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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22D
管理番号 1094759
異議申立番号 異議2002-70441  
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-25 
確定日 2004-03-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3206426号「極低炭素鋼の連続鋳造法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3206426号の請求項1に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許出願 平成7年12月27日
特許設定登録 平成13年6月22日
特許異議申立て(申立人:庄司 翠)
平成14年2月25日
取消理由通知 平成14年10月16日付け
特許異議意見書 平成14年12月24日
訂正請求 平成14年12月24日
訂正拒絶理由通知 平成15年9月18日付け
なお、上記の訂正拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書および補正書は提出されなかった。

2.訂正の適否
上記訂正の訂正事項1の訂正および訂正事項2の訂正は、いずれも特許請求の範囲および段落0011の中の「その後皮張り作業確認を行い」を「その後、モールド長辺外側に配置した移動磁場型電磁攪拌装置を起動させて、磁束密度が0.12T以上の移動磁界をモールド短辺方向に発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し、上向き反転流を増大させながら、皮張り確認作業を行い」と訂正することを求めている。
しかしながら、上記記載の事項「その後、モールド長辺外側に配置した移動磁場型電磁攪拌装置を起動させて、磁束密度が0.12T以上の移動磁界をモールド短辺方向に発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し、上向き反転流を増大させながら、皮張り確認作業を行い」は、願書に添付した明細書または図面に記載されておらず、かつ、これから自明な事項でもない。
〔訂正前の明細書の段落0029には、「また鋳片引抜き開始と同時に、移動磁場型電磁攪拌装置を起動して、磁束密度0.12Tの磁場を鋳造速度が1.0m/minに昇速するまで引加した。その他の条件は、前述した図2の作業手順と同様の手順で鋳造開始した。」と記載されているが、磁束密度0.12Tを超える磁場については、この段落や他の明細書の箇所に記載されておらず、かつ、それが自明でもないので、『「磁束密度0.12T以上」と訂正することは、段落0029の内容に基づいて直接的かつ一義的に導き出すことができる事項であ』るとの特許権者の主張(訂正請求書第3頁1〜3行)は採用できない。〕
したがって、訂正事項1および訂正事項2の訂正は、願書に添付した明細書または図面の範囲内においてした訂正ではない。
以上のとおりであるから、訂正事項1および訂正事項2を含む当該訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議申立についての判断
(1)申立ての理由の概要
(本件特許の請求項1に係る発明について)
本件特許の請求項1に係る発明は、下記の刊行物1または刊行物2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号記載された発明に該当するので、本件特許の請求項1に係る発明の特許は取り消されるべきものであるか、あるいは、下記の刊行物1および2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件特許の請求項2に係る発明について)
本件特許の請求項2に係る発明は、下記の刊行物1〜3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項2に係る発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

刊行物1:特開平4-105757号公報
(申立人が提示した甲第2号証に同じ)
刊行物2:特開平3-169467号公報
(申立人が提示した甲第1号証に同じ)
刊行物3:特開昭63-104763号公報
(申立人が提示した甲第3号証に同じ)

(2)本件発明
特許第3206426号の請求項1および2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」ということにする。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
(本件発明1)
「極低炭素鋼の鋳造開始に際し、浸漬ノズルからモールド内への注湯を開始した後、炭素含有量が0.5重量%以下の初期モールドパウダーの使用を開始し、その後皮張り確認作業を行い、皮張り確認作業が終了した以降では炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダーを使用することを特徴とする極低炭素鋼の連続鋳造法。」
(本件発明2)
「モールド長辺外側に移動磁場型電磁攪拌装置を配置し、前記皮張り確認作業中にモールド短辺方向に移動磁界を発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し上向き反転流を増大させることを特徴とする請求項1に記載の極低炭素鋼の連続鋳造法。」
(3)刊行物に記載された発明
(3)-1.刊行物1:特開平4-105757号公報
刊行物1には以下の事項が記載されている。
・摘示1-a:
「極低炭素鋼の連続鋳造に使用されるパウダーであって、Ca-Al合金・・・の群から選ばれる発熱剤の少なくとも1種を3〜20重量%含有し、・・・トータルカーボン量が0.3%以下であることを特徴とする極低炭素鋼用発熱性スタートパウダー。」(特許請求の範囲)
・摘示1-b:
「〔産業上の利用分野〕本発明は、特に炭素含有量40ppm以下の極低炭素鋼を連続鋳造する際に、品質上障害となる鋳込み初期の浸炭・浸Siを抑制し、以て歩留まりの向上を図ったスタートパウダーに関する。」(第1頁左欄下から5〜2行)
・摘示1-c:
「前記浸漬ノズルとパウダーとを併用する連続鋳造においては、鋳込み初期に使用するパウダー(以下、スタートパウダーという)を、たとえば発熱材として・・・を含有し、かつ浸炭が抑制されるようにトータルカーボン(以下、T.Cという)量を0.3%以下に抑えたものを使用して、鋳込み初期に溶鋼温度の上昇を図るようにしていた。」(第2頁左上欄9〜18行)
・摘示1-d:
「前記発熱剤による発熱反応は、20秒以下と短いため、スタートパウダー投入後に続いてミドルパウダーを投入する必要があり、鋳込み当初にスタートパウダーとして含有C量の低いものを使用したとしても、含有C量の高いミドルパウダー(通常、C含有量は1〜5%)によって浸炭が行われていた。」
・摘示1-e:
「通常、鋳込初期のスタートパウダーを投入した後30〜60秒間は、・・・溶鋼表面の皮張り(デッケル)溶解のためにモールド内の撹拌が行われる。・・・保温性を確保するため炭素含有量の高いミドルパウダーの投入が行われるが、この投入は、前記撹拌中に行われるため、溶鋼とミドルパウダーの接触により浸炭が起こっていた。」(第2頁右下欄3〜17行)
・摘示1-f
「本発明においては・・・結果的に発熱反応時間を長期化させることができる。そして、発熱反応を前記撹拌の間、持続させることができるため、撹拌時にミドルパウダーを投入する必要がなく、その結果ミドルパウダーによる浸炭を回避し、浸炭量の増加は、スタートパウダーによるわずかの浸炭のみとなるため、大幅にΔC量を低減することができる。」(第3頁1〜15行)
(3)-2.刊行物2:特開平3-169467号公報
刊行物2には以下の事項が記載されている。
・摘示2-a:
「前記発熱剤の総発熱量が・・・であり、前記カーボンの含有量がフロントパウダ全体の0.5重量%以下である請求項1記載の連続鋳造用フロントパウダ。」(特許請求の範囲第2項)
・摘示2-b:
「従来、一般的な(定常鋳造期用)パウダは、主成分としてのCaO・・・なるスラグ基材のほか、・・・カーボン(溶融速度調整剤)などから構成されている。上記パウダは、メインパウダと呼ばれる保温型パウダであるが、そのほか、特に鋳造初期段階で添加されるフロントパウダとして、発熱型フロントパウダがある。」(第1頁右欄11〜19行)
・摘示2-c:
「さらに、パウダの溶融速度調整作用をもつカーボンの含有量をフロントパウダ全体の0.5重量%以下にしたことで、・・・カーボンの含有量が多過ぎて鋳片表面にカーボンが侵入することによって鋳片の品質を低下させるというトラブルが防止される。」
(3)-3.刊行物3:特開昭63-104763号公報
刊行物3には以下の事項が記載されている。
摘示3-a:
「(3) EMLA方式(第5図参照)・・・この方式は、・・・すなわち、コイル2(A)、2(B)及び3(A)、3(B)に矢印gで示す互いに外向きの移動磁界を作用せしめることにより、浸漬管4からの溶鋼吐出流eに対して加速力hをかけるもので、溶鋼撹拌力を増大し、これによって湯面死を改善するとともに、いわゆるノロ噛みを防止する目的で行われるものである。」(第2頁左上欄8〜末行)
摘示3-b:
「第5図」(第3頁)
第5図には、溶鋼に対して、連続鋳造のモールドの短辺方向に移動磁界を作用させることが示されている。

(4)対比・判断
(本件発明1について)
刊行物1には、極低炭素鋼を連続鋳造する際に、鋳型内に浸漬ノズルから注湯し、鋳型内の溶鋼面を被覆するパウダーを添加することが記載されており(摘示1-b、1-c)、鋳込み初期には浸炭を抑制するためにトータルカーボンが0.3%以下に抑えたパウダー(スタートパウダー)を使用すること及びスタートパウダー投入後に続いて、含有C量の高いミドルパウダー(通常、C含有量は1〜5%)を投入することが記載されている(摘示1-c、1-d、なお、これらの摘示事項におけるC含有量の「%」は刊行物2などの記載からみて(摘示2-a、2-c)、「重量%」を指していると考えられる)。そして、ミドルパウダーの投入は溶鋼表面の皮張り(デッケル)溶解のためにモールド内で行われる撹拌時であることが示されている(摘示1-e)。このことからみて、刊行物1には、「極低炭素鋼の連続鋳造において、浸漬ノズルから注湯を開始した後、パウダーとして、鋳込み初期には、炭素含有量が0.3重量%以下に抑えたものを使用し、その後は溶鋼表面の皮張り(デッケル)溶解のためにモールド内で行われる撹拌時以降は、C含有量が1〜5重量%であるパウダーを使用する極低炭素鋼の連続鋳造法」の発明が記載されている(以下この発明を「刊行物1発明」という)。
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「パウダー」「鋳型」はそれぞれ、本件発明1の「モールドパウダー」「モールド」に相当し、同じく「溶鋼表面の皮張り(デッケル)溶解のためにモールド内で行われる撹拌」は、本件明細書の段落0005の記載「鋳造開始時、金属棒をモールド内の溶鋼中に差込んで溶鋼湯面の凝固状態を確認したり、金属棒を掻き回して凝固金属を再溶解させたり、凝固金属をモールド外に除去する作業(これら一連の作業を皮張り確認作業という)」からみて、本件発明1の「皮張り確認作業」の相当するから、両発明は、「極低炭素鋼の鋳造開始に際し、浸漬ノズルからモールド内への注湯を開始した後、炭素含有量が0.3重量%以下の初期モールドパウダーの使用を開始し、その後に炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダーを使用することを特徴とする極低炭素鋼の連続鋳造法。」の点で共通し、次の点で相違する(この相違点を「相違点A」という)。
相違点A:炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダーを使用 する時機に関して、本件発明1では、「皮張り確認作業が終 了した以降に炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパ ウダーを使用している」のに対して、刊行物1発明では、「 皮張り確認作業時以降に炭素含有量が1.0重量%を越える モールドパウダーを使用している」点。
炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダー(刊行物1発明ではミドルパウダー)の投入時機について、刊行物1では、スタートパウダーに含まれる発熱剤の発熱反応が持続させることができず、溶鋼表面の保温ができないために、溶鋼表面の皮張り(デッケル)溶解のためにモールド内で行われる撹拌時に投入するが、この投入はこの撹拌時に行われるため浸炭が起こることが記載されている(摘示1-e)。また、上記の発熱反応が持続することができれば、撹拌時にミドルパウダーは投入する必要はないことも記載されてる(摘示1-f)。すなわち、上記の撹拌時にC含有量が比較的高いモールドパウダーを投入すると、浸炭が生じること、初期モールドパウダーの発熱剤の発熱反応が持続するのであれば、上記の撹拌時にミドルパウダーを投入する必要がないことが示されている。そして、発熱反応が上記の撹拌の間持続させることができるスタートパウダーも刊行物1に記載されている(摘示1-a、1-f)。
そうであってみれば、刊行物1発明において、(炭素含有量が0.3重量%以下の初期モールドパウダーの使用を開始してのちに)炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダーを皮張り確認作業が終了した以降に投入して使用することは容易になし得るものである。
よって、本件発明1は、刊行物2を引用するまでもなく、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(本件発明2について)
本件発明2は、本件発明1の特定事項に、さらに「モールド長辺外側に移動磁場型電磁攪拌装置を配置し、前記皮張り確認作業中にモールド短辺方向に移動磁界を発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し上向き反転流を増大させること」が加わったものである。したがって、本件発明2と刊行物1発明とを対比すると、相違点A及び以下の点(相違点B)で相違する。
相違点B:本件発明2では、「モールド長辺外側に移動磁場型電磁攪拌 装置を配置し、前記皮張り確認作業中にモールド短辺方向に 移動磁界を発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電 磁力を作用させて流速を加速し上向き反転流を増大させる」 のに対して、刊行物1発明では、溶鋼流に電磁力を作用させ るような規定はなされていない点
相違点Aについてはすでに検討したので、以下において相違点Bについて検討する。
刊行物3には、モールド長辺外側に移動磁場型電磁攪拌装置を配置し、モールド短辺方向に移動磁界を発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速させることにより、溶鋼撹拌力を増大し、これにより湯面死を改善するとともに、ノロ噛みを防止することが記載されている(摘示3-a、3-b)。
しかしながら、刊行物3には、電磁力の作用による溶鋼撹拌力を付与する時機や溶鋼の「上向き反転流を増大させる」ことについては記載されていない。そして、浸炭を抑えたい低炭素鋼の連続鋳造では、モールドパウダーを使用した場合、皮張り確認作業時の溶鋼の撹拌は浸炭を促進するおそれがあることが刊行物1に指摘されており(摘示1-e)、皮張り確認作業時の溶鋼の撹拌は溶鋼とモールドパウダーとの接触が生じるため、浸炭を抑制するためには避けるべきものであるといえる。
そうであってみれば、刊行物1発明における溶鋼に対して、皮張り確認作業中に、刊行物3に記載の溶鋼撹拌力を適用することは容易に想到し得るものではない。したがって、刊行物1発明において、「モールド長辺外側に移動磁場型電磁攪拌装置を配置し、前記皮張り確認作業中にモールド短辺方向に移動磁界を発生させ、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し上向き反転流を増大させる」ことは容易になし得たとはいえない。そして、炭素含有量が0.5重量%以下の初期モールドパウダーの使用を開始し、その後の皮張り確認作業中に、浸漬ノズルから吐出される溶鋼流に電磁力を作用させて流速を加速し上向き反転流を増大させ、皮張り確認作業が終了した以降では炭素含有量が1.0重量%を越えるモールドパウダーを使用することにより、本件発明2は、浸炭の抑制とともに、皮張りを抑制できる等の効果を奏しえるものである。
よって、本件発明2は、刊行物1および3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、刊行物2には、連続鋳造の鋳造初期に添加されるフロントパウダとして、C含有量を0.5重量%以下ののものを使用して浸炭を防止し、初期の鋳造段階が終了後は従来の保温型パウダを使用することが記載されているので(摘示2-a〜2-c)、「連続鋳造において、パウダーとして、鋳造初期には、炭素含有量が0.5重量%以下に抑えたものを使用し、その後は保温型パウダーを使用する連続鋳造法」の発明が記載されている(以下この発明を「刊行物2発明」という)。しかし、皮張り確認作業や電磁力による溶湯の撹拌等については記載されていないので、刊行物2に記載の発明を考慮したとしても、本件発明2は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
以上のように、本件発明2は、刊行物1〜3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)むすび
以上のとおり、
(イ)本件発明1は、刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(ロ)本件発明2についての特許は、特許異議申立ての理由および証拠によっては取り消すことはできない。また、同特許を他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおりに決定する。
 
異議決定日 2004-02-06 
出願番号 特願平8-84922
審決分類 P 1 651・ 113- ZE (B22D)
P 1 651・ 121- ZE (B22D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 三崎 仁
奥井 正樹
登録日 2001-07-06 
登録番号 特許第3206426号(P3206426)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 極低炭素鋼の連続鋳造法  

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