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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1094728
異議申立番号 異議2003-72597  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-22 
確定日 2004-03-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3400501号「2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチルテトラヒドロフランの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3400501号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3400501号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年9月21日(パリ条約に基づく優先権主張、1992年9月23日、ドイツ国)に特許出願がされ、平成15年2月21日に、その発明について特許権の設定登録がなされたところ、平成15年10月22日に、全請求項に係る発明の特許について、本名とも子(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議の申立てについての判断
2-1.本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチルテトラヒドロフランの製造方法において、一般式IまたはII:
【化1】

[式中、R1およびR2は水素原子またはC1〜C8-アルキル基を表し、かつIIのホルミル基はC1〜C8-アルカノールを有するアセタールとして存在することもできる]で示される化合物を銅または周期表の第7〜10族の金属または該金属の化合物の存在下で水素と反応させることを特徴とする2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチルテトラヒドロフランの製造方法。」

2-2.申立ての理由の概要
異議申立人は、証拠方法として下記の甲第1ないし7号証を提示して、本件発明は、甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号に該当するので、本件請求項1に係る特許は、取り消されるべきものであると主張する。

提示された甲各号証:
甲第1号証:特開昭63-185937号公報
甲第2号証:特開平02-042035号公報
甲第3号証:多羅間 公雄 監修,「反応別実用触媒」,
株式会社化学工業社,昭和45年12月25日,p.293-299
甲第4号証:特表昭62-501702号公報
甲第5号証:特開平02-062835号公報
甲第6号証:特公昭43-022845号公報
甲第7号証:特公昭49-040683号公報

2-3.各甲号証に記載された事項
甲第1号証:
a.「1.光学活性2-メチルこはく酸の一価アルコールとのジエステルを不均一触媒の存在下、220℃以下の温度、かつ最高97%の変化率であるような条件下で水素ガスによる水素化反応を行い、得られた反応混合物の一部もしくは全部から一価アルコール、光学活性2-メチルこはく酸ジエステルおよび光学活性2-メチル-1,4-ブタンジオールを分離、回収すると共に、回収された2-メチルこはく酸ジエステルを再び水素化反応に供することを特徴とする光学活性2―メチル-1,4-ブタンジオールの製造方法。」(特許請求の範囲、第1項)
b.「しかして、光学活性なエステル類を長時間触媒と接触させておくと、異性化すなわち光学純度の低下を招き易く、本来の目的とする光学純度の高い生成物は得られなくなるという欠点があった。」(第2頁左上欄第16〜20行)
c.「本発明の目的は光学純度の低下を極力抑えた光学活性2-メチル-1,4-ブタンジオールの簡便な製造方法を提供するにある。」(第2頁右上欄第9〜11行)
d.「本発明方法において用いられる不均一触媒としては特別なものを用いる必要はなく、エステル還元用として一般に用いられている既知の触媒を用いることができるが、銅含有触媒は好ましい。」(第3頁右上欄第3〜6行)
e.「本発明方法の原料である光学活性2-メチル-こはく酸ジエステルはイタコン酸あるいはそのエステル類を不斉触媒を用いて水素かする(なお、「水素化する」の誤記)などの方法で容易に得ることができる」(第4頁左下欄第2〜5行)

甲第2号証:
f.「(1)飽和脂肪族または脂環族多価カルボン酸、或いは飽和脂肪族または脂環族ヒドロキシカルボン酸と、炭素数が6以上のアルカンから誘導される1価のアルコールとのエステルを接触水素化分解することを特徴とする飽和脂肪族または脂環族多価アルコールの製法」(特許請求の範囲、第1項)
g.「本発明者は飽和脂肪族または脂環族多価アルコールの製法について鋭意検討し、飽和脂肪族または脂環族多価カルボン酸エステル、或いは飽和脂肪族または脂環族ヒドロキシカルボン酸エステルのアルコール残基を種々変えて多くの実験を行った結果、炭素数が6以上のアルカンから誘導される1価アルコール、特に炭素数が6以上の分岐されたアルカンから誘導される1価アルコールと、飽和脂肪族または脂環族多価カルボン酸とのエステル化物、或いは飽和脂肪族または脂環族ヒドロキシカルボン酸のエステル化物を接触水素化分解することにより、飽和脂肪族または脂環族多価アルコールが著しく高い収率で得られることを見出し、本発明に到達した。」(第2頁左上欄第16行〜右上欄第9行)
h.「この飽和脂肪族多価カルボン酸としてはマロン酸、コハク酸、メチルマロン酸、グルタル酸、メチルコハク酸、・・・ヘプタンデカカルボン酸などが挙げられる。」(第2頁左下欄第13行〜第3頁左下欄第5行)
i.「本発明に用いられる水素化分解触媒は、公知の水素化分解触媒、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、銅、銅・クロマイト、白金等を主成分とする触媒が用いられるが、特にバリウムあるいはマンガンを含む銅・クロマイト系触媒においてより高い収率が得られる。」(第4頁左下欄第5〜10行)
甲第3号証:
j.「エステルのアルコールへの水素化には,古くからCu2Cr2O5がもっとも有効な触媒とされ,種々の高級アルコールの工業的製造にこの触媒が広く使用されている.カプリル酸オクチルに例をとるならば,260℃において10atmで80%,80atmで10%のそれぞれアルコール濃度で下式が
RCOOR’+2H2←→RCH2OH+R’OH
平衡となり,高温時のそれは高い.反応経路は,つぎの2つが考えられる.

」(第293頁 2.9.14.1 エステルのアルコールへの水素化の項 第1〜5行)

甲第4号証:
k.「好ましくは水素添加分解触媒は、亜クロム酸銅より成るのがよい。特に還元前は、重量で約25から約45%の銅と、重量で約20から約35%のクロムとを含む還元された亜クロム酸銅を用いることが好ましい。」(第4頁右上欄第4〜7行)
l.「実際上、マレイン酸ジエチルのようなマレイン酸エステルの還元は、上記の方程式(I)により示唆されたものよりもっと複雑であり、その結果として、テトラヒドロフラン、ガンマ-ブチロラクトン及びn-ブタノールを含む、不定量の副生物の生成を生じる。反応構造はまだ十分解明されていないけれども、現在利用され得る証例は、下記の系列と一致する。

」(第5頁左下欄第5行〜右下欄)

甲第5号証:
m.「従来、2-アルキル-1,4-ブタンジオール類は種々の技術によって製造されている。例えば、これらはイタコン酸の還元によって調製されている。」(第3頁左上欄第18行〜右上欄第1行)
n.「上記従来の方法は有用なものではあるが、欠点がないわけではない。従来法で用いられるイタコン酸や、アセチレンをベースとする化学物質は高価である。従って、より低コストで実施できる方法が必要とされている。」(第3頁右上欄第11〜15行)

甲第6号証:
o.「本発明はカルボン酸からアルコールへの接触的水素化に関し、殊にコバルトのほかに銅、マンガンおよび(又は)クロム並びに場合によりポリ酸を形成する酸もしくはその塩を含有する触媒の使用に関する。」(第1頁左欄下から第14〜10行)

甲第7号証:
p.「すなわち、本発明の要旨とするところは、有機カルボン酸、その酸無水物、そのエステル又はこれらの混合物を水素化してアルコールを製造するに当り、コバルト系触媒にレニウム又はレニウム化合物を共存させることを特徴とするアルコールの製造法にある。」(第1欄下から第4行〜第2欄第2行)
q.「触媒として用いるコバルト系触媒にはラネーコバルト或はけい藻土、アルミナ、シリカ等に担持した担体コバルト、又は活性主成分がコバルトであるようなCo-Ni,Co-Cr等があげられ、担体の有無あるいはその製法の如何に拘らず任意に選択使用し得る。」(第2欄第21〜26行)

2-4.対比・判断
本件発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されるように、「一般式I又はIIで示される化合物(以下、「本件原料I」又は「本件原料II」という。)を、銅又は周期表の第7〜10族の金属又は該金属の化合物の存在下で、水素と反応させる2-メチル-1,4-ブタンジオール及び3-メチルテトラヒドロフラン(以下、「3-メチル-THF」という。)の製造方法」に関する。
甲第1号証には、上記2-3.a及びdによれば、「光学活性2-メチルこはく酸ジエステルを、銅含有触媒の存在下、水素ガスによる水素化反応を行い、光学活性2-メチル-1,4-ブタンジオールを製造する方法」(以下、「甲1発明」という。)が、記載されており、甲第2号証には、上記2-3.f、h、iによれば、「メチルコハク酸と、炭素数が6以上のアルカンから誘導される1価アルコールとのエステルを、銅・クロマイト系触媒の存在下、接触水素化分解する2-メチル-1,4-ブタンジオールの製造方法」(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
そこで、本件発明と、甲1発明、甲2発明を対比すると、三者ともに、銅含有触媒存在下、水素化反応により、2-メチル-1,4-ブタンジオールを製造する方法において共通しているが、原料化合物として、甲1発明では、光学活性2-メチルこはく酸ジエステルを用い、甲2発明では、メチルコハク酸と、炭素数が6以上のアルカンから誘導される1価アルコールとのエステルを用いているのに対し、本件発明では、本件原料I又はIIで示される化合物を用いている点で相違している。
上記相違点について以下に検討する。
本件明細書、段落【0002】〜【0006】には、【従来の技術】として、「これらの生成物は今日まで種々の方法により製造可能である。」の記載とともに、クエン酸を原料とする製造方法、ω-ヒドロキシエポキシドを原料とする製造方法、メチルマレイン酸又はメチルフマル酸を原料とする製造方法、ブテ-2-エン-1,4-ジオールを原料とする製造方法及びキラールの2-メチル-1,4-ブタンジオールを原料とする製造方法が示され、それらの従来技術においては、工業化するには選択性が低いこと、原料の製造に費用がかかること、収率が低いものであることが記載されている。そして、段落【0007】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明の課題は、前記の欠点を有しない2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチル-THFの製造方法を提供することであった。」と記載されている。
したがって、本件発明は、従来の種々の製造方法における欠点、すなわち、製造に費用のかかる原料の使用や、収率、選択性の低さを解消することを目的として、2-メチル-1,4-ブタンジオール及び3-メチル-THF製造の原料化合物として、本件原料I又はIIを用いることを必須の構成要件とするものである。
それに対し、甲1発明は、上記2-3.b、cによれば、原料化合物の光学純度の低下を抑えつつ光学活性2-メチル-1,4-ブタンジオールを製造する方法を提供することを目的としたものである。
ところで、上記2-3.eには、甲第1号証に、甲1発明の原料化合物である光学活性2-メチルこはく酸ジエステルは、イタコン酸あるいはそのエステル類(本件原料Iに相当)から不斉触媒を用いて水素化して製造できることが記載されている。しかしながら、上記記載は、光学活性2-メチルこはく酸ジエステルを製造する際の原料として、イタコン酸あるいはそのエステル類の使用を例示したものであり、イタコン酸あるいはそのエステル類を、直接光学活性2-メチル-1,4-ブタンジオールを製造するための原料化合物として用いることを示したものではない。
したがって、甲1発明は、本件発明と目的が異なり、光学活性の原料化合物を用いることを必須とするものであり、甲第1号証に、光学活性ではない本件原料I又はIIを用いるという構成を開示も示唆もしていないから、甲第1号証の記載に基づき、当業者が本件発明とすることが容易になし得たこととはいえない。
また、甲2発明は、上記2-3.gによれば、飽和脂肪族又は脂環族多価カルボン酸エステルのアルコール残基を炭素数が6以上のアルカンから誘導される1価アルコールとすることにより、飽和脂肪族又は脂環族多価アルコールを高い収率で得ることを目的としたものである。
そして、甲第2号証には、水素化により2-メチル-1,4-ブタンジオールを製造できる原料化合物としてメチルコハク酸が例示れてはいるが、本件原料I又はIIについては記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明は、本件発明と目的が異なり、また、甲第2号証には、本件原料I又はIIについて記載も示唆もされていないから、甲第2号証の記載に基づき、当業者が本件発明とすることが容易になし得たこととはいえない。
ところで、甲第3号証には、上記2-3.jによれば、エステルのアルコールへの水素化は、中間体としてアルデヒドを経由するという反応経路が示されている。しかしながら、甲第3号証には、中間体を単離して原料とすることについては記載されていないから、甲第3号証の記載からは、甲1発明或いは甲2発明において、反応経路の中間体として本件原料IIを経由することが示唆されるとしても、甲1発明或いは甲2発明において、原料化合物として本件原料IIを採用することが示されているとまではいえない。
また、甲第4,6,7号証には、上記2-3.k及びo〜qによれば、カルボン酸或いはカルボン酸エステルの水素化によりアルコールを製造する際に用いる触媒として、各種の触媒が公知であることが記載されており、甲第4号証には、上記2-3.lによれば、コハク酸ジエステルの水素化により、1,4-ブタンジオール及びテトラヒドロフランが製造できることが記載されているが、それらの各甲号証には、本件発明の本件原料I又はIIは記載されておらず、また、本件発明の本件原料I又はIIを、触媒存在下、水素と反応させて目的生成物を得ることに関する記載も示唆もない。
さらに、甲第5号証には、上記2-3.mによれば、従来技術として、イタコン酸、すなわち本件原料Iから、2-アルキル-1,4-ブタンジオール、すなわち本件目的生成物が調製されていたことが記載されているが、甲第5号証には、上記反応にどのような触媒を使用するかについて記載されていないから、本件発明と同一ということはできない。また、甲第5号証は、上記2-3.nによれば、イタコン酸は高価な物質であるから、低コストで実施できる方法として、甲第5号証に記載された発明を提供することを目的としたものであることが理解される。したがって、甲第5号証の記載からは、2-アルキル-1,4-ブタンジオールを製造するために、そこにおいて好ましくないとされているイタコン酸を原料として用いることが、積極的に示唆されているとはいえない。
以上のとおり、甲第1ないし7号証のいずれにも、上記相違点、すなわち、原料化合物として本件原料I又はIIを用いる点は記載も示唆もされていないから、本件発明は、甲第1ないし7号証の記載をあわせて考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明は、上記のように、原料化合物として本件原料I又はIIを採用することにより、明細書、段落【0024】記載の「本発明による方法は容易に入手可能な出発物質からの2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチル-THFの簡単な製造を可能にする。」という効果を奏するものである。
よって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

2-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-08 
出願番号 特願平5-234447
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤森 知郎  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 関 美祝
西川 和子
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3400501号(P3400501)
権利者 ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト
発明の名称 2-メチル-1,4-ブタンジオールおよび3-メチルテトラヒドロフランの製造方法  
代理人 山崎 利臣  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 矢野 敏雄  

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