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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A01D |
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管理番号 | 1096946 |
審判番号 | 無効2000-35097 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-09-10 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-02-21 |
確定日 | 2004-03-05 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2796956号発明「乗用型草刈機のカッターの制動方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2796956号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2796956号の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)についての出願は、平成4年12月29日出願の実願平4-93619号の一部を新たな出願とし、更に、特許出願に変更したものであって、平成10年7月3日に設定登録されたものである。 これに対して、請求人より、平成12年2月21日に本件無効審判の請求がなされた。 被請求人は、平成12年6月2日に訂正請求し(後日取下げ)、当審で無効理由を通知したところ、その指定期間内である平成12年10月10日に新たに訂正請求を求めた。 当審は、特許法第150条第1項の規定に基づく請求人の申立により証拠調べとして、平成13年7月12日弘前市総合学習センター弘前市教育委員会学習情報館内特許庁審判廷において、「株式会社オーレック製ラビットモアーRM82型機」(以下、検証物という。)の検証を行い、さらに、同日に同審判廷において証人佐藤裕之に対する証人尋問を行った。 2.訂正の可否に対する判断 (2-1)訂正の内容 訂正事項a:【特許請求の範囲】を次のとおりに訂正する。 「【請求項1】車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、 昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、上記車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手段と、 を有し、刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッターの制動方法であって、 上記昇降操作手段を操作することにより、上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、上記クラッチ機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする、 乗用型草刈機のカッターの制動方法。」 訂正事項b:【0007】を次のとおりに訂正する。 「【課題を解決する為の手段】 上記課題を解決し目的を達成する為に講じた本発明の手段は次の通りである。 即ち本発明は、 車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、 昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、上記車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手段と、 を有し、刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッターの制動方法であって、 上記昇降操作手段を操作することにより、上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、上記クラッチ機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする、 乗用型草刈機のカッターの制動方法である。」 訂正事項c:【0028】を次のとおりに訂正する。 「【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、本発明によれば、車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、ベルトに作用しカッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止める制動手段と、を有し、刈取作業時には刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機のカッターを制動するにあたって、昇降操作手段を操作することにより、刈取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、クラッチ機構によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたので、これによってカッターの回転停止が行われ、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトがプーリから脱落するという不具合がなくなるとともに、安全性の確保を図ることができる。」 訂正事項d:【0008】を次のとおりに訂正する。 「【作用】 例えば草刈機を搬送用のトラックに積み込む場合や、草刈作業地に凹凸が多い場合は、草刈機の下方に配置してある刈取部を昇降操作手段よって上昇させる。 上記刈取部を上昇させることによりクラッチの断作動とカッターの回転が制動される。これによってカッターの回転停止が行われベルトがプーリから外れるのを防止できるとともに、安全性の確保を図ることができる。」 訂正事項e:【0023】を次のとおりに訂正する。 「図5は草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。図1ないし図5を参照して本実施例の使用方法及び作用を説明する。 (1)操縦者が乗車し、昇降ハンドル34を操作して刈取部2の高さを草刈作業地の状態に最適の高さに調整する。」 (2-2)訂正の目的の存否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、発明を特定する事項である「カッターの回転を止める制動手段」を「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧」するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記訂正事項bないしcは、上記訂正事項aとの整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記訂正事項dないしeは、誤記の訂正を目的とするものである。 しかも、「ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止める制動手段」は、本件特許明細書の【0022】、【0026】に記載されているから、何れの訂正事項も願書に添付された明細書に記載した事項の範囲以内であり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 なお、請求人は、平成13年1月5日付け弁駁書において特許明細書【0022】、【0026】には、ブレーキシューが回動することのみ記載があるだけで、訂正請求された本件発明の構成要件「ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧」させる点は、特許請求の範囲の拡張であると主張しているが、訂正請求された本件発明の該構成要件は、訂正前の単なる制動手段を「ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧」する制動手段に訂正することにより、訂正前の本件発明を減縮したものであるから、特許請求の範囲の拡張とはいえず、請求人の主張は理由がない。 (2-3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書き及び第5項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記のとおり訂正が認められるから、本件発明は、上記「訂正事項a」に記載されたとおりのものである。 4.請求人の主張 審判請求人は、本件特許第2796956号を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠として後記の書証、検証物、人証をもって以下に示す第1及び第2の理由により無効にされるべきであると主張している。 (第1の理由) 本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反する。 (第2の理由) 本件発明は、甲第5号証ないし甲第8号証、検甲第1号証に示すとおりその出願前に日本国内で公然知られ、公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第1号及び第2号に該当する。 (4-2)証拠方法 (4-2-1)書証 甲第1号証(特開昭60-237908号公報) 甲第2号証(実願昭61-100416号(実開昭63-9823号)のマイクロフィルム) 甲第3号証(実願昭61-122623号(実開昭63-28322号)のマイクロフィルム) 甲第4号証(特開平1-101817号公報) 甲第5号証(RM82型機のパンフレットの写し) 甲第6号証(平成11年10月26日付農機新聞掲載の謹告文の写し) 甲第7号証(RM82型機の要部写真) 甲第8号証(RM82型機の使用状態の証明書) 参考資料1(米国特許第4934130号明細書及び同訳文) 参考資料2(実願昭54-117373号(実開昭56-35432号)のマイクロフィルム)(なお、平成13年2月28日付け請求人の提出した手続補正書には参考資料1とあるが、参考資料2とする。) (4-2-2)検証物 検甲第1号証(ラビットモアーRM82型機) (4-2-3)人証 証人(氏名:佐藤裕之 住所:青森県中津軽郡西目屋村大字村市字村元55-6) 5.無効理由通知の内容 平成12年6月2日に訂正された本件の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された米国特許第4,934,130号明細書(請求人提出の参考資料1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 当審が無効理由で通知した米国特許第4934130号明細書記載の発明(以下、刊行物という。)には、以下のことが記載されている。 「図面から理解されるように、モアは、カッタ・アタッチメント11と、シート12と、駆動ユニット13とを支持する前側シャーシ部10と、ギアボックス15と後車軸16とを支持する後側シャーシ部14とを有する。」(第1欄56〜59行)、 「前記バー19(図3参照)は、枢支点(ピン)20回りで回動可能であり、それぞれ、前記シャーシに固定されたプレート25に設けられた歯23,24に係合可能な二つのフック21,22を有する。」(第2欄1〜5行)、 「図2に示されているように、シャーシの一側方に配置されている前記バーは、ドロー・バー38により、シャーシに回動可能に固定された軸40に接続された三腕フオロア39に連結されている。シャーシの反対側に於いて、前記軸は、図面を参照して後述するタイプのリンク機構に作用するように構成された別のフオロア(図示せず)を支持している。 前記軸40は、更に、前記カッタ・アタッチメントのそれぞれの側方に配置された二つの平行なパイプ42を有する概してU字状のヨーク41も支持している。これらのパイプ42は、前記軸40に回動可能に固定されている。これらのパイプは、水平に延びる内側部と、上下方向に延びる外側部とを有し、パイプ43を介して互いに接続され、前記パイプ43は、刈り取り作業中に地面上に載置されるように構成された複数のローラ44の為の支持体として作用する。 前記パイプ42は、それぞれ、アングル・リンクアーム46が回動可能に固定された耳部45を有する。前記リンクアーム46の一端部は、ドロー・バー47を支持し、その他端部は前記三腕フオロア39の第1アーム48に接続されている。前記リンクアーム46の他端部は、前記パイプ42の縦部分と前記フオロア39の第2アーム50との間に延出するレバー49に回動可能に固定されている。前記リンクアーム50の前記パイプ42と接触している端部は、フオーク51として形成され、前記パイプ上で揺動するように構成され、他方、その第2端部は、前記第2アーム50のピン53がその中で揺動するスロット52を有する。前記フオロアの第3アーム54は、前記駆動ユニットと前記カツタ・アタッチメン上との間で移動するベルト(詳細には図示せず)に作用するべく、ドローバー55を介してテンションローラ56(図1)に接続されている。」(第2欄23〜53行)、 「前記カッタ・アタッチメントは、複数のプーリ66を有し、これらプーリは、それぞれ、カッタ・アタッチメントの一つのフレードを駆動し、前記シャーシは、対応の数の制動ラバー・ブロック67を有する。これらのブロックは、カッタ・アタッチメントが図2中に於いて破線で示された位置であるその非作動上方位置にまで回動された時に、前記プーリに係合するように配置されている。これらのブロックは、又、前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのためのバネ支持体としても作用し、これによって、モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」(第3欄5〜14行) 「同時に、前記ドローバー55に接続されたテンシヨンローラによってエンジンとカッタ・アタッチメントとの間の前記ベルトにテンシヨンが付与されていることにより,カッタ・アタッチメントのベルト駆動装置(図示せず)が係合される。」(第3欄44〜48行)。 6.被請求人の主張 被請求人は、上記刊行物(米国特許第4934130号明細書)について、以下のように主張している。 (6-1)「図2からも明らかなように、制動ラバーブロック67は、プーリ66の中心部分に係合するものであるために、制動効果は極めて低く、本質的にはモアが駆動される時のがたつきと騒音を回避するためのものと思われる。」(答弁書第8頁19ないし22行)、 (6-2)「刈取機の前側シャーシ部10は固定であり、カツタアタッチメント11は後部の位置が固定されて上下方向に揺動昇降する構造となっている。 このような構造では、本件発明(考案は誤記)が解決した課題、つまり「トラックの荷台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し一人では載せられない」という課題は到底解決できない。」(答弁書第8頁23行〜第9頁2行)、 (6-3)「甲各号証および参考資料には上記したような技術的課題の記載がないのであるから、甲各号証に記載された先行技術があったとしても、当業者といえども本件特許発明が解決した如き技術的課題に着目するはずもなく、当業者が技術的課題を解決するために特許請求の範囲に記載されたような解決手段に想到することは、論理的にも実際的にもあり得ないのである。」(答弁書第9頁21〜26行)、 (6-4)「「駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトがプーリから脱落するのを防止する」という技術的課題については、全く開示も示唆もされてもいないばかりか、本件特許発明の場合は、「刈取部は、カバー、カッター、従動プーリ、制動手段」を含んでいるものであることは明細書の記載からも明らかであり、従って搬送用のトラックに積み込む場合でも刈取部を昇降することによってトラックとの間に十分なクリアランスが確保できる。 これに対して、参考資料1の刈取機は、固定軸40を中心として上下方向に揺動可能なカッターアタッチメント11を備えものであり,刈取機の前側シャーシ部10は固定的であるために、カツタアタッチメント11が昇降しても前側シャーシ部10は昇降せず、また、カッターアタッチメントの固定軸10への取付部側も昇降しない。 従って、このような構造の刈取機では、「トラックの荷台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し一人では載せられない」という課題は到底解決できない。」(答弁書第10頁3〜18行)、 (6-5)「刊行物記載のモアの場合は、・・・昇降体は上記のように多くの部品を有するために当然に重量がかさみます。 しかも、充分な制動力を得るためには、・・・バー19を極めて強い力で動かす必要があります。 加えて、図2から明らかなように、制動ラバー・ブロック67は、プーリの中央部分に係合するようになっていますが、回転体の回転中心を押さえて回転の制動を行うには極めて強い力が必要・・・であります。 しかも、プーリが制動ラバー・ブロック67と係合する位置は一定箇所であり、・・・係合部分に摩擦熱が発生し、・・・それが制動効果に悪影響を与え・・・ます。 このように、刊行物記載のモアの場合は、(1)カツタ・アタッチメントと昇降体を昇降する機構や、(2)制動ラバー・ブロック67が、プーリを係合する位置とが相まって、バー19を動かしてカツタ・アタッチメントと昇降体を上昇させ、プーリに制動ラバー・ブロック67を係合させて、ベルトが外れないように短時間で的確にプーリの制動を行うことは極めて困難です。」(意見書第4頁19行〜第5頁15行)、 (6-6)「これに対して、本件発明の場合は、上記のようにブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止めるものであり、ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧してカッターの回転制動作動も行われるようになっているものです。ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧することが効率よく制動効果があることは、自転車の場合或いは自動車のディスクブレーキの場合からも明らかであり、しかもブレーキシュー側を動かすのですから動かす部品数も少なく、僅かな力でも充分な制動効果を得ることができます。 そればかりか、ブレーキシューに対して従動プーリが係合する位置は一定箇所ではなく従動プーリの回転によって常に変化し(一回転すると元に戻ります)、ブレーキシューとの接触部分以外は空気にさらされ冷却されることから、刊行物記載のモアのように、摩擦熱が蓄熱することによる制動効果の低減もありません。」(意見書第5頁16行〜第6頁2行)、 (6-7)「本件特許の場合は、「刈取部の垂直方向への昇降ストロークを大きくした乗用型の草刈機のカッターは、水平回転する駆動プーリからベルトを介して駆動されている、水平回転する従動プーリによって駆動されている。駆動プーリは車体側に設けてあり、従動プーリは昇降する刈取部側に設けてある。刈取部の下降時、つまり刈取作業時には駆動プーリと従動プーリとは、ある範囲内で同一平面に近い位置で刈高が調整され、伝動効率が高く、かつベルトがプーリから外れにくいように設定されている。この為刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は駆動プーリと従動プーリとは高さの位置に大きな違いが生じる。その際にベルトにテンションがかかっているとベルトがプーリから外れてしまう。 また、刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は危険防止や刃の破損を防止する為にカッターの回転を制動する必要がある。その場合に刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動とカッターの制動とを行なうことができれば便利であるばかりでなく上記したようにベルトがプーリから外れるのを防止できる。」 という技術的課題を解決すべく、その解決手段として上記2.の構成を採用し、その結果、 「カッターの回転停止が行われ、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトがプーリから脱落するという不具合がなくなるとともに、安全性の確保を図ることができる。」という効果を奏します。」(意見書第6頁7〜27行) (6-8)「これに対して刊行物記載のモアの場合は、上記のような構成ですから、・・・本件発明のように短時間で確実に従動プーリの回転を停止させることはできず、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトがプーリから脱落するという不具合を解消することはできません。」(意見書第7頁1〜4行) 7.当審の判断 本件発明を分説すると、次のとおりである。 A:車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、 B:昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、 C:上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、 D:上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、上記車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、 E:該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、 F:上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、 G:ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手段と、 を有し、 H:刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッターの制動方法であって、 I:上記昇降操作手段を操作することにより、上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、上記クラッチ機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して制動手段により該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする、 J:乗用型草刈機のカッターの制動方法。 本件発明と上記刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物の「プーリ66」が本件発明の「従動プーリ」に、「ドロー・バー38、三腕フォロア39、軸40、ヨーク41、パイプ42、43、アングルリンクアーム46、ドロー・バー47、レバー49」が「昇降手段」に、「カッタ・アタッチメント11」が「刈取部」に、「バー又はハンドル19」が「昇降操作手段」に、「テンションローラ56」が「クラッチ機構」に、「制動ラバー・ブロック67」が「制動手段」に、それぞれ相当し、水平方向に回転する「駆動プーリ」、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられている「ベルト」も刊行物の「好適な実施例の説明」及び「図面」に記載されていることから、両者は、上記A〜Fの点、及び、下記相違点1,2を除くG〜Jの点で一致し、次の各点で一応、相違する。 (相違点1) 上記G、Iのうち、本件発明の「制動手段」はブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧するのに対し、刊行物記載の「制動手段」は機体に固定されたラバーブロックで従動プーリ側面を押圧している点。 (相違点2) 上記H、Jのうち、本件発明が、乗用型草刈機のカッターの制動方法であるのに対し、刊行物記載の発明は、方法ではない点。 上記(相違点1)を検討すると、移動農機において、「制動手段」がブレーキシューの動きにより従動プーリ周面を押圧するものは、周知慣用の技術にすぎない。 例えば、請求人が提出した甲第2号証(実願昭61-100416号(実開昭63-9823号)のマイクロフィルム、以下、周知例1という。)には、第7ページ10行〜第8頁5行の記載によれば、本件発明と同様の乗用型刈取機において、「クラッチレバー(23)をクラッチ切り位置に切換えると、テンションアームが(18)が部材(24)と一体的に揺動してテンションプーリ(19)のベルト(14)側への付勢を解除し、入力プーリ(10a)への動力の伝達を切断する一方、部材(24)がベルト(14)の外方へ揺動したことから操作部(25a)との接当箇所もそれと同時に外方に移動し、前記ブレーキ用バネ(28)は、その収縮力によってブレーキアーム(26)のブレーキパッド(27)が入力プーリ(10a)を押圧するように作動する」制動手段が記載されており、また、同じく請求人提出の平成13年2月28日付け手続補正書に添付された(実願昭54-117373号(実開昭56-35432号)のマイクロフィルム、以下、周知例2という。)実用新案登録請求の範囲には、本件発明と同一の技術分野である移動農機において、「受動側回転部材(2)に対する制動具(3)を制動作動姿勢に付勢して設け、この制動具(3)を、高低何れの走行状態においても、クラッチ入り操作に連係して、前記付勢力に抗して自動的に可逆的に非制動作用姿勢に切換える連係機構(4)を設け、・・・前記制動具(3)は、一方の受軸プーリ(2A)周面に直接、圧接されるものである」ことが記載されており、何れにも、本件発明と同一技術分野に属する移動農機において、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧する制動手段が記載されている。 したがって、(相違点1)に関し、本件発明は、刊行物記載の発明において、制動手段を単に周知慣用技術に転換したにすぎない。 上記(相違点2)を検討すると、本件発明が「乗用型草刈機のカッターの制動方法」(方法)であるのに対して、刊行物記載の発明は「草刈機」(もの)である点で相違しているが、刊行物記載の発明は制動手段の具体的構成を除いて、本件発明と同一の構成を有するのであるから、この点は、単なるカテゴリーの相違にすぎない。 したがって、(相違点2)に関し、本件発明は刊行物記載の発明と実質的に異ならない。 8.被請求人の主張について (6-1)について。 刊行物には、確かに、「これらのブロックは、又、前記上方位置に於けるカッタ・アタッチメントのためのバネ支持体としても作用し、これによって、モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」とも記載されている。しかし、「制動ラバーブロック」、「これらのブロックは、カッタ・アタッチメントが図2中に於いて破線で示された位置であるその非作動上方位置にまで回動された時に、前記プーリに係合するように配置されている。」と制動する作用が先に記載され、次いで「・・・又、モアが駆動される時のがたつきと騒音とが回避される。」と記載されているとおり、該ブロックは本質的には制動手段であるから、被請求人の主張は理由がない。 (6-2)、(6-4)について。 本件発明の場合は、明細書の記載から「刈取部は、カバー、カッター、従動プーリ、制動手段」を含んでいるものであると、被請求人は、主張する。しかし、特許請求の範囲には、制動手段は刈取部と並列に記載され、刈取部が、制動手段を含んでいるとは記載されていないから、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。 また、被請求人は、本件発明の課題は、実施例記載のような前輪と後輪との間に刈取部が存在するものを前提にして「トラックの荷台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し一人では載せられない」ことを解決することとしている。しかし、請求項1には、「車体下方に・・・設けてある刈取部」と記載されているだけで、前輪と後輪との間に刈取部が存在する構成は、請求項1に記載されておらず、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから、本件発明の課題を検討するまでもない。 (6-3)、(6-7)、(6-8)について。 確かに刊行物には本件発明の技術的課題の記載がないが、両者の構成が制動手段の具体的構成を除いて一致するのであるから、刊行物記載の発明は本件発明と同じ機能を果たし、本件発明が刊行物記載の発明であるとの認定を覆すことにはならない。 また、刊行物には、「ベルトがプーリから脱落するのを防止するため」との作用効果の記載はないが、前述のように、移動農機のベルト機構において、クラッチ機構と、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して回転を止める制動手段とを連動したものが周知であり(上記周知例1、2参照)、これらの周知例においてベルトがプーリから脱落するのを防止することは明らかであるから、前述と同様に、本件発明は、刊行物記載の発明において、制動手段を単に周知慣用技術に転換したにすぎない。 さらに、被請求人は、本件発明が短時間で確実に従動プーリの回転を停止させることができるとの新たな主張をしているが、この点に関し、本件発明は、請求項1に「従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、・・・従動プーリ周面を押圧して制動手段により該カッターの回転制動作動も行われるようにした」と記載されているだけで、刊行物記載の発明も「従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、・・・従動プーリを制動手段により該カッターの回転制動作動も行われるようにした」点では異ならず、上記主張は認められない。 (6-5)、(6-6)について。 被請求人は、本件発明の制動手段がブレーキシューで従動プーリ周面を押圧するものであるから、動かす部品数も少なく、僅かな力でも充分な制動効果を得ることができ、摩擦熱が蓄熱することによる制動効果の低減もない旨の主張している。しかし、制動手段がブレーキシューで従動プーリ周面を押圧するものは、被請求人も自認するように自転車又は自動車において知られており、上述のように、本件発明と同一技術分野に属する乗用型草刈機等の移動農機においても、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧する制動手段が周知であり、その効果も自明なことから、刊行物記載の発明を設計変更したものにおいて当然に奏しうる作用効果にすぎない。 9.むすび 上記7.記載のとおり、本件発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、他の理由を検討するまでもなく、特許を受けることができないものであり、同法123条第1項第2号に該当する。 審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 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発明の名称 |
(54)【発明の名称】 乗用型草刈機のカッターの制動方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、 昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、上記車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手段と、 を有し、刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッターの制動方法であって、 上記昇降操作手段を操作することにより、上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、上記クラッチ機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする、 乗用型草刈機のカッターの制動方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は乗用型草刈機のカッターの制動方法に係り、更に詳しくは昇降操作手段を操作することにより、刈取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、クラッチ機構によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ制動手段によりカッターの回転制動作動も行われるようにした、乗用型草刈機のカッターの制動方法に関する。 【0002】 【従来の技術とその課題】 芝や草を刈るために乗用型の草刈機が使用されている。従来の乗用型草刈機は刈取部が昇降できないか、昇降できても昇降のストロークが少なかった。このためトラックの荷台に立てかけられた傾斜板の上を走らせてトラックに載せる場合に傾斜板の上端部で刈取部が接触し一人では載せられない課題があった。 この課題は刈取部の昇降ストロークを大きくすることによって解決できる。 【0003】 本発明者は刈取部の垂直方向への昇降ストロークを大きくした乗用型の草刈機を開発した。この乗用型の草刈機のカッターは水平回転する駆動プーリからベルトを介して駆動されている、水平回転する従動プーリによって駆動されている。駆動プーリは車体側に設けてあり、従動プーリは昇降する刈取部側に設けてある。そうして刈取部の下降時、つまり刈取作業時には駆動プーリと従動プーリとは、ある範囲内で同一平面に近い位置で刈高が調整され、伝動効率が高く、かつベルトがプーリから外れにくいように設定されている。 【0004】 この為刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は駆動プーリと従動プーリとは高さの位置に大きな違いが生じる。その際にベルトにテンションがかかっているとベルトがプーリから外れてしまう。 【0005】 また、刈取部の上昇時、つまり草刈機の移動時は危険防止や刃の破損を防止する為にカッターの回転を制動する必要がある。その場合に刈取部を上昇させる動作でクラッチの断作動とカッターの制動とを行なうことができれば便利であるばかりでなく上記したようにベルトがプーリから外れるのを防止できる。 【0006】 【発明の目的】 そこで本発明の目的は、昇降操作手段を操作することにより、刈取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、クラッチ機構によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ制動手段によりカッターの回転制動作動も行われるようにすることにある。 【0007】 【課題を解決する為の手段】 上記課題を解決し目的を達成する為に講じた本発明の手段は次の通りである。 即ち本発明は、 車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、 昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、 上記駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、 上記従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、上記車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、 該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、 上記ベルトに作用し上記カッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、 ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧して上記カッターの回転を止める制動手段と、 を有し、刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機の上記カッターの制動方法であって、 上記昇降操作手段を操作することにより、上記刈取部を垂直方向に上昇させて上記従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、上記クラッチ機構により上記ベルトの緊張力を緩和して上記カッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつ上記ブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたことを特徴とする、 乗用型草刈機のカッターの制動方法である。 【0008】 【作用】 例えば草刈機を搬送用のトラックに積み込む場合や、草刈作業地に凹凸が多い場合は、草刈機の下方に配置してある刈取部を昇降操作手段よって上昇させる。 上記刈取部を上昇させることによりクラッチの断作動とカッターの回転が制動される。これによってカッターの回転停止が行われベルトがプーリから外れるのを防止できるとともに、安全性の確保を図ることができる。 【0009】 【実施例】 本発明を図面に示した乗用型の草刈機に基づき更に詳細に説明する。 図1は本発明を実現する為の草刈機の一実施例を示す概略側面図、図2は駆動部の構造を示す要部裏面図、図3は昇降レバー及びクラッチレバーの構造を示す要部斜視図、図4は駆動部の構造を示す説明図である。 符号Aは草刈機で、フレーム1を有している。フレーム1の前後部には、前部車軸10及び後部車軸10aが設けてある。各車軸10、10aには、前輪W1及び後輪W2が取付けてある。 【0010】 フレーム1後部には、後部車軸10a及び後述するカッターを駆動する原動機Eが搭載してある。原動機Eの冷却風ダクトDは下方に導出してある。 原動機Eの駆動軸13(図2に図示)にはプーリP1、P2が取付けてある。プーリP2とフレーム1後部裏側に配設してあるミッションMのプーリP3にはベルトB1が巻き掛けてある。14はクラッチを構成しているテンションプーリである。なおプーリP1と、後述するカッターの垂直軸の従動プーリ51との間にはベルトB2が巻き掛けてある。 【0011】 フレーム1前部には、前輪W1を操舵するステアリングSが設けてある。また、12はブレーキペダル、120はブレーキペダルと連動して走行ブレーキの作動と走行クラッチの切断とを一緒に行なうようにした作動ロッド、Bはバッテリーである。 【0012】 フレーム1の中間部上部には、上方に盛り上げて形成してある座枠板15が取付けてある。座枠板15の上部には座席11が取付けてある。座枠板15の下方には座枠板15とほぼ同一形状に形成され、上面カバー201と共に後述する垂直軸50を支持する支持板15aが配設してある。なお、支持板15aは後述するカバー20の上部に取付けてある。また、座枠板15と支持板15aは同じ金型を使用して成形されており、コストダウンを図っている。 【0013】 フレーム1の中間部下側には刈取部2が配設してある。刈取部2は、ほぼ円盤状のカバー20を備えている。カバー20は側面カバー200と上面カバー201を有している。なお、前記した支持板15aは上面カバー201の上に設けてある。側面カバー200は前部側が解放されており、後部側及び進行方向の左方側は、側面カバー200で塞がれている。カバー20の右方側には、側面カバー200の一部を構成する側部カバー24が設けてある。側部カバー24は上方へ回動できるようにしてあり、カバー20右側を開閉できる。 【0014】 カバー20を含む刈取部2は、取付けピン30a、30b、30c、30d及びリンク31、32、33(フレーム1の左右に設けてある)からなるリンク装置3により、昇降できるようにフレーム1に取付けてある。 リンク33の上端部には長孔330が設けてある。リンク33は、長孔330を回動支持体340のピン341にスライド可能に嵌め入れて取付けてある。回動支持体340の元部は支持板43に支軸342を介して回動可能に取付けてある。また回動支持体340には、昇降操作体である昇降ハンドル34が元部を中心軸として回動可能に取付けてある。 【0015】 昇降ハンドル34は支持板43に隣設してある円弧状の調整板35の調整溝350に挿通してある。調整溝350には、下部の四箇所に半円状に切欠された掛止部351が設けてある。また調整溝350上端部には、掛止部352が設けてある。 【0016】 上記構造によると、昇降ハンドル34を上方に引き上げればカバー20を上昇させることができる。なお、刈取部2は引上げバネ25によって常時上方へ引かれており、手操作により昇降ハンドル34を引き上げる際に要する力が軽減されると共に、リンク装置3等各部の負担も軽減される。 【0017】 支持板43の上部には、支軸44を介してクラッチ機構を作動する手段であるクラッチレバー41の後部寄りが回動可能に取付けてある。クラッチレバー41のうち支軸44寄りには調整板35側へ突出して係合ピン42が設けてある。係合ピン42先端部は回動する回動支持体340に接触する位置まで突出させてある。クラッチレバー41後端部には係合ピン42とは反対側へ突出して取着ピン45が設けてある。取着ピン45には後述する操作ワイヤWの一端部が取付けられる。 【0018】 図3においては操作ワイヤWを引っ張っている場合を図示している。そしてこの状態から、昇降ハンドル34を引き上げて掛止部352に掛止すれば回動支持体340が係合ピン42を押し上げ、クラッチレバー41を上方へ回し、操作ワイヤWを緩める。これによってクラッチ機構を断方向に作動させる。 【0019】 カバー20の中央部には、軸受(図示省略)を介して垂直軸50が取付けてある。また、垂直軸50は軸受(図示省略)を介して支持板15aを貫通させてあり、上端部には従動プーリ51が取付けてある。従動プーリ51は座枠板15と支持板15aの間の空間部に位置している。従動プーリ51には上記したとおりベルトB2が巻き掛けてあり、原動機Eにより駆動される。 【0020】 垂直軸50下端部にはカッターCが取付けてある。カッターCはカッターバー21を有し、カッターバー21は垂直軸50に水平に取付けてある。カッターバー21はカバー20の下方に位置し、その両端部には軸ピン23を介して刈刃22が揺動可能(固定も可能)に取付けてある。なお、両刈刃22の刃先は、カバー20内に収まるように設定してある。 【0021】 原動機E側のプーリP1と従動プーリ51に巻き掛けてあるベルトB2のプーリP1側寄りには、クラッチ機構を構成しているテンションプーリ16が配設してある。テンションプーリ16はアーム160先部に取付けてあり、アーム160の中間部は軸ピン161によって回動可能に軸支してある。アーム160後端部には、操作ワイヤWの先端部が取付けてある。操作ワイヤWの中間部はチューブT内に通してあり、元端部は上記クラッチレバー41の取着ピン45に取付けてある。 【0022】 また、アーム160の軸ピン161より先部には軸ピン162を介してブレーキロッド170の後端部が取付けてある。ブレーキロッド170の先端部はフック状に形成され、支軸171を介して回動可能に取付けてある、制動手段であるブレーキシュー17の一部に掛けてある。ブレーキシュー17は、アーム160が回動してテンションプーリ16によるベルトB2へのテンションを解除したときに前方へ回動し、従動プーリ51周面を押圧してブレーキをかける。またアーム160が回動しテンションプーリ16によりベルトB2にテンションがかかったときには後方へ回動し、ブレーキを解除するようにしてある。 【0023】 図5は草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。図1ないし図5を参照して本実施例の使用方法及び作用を説明する。 (1)操縦者が乗車し、昇降ハンドル34を操作して刈取部2の高さを草刈作業地の状態に最適の高さに調整する。 【0024】 (2)草刈作業中、作業地の凸部などが刈取部2に接触しても、リンク33の長孔330の作用により刈取部2のみが跳ね上がり、力を逃がして各部の損傷を防止する。 【0025】 カバー20の前方は解放されているので、図5に示すように長い草を刈るときでも草の倒れが少なく、刈取りやすい。 カバー20の側部カバー24を上方に折り曲げて側部を開放すると刈刃22の交換が容易である。 更にはカッターCの刈刃22は揺動自在に取付けてあるので、路石などの硬いものに当たっても逃げが利き、損傷を防止できる。 【0026】 (3)草刈機を搬送用トラックに積載する際に、作業時の高さのままでは刈取部2が架台等に接触するような場合や、作業地に凹凸が多い場合などは刈取部2を上昇させる。 その際は、昇降ハンドル34を引き上げて掛止部352に掛止する。これにより回動支持体340が係合ピン42を押し上げ、クラッチレバー41を上方へ回し、操作ワイヤWを緩める。操作ワイヤWが緩むとアーム160が回動し、テンションクラッチ16によるベルトB2へのテンションが解除され、ベルトB2が緩み、作動中であってもカッターCの作動は停止する。このときブレーキシュー17が回動して従動プーリ51を停止させる。 【0027】 またベルトB2が緩むことにより、従動プーリ51と駆動プーリP1との間に大きな高さの差が生じた状態でもベルトB2は脱落しない。 なお、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において数々の変形が可能である。 【0028】 【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、本発明によれば、車体側に設けてあり、水平方向に回転する駆動プーリと、昇降する刈取部側に設けてあり、水平方向に回転する従動プーリと、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトと、従動プーリによって駆動されて回転するカッターを有し、車体下方に昇降手段を介して垂直方向に昇降可能に設けてある刈取部と、該刈取部を昇降させる昇降操作手段と、ベルトに作用しカッターへの駆動力を断続するクラッチ機構と、ブレーキシューで従動プーリ周面を押圧してカッターの回転を止める制動手段と、を有し、刈取作業時には上記刈取部を下降させて作業を行う乗用型草刈機のカッターを制動するにあたって、昇降操作手段を操作することにより、刈取部を垂直方向に上昇させて従動プーリを刈取作業時とは異なる平面に移動させた後に、クラッチ機構によりベルトの緊張力を緩和してカッターへの駆動力を「断」する作動が行われ、かつブレーキシューが動くことにより従動プーリ周面を押圧して該カッターの回転制動作動も行われるようにしたので、これによってカッターの回転停止が行われ、駆動プーリと従動プーリの間に回し掛けられているベルトがプーリから脱落するという不具合がなくなるとともに、安全性の確保を図ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明を実現する為の草刈機の一実施例を示す概略側面図である。 【図2】 駆動部の構造を示す要部裏面図である。 【図3】 昇降レバー及びクラッチレバーの構造を示す要部斜視図である。 【図4】 駆動部の構造を示す説明図である。 【図5】 草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。 【図6】 従来の草刈作業時のカバー及びカッターの作用を示す説明図である。 【符号の説明】 A 草刈機 2 刈取部 20 カバー 21 カッターバー 22 刈刃 24 側部カバー 25 引上げバネ C カッター 34 昇降ハンドル 41 クラッチレバー 50 垂直軸 51 従動プーリ B2 ベルト |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2001-09-06 |
結審通知日 | 2001-09-12 |
審決日 | 2001-09-26 |
出願番号 | 特願平7-350558 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
ZA
(A01D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小島 寛史、関根 裕 |
特許庁審判長 |
木原 裕 |
特許庁審判官 |
平瀬 博通 藤井 俊二 |
登録日 | 1998-07-03 |
登録番号 | 特許第2796956号(P2796956) |
発明の名称 | 乗用型草刈機のカッターの制動方法 |
代理人 | 梶原 克彦 |
代理人 | 今村 定昭 |
代理人 | 坂本 榮一 |
代理人 | 梶原 克彦 |