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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2007800105 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A23L 審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て全部成立) A23L |
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管理番号 | 1095444 |
審判番号 | 無効2002-35389 |
総通号数 | 54 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-01-20 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-09-17 |
確定日 | 2004-04-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2897603号発明「精製米」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2897603号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本件発明 1-1 手続の経緯 本件特許第2897603号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成5年6月30日に特許出願され、平成11年3月12日にその特許の設定登録がなされ、その後、平成14年9月17日付けで請求人 株式会社 サタケより特許無効審判が請求され(無効審判2002ー35389号事件)、平成14年12月19日付けで被請求人 株式会社東洋精米機製作所より答弁書が提出され、平成15年3月4日に口頭審理を行った後、請求人及び被請求人より上申書が提出されたものである。 1-2 本件特許に係る発明 本件の請求項1ないし2に係る発明は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 精白した米粒表面における複数の縦方向筋状溝部分中の大条溝部分に米組織のセル隔壁表面端が露出し、顕微鏡等の観察によりセル隔壁側面の一部または全部が見える状態に精白並びに除糠をしてなる精製米。 【請求項2】 顕微鏡等の観察によりセル底面の一部または全部が見える状態に精白並びに除糠をしてなる請求項1記載の精製米。」 2.当事者の主張 2-1 請求人 株式会社 サタケの主張 請求人 株式会社 サタケは、審判請求書において、本件の請求項1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項の規定により無効にすべきものであると主張し、その理由として次の無効理由1ないし6を挙げている。 (1)無効理由1 精白米表面の大条溝(背側縦溝部)に限定してこの部位のセル(細胞)である糊粉細胞または澱粉細胞から如何にして細胞内物質(糊粉粒または澱粉粒)を除去するかの除糠方法、大条溝のセル隔壁の維持方法を具体的に開示して特定することが不可欠である。これらの製法上の技術的開示とその特許請求の範囲への特定を全く欠いた本件発明は未完成若しくは実施不可能なものであり、本件発明は特許法第29条第1項柱書、同法第36条第4項及び第5項第1号及び第2号の規定に違背して特許されたものである。 (2)無効理由2 本件発明の精製米は、販売拡張の営利目的で公開した以上、不特定多数者に広告掲載時点で本件精製米は販売され公然知られたものとなっていることは明白であり、また、甲第5号証、同証の1、同証の2、同証の3、同証の4、甲第6号証、同証の1、同証の2、同証の3、甲第8号証によって、無洗米としての精白並びに除糠状態が比較対照される「トーヨーの無洗米」でも「他社が称する無洗米」でも、いずれも米表面の細胞形態、細胞粒(糠部分3)の有無のレベルまで開示されていたことは明白であり、本件特許請求の範囲請求項1及び2記載の無洗米はとりたてて新規なものではなく、従って本件発明は特許法第29条第1項第1号または第3号の規定に違背して特許されたものである。 (3)無効理由3 本件発明の精白米は、従来周知慣用の精白並びに除糠方法で、しかも大条溝(縦溝)の除糠状態について周知の観察法を用いる周知慣用の技術事項の単なる寄せ集めにすぎないものであって、何ら新規なものではなく、本件発明は特許法第29条第1項または第2項の規定に違背して特許されたものである。 (4)無効理由4 本件発明の無洗米は、公知の各精白除糠方法(甲第20ないし29号証)と、縦溝の除糠という周知技術(甲第3ないし4号証、及び甲第11ないし12号証)と除糠状態の顕微鏡による観察という周知事項(甲第13ないし19、甲第5号証、同証の1から4、甲第6号証、同証の1から3)とをもってすれば、当業者が容易に採用することができるものであり、従って本件発明は特許法第29条第2項の規定に違背して特許されたものである。 また、本件発明は、完全除糠して糠臭さがなく食味も高い洗い米であることを明言している本件発明者の出願に係る特開平2-242647号公報(甲第30号証)、その分割出願であり事実上同一開示の特開平5-304910号公報(甲第31号証)と同一のものであり、本件発明は特許法第29条第1項第3号、同法第29条の2の規定に違背して特許されたものである。 (5)無効理由5 本件特許の出願前に全国的に販売され、拡販・宣伝のために広く頒布された甲第32号証から甲第34号証に記載された無洗米は、完全精米であって「従来の無洗米」よりも低濁度従って高い除糠度を有するものである点で本件発明の無洗米と同一のものであることが明白である。また、本件発明に係る無洗米は、上記甲第32号証から甲第34号証に加えて、「これが本物の無洗米です。」と銘打ったパンフレット(平成4年10月29日確定日付、甲第35号証)と同時に現実に見本品を配布しつつ宣伝広告に広く拡布されたものと同一のものであることも明白である。 このように、本件発明による無洗米は、出願以前に広く知られると同時に広く頒布された刊行物に記載されたものと同一のものであり、従って本件特許は特許法第29条第1項第1号または第3号の規定に違背して特許されたものである。 (6)無効理由6 本件発明は、甲第24号証に記載された精米法により製造される本件出願前に刊行された刊行物に記載された無洗米と同一のものでありそれ以外の何ものでもない。従って、本件発明は特許法第29条第1項第3号の規定に違背して特許されたものである。 そして、上記主張を立証する証拠方法として、審判請求書と共に下記甲第1号証〜甲第35号証を提出している。 さらに、請求人は、上記主張事実を立証するために、平成15年4月15日付け上申書と共に下記甲第36号証〜甲第42号証及び甲第5号証の5の1を提出している。 記 甲第1号証:本件特許明細書添付の図3と図8との対比図 甲第2号証:平成4年9月1日 糧友社発行、農産物検査関係法規、79 頁 甲第3号証:特公昭58-897号公報 甲第4号証:昭和60年8月10日 農文協編(社)農山漁村文化協会発 行、稲作全書イネII、841〜869頁 甲第5号証:平成5年1月1日付米穀新聞広告(本件出願添付写) 甲第5号証の1:平成5年1月1日付米穀新聞広告紙面 甲第5号証の2:同年1月21日付同紙面 甲第5号証の3:同年3月4日付同紙面 甲第5号証の4:同年6月10日付同紙面 甲第5号証の5:同紙面の部分引出線対照図 甲第6号証:平成5年1月11日付商経アドバイス紙広告紙面 甲第6号証の1:同年1月18日付同紙面 甲第6号証の2:同年3月4日付同紙面 甲第6号証の3:同年6月7日付同紙面 甲第7号証:平成10年7月21日付意見書 甲第8号証:株式会社東洋精米機製作所「無洗米説明書」 甲第9号証:特許庁審査基準10.38A 甲第10号証:特許庁審査基準42.45A 甲第11号証:特開昭52-43664号公報 甲第12号証:特公平4-40978号公報 甲第13号証:平成2年11月20日、日本調理科学会発行、調理科学 第23巻 第4号、95〜99頁 甲第14号証:1980年 農業機械学会北海道支部会報 第21号、6 7〜73頁 甲第15号証:1979年 日本農芸化学会発行、日本農芸化学会誌 第 53巻 第10号、5〜11頁 甲第16号証:1992年5月25日 農文協編(社)農山漁村文化協会 発行「おいしいコメはどこがちがうか」、28〜43頁 甲第17号証:1990年9月15日 (社)日本食品工業学会発行 日 本食品工業学会誌、76〜85頁 甲第18号証、同証の1、同証の2:平成3年5月 佐竹製作所発行 カ タログ「ジフライス設備」 甲第19号証:平成4年2月27日 全国食糧事業協同組合 佐竹製作所 発行 精洗米「きれいさん」説明会資料、「きれいさん」 について 甲第20号証:特開昭53ー62366号公報 甲第21号証:特開昭63-198942号公報 甲第22号証:特開昭57ー209644号公報 甲第23号証:特公昭63ー52535号公報 甲第24号証:平成3年7月6日朝日新聞夕刊18面「とがずに炊けるコ メ」の記事 甲第25号証:2002年2月1日発行 農林水産技術研究ジーナル第2 5巻、第2号、8〜13頁 甲第25号証の1:平成13年度(第2回)民間部門農林水産研究開発功 績者表彰受賞者の功績概要 目次及び1頁 甲第26号証:特公昭39ー17328号公報 甲第27号証:特開昭52ー114061号公報 甲第28号証:特開昭62ー282648号公報 甲第29号証:特公平4-79703号公報 甲第30号証:特開平2-242647号公報 甲第31号証:特開平5-304910号公報 甲第32号証:株式会社東洋精米機製作所作成「新製品 トーヨーの洗い 米(無洗米)説明書」 甲第33号証:株式会社東洋精米機製作所作成「トーヨーの洗っているお 米新しい「米」説明書」 甲第34号証:株式会社東洋精米機製作所作成「改訂版 トーヨーの洗っ ているお米新しい「米」説明書」 甲第35号証:パンフレット「これが本物の無洗米です。」(平成4年1 0月29日確定日付) 甲第36号証:澱粉科学 第36巻、第3号、161〜167頁 甲第37号証:株式会社九州トーヨー 履歴事項全部証明書 甲第38号証:株式会社九州トーヨー パンフレット 甲第39号証:平成3年9月19日付米穀新聞 甲第40号証:平成3年9月24日付農機新聞 甲第41号証:平成4年5月11日付商経アドバイス 甲第42号証:平成5年1月14日付商経アドバイス 甲第5号証の5の1:甲第5号証の5の加筆 2-2 被請求人 株式会社東洋精米機製作所の主張 被請求人は、平成14年12月19日付け答弁書と共に下記の乙第1号証〜乙第4号証を提出して、請求人の主張する無効理由1ないし6に対して、次のとおり反論している。 (1)無効理由1について 本件発明の構成は、具体的な技術手段を明らかにするものであると共に、この構成によって確実に本件発明の目的を達成し本件発明の効果を奏することが実施例によっても明らかであることから、本件発明は完成したものである。従って、本件発明は未完成ではなく、特許法第29条1項柱書に違背するものではない。 特許請求の範囲に記載する技術的事項は、発明の詳細な説明の【0008】等に記載したものであり、特許法第36条第5項第1号の規定に違背するものではない。 特許請求の範囲の各請求項には、不可欠な発明構成事項のみを記載しており、特許法第36条第5項第2号の規定に違背するものではない。 (2)無効理由2について 甲第5号証、同証の1〜4、甲第6号証、同証の1〜3、及び本件出願後の甲第8号証に掲載された三葉の顕微鏡写真にはいずれも、単に米粒表面の組織が開示されているだけであって、大条溝部分の顕微鏡写真として開示されているものではなく、本件発明はこれら証拠の開示をもっても、特許法第29条第1項第1号及び第3号のいずれの規定にも違背しない。 (3)無効理由3について 大条溝を顕微鏡により観察すること、更にはその観察によって精白米を創出する技術的思想に関しては、出願前には一切知られていない。 本件発明は、周知の技術事項の単なる寄せ集めではなく、特許法第29条第1項、第2項のいずれの規定にも違背するものではない。 (4)無効理由4について 甲第24号証に示される精米法による米は「BG無洗米」ではない。甲第25号証に掲載した写真(同証10頁左欄)は、これが大条溝の表面の写真であることのみならず、縦方向筋状溝部分であることさえ、一言も開示されておらず、示唆もされていない。 甲第30、31号証に記載される「無数で微細な陥没部」は、本件発明のセル隔壁のことではないし、更には同出願当時は米粒の大条溝など全く意中になかったから、一切記述されていない所以である。従って、本件発明は、甲第30、31号証記載の精白米と大きく異なり、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条の2に該当する余地など全くない。 (5)無効理由5について 甲第32ないし35号証は、本件発明の構成要件を一切満たさないばかりか、本件発明の技術的事項が一切開示されておらず、本件発明とは全く別の発明である。たとえ本件発明とこれら証拠の精白米とが「低濁度従って高い除糠度を有するものである」点で共通するとしても、その内容は全く異なるものである。従って、本件発明は、これら証拠をもって特許法第29条第1項第3号及び同29条の2に違背する余地など全くない。 (6)無効理由6について 甲第24号証に記載された精米法に関する記載は、本件発明の技術的事項が一切開示されておらず、本件発明とは共通する構成を一切有さない。従って、本件発明は甲第24号証をもって特許法第29条第1項3号の適用の余地は全く無い。 また、被請求人は、上記主張事実を立証するために、平成15年3月25日付け上申書と共に下記の乙第5号証〜乙第6号証の2を、平成15年5月8日付け上申書(第二)と共に下記の乙第7号証〜乙第9号証を提出している。 記 乙第1号証:社団法人日本精米工業会「精米基礎技術講習会テキスト」( 昭和61年11月)第3頁 乙第2号証:本件特許出願の拒絶理由通知書の写し(平成10年4月23 日起案、平成10年5月26日発送) 乙第3号証:本件特許出願の特許査定謄本の写し (平成11年1月11 日起案、平成11年2月9日発送) 乙第4号証:特許庁発行 本件特許出願の審査経緯書面の写し 乙第5号証:本件発明の無洗米の縦方向筋状溝部1とそのうちの大条溝部 2を示す参考図である。参考図1は正面図を、参考図2は背 面図を、参考図3は断面図を示す。 乙第6号証の1:本件発明の実施品が初めて市販され実用化された無洗米 工場の支店事務所等設置届(福島県県北振興局へ提出)の写し 乙第6号証の2:本件発明の実施品が初めて市販され実用化された無洗米 工場の法人設立等申告書(二本松市長へ提出)の写し 乙第7号証:新聞記事(平成6年7月14日付商経アドバイス)の一部写 し 乙第8号証:新聞記事(平成6年8月1日付米穀新聞)の一部写し 乙第9号証:新聞記事(平成5年1月21日付日経流通新聞)の一部写し 3.当審の判断 先ず、無効理由2について検討する。 (一)本件特許に係る出願は、願書によれば、特許法第30条第1項の規定の適用を申出て、平成5年6月30日に出願されたものである。 そして、被請求人(出願人)は、同条第4項に規定の「証明する書面」として、平成5年1月1日付米穀新聞に掲載された株式会社東洋精米機製作所を広告主とする無洗米の広告紙面(甲第5号証)を唯一提出した。 請求人が提出した平成5年1月21日付米穀新聞広告紙面(甲第5号の2)、同年3月4日付同紙面(甲第5号証の3)、同年6月10日付同紙面(甲第5号証の4)、平成5年1月11日付商経アドバイス紙広告紙面(甲第6号証)、同年1月18日付同紙面(甲第6号証の1)、同年3月4日付同紙面(甲第6号証の2)及び同年6月7日付同紙面(甲第6号証の3)には、甲第5号証に掲載の「トーヨーの無洗米」の広告と全く同一内容の広告が掲載されているが、被請求人(出願人)は、これらを公表した事実の申請及びこれら公表を証明する書面の提出を全くしていない。 ところで、特許法第30条第1項の規定の適用にあたって、複数回の公開行為があった場合、これらの公開行為の総てについて特許出願と同時にその旨を記載した書面を提出しなければならず、その場合に証明する書面の提出に限って最先の公開と密接不可分の関係にある公開については省略できるとする取り扱いが妥当であると認められるところ、甲第5号証及び甲第5号証の1を除く、請求人が提出した上記広告紙面については、上記のとおり、これらを公表した事実の申請を全く行っておらず、かつ、これらの広告掲載は公開者の意志によって律し切れないものとはいえず、従って、これらの公表は最先の公開(甲第5号証及び甲第5号証の1)と密接不可分の関係にあるとはいえないから、請求人が提出した上記刊行物(甲第5号証の2ないし甲第6号証の3)は、同法第30条第1項でいう「刊行物」には該当しないものである。 (二)次に、平成5年1月21日付米穀新聞広告紙面(甲第5号の2)、同年3月4日付同紙面(甲第5号証の3)、同年6月10日付同紙面(甲第5号証の4)、平成5年1月11日付商経アドバイス紙広告紙面(甲第6号証)、同年1月18日付同紙面(甲第6号証の1)、同年3月4日付同紙面(甲第6号証の2)及び同年6月7日付同紙面(甲第6号証の3)に掲載の無洗米の広告品が本件特許の出願前に不特定多数の者に販売され、公然に知られたものであったか否かについて検討する。 これら紙面に掲載の広告は、トーヨーの無洗米が普通の精白米や他社が販売する無洗米に比べて優れていることを写真を使用して分かり易く説明した比較広告であり、無洗米の製造、流通、販売に従事する業界関係者だけでなく広く消費者向けを意図して掲載されたものであることは明らかである。 そして、一般に自社が生産、販売に係わる食料品を消費者向けに新聞紙面に広告を出す場合には、すでにその製品が生産、販売されていたか、あるいは少なくとも広告掲載日からそれほど時を経ずしてその製品が販売されたと考えるのが社会常識であり、かつ、本件の場合、平成5年1月1日から本件特許の出願日である平成5年6月30日までの間に米穀新聞及び商経アドバイス紙に頻繁に広告を出していた事実からすれば、少なくとも本件特許の出願前に上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」が消費者に販売され、公然に知られたものになっていたと認めるのが相当である。 加えて、上記「トーヨーの無洗米」の新聞広告に「Q:無洗米ってたくさんあるわねェ? A:いいえ、ひとつです。無洗米はトーヨーだけです。」という文言があるが、「トーヨーの無洗米」が広告掲載時まだ販売されておらず、これを消費者が目にする機会がなかったのであれば、広告文としてこのような文言は使用されないはずであり、この点からみても、少なくとも本件特許の出願前に上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」が消費者に販売され、公然に知られたものであったと認められる。 上記認定が妥当であることは、以下に示す事実によっても裏付けられる。 甲第25号証(農林水産技術研究ジーナル第25巻、第2号、8〜13頁)は、本件特許の出願後に頒布された刊行物であるが、そこには、上記刊行物(甲第5号証の2ないし甲第6号証の3)に掲載の「トーヨーの無洗米」の米肌の拡大顕微鏡写真と全く同一のBG無洗米の米肌の拡大顕微鏡写真が写真2として示され、さらに、本件特許の発明者である雑賀慶二氏自身が「糠の粘着性を利用した無洗米の研究と開発」という表題の下に、「平成3年、ようやく全くとぎ汁を出さない無洗米加工方法「BG精米製法」の発明が完成したのである。」(9頁右欄)、「4.BG無洗米の特徴 ……………〔中略〕……………BG精米製法では、肌ヌカの通常のヌカとは全く性状が異なり、一定の条件が加わると、非常に粘性が高くなるという性状を利用し、精白米粒の表面の凹部に入り込んでいる肌ヌカを同じ肌ヌカに吸着させて取り去るという方法により、不要な肌ヌカだけを取り、残しておきたい凸部は全て残すことができるのである(写真2)。」(9頁右欄)、「図1のグラフをご覧いただければお分かりになるように、弊社の無洗米は平成3年のデビュー以来、毎年前年比2倍増を続けている。」(11頁右欄〜12頁左欄)、及び「もともと平成3年の発売当初より一部の生協での取り扱いはあったが、………」(12頁左欄)と述べている。 そして、その図1には、BG無洗米が1991年(平成3年)に100t、1992年(平成4年)に1500t、1993年(平成5年)に4900t生産されたことを示す棒グラフが示されている。 これらの記載によれば、甲第25号証に記載のBG無洗米の米肌の拡大顕微鏡写真は、上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」の米肌の拡大顕微鏡写真と同一であることからして、甲第25号証の「BG無洗米」と上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」とは同一の製品であると解され、「BG無洗米」、すなわち上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」は、平成3年に発売され、平成4年、平成5年と年々生産、販売量が増えていったという事実が認められ、上記新聞広告の「トーヨーの無洗米」が本件特許の出願前に消費者に販売され、公然に知られたものになっていたことは、甲第25号証の記載からも明らかである。 この点について、被請求人は、平成15年3月25日付け上申書において、「上記甲各号証の広告の『トーヨーの無洗米』は、平成6年4月20日竣工の福島県二本松市の無洗米工場にて初めて製造され実用化された。甲各号証の広告は平成5年1月ないし6月に掲載されたものであるところ、平成5年は台風、長雨、冷夏のため、1954年以来の全国的な大不作の年であり、本広告の対象者(米の生産・販売者)は、同年の早くから米の確保に奔走しなければならず、新しい無洗米製造へ取り組む余裕がなかったという事情があった。このため、平成5年1月から先行広告をしたものの、広告掲載から1年以上の相当期間、無洗米製造装置の受注を得られず、甲各号証の広告の無洗米の製造を開始したのは、被請求人自らが設立した、福島県二本松市の無洗米工場(平成6年4月20日竣工)の竣工翌日である、平成6年4月21日であった。このことは、本上申書に添付する無洗米製造工場の設置届け(乙第6号証の1、2)によっても明らかである。」(7頁9行〜23行)と主張する。 しかし、消費者向けの無洗米の広告を米穀新聞及び商経アドバイス紙に頻繁に出しておきながら、実際に広告の製品を販売したのは、広告掲載時から1年以上経過した後であるなどという被請求人の主張は、社会常識に照らして到底信用することはできない。 新聞に自社の製品の広告を頻繁に出しておきながら、広告掲載時から1年以上経過してもその製品を販売しなかったということが起これば、消費者の信頼を裏切り、その企業の社会的信用が失墜することは明らかであり、社会的に責任ある企業がそのような行動をとることは常識では考えられないことである。 被請求人は、この点について納得できる説明を何もしていない。 また、上記甲各号証の広告の『トーヨーの無洗米』は、「平成5年は台風、長雨、冷夏のため、1954年以来の全国的な大不作の年」及び「広告掲載から1年以上の相当期間、無洗米製造装置の受注を得られず」等の理由で、平成6年4月21日まで販売されなかったとの被請求人の主張は、甲第25号証に記載の事実と符合しない。 したがって、乙第6号証の1、2を参酌するも、被請求人の上記主張は採用しない。 (三) 上記(一)及び(二)の認定を踏まえた上で、無効理由2において引用する甲号証の記載内容を検討する。 甲第5号証の2(平成5年1月10日付米穀新聞広告紙面)、甲第5号証の3(同年3月4日付同紙面)、甲第5号証の4(同年6月10日付同紙面)、甲第6号証(平成5年1月11日付商経アドバイス紙広告紙面)、甲第6号証の1(同年1月18日付同紙面)、甲第6号証の2(同年3月4日付同紙面)、及び甲第6号証の3(同年6月7日付同紙面)には、 「Q:無洗米ってたくさんあるわねェ? A:いいえ、ひとつです。無洗米はトーヨーだけです。 何故って?それは「無洗米の3大要件」を備えているのは、トーヨーだけだからです。 ―無洗米の3大要件― 1.同じ原料でも、従来よりおいしいこと。 無洗米は米肌のプラス物質を残こし、マイナス物質を取り去ることが可能な為、従来よりもおいしくなります。従ってそれでこそ「本物の無洗米」と云えるし、それが無洗米の要件となります。トーヨーのはそれを満たしてます。 2.水が濁らないこと。 消費者が今まで洗米していた程度に水が澄んでこそ「本物の無洗米」と云えるし、それが無洗米の要件となります。トーヨーのは写真のように水が澄んでいます。 3.加工時に薬物を使用したり汚泥糠や汚水を排出しないこと。 無洗米は公害を無くすのが目的で生まれたものです。従って無公害に加工出来てこそ「本物の無洗米」と云えるし、それが無洗米の要件となります。それはトーヨーだけです。」 と記載され、広告紙面右側には、米肌の顕微鏡写真(1000倍)がトーヨーの無洗米、普通の精白米及び他社が称する無洗米のそれぞれについて掲載され、その下側に「右はいずれも130c.c.の水に10gの米を入れ40回、撹拌したものです。」と記載され、かかる処理でどの程度水が濁る状態になるかを示す写真がそれぞれ掲載され、これらの写真の右側に「トーヨーの無洗米 上の写真に表われないところにも、おいしさの秘訣があります。水も澄んでいます。」、「普通の精白米 よほどの研ぎ洗いの名人でないと、左上のようになりません。」及び「他社が称する無洗米 消費者はこれを『無洗米』と認めてくれるでしょうか。それよりも食味の点で横を向かれないでしょうか。」とそれぞれ記載され、広告紙面最下欄に「新技術で明日を拓く TOYO 株式会社東洋精米機製作所」と会社名が明記されている。 (なお、様々なサイズの文字でもって広告が掲載されているが、文字サイズをそのままの大きさで表記することは省略して、上記のとおり摘記した。) (四)本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と上記甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載の発明を対比すると、両者は、精白並びに除糠をしてなる精製米の点で一致し、前者は、精白並びに除糠した後の精製米の状態を「精白した米粒表面における複数の縦方向筋状溝部分中の大条溝部分に米組織のセル隔壁表面端が露出し、顕微鏡等の観察によりセル隔壁側面の一部または全部が見える状態」と限定しているのに対して、後者には、この点が具体的に記載されていない点で、両者は相違する。 上記相違点について検討する。 本件特許に係る出願は、平成5年1月1日付米穀新聞広告(甲第5号証)を添付して特許法第30条第1項の規定の適用を申し出た出願である。 本件特許については、審査段階において審査官が甲第5号証の新聞広告の「トーヨーの無洗米」と本件発明の精製米との同一性について疑義を呈する拒絶理由を通知したのに対して、出願人は意見書(甲第7号証)において、 「出願人が『新規性の喪失の例外の適用を受けるための証明書』として提出した新聞に掲載された3枚の写真の内の左端の『トーヨーの無洗米』の写真は、『米肌の顕微鏡写真』、『無洗米』との記載、更には中央の写真に示された『普通の精白米』との比較広告であることから、『精白した米粒表面』の顕微鏡写真であることは明白であり、………〔中略〕………只、この『トーヨーの無洗米』として掲載された米粒表面の顕微鏡写真には、上記要件(A)の『米粒表面における複数の縦方向筋状溝部分中の大条溝部分』であるとの記載はない。しかしながら、米粒表面には、『大条溝や小条溝の複数の縦方向の筋状溝部分がある』ことは周知の事実である。セル隔壁の観察は、摩耗の大きい米粒の凸状部よりも摩耗の小さい凹状部、即ち溝部分の方が適していること、更にその溝部分の中でも大条溝部分がセル隔壁の観察に適していることは容易に理解されることである。従って、この写真が、大条溝部分の顕微鏡写真であることは容易に想定し得るのである。」と述べた上で、 さらに「前記『トーヨーの無洗米』の顕微鏡写真は、本願の図面の『図8』に示された顕微鏡写真と同一であると認められる。この『図8』は『図3』の表面拡大図と同一であることは、セル隔壁の配置からも明らかである。そして、明細書の『図面の簡単な説明』中、『図3』には『大条溝にセル隔壁が表面に露出し、セル隔壁の側面と底面がみえる状態となした本精製米の表面拡大図』との記載がある。よって、出願人が新規性喪失例外適用証明書として提出した新聞の記載は本願発明の精製米を開示したものであることは明らかであり、」と述べている。 本件精製米の大条溝の表面状態を表す本件の図8の顕微鏡写真と、甲第5号証の新聞広告に示される『トーヨーの無洗米』の顕微鏡写真とは、被請求人(出願人)も認めるとおり全く同一であり、しかも、意見書において上記のとおり、甲第5号証の新聞広告に示される『トーヨーの無洗米』の顕微鏡写真は、大条溝部分の顕微鏡写真であることを被請求人(出願人)自ら認めていることからすれば、甲第5号証の新聞広告と掲載内容が全く同一である甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載の『トーヨーの無洗米』の表面の大条溝部分の状態は、本件発明で特定する「精白した米粒表面における複数の縦方向筋状溝部分中の大条溝部分に米組織のセル隔壁表面端が露出し、顕微鏡等の観察によりセル隔壁側面の一部または全部が見える状態」になっていると解するより他になく、上記相違点は両者の実質的な相違点とはいえない。 なお、この点について、被請求人は、答弁書15頁2行〜15行において、平成10年7月21日付意見書(甲第7号証)における「この写真が、大条溝の顕微鏡写真であることは容易に想定しうるのである。」は、出願人が誤認して主張したものである旨主張し、また、平成15年3月25日付上申書において、「『米粒の平坦部ではハニカム構造が鮮明に現れない』ということは客観的に見れば誤りであり、出願前の技術常識を参酌してこれを導出することはできない。従って、甲各号証の左端「トーヨーの無洗米」と称される写真を大条溝部分の写真と解することはできない。」(5頁下から4行〜末行)及び「意見書8頁『セル隔壁の観察は、………溝部分のほうが適していること、更にその溝部分の中でも大条溝部分がセル隔壁の観察に適していることは容易に理解されることである』の記載は、本件出願人としての主観的主張であり、溝部分中の大条溝部分のセル隔壁を観察し特定した立場に基づき、意見書提出時において誤認して主張したものである。」(6頁下から4行〜7頁2行)と主張しているが、これらの主張は、審査段階の意見書における主張と相反する主張であることは明らかであり、登録後になって、本件特許を維持するため、審査段階でした主張をことごとく否定する主張をすることは、著しく信義に反することであり、許されないというべきであり(必要なら、例えば、平成13年(行ケ)第233号 審決取消請求事件判決参照。)、被請求人の上記主張は採用しない。 してみると、本件発明の精製米と上記甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載の「トーヨーの無洗米」とは実質的に同一のものであり、従って、本件発明は、本件特許の出願前に公然知られた発明であり、また、本件特許の出願前に頒布された甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載された発明である。 (五)次に、本件の請求項2に係る発明について検討すると、本件の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の精製米を「顕微鏡等の観察によりセル底面の一部または全部が見える状態に精白並びに除糠をしてなる」と技術的に限定したものである。 本件明細書の「図面の簡単な説明」の項に「図3 大条溝にセル隔壁が表面に露出し、セル隔壁の側面と底面がみえる状態となした本精製米の表面拡大図」と記載されていることを参酌すると、本件明細書に添付の図3は、本件請求項2において特定する精製米の大条溝の表面拡大図であると認められ、また図8に示される隔壁により囲まれたセルの配置、糠成分の残留位置等は図3のそれと一致することからみて、本件の図8は、本件請求項2において特定する精製米の大条溝の顕微鏡写真であると認められる。 そうだとすると、本件の請求項2に係る発明は、上記(一)ないし(四)に記載されたとおりの理由により、本件特許の出願前に公然知られた発明であり、また、本件特許の出願前に頒布された甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載された発明である。 4.むすび 以上のとおりであるから、無効審判請求の他の無効理由1及び無効理由3ないし6を検討するまでもなく、本件請求項1ないし2に係る発明は、本件特許の出願前に公然知られた発明であり、また、本件特許の出願前に頒布された甲第5号証の2ないし甲第6号証の3に記載された発明であるから、当該発明の特許は、特許法第29条第1項第1号または第3号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-06-05 |
結審通知日 | 2003-06-10 |
審決日 | 2003-06-24 |
出願番号 | 特願平5-188702 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
Z
(A23L)
P 1 112・ 111- Z (A23L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 冨士 良宏 |
特許庁審判長 |
田中 久直 |
特許庁審判官 |
種村 慈樹 田村 聖子 |
登録日 | 1999-03-12 |
登録番号 | 特許第2897603号(P2897603) |
発明の名称 | 精製米 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |
代理人 | 辻本 一義 |
代理人 | 窪田 雅也 |
代理人 | 牧野 利秋 |
代理人 | 社本 一夫 |