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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1096305 |
異議申立番号 | 異議2003-71736 |
総通号数 | 54 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-07-11 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-08 |
確定日 | 2004-02-20 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3364995号「難燃性樹脂組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3364995号の請求項1に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 |
理由 |
(1)手続の経緯 本件特許3364995号の発明は、平成5年7月19日に出願され、平成14年11月1日にその特許の設定登録がなされ、その後、鹿島純子及び石川増和より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対して、特許異議意見書が提出されるとともに、その指定期間内である平成15年11月22日に訂正請求がなされたものである。 (2)訂正の適否についての判断 ア、訂正の内容 訂正事項a:特許請求の範囲の訂正 a-1、請求項1の 「【請求項1】(F)ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を、重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(F)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつ(F)成分中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。」を、 「【請求項1】(F)ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を、乳化重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(F)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつ(F)成分中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。」と訂正する。 訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正 b-1、特許明細書の段落【0004】中の 「重合して得られるグラフト共重合体」を、 「乳化重合して得られるグラフト共重合体」と訂正する。 b-2、特許明細書の段落【0006】中の 「重合して得られるグラフト共重合体」を、 「乳化重合して得られるグラフト共重合体」と訂正する。 イ、訂正の適否 訂正事項aの訂正a-1は、特許請求の範囲の請求項1において、グラフト共重合体の重合を、明細書の段落【0013】の記載に基づいて、乳化重合に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められる。 上記訂正事項bの訂正b-1及びb-2は、発明の詳細な説明における訂正であり、特許請求の範囲の訂正である訂正事項aに伴い、特許請求の範囲との整合性をはかるための、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、上記訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書の範囲内の訂正と認められる。 また、上記訂正事項a及びbは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 (3)特許異議の申立てについての判断 ア、申立て理由の概要 特許異議申立人鹿島純子は、甲第1号証(特開平3-160052号公報)、甲第2号証(特開平4-266956号公報)、甲第3号証(反応工学研究会レポート「ABS製造プロセスのアセスメント」、高分子学会、1990年1月25日発行、第48〜50頁、第57〜59頁、第193〜194頁)及び甲第4号証(「SANTAC」、三井東圧化学株式会社)を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明であり、また、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項の要件を満たさない出願に対して特許されたものであるから、本件特許は取り消されるべき旨主張している。 特許異議申立人石川増和は、訂正前の請求項1及び2に係る発明の特許は、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項第2項の要件を満たさない出願に対して特許されたものであるから、本件特許は取り消されるべき旨主張している。 イ、訂正明細書の請求項1及び2に係る発明 訂正明細書の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】(F)ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を、乳化重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(F)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつ(F)成分中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。 【請求項2】(D)ポリブタジエン系ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体からなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(D)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつポリエステル樹脂を含まず、上記(D)成分中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基含有不飽和化合物の少なくとも1種が1〜20重量%共重合されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。」 ウ、引用した刊行物等に記載された事項 当審における取消理由通知に引用した刊行物等は次のとおりである。 刊行物1:特開平3-160052号公報 (特許異議申立人鹿島純子提出甲第1号証) 刊行物2:特開平4-266956号公報 (同甲第2号証) 刊行物3:反応工学研究会研究レポート「ABS製造プロセスのアセスメント」、高分子学会、1990年1月25日、第48〜50頁、第57〜59頁、第193〜194頁 (同甲第3号証) 参考資料1:「サンタック」、三井東圧化学のABS樹脂/連続塊状重合法(パンフレット) (同甲第4号証) 上記の刊行物1、3及び参考資料1には次のとおりの記載が認められる。 a、刊行物1について 「【請求項1】芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂および難燃剤からなる組成物(A)90〜50重量部とガラス繊維(B)10〜50重量部からなる樹脂組成物において、該組成物中のガラス繊維が、繊維長160μm以下の短繊維(以下、S-GFと記す)と繊維長160μm以上である長繊維(以下、L-GFと記す)とからなり、ガラス繊維の全配合量がB重量%のとき、短繊維と長繊維との重量比が下式(1); 90/10≧S-GF/L-GF≧(24+B/10)/(76-B/10)…(1) の範囲となるようにガラス繊維を配合することを特徴とするガラス繊維強化難燃性樹脂組成物.」(特許請求の範囲請求項1) 「実施例1〜3および比較例1〜4 ポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学(株)製;ユーピロン S-2000、以下「PC」と記す)27.3部、ABS樹脂(三井東圧化学(株)製;サンタック ET-70、以下「ABS」と記す)21.8部、AS樹脂(ダイセル(株)製;セピアンV、以下「AS」と記す)5.5部、難燃剤としてTBAポリカーボネートオリゴマー(三菱瓦斯化学(株)製;FR-34、以下「FR34」と記す)15.3部を用い、これにガラス繊維(旭ファイバーグラス(株)製;CS03MA409C、長さ3mm、以下「L-GF」と記す)とガラスパウダー(旭ファイバーグラス(株)製;MF-A、長さ70μm、以下「S-GF」と記す)とを第1表に記載のように配合し、タンブラーにて混合し、40mmφのベント式1軸押出機で230-250℃で押し出しペレットとした。」(第4頁右上欄7行〜同左下欄1行) また、刊行物1の比較例3について、第4頁右下欄の第1表-2には、PC(ポリカーボネート樹脂)及びABS(ABS樹脂)がともに33.2重量部で、FR34(難燃剤)を18.5重量部とすること、同様に、比較例4として、PC及びABSを30.3重量部、FR34を16.9重量部とすることが、それぞれ記載されている。 b、刊行物2について 「【請求項1】 スチレン系樹脂及びカーボネート樹脂並びにブロム系難燃剤からなる難燃化樹脂組成物に、 (a)エポキシプロピルイソシアヌレート及び (b)一般式(R1 O)m P(=O)(OH)3-m(式中、R1 は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、アリール基及びシクロアルキル基であり、m は1又は2を示す。) で示される有機リン化合物の少なくとも一種 を併用添加することを特徴とする該樹脂組成物の安定化法。」(特許請求の範囲) 「[実施例1] ABS樹脂[東レ(株)製トヨラック100]50部、カーボネート樹脂[帝人化成(株)製パンライトL1250]50部、テトラブロムビスフェノールAジグリシジルエーテルとブロム化ビスフェノール付加物エポキシオリゴマー[マナック(株)製EBR-700]18部、三酸化アンチモン3部に表1及び表2に示す安定剤を添加した配合物を185℃に調節した8インチ試験ロールで5分間混練し、厚さ0.5 mmのシートを作製した。得られたシートを裁断し8枚重ね、275℃、5kg/cm2 でプレスを行い、試料が褐色もしくは黒化するまでの劣化時間(分)を測定した。」(第7頁第11欄3〜14行) c、刊行物3について 「ここで、三井東圧化学(株)が開発したABSの連続塊状重合プロセスを一言で表現すると、「HIPSと同様な連続塊状重合法でABSを製造するプロセス」であり、更に詳しくは、(1)(原文では○に数字、以下同じ。)ゴムラテックスを用いず、(2)0.2〜0.5μm又はそれ以上のミクロゲルを生成させ、(3)一般のABSと同等の物性(特に光沢と耐衝撃性)を持つ樹脂を、(4)低コストで、(5)効率よく製造するプロセスと言換えることが出来る。」(第48頁下から5〜1行) 「東レ(株)は昭和43年より、このABS連続塊状重合法にて従来の優れた物性を有するABS樹脂の製造プロセス技術開発につとめ、その基本技術の発見と応用、工業規模での生産技術開発を達成し、昭和62年3月に12,000t/yの本格生産設備を稼働させた。本稿ではこの技術内容について概説する。 (1)プロセスの原理 基本原理は通常の乳化重合法で製造された高濃度ゴムABSラテックス中のポリマ粒子を、その形態を保持したままAN(アクリロニトリル)、SM(スチレン)モノマ相に移行させ、これらモノマ中にポリマ粒子を均一分散させた溶液を連続系で塊状重合し、ABS樹脂を得るものである。………… (a)重合原液(ドープ)の製造 原料である高濃度ゴムラテックスは要求されるABS樹脂特性を最大に発現するように乳化重合により予めその粒径、グラフト率等が設定される。このラテックスは水分散状態にあるが、モノマを加え混合すると、ポリマ粒子はその形態を保持したままモノマ相に移行する。この時、同時に凝固剤等で乳化剤の活性を破壊すると粘土状の可塑物が得られる。これをクラムと称する。……クラム中に含有している水分は絞り型脱水機により可能な限り機械的に除去される。この脱水クラムに規定量のAN、SMモノマを加え混合希釈し、モノマ中にポリマ粒子が分散した乳濁液(ドープと称す。)とする。 (b)塊状重合法 このドープを主原料とし必要な開始剤、重合調節剤等を添加し連続塊状重合を行うと目的とするABS樹脂が得られる。東レ法連続塊状重合プロセスは(a)項記載のドープ製造工程を有することにより特徴があり、ABSの基本的樹脂特性も高濃度ゴムラテックスの段階で制御することができる。」(第57頁下から4行〜第59頁1行) 「本章ではABSポリマー製造工程の経端であるコンパウンディング、あるいはこれに使用される押出機(混練機)の側面から後処理を取り上げる。塊状重合の後処理については3章で既出のため、ここでは乳化重合の後処理に限定するが、塊状-懸濁重合については大体同じように考えられる。……… これと並行して、ゴムの脱水乾燥工程に利用されているスクリュ型スクイザーもグラフトポリマーの脱水乾燥に使用されている。スリットケーシングの部分でしぼり出した水の分離を行ったあと、同軸上またはタンデム方式としてベント後ホットカット方式でペレット化する。」(第193頁3行〜第194頁23行) d、参考資料1 「サンタック」が連続塊状重合法で製造された三井東圧化学のABS樹脂製品であること、及び「ET-70」がシート等押出加工用銘柄であることが示されている。 エ、対比・判断 a、本件発明1について 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。 刊行物1の比較例3及び4に記載のABS樹脂(三井東圧化学(株)製;サンタックET-70)は、刊行物3及び参考資料1によれば、連続塊状重合法により得られたものと認められ、また、比較例3及び4における難燃剤の割合も本件発明1と重複すると認められるので、両者は、ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物からなる単量体を重合して得られるグラフト共重合体と、ポリカーボネート樹脂、難燃剤を配合してなる難燃性樹脂組成物であり、それらの組成割合において重複するものである点で一致し、本件発明1では、重合が乳化重合によるグラフト共重合体であり、また、グラフト共重合体中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であるとするのに対し、刊行物1では、塊状重合によるグラフト共重合体であり、その成分中の有機酸含有量及びアルカリ金属含有量についての記載がない点で相違するものと認められる。 そこで、上記相違点について検討する。 本件明細書の実施例・比較例には、グラフト共重合体の重合法について記載がなく、また、その成分中の有機酸含有量及びアルカリ金属含有量をどのようにコントロールしたのか、その方法についての記載もない。ただ、明細書の段落【0006】において、「有機酸含有量が3重量%を超える場合、アルカリ金属含有量が300ppmを超えると、ウェルド強度、ウェルド外観性が劣る。有機酸含有量、アルカリ金属含有量を低減させる好ましい方法としては、ゴム変性熱可塑性樹脂の製造時の脱水工程で、通常の遠心脱水でなく、絞り出し方法の脱水機能を用いることが挙げられ、この方法で容易に含有量を低減できる。」と記載されるものの、その裏付けとなる実施例等の記載がなく、この数値限定自体には、格別な技術的意義が見出せず、また、有機酸及びアルカリ金属の含有量の低減方法自体も絞り出し方法で容易に得られるものと認められる。 また、刊行物1のグラフト共重合体は、塊状重合によるものであり、乳化重合の乳化剤に基づく有機酸及び凝固剤に基づくアルカリ金属は使用されておらず、それらの含有量自体は本件発明1で特定する量より少ないものと認められる。したがって、有機酸及びアルカリ金属の量は本願発明1の範囲内と認められ、本件発明1との実質的な相違は重合方法の相違に過ぎないものと認められる。 しかしながら、刊行物3に記載のとおり、ABSの製造では、乳化重合によるグラフト重合自体は従来よりよく知られた方法に過ぎず、また、乳化重合法における後処理でも、脱水・乾燥には絞り出し法によることが知られており、それによって有機酸及びアルカリ金属の含有量の低減化が行われていたところと認められ、刊行物1の塊状重合を乳化重合とし、有機酸及びアルカリ金属の含有量を特定量に低減化することは、当業者であれば容易なことと言わざるを得ない。 また、刊行物1の塊状重合による方法では、有機酸及びアルカリ金属の含有量は少なく、本件発明1と同等の作用効果を奏しているものと認められ、また、乳化重合を選択し、有機酸及びアルカリ金属の含有量を特定化することによる作用効果の裏付けもなく格別なものとすることはできない。 したがって、本件発明1は、上記刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 b、本件発明2について 本件発明2は、ゴム変性熱可塑性樹脂として、その成分中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基及びオキサゾリン基含有不飽和化合物の少なくとも1種が共重合されているものであり、上記刊行物1〜3には、そのことの記載もなく、また、示唆も認められないので、本件発明2は、刊行物1〜3に記載された発明から容易になし得たものとすることはできない。 次に、本件発明2についての記載不備について検討する。 特許異議申立人鹿島純子及び石川増和の主張する本件発明2に関する記載不備は、次のとおりにまとめられる。 1)「ポリブタジエン系ゴム状重合体」の意味内容が明りょうでない。 2)本件請求項2に対して実施例1の結果が対応しておらず、発明の詳細な説明の効果の記載に誤りがあるから、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その効果を記載していない。 1)について、「ポリブタジエン系ゴム状重合体」というのは、「ブタジエン系ゴム状重合体」と同義と認められ、これは通常ブタジエンを使用して得られるゴム状重合体の意味と解されるから、「ポリブタジエン系ゴム状重合体」との記載は、意味内容が不明瞭とまでは言えない。 2)について、本件明細書の段落【0031】には、「これら官能基含有不飽和化合物が1重量%未満であるとウェルド強度、ウェルド外観性の改良効果がなく、20重量%を超えると成形品表面外観に劣り好ましくない。」と記載されているのに対し、実施例2では、マレイン酸を共重合化しなくてもウェルド保持率もウェルド外観も良好であるのと矛盾があるというものであるが、ウェルド強度を良くする方法自体には、様々な方法が考えられ、本件明細書でも、実施例1の有機酸及びアルカリ金属の含有量が低いものとする場合もあり、また、その他に比較例3では、マレイン酸の共重合体でもなく、また、有機酸及びアルカリ金属の含有量が多い場合でも、難燃剤の添加が少ないものが、ウェルド保持率及びウェルド外観が良好であると認められる。 そのことは、ウェルド強度の改良のための一方法として、共重合成分の割合を示したものと認められ、そのことによって、効果が記載されていないとは言えないし、当業者が容易に実施できないとまでは言えない。 したがって、本件発明2についての特許異議申立人の主張は採用できない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易にすることができたものであり、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 また、本件発明2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 難燃性樹脂組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (F)ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を、乳化重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(F)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつ(F)成分中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。 【請求項2】 (D)ポリブタジエン系ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体からなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(D)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつポリエステル樹脂を含まず、上記(D)成分中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基含有不飽和化合物の少なくとも1種が1〜20重量%共重合されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はウェルド強度、ウェルド外観性、成形品の表面外観、耐衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来より、ABS樹脂などのスチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とを混合し、さらに難燃剤を添加して得られた組成物は、耐衝撃性、耐熱性などに優れた特性をそなえており、成形材料として電気・電子分野を中心に、さらに自動車分野などに幅広く使用されている。しかし、利用分野が広がることによってその必要とする要求性能も異なってきており、ウェルド強度、ウェルド外観性、熱安定性、耐薬品性、メッキ性など特異な特性が要求されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題 本発明は前記の課題を背景になされたもので、請求項1、2に示した特徴のあるゴム変性熱可塑性樹脂を用いることにより、ウェルド強度、ウェルド外観性、熱安定性、耐薬品性、メッキ性などに特異的に効果のある難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】 本発明は、(F)ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を乳化重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(F)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつ(F)成分中の有機酸含有量が3.0重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、および 【0005】 (D)ポリブタジエン系ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体の重合体からなるゴム変性熱可塑性樹脂5〜95重量%と、(B)ポリカーボネート樹脂95〜5重量%、および上記(D)、(B)の和100重量部に対して(C)難燃剤1〜50重量部を配合してなり、かつポリエステル樹脂を含まず、上記(D)成分中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基含有不飽和化合物の少なくとも1種が1〜20重量%共重合されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物、を提供するものである。 【0006】 本発明に用いられる各成分について説明する。 請求項1の難燃性樹脂組成物の説明 本発明の(F)成分は、ゴム状重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、酸無水物系単量体およびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を乳化重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなり、かつ(F)成分中に残留する有機酸含有量が3重量%以下、好ましくは2重量%以下、アルカリ金属含有量が300ppm以下、好ましくは200ppm以下であるゴム変性熱可塑性樹脂である。 有機酸含有量が3重量%を超える場合、アルカリ金属含有量が300ppmを超えると、ウェルド強度、ウェルド外観性が劣る。有機酸含有量、アルカリ金属含有量を低減させる好ましい方法としては、ゴム変性熱可塑性樹脂の製造時の脱水工程で、通常の遠心脱水でなく、絞り出し方法の脱水機能を用いることが挙げられ、この方法で容易に含有量を低減できる。 【0007】 上記ゴム状重合体(a)としては、例えばポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、エチレン-プロピレン-(ジエン)共重合体、エチレン-ブテン-1-(ジエン)共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体、アクリルゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンラジアルテレブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、SEBSなどの水素添加ジエン系(ブロック、ランダムおよびホモ)重合体、ポリウレタンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらのなかで、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-(ジエン)共重合体、エチレン-ブテン-1-(ジエン)共重合体、水素添加ジエン系重合体およびシリコーンゴムが好ましい。 【0008】 上記芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-エチルスチレン、メチル-α-メチルスチレン、ジメチルスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレンおよびジクロロスチレンなどが挙げられる。これらのなかでは、スチレン、α-メチルスチレンおよびp-メチルスチレンが好ましい。上記シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかではアクリロニトリルが好ましい。 【0009】 上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。これらのなかでは、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸ブチルが好ましい。上記酸無水物系単量体としては無水マレイン酸が好ましい。上記マレイミド系単量体としては、例えばマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-(p-ヒドロキシフェニル)マレイミドなどが挙げられる。これらのなかで、マレイミド、N-フェニルマレイミドおよびN-シクロヘキシルマレイミドが好ましい。 【0010】 上記、グラフト共重合体中のゴム状重合体(a)の含有量は、好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜65重量%である。 (F)成分の好ましいグラフト率は5〜200%、さらに好ましくは10〜150%である。またアセトン可溶分の極限粘度は、好ましくは0.1〜1.2dl/g、さらに好ましくは0.2〜0.8dl/gである。 【0011】 (a)成分の存在下で重合される単量体成分の好ましい組み合わせを以下に列挙する。 1)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物 2)芳香族ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル 3)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル 4)芳香族ビニル化合物/マレイミド系単量体 5)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/マレイミド系単量体 6)芳香族ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル/マレイミド系単量体 7)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/酸無水物系単量体 8)芳香族ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル/酸無水物系単量体 9)芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/(メタ)アクリル酸エステル/酸無水物系単量体 10)芳香族ビニル化合物/マレイミド系単量体/酸無水物系単量体 【0012】 グラフト共重合体に必要に応じて添加される重合体は、単量体(b)の群から選ばれ少なくとも1種を重合して得られる。好ましい重合体を以下に列挙する。 1)芳香族ビニル化合物-シアン化ビニル化合物共重合体 2)(メタ)アクリル酸エステル重合体 3)芳香族ビニル化合物重合体 4)芳香族ビニル化合物-マレイミド系単量体共重合体 5)芳香族ビニル化合物-マレイミド系単量体-シアン化ビニル化合物共重合体 6)芳香族ビニル化合物-マレイミド系単量体-酸無水物単量体共重合体 7)芳香族ビニル化合物-(メタ)アクリル酸エステル-(シアン化ビニル化合物)共重合体 【0013】 本発明のゴム変性熱可塑性樹脂は、グラフト共重合体またはグラフト共重合体と上記の重合体とからなる。 ゴム変性熱可塑性樹脂中のゴム状重合体(a)の含有量は、好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは5〜35重量%である。上記のグラフト共重合体、重合体の重合法は、乳化重合法、溶液重合法、バルク重合法、懸濁重合法、これらの重合法を組み合わせた方法で重合することができる。 【0014】 次に、ポリカーボネート樹脂について説明する。本説明で使用されるポリカーボネート樹脂(B)としては、種々のジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの反応によって得られるもの、またはジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートとのエステル交換反応によって得られるものが挙げられる。代表的なものとしては、2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンとホスゲンの反応で得られるポリカーボネートである。 【0015】 ポリカーボネートの原料となるジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシ-3-第3ブチルフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2′ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、1,1′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルフェニルスルフィド、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルフォン、ヒドロキノン、レゾルシンなどがあり、これらは1種または2種以上で使用される。特に好ましいものは、2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン{ビスフェノールA}である。ポリカーボネートの粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、さらに好ましくは17,000〜35,000である。 【0016】 次に、難燃剤(C)としては、一般のゴム、樹脂などの重合体の難燃剤として用いられているものを使用することができ、その例としては、ハロゲン含有化合物、リン含有化合物、チッ素含有化合物、ケイ素含有化合物などが挙げられる。 【0017】 上記ハロゲン含有化合物の具体例としては、まずテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ヘキサブロモシクロドデカンなどを挙げることができる。 【0018】 また、モノブロモフェノール、トリブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、トリブロモクレゾール、ジブロモプロピルフェノール、テトラブロモビスフェノールS、塩化シアヌルなどを重合することにより、あるいはこれらと上記ハロゲン化合物の群から選ばれた少なくとも1種のハロゲン化合物とを共重合することにより得られる、オリゴマー型ハロゲン化合物が挙げられる。 【0019】 さらに、テトラブロモビスフェノールAのポリカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAとビスフェノールAとのポリカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールSのポリカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールSとビスフェノールSとのポリカーボネートオリゴマーなども挙げられる。 【0020】 さらに、下記一般式(I)で表わされるハロゲン化エポキシオリゴマーなども挙げられる。 【0021】 【化1】 【0022】 〔一般式(I)中、mは1〜100の整数で表わされる平均重合度であり、Xは互いに独立して水素原子、塩素原子または臭素原子を示し、i,j,kおよびpはそれぞれ1〜4の整数であり、RおよびR′は同一または異なり、水素原子、下記一般式(II)または(III)で表わされる基である。〕 【0023】 【化2】 【0024】 【化3】 【0025】 (ここで、Yは水素原子、臭素原子または塩素原子を示し、qは0〜5の整数である。) 【0026】 上記リン含有化合物としては、有機系リン含有化合物、赤リン、ホスファゼン系化合物、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。このうち、有機系リン含有化合物としては、トリフェニルホスフェートに代表されるホスフェート類、トリフェニルホスファイトに代表されるホスファイト類などが挙げられる。これらの有機系リン含有化合物は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。本発明においては、有機系リン含有化合物として、トリフェニルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリキシレニルチオホスフェート、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)などが好ましい。 【0027】 また、上記チッ素含有化合物としては、トリアジン、トリアゾリジン、尿素、グアニジン、アミノ酸、メラミンおよびその誘導体が挙げられる。さらに、上記ケイ素含有化合物としては、一般的なオルガノシロキサンが挙げられ、具体的には、シリコーンオイル、シリコーンレジン、有機シラン化合物およびポリシランなどが挙げられる。また、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ナトリウム、二酸化ケイ素なども挙げられる。これらの難燃剤(C)は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。 【0028】 難燃剤(C)としては、臭素含有化合物、塩素含有化合物、リンおよび/またはチッ素含有化合物が好ましく、さらにダイオキシンなどの有毒ガスの発生がない点で、リンおよび/またはチッ素化合物が好ましく、特にトリフェニルホスフェート、トリフェニルチオホスフェートに代表されるホスフェート類、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)に代表されるホスフェートオリゴマー類、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、メラミンなどが好ましい。上記(C)成分に、必要に応じてテトラフルオロエチレンパウダーを併用することができる。 【0029】 上記難燃剤(C)の難燃効果を向上させるためにアンチモン含有化合物を用いることができる。難燃性の向上効果を得るための好ましい使用量は、全重合体成分100重量部に対して0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部である。さらに、上記アンチモン含有量としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、(コロイダル)五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、およびリン酸アンチモンなどが挙げられるが、なかでも三酸化アンチモンが好ましい。 【0030】 (F)成分の使用量は5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%である。使用量が5重量%未満であると成形加工性が劣り、一方、95重量%を超えると耐熱性が劣る。 (B)成分の使用量は95〜5重量%、好ましくは90〜10重量%である。使用量が95重量%を超えると成形加工性が劣り、一方、5重量%未満であると耐熱性が劣る。 (C)成分の使用量は、(F)、(B)の和100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部である。使用量が1重量部未満であると難燃性が得られず、一方、50重量部を超えると耐衝撃性が低下する。 【0031】 請求項2の難燃性樹脂組成物の説明 請求項2に用いられる熱可塑性樹脂(D)は、ポリブタジエン系ゴム状重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステルおよびマレイミド系化合物からなる単量体(b)の群から選ばれた少なくとも2種の単量体を重合して得られるグラフト共重合体、および必要に応じて単量体(b)の群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体とからなり、かつポリエステル樹脂を含まず、上記(D)成分中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、酸無水物基およびオキサゾリン基含有不飽和化合物の少なくとも1種の官能基含有不飽和化合物が1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%共重合される。これら官能基含有不飽和化合物が1重量%未満であるとウェルド強度、ウェルド外観性の改良効果がなく、20重量%を超えると成形品表面外観に劣り好ましくない。 【0032】 これらの官能基含有不飽和化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有不飽和化合物、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシ基含有不飽和化合物、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有不飽和化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの酸無水物基含有不飽和化合物、ビニルオキサゾリンなどのオキサゾリン基含有不飽和化合物などが挙げられる。これらの不飽和化合物を(D)成分に共重合させる方法は、(D)成分の重合時に用いる方法または(D)成分に直接付加させる方法でもよい。 上記のポリブタジエン系ゴム状重合体、単量体は、請求項1に示したものが用いられる。ポリブタジエン系ゴム状重合体の使用量は耐衝撃性を得るために、請求項1で示された(a)成分の範囲で用いられる。 ポリブタジエン系ゴム状重合体を用いた(D)成分のグラフト率は、好ましくは5〜200%、さらに好ましくは10〜150%、またアセトン可溶分の極限粘度は、好ましくは0.1〜1.2dl/g、さらに好ましくは0.2〜0.8dl/gである。 【0033】 (D)成分の使用量は5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%である。使用量が5重量%未満であると成形加工性が劣り、一方、95重量%を超えると耐熱性が劣る。 (B)成分は請求項1に示した(B)成分が用いられる。 (B)成分の使用量は95〜5重量%、好ましくは90〜10重量%である。使用量が95重量%を超えると成形加工性が劣り、一方、5重量%未満であると耐熱性が劣る。 (C)成分は請求項1に示した(C)成分が用いられる。 (C)成分の使用量は、(C)、(B)の和100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜30重量部である。使用量が1重量部未満であると難燃性が得られず、一方、50重量部を超えると耐衝撃性が低下する。 【0034】 請求項1、2の共通事項の説明 請求項1、2の難燃性樹脂組成物には、必要に応じて性能を向上させる目的から、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ガラスビーズ、ワラストナイト、ロックフィラー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ガラスフレーク、カオリン、硫酸バリウム、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの充填材を1種単独であるいは併用することができる。これらの充填材のうち、ガラス繊維、炭素繊維の形状としては6〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有するものが好ましい。これらの充填材は、本発明の組成物100重量部に対して、通常、5〜150重量部の範囲で用いられる。 【0035】 また、本発明の組成物には、公知の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤などの添加物を配合することができる。さらに、本発明の組成物には、要求される性能に応じて、他の重合体、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などを適宜ブレンドすることができる。 【0036】 本発明の組成物は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを用い、各成分を混練りすることによって得られる。好ましい製造方法は、押出機を用いる方法である。また、各成分を混練りするに際して、各成分を一括して混練りしてもよく、多段添加方式で混練りしてもよい。このようにして得られる本発明の難燃性樹脂組成物は、射出成形、シート押出、真空成形、異形成形、発泡成形などによって各種成形品に成形することができる。上記成形法によって得られる各種成形品は、その優れた性質を利用して、家電製品の各種ハウジング、電気・電子分野、自動車分野の各種部品、ハウジング、雑貨などに使用することができる。 【0037】 【実施例】 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。また、実施例中の各種評価は次のようにして測定した値である。 【0038】 〔燃焼試験〕 試験片に接炎した後の燃焼状態を観察し、○×で判定した。 ×;燃え続けた。 ○;自然に消えた。 〔アイゾット衝撃強度〕 ASTM D256 1/4”、23℃、ノッチ付き 【0039】 〔ウェルド強度、ウェルド外観、成形品外観〕 ASTM1号ダンベルの中央にウェルドラインができる金型を用いて、成形した試験片を用いて、引張強度(Tm)を測定し、次にウェルドラインの入らない金型で成形した試験片を用いて、引張強度(To)を測定した。 ウェルド強度は、引張強度(Tm,To)から、下記の式に従って、ウェルド強度の保持率を求めた。 保持率(%)=(Tm/To)×100 ウェルド外観は、ウェルドラインの目立ちを観察し、○△×で目視判定をした。 ○;ほとんど目立なし △;ややラインが目立つ ×;はっきりとラインが目立つ 成形品外観は、試験片の表面外観を目視判定した。 ○:きれいな鏡面 ×:フローマークなどの外観不良がみられる。 【0040】 〔成形加工性〕 流動性;ASTM D1238に従い、240℃、荷重10kgで測定した。 〔耐熱性〕 熱変形温度;ASTM D648に従い、1/2インチ、264psiで測定した。 【0041】 (B)成分: 2,2′-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを原料として得られる重量平均分子量23,000のポリカーボネート樹脂。 (C)成分: 一般式(I)で表わされるハロゲン化エポキシオリゴマー重量平均分子量5,000のものと、三酸化アンチモン5:2の混合物を用いた。 【0042】 重合体(a)-1〜(a)-4〔本発明の(a)成分〕 本発明のゴム変性熱可塑性樹脂に用いられる(a)成分として、表1のゴム状重合体を用いた。 【0043】 【表1】 【0044】 樹脂(D)、(F)成分の調製 前記ゴム状重合体(a)-1〜(a)-4存在下に各種単量体(b)をグラフト重合した樹脂およびゴム状重合体を存在させず単量体成分(b)のみを重合した樹脂をそれぞれ得た。これらの樹脂の組成を表2に示した。 【0045】 【表2】 【0046】 表3に示す各成分を内径50mmの押出機で温度190〜240℃の範囲で溶融混練し、ペレットを作成した。このペレットを50z射出成形機を用い、成形温度200〜240℃の範囲で成形して試験片を作成し、その物性を評価した。 【0047】 【表3】 【0048】 比較例1 ゴム変性熱可塑性樹脂として(G)を用いた例である。 ここで用いられた(G)は、官能基を含まず、かつ有機酸含有量、アルカリ金属含有量が範囲外である。したがって、(G)を用いた難燃性樹脂組成物はウェルド強度、ウェルド外観性が劣る。 比較例2 ポリカーボネート樹脂(B)の使用量が本発明の範囲外で少ないものであり、耐熱性とウェルド強度が劣る。 比較例3 難燃剤(C)の使用量が本発明の範囲外で少ないものであり、難燃性が劣る。 比較例4 難燃剤(C)の使用量が本発明の範囲外で多いものであり、耐衝撃性、ウェルド強度、ウェルド外観、成形品外観が劣る。 比較例5 請求項2のグラフト共重合体のゴム状重合体に、本発明の範囲外のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体を用いた例であり、実施例に比べてウェルド保持率が劣る。 比較例6 グラフト共重合体の代わりに、ゴム状重合体を含有していない共重合体を用いた例であり、耐衝撃性が劣る。 【0049】 【発明の効果】 本発明の難燃性樹脂組成物は、ウェルド強度、ウェルド外観、成形品表面外観、耐衝撃性および難燃性に優れたものである。したがって、高度な性能が要求される電気・電子関連分野、OA機器分野の各種部品、ハウジング、シャーシなどに使用することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-12-19 |
出願番号 | 特願平5-200107 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
ZD
(C08L)
P 1 651・ 121- ZD (C08L) P 1 651・ 534- ZD (C08L) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-11-01 |
登録番号 | 特許第3364995号(P3364995) |
権利者 | JSR株式会社 |
発明の名称 | 難燃性樹脂組成物 |
代理人 | 谷口 直也 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 小島 清路 |
代理人 | 谷口 直也 |