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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41M
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B41M
管理番号 1096189
異議申立番号 異議2003-70840  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-12-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-31 
確定日 2004-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3329579号「インクジェット記録シート」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3329579号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1. 手続の経緯
特許第3329579号の請求項1〜5に係る発明は、平成6年6月3日に特許出願され、平成14年7月19日にその特許の設定登録がなされ、その後、滝本憲一郎(以下、「申立人1」という。)及び池田慈子(以下、「申立人2」という。)よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年12月19日に訂正請求がなされたものである。

2. 訂正の適否についての判断
2.1 訂正の内容
訂正を請求する事項は、次のa〜rのとおりである。
a.特許請求の範囲の記載を、
「【請求項1】 木材パルプを主体成分とする支持体の片面にインク吸収層が塗設されたコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、該支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものであり、且つ該インク吸収層が、カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体成分とする塗被組成物からなることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】 インク吸収層が設けられた支持体の反対面に、粘着剤層が塗設されてなることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録シート。」と訂正する。
b.特許明細書の段落【0011】(以下、単に段落番号で示す。)の記載を、
「【0011】即ち、本発明のインクジェット記録シートは、木材パルプを主体成分とする支持体の片面にインク吸収層が塗設されたコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、該支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものであり、且つ該インク吸収層が、カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体成分とする塗被組成物からなることを特徴とするものである。」と訂正する。
c.段落【0012】、段落【0013】、段落【0014】を削除する。
d.段落【0018】の記載を、
「【0018】本発明に係るインク吸収層とは、顔料、接着剤、カチオン性化合物を主成分とする塗被組成物からなり、これらに添加剤として、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤等を適宜配合することもできる。」と訂正する。
e.段落【0027】の記載を、
「【0027】本発明のインクジェット記録シートにおいて、単位面積当たりのカチオン荷電量が0.8meq./m2以上となるように支持体に含浸する。好ましくは1.0meq./m2以上となるように支持体へ含浸する。該荷電量が0.8meq./m2未満では、目的を満足する水や手汗の付着によるインクの滲み出しを回避することが難しくなる。」と訂正する。
f.段落【0028】の記載を、
「【0028】支持体にカチオン性化合物或いは該化合物を含む組成物を含浸する装置には、サイズプレス装置をオンマシンで用いる。支持体が抄造された後に連続して含浸するオンマシンの装置であると本発明の目的を確実にする。」と訂正する。
g.段落【0048】の記載を、
「【0048】支持体にカチオン性化合物を直接含浸する場合においては、オフマシンよりもオンマシンが好ましい。これは、支持体が木材パルプを主体成分とするものであり、抄造後に経時的に発現するサイズ性が含浸時の該化合物の分布に影響することに起因するためである。上述の如く、支持体にもインク中の染料成分を捕獲し、定着する機能が必要であることから、該支持体の内部にカチオン性化合物が存在することが望ましく、サイズ性の発現は該化合物の分布を阻害するために、該染料成分の定着を低下させる場合がある。このことから、サイズ性の発現を軽減するために、オンマシンであれば抄造工程と連続に含浸できるために好適である。」と訂正する。
h.段落【0057】の記載を、
「【0057】 参考例3
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いてカチオン性化合物Aが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は5,25meq./m2である。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-0:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が30部、カチオン性化合物Cが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように、実施例1と同じ条件で塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、参考例3のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
i.段落【0058】の記載を、
「【0058】参考例4
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Cが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は2.63meq./m2である。該支持体の表面に実施例1と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、参考例4のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
j.段落【0061】の記載を、
「【0061】参考例7
支持体は参考例4と同様の組成物、条件で含浸させ、該支持体の表面に実施例6と同じ塗被組成物を、同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い参考例7のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
k.段落【0068】の記載を、
「【0068】実施例、参考例及び比較例の評価結果を表2に示す。尚、表2中の特性項目は以下の方法で評価した。」と訂正する。
l.段落【0072】の【表2】中に記載された、実施例3、実施例4、実施例7をそれぞれ、参考例3、参考例4、参考例7と訂正する。
m.段落【0062】の記載を、
「【0062】比較例1
支持体の表面に、オフマシンのゲートロールコー夕を用いて、カチオン性化合物Eが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度10%の組成物を5g/m2塗工した。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は1.00meq./m2である。該支持体の表面に実施例1と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例1のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
n.段落【0063】の記載を、
「【0063】比較例2
支持体の表面に、オンマシンのサイズプレス装置を用いて、固形分濃度5%のカチオン性化合物Dを30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりの力チオン荷電量は8.25meq./m2である。該支持体の表面に実施例2と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例2のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
o.段落【0064】の記載を、
「【0064】比較例3
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Eが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は3.00meq./m2である。該支持体の表面に実施例3と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例3のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
p.段落【0065】の記載を、
「【0065】比較例4
支持体は比較例3と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該支持体の表面に実施例6と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例4のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
q.段落【0066】の記載を、
「【0066】比較例5
支持体にはカチオン性化合物を塗工或いは含浸せず、該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該支持体の表面に実施例3と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例5のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。
r.段落【0067】の記載を、
「【0067】比較例6
支持体は参考例4と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。インク受理層の塗被組成物は、カチオン性化合物を適用しない以外は、実施例1と同じとして、実施例1と同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例6のインクジェット記録シートを得た。」と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明を特定する事項である「支持体に含浸されるカチオン性化合物」について、「その付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたもの」に限定し、同じく発明を特定する事項である「インク吸収層」について、「カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体とする塗被組成物からなる」ものに限定するとともに、請求項2〜4を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項b〜lは、それぞれ上記訂正事項aの訂正と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
上記訂正m〜rは、審査段階における補正の際に、補正箇所に合わせて補正すべきことが明らかな部分を見落としていた箇所を手当するためのものと認められるから、明りょうでない記載の釈明ないし誤記の訂正を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2.3 訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3. 特許異議の申立てについての判断
3.1 申立ての理由の概要及び当審での取消理由通知
申立人1は、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証(特開昭61-134291号公報)、甲第2号証(特開昭61-72581号公報)、甲第3号証(特開昭63-115780号公報)、甲第4号証(紙パルプ技術協会編集「紙パルプ技術便覧」紙パルプ技術協会(平成元年2月15日、1982年版(2刷)発行)、264頁〜265頁)、甲第5号証(実開平1-137263号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべき旨主張する。
申立人2は、訂正前の請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証(特開昭64-75281号公報)又は甲第2号証(特開平2-562号公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであること、及び、同じく請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証(特開昭64-8085号公報)、甲第4号証(太田徳也外監修「インクジェット記録技術」株式会社トリケップス(平成元年8月15日発行)、161頁〜169頁)、甲第5号証(村橋俊介外編集「合成高分子I」株式会社朝倉書店(昭和50年3月30日、3版発行)、14頁〜16頁)、甲第6号証(特開平4-311786号公報)、甲第7号証(「記録技術マニュアル」株式会社トリケップス(昭和56年1月30日発行)、II-4-1頁〜II-4-10頁)、甲第8号証(紙パルプ技術協会編「紙パルプ事典」金原出版株式会社(平成元年9月20日、第5版第1刷発行)、Mの項の第1頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることをもって、特許を取り消すべき旨主張する。
当審における最初の取消理由通知は、申立人1、2の申立と同旨の理由と合わせて、訂正前の請求項1に係る発明は、申立人1の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないこと、及び、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、申立人1の提出した甲第1〜5号証及び申立人2の提出した甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものであり、2回目の取消理由通知は、訂正前の請求項1には、「含浸」と記載されているが、一般的な「含浸」には、支持体を浸漬する、支持体に塗布する等々、各種の方法が包含されるものであるところ、本件発明における「含浸」は、明細書の【0028】、実施例等の記載によれば、サイズプレス装置を用いて支持体表面に適用することを意図するのみであるから、請求項1に記載された「含浸」は、明細書に開示された本件発明の内容を的確に表しておらず、不明瞭な記載であること、また、詳細な説明の記載からすると、本件発明の効果を奏するためには、請求項1に記載の構成では不十分であり、少なくとも請求項1〜請求項4に記載する構成をすべて備えた上にさらに「サイズプレス装置」を用いることが必要と認められるが、特許請求の範囲に記載された各請求項には、そのような構成が記載されていないこと、また、本件明細書には、インク吸収層に使用したカチオン性化合物について、比較例の文章中の記載と表2中の記載とが異なっていたり、特に比較例4では、存在しない「実施例8」を引用する記載になっているなど、矛盾した記載が存在する点で、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないことを理由として、取消理由を通知した。

3.2 本件の請求項1、2に係る発明
上記2.で示したように訂正が認められるから、本件の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】 木材パルプを主体成分とする支持体の片面にインク吸収層が塗設されたコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、該支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものであり、且つ該インク吸収層が、カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体成分とする塗被組成物からなることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】 インク吸収層が設けられた支持体の反対面に、粘着剤層が塗設されてなることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録シート。」

3.3 各証拠に記載された発明
(申立人1提出分)
甲第1号証には、
・「紙中及び/又は塗工層中に、カチオン性基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含有してなることを特徴とするインクジェット記録用紙。」(特許請求の範囲第1項)、
・特に解像度が高く、かつ高度に耐水性のある記録画像を形成するインクジェット記録用紙であること(2頁左上欄18〜20行)、
・カチオン性化合物(カチオン性基を有するPVA系樹脂)をインクジェット記録用紙中に含有する方法として、サイズプレスにより、表面に塗布あるいは含浸させる方法(3頁右下欄19行〜4頁左上欄9行)、
が記載されている。
甲第2号証には、
・「本発明に用いる被記録材は、塗工液にポリアリルアミン塩を添加し、この塗工液を基材上に塗付し、乾燥させることによって製造される。この場合の塗工液の他の成分としては、従来公知の徴粉ケイ酸、クレー、タルク、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、サチンホワイト、ケイ酸アルミニウム、リトポン等の無機質顔料類:デンプン、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ソーダ等の水溶性高分子:合成ゴムラテックス等の合成樹脂ラテックス:ポリビニルブチラール、ポリビニルクロライド等の有機溶剤可溶樹脂:更には分散剤、蛍光染料、PH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤の各種添加剤を挙げることができる。」(3頁右上欄17行〜左下欄15行)、
・重量平均分子量が10000のポリアリルアミン塩を浸潰して含有する被記録材(5頁左下欄12行〜右下欄1行:実施例2)、
が記載されている。
甲第3号証には、
・シリカとポリビニルアルコール100重量部に対し、カチオン性化合物を1、3、5、10、30、50重量部それぞれ添加し記録シートを製造したこと(8頁左下欄8行〜17行、実施例6)、
・上記シートの評価結果(9頁表2、実施例6の評価結果)、
が記載されている。
甲第4号証には、
・サイズプレス装置がオンマシンで用いられること(264頁)、
・オンマシンのサイズプレス装置の概略図(265頁)、
が記載されている。
甲第5号証には、
・紙の表面へ顔料と高分子系結合剤主体のインキジェット記録適性を有する塗被層を設け、紙の裏面へ鉱物質顔料と高分子系結合剤とから主として成るバリアー層を設け、更に、サーマル・ディレード・タック層を設けたタックシート(実用新案登録請求の範囲(1)(2))、
が記載されている。

(申立人2提出分)
甲第1号証には、
・「1.アクリルアミドとジアリルジメチルアンモニウムクロライドとを主要なモノマー単位とする共重合体を含むことを特徴とする、インクジェット用記録シート。
2.該共重合体を基紙中に含む特許請求の範囲第1項記載のインクジェット用記録シート。
3.該共重合体を、基紙の少くとも片面に設けた顔料塗工層中に含む特許請求の範囲第1項記載のインクジェット用記録シート。」(特許請求の範囲)
・「本発明で、耐水化剤として使用するアクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体は次の構造式を有する共重合体である。
・・(略)・・」(2頁右下欄)、
・「本発明において、アクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体を含ませるにあたっては、基紙本体中に抄紙の際添加してもよく、基紙表面に設ける塗工層中に含有させてもよく、又、基紙のサイズ処理の際に添加してもよい。もちろんこれらを併用した形で基紙、塗工層、表面サイズ層のそれぞれに含有させることも可能である。」(3頁左上欄下から6行〜右上欄2行)、
・「本発明の記録用紙は、通常の方法で製造することができる。基紙製造のためのパルプは天然の木材から蒸解して製造したパルプに漂白処理を行なって製造した晒し木材パルブが好ましいが、白色度の高い合成高分子繊維、合成パルプなどの1種又は2種以上を混合して用いることもできる。」(3頁右上欄10〜15行)、
・「実施例 1
填料としてカルサイト系軽質炭酸カルシウム(アルバグロス ファイザー社)を15重量%含む、坪量65g/m2で、白色度92%、ステキヒトサイズ度が15秒の上質紙を基紙として、塗料-1の塗工層を12g/m2の割合で塗工、乾燥しスーパーカレンダーで平滑化処理を行ってインクジェット記録用シートを作成した。ベック平滑度は110秒であった。
塗料-1
顔料 微粒子シリ力(ファインシール 徳山曹達) 100部
バインダー ポリビニルアルコール
(R-2105 クラレ) 10部
(PW-105 クラレ) 50部
アクリルアミド(80モル%)・ジアリルジメチルアンモニウムクロライ ド(20モル%)共重合体(PAS‐J‐41 日東紡) 20部
分散剤 ポリアクリル酸ソーダ 1部
実施例 2
実施例1と同一の基紙に、塗料-2を同一の方法で2g/m2の割合で塗工、乾燥しマシンカレンダーで平滑化処理を行って顔料塗工層を持たないインクジェット記録用紙を作成した。べツク平滑度は、55秒であった。
塗料-2
ポリビニルアルコール(PVA‐217 クラレ) 100部
アクリルアミド(50モル%)・ジアリルジメチルアンモニウムクロライ ド(50モル%)共重合体(PAS‐J‐11 日東紡) 20部」(4頁左上欄11行〜左下欄7行及び6頁左下欄)、
・「[発明の効果]
本発明の、水性インク記録用紙は水性インクによる画像に耐水性を付与し、かつインクジェットプリンターでのインク吸収性、ドット形状のいずれもが優秀なものであり、従来法の欠点を解消した、高解像度のインクジェット・フルカラー・プリンターを可能ならしめるものである。」(5頁右下欄下から5行〜6頁左上欄1行)、
と記載されている。
甲第2号証には、
・「1.ビニルまたはイソプロペニルベンジル第四級アンモニウム塩単量体(A)、スチレン系単量体(B)及び必要によりこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(C)の水溶性共重合体からなることを特徴とするインクジェット記録紙用薬剤。
2.(A)の少なくとも一部が一般式
・・(略)・・
で示される単位を含む単量体である特許請求の範囲第1項記載の薬剤。」(特許請求の範囲)、
・「本発明における水溶性共重合体の数平均分子量は通常1,000〜100,000であり、好ましくは3,000〜80,000、とくに好ましくは5,000〜50,000である。分子量が1,000未満であれば成膜性に乏しく、また100,000より大きいと粘度が高くなり過ぎ塗工性が乏しくなる。」(4頁左下欄16行〜右下欄1行)、
・「本発明の薬剤が用いられるインクジェット記録紙の基材としては紙が代表的であるが布、樹脂、フィルム、合成紙なども使用できる。」(5頁左上欄10〜12行)、
・「本発明の薬剤を含むインクジェット記録紙の製造法としては(1)基材中に本発明における水溶性共重合体を含有させる方法たとえば (1)本発明における水溶性共重合体を含む含浸液に基材を浸債する方法(後処理法)および (2)抄紙工程において本発明における水溶性共重合体の水溶液を使用して製紙する方法(内填法)ならびに(2)基材上の塗工層中に本発明における水溶性共重合体を含有させる方法たとえば共重合体を含有させた基材中に塗布し、乾燥させる方法があげられる。」(5頁左上欄13行〜右上欄2行)
・「(2)の塗工液には一般に無機質顔料類(微粉ケイ酸、クレー、タルク、ケイソウ土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン白、ケイ酸アルミニウム、リトポンなど)、水溶性高分子(デンプン、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなど)、合成樹脂ラテックス(合成ゴムラテックスなど)、有機溶剤可溶性樹脂(ポリビニルブラチールなど)、分散型蛍光塗料、PH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤などを含有していてもよい。」(5頁右上欄10〜20行)、
・「また、水溶性共重合体は親水性単量体と疎水性単量体よりなり、染料に対して優れた親和性を有し、印字されたインク中の染料と瞬時に結合、固着し、染料の耐水性を向上させるものである。」(8頁左上欄14〜17行)
と記載されている。
甲第3号証には、
・「1)基材中又は基材上に設けた塗工層に、式〔1〕で表され、実質的に(メタ)アクリル酸モノマー単位を含まない力チオン性ポリマー又はその塩を含有することを特徴とする被記録材。
・・(略)・・」(特許請求の範囲)、
・「〈発明の効果〉
上述のようにして得られる本発明の被記録材は、インクが速やかにその内部に吸収され、インクの固着が遠く、鮮明な画像を与える。又得られた画像は、耐水性、耐光性に優れ、インクジェット記録用の被記録材として好適なものである。」(4頁左下欄12〜18行)、
・「〈実施例〉
以下実施例により詳細に説明する。
参考例-1
N-ビニルアセトアミド13.62g(0.16mol)を・・(略)・・行う。得られたポリマーは、PH3でのカチオン当量10.2meq/g、重量平均分子量8万を有するポリマーであった。
参考例-2
参考例-1において、加水分解時間を12時間とした以外は、同一にして反応を行った。得られたポリマーはPH3でのカチオン当量21.2meq/g、重量平均分子量8万を有するポリマーであった。
参考例-3
参考例-1において、N-ビニルアセトアミド13.62g(0.16mol)の代わりに、N-ビニルアセトアミド11.07g(0.13mol)と酢酸ビニル2.58g(0.03mol)を使用した以外は、同一にして反応を行った。得られたポリマーは、PH3でのカチオン当量17.7meq/g、重量平均分子量8万を有するポリマーであった。
実施例-1
参考例-1で得たカチオン性ポリマーを用い、下記組成にて塗工用組成物を作成した。
微粉ケイ酸 100部
ポリビニルアルコール 50部
10%カチオン性ポリマー 40部
水 590部
基材としてステキヒトサイズ度が10秒の一般上質紙(坪量55g/m2)を使用し、この基材上に、上記塗工用組成物を乾燥塗工量が10g/m2となるようにワイヤーロッドにより塗工し、120℃で2分間乾燥させ、さらに熱プレス機で110℃で1分間熱処理し、被記録材を得た。」(4頁左下欄19行〜5頁右上欄5行)、
「実施例-2、3
カチオン性ポリマーとして参考例-2及び参考例-3で得たものをそれぞれ用いる以外は、実施例-1と同様にして被記録材を作成した。」(5頁右上欄17〜20行)、
「実施例-4〜6
実施例-1〜3で用いたカチオン性ポリマーを用い、その1.0%水溶液を作成し、これにステキヒトサイズ度が0秒の一般上質紙(坪量60g/m2)を浸潰し、乾燥して、基材に対し約0.8重量%のカチオン性ポリマーを含浸させた被記録材を得た。」(5頁左下欄16行〜右下欄2行)、
ことが記載されている。
甲第4号証には、
・「第11章インクジェットプリンタ用紙」の「3.3.1 抄紙用素材」の項に、「(5)その他の素材………カチオン性樹脂やその他の合成樹脂など。」(168頁3行)、
・「第11章インクジェットプリンタ用紙」の「3.3.2 塗工用素材」
の項に、「(3)画像耐水化剤………3級、4級のアンモニウム塩型のカチオン性樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミンなど。」(168頁21〜22行)、
と記載されている。
甲第5号証には、
・「1.1.6 分子量分布と平均分子量」の項に、「平均を分子数でもってするか、重量に重点をおくかなどによって、数平均分子量(number average mol.wt.)、重量平均(weight average mol.wt.)となり、」(14頁13〜14行)、
・「高分子物質が均一の分子量を持つ場合Mn=Mw=Mzであり、不均一なものほど差は大きくなる。」(15頁1〜2行)、
「不均一な場合MwはMnより常に大でMw/Mn>1の関係にある。」(14頁下から2行)、
と記載されている。
甲第6号証には、
・「【請求項1】 剥離シート、粘着剤層、表面基材を積層してなる粘着シートにおいて、表面基材が、力チオン性高分子樹脂を主成分とし、助剤として力チオン性表面サイズ剤を0.003〜0.2重量%含んだ塗液を基紙に塗布したものであり、且つ剥離シートの剥離剤層表面とクロロプレンゴム(ショアーA硬度:65±2°)との動摩擦係数(JIS P 8147に準ずる)が0.2以上であることを特徴とする粘着シート。」(特許請求の範囲)、
・「【産業上の利用分野】本発明は、粘着シートに関し、特にインクジェット記録適性に優れると同時に筆記適性やラベル適性の改善された粘着シートに関する。」(【0001】)、
・「【0028】 実施例1
「表面基材の製造」フリーネス500ccのNBKP20部及びLBKP80部のパルプスラリーに対パルプ当り、タルク5部,ロジンエマルジョンサイズ0.2部,硫酸バンド2部を添加した紙料を長網抄紙機で米坪64g/m2となるように抄紙して基紙を得た。この基紙に、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂と酸化澱粉(4:1)及びカチオン性アミド系表面サイズ剤0.0 5重量%を含む3%塗液を塗布量が40g/m2になるようにサイズプレスで塗布乾燥し、マシンキャレンダ-処理して、紙水分6.5%の表面基材を得た。」(【0028】)、
ことが記載されている。
甲第7号証には、
・「第4章インクジェット用紙」の「3.2.3 抄造、サイズプレス、コーティング」(II-4-7頁)の項に、「第2図 長網抄紙機」が示され、「典型的な長網抄紙機の構造を第2図に示す。」(同頁7行)との説明が付され、この第2図には、長網抄紙機内で、サイズプレス、キャレンダ等の処理が行われることが記載されている。
・「ドライヤーの中間位置にあるサイズプレスは、隣接した2本のロールの間にでんぷん等の溶液を貯め、ほぼ完成された紙を通して軽い含浸処理を行う装置である。」(同頁13〜14行)、
と記載されている。
甲第8号証には、
・「製紙工場では抄紙機のことをいう。=paper machine」(「machine 抄紙機、マシン」の項)、
・「抄紙機付属のカレンダーで光沢を付ける仕上げ方。super finishに対応する語。」(「machine finish マシン仕上げ」の項)、
・「抄紙時にマシン付属のカレンダーで光沢を付けた紙。」(「machine finished paper マシン仕上げ紙」の項)、
と記載されている。

3.4 当審の判断
3.4.1 特許法第29条第1項第3号について
本件発明1と、申立人1の甲第1号証及び申立人2の甲第1、2号証の各引用刊行物に記載された発明とを対比すると、各引用刊行物には、支持体とその上に塗設されたインク吸収層を有するコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、支持体とインク吸収層との双方にカチオン性化合物を含有させ、支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものとすることが記載されていない。
したがって、本件発明1は、申立人1の甲第1号証、申立人2の甲第1、2号証に記載された発明とは認められない。
本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。

3.4.2 特許法第29条第2項について
本件発明1と、申立人1の甲第1号証、申立人2の甲第1、2号証の各引用刊行物に記載された発明とを対比すると、それら各引用刊行物には、少なくとも、上記の判断3.4.1に記載した事項が記載されていない点で、本件発明1と相違する。
相違点について検討する。
申立人1の甲第2〜5号証、申立人2の甲第3〜8号証のいずれにも、支持体とその上に塗設されたインク吸収層を有するコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、支持体とインク吸収層との双方にカチオン性化合物を含有させ、支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものとすることは記載されていないし、示唆もされていない。
そして、本件発明1は、訂正後の請求項1に記載された特定事項により、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は提出された各甲号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2についても同様である。

3.4.3 特許法第36条について
上記の訂正事項a〜rにより、明細書の記載不備は解消した。

4. むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1、2に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 木材パルプを主体成分とする支持体の片面にインク吸収層が塗設されたコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、該支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものであり、且つ該インク吸収層が、カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体成分とする塗被組成物からなることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】 インク吸収層が設けられた支持体の反対面に、粘着剤層が塗設されてなることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録シート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、インクジェット記録シートに関するものであり、更に詳しくは、インク吸収性を確保し、水や手汗の付着により生じる印字部のインク滲みを防止したフルカラーインクジェット記録に適したインクジェット記録シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、種々の作動原理によりインクの微小液滴を飛翔させて紙等の記録シートに付着させ、画像・文字等の記録を行なうものであるが、高速、低騒音、多色化が容易、記録パターンの融通性が大きい、現像-定着が不要等の特徴があり、漢字を含め各種図形及びカラー画像等の記録装置として種々の用途に於いて急速に普及している。更に、多色インクジェット方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷やカラー写真方式による印画に比較して、遜色のない記録を得ることが可能である。又、作成部数が少なくて済む用途に於いては、写真技術によるよりも安価であることからフルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。
【0003】
インクジェット記録方式に適用される記録シートには、平版印刷、凸版印刷、グラビア印刷等に使用される上質紙やコート紙が挙げられ、これらを使用してインクジェット記録装置やインク組成の面から良好な画質を得る方法が検討されてきた。しかし、インクジェット記録の高速化、要求される画像の高品位化、用途の拡大等により、これらの要求を満足するためには、該記録装置やインク組成からの対応だけでは困難となってきている。
【0004】
記録シートに要求される特性としては、以下の項目が一例として挙げられる。
1.インクジェット記録の高速化:インク吸収性が早いこと。インク吸収性が低下すると印字部以外にインクが拡散し、ドット径の肥大に伴う鮮鋭性の低下や地汚れと呼ばれるインクによる白紙部分の汚染が生じる。さらにこの現象はインクが重なる部分では顕著となる。
2.画像の高品位化:印字ドットが拡散しないこと。ドット径は記録装置にも依存するが、インクが記録シートに着弾した後に拡散すると色彩性や鮮鋭性が低下し、ぼけた画像となる。
3.用途の拡大:経時で画質の変化がないこと。使用される環境の影響を受けないこと。例えば、耐光性、耐水性、耐オゾン性に優れていることが挙げられる。
【0005】
このような要求に対して、従来からいくつかの提案が行われてきた。インク吸収性向上や印字ドットの拡散防止に対しては支持体上にインク吸収層を設ける方法(特開昭52-9074号公報、同58-72495号公報等)、インク吸収層中におけるインク中の染料成分の分布状態が色彩性や鮮鋭性に影響することに着目して、染料成分を吸着する特定の剤を用いる方法(特開昭55-144172号公報)が示されている。又、耐光性、耐水性、耐オゾン性を向上させるために、塩基性オリゴマーを含有させること(特開昭60-11389号公報)、基材中又は基材上の塗工層にポリビニルアミン共重合物を用いること(特開昭64-8085号公報)等が示されている。
【0006】
しかしながら、これらの特性に対する要求は次第に高度になり、厳しくなる一方で、インクジェット記録装置が安価でしかも鮮鋭性や色彩性といった画像再現性や色再現性に優れた画像をパーソナルコンピューターレベルで簡単に得ることができることから、インクジェット記録装置は、特定の人に使用される特殊な記録装置から汎用の記録装置に変遷してきており、又、得られる画像も印刷物や写真と区別つき難いことから、インクジェット記録方法が抱えるインク吸収性、耐光性、耐水性、耐オゾン性等の問題を解消することが出来なくなっている。従って、これらの特性を確保することがインクジェット記録装置やインクジェット記録シートの必須条件となっているのが現状である。
【0007】
更に、用途の多様化に伴って、ポスターやPOPアートに使用されたり、裏面に粘着剤層を設けて、価格表示用ラベル、商品表示(バーコード)用ラベル、品質表示用ラベル、計量表示用ラベル、広告宣伝用ラベル(ステッカー)等のラベル用途、広い範囲の被着体に良く接着し、貼り付け作業が簡単なため、他面に粘着層を介して感熱特性、磁気特性、オフセット印刷適性を有するシート等と貼り合わせて複合した機能を付加させることも可能となることから、切符、定期券、各種カード等への応用も広がりつつある。
【0008】
インクは、溶剤タイプと水性タイプに分類されるが、価格、安全性、取り扱いの容易性等から水性インクが多く、特にこのような用途の多様化により、水性インクが抱える印字面に水が付着した際に発生するインクの滲みだしの防止が重要な課題となっている。しかし、この課題に対する取り組みは十分に行われていないのが現状であり、インク吸収体としての機能を有する木材パルプを主体成分とする支持体をインクジェット記録シートの媒体とする該記録シートにおいては、更に重要且つ早期に解決しなければならない課題となっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
かかる現状に鑑み、本発明の目的は、水性インクを用いて記録されるインクジェット記録シートにおいて、インク吸収性を確保し、水や手汗の付着により生じる印字部のインク滲みを防止したインクジェット記録シートを得ることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、インクジェット記録シートについて種々の研究を重ねた結果、色彩性や鮮鋭性は支持体上に塗層を設けたコートタイプのインクジェット記録シートとすることにより、要求に見合った色彩性や鮮鋭性は得られるが、近年、要求レベルの高まった水や手汗の付着によるインク滲みの発生は回避できず、支持体と塗層の両方から対応する必要のあること、特に支持体に特定のカチオン性化合物を適用することが不可欠であることを見い出した。
【0011】
即ち、本発明のインクジェット記録シートは、木材パルプを主体成分とする支持体の片面にインク吸収層が塗設されたコートタイプのインクジェット記録シートにおいて、該支持体が数平均分子量10万以下のカチオン性化合物をその付着量が0.8meq./m2以上となるようにオンマシンのサイズプレス装置を用いて含浸されたものであり、且つ該インク吸収層が、カチオン性化合物、顔料並びに接着剤を主体成分とする塗被組成物からなることを特徴とするものである。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
本発明のインクジェット記録シートにおいて、インク吸収層が設けられた支持体の反対面に、粘着剤層が塗設することで、ラベル或はタグ用途のインクジェット記録シートとしての特徴を有するものである。
【0016】
本発明に係る支持体とは、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ、等の木材パルプを主成分として、従来公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤ抄紙機等の各種装置で製造された原紙である。このような原紙に、そのままインク吸収層を設けても良いし、平坦化をコントロールする目的で、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用しても良い。
【0017】
支持体には、顔料が5重量%以上、好ましくは5〜36重量%含まれていると木材パルプと顔料が作る空隙がインクを吸収するので、インク吸収層を多量に塗る必要がなくなる。又、支持体の坪量は、一般には40〜300g/m2であるが、特に制限されるのもではなく、用途に合わせて適宜選択すればよい。
【0018】
本発明に係るインク吸収層とは、顔料、接着剤、カチオン性化合物を主成分とする塗被組成物からなり、これらに添加剤として、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤等を適宜配合することもできる。
【0019】
本発明に係るカチオン性化合物とは、水媒体中でカチオンに解離するものを云い、典型的なカチオン性基としては、1級、2級、3級アミノ基、4級アンモニウム塩が挙げられる。このようなカチオン性化合物であればいかなるものも適用することができ、その種類は特に限定されるものではないが、支持体に適用するカチオン性化合物としては、数平均分子量が10万以下であるものを選択する必要がある。ここで、カチオン性化合物の分子量が10万を超えて大きいと、乾燥後に形成する皮膜が支持体の有するインク吸収容量を低下させるために、インク溢れを生じる原因ともなることから、支持体に適用するカチオン性化合物の数平均分子量としては10万以下のものに限定される。
【0020】
又、支持体或いはインク吸収層に適用されるカチオン性化合物としては,モノマー、オリゴマー、ポリマーのいづれも適用でき、ポリマーとしては、ポリアルキレンポリアミド;ポリアルキレンポリ尿素;ポリアミドポリ尿素;ポリアミノエポキシ樹脂;或いはこれらとアルデヒドとの反応生成物やアルキル化剤との反応生成物;エチレンイミンの開環重合物;カチオン性ビニルポリマーの単独重合物或いは他の重合性モノマーとの共重合物;N-ビニルアミド系モノマーの単独重合物或いは他の重合性モノマーとの共重合物;活性水素を有するポリマーに、アンモニア、1級アミン、2級アミンとホルムアルデヒドを反応させたマンニッヒ反応物;活性水素を有するポリマーとカチオン化剤との反応物;活性水素を有するポリマーとアンモニア、アミン類、エピハロヒドリンとの反応物;キチンを加水分解したキトサン;活性水素を有するポリマーと上述のポリマーのいづれかを、アルデヒド、エピハロヒドリン、ポリイソシアネート等の架橋剤を用いて反応させた共重合物等が例示できる。なお、支持体には、上述したカチオン性化合物の内でも、数平均分子量を基準に該当するカチオン性化合物を適宜適用することものである。
【0021】
支持体及びインク吸収層に用いられる顔料としては、公知の白色顔料を1種以上用いることができる。例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サテンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等を用いることができる。上述の顔料の中でも多孔性無機顔料が好ましく、多孔性非晶質合成シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナが挙げられ、特に多孔容積の大きい多孔性合成非晶質シリカが好ましい。
【0022】
又、インク吸収層が支持体上に2層以上設けることもできるし、印字される面はマット調、アート・コート調、キャスト調、フィルム調等の要求に合わせた選択を行うことも制限されない。
【0023】
更に、インク吸収層を支持体の両面に塗設することも可能であり、インク吸収層が塗設された支持体の反対面にカール適性や筆記性を確保するためにバックコート層を塗設しても構わない。又、粘着層を介して感熱特性、磁気特性、オフセット印刷適性を有するシート等と貼り合わせて複合した機能を付加させて、切符、定期券、各種カード等への応用も可能である。
【0024】
支持体及びインク吸収層には、接着剤としてポリビニルアルコール、酢酸ビニル、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、シリル変性ポリビニルアルコール等;無水マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体、アクリル酸及びメタクリル酸の重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;或はこれらの各種重合体のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂系等の水性接着剤;ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0025】
支持体に含浸するカチオン性化合物は、数平均分子量が10万以下のものに限られ、該化合物が固形の場合は水中で溶解させ使用する。該化合物は、単独で含浸することも可能であり、上述の顔料、接着剤と併用した組成物を含浸することも可能である。支持体の深さ方向に該化合物を分布させることにより、本発明の効果は確実となることから、該化合物の支持体への付与には含浸を用いる。
【0026】
カチオン性化合物を支持体へ含浸させる量としては、該支持体おける単位面積当たりのカチオン荷電量を基準に決定することが好ましい。ここで、カチオン荷電量とは、コロイド滴定により測定される該化合物が有する単位重量当たりのカチオン荷電量(meq./g)と該化合物の単位面積当たりの付着量(g/m2)の積(meq./m2)である。
【0027】
本発明のインクジェット記録シートにおいて、単位面積当たりのカチオン荷電量が0.8meq./m2以上となるように支持体に含浸する。好ましくは1.0meq./m2以上となるように支持体へ含浸する。該荷電量が0.8meq./m2未満では、目的を満足する水や手汗の付着によるインクの滲み出しを回避することが難しくなる。
【0028】
支持体にカチオン性化合物或いは該化合物を含む組成物を含浸する装置には、サイズプレス装置をオンマシンで用いる。支持体が抄造された後に連続して含浸するオンマシンの装置であると本発明の目的を確実にする。
【0029】
支持体上に塗設されるインク吸収層は、上述の顔料、接着剤、カチオン性化合物を主体成分とする組成物を塗設することにより、空隙が確保されインクを吸収したり定着させやすくなるので好ましい。該インク吸収層の塗設量としては、該インク吸収層の単位面積当たりのカチオン荷電量を基準に決定することが好ましい。単位面積当たりのカチオン荷電量が0.2meq./m2以上、好ましくは0.7meq./m2以上となるように支持体上に塗設することが好ましい。該荷電量が0.2meq./m2未満では目的を満足する水や手汗の付着によるインクの滲み出しを回避することが難しくなる。
【0030】
インク吸収層を塗設する装置としては、各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドブレードコータ、カーテンコータ、ショートドウェルコータ、サイズプレス、スプレー等の各種装置をオンマシン或はオフマシンで用いることができる。又、インク吸収層を塗設した後には、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げても良い。
【0031】
インクジェット記録シートの用途拡大に伴い、特にインク吸収層が塗設された支持体の反対面に粘着剤層を設けたタックシートとしての使用が拡大している。該タックシートにおいては、使用される環境が多岐にわたり、冷食用価格表示タックシートでは表面での水の露結、物流管理用では室外で使用されタックシート表面への雨・雪の付着、運搬時の手汗の付着等、印字部への水の付着によるインク滲み出しが生じる機会が、従来のインクジェット記録シートの使用環境と比較して多くなる。このようなことから、タックシート用途においては、水や手汗の付着によるインクの滲み出しに対する要求レベルが高く、本発明のインクジェット記録シートによって、この要求を満足することが可能となる。
【0032】
本発明に係る粘着剤層は、以下に述べる剥離紙の剥離剤塗布面に粘着剤を設け、粘着剤面とインク受理シートのインク吸収層が塗設されていない面を重ねて、プレスロール等で圧着する方法が一般に行われるが、該受理シート裏面に粘着剤を先に塗布して、剥離紙と貼り合わせても良い。該粘着剤には、ゴム系又はアクリル樹脂系の粘着剤を用いることができる。ゴム系の主原料は天然ゴム又はスチレン・ブタジエンラバーであり、天然ゴムでは、ロジン系樹脂や可塑剤なとが添加され、通常ノルマルヘキサンを溶媒として塗工する。又、スチレン・ブタジエンラバーを主原料とした場合は溶融して塗工する。アクリル樹脂系においては、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、アクリル酸、β-ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル系モノマーを重合して作る。重合の方法により、酢酸エチルやトルエン等の有機溶媒を用いたり、界面活性剤を用いて水中で乳化させながら重合したエマルジョンタイプを用いることができる。
【0033】
又、粘着剤の耐熱性や耐溶剤性等の物性を向上させるために、上記原料に、イソシアネート系、メラミン系、金属キレート系等の架橋剤を用いて架橋反応させても良いし、シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、メラミン樹脂粒子、澱粉粒子等の顔料を添加したり、水溶性高分子、石油系樹脂、各種パラフィンワックス、脂肪酸又はその誘導体、高級アルコール類、金属石鹸類、シリコーン類、さらには帯電防止剤、増粘剤、分散剤、防腐剤、酸化防止剤、消泡剤等を添加しても良い。これらの粘着剤は、ラベル用インクジェット記録シートの使用される用途に合わせた選択をすれば良い。
【0034】
粘着剤を設ける装置には、エアーナイフコータ、ブレードコータ、バーコータ、ロールコータの他、スロットノズル、スロットダイ、ロータリースクリーンプリンタ、グラビアコータ、オフセットグラビアコータ、ホットメルトホイール、スパイラルスプレー等があり、粘着剤の種類及び塗布量、塗布した粘着剤にパターンを付与する必要性等、用途に合った選択を適宜行えば良い。
【0035】
又、剥離紙の基材としては、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、プラスチックフィルム等があり、これらの基材上に剥離剤として、シリコーン樹脂を塗布する。紙系基材の場合には、基材に熱可塑性樹脂をラミネートし、平滑な面を得た方が剥離性が向上する。シリコーン樹脂を紙系基材に直接塗布したものはダイレクトタイプ、紙基材上に熱可塑性樹脂をラミネートした後に塗布したものはポリラミタイプ、プラスチックフィルム上に直接塗布したものはフィルムタイプと呼ばれ、それぞれの中から剥離紙として選択する基準は、インクジェット記録装置内で、剥離紙が搬送途中で剥がれることのない接着力を有すること、自動ラベラーによる貼り付け時に、該ラベラーの剥離力以下の接着力であることにある。従って、用途にあった剥離紙の選択をすれば良く、さらに、カール適性の確保が必要な場合には、シリコーン樹脂を塗布した基材の反対面に裏面処理として、熱可塑性樹脂をラミネートしたり、合成樹脂をコーティングすることが好ましい。又、特殊な用途には、非シリコーン系の剥離剤を使用しても構わない。
【0036】
本発明で云う水性インクとは、着色剤、液媒体、その他の添加剤からなる記録液体である。
【0037】
着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料或は食品用色素等の水溶性染料が挙げられる。
【0038】
又、水性インクを飛翔させる方法は、ピエゾ方式、バブル方式等に制限されるものではない。
【0039】
水性インクの溶媒としては、水及び水溶性の各種有機溶剤、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個のアルキレングリコール類;グリセリン、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましい。その他の添加剤としては、例えば、pH調節剤、金属封鎖剤、防カビ剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、湿潤剤、界面活性剤、及び防錆剤等が挙げられる。
【0040】
本発明に係るインクジェット記録シートは、記録時に液状であるインクを使用するどのような記録シートとして用いてもかまわない。例えば、熱溶融性物質、染顔料等を主成分とする熱溶融性インクを樹脂フィルム、高密度紙、合成紙等の薄い支持体上に塗布したインクシートを、その裏面より加熱し、インクを溶融させて転写する熱転写記録用受像シート、熱溶融性インクを加熱溶融して微小液滴化、飛翔記録するインクジェット記録シート、油溶性染料を溶媒に溶解したインクを用いたインクジェット記録シート、光重合型モノマー及び無色又は有色の染顔料を内包したマイクロカプセルを用いた感光感圧型ドナーシートに対応する受像シート等が挙げられる。
【0041】
これらの記録シートの共通点は、記録時にインクが液体状態である点である。液状インクは、硬化、固化又は定着までに、記録シートのインク吸収層の深さ方向又は水平方向に対して浸透又は拡っていく。上述した各種記録シートは、それぞれの方式に応じた吸収性を必要とするもので、本発明のインクジェット記録シートを上述した各種の記録シート、或いはそれらをタック加工したタック用記録シートとして利用しても何ら構わない。
【0042】
更に、複写機・プリンター等に広く使用されている電子写真記録方式のトナーを加熱定着する電子写真記録用記録シート、或いはラベル用電子写真記録シートとして、本発明におけるインクジェット記録シートを使用しても構わない。
【0043】
【作用】
本発明が目的とするインク吸収性には、インクが速やかに媒体に浸透する一方で、拡散をできる限り抑制することが要求される。又、水や手汗により生じる印字部のインク滲みの防止は、水分の影響を受けて水性であるインクが再溶解しないことが要求される。インクは、主として染料成分と溶媒成分からなり、該溶媒成分を選択的に吸収することによりインク吸収性を確保することが可能であり、支持体やその表面に塗層を設け、物理的に空隙を作り、該空隙の容積を高めることによって、該溶媒成分の浸透を確保することが可能となる。しかしながら、該溶媒成分に伴って該染料成分も浸透することから、該染料成分が深さ方向に浸透を進めるとそれに比例して印字濃度が低下して、色彩性の悪化が生じる。
【0044】
従って、該染料成分を選択的に捕獲して定着させる必要があり、該染料成分が有するスルフォン酸塩或いはカルボン酸塩と反応して、水に不溶な塩を生成することが必要である。このことから、カチオン性化合物との反応が考えられるが、単に該化合物を適用するだけでは、インク吸収性の確保のみならず水分の影響を受けて生じるインク滲みを防止することはできない。
【0045】
本発明が示すように、支持体及びインク吸収層にカチオン性化合物を含有させ、更に特定の分子量を有するカチオン性化合物を支持体に含有させてのみに目的を満足するインクジェット記録シートを得ることが可能となる。支持体が木材パルプを主体成分とするインクジェット記録シートは、安価であり支持体自体にインク吸収容量があるが、該支持体上にインク吸収層を塗設しても印字されたインクは該インク吸収層を透過して該支持体に達し、該インク吸収層にカチオン性化合物が含有されていてもインク中の染料成分は該支持体に浸透してしまう。これは、該インク吸収層にて該染料成分を捕獲し、定着する時間よりも浸透時間が速いために、該染料成分が支持体に浸透していることが起因していると推測され、該支持体にも該染料成分を捕獲し定着する機能が必要となる。
【0046】
しかし、単に支持体とインク吸収層にカチオン性化合物を含有させるだけでは本発明の目的を解決するには至らず、該支持体に特定の分子量を有するカチオン性化合物を含有させる必要がある。即ち、該支持体に適用するカチオン性化合物の分子量が大きいと、乾燥後の形成皮膜が該支持体の有するインク吸収容量を低下させ、インク溢れを生じさせる原因になるため、支持体に適用するカチオン性化合物の数平均分子量としては10万以下のものに限定される。
【0047】
又、支持体に適用するカチオン性化合物の量は、インクジェット記録装置の種類に依存するが、共に単位面積当たりのカチオン荷電量が0.8meq./m2以上であれば、本発明の目的が確実となる。
【0048】
支持体にカチオン性化合物を直接含浸する場合においては、オフマシンよりもオンマシンが好ましい。これは、支持体が木材パルプを主体成分とするものであり、抄造後に経時的に発現するサイズ性が含浸時の該化合物の分布に影響することに起因するためである。上述の如く、支持体にもインク中の染料成分を捕獲し、定着する機能が必要であることから、該支持体の内部にカチオン性化合物が存在することが望ましく、サイズ性の発現は該化合物の分布を阻害するために、該染料成分の定着を低下させる場合がある。このことから、サイズ性の発現を軽減するために、オンマシンであれば抄造工程と連続に含浸できるために好適である。
【0049】
【実施例】
以下に、本発明の実施例をあげて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例に於いて示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り重量部及び重量%を示す。
【0050】
<支持体>
組成物は、LBKP(濾水度400mlcsf)70部とNBKP(濾水度450mlcsf)30部から成る木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が30/35/35の顔料25部、市販アルキルケテンダイマー0.10部、市販カチオン系アクリルアミド0.03部、市販カチオン化澱粉1.0部、硫酸バンド0.5部とした。調成後、長網抄紙機を用いて坪量90g/m2で抄造し支持体を得た。
【0051】
<カチオン性化合物>
表1に示すカチオン性化合物A〜Eを支持体及びインク吸収層に適用した。
【0052】
【表1】


【0053】
【0054】
実施例1
支持体の表面に、オンマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Aが10部、市販の酸化澱粉が90部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は1.05meq./m2である。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-O:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が40部、カチオン性化合物Aが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように塗工乾燥し、その後カレンダー処理を行い、実施例1のインクジェット記録シートを得た。
【0055】
【0056】
実施例2
支持体の表面に、オンマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Bが60部、実施例1で使用した酸化澱粉が40部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は9.00meq./m2である。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-O:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が40部、カチオン性化合物Bが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように、実施例1と同じ条件で塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、実施例2のインクジェット記録シートを得た。
【0057】
参考例3
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いてカチオン性化合物Aが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は5.25meq./m2である。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-O:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が30部、カチオン性化合物Cが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように、実施例1と同じ条件で塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、参考例3のインクジェット記録シートを得た。
【0058】
参考例4
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Cが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は2.63meq./m2である。該支持体の表面に実施例1と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、参考例4のインクジェット記録シートを得た。
【0059】
実施例5
支持体は実施例2と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-O:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が30部、カチオン性化合物Dが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように、実施例1と同じ条件で塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、実施例5のインクジェット記録シートを得た。
【0060】
実施例6
支持体は実施例1と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該インク吸収層は、合成非晶質シリカ(ファインシールX37B:徳山曹達社製)が100部、コロイダルシリカ(スノーテックス-O:日産化学工業社製)が30部、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)が25部、カチオン性化合物Eが30部からなる塗被組成物からなり、これらを調液して、固形分濃度15%にて、エアーナイフコータで乾燥塗工量が10g/m2となるように、実施例1と同じ条件で、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、実施例6のインクジェット記録シートを得た。
【0061】
参考例7
支持体は参考例4と同様の組成物、条件で含浸させ、該支持体の表面に実施例6と同じ塗被組成物を、同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い参考例7のインクジェット記録シートを得た。
【0062】
比較例1
支持体の表面に、オフマシンのゲートロールコータを用いて、カチオン性化合物Eが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度10%の組成物を5g/m2塗工した。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は1.00meq./m2である。該支持体の表面に実施例1と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例1のインクジェット記録シートを得た。
【0063】
比較例2
支持体の表面に、オンマシンのサイズプレス装置を用いて、固形分濃度5%のカチオン性化合物Dを30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は8.25meq./m2である。該支持体の表面に実施例2と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例2のインクジェット記録シートを得た。
【0064】
比較例3
支持体の表面に、オフマシンのサイズプレス装置を用いて、カチオン性化合物Eが50部、実施例1で使用した酸化澱粉が50部からなる固形分濃度5%の組成物を30g/m2含浸させた。該支持体の単位面積当たりのカチオン荷電量は3.00meq./m2である。該支持体の表面に実施例3と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例3のインクジェット記録シートを得た。
【0065】
比較例4
支持体は比較例3と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該支持体の表面に実施例6と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例4のインクジェット記録シートを得た。
【0066】
比較例5
支持体にはカチオン性化合物を塗工或いは含浸せず、該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。該支持体の表面に実施例3と同じ塗被組成物からなるインク吸収層を同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例5のインクジェット記録シートを得た。
【0067】
比較例6
支持体は参考例4と同様の組成物、条件で含浸させた。該支持体の表面にインク吸収層を塗設した。インク受理層の塗被組成物は、カチオン性化合物を適用しない以外は、実施例1と同じとして、実施例1と同じ条件で調液、塗工、乾燥、カレンダー処理を行い、比較例6のインクジェット記録シートを得た。
【0068】
実施例、参考例及び比較例の評価結果を表2に示す。尚、表2中の特性項目は以下の方法で評価した。
【0069】
<インク吸収性の評価>
インクジェット記録特性に重要なインク吸収性をインク吸収時間とインク溢れから評価した。この2つの評価としては、それぞれA又はB評価が必要である。
1.インク吸収時間
インクを吸収する時間が遅いと、吸収されないインクがインクジェット記録装置内での搬送中に、該装置と接触し、印字部分ばかりでなく印字されていない部分を汚す地汚れの発生があり、画像品位を大きく低下させることから、インクジェット記録シートには、インク吸収時間の早いことが必要となる。
・評価方法:市販のインクジェット記録プリンター(デスクライター550C:ヒューレットパッカード社製)を用いて、ブラックインクでベタ印字を行い、印字直後に印字部分の表面を白紙で覆い、白紙に転写されたインクを以下の基準で評価した。
A:インクの転写は確認されず、インク吸収時間は早い。
B:僅かにインクの転写が確認されるが、地汚れとはならない。
C:インクの転写が全面にあり、地汚れを発生させる可能性がある。
【0070】
2.インク溢れ
インクジェット記録装置の高速化に伴い、本来、印字されたドットや領域の鮮明性が低下しやすくなる。特に色の異なるインクが隣接する部分においては、インク吸収性が低いと、インクが溢れた状態が続くと隣接したインクが一体となって、色彩性や鮮明性の低下となることから、インク溢れのないことが必要となる。
・評価方法:上述のインクジェット記録プリンターを用いて、マゼンタインクとイエローインクの重ね印字部分に、シアンインクとイエローインクの重ね印字部分を隣接するように印字し、境界部分を以下の基準で評価した。
A:境界部分はクリアーであり、インク溢れは認められない。
B:境界線が断片的に黒く視認されるが、色彩性や鮮明性の低下にはならない。
C:境界線が連続的に黒く視認され、色彩性や鮮明性の低下となる。
【0071】
<耐水性>
印字された部分に水や手汗が付着することにより、印字部分ではインクが滲みだして、色彩性や鮮明性の低下となることから、以下の方法で評価した。この方法で算出されるインク滲み率は、1.2以下であれば実用上許容されるレベルである。
・評価方法:上述のインクジェット記録プリンターを用いて、直線をマゼンタインクで描き、直線の太さ(WB)を計測する。その後、50μlの水を直線上に滴下し、24時間放置した後の直線の太さ(WA)を計測する。インク滲みが発生する場合には、インク滲み率(WA/WB)が1.0を越えることになる。計測は、画像解析装置を用いて、モード法により2値化して行い、計測される直線(L1)と垂直に交わる直線(L2)を予め作り、L2との平行線を計測部分に移動して、水滴下前及び後の直線(L1)の太さを求めた。
【0072】
【表2】

【0073】
【発明の効果】
以上から明らかなように、本発明によれば支持体及びインク吸収層にカチオン性化合物を含有し、且つ支持体に特定の分子量を有するカチオン性化合物を含浸することにより、インク吸収性を確保し、水や手汗が付着してもインクの滲みだしを抑制したインクジェット記録シートが得られる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-01-22 
出願番号 特願平6-122200
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B41M)
P 1 651・ 531- YA (B41M)
P 1 651・ 534- YA (B41M)
P 1 651・ 121- YA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 矢沢 清純
特許庁審判官 六車 江一
伏見 隆夫
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3329579号(P3329579)
権利者 三菱製紙株式会社
発明の名称 インクジェット記録シート  

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