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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1094723
異議申立番号 異議2003-71024  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-21 
確定日 2004-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3335704号「電子写真感光体の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3335704号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3335704号の請求項1に係る発明は、平成5年4月14日に特許出願され、平成14年8月2日にその特許の設定登録がなされ、その後、滝沢りつ子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年12月5日に意見書が提出されたものである。

2.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
申立人は、請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国で頒布された刊行物である甲第1号証(特開平3-87749号公報)、甲第2号証(特開平3-56966号公報)、甲第3号証(特開平3-63653号公報)、甲第4号証(特開平5-34956号公報)、甲第5号証(特開平1-149055号公報)、甲第6号証(特開平4-180068号公報)、甲第7号証(特開昭53-82352号公報)、甲第8号証(原崎勇次監修「最新コーティング技術」株式会社総合技術センター、昭和58年5月31日発行、第367〜370頁)及び甲第9号証(特開昭61-277958号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。

(2)本件の請求項1に係る発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 金属材料からなる導電性支持体上に、少なくとも電荷移動材料、バインダー樹脂及び溶剤を含有する感光層形成用塗布液を浸漬塗布し、塗布膜を乾燥して感光層を形成する電子写真感光体の製造方法において、該感光層の膜厚が27μm以上であり、該乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめ、乾燥終了時の乾燥温度が100℃ないし150℃の範囲であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」
(3)各刊行物に記載された発明
甲第1号証には、
ア.「・・・電荷発生層及び27μm以上の膜厚を有する電荷移動層を順次積層してなる電子写真感光体・・・」(特許請求の範囲)、
イ.「実施例1
・・・表面が鏡面仕上げされた外径80mm、長さ340mm、肉厚1.0mmのアルミシリンダーを浸漬塗布し、・・・電荷発生層を設けた。・・・次にこのアルミシリンダーを、・・・浸漬塗布した後、室温で30分、125℃で20分乾燥させ、乾燥後の膜厚が32μmとなるように電荷移動層を設けた。・・・」(4頁左上欄6行〜左下欄12行)
ことが記載されている。
甲第2号証には、
ウ.「・・・27μm以上の膜厚を有する電荷移動層を形成せしめることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」(特許請求の範囲)、
エ.「実施例1
・・・表面が鏡面仕上げされた外径80mm、長さ340mm、肉厚1.0mmのアルミシリンダーを浸漬塗布し、・・・電荷発生層を設けた。・・・次にこのアルミシリンダーを、・・・浸漬塗布した後、室温で30分、放置し、その後熱風恒温乾燥器で支持体表面温度140℃で20分間乾燥させ、乾燥後の膜厚が40μmとなるように電荷移動層を設けた。・・・」(4頁右上欄5行〜右下欄16行)
ことが記載されている。
甲第3号証には、
オ.「・・・電荷移動層が27μm以上の膜厚を有し、かつ・・・を含む塗布液を用いて浸漬塗布法により形成したものであることを特徴とする電子写真感光体。」(特許請求の範囲)、
カ.「実施例-1
・・・表面が鏡面仕上げされた外径80mm、長さ340mm、肉厚1.0mmのアルミシリンダーを浸漬塗布・・・電荷発生層を設けた。・・・次にこのアルミシリンダーを、・・・浸漬塗布した後、室温で30分、125℃で20分乾燥させ、乾燥後の膜厚が32μmとなるように電荷移動層を設けた。・・・」(6頁右下欄3行〜7頁右上欄16行)、
と記載されている。
甲第4号証には、
キ.「・・・電荷輸送層を塗工後、該電荷輸送層のガラス転移点以上の温度での熱処理工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」(特許請求の範囲)、
ク.「熱処理前に、予め電荷輸送層のガラス転移点未満の任意の温度で電荷輸送層を乾燥させておいてもよい。」(【0016】)、
ケ.「電荷輸送層の膜厚は、10μm〜50μmであり、好ましくは10μm〜30μmである。」(【0023】)、
コ.「実施例1
・・・電荷発生層用塗料を・・・表面を鏡面仕上げしたアルミニウムシリンダー(直径40mm)に乾燥後の膜厚が0.15μmになるように浸漬塗工し、乾燥した。次に、・・・電荷輸送層用塗料を作製した。該塗料を用いて先に塗工した電荷発生層上に乾燥後の膜厚が25μmになるように塗工し、オーブン中110℃で1時間乾燥を兼ねて熱処理した。」(【0026】〜【0028】)、
サ.「実施例7
実施例1と全く同じ方法で電荷輸送層を塗工するまで行ない、その後80℃で1時間乾燥し、さらにオーブン中110℃で1時間熱処理を行った。」(【0038】)、
シ.「実施例8〜11
電荷輸送材として、それぞれ表2に示す化合物(上記、式(2)〜(5))を用いる以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層を塗工するまで行ない、その後80℃で1時間乾燥し、さらに表2に示す温度で1時間熱処理を行なった。このようにして作製した電子写真感光体について、実施例1と同様の方法でTg、初期及び5万回後のV0、V2、E1/2、VRを測定した。」(【0040】)、
ス.「比較例2〜5 電荷輸送材として、それぞれ表2に示す化合物(上記、式(2)〜(5))を用いる以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層を塗工するまで行ない、その後80℃で1時間乾燥し、さらに25℃で1週間エージングを行なった。このようにして作製した電子写真感光体について、実施例1と同様の方法でTg、初期及び5万回後のV0、V2、E1/2、VRを測定した。」(【0041】)
ことが記載されている。
甲第5号証には、
セ.「導電性支持体上に下記の一般式(1)で表わされるブタジエン誘導体を含有する感光層を有する電子写真感光体の製造方法において、該感光層に80℃以上の温度で熱処理を施すことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。(式(1):省略)」(特許請求の範囲第1項)、
ソ.「電荷輸送層の厚さは5〜50μm、好ましくは8〜30μmとされる。」(4頁右上欄15〜17行)、
タ.「実施例1
・・・直径78mmのアルミニウム管に浸漬塗工法で電荷発生層を乾燥膜厚が0.2μmになるよう塗布し・・・次に・・・浸漬塗工法で電荷輸送層を乾燥膜厚が16μmになるよう塗布し、110℃で60分間乾燥して感光体1を得た。」(4頁右下欄1〜20行)、
チ.「実施例2〜5及び比較例1〜2
電荷輸送層の乾燥温度を表1に示す条件とした以外は実施例1と同様にして感光体2〜5及びR1,R2を得た。」(5頁左上欄2〜4行)、
ツ.表1の「電荷輸送層の乾燥条件」の欄に、感光体5については「60℃/60分間+110℃/30分間」としたこと(実施例5)、
が記載されている。
甲第6号証には、
テ.「キャリア輸送層は・・・浸漬して、ウエット膜厚50〜100μmに塗布され、その後80〜150℃に高温熱風下に30〜90分間乾燥されて、仕上がり膜厚10〜30μm、好ましくは15〜25μm厚の積層感光体を有する感光体が得られる。」(4頁右上欄12〜18行)、
ト.円筒状基体としてアルミニウム素管を使用したこと(5頁左上欄19〜20行)、
ナ.「キャリア輸送層塗布も・・・塗布液中に浸漬した後S4=2.5mm/secの速度で引き上げられウエット膜厚90μmの塗布液層が得られ、・・・T3=70℃の予備乾燥15分及びT3=85℃の本乾燥45分間へて乾燥膜厚20μmの感光層を有する感光体とされた。」(6頁右上欄7〜14行)、
と記載されている。
甲第7号証には、
ニ.「光導電性ビニル重合体もしくはその誘導体および電子受容体を含む感光体形成液を導電性支持体上に塗布して電子写真用感光体を製造するにあたり、塗布した感光体を段階的温度上昇により加熱処理することを特徴とする電子写真用有機感光体の製造法。」(特許請求の範囲)、
ヌ.「塗布した感光体を段階的温度上昇により加熱して乾燥処理すれば、高感度の電子写真用有機感光体が得られることがわかった。」(2頁左上欄12〜14行)、
ネ.「実施例
次の組成・・・の感光液を作成した。アルミニウムをラミネートしたポリエステルフィルムのアルミニウム面上に、ドクターブレードを用いて前記感光液を塗布し、20分間室温・・・で風乾後、・・・感光板試料を切り出した。試料上の感光体層の厚さは約1.5ミクロンであった。この感光板試料と、40℃で2時間、60℃で2時間、80℃で2時間、100℃で2時間そして120℃で2時間、合計10時間、段階的温度上昇により熱処理した後、100℃で2時間80℃で2時間、60℃で2時間そして40℃で2時間保った後室温・・・に放冷した。」(2頁右上欄7〜左下欄8行)、
と記載されている。
甲第8号証には、
ノ.「塗膜中の泡についてもっと詳細に考えてみよう。その原因は大別すると次の3つに分けられる。・・・,(3) 塗膜の乾燥中に形成される泡。」(367頁18〜19行)、
ハ.「乾燥中の泡の形成:乾燥中に揮発溶媒が沸とうすると泡が生ずる。泡の形成は温度の上昇速度と温度上昇中の揮発物の含有量に関係している。つまり揮発物の初期含有量、急激な蒸発期間および塗膜厚さに関係している。」(368頁18〜20行)、
と記載されている
甲第9号証には、
ヒ.「ドラムまたはシートに塗布された有機感光体を遠赤外ヒーターを用いて乾燥することを包含する有機感光体の乾燥方法。」(特許請求の範囲第1項)、
フ.「本発明の他の目的は、ピンホールまたは気泡の発生のない有機感光体の乾燥方法を提供することにある。」(1頁右下欄16〜18行)、
ヘ.乾燥終了時の温度が約100℃であること(第3図)、
が記載されている。
(4)当審の判断
本件発明と、甲第1〜3号証に記載された発明とを対比すると、両者は、
「金属材料からなる導電性支持体上に、少なくとも電荷移動材料、バインダー樹脂及び溶剤を含有する感光層形成用塗布液を浸漬塗布し、塗布膜を乾燥して感光層を形成する電子写真感光体の製造方法において、該感光層の膜厚が27μm以上であり、該乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で段階的に増大せしめ、乾燥終了時の乾燥温度が100℃ないし150℃の範囲であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」である点で一致し、
乾燥における塗布膜への供給熱量に関して、本件発明が、「乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめる」ことを規定するのに対して、甲第1〜3号証のものは、室温及び、125℃(イ)、140℃(エ)、125℃(カ)と、1段階の増大で終了している点で相違する。
相違点について検討する。
甲第4号証には、電荷移動層を形成する塗液を塗布後、80℃で1時間乾燥し、その後さらに110℃〜120℃の温度で熱処理をする(コ〜シ)感光体の製造方法(キ)が記載されている。この80℃で乾燥する以前には、塗布直後、当然、室温環境下にあるはずであるから、感光体素材は、80℃に上げるときと、80℃から110℃〜120℃に上げるときとの2段階の温度上昇に晒されることは明らかである。
ところで、甲第4号証に記載された比較例(ス)を検討すると、80℃の乾燥段階までは、実施例とすべて同じ条件で製造しており、その後、110℃〜120℃での熱処理に代えて、25℃で長時間のエージングを行っている。とすれば、実施例においても、比較例においても、80℃での乾燥の段階において、既に乾燥は終了しているものとせざるを得ないから、80℃から110℃〜120℃に上昇させる段階を、乾燥のための温度上昇とすることはできない。すなわち、甲第4号証には、「乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめる」ことは記載されていない。
甲第5号証には、「60℃/60分+110℃/30分間」として室温以上の温度で2種類の温度により乾燥したこと(ツ)が記載されているから、室温から60℃にする温度上昇と合わせて、「乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめる」ことが記載されているものと認められる。しかし、そこで得ている感光層は、厚さが16μmのもの(タ、チ)にすぎず、本件発明で対象とする27μm以上の厚膜の感光層に生じる問題点を認識することはあり得ない。すなわち、甲第1〜3号証に記載された発明に、甲第5号証の発明を組み合わせ適用すべき動機が存在しない。
甲第6号証には、70℃で15分間の予備乾燥、85℃で45分間の本乾燥を経て20μmの感光層を有する感光体を得たこと(ナ)が記載されている。しかしながら、この乾燥温度も、得られる感光層の膜厚も、本件発明で規定する範囲外である。なお、一般的な記載として、乾燥温度の範囲を80〜150℃と記載(テ)しているが、「乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめる」ことまでも意味しているものかどうか明らかでない。同じく、仕上がり膜厚を10〜30μmとも記載(テ)しているが、好ましくは15〜25μmの範囲としており(テ)、実施例によれば、その中央値である20μmであるから(ナ)、27μm以上の膜厚に適用して、塗膜中の泡の発生を防止しうることを導き出す理由がない。
甲第7号証には、
導電性基板上に、感光液を塗布して、風乾しただけの感光板試料について、試料上の感光体層の厚さは約1.5ミクロンであったとしている。この感光板試料を、40℃で2時間、60℃で2時間、80℃で2時間、100℃で2時間そして120℃で2時間、合計10時間、段階的温度上昇により熱処理したことが記載(ネ)されているが、感光体層の厚さは、乾燥終了後には少なくとも1.5ミクロンすなわち1.5μm未満となることは疑いがない。そのような薄い感光層において、本件発明で対象とする27μm以上の厚膜の感光層に生じる問題点を認識することはあり得ない。すなわち、甲第1〜3号証に記載された発明に、甲第7号証の発明を組み合わせ適用すべき動機が存在しない。
甲第8号証は、塗膜中に生じる泡の問題を解説し、泡の形成は温度の上昇速度と温度上昇中の揮発物の含有量に関係すること、つまり揮発物の初期含有量、急激な蒸発期間および塗膜厚さに関係している(ハ)ことを述べるだけで、特に感光層形成用塗液という比較的粘度の高い塗液を使用して、27μmという乾燥膜厚を形成する場合の泡形成を防止する方法をなんら示してはいない。
甲第9号証には、本件発明が課題とする感光塗膜中に発生する泡の防止について記載(フ)しているが、その手段としては、塗膜に遠赤外線を照射する(ヒ)ことで、塗膜の表面と塗膜内部との温度差をなくして均一な加熱をすることによるものであり、単に、目的が同じというだけで、「乾燥における塗布膜への供給熱量を乾燥途中で2回以上の複数回にわたり段階的に増大せしめる」ことを想起させるものはない。
そして、本件発明は、その構成により、明細書記載の顕著な効果を奏するものであり、本件発明が各引用刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-04 
出願番号 特願平5-87379
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 矢沢 清純
特許庁審判官 阿久津 弘
秋月 美紀子
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3335704号(P3335704)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 電子写真感光体の製造方法  
代理人 長谷川 曉司  

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