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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 発明同一  C09J
管理番号 1096356
異議申立番号 異議2003-70884  
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-07 
確定日 2004-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3335471号「αーシアノアクリレート接着剤組成物」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3335471号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 同請求項3ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3335471号の請求項1ないし10に係る発明は、特願平5-281837に基づく優先権を主張して(優先日 平成5年10月14日)、平成6年4月7日に出願し、平成14年8月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、東亞合成株式会社により特許異議の申立てがあり、平成15年8月20日付けで取消しの理由が通知されたものである。

2.特許異議の申立てについての判断

(1)本件発明

本件請求項1ないし10に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 α-シアノアクリレートに、下記一般式(1)
【化-1】

(式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立に炭素数1〜3の置換されていてもよいアルキル基を表わす。)で示されるフタル酸エステルを5〜55重量%含有することを特徴とするα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項2】 フタル酸エステルを10〜50重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項3】 以下の(a) 、(b) 及び/又は (c)を更に含有することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
(a) エラストマー
(b) 下記一般式(2)
【化-2】(略)
(式中、X1 およびX2 は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換若しくは非置換のアルキル、アルケニル、アリール又はアラルキル基を示す。pは1以上の整数、qは2以上の整数を示し、末端は環形成されていてもよい。)
なる繰り返えし単位を有する化合物から選ばれた1種以上
(c) 下記一般式(3)
【化-3】(略)
(式中、rは2〜6の整数を表し、少なくとも2ケのヒドロキシ基は、隣接位置にあるものとする。Yは水素原子、置換若しくは非置換のアルキル、アルコキシ、カルボキシル、アルコキシカルボニル基又はハロゲン原子を表わし、sは0〜4の整数を表わす。)で示されるポリヒドロキシ化合物から選ばれた1種以上
【請求項4】 エラストマーを1〜50重量%を含有することを特徴とする請求項3に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項5】 エラストマーが、アクリル酸エステル系共重合体エラストマーである請求項3又は請求項4のいずれかに記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項6】 アクリル酸エステル系共重合体エラストマーが、アクリル酸エチルエステルを共重合体の一成分としてなる請求項5に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項7】 一般式(2)なる繰り返えし単位を有する化合物を0.005〜5重量%含有する請求項3に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項8】 一般式(3)で示されるポリヒドロキシ化合物を0.001〜1重量%含有する請求項3に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項9】 安定剤としてHBF4又はBF3 エーテル錯塩を含有する請求項1〜請求項8のいずれかに記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項10】 HBF4又はBF3 エーテル錯塩を0.0001〜0.1重量%含有する請求項9に記載のα-シアノアクリレート接着剤組成物。」

(2)特許異議の申立ての理由の概要

異議申立人 東亞合成株式会社は、本件の請求項1及び2に係る発明は、本件優先権主張日前に出願され優先権主張日後に公開された特願平4-164022号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明(甲第1号証である特開平5-331423号公報参照)と同一の発明であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、また、請求項3ないし10に係る発明は、本出願の優先権主張出願である特願平5-281837号の願書に最初に添付された明細書に記載された発明ではないので優先権は享受できず出願日が繰り下がるので、その結果、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、該発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものであり取り消されるべきものである、と主張している。

甲第1号証:特開平5-331423号公報
甲第2号証:特開平6-57215号公報
甲第3号証:特開平3-7786号公報
甲第4号証:米国特許2,784,127号明細書
甲第5号証:特開昭60-166361号公報

(3)取消理由の概要

当審における取消理由は、異議申立理由と同様で、本件の請求項1及び2に係る発明は、本件優先権主張日前に出願され優先権主張日後に公開された特願平4-164022号の願書に最初に添付された明細書に記載された発明(甲第1号証である特開平5-331423号公報参照)と同一の発明であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、また請求項3ないし10に係る発明は、本出願の優先権主張出願である特願平5-281837号の願書に最初に添付された明細書に記載された発明ではないので優先権は享受できず出願日が繰り下がり、刊行物1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物1〜5はそれぞれの番号に対応した甲号証と同じものである。

(4)請求項1及び2に係る発明の特許について

特願平4-164022号の願書に最初に添付した明細書(特開平5-331423号公報参照)には、皮膚接着トラブルが改善された接着剤組成物に係る発明が記載され、比較例1には2-シアノアクリル酸のエチルエステル70重量部にフタル酸ジメチル30重量部からなる接着剤が記載され(特開平5-331423号公報10頁の表5)、これは本件請求項1及び2に係る発明と同一の組成のものである。たしかに、比較例としてあげられているものではあるが、特開平5-331423号公報の[0053]には、「比較例1〜4 表5に記載の組成の接着剤を用いて実施例と同様に試験を行った」とあり、「皮膚接着トラブルが改善された接着剤」の発明からみれば比較例であっても、接着剤としての認識のもとで示されている比較例であるから、そこには本件請求項1及び2に係る発明と同一の発明が記載されていると認められる。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願の優先権主張日前の出願である特願平4-164022号の願書に最初に添付した明細書(特開平5-331423号公報参照)に記載された発明と同一であり、しかも、該発明をした者が本件特許出願に係る発明の発明者と同一の者ではなく、かつ、本件特許出願時における出願人と該発明の出願人とが同一の者ではないから本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反しなされたものであり、取り消すべきものである。

(5)請求項3ないし10に係る発明の特許について

イ.出願日の認定

請求項3ないし10に係る発明はエラストマーを必須成分とするものであるが、本出願の優先権主張出願である特願平5-281837号の願書に最初に添付された明細書にはエラストマーであるアクリルゴムは増粘剤の1種として挙げられているだけで、耐衝撃性、高剥離性に寄与するものとしての認識はないので、それを目的とする請求項3ないし10に係る発明は原明細書には存在せず、出願日における優先権は享受できない。したがって、該発明の出願日は平成6年4月7日と認める。

ロ.甲号各証に記載の発明

甲第1号証(特開平5-331423号公報)には、「2-シアノアクリル酸のエチルエステル70重量部にフタル酸ジメチル30重量部からなる接着剤」が記載されている。
甲第2号証(特開平6-57215号公報)には、α-シアノアクリレート系接着剤の弱点の一つである硬化物の脆性を改良し、優れた耐衝撃性、高剥離性、耐水性及び耐熱性を付与し、なおかつ、急激な増粘及び粘度低下がなく、貯蔵中の経時保存性の優れた、「α-シアノアクリレートに、一般式[1](略)で示される、少なくとも2個の水酸基は隣接位置にあるポリヒドロキシ化合物及びアクリル酸エステル系共重合体エラストマーを含有する接着剤組成物(請求項1)、及びさらに一般式[2](略)なる繰り返し単位を有する化合物を併用した接着剤組成物(請求項10)」の発明が記載され、実施例8には、エチルα-シアノアクリレートにエラストマー、ピロガロール及びポリエチレングリコール400を含む接着剤組成物が示されている。そして、[0017]には、「又必要に応じて、従来α-シアノアクリレート系接着剤に使用された充填剤、軟化剤、安定剤等を添加混合することも可能であり、例えば・・・・等の充填剤、DBP、DOP、・・・その他各種エステル類等の軟化剤、可塑剤等を1種又は2種以上添加することができる。」と説明されている。
甲第3号証(特開平3-7786号公報)には、「α-シアノアクリレートモノマー100部(重量)に対してホウフッ化水素酸を0.0001〜0.5部(重量)含有することを特徴とするα-シアノアクリレート系接着剤組成物。」(特許請求の範囲)に係る発明が記載され、ラジカル重合防止剤としてピロガロール、増粘剤としてアクリルゴム、他に、速硬化添加剤、接着強度を高めるための添加剤、硬化した接着層に柔軟性を付与するための可塑剤などが添加できることが記載されている(2頁左下欄8行〜右下欄11行)。そして実施例9にはエチルα-シアノアクリレートにエラストマー、ピロガロール及び、メトキシポリエチレングリコール(#1000)メタクリレートを含む接着剤組成物が示されている。
甲第4号証(米国特許2,784,127号明細書)には、可塑剤を含むα-シアノアクリレート接着剤において、使用しうる可塑剤としてジオクチルフタレート及びジエチルフタレートが挙げられている。
甲第5号証(特開昭60-166361号公報)には、「2-シアノアクリル酸エステルと塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体と可塑剤を含有する接着組成物」(特許請求の範囲)が記載され、使用できる可塑剤としてジブチルフタレートが示され、「ジメチルおよびジエチル・フタレイトも使用できるが、揮発度がより高いので余り望ましくない。」(7頁右上欄)と記載され、さらに、「可塑剤は実際には硬化膜中の重合したシアノアクリル酸塩/共重合体混合物を柔らかくする。・・・・可塑剤を添加しても組成物の硬化速度に著しい影響を与えることもなく、接着組成物が硬化する時に形成される接合の質にも著しい影響を与えることもないことが明らかである。」(7頁右上欄下から2行〜左下欄14行)と説明されている。

ハ.対比・判断

請求項3に係る発明(以下、「本件発明」という場合もある。)と甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を比較すると、いずれも本件発明における(a) 、(b) 及び/又は (c)を含有するα-シアノアクリレート系接着剤組成物という点では同じであるが、本件発明は、一般式(1)(略)(式中、R1 及びR2 はそれぞれ独立に炭素数1〜3の置換されていてもよいアルキル基を表わす)で示されるフタル酸エステルを5〜55重量%含有するのに対して、甲第2号証は一般式(1)とはアルキル基の炭素数が異なるフタル酸エステルであるDBP、DOP等の可塑剤を含むものである点で、また甲第3号証は柔軟性を付与する可塑剤の使用を示唆しているだけである点で相違している。
そして、甲第4号証、甲第5号証から本件発明で使用されている特定のフタル酸エステルがα-シアノアクリレート系接着剤の可塑剤として使用できること、及び甲第1号証から特定のフタル酸エステルとα-シアノアクリレートの組合せからなる接着性組成物が、それぞれ公知ではあるが、本件発明は、特定のフタル酸エステルを特定量含有することにより、硬化膜に柔軟性を付与するだけではなく接着強度においても顕著な効果を奏し得たものであることは本件明細書における実施例1と比較例1、実施例2と比較例3より明らかであるから、単に可塑剤としての認識しかない甲第2号証〜甲第5号証、及び接着剤であるという以外はなにも記載されていない甲第1号証を組み合わせてみても、甲号各証から予測できない効果を奏し得る本件発明を想到することは当業者にとって容易であるとはいえない。
なお、実施例1と比較例1、実施例2と比較例3は本件請求項1及び2に係る発明に対するものであり、請求項3に係る発明に対しては相当する比較例が存在しないが、実施例1と比較例1、実施例2と比較例3から認められる効果は請求項3に係る発明においてもこれに準ずるものと認めることに格別問題はない。
そして、請求項4ないし10に係る発明は請求項3に係る発明をさらに特定したものであるから、同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものではない。
したがって、本件請求項3ないし10に係る発明の特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものではない。

(6)むすび

以上のとおりであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
また、本件請求項3ないし10に係る発明についての特許は、取消理由並びに特許異議申立ての理由および証拠によっては特許を取り消すことができない。
そして、他に、本件請求項3ないし10に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項3ないし10に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-02-17 
出願番号 特願平6-95921
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (C09J)
P 1 651・ 161- ZC (C09J)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 橋本 栄和  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 唐木 以知良
西川 和子
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3335471号(P3335471)
権利者 田岡化学工業株式会社
発明の名称 αーシアノアクリレート接着剤組成物  
代理人 幸田 全弘  

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