を構成するセンサは、絶えず外部磁界やハブユニットの構成部品の残留磁気に曝らされる。正確な回転速度を知る為には、これら外部磁界や残留磁気の影響を僅少に抑える必要がある。
【0070】
一方、回転側、固定側除肉部として形成される切り欠きのピッチの誤差は1〜2%程度に抑えられている。従って、上記外部磁界や残留磁気の影響を1〜2%以内に抑える事が、正確な回転速度検出を行なう為に好ましい。これに対して、ハブユニットを構成する内輪や外輪には、通常10ガウス程度の残留磁気が存在する。そこで、この残留磁気の影響を1%以内に抑える為には、上記最大磁束密度を1000ガウス以上にする必要がある。永久磁石の着磁方向を円周方向に亙って変化させない構造の場合には、上記最大磁束密度を1000ガウス以上にしても、特に問題を生じない。これに対して、S極とN極とを円周方向に亙って交互に配列する構造の場合には、最大磁束密度を高くすると、各N極から隣接するS極に直接流れる磁束の割合が多くなる為、センサの出力が低下する。この面からも、正確な回転速度検出を行なう為には、永久磁石の着磁方向を円周方向に亙って変化させない構造が好ましい。
【0071】
又、円環状のセンサを使用して、このセンサの周面とトーンホイールの周面とを全周に亙って対向させる、本発明の構造の場合には、トーンホイールに対するセンサの変位に拘らず、このセンサの出力が安定する。即ち、前記図20〜22に示す様な従来構造の場合には、トーンホイールに対するセンサの変位に伴ってこのセンサの出力が、図24に破線aで示す様に変化する。これに対して円環状のセンサを使用した構造では、トーンホイールに対するセンサの変位に伴ってこのセンサの出力が、同図に実線bで示す様に変化する。この図24の記載から明らかな通り、本発明の様な円環状のセンサを使用する構造では、このセンサの出力を安定させる事ができる。この理由は、センサの周面とトーンホイールの周面との距離が、一部で広がった場合には残部で狭まり、センサ全体としての出力に大きな影響を及ぼさない為である。
【0072】
尚、図示の各参考例及び実施例は何れも、非駆動輪(FR車の前輪、FF車の後輪)を支持する為のハブユニットに本発明を適用した状態を示している為、センサ35、35a、35b、35c、35dを支持するカバー34、34aはその内端部を密閉した形状としている。但し、本発明は、この様な非駆動輪用のハブユニットに限らず、駆動輪(FR車の後輪、FF車の前輪)用のハブユニットにも適用できる。この様に駆動輪用のハブユニットに本発明を適用する場合には、カバーを円輪状に形成してその中央部に等速ジョイントの一部を挿通する為の円孔を設ける。又、ハブを円筒形にして、その内周面に駆動軸外周面の雄スプライン溝と係合させる為の雌スプライン溝を形成する。更に、内輪が固定輪となり、外輪が回転輪となる構造にも、本発明を適用できる。この場合には外輪にトーンホイールを嵌合固定し、内輪にセンサを支持する。
【0073】
【発明の効果】
本発明の回転速度検出装置付ハブユニットは、以上に述べた通り構成され作用する為、先発明に係る回転速度検出装置付ハブユニットと同様に、軸方向に亙る寸法を小さくして、小型自動車等設置スペースが限られた車両への組み付けも可能となり、車両設計の容易化を図れる。更に、本発明の回転速度検出装置付転がり軸受ユニットの場合には、センサの出力を大きくして、転がり軸受により支持された車輪等の回転速度の精度並びに信頼性を向上させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に関する参考例の第1例を示す断面図。
【図2】
図1のA部拡大図。
【図3】
同じくB部拡大図。
【図4】
本発明に関する参考例の第2例を示す、図2と同様の図。
【図5】
同じく図3と同様の図。
【図6】
本発明に関する参考例の第3例を示す、図2と同様の図。
【図7】
同じく図3と同様の図。
【図8】
本発明に関する参考例の第4例を示す断面図。
【図9】
図8のC部拡大図。
【図10】
同じくD部拡大図。
【図11】
本発明の実施例を示す、図9と同様の図。
【図12】
同じく図10と同様の図。
【図13】
本発明に関する参考例の第5例を、N極と切り欠きとが対向した状態で示す、図9と同様の図。
【図14】
同じく図10と同様の図。
【図15】
本発明に関する参考例の第5例をS極と切り欠きとが対向した状態で示す、図9と同様の図。
【図16】
同じく図10と同様の図。
【図17】
参考例の第5例に使用する永久磁石の斜視図。
【図18】
本発明に関する参考例の第6例を示す、図9と同様の図。
【図19】
同じく図10と同様の図。
【図20】
従来構造の1例を示す断面図。
【図21】
先発明に係る構造を示す断面図。
【図22】
図21の右部拡大図。
【図23】
S極とN極とを交互に配置した永久磁石を組み込んだ回転速度検出装置で、磁極及び除肉部のピッチと微小隙間の厚さ寸法との比がセンサの出力に及ぼす影響を示す線図。
【図24】
センサの直径方向に亙る変位がセンサの出力に及ぼす影響を示す線図。
【符号の説明】
1 フランジ部
2a 第一の内輪軌道
2b 第二の内輪軌道
3 ハブ
4 内輪
5 雄ねじ部
6 ナット
7 取付部
8a、8b 外輪軌道
9 外輪
10 転動体
11 トーンホイール
12 凹凸部
13 カバー
14 センサ
15 段部
16 雄ねじ部
17 シールリング
18 トーンホイール
19 内側円筒部
20 外側円筒部
21 円輪部
22 円筒面部
23 透孔
24 カバー
25 係止突条
26 コネクタ
27 検出部
28、28a 微小隙間
29、29a、29b トーンホイール
30、30a 小径部
31 大径部
32 段部
33 透孔
34、34a カバー
35、35a、35b、35c、35d センサ
36、36a、36b、36c、36d、36e 永久磁石
37、37a、37b、37c ステータ
38、38a、38b、38c、38d コイル
39 保持部
40、40a 折れ曲がり部
41、41a、41b 切り欠き
42 柱部
43 舌片
44 合成樹脂
45 円筒部
46 円輪部
47 切り欠き
48 円筒部
49 円輪部
50 切り欠き
51 回転側舌片
52 固定側舌片
53 外側円筒部
54 第一のステータ
55 第二のステータ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-14 
出願番号 特願平7-133598
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G01P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 瀧 廣往
特許庁審判官 中塚 直樹
三輪 学
登録日 2002-05-31 
登録番号 特許第3312531号(P3312531)
権利者 日本精工株式会社
発明の名称 回転速度検出装置付ハブユニット  
代理人 中井 俊  
代理人 中井 俊  
代理人 小山 武男  
代理人 小山 欽造  
代理人 小山 欽造  
代理人 小山 武男  

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