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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 一部申し立て 発明同一  C03B
審判 一部申し立て 特39条先願  C03B
管理番号 1094663
異議申立番号 異議2002-71516  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-07 
確定日 2004-02-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3238322号「熱強化板ガラス」の請求項1、2及び5に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3238322号の請求項1及び2に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3238322号の出願は、平成8年4月15日に出願されたものであって、平成13年10月5日にその特許の設定登録がなされ、これに対して、石丸康平より、その特許の一部につき、特許異議の申立がなされ、その後、以下の手続を経ている。
取消理由通知書 平成14年10月17日
特許異議意見書 平成14年12月27日
訂正請求書 平成14年12月27日
取消理由通知 平成15年12月22日
訂正請求取下書 平成16年 1月14日
訂正請求書 平成16年 1月14日
特許異議意見書 平成16年 1月14日
なお、平成14年12月27日付け訂正請求は、上記平成16年1月14日付け訂正請求取下により取下げられたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件明細書につき、平成16年1月14日付け訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の(イ)〜(ル)の訂正を求めるものである(以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された明細書を「訂正明細書」という)。
(イ)特許明細書の特許請求の範囲第1項における、
「【請求項1】全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されていることを特徴とする熱強化板ガラス。」を、
「【請求項1】全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上げにより、前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されていることを特徴とする熱強化板ガラス。」と訂正する。
(ロ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項2における、
「【請求項2】前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている請求項1に記載の熱強化板ガラス。」を、
「【請求項2】全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている熱強化板ガラス。」と訂正する。
(ハ)特許明細書の特許請求の範囲第3項における、
「【請求項3】前記端面部(3a)が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている請求項1または2に記載の熱強化板ガラス。」を、
「【請求項3】全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている熱強化板ガラス。
【請求項4】全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられ、前記端面部(3a)が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている熱強化板ガラス。」と訂正する。
(ニ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項4における、
「【請求項4】前記平面部(3b)のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層(9)が形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の熱強化板ガラス。」を、
「【請求項5】全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)表裏の平面部(3b)のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層(9)が形成されている熱強化板ガラス。」と訂正する。
(ホ)特許明細書の特許請求の範囲の請求項5の記載を削除する。
(ヘ)特許明細書の段落0009の記載を次のとおりに訂正する。
「【課題を解決するための手段】
〔構成〕
本発明は、全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端縁部分の仕上げにより、前記板ガラスのエッジ強度が4kgf/mm2増加されていることを特徴構成としている。」
(ト)特許明細書の段落0010の記載を次のとおりに訂正する。
「また、全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部の表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部と前記板ガラス表裏の平面部との境部の表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている。」
(チ)特許明細書の段落0011の記載を次のとおりに訂正する。
「また、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部は、その長手方向に沿った研磨処理が施されて形成されている。」
(リ)特許明細書の段落0012の記載を次のとおりに訂正する。
「また、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部と前記板ガラス表裏の平面部との境部が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられ、前記端縁部が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている。」
(ヌ)特許明細書の段落0013の記載を次のとおりに訂正する。
「さらに、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス表裏の平面部のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層が形成されている。」
(ル)特許明細書の段落0014における、
「・・・板ガラスの支持状態として、図2に示すように・・・、本発明によれば17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が全面にわたってほぼ均一に付与されているから、後述するガラス板端縁部分の仕上げによるエッジ強度の増加分4kgf/mm2と、板ガラスの周縁部分に形成されている暗色系の着色層による発生応力の緩和分3kgf/mm2と合わせて実質的には24〜32kgf/mm2のエッジ強度を確保することができ、・・・」を、
「・・・板ガラスの支持状態として、図1に示すように・・・、本発明によれば17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が全面にわたってほぼ均一に付与されて、板ガラスの端縁部分の仕上げにより、板ガラスのエッジ強度が4kgf/mm2増加されているから、その端縁部分の仕上げによるエッジ強度の増加分4kgf/mm2と、後述する板ガラスの周縁部分に形成されている暗色系の着色層による発生応力の緩和分3kgf/mm2と合わせて実質的には24〜32kgf/mm2のエッジ強度を確保することができ、・・・」と訂正する。

III-2.訂正の適否の判断
III-2-1.訂正の目的
〈上記(イ)の訂正〉
当該(イ)の訂正は、特許明細書の請求項1において、その強化板ガラスが「防火用」のものであることを付加し、また、その強化板ガラスが「板ガラス(3)の端縁部分の仕上により前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されている」ことを付加するものであって、当該強化ガラスを限定するものであるので、これら訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
〈上記(ロ)の訂正〉
当該(ロ)の訂正は、特許明細書の請求項2において、「全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、」との事項を付加するものであるが、これは、そこでの発明が特許明細書の請求項1の記載が訂正されたことから同請求項1を引用して表現することができなくなったため、その表現方法を改め、独立形式で記載するだけのものであり、したがって、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、当該(ロ)の訂正では、特許明細書の請求項2において、その強化板ガラスが「防火用」のものであることを付加して、当該強化ガラスを限定するものであり、したがって、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
〈上記(ハ)の訂正〉
当該(ハ)の訂正は、特許明細書の請求項3において、そこでの発明が特許明細書の請求項1の記載が訂正されたことから同請求項1及び2を引用して表現することができなくなったため、その表現方法を改め、独立形式となし、更に、二つの請求項を引用していたのでこれを新たな請求項3及び請求項4に区分して記載するものであり、したがって、これらの訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(ニ)の訂正〉
当該(ニ)の訂正は、特許明細書の請求項5において、そこでの発明が特許明細書の請求項1の記載が訂正されたことから同請求項1〜3を引用して表現することができなくなったため、その表現方法を改め、独立形式となし、且つ、引用していた請求項2及び3の態様を削除して記載するものであって、これらの訂正は明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、当該(ニ)の訂正では、上記(ハ)の訂正により請求項が増加したことに伴い、その請求項番号を4から5に訂正するものであるので、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
〈上記(ホ)の訂正〉
当該(ホ)の訂正は、特許明細書の請求項5を削除するだけのものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
〈上記(ヘ)〜(ル)の訂正〉
当該(ヘ)〜(ル)の訂正は、上記(イ)〜(ホ)の請求項の訂正に伴い、不明瞭となった発明の詳細な説明の記載を明瞭化するものであり、又は、誤記を正すものであって、明りょうでない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とするものに該当する。

III-2-2.新規事項の有無
上記(イ)の訂正は、特許明細書の段落0017及び0040等の記載から自明なこととして導き出せるものである。
上記(ロ)〜(ホ)の訂正は上記(イ)の訂正に伴い特許請求の範囲のその他の記載を明確化するだけのものであり、また、請求項又は引用する請求項を削除するだけのものであり、そして、上記(ヘ)〜(ル)の訂正は特許請求の範囲の訂正に伴いこれを整合させ又は誤記を訂正するだけのものであるから、これらの訂正は、本件特許明細書の記載から自明なこととして導き出せないといえるものではない。
そうすると、上記(イ)〜(ル)の訂正は、いずれも、新規事項の追加には該当せず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされるものである。

III-2-3.拡張・変更の存否
上記(イ)〜(ル)の訂正は、III-2-1.で説示したとおり、特許請求の範囲を減縮し、明細書の記載を明瞭化し、又は、誤記を訂正するだけのものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しないことは明らかである。

III-2-4.独立特許要件の適否
上記(ニ)の訂正は、特許異議の申立がされていない特許明細書の請求項4を訂正するものであり、かつ、前記したとおり、その訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むので、規定により訂正後の請求項5に係る発明の独立特許要件を検討する。
訂正後の請求項5に係る発明は、「板ガラス(3)表裏の平面部(3b)のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層(9)が形成されている熱強化板ガラス」との特定事項を具備し、かつ、その特定事項を具備することにより、その余の構成と相俟って、訂正明細書に記載の有用な効果を奏するものであるところ、後述する甲第1〜4号証のいずれにおいても、かかる特定事項が記載されないし、またその特定事項が示唆ないし教示されるものでもない。
してみれば、訂正後の請求項5に係る発明は、甲第1、2、3又は4号証に記載のものと同一であるということができず、また、甲第3及び4号証に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたということができない。
したがって、訂正後の請求項5に係る発明は、特許法第29条の2、同法第29条第1項第3号、同法第29条第2項、同法第39条第1項の規定に違反しているということはできず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとはいえない。

III-3.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び、同条第3項において準用する特許法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

IV.本件発明
本件明細書は、前記のとおり、平成16年1月14日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件特許第3238322号の請求項1〜5に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載されるとおりのものである。そして、その請求項1及び2には、以下のことが記載されている。
(以下、訂正後の請求項1及び2に係る発明を、必要に応じて、それぞれ、「本件発明1」及び「本件発明2」という)
【請求項1】全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上げにより、前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されていることを特徴とする熱強化板ガラス。
【請求項2】全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている熱強化板ガラス。

V.特許異議申立の概要
特許異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
(1)特許明細書の請求項1、2及び5(訂正後の請求項1及び2)に係る発明は、甲第1又は2号証に記載された発明と同一であり、これらの特許は特許法第29条の2、又は、同法第39条第1項の規定に違反してなされたものであり(理由-1)、
(2)特許明細書の請求項1、2及び5(訂正後の請求項1及び2)に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、甲第3号証に係る出願の発明と同一であり、又は、甲第3及び4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、これら特許は特許法第29条第1項第3号、同法第39条第1項、又は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(理由-2)、
(3)特許明細書の請求項2(訂正後の請求項2)に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び6項に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものであり(理由-3)、
したがって、特許明細書の請求項1、2及び5(訂正後の請求項1及び2)に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特願平7-267010号の願書に添付された明細書及び図面(写し)
甲第2号証:特願平7-310301号の願書に添付された明細書及び図面(写し)
甲第3号証:特開昭59-213635号公報
甲第4号証:特公昭58-52929号公報
甲第5号証:JIS B-0601-1982 表面粗さの定義と表示
なお、特許異議申立ての理由は、特許異議申立書の記載内容を基に、甲号各証の公知性の観点から、上記のとおりとおりに区分し、且つ、整理して記載したものである。

VI.証拠の記載内容
甲第1号証(特願平7-267010号)には、以下のことが記載される。
(A-1)「【請求項1】ソーダ石灰系ガラス板を徐冷点以上に加熱し、急冷により強化する熱強化処理によるところの防火ガラスであって、前記熱強化に際してガラス板の粘度が109ポイズに相当する温度、またはそれ以下に加熱し、エアーブラスティングにより急冷することにより、ガラス板の表面圧縮応力が1800〜2400Kg/cm2の範囲となるべく調製したことを特徴とする防火ガラス。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2)「【請求項2】ガラス板を、熱強化処理に先立って端縁部全周にわたり研磨仕上げしたことを特徴とする請求項1記載の防火ガラス。」(特許請求の範囲第2項)
(A-3)「これら公知技術の課題を解消すべく特公昭58-52929号には、ソーダ石灰系ガラス板を全面にわたってほぼ均一に熱強化処理せしめたもので、その表面圧縮応力が26Kg/cm2以上とした防火窓ガラス板が開示されている。」(段落0005)
(A-4)「このようにして製造された防火ガラスは、・・・複層ガラスとして、例えば一方のガラス板を本発明におけるガラス板とし、他方のガラス板を通常のガラス板、または従来の強化法によるガラス板、あるいは本発明におけるガラス板を採用するようにしてもよい。」(段落0019)
甲第2号証には(特願平7-310301号)、以下のことが記載されている。
(B-1)「【請求項1】ソーダ石灰系ガラス板を徐冷点以上に加熱し、急冷により強化する熱強化処理によるところの防火ガラスであって、前記熱強化に際してガラス板の粘度が109ポイズに相当する温度、またはそれ以下に加熱し、エアーブラスティングにより急冷することにより、ガラス板の表面圧縮応力が1700〜2400Kg/cm2の範囲となるべく調製したことを特徴とする防火ガラス。」(特許請求の範囲第1項)
(B-2)「【請求項2】ガラス板を、熱強化処理に先立って端縁部全周にわたり研磨仕上げしたことを特徴とする請求項1記載の防火ガラス。」(特許請求の範囲第2項)
(B-3)「これら公知技術の課題を解消すべく特公昭58-52929号には、ソーダ石灰系ガラス板を全面にわたってほぼ均一に熱強化処理せしめたもので、その表面圧縮応力が26Kg/cm2以上とした防火窓ガラス板が開示されている。」(段落0005)
(B-4)「このようにして製造された防火ガラスは、・・・複層ガラスとして、例えば一方のガラス板を本発明におけるガラス板とし、他方のガラス板を通常のガラス板、または従来の強化法によるガラス板、あるいは本発明におけるガラス板を採用するようにしてもよい。」(段落0019)
甲第3号証(特開昭59-213635号公報)には、以下のことが記載されている。
(C-1)「ガラス板を加熱後、冷却板の間に挟み急冷してガラス板を固体接触強化する装置において、該冷却板が該ガラス板の急冷に必要な最小限以上の熱伝導率と1×10-4/℃以下の膨張係数の材料にて作成されていることを特徴とするガラス板の強化装置。」(特許請求の範囲第1項)
(C-2)「本発明の目的はガラス板に対する冷却板の接触圧力を均一にし、ガラス板の表面応力値を均一な高い値とすることができるガラス板の固体接触強化装置を提供することにある。」(第2頁左下欄第1〜4行)
(C-3)「第1図に示した強化ガラス板を製造すると同じ装置で冷却板の材料を窒化ほう素にかえ、同1条件でガラス板を冷却強化した。得られた強化ガラス板の表面応力分布を第2図に示す。第2図より明らかな如く、ガラス板の表面応力分布が著しく改善されている。」(第3頁左下欄第6〜11行)
(C-4)「以上の如く、・・・好ましくは窒化ほう素にて作成した本発明のガラス板の強化装置によるときは、冷却板の反りがなく、表面応力分布の均一な強化ガラス板とすることができる。」(第3頁左下欄第12〜末行)
甲第4号証(特公昭58-52929号公報)には、以下のことが記載されている。
(D-1)「1.ソーダ石灰系ガラス板であつて、強化処理による表面圧縮応力が26Kg/mm2以上であるごとく、その全面にわたつてほぼ均一に熱強化処理されており、かつ吊り金具を使用しない強化ガラス板の製造方法によるところの強化ガラス板であることを特徴とする防火窓ガラス板。」(特許請求の範囲第1項)
(D-2)「ガラス板の周縁部切断面の状況は該ガラス板の破損発生の有無に極めて影響するので、本発明の防火窓ガラス板を製造する場合には、ガラス素板の切り口綾角を、より好ましくは切り口綾角を含む端縁のすべてを研磨加工することが望ましい。研磨加工の程度は加工面の表面凹凸が最大0.05mm以下であることを一般とし特に最大凹凸を0.03mm以下とすれば表面圧縮応力の値が本発明の防火窓ガラス板として特定する26Kg/mm2以上の範囲でその下限値に近いものであっても発生する最大熱応力に対し十分に安全となるから好適である。」(第6欄第33〜43行)
(D-3)「実施例2
・・・。本実施例ではガラス板の周縁部の加工は切り口綾角のみではなく、その端面も含めて、ゆるやかな曲率の円弧状端面(いわゆる小口みがき形状)になるように、加工面の最大凹凸を0.03mmとして研磨加工をし、また加熱ガラス板の急冷工程における冷却空気のノズル背圧は750mmAgとして強化処理をした。」(第8欄第43行〜第9欄第9行)
(D-4)「第2図において、1,1´は本発明によるところの厚さ6mmの防火窓ガラス板、2は厚板1.6mmの鋼板よりなる両面フラッシュドアー、・・・。9はドアー2本体に熔着されている肉厚1.6mmの鋼製角パイプからなるスペーサーで、2枚の防火窓ガラス板1,1´間に空気層12を形成するように距離を保つ役目をするとともに、その内周面には多数の細孔10が設けられており、・・・空気層12内の密閉された空気を乾燥するようになつている。」(第10欄第8〜20行)

VII.異議申立に対する当審の判断
特許明細書における請求項5は前記した訂正請求により削除されたので、以下、特許明細書の請求項1及び2に対応する本件発明1及び2についてのみ審理することとする。
VII-1.理由-1(甲第1号証及び甲第2号証について)
VII-1-1.本件発明1
(1)甲第1号証には、その特許請求の範囲の記載である前記(A-1)及び(A-2)によれば、「ガラス板に対してその端縁部全周にわたり研磨仕上げした後、熱強化処理によってガラス板の表面圧縮応力が1800〜2400Kg/cm2の範囲となるように調製してなる防火ガラス板」に関する発明が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比する。
甲第1号証に記載の発明は、その前記(A-3)によれば、ガラス板を全面にわたってほぼ均一に熱強化処理せしめる技術についてなされたものであり、したがって、そこでの発明は、その熱強化処理により表面圧縮応力がほぼ防火ガラス板の全面に亘って、均一に付与されるものである。また、甲第1号証の発明の表面圧縮応力値は、本件発明1の17〜25kgf/mm2の範囲に含まれる。
よって、両者は、「全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されている、熱強化板ガラス」である点で一致し、以下の点で、相違する。
【相違点1】その板ガラスにつき、本件発明1は、「前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上げにより、前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されている」というものであるのに対し、甲第1号証に記載の発明では当該特定事項が示されない点
そこで、この相違点1につき検討する。
甲第1号証に記載の発明は、ガラス板の端縁部全周にわたり研磨仕上げを施すものではあるものの、そこには、エッジ強度を4kgf/mm2増加するまで処理することが記載されないことは基より、その研磨処理により改善される強度の度合につき具体的に示唆ないし教示するものはない。
一方、訂正明細書の記載(特に、段落0014〜0018)によれば、本件発明1は、上記相違点1に関する特定事項を具備することにより、熱強化程度が低いにも拘わらず耐熱破壊に優れた防火用の熱強化ガラスを得ることができたという有用な効果を奏したものである。
してみれば、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明と同一であるということはできない。
(2)甲第2号証には、その特許請求の範囲の記載である前記(B-1)及び(B-2)によれば、「ガラス板に対してその端縁部全周にわたり研磨仕上げした後、熱強化処理によってガラス板の表面圧縮応力が1700〜2400Kg/cm2の範囲となるように調製してなる防火ガラス板」に関する発明が記載されている。
そこで、本件発明1と甲第2号証に記載の発明とを対比する。
甲第2号証に記載の発明は、その前記(B-3)によれば、ガラス板を全面にわたってほぼ均一に熱強化処理せしめる技術につきなされたものであり、したがって、そこでの発明は、その熱強化処理により表面圧縮応力がほぼ防火ガラス板の全面に亘って、均一に付与されるものである。また、甲第2号証の発明の表面圧縮応力値は、本件発明1の17〜25kgf/mm2の範囲に含まれる。
よって、両者は、「全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されている、熱強化板ガラス」である点で一致し、以下の点で、相違する。
【相違点2】その板ガラスにつき、本件発明1は、「前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上げにより、前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されている」というものであるのに対し、甲第2号証に記載の発明では当該特定事項が示されない点
そこで、この相違点2につき検討する。
甲第2号証に記載の発明は、ガラス板の端縁部全周にわたり研磨仕上げを施すものではあるものの、そこには、エッジ強度を4kgf/mm2増加するまで処理することが記載されないことは基より、その研磨処理により改善される強度の度合につき具体的に示唆ないし教示するものはない。
一方、本件発明1は、上記相違点2に関する特定事項を具備することにより、耐熱破壊に優れた防火用の熱強化ガラスを得ることができたというものである。
してみれば、本件発明1は、甲第2号証に記載の発明と同一であるということはできない。
(3)ところで、甲第1及び2号証の出願は、特許法第41条に基づく優先権の基礎とされたものである。すなわち、本件出願後の平成8年8月26日に、甲第1及び2号証の出願(先の出願)に記載された発明を基に優先権主張を伴う特願平8-223459号が出願され、その結果、甲第1及び2号証の出願は取り下げたとみなされるものである。そして、当該優先権主張を伴う出願の発明にあっては、甲第1及び2号証に記載されていた発明であって、かつ、当該優先権主張を伴う出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載される発明についてのみ、先願の地位を有するものであるが、上記(1)及び(2)に記載したとおり、甲第1及び2号証には、本件発明1が記載されない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということができず、また、同法第39条第1項の規定に違反しているということはできない。

VII-1-2.本件発明2
(1)上記VII-1-1.で記載したとおり、甲第1号証には、「ガラス板に対してその端縁部全周にわたり研磨仕上げした後、熱強化処理によってガラス板の表面圧縮応力が1800〜2400Kg/cm2の範囲となるように調製してなる防火ガラス板」に関する発明が記載されており、また、甲第2号証には、「ガラス板に対してその端縁部全周にわたり研磨仕上げした後、熱強化処理によってガラス板の表面圧縮応力が1700〜2400Kg/cm2の範囲となるように調製してなる防火ガラス板」に関する発明が記載されている。
そこで、本件発明2と、甲第1及び2号証に記載の発明とを対比すると、両者は、
「全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されている、熱強化板ガラス」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】当該強化板ガラスにつき、本件発明2は、「前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている」とするものであるのに対し、甲第1及び2号証に記載の発明はそのような特定事項を具備しない点
そこで、この相違点3につき検討する。
甲第1及び2号証に記載の発明は、ガラス板の端縁部全周にわたり研磨仕上げを施すものではあるものの、そこには、ガラス板の端面部(3a)を表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)を、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げることについてまで示唆ないし教示するものではない。
一方、訂正明細書の記載(特に、段落0014〜0018)によれば、本件発明1は、上記相違点3に関する特定事項を具備することにより、熱強化程度が低いにも拘わらず耐熱破壊に優れた防火用の熱強化ガラスを得ることができたという有用な効果を奏したものである。
してみれば、本件発明2は、甲第1又は2号証に記載の発明と同一であるということはできない。
(2)ところで、甲第1及び2号証の出願は、特許法第41条に基づく優先権の基礎とされたものである。すなわち、本件出願の後の平成8年8月26日に、甲第1及び2号証の出願(先の出願)に記載された発明を基に優先権主張を伴う特願平8-223459号が出願され、その結果、甲第1及び2号証の出願は取り下げたとみなされるものである。そして、当該優先権主張を伴う出願の発明にあっては、甲第1及び2号証に記載されていた発明であって、かつ、当該優先権主張を伴う出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載される発明についてのみ、先願の地位を有するものであるが、上記(1)に記載したとおり、甲第1及び2号証には、本件発明2が記載されない。
したがって、甲第1及び2号証の記載からみて、本件発明2は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということができず、また、同法第39条第1項の規定に違反しているということはできない。

VII-2.理由-2(甲第3号証及び甲第4号証について)
(1)甲第3号証には、その前記(C-1)、(C-3)及び(C-4)によれば、ガラス板を加熱後、急冷するという熱処理強化により熱強化ガラスを製造することが記載されており、そして、その第2図をみると、当該熱強化ガラスの表面には、1900〜2300Kg/cm2の表面応力が全面にほぼ均一に分布して存在することが解る。
そうすると、甲第3号証には、「全面にわたって熱処理強化してある熱強化板ガラスであって、1900〜2300Kg/cm2の表面応力が全面にほぼ均一に分布してなる熱強化板ガラス」に関する発明が記載されているものである。
そこで、本件発明1と甲第3号証に記載の発明とを対比する。
甲第3号証の発明では、熱強化により1900〜2300Kg/cm2の表面応力が設けられているのであるから、その表面応力は圧縮応力であることは明らかであり、また、その数値は、本件発明1の17〜25kgf/mm2の範囲に含まれる。
よって、両者は、
「全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されいる、熱強化板ガラス」である点で一致するが、
一方、
(イ)当該熱強化板ガラスにつき、本件発明1は、「防火用」であるとするのに対して、甲第3号証に記載の発明はそのような特定事項を具備しない点【相違点イ】、
(ロ)当該熱強化板ガラスにつき、本件発明1は、「前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上により前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されている」というのに対して、甲第3号証に記載の発明はそのような特定事項を具備しない点【相違点ロ】で、両者は相違する。
以下、上記相違点ロにつき、検討する。
訂正後の明細書によれば、本件発明1は、上記相違点ロに関する特定事項を具備することにより、耐熱破壊に優れた防火用の熱強化ガラスを得ることができたというものである。
ところが、甲第3号証に記載の発明は、前記(C-2)により、ガラス板の表面応力値を均一な高い値とすることができるガラス板の固体接触強化装置を提供することを目的とするだけのものであり、当該ガラス板の端縁処理につき示唆するものは何もない。
してみれば、甲第3号証に記載の発明からは、本件発明1の上記相違点ロにかかる特定事項を容易に導き出すことはできない。
次に、甲第4号証の記載をみる。
甲第4号証には、その前記(D-1)によれば、全面にわたってほぼ均一に熱強化処理を施してある防火窓ガラスであって、26Kg/mm2以上の表面圧縮応力がその全面にわたつてほぼ均一に付与されてなる防火窓ガラスが記載され、また、前記(D-2)及び(D-3)により、予め、ガラス素板の切り口綾角を含む端縁のすべてを最大凹凸が0.03mm以下(具体的には、最大凹凸が0.03mm)となるように研磨加工することも記載される。
しかし、甲第4号証の発明では、本件発明1のように、エッジ強度を4kgf/mm2増加するまで処理することについてまでは具体的に示されるものはない。
してみれば、当業者といえども、当該相違点ロに関する特定事項を容易に導き出すことはできない。
したがって、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるということはできず、また、甲第3及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
(2)甲第3号証には、上記(1)で記載したとおり、「全面にわたって熱処理強化してある熱強化板ガラスであって、1900〜2300Kg/cm2の表面応力が全面にほぼ均一に分布してなる熱強化板ガラス」に関する発明が記載されているものである。
そこで、本件発明2と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、両者は、
「全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されいる、熱強化板ガラス」である点で一致するが、
一方、
(ハ)当該熱強化板ガラスにつき、本件発明1は、「防火用」であるとするのに対して、甲第3号証に記載の発明はそのような特定事項を具備しない点【相違点ハ】、
(ニ)当該熱強化板ガラスにつき、本件発明1は、「前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている」というのに対して、甲第3号証に記載の発明はそのような特定事項を具備しない点【相違点ニ】で、両者は相違する。
以下、上記相違点ニにつき、検討する。
訂正後の明細書によれば、本件発明2は、上記相違点ニに関する特定事項を具備することにより、熱強化程度が低いにも拘わらず耐熱破壊に優れた防火用の熱強化ガラスを得ることができたというものである。
ところが、甲第3号証に記載の発明は、上記したとおり、ガラス板の表面応力値を均一な高い値とすることができるガラス板の固体接触強化装置を提供することを目的とするだけのものであり、当該ガラス板の端縁処理につき示唆するものは何もない。
してみれば、甲第3号証に記載の発明からは、本件発明2の上記相違点ニの特定事項を容易に導き出すことはできない。
次に、甲第4号証の記載をみる。
甲第4号証には、上記したとおり、全面にわたってほぼ均一に熱強化処理を施してある防火窓ガラスであって、26Kg/cm2以上の表面圧縮応力がその全面にわたつてほぼ均一に付与されてなる防火窓ガラスが記載され、また、予め、ガラス素板の切り口綾角を含む端縁のすべてを最大凹凸が0.03mm以下(具体的には、最大凹凸が0.03mm)となるように研磨加工することも記載される。
しかし、甲第4号証の発明では、本件発明1のように、本件発明2のように、板ガラスの端面部を、その表面最大凹凸が0.05mm以下となるように端縁処理と共に、板ガラスの端面部と板ガラス表裏の平面部との境部(3c)を、表面最大凹凸が0.007mm以下と高度に仕上げることについてまでは、示されないものである。
一方、本件発明2は、上記するとおり、顕著に耐熱破壊に顕著に優れた防火用の熱強化ガラスを提供できたという有用な効果を奏するものである。
してみれば、当業者といえども、当該相違点ニに関する特定事項を容易に導き出すことはできない。
したがって、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるということはできず、また、甲第3及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。
(3)更に、甲第3号証は、特願昭58-87610号の出願公開公報に該当するものであるが、その記載をみても、特許請求の範囲はもとより、その発明の詳細な説明、図面の簡単な説明及び図面のいずれの箇所においても、上記相違点ロ及びニに関する特定事項が記載されないし、また、それが自明なものであるということができないものである。したがって、本件発明1及び2は、甲第3号証に係る特願昭58-87610号の発明と同一であるということもできない。
(4)以上のとおり、甲第3及び4号証の記載からみて、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項又は同法第39条第1項の規定に違反してなされたものであるということはできない。

VII-3.理由-3
特許異議申立人のここでの主張は、訂正明細書の請求項2では、「前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている」(特許明細書の請求項2でも同じ)と規定されているが、訂正明細書及び図面の記載からみると、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている当該境部(3c)には「面」が形成されておらず、一方、甲第5号証(JIS B0601-1982)においては表面最大凹凸は「面」に関して定義されていることからみると、当該規定は不明瞭であるというものである。
以下に検討する。
当該境部(3c)の仕上げとしては、訂正明細書の段落0037と図2(ロ)によれば、研磨用ベルト(11)の外周面を使って研磨しつつ、酸化セリウムの水溶液を被研磨部分に掛けながら研磨する態様を含むものであり、この態様では、その結果、その研磨部分、即ち、境部(3c)には、微細なものであるとしても、何らかの面が形成され得るものである。
そして、訂正後の請求項2の規定は、その形成された面につき、表面最大凹凸が0.007mm以下であるとするものであり、このことは、上記甲第5号証における表面最大凹凸は面に関して定義されているとの記載に適合しないとはいえない。
してみれば、本件発明2の特許は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしてない特許出願に対してなされたものであるとすることができない。

VIII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱強化板ガラス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端縁部分の仕上げにより、前記板ガラス(3)のエッジ強度が4kgf/mm2増加されていることを特徴とする熱強化板ガラス。
【請求項2】 全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている熱強化板ガラス。
【請求項3】 全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている熱強化板ガラス。
【請求項4】 全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)の端面部(3a)が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部(3a)と板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられ、前記端面部(3a)が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている熱強化板ガラス。
【請求項5】 全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスであつて、
17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス(3)表裏の平面部(3b)のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層(9)が形成されている熱強化板ガラス。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防火戸や防火窓に用いることができる熱強化板ガラスに関し、さらに詳しくは、全面にわたって熱強化処理を施してある熱強化板ガラスに関する。
【0002】
【従来の技術】
板ガラスを防火戸や防火窓に用いる場合、板ガラスの熱割れ現象(熱を受けて板ガラスの中央部に発生した熱膨張によって、窓枠等に支持された板ガラスエッジ部分に引張応力が作用し、その引張応力が、板ガラスに備わったエッジ強度を超えることによって割れを生じる)を防止するために、ガラスのエッジ強度が高いことが必要である。
【0003】
防火用の板ガラスとしては、網入りガラスや、含水珪酸アルカリからなる中間層を挟み込んだ積層ガラスの他に、結晶化ガラスや強化硼珪酸ガラス等が知られている。このうち、前記網入りガラスは内挿の網が視界を遮り透視性を損なう危険性があり、前記積層ガラスは中間層が熱変化で発泡して不透明になり透視性を損なう危険性がある。また、前記結晶化ガラスや前記強化硼珪酸ガラスは、組成が特殊であるため製造するのが難しく、このためコスト高とならざるを得ず、防火用板ガラスとしては一般的ではない。これに対し、これらの問題点が無いものとして、ソーダ石灰系のガラスを熱強化処理したものが挙げられる。
【0004】
ソーダ石灰系の板ガラスを熱強化処理した製品は、一般に強化ガラスと呼ばれ広く使用されているものであるが、これを防火用ガラスとして使用するためには、表面圧縮応力26kgf/mm2以上と非常に高い強化度を付与することが必要である。そのため、この場合の熱強化処理は、ガラスの軟化点(720〜730℃)をかなり超える温度域(約760℃)で板ガラスを加熱し、連続する空気冷却部分において、背圧950mmAqと非常に高い圧力で冷却空気を吹き付けて実施される方法がある。但し、この様な板ガラスの熱強化処理に伴っては、所定のエッジ強度を付与することはできるものの、上述のとおりガラス軟化点を超える高温域で加熱した板ガラスに強圧の空気を吹き付けるために、ガラス表面の平坦性に欠けたり、反りを生じて、反射映像上の不具合を生じる危険性がある。
【0005】
また、上記熱強化板ガラスの端縁部分は、図5に示すように角を面落としした形状に、例えば、カップホイール(ホイール側面20aに研磨用ダイヤモンドや砥石を付設してあるもの)20によって研磨されたものや、ベルトによって研磨されたものがあるが、前記研磨処理はエッジ強度に関して注意を払っているものではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の熱強化板ガラスによれば、防火戸や防火窓として使用できるようにするためには、前述の熱強化処理〔ガラスの軟化点(720〜730℃)をかなり超える温度域(約760℃)で板ガラスを加熱し、連続する空気冷却部分において、背圧950mmAqと非常に高い圧力で冷却空気を吹き付けて実施される〕を実施する必要があり、その結果、前述の熱強化処理による不具合(ガラス表面の平坦性に欠けたり、反りを生じて、反射映像上に障害となる)が生じるという問題点がある。
【0007】
また、この問題点(表面不平坦・反り発生)を解消するために、加熱温度や吹き付け空気の背圧を従来の熱強化処理の値よりも低下させた熱強化処埋(以下、単に低熱強化処理という)を実施すると、充分なエッジ強度を確保できなくなり、火災や防火試験等の熱を受けることによって板ガラスのエッジ部分、特に、研磨してある角部に熱歪み応力が集中して破壊し易くなる。特に、熱強化処理された板ガラスは、その端面部において長手方向に引張応力が作用するが、端面部がカップホイールによって研磨されている場合や、ベルトによって端面部全体が研磨されている場合は、研磨に伴う筋(キズ)が板ガラスの厚み方向に形成されるため、前記板ガラスの板面に沿って作用する応力が筋(キズ)に集中して破壊し易くなるという新たな問題点が発生する。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、板ガラスのエッジ強度を増大させ、また板ガラス周縁部分の熱吸収を向上させることにより、表面圧縮応力を従来より緩和させ、品質上問題のない熱強化板ガラスを提供するところにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
〔構成〕
本発明は、全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端縁部分の仕上げにより、前記板ガラスのエッジ強度が4kgf/mm2増加されていることを特徴構成としている。
【0010】
また、全面にわたって熱強化処理を施してある防火用の板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部の表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部と前記板ガラス表裏の平面部との境部の表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられている。
【0011】
また、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部は、その長手方向に沿った研磨処理が施されて形成されている。
【0012】
また、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラスの端面部が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部と板ガラス表裏の平面部との境部が、表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げられ、前記端面部が、その長手方向に沿った研磨処理が施されている。
【0013】
さらに、全面にわたって熱強化処理を施してある板ガラスであり、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が、前記板ガラスの全面にわたってほぼ均一に付与されて、前記板ガラス表裏の平面部のうち、少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層が形成されている。
【0014】
〔作用〕
建設省告示第1125号に基づく防火試験での甲種及び乙種防火戸として通常の熱強化板ガラスを使用するには、板ガラスのエッジ強度を24kgf/mm2(板ガラスの支持状態として、図1に示すように、板ガラス周縁部におけるサッシュとの係わり深さ寸法(かかり代という)(d)が10mm程度で、防火標準施工法による場合)以上に確保しないと前記熱割れ現象を生じる危険性があるが、本発明によれば17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が全面にわたってほぼ均一に付与されて、板ガラスの端縁部分の仕上げにより、板ガラスのエッジ強度が4kgf/mm2増加されているから、その端縁部分の仕上げによるエッジ強度の増加分4kgf/mm2と、後述する板ガラスの周縁部分に形成されている暗色系の着色層による発生応力の緩和分3kgf/mm2と合わせて実質的には24〜32kgf/mm2のエッジ強度を確保することができ、前記甲種及び乙種防火戸として問題なく使用することが可能となる。なお、前記熱強化処理による表面圧縮応力が25kgf/mm2を超えると、付与される圧縮応力が板ガラスの表面において不均一になり易く不具合が生じる。
【0015】
また、一般的に板ガラス内に生じる内部応力は、稜部に集中し易い性質があるが、本発明のように全面にわたってほぼ均一に熱強化処理を施してある板ガラスの端面部が、その表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げられていると共に、前記端面部と板ガラス表裏の平面部との境部が、表面最大凹凸が0.007mm以下に加工仕上げされることにより、端縁部分に応力が集中し難い熱強化板ガラスとすることができる。
【0016】
また、板ガラスの端面部が、その長手方向に沿った研磨処理により形成されていることにより、端縁部分に応力が集中し難い熱強化板ガラスとすることができる。
【0017】
つまり、板ガラスの端面部は、その長手方向に沿った研磨処理が施されていることにより、研磨に伴う筋(キズ)は同様に板ガラス端面部の長手方向に沿って形成され、板ガラスの板面に作用する熱破壊力等の集中を回避できる。さらに、表面最大凹凸が0.05mm以下と、滑らかな状態に仕上げてあり、且つ、端面部には稜部ができないから、端面部に応力が集中することを回避することができる。また、前記端面部と前記板ガラス表裏の平面部との境部は、表面最大凹凸が0.007mm以下と、より滑らかな状態に仕上げてあるから、板ガラス全体としても、応力集中が起こり易い前記稜部をなくすことができ、板ガラス端縁部分への応力集中を回避することが可能となり、エッジ強度を構造的に向上させることができるようになる。このエッジ強度の増加は、約4kgf/mm2になる。
【0018】
なお、端面部の筋(キズ)の方向が板ガラスの厚み方向に形成されていたり、表面最大凹凸が0.05mmを超えて大きくなる場合には、その凹凸の谷部・山部に応力が集中し易くなる。また、前記端面部と前記板ガラス表裏の平面部との境部においては、面と面との変わり目であることから表面最大凹凸が0.007mmを超えて大きくなる場合には、その凹凸の谷部・山部に応力が集中し易くなる。
【0019】
そして、上述のようにエッジ強度が増加すれば、熱強化処理を実施するのに、従来より低い温度域での加熱や、従来より低い圧力での空気の吹き付けによる熱強化処理を実施しても、所定の熱強化処理後エッジ強度を確保することができるようになり、従来のようなガラス表面の平坦性に欠けたり、反りを生じて、反射映像上の不具合が発生するのを防止できる。
【0020】
また、前記かかり代(d)を15mm程度にして板ガラスが支持されている場合には、板ガラスの周縁部と中央部との温度差が多少大きくなるので、前記した場合より表面圧縮応力は約2kgf/mm2高くなり、26kgf/mm2以上必要となる。この場合、19kgf/mm2以上の表面圧縮応力を板ガラスに付与しておけば問題はない。
【0021】
また、例えば火災が発生した場合に板ガラスの中央部と周縁部分の温度差をより減少させるために、前記平面部の少なくとも一方の面の周縁部分に暗色系の着色層を形成させることが好ましく、これにより板ガラスの熱吸収を向上させることができ、その結果、板ガラス端縁部分に発生する熱応力を最大で約3kgf/mm2緩和させることができる。
【0022】
前記暗色系の着色層としては、例えば黒色のセラミック系ペーストを用いて印刷法により形成することができる。また、前記着色層は板ガラスの外周縁から30〜50mm程度の幅で4辺にわたって形成されるのが好ましく、さらに望ましくは端縁部近傍ほど前記着色層が密になるように形成されていることが望ましい。
【0023】
前記仕上げ処理は、バフ磨き、または研磨粒子を含有するゴム製ホイールによる磨きによって実施すれば、研磨表面の凹凸を数μmオーダーに磨き上げることができ、研磨によって前記境部に大きな研磨溝が発生するのを防止でき、研磨溝への板ガラスへの応力集中を抑えて、より板ガラスのエッジ強度を増加させることができる。
【0024】
また、前記仕上げ処理は、加熱溶融によって実施すれば、前記仕上げ処理による仕上げ面を板ガラス表面と同様に仕上げることができ、より板ガラスのエッジ強度を増加させることが可能となる。
【0025】
また、前記仕上げ処理は、化学的な溶解によって実施すれば、仕上げ処理そのものを簡単な作業手順によって実施することが可能となり、板ガラス端縁部分の仕上げ作業の効率を向上させることができる。
【0026】
また、本発明において、前記板ガラスを複層ガラスとすることにより、防火ガラスとしての性能をより向上させることが可能となる。
【0027】
〔発明の効果〕
従って、本発明の熱強化板ガラスによれば、従来より簡便な方法によって板ガラスを熱強化処理しても、防火ガラスとしての性能を維持させることができるようになり、板ガラスとしての品質向上、及び、熱強化処理設備の稼動コスト低減を図ることが可能となる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の熱強化板ガラスの一実施形態である板ガラス(3)の端縁部分(2)を嵌めて構成してある防火戸(4)を示すものである。
【0030】
防火区画に設置される板ガラスの取付構造としては、前記した図1に示すように、建物の所定位置に固定された一対のアングル部材からなる保持部(6)が、夫々の間に板ガラス(3)の端縁部分(2)を保持できる隙間(7)を形成できる状態に設置されている。
【0031】
また、前記隙間(7)には板ガラス(3)の端縁保護の機能を備えたケイ酸カルシウム製のセッティングブロック(8)を設置してあり、前記セッティングブロック(8)上に板ガラス(3)の端面部(3a)を配置した状態で、板ガラス(3)と保持部(6)の間の前記隙間(7)に、セラミックスロープ(S1)やセラミックスペーパー(S2)を詰め込んである。そして、前記セラミックスロープ(S1)やセラミックスペーパー(S2)の反発力によって板ガラス(3)の端縁部分(2)を固定してある。
【0032】
次に、板ガラス(3)について説明する。
前記板ガラス(3)は、ソーダ石灰系の板ガラスを、後述する端縁部分の仕上げ処理を施してから、吊り金具を使用した製法で熱強化処理を施して形成してある。
【0033】
まず、前記板ガラス(3)は、端面部(3a)を板ガラス(3)の厚み方向での中間部ほど、板ガラス(3)の面方向の外方に突出する曲面形状となるように研磨処理(研磨された面の最大凹凸は0.05mm以下)を行う研磨工程を経て、前記端面部(3a)と前記板ガラス(3)表裏の平面部(3b)との境部(3c)を、前記研磨工程よりさらに滑らか(仕上げ面の最大凹凸は0.007mm以下)に加工仕上げ工程を実施して端縁部分(2)の仕上げを行ってある。
【0034】
具体的には、前記研磨工程は、図2(イ)に示すように、軸心廻りに回転する円筒ホイール(10)の外周面を使って研磨する平廻り円筒ホイール型研磨方式の研磨方法によって実施するもので、前記円筒ホイール(10)は、軸心方向での中間部ほど外径寸法が小径になるようにその外周面を形成してあり、被研磨部分となる板ガラス(3)の端面部(3a)が、外方に突出した曲面形状に研磨されるように構成してある。そして、前記円筒ホイール(10)の外周面は、#200番手より細かな研磨部に形成してある。
【0035】
この研磨工程において研磨処理が施された前記端面部(3a)は、表面の凹凸が0.05mm程度に仕上げられており、非常に細かな凹凸であるから、板ガラス(3)の内部応力が集中的に作用するのを避け易くなる。
【0036】
さらには、研磨工程での研磨方向は、板ガラス(3)の端面部(3a)の長手方向に沿って設定してあるから、研磨に伴う筋(キズ)は、同様に端面部(3a)の長手方向に沿って形成され、このため板ガラス(3)の板面に沿って作用する熱破壊力等の集中を回避し易くなる。
【0037】
前記仕上げ工程は、図2(ロ)に示すように、二軸の回転軸に張り廻されて回転する研磨用ベルト(11)の外周面を使って研磨するバフ磨き方式の研磨方法によって実施するものである。このバフ磨きとは、極上仕上げとも呼ばれ、一般的には、羊の皮で形成したベルト(11)で研磨し、その研磨に際しては、酸化セリウム(非常に細かい粒度の研磨粉)の水溶液を被研磨部分に掛けながら実施することによって、表面粗さが3〜7μm(殆ど板ガラス表裏面の表面粗さと等しい値)にまで細かくなり、ツヤを出すことも可能で、前記境部(3c)への内部応力の集中が起こり難くすることができる。これを強度に換算すると、約4kgf/mm2ほどである。
【0038】
次に、前記研磨処理が施された板ガラス(3)に対して熱強化処理を施し、前記板ガラス(3)の全面にわたって表面圧縮応力をほぼ均一に付与させる。具体的には、板ガラス(3)を吊り金具で垂直に保持して強化炉へ入れ、前記板ガラス(3)を軟化温度に近い温度まで加熱した後に炉外に引き出し、板ガラス(3)の両面に空気をむらなく吹き付けて急冷する。前記吊り金具による熱強化処理方法は、板ガラスを吊った状態で行うため、水平強化法に比較してガラス面の平滑度が損なわれることがなく、従って平滑性の高い強化ガラスを製造し易い。
【0039】
そして、前記熱強化処理を施された板ガラス(3)は、前記研磨処理によって板ガラス(3)の端縁部分(2)に内部応力が集中し難くすることができ、特に、板ガラス(3)の板面に沿って作用する内部応力の集中を回避し易くなる。その結果、火災による熱を受けても破壊し難くすることが可能となり、熱強化処理によって施される応力に換算して約4kgf/mm2ほど応力緩和できることが確認されている。
【0040】
例えば、建設省告示第1125号に基づく防火試験での甲種及び乙種防火戸として板ガラスを使用するには、板ガラスのエッジ強度を26kgf/mm2(前記かかり代(d)が15mm程度の場合)以上に確保する必要があるが、本実施形態によれば、17〜25kgf/mm2の表面圧縮応力が板ガラス(3)の全面にわたってほぼ均一に付与されているから、端面部分(2)の仕上げに伴う約4kgf/mm2のエッジ強度と、板ガラス(3)の周縁部分に形成されている暗色系の着色層による発生応力の緩和分を合わせて確保することができ、熱強化処理によって最低19kgf/mm2の強化を図るだけでよくなる。また、前記かかり代(d)が10mm程度の浅い保持状態においては、板ガラス(3)の中心部と周縁部との温度差が多少減少することによって発生熱応力も減少し、熱強化処理によって最低17kgf/mm2の強化を図ればよくなる。
【0041】
従って、当該板ガラス(3)の熱強化処理においては、従来のように、板ガラス(3)の加熱温度760℃、冷却空気吹き付けの際のノズルからの背圧950mmAqという仕様で実施しなくても、例えば、加熱温度は、ガラスの軟化点(720〜730℃)以下、冷却空気吹き付け背圧500mmAqで実施しても、所定のエッジ強度を確保することができるようになり、熱強化処理に伴う板ガラスの品質の低下(ガラス表面の平坦性に欠けたり、反りを生じる)を防止して、歩留まりをよくすることができると共に、熱強化処理設備の稼動コストの低減をも図ることが可能となる。
【0042】
なお、板ガラス(3)のエッジ強度(表面圧縮応力)の測定は、全反射応力測定方法により行った。全反射応力測定方法は、被測定板ガラス表面にこれより屈折率の僅かに大きいプリズムを置き、被測定点に集束する円偏光光束を全反射臨界角にほぼ等しい角度で入射させて、反射光観察望遠鏡の視野に現れる明暗の全反射境界線間のずれ量を既知応力により較正した目盛りで測定する方法によって実施した。
【0043】
次に、端面部(3a)への研磨処理、及び、熱強化処理が施された前記板ガラス(3)の周縁部分に、図3に示すように暗色系の着色層(9)を形成させる。具体的には、スクリーン印刷法を用いて形成され、まず板ガラス(3)上に版を固定し、図示しないスキージを版上で加圧摺動させて印刷インキを開口部から流出させ、被印刷物となる印刷インキが板ガラス(3)の外周縁に載せられる。そして、前記板ガラス(3)について乾燥処理を行った後、一旦板ガラス(3)を200〜250℃に加熱して、印刷インキを焼き付ける。なお、前記印刷インキの焼き付けは板ガラス(3)の熱強化処理と同時に行うこともできる。
【0044】
〔別の実施形態〕
以下に、別実施例を説明する。
【0045】
〈1〉 前記仕上げ工程は、先の実施形態で説明したバフ磨きに限定されるものではなく、例えば、平廻り円筒ホイール型研磨方式による研磨方法(図4参照)や、研磨粒子を含有するゴム製ホイールによる研磨方式や、カップホイール(ホイール面に研磨用ダイヤモンドや砥石を付設してあるもの)を用いた研磨方法との併用や、板ガラス(3)の端縁部分(2)の局部的な加熱溶融によって実施したり、または、化学的な溶解によって実施するものであってもよい。要するに、端面部(3a)の表面最大凹凸が0.05mm以下、前記境部(3c)は表面最大凹凸が0.007mm以下に仕上げてあればよい。
【0046】
〈2〉 前記板ガラス(3)の端面部(3a)は、板ガラス(3)の厚み方向での中間部ほど、板ガラス(3)の面方向の外方に突出する曲面形状とした先の実施形態に限定されるものではなく、平坦形状としてもよい。要するに、端面部(3a)がその長手方向に沿った研磨処理により形成されており、表面最大凹凸が0.05mm以下に仕上げてあればよい。
【0047】
〈3〉 前記暗色系の着色層(9)は、板ガラス(3)の片面に形成される先の実施形態に限定されるものではなく、両面に形成されていてもよい。また、前記着色層(9)の形成方法としては、先の実施形態で説明したスクリーン印刷法に限定されるものではなく、例えば、板ガラスの非印刷箇所を予めマスキングしておき、次いでスプレー印刷法により形成してもよい。また、着色層(9)として使用される顔料は、先の実施形態で説明した無機系材料に限定されるものではなく、最大比率が50%以下の範囲内で有機系材料を含有させてもよい。
【0048】
〈4〉 前記板ガラス(3)は、吊り金具を使用した製法で熱強化処理を施す先の実施形態に限定されるものではなく、例えば、水平な搬送ロール上で板ガラスを搬送させながら熱強化処理を施す水平強化方式であってもよい。
【0049】
〈5〉 前記板ガラス(3)は、先の実施形態で説明した一枚の板ガラスで構成するものに限定されるものではなく、二枚以上の板ガラスで構成される複層ガラスであってもよい。また、そのうちの少なくとも一枚の板ガラスが熱強化処理を施した板ガラスであれば、その他の板ガラスが、例えば網入りガラスで構成してあってもよい。
【0050】
なお、特許請求の範囲の項に、図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
第一実施形態の防火戸を示す要部の断面図
【図2】
熱強化板ガラス端縁部分の仕上げ方法を示す説明図
【図3】
着色層を形成した熱強化板ガラスを示す説明図
【図4】
別実施例の熱強化板ガラス端面部分の仕上げ方法を示す説明図
【図5】
従来例の熱強化板ガラスを示す説明図
【符号の説明】
3 板ガラス
3a 端面部
3b 平面部
3C 境部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-15 
出願番号 特願平8-92252
審決分類 P 1 652・ 4- YA (C03B)
P 1 652・ 536- YA (C03B)
P 1 652・ 121- YA (C03B)
P 1 652・ 537- YA (C03B)
P 1 652・ 113- YA (C03B)
P 1 652・ 161- YA (C03B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 西村 和美
岡田 和加子
登録日 2001-10-05 
登録番号 特許第3238322号(P3238322)
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 熱強化板ガラス  
代理人 北村 修一郎  
代理人 北村 修一郎  

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