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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) B23K
管理番号 1096947
審判番号 無効2003-35151  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-14 
確定日 2004-03-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2939083号発明「金属部材の肉盛り補修装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2939083号の請求項5に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2939083号の請求項1に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第2939083号の請求項1〜請求項5に係る発明についての出願は、平成5年3月18日に出願され、同11年6月11日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
2 その後、請求人ルックテックジャパン株式会社より、請求項1及び請求項5に係る特許に対して、特許無効の申立てがなされた。そして、当審より被請求人の提出した審判事件答弁書及び訂正明細書を添付した訂正請求書を請求人に送付して弁駁を求めたが、指定期間内に応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正事項
(1)訂正事項a
本件特許の設定登録時の明細書(以下「登録明細書」という。)の特許請求の範囲に記載の、
「【請求項1】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および不活性ガスのホースと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有するガン型電極棒回転式アプリケーターとからなる金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項2】 請求項1に記載の金属部材の肉盛り補修装置において、前記ガン型電極棒回転式アプリケーターは、前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端部分が絶縁性のスリーブで形成されており、前記カバー筒は該スリーブに外嵌めされていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項3】 請求項1または2に記載の金属部材の肉盛り補修装置において、前記ガン型電極棒回転式アプリケーターは、前記ガン型ハウジングの把持部Hの前面に回転速度調節機構付きスイッチSが設けられていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の金属部材の肉盛り補修装置において、前記カバー筒の先端に樹脂製漏斗状キャップを着脱自在に取り付けたことを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項5】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および不活性ガスのホースと、
円筒型ハウジング、該円筒型ハウジングに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記円筒型ハウジング内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記円筒型ハウジングの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有する小型電極棒回転式アプリケーターとからなる金属部材の肉盛り補修装置。」を、
「【請求項1】 電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、 商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーおよび不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および前記不活性ガスのホースと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出するガン型電極棒回転式アプリケータ-とからなり、前記メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、前記電極棒が回転するとともに前記不活性ガスが前記ホースを経て前記カバー筒内に供給されるものであり、前記スイッチは前記把持部Hの前面に設けられている金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項2】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、 該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、 それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および不活性ガスのホースと、 円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有するガン型電極棒回転式アプリケータ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、
前記ガン型電極棒回転式アプリケーターは、前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端部分が絶縁性のスリーブで形成されており、前記カバー筒は該スリーブに外嵌めされていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項3】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、 該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、 それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および不活性ガスのホースと、 円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有するガン型電極棒回転式アプリケータ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、
前記ガン型電極棒回転式アプリケーターは、前記ガン型ハウジングの把持部Hの前面に回転速度調節機構付きスイッチSが設けられていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項4】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、 該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、 それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および不活性ガスのホースと、 円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有するガン型電極棒回転式アプリケータ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、
前記カバー筒の先端に樹脂製漏斗状キャップを着脱自在に取り付けたことを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項5】 電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、 商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および前記不活性ガスのホースと、
円筒型ハウジング、該円筒型ハウジングに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記円筒型ハウジング内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記円筒型ハウジングの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出する小型電極棒回転式アプリケータ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置。」と訂正する。
(アンダーラインを付した部分は、訂正箇所である。)
なお、訂正明細書における請求項1及び請求項5の「前記電極材」の記載を、「電極材」の誤記として、認定した。
(2)訂正事項b
発明の名称の「金属部材の肉盛り補修方法、その補修方法によって補修された金属部材および補修装置」を「金属部材の肉盛り補修装置」と訂正する。
(3)訂正事項c
登録明細書の段落番号【0005】の記載を次の如く訂正する。
「【課題を解決するための手段】この発明の金属部材の肉盛り補修装置は、電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により前記電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーおよび不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、該制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているアースケーブルと、それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリード線および前記不活性ガスのホースと、円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出するガン型電極棒回転式アプリケータ-とからなり、前記メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、前記電極棒が回転するとともに前記不活性ガスが前記ホースを経て前記カバー筒内に供給されるものであり、前記スイッチは前記把持部Hの前面に設けられている。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
ア 請求項1について
(ア) 訂正事項a中の「電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、」を付加する訂正は、「金属部材の肉盛り補修装置」が、「電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置」であると限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落【0015】の「電極棒DをワークWの被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、火花放電によりプラス電位とした電極材を溶融させてマイナス電位とした導電性のワークWの表面にアルゴンガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる。」、及び段落番号【0019】の「不活性ガスはアルゴンガス以外のガスであってもよい。」より、登録明細書の範囲内においてされたものである。
(イ) 訂正事項a中の「、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバー」を付加する訂正は、「商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置」が、更に「前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバー」が設けられたものであると限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落【0008】の「制御装置1は、ケース10内に整流回路、パワーコントロール回路、安全回路等を収容し、ケース1の前面には電源をオン、オフするメインスイッチレバー15、」及び段落番号【0007】の「商業電源」より、登録明細書の範囲内においてされたものである。
(ウ) 訂正事項a中の「商業電源および前記不活性ガス」、「他端が前記被補修金属部材への」、「リード線および前記不活性ガスのホース」及び「前記電極棒を掴むためのチャック」のアンダーラインの「前記」を付加する訂正は、それぞれ「不活性ガス」、「被補修金属部材」又は「電極棒」が前記のものであることを明りょうにするものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、明らかに登録明細書の範囲内においてされたものである。
(エ) 訂正事項a中の「し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出する 」を付加する訂正は、電極棒とカバー筒との位置について限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落【0013】の「チャック34には・・・・・電極棒Dが取り付けられる。 」及び図1〜図5の、電極棒の先端が、カバー筒より突出していることより、登録明細書及び図面の範囲内においてされたものである。
(オ) 訂正事項a中の「り、前記メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、前記電極棒が回転するとともに前記不活性ガスが前記ホースを経て前記カバー筒内に供給されるものであり、前記スイッチは前記把持部Hの前面に設けられてい」るを付加する訂正は、メインスイッチレバーとスイッチの関連構成により、電極棒が回転し、不活性ガスがカバー筒内に供給されること及びスイッチの取付け位置を限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落番号【0009】の「把持部Hの前面には回転速度調節機構付スイッチSが設けられており、」、段落番号【0014】の「被補修金属部材であるワークWの修理作業は、図1に示す如く、ワーク把持具14でワークWの一部分を掴み、制御装置1のメインスイッチレバー15をオンさせるとともにパワーコントロールスイッチ16で出力レベルを設定し、出力パルス電圧の周波数を周波数調整摘み17で手動調節し、アプリケータ3の回転速度を調整してスイッチSを押す。これにより、電極棒Dが所定の回転速度で回転するとともに火花放電用電源線23、24の電源は前記ブラシ42、出力軸33およびチャック34を介して電極捧Dにパルス電圧が印加される。これと同時にアルゴンガスがアルゴンガス口19からガスホース22を経てカバー筒5内に供給され、キャップ55の先端から噴出する。」、段落番号【0018】の「スイッチS…」、及び段落番号【0019】の「不活性ガスはアルゴンガス以外のガスであってもよい。」より、登録明細書の範囲内においてされたものである。
イ 請求項2について
登録明細書の請求項2の従属形式を独立形式に、訂正したものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、明らかに登録明細書の範囲内においてされたものである。
ウ 請求項3について
登録明細書の請求項3の従属形式を、登録明細書の請求項1のみを引用するとともに、その記載形式を独立形式に、訂正したものである。この訂正は、引用している請求項2を削除する訂正であり、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、登録明細書の範囲内においてされたものである。
エ 請求項4について
登録明細書の請求項4の従属形式を、登録明細書の請求項1のみを引用するとともに、その記載形式を独立形式に、訂正したものである。この訂正は、引用している請求項2及び3を削除する訂正であり、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、登録明細書の範囲内においてされたものである。
オ 請求項5について
(ア) 訂正事項a中の「電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、」を付加する訂正は、「金属部材の肉盛り補修装置」が、「電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置」であると限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落【0015】の「電極棒DをワークWの被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、火花放電によりプラス電位とした電極材を溶融させてマイナス電位とした導電性のワークWの表面にアルゴンガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる。」、及び段落番号【0019】の「不活性ガスはアルゴンガス以外のガスであってもよい。」より、登録明細書の範囲内においてされたものである。
(イ) 訂正事項a中の「商業電源および前記不活性ガス」、「他端が前記被補修金属部材への」、「リード線および前記不活性ガスのホース」及び「前記電極棒を掴むためのチャック」のアンダーラインの「前記」を付加する訂正は、それぞれ「不活性ガス」、「被補修金属部材」又は「電極棒」が前記のものであることを明りょうにするものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、明らかに登録明細書の範囲内においてされたものである。
(ウ) 訂正事項a中の「し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出する 」を付加する訂正は、電極棒とカバー筒との位置について限定しようとするものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正は、登録明細書の段落【0013】の「チャック34には・・・・・電極棒Dが取り付けられる。 」及び図1〜図5の、電極棒の先端が、カバー筒より突出していることより、登録明細書及び図面の範囲内においてされたものである。
また、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項b
訂正事項bについては、「発明の名称」を「特許請求の範囲に記載の発明」との整合性を図るために訂正したもので、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
また、この訂正は、明らかに登録明細書の範囲内においてされたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項c
訂正事項cについては、請求項1の訂正に伴い、整合性を図るために訂正したもので、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、明らかに登録明細書の範囲内においてされたものである。
また、この訂正は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 独立特許要件
上記2(1)のウ及びエの請求項3及び請求項4についての訂正は、特許無効の申立てがなされていない請求項についての訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、独立特許要件について検討する。
(1)請求項3について
請求項3に係る発明の構成要件である「前記ガン型電極棒回転式アプリケーターは、前記ガン型ハウジングの把持部Hの前面に回転速度調節機構付きスイッチSが設けられている」は、後記第5の刊行物1〜刊行物5のいずれにも記載されていないから、請求項3に係る発明を、刊行物1〜刊行物5のいずれかに記載された発明であるとも、刊行物1〜刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
(2)請求項4について
請求項4に係る発明の構成要件である「前記カバー筒の先端に樹脂製漏斗状キャップを着脱自在に取り付けた」は、後記第5の刊行物1〜刊行物5のいずれにも記載されていないから、請求項4に係る発明を、刊行物1〜刊行物5のいずれかに記載された発明であるとも、刊行物1〜刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
4 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第134条第2項並びに同条第5項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
第3 請求人の主張
これに対して、請求人は、請求項1及び請求項5に係る特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、請求項1及び請求項5に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証〜甲第5号証を提出している。
第4 本件特許発明
上記のように訂正が認められたので、本件の請求項1及び請求項5に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明5」という。)は、上記第2の1(1)に記載された、訂正後の請求項1及び請求項5に記載されたとおりのものと認める。
第5 甲第1号証〜甲第5号証の記載
甲第1号証:「プラスチックス」、第43巻第8号、1992年8月1日発行、発行所 株式会社工業調査会、第105頁
甲第2号証:「型技術」、第7巻第9号、平成4年8月1日発行、発行所 株式会社日刊工業新聞社、第60〜61頁
甲第3号証:特開昭58-197274号公報
甲第4号証:特公昭26-4362号公報
甲第5号証:米国特許第4205211号明細書
以下、「甲第1号証〜甲第5号証」を、それぞれ「刊行物1〜刊行物5」という。
1 刊行物1
刊行物1には、次の事項が記載されている。
(1) 「金型肉盛補修機「スパークトロンW型」
本機は,放電加工機に類似した電源より特殊パルス電流を発生させ,それを回転する電極材に通電し,金型の肉盛補修部に接触する際に電極材を溶融・転移・堆積させる新しい肉盛法を行う補修機。
金型への熱入力がないため,金型の歪み,ヒケ等の熱影響がなく,誰でも高速かつ確実な肉盛りが可能。
また,肉盛金属も必要最小限ですみ,後の仕上げ加工にはヤスリ,砥石等で充分。」
(2) 図には、肉盛補修機がハンディーであること、及び金型に肉盛する際のボンベと制御装置が設けられていること。
2 刊行物2
刊行物2の第61頁には、次の事項が記載されている。
(1) 「金型肉盛補修機 スパークトロンW型
従来の金型補修のイメージを一新し,作業時間の短縮はもとより作業そのものが簡単になった金型溶接補修装置。
<特徴>
(1)装置がポータブルで,100Vの電源があればどこでも肉盛ができる。」
(2) 図には、肉盛補修機がガン型であること、及び金型に肉盛する際のボンベと制御装置が設けられていること。
3 刊行物3
刊行物3には、次の事項が、記載されている。
(1) 「(1) 被加工体表面に対して接触開離の振動が与えられる被覆材電極を配置し、前記電極と被加工体間に加工用電源を接続して間けつ的な電圧パルスを印加し発生する放電により被加工体表面に被覆材電極を溶着被覆する装置に於て、前記被覆材電極を前記接触開離方向の軸の廻りに回転させながら前記接触開離を行なわせる回転手段を振動装置の振動部に備えせしめてなることを特徴とする放電被覆装置。
(2) 前記振動装置が電磁振動装置であつて該振動装置の振動片に被覆材電極の支持軸が回転自在に支承され、該支持軸に回転手段が結合されている特許請求の範囲第1項記載の放電被覆装置。
(3)被加工体表面に対して接触開離の振動が与えられる被覆材電極を配置し、前記電極と被加工体間に加工用電源を接続して間けつ的な電圧パルスを印加し発生する放電により被加工体表面に被覆材電極を溶着被覆する装置に於て、前記被覆材電極を前記接触開離方向の軸の廻りに回転させながら前記接触開離を行う回転手段を備えるとともに被覆加工雰囲気を不活性もしくは還元性、或はこれらの混合気体、液体中雰囲気とする手段を備えたことを特徴とする放電被覆方法。
(4)不活性もしくは還元性、或はこれら混合気体もしくは液体を放電被覆部分に直接噴出せしめるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載の放電被覆方法。」(特許請求の範囲)
(2) 「 本発明は被加工体表面に対して近接接触と開離の振動が繰り返し与えられる被覆材電極を配置し前記電極と被加工体間に接触開離振動を行なうとともに、その近接接触、開離に伴なつて放電を行なわせ、被加工体表面に被覆材電極の先端接触部の溶融部分を転移溶着により被覆する放電被覆方法の改良に関する。」(第1頁右下欄第14行〜第2頁左上欄第1行)
(3) 「 従来この種放電被覆では通常電磁石と反撥バネ等により構成される振動装置、又は回転偏倚軸を有する偏倚体を回転手段により回転させる振動装置等の振動装置に被覆材電極を取り付けて被加工体表面に対向させ、上記電磁石を発振器や商用交流、或いはさらに放電用蓄電器の充放電電流や電圧等により励振させることにより、その対向方向に上下運動を行なわせて被覆材電極の先端を被加工体表面に接触開離振動を繰返し、近接接触時に同期して間隙にパルス放電を行なわせ、或いは近接時から所定開離時までに高周波電圧パルスを供給して微小パルス放電及び通電を複数回行なわせ接触時に加熱された被覆材電極の先端溶融部が被加工体と溶着した状態から離隔時に被加工体表面に溶着接着して残置することにより被覆が行なわれるもので、電極と被加工体間に相対的な走査移動又は走査加工送りを行うことにより被加工体の表面全体、もしくは必要部分に被覆層を形成させることができるものである。」(第2頁左上欄第2行〜右上欄第1行)
(4) 「 本発明はこのように点に鑑みて、種々研究を重ねた結果開発されたもので、近接接触開離の運動による少なくとも近接接触したときから開離までの期間中被覆材電極に前記接触開離方向の軸の廻りに回転運動を与えておくことにより被覆面を面粗さの少いなめらかにしてきれいな仕上り面とし、被覆厚さが厚くでき、被覆層がより緻密で、穴や弱点部分がなく、また被覆層の下の被加工体表面もあまり凹凸状とならなくて被覆を行うことができるものである。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第9行)
(5) 「 又更に本発明はアルゴンのような不活性気体もしくは水素のような還元性気体またはこれらの混合気体や、これと同等のガス、蒸気中、或はさらに液体中で被加工体に対し被覆材電極を接触開離の振動運動と回転運動を同時に与えて行なわせることを特徴とするものである。」(第2頁左下欄第10〜15行)
(6) 「 以下図面の実施例装置により本発明を説明する。第1図は本発明による1実施例装置の側断面図で、1は例えば6%Co―残部WC焼結体の如き棒状,短い円柱状又はパイプ状の被覆材電極,2は例えば鉄材等の被加工体で前記電極1と対向し、両者間に加工用電源5が接続され、間けつ的な電圧パルスが供給される。4は被覆材電極1の固定取付支持チヤツク4aを有する支持軸で、本体6部に設けられたモータ3の回転がプーリ3a,ベルト3b,及びプーリ3cを介して支持軸4へ与えられる。一方6は振動ヘツドを構成する装置本体で6aは本体6にその他端が振動可能に一端が固定され、ばね材で構成された振動片であり、振動片6aには一部に電極振動鉄片6bが固定して設けられる。7は電磁鉄芯で、前記鉄片6bが間隔を置いて対向して位置するように設けられ、又励磁用線輪7aがその一部に巻回して設けられている。8は振動片6aの図示の場合上下の振動運動を支持軸4を介して被覆材電極1に与えるための振動端結合部で、該支持軸4はボールベアリング8aにより振動片6aに回転自在に保持されている。また、被加工体2を被覆材電極1に対向した位置に設けて加工用電源5より間けつ的な高周波の電圧パルスを印加しておくか、近接接触開離に伴つて1電圧パルスによる1放電が同期して生ずるようにしておく。一方、被覆材電極1は、支持軸4に連結保持されて一体に動くようになつており、また、支持軸4はモータ3によりプーリ3a,ベルト3b,及びプーリ3cを介して軸の廻りの回転運動が与えられるとともに、電磁振動装置7の励磁用線輪7aに所定周波数等の間けつ的に励磁を与えることにより鉄片6bの吸引,開放を行い、鉄片6bと一体の振動片6aはばね材で作られ、本体6に弾性振動可能に保持されているので、鉄片6bの吸引開放にともなつて振動し、この振動を振動出力端に設けられている結合部8をへて支持軸4に与えることにより、支持軸4,即ち電極1はその軸の廻りに回転自転しつつ上下振動運動による接触開離を被加工体2に対して行なうことになる。」(第2頁左下欄第16行〜第3頁左上欄第17行)
(7) 「 従つて、被覆材電極1が被加工体2に対して下降して近接するにともない、その間隙が絶縁破壊間隙以下になると加工用電源の印加電圧により放電が発生し、被覆材電極1の先端が放電加熱と、次いで被加工体2と接触し、接触した状態での接触通電加熱とにより溶融して被加工体2に転移溶着する。このとき被覆材電極1はその軸の廻りに回転運動を行なつているから、開離前に回転により、さらにはこすりつけるような状態で放電溶着部が渦巻状に引きちぎられ、従つて従来のようにギザギザな面を残して破断するのとは相異して、この破断又は被覆面は回転こすりつけにより調整され、このような回転を伴う振動の接触開離放電により被加工体2表面をなでるように順次に走査することにより滑かな仕上り面を作成することができ、被覆の穴や弱点部分が少なく、被覆厚さも厚くて被覆層の密度も大であるから被覆量も多く、被覆下地の被加工体表面の凹凸が少なく、耐剥離強度が優れたものとなる。」(第3頁左下欄第18行〜右上欄第17行)
(8) 「 図面の第2図は、本発明方法の実施に使用する装置の異なる実施例の側断面図で、前述第1図と同一物又は同一作用物には同一の符号が付されている。
この実施例では、被覆電極1の支持軸4に回転を与えるモータを小型マイクロモータ3Aとして振動出力端の結合部8に取付部材3Bにより支持軸4に直接又は適宜のギヤボツクスを介して連結するように構成したもので、その他の各部の構成は前述第1図のものと実質上同一である。
またこの第2図の実施例に於て振動出力端の結合部8にモータ3Aを直接固定して取付け、該モータ3Aの回転出力軸に、前記支持軸4又は電極1取付チヤツク4aを取り付けるように構成すると、前記実施例に於ける振動片6aに対する支持軸4の回転自在取付ベアリング8aを省略することができる。
このような第2図及び該第2図変更構成の場合電源3からの電極1への通電は、マイクロモータ3Aの回転軸,支持軸4,チヤツク4a,又は電極1に対する適宜の構成のブラツシ通電となる。」(第3頁右上欄第18行〜左下欄第19行)
(9) 「 また本発明は、さらにこのように被覆材電極1を、被加工体2に対して接触開離すると同時に自転の回転を与える構成に於てアルゴン,窒素,炭酸ガスのような不活性気体や、水素,アンモニア,一酸化炭素等のような還元性気体,或いはこれらの混合気体,或いは又それ等の液体の噴霧中または液体中に於て被覆加工するもので、・・・・・・・」(第4頁右下欄第6〜12行)
(10) 「 尚不活性もしくは還元性,或はこれらの混合気体,若しくは液体を、直接放電被覆部分に噴出させるようにしてもよく、かかる雰囲気ガス中に収納してもよい。」(第5頁右上欄第4〜7行)
(11) 上記(6)、(8)の記載及び第2図を参照すると、加工用電源がパルス電圧を出力するパルス電圧出力端子及びアース端子を有し、パルス電圧出力端子及びアース端子の中の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が被加工体への連結部となっている第1のケーブルと、他方の端子に一端が接続された第2のケーブルが、その他端をマイクロモーターの前方に配された支持軸に接続されていることが、認められる。
上記(1)〜(11)の記載事項より、引用刊行物3には次の発明が記載されているものと認める。
被覆材電極を鉄材等の被加工体の表面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて前記被加工体の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる鉄材等の被加工体の放電被覆装置にあって、
パルス電圧出力端子及びアース端子を有する加工用電源と、
該加工用電源の出力端子及びアース端子の中の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被加工体への連結部となっている第1のケーブルと、
一端が前記加工用電源の他方の端子に接続された第2のケーブルと、
取付部材に取付けられたマイクロモーター、前記第2のケーブルの他端に接続されるとともに前記マイクロモーターの前方に配された支持軸、該支持軸の先端に装着されるとともに前記被覆材電極を掴むためのチャック、不活性ガスを被覆材電極の先端部分に噴出させる手段を有し、前記チャックには、前記被覆材電極が取り付けられた被覆材電極回転装置、
とからなる金属部材の放電被覆装置。(「刊行物3の発明」という。)
4 刊行物4
刊行物4には、次の事項が、記載されている。
(1) 「・・・・・接合すべき金屬片を合せ、その金屬片の一方と非消耗性電極棒との間に電弧を發生せしめ、電弧が一點に於て金屬片を熔融するに充分な一定時間電弧を維持し、その電弧と熔接部分との周圍を不活性ガスにて包みつつ熔接を行ひ、この作業を順次他の點に於て點熔接を繰返す電氣熔接装置にして、嘴を取付けたる銃身、銃身の中の電極棒把持部、電極棒把持部を前進せしむる部分、電極把持部を引戻す部分、不活性ガスを嘴に供給する部分、嘴及電極棒把持部を冷却する部分、銃身に連結した銃床、銃身中を滑走し電極部の引外し用クラッチを含む電極部把持部、銃床の引金、引金を引きたる時電極棒把持部が前進する如き引金と電極棒把持部との連絡部分、電極棒把持部を前進せる位置に保つための止め腕と電流が電極棒把持部に流れた時止め腕が外れる如くなしたる電磁氣の部分、の各部分よりなることを特徴とする電氣熔接装置」(特許請求の範囲)
(2) 「本發明に於てはヘリウム・アルゴン又は之れに類する不活性ガスを以て電極及熔接部を包み以て大氣中の酸素及窒素が侵入するを防ぐと共に各點に於て完全なる熔接が行はれる如くなす。」(第1頁右欄第21〜25行)
(3) 「作業法は第6圖に示す通りにして、圖中5は熔接銃を現はし、導線6を以て時限遮斷器7に連結している、これは本發明の一部をなすものではなく、電弧が必要以上長く維持されることを防止する安全装置に過ぎない。この装置7は導管8を以て直流熔接用發電機なる熔接機9に連結されており、發電機の他極は導線10によって熔接物11に連結し、熔接物は圖示の如く點接すべき2枚の板なり。熔接銃5は銃身12と銃床13とより成り、・・・・」(第1頁右欄第25行〜第2頁左欄第7行)
(4) 「パイプ14の前端は21に於て擴がり、その先端は割れて4本の指となり、電極棒22を掴む、擴がった先端21は圓錐の面23を有し、この面は鞘15に取付けた輪24の端部に於て同様の面に嵌合す、擴がった先端21は輪24と共に電極棒を掴むチャックとなる、」(第2頁左欄第15〜20行)
(5) 「銃身12の端には内外に螺子を切った輪型26を取付く、この輪型26にナット29をねじこむことにより環28を有する嘴27が銃身の先端に取付けられる嘴27は電弧の熱に耐え得る適當なる材料で製作せられ、その先端には溝30を設けて、後述する如き不活性ガスが、電極棒22と熔接品11との間に生じたる電弧の周圍に横流れに展延し熔接部を最大限に遮蔽する如くなす、」(第2頁左欄第26〜33行)
(6) 「引金31を内側に引く時は止め腕34の肩部39が前方に動いて鞘15を押し出す、そこで電極棒22は嘴27の先端に押出され熔接物11に當るこれによって回路が閉塞されると、電流は筒線輪をなす磁氣枠41の中に設けたる線輪40の中を導線を通って流れる。電流が流れるや否や、止め腕34を抑へているピン43の取付いている金物42は下方に引張られて、鍔18が外れる。そこで、鞘15は發條17によって再び後方に押され、電極棒22と熔接物との間に電弧が發生する。」(第2頁左欄第41行〜右欄第8行)
(7) 「本發明は以上の如く、熔接を行ふのに頗る扱い易い仕掛となっており、即ち作業者は銃床13を握って嘴の先端を熔接物に當て、引金31を引いて電極棒22を前進せしめる。電極棒22が熔接物に觸れると發條17によって直ちに離れて戻され熔接品との間隙に電弧を發生する、1秒半乃至2秒にて電弧は熔接物に滲透し、電弧の發生した個所で熔接物を確實に接合す、」(第2頁右欄第37行〜第3頁左欄第2行)
刊行物4には、次の技術事項が記載されている。
円筒状の銃身と該銃身の後端部の下方に突設された銃床とからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記銃身に内装され、前後方向に移動可能な電極棒把持部、前記電極棒把持部に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの銃身の先端に取り付けられ、不活性ガスを供給するホースの一端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出す嘴を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、引金を引くと前記電極棒の先端は、前記嘴より突出し、前記引金は前記銃床の前面に設けられている電気溶接装置。
5 刊行物5
刊行物5には、実質的に次の事項が、記載されている。
(1) 「母材の表面に合金を形成する商用プロセスにおいて、合金材料で形成された電極が、電極と母材間で、電極が母材に接触している時に、反復して火花放電を発生させるパルス生成器に接続されている。」(明細書第1欄第6〜11行)
(2) 「第1図に、表面を合金化する装置10が示されており、該装置は、この発明の安全回路を備えている。この回路10は、ワークピースWの表面に合金を形成するのに用いられる。表面を合金化する装置10は、交流110ボルトの電圧を入力して、110ボルトの交流を約110ボルトの直流に変換する交流-直流変換器12を有する。」(明細書第2欄第10〜17行)
(3)「電極24がブラシ通電構造27を介して出力導線26に接続され、電極24は電極回転手段29の回転軸先端に設けられたチャック28によって回転可能に固定されている。」(明細書第2欄第33〜36行)
(4) 「この発明によれば、火花放電回路18は、電極24が、ワークピースWに接触するまでは、火花放電しない。特に、タイミング及びトリガー回路20は、電極24が、ワークピースWに接触するまでは、火花放電回路18が、火花放電のトリガーパルス用の電流を出力しないように結合されている。この結合において、トリガーパスは、出力導線26、ブラシ通電構造27、電極24、ワークピースW及び点線30で示されるワークピースWとタイミング及びトリガー回路20間の接地でなされる。」(明細書第2欄第37〜48行)
(5) 「本発明は表面合金化装置について述べたが、安全回路を有するこの発明の原理については表面合金化装置以外に、溶接機、放電機、プレーティング機のような装置に適用可能である。」(明細書第4欄第29〜34行)
(6) 第1図及び第2図を参照すると、電極回転手段29は、円筒型ハウジングの内部にモーターを有していることが認められる。
上記(1)〜(6)の記載事項より、引用刊行物5には次のAとBの二つの技術事項が記載されているものと認める。
A 表面を合金化する装置10において、ワークピースWに制御装置よりアース線を接続し、モーターの前方に配された出力軸に、制御装置よりトリガーパルス出力用の出力導線26を接続すること。
B 表面を合金化する装置10において、電極回転手段29は、ハウジング、該ハウジングに内装されたモーターを有していること
第6 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1(前者)と刊行物3の発明(後者)を対比すると、後者の「被覆材電極」、「マイクロモーター」及び「支持軸」が、前者の「電極棒」、「モーター」及び「出力軸」にそれぞれ相当している。そして、後者の「第1のケーブル」及び「第2のケーブル」は、それぞれ「第1の導線」及び「第2の導線」であることに限り、前者の「アースケーブル」及び「リード線」と一致している。また、後者の「鉄材等の被加工体」は、「金属部材」であることに限り、前者の「被補修金属部材」と一致している。後者の「表面」は、「被加工面」であることに限り、前者の「被補修面」と一致している。後者の「放電被覆装置」は、「被覆装置」であることに限り、前者の「肉盛り補修装置」と一致している。後者の「加工用電源」は、「パルス電圧出力端子及びアース端子を有する制御装置」であることに限り、前者の「商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーおよび不活性ガスの導出口が設けられた制御装置」と一致している。後者の「加工用電源の出力端子及びアース端子の中の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被加工体への連結部となっている第1のケーブル」は、「制御装置の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記金属部材への連結部となっている第1の導線」であることに限り、前者の「制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているアースケーブル」と一致している。後者の「不活性ガスを被覆材電極の先端部分に噴出させる手段」は、そのことに限り、前者の「内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒」と一致している。また、後者の「被覆材電極回転装置」は、「電極棒回転装置」であることに限り、前者の「ガン型電極棒回転式アプリケーター」と一致している。
そうすると、両者は、次の構成で一致している。
電極棒を金属部材の被加工面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の被覆装置にあって、
パルス電圧出力端子及びアース端子が設けられた制御装置と、
該制御装置の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記金属部材への連結部となっている第1の導線と、
一端が前記制御装置の他方の端子に接続された第2の導線と、
前記第2の導線の他端に接続されるとともにモーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、不活性ガスを電極棒の先端部分に噴出させる手段を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられた電極棒回転装置、
とからなる金属部材の被覆装置。
そして、両者は、次の点で相違している。
ア 金属部材、被加工面及び被覆装置が、前者では、被補修金属部材、被補修面及び肉盛り補修装置であるのに対し、後者ではそのようなものではない点。(以下「相違点1」という。)
イ 前者の制御装置は、商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーを有し、不活性ガスが導入され、不活性ガスの導出口が設けられており、該不活性ガスの導出口には不活性ガスのホースが接続されているのに対し、後者の制御装置は、この構成が不明である点。(以下「相違点2」という。)
ウ 前者の第1の導線、即ちアースケーブルは、アース端子に一端が連結され、他端が被補修金属部材へ連結されており、第2の導線、即ちリード線は、一端が前記パルス電圧出力端子に接続され、他端が出力軸に接続されているのに対し、後者は、この構成が不明である点。(以下「相違点3」という。)
エ 前者は、一端が不活性ガスの導出口に接続された不活性ガスのホースが設けられているのに対し、後者は、この構成が不明である点。(以下「相違点4」という。)
オ 電極棒回転装置が、前者では、「円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモーター、前記リード線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバー筒より突出するガン型電極棒回転式アプリケータ-」であって、メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、電極棒が回転するとともに不活性ガスがホースを経てカバー筒内に供給されるものであり、前記スイッチは把持部Hの前面に設けられているのに対して、後者は、この構成が不明である点。(以下「相違点5」という。)
上記相違点5を検討するに、この相違点における前者の「メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、電極棒が回転するとともに不活性ガスがホースを経てカバー筒内に供給されるものであり、前記スイッチは把持部Hの前面に設けられている」構成は、刊行物1,2,4及び5の何れにも記載されておらず、また、これを示唆する記載も認められない。そして、この相違点における前者の構成とすることにより、「スイッチのON動作により、電極棒の回転と高価な不活性ガスの供給動作(必要な時に不活性ガスを供給)を手元で同時に制御でき、補修の手間とコストを著しく低減できる」(審判事件答弁書第5頁第9〜11行)という刊行物1〜刊行物5の発明にはみられない、格別の作用・効果を奏するものである。
したがって、上記相違点1〜相違点4について検討するまでもなく、前者を刊行物1〜刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)本件発明5について
本件発明5(前者)と刊行物3の発明(後者)を対比すると、後者の「被覆材電極」、「マイクロモーター」及び「支持軸」が、前者の「電極棒」、「モーター」及び「出力軸」にそれぞれ相当している。そして、後者の「鉄材等の被加工体」は、「金属部材」であることに限り、前者の「被補修金属部材」と一致している。後者の「表面」は、「被加工面」であることに限り、前者の「被補修面」と一致している。後者の「放電被覆装置」は、「被覆装置」であることに限り、前者の「肉盛り補修装置」と一致している。後者の「加工用電源」は、「パルス電圧出力端子及びアース端子を有する制御装置」であることに限り、前者の「商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置」と一致している。後者の「加工用電源の出力端子及びアース端子の中の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被加工体への連結部となっている第1のケーブル」は、「制御装置の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記金属部材への連結部となっている第1の導線」であることに限り、前者の「制御装置の前記アース端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているアースケーブル」と一致している。後者の「一端が前記加工用電源の他方の端子に接続された第2のケーブルと、・・・・前記第2のケーブルの他端に接続されるとともに前記マイクロモーターの前方に配された支持軸」は、「一端が前記制御装置の他方の端子に接続された第2の導線と、前記第2の導線の他端に接続されるとともにモーターの前方に配された出力軸」であることに限り、前者の「一端が前記パルス電圧出力端子・・・・に接続されたパルス電圧のリード線・・・・と、・・・・・前記リード線の他端に接続されるとともに前記モーターの前方に配された出力軸」と一致している。後者の「不活性ガスを被覆材電極の先端部分に噴出させる手段」は、そのことに限り、前者の「内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒」と一致している。また、後者の「被覆材電極回転装置」は、「電極棒回転装置」であることに限り、前者の「小型電極棒回転式アプリケーター」と一致している。
そうすると、両者は、次の構成で一致している。
電極棒を金属部材の被加工面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により電極材を溶融させて金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の被覆装置にあって、
パルス電圧出力端子及びアース端子が設けられた制御装置と、
該制御装置の一方の端子に一端が連結されるとともに、他端が前記金属部材への連結部となっている第1の導線と、
一端が前記制御装置の他方の端子に接続された第2の導線と、
前記第2の導線の他端に接続されるとともにモーターの前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、不活性ガスを電極棒の先端部分に噴出させる手段を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられた電極棒回転装置、とからなる金属部材の被覆装置。
そして、両者は、次の点で相違している。
ア 金属部材、被加工面及び被覆装置が、前者では、被補修金属部材、被補修面及び肉盛り補修装置であるのに対し、後者ではそのようなものではない点。(以下「相違点1」という。)
イ 前者の制御装置は、商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、アース端子および不活性ガスの導出口が設けられているのに対し、後者の制御装置は、この構成が不明である点。(以下「相違点2」という。)
ウ 前者の第1の導線、即ちアースケーブルは、アース端子に一端が連結され、他端が被補修金属部材へ連結されており、第2の導線、即ちリード線は、一端が前記パルス電圧出力端子に接続され、他端が出力軸に接続されているのに対し、後者は、この構成が不明である点。(以下「相違点3」という。)
エ 電極棒回転装置が、前者では、円筒型ハウジング、該円筒型ハウジングに内装されたモーターを有し、円筒型ハウジングの先端に取り付けられ、チャックを包むとともにホースの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバー筒を有し、電極棒の先端は、前記カバー筒より突出する小型電極棒回転式アプリケーターであるのに対して、後者は、この構成を有しておらず、後者のモーターは、単に取付部材に取付けられている点。(以下「相違点4」という。)
上記相違点1を検討するに、刊行物1には第5の1の(1)に、放電加工機に類似した電源により金型肉盛り補修部に金属を肉盛りする金型肉盛り補修機が記載されているので、後者の放電被覆装置に前記刊行物1の記載事項を適用して、鉄材等の被加工体、表面及び放電被覆装置を、前者の如く被補修金属部材、被補修面及び肉盛り補修装置とすることは、当業者であれば容易である。
相違点2については、制御装置に商業電源を導入することは、例えば第5の2の刊行物2に、「装置がポータブルで,100Vの電源があればどこでも肉盛ができる。」と記載されているように、制御装置に100Vの商業電源を導入することは、当業者であれば適宜なし得る程度のものである。
そして、不活性ガスを供給する際に不活性ガスのホースを用いることは、刊行物4にもみられるように周知技術であり、また不活性ガスのホースを設ける際に制御装置を介して溶接部に供給することも周知技術(例えば特開昭63-149073号公報参照)であるから、この二つの周知技術を後者に適用して、制御装置に「不活性ガスが導入され、不活性ガスの導出口が設けられており、該不活性ガスの導出口には不活性ガスのホースが接続されている」ようにすることは、当業者であれば容易である。
相違点3については、刊行物5の記載事項Aに「ワークピースWに制御装置よりアース線を接続し、モーターの前方に配された出力軸に、制御装置よりトリガーパルス出力用の出力導線26を接続すること。」が記載されており、言い換えると第1の導線であるアースケーブルは、アース端子に一端が連結され、他端が被加工金属部材へ連結されており、第2の導線であるリード線は、パルス電圧出力端子に一端が連結され、他端が出力軸に連結されていることが記載されており、刊行物5の表面を合金化する装置は、後者と同様に被加工物に被覆を行うものであるから、この刊行物5の記載事項Aを後者に適用して前者の如く為すことは、当業者であれば容易になし得る程度のものである。
相違点4については、刊行物5の記載事項Bに「電極回転手段29は、ハウジング、該ハウジングに内装されたモーターを有していることが記載されており、刊行物5の表面を合金化する装置は、後者と同様に被加工物に被覆を行うものであるから、この刊行物5の記載事項Bを後者に適用して電極棒回転装置を、ハウジング、該ハウジングに内装されたモーターを有するものと為すことは、当業者であれば容易になし得る程度のものであり、また、ハウジングを円筒型とすることは適宜なし得る設計的事項にすぎない。さらに、刊行物4に「ハウジングの銃身の先端に取り付けられ、不活性ガスを供給するホースの一端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出す嘴を有し、」た電気溶接装置が記載されており、言い換えると、ハウジングの本体部の先端に取り付けられ、ホースの一端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出す嘴が記載されているので、上記ハウジングを設ける際に、この嘴を円筒型としたハウジングの先端に設けてチャック及び電極の先端部以外を包んでカバー筒とし、あわせてカバー筒の先端から不活性ガスを吹出す如く為し、そして、電極棒回転装置を小型として小型電極棒回転式アプリケーターと称するものとすることは、当業者であれば容易である。
(3)むすび
本件発明1は、刊行物1〜刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。また、本件発明5は、刊行物1〜刊行物5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許の無効の理由及び証拠によっては、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。また、本件発明5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人及び被請求人がそれぞれその半分を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属部材の肉盛り補修装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により前記電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、
商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーおよび不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および前記不活性ガスのホ-スと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバ-筒より突出するガン型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなり、前記メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、前記電極棒が回転するとともに前記不活性ガスが前記ホ-スを経て前記カバ-筒内に供給されるものであり、前記スイッチは前記把持部Hの前面に設けられている金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項2】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および不活性ガスのホ-スと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有するガン型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、前記ガン型電極棒回転式アプリケ-タ-は、前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端部分が絶縁性のスリ-ブで形成されており、前記カバ-筒は該スリ-ブに外嵌めされていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項3】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および不活性ガスのホ-スと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有するガン型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、前記ガン型電極棒回転式アプリケ-タ-は、前記ガン型ハウジングの把持部Hの前面に回転速度調節機構付きスイッチSが設けられていることを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項4】 商業電源および不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および不活性ガスのホ-スと、
円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有するガン型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置において、前記カバ-筒の先端に樹脂製漏斗状キャップを着脱自在に取り付けたことを特徴とする金属部材の肉盛り補修装置。
【請求項5】 電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により前記電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、
商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子および不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、
該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、
それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および前記不活性ガスのホ-スと、
円筒型ハウジング、該円筒型ハウジングに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記円筒型ハウジング内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記円筒型ハウジングの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバ-筒より突出する小型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなる金属部材の肉盛り補修装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、放電被覆を利用して被補修金属部材(ワーク)の表面に肉盛りし、磨耗部分や欠損部分を肉盛りする金属部材の肉盛り補修装置に関する。
【0002】
【従来の技術】樹脂の射出成型やアルミニウムダイキャストに用いる金型は鉄製であるが、金型同士の接合面や溶融金属(湯)が高速で衝突する部分が磨耗や欠損のため隙間ができたり、変形が生じたりする。これら隙間や変形は、製品のバリや歪みとなり、後工程でのバリ取り作業や整形作業を増大させるとともに、不良品が生じる原因となっている。また、フィルム・ローラ、エンボス・ローラー、印刷機のローラーなど各種ローラーの表面が金属部分の噛み込み等により欠損した場合には製品に不良が発生する。
【0003】従来より火花放電に伴う高温を利用して金属、炭化物セラミック、サーメットなどの電極材を、ワークであるプレスのダイボタンの作用表面、金型のかじり部など金属部材の特定表面に蒸着して表面処理を行い、硬度、耐蝕性、耐久性などを向上させる放電被覆処理(エレクトロ・スパーク・デポジション)が行われている。しかるに従来の放電被覆処理は、使用されている電極材の性質、電源電圧などの特性から被膜の厚さが通常数十ミクロン以下と薄く、製品の表面処理のみに利用され、厚く肉盛りしてワークの磨耗、欠損部分の補修に適用するという思想は存在しなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】射出成形金型や鉄製ローラーの補修は、いずれも射出成形装置などの装置から金型やローラー(ワーク;被補修金属部材)を取り外して、アルゴン溶接により肉盛りしたのち研磨する方法であった。このためワークを取り外したり運搬したりする作業が必要であり、補修のための手間がかかり補修コストが著しく高くなる欠点があった。また、アルゴン溶接は、ワークが高温度になるため熱歪みが生じ易いなどの問題も生じている。この発明の目的は、補修装置がコンパクトで運搬が容易であり、商業電源の有る所ならば何処でも使用できるとともに、ワークを装置から取り外すことなく、装着した状態で肉盛りによる補修が可能であり、補修の手間とコストを著しく低減できる金属部材の肉盛り補修装置の提供にある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この発明の金属部材の肉盛り補修装置は、電極棒を被補修金属部材の被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、この火花放電により前記電極材を溶融させて前記被補修金属部材の表面に不活性ガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる金属部材の肉盛り補修装置にあって、商業電源および前記不活性ガスが導入され、パルス電圧出力端子、ア-ス端子、前記商業電源をオン、オフするメインスイッチレバーおよび不活性ガスの導出口が設けられた制御装置と、該制御装置の前記ア-ス端子に一端が連結されるとともに、他端が前記被補修金属部材への連結部となっているア-スケ-ブルと、それぞれの一端が前記パルス電圧出力端子および前記不活性ガスの導出口に接続されたパルス電圧のリ-ド線および前記不活性ガスのホ-スと、円筒状の本体部Aと該本体部Aの後端部の下方に突設された把持部Hとからなるガン型ハウジング、該ガン型ハウジングの前記本体部Aに内装されたモ-タ-、前記リ-ド線の他端に接続されるとともに前記本体部A内の前記モ-タ-の前方に配された出力軸、該出力軸の先端に装着されるとともに前記電極棒を掴むためのチャック、および前記ガン型ハウジングの本体部Aの先端に取り付けられ、前記チャックを包むとともに前記ホ-スの他端に接続されて内部に不活性ガスが導入され、先端から該不活性ガスを吹出すカバ-筒を有し、前記チャックには前記電極棒が取り付けられ、前記電極棒の先端は、前記カバ-筒より突出するガン型電極棒回転式アプリケ-タ-とからなり、前記メインスイッチレバーがオンで、スイッチを押すことにより、前記電極棒が回転するとともに前記不活性ガスが前記ホ-スを経て前記カバ-筒内に供給されるものであり、前記スイッチは前記把持部Hの前面に設けられている。
【0006】
【発明の作用効果】この発明では、ガン型または円筒型の電極棒回転式アプリケーターを使用しているので、補修装置がコンパクトで運搬が容易であり商業電源の有る所ならば何処でも使用することができるとともに、つぎの作用効果を有する。
イ)ワークの所要表面に数十ミクロン〜数ミリメートルの所望の厚さの電極材層を均一かつ滑らかに形成でき、後工程の研磨作業が容易となる。
ロ)成型用の金型の補修や金属製ローラーなど被補修金属部材の表面の補修が、これら被補修金属部材が装置に装着された状態で補修できる。この結果、補修期間の短縮が可能で、補修総コストの低減が可能となる。
ハ)この火花放電による補修の際、ワークの温度上昇がほとんどないためワークの歪みの発生がなく、肉盛りされる電極材の分子がワークの被補修表面から組織内に打ち込まれるため、肉盛り層の結合強度が極めて高い。
【0007】
【実施例】図1は、この発明の一実施例にかかる火花放電による金属部材の補修装置100を示す。補修装置100は、商業電源AC100Vおよび不活性ガスであるアルゴンガスボンベBに接続された制御装置1と、該制御装置1のパルス電圧出力端子11にアプリケータケーブル2を介して接続された電極棒回転式アプリケーター3と、前記制御装置1のアース端子12にアースケーブル13を介して接続されたワーク把持具14とからなる。
【0008】制御装置1は、ケース10内に整流回路、パワーコントロール回路、安全回路等を収容し、ケース1の前面には電源をオン、オフするメインスイッチレバー15、出力パルス電圧レベルを手動で3段階に調節するためのパワーコントロールスイッチ16、出力パルス電圧の周波数を手動調節する周波数調整摘み17、および出力部18が設けられている。出力部18には100VのAC電源を20〜1,000ヘルツのパルス電圧に変換して出力する前記出力端子11、前記アース端子12およびアルゴンガス口19が設けられている。
【0009】アプリケータケーブル2は、一端が前記出力端子11およびアルゴンガス口19に接続されたリード線21およびガスホース22を束ねてなる。リード線21内には、火花放電用電源線23、24、モーター駆動用電源線25、26、およびスイッチオンオフ信号電線27が一体に配設されている。電極棒回転式アプリケーター3は、図2に示す如く、ガン型電動ハンドドリル30を利用しており、円筒状の本体部Aと、その後端部の下方に突設された把持部Hとからなるハウジング31を有する。把持部Hの前面には回転速度調節機構付スイッチSが設けられており、本体部Aにはモーター32が内装されるとともに、前記リード線21に電気的に接続された出力軸33が回転自在に装着されている。出力軸33の先端には電極材となる電極棒Dを掴むチャック34が本体部Aから突出して取り付けられている。
【0010】ハウジング31は、先端部分(出力軸33をカバーしている部分)が除去してあり、除去したハウジング31の先端部分の代わりに出力軸33の先端側部を内包する樹脂性スリーブ4を外嵌している。スリーブ4(ハウジング31の先端部)には、前記チャック34を包むとともに前記ガスホース22の他端から内部にアルゴンガスが導入されるカバー筒5が嵌着されている。
【0011】絶縁性のスリーブ4には軸方向のスリット41が形成され、該スリット41にはリード線21に接続するブラシ42が出力軸33に摺接して嵌め込まれている。前記スリーブ4の外周には、前記スリット41と交差する周溝43が形成され、該周溝43には前記ブラシ42を出力軸33に圧接するためのコイルスプリングの輪44が嵌め込まれている。また、スリーブ4には前記スリット41と平行的に貫通穴45が開けられ、アルゴンガス通路となっている。
【0012】スリーブ4の外周には、スリーブ4およびスリーブ4の先端から突き出て出力軸33の先端に設けられた前記チャック34を覆う樹脂製カバー筒5が外嵌されている。カバー5は前記スリーブ4に緊密に外嵌するとともに、前記チャック34の外周に遊嵌する径大の胴部51、その先端に設けられたテーパー部52、テーパー部52の先端に突設された径小部53とからなる。径小部53にはチャック34を締結する締結具の差し込み穴が開けられ径小部53には、樹脂製漏斗状キャップ55が着脱自在に外嵌されている。キャップ55は、電極棒Dの着脱の便とアルゴンガスを電極棒Dの周りに集中させるために取り付けられている。
【0013】前記ガスホース22に連結した前記貫通穴45はスリーブ4の端面に出口46が開口してカバー筒5内に到るガス流路を形成しており、キャップ55の先端からアルゴンガスを吹出す。チャック34には、Ni(ニッケル);20〜100重量%、Mo(モリブデン);5〜20重量%、Cr(クロム);10〜30重量%、Fe(鉄);1〜20重量%で、外径が1〜10mmであるニッケル合金製または純ニッケル製の電極棒Dが取り付けられる。Niの割合は、望ましくは40〜80重量%であり、20重量%以下であると、ワークWの表面への固着性が低下する。
【0014】被補修金属部材であるワークWの修理作業は、図1に示す如く、ワーク把持具14でワークWの一部分を掴み、制御装置1のメインスイッチレバー15をオンさせるとともにパワーコントロールスイッチ16で出力レベルを設定し、出力パルス電圧の周波数を周波数調整摘み17で手動調節し、アプリケータ3の回転速度を調整してスイッチSを押す。これにより、電極棒Dが所定の回転速度で回転するとともに火花放電用電源線23、24の電源は前記ブラシ42、出力軸33およびチャック34を介して電極棒Dにパルス電圧が印加される。これと同時にアルゴンガスがアルゴンガス口19からガスホース22を経てカバー筒5内に供給され、キャップ55の先端から噴出する。
【0015】電極棒DをワークWの被補修面に近接させると両者の間で火花放電が生じ、火花放電によりプラス電位とした電極材を溶融させてマイナス電位とした導電性のワークWの表面にアルゴンガスのシールド雰囲気中で溶射がなされる。電極棒Dは火花放電の熱で溶融してプラス電位に帯電し、アース電位のワークWの表面に吸引されワークWの表面に衝突して電極材分子の一部が食い込み電極材層が形成される。この際、電極棒Dが回転しているので、電極棒Dの先端がワークWの表面に融着することを防止でき、円滑に肉盛り作業が行えるとともに、形成される電極材層が均一で表面も滑らかとなる。電極棒Dの回転速度は、最低が毎分20回転、最高が毎分1,000回転が良い、これは作業性に優れるためである。電極棒Dの回転速度およびパルス電圧の周波数は、いずれも可変であり、電極棒Dの太さおよび肉盛りするワークWの表面形状など作業目的に応じて自由に設定できることが望ましい。
【0016】図3は、狭い隙間の奥にある補修箇所を補修するため、長い電極棒Dを用いる場合を示す。漏斗状キャップ55の先端56に、碍子管57を差し込んで連結している。碍子管57はガラス繊維製筒であっても良い。
【0017】図4は他の実施例にかかる小型電極棒回転式アプリケータ6を示す。この実施例では、直径3mm以下の細い電極棒Dを使用するために、円筒型の小型電動ドリル61を利用している。
【0018】図5は、樹脂の射出成形用金型の補修工程を示す。
(イ)ワークWの一部をアースケーブル13のワーク把持具14で掴み、制御装置1のメインスイッチレバー15をオンさせるとともに、パワーコントロールスイッチ16で所定の出力に設定する。そして周波数調整摘み17で出力周波数を選択して、アプリケータ3の電極棒Dの先端をワークWの被補修面に近接させ、アプリケータ3のスイッチSを押す。
(ロ)電極棒Dは回転しながら先端が被補修面に放電被覆され、シールドガスの雰囲気中でワークWの被補修表面Pに肉盛りKがなされる。
(ハ)必要な厚さに肉盛りKした後、肉盛り面Mを研削または研磨して仕上げ、肉盛りKをして補修された金属部材7が形成される。
【0019】この発明の金属部材の肉盛り補修方法は、電極棒Dが回転と同時に振動する方法および回転せずに振動のみする方法でも採用できる。また、不活性ガスはアルゴンガス以外のガスであってもよい。さらに、金属部材は銅合金、アルミニウム合金、ベリリウム合金など鉄以外の金属であっても良いが、これら熱伝導性の大きい金属部材の場合は、ワークWを予熱しておくことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の金属部材の肉盛り補修装置の斜視図である。
【図2】電極棒回転式アプリケーターの斜視図である。
【図3】電極棒回転式アプリケーターの斜視図である。
【図4】他の実施例にかかる電極棒回転式アプリケーターの斜視図である。
【図5】この発明の金属部材の肉盛り補修方法の行程図である。
【符号の説明】
100 金属部材の補修装置
1 制御装置
2 アプリケータケーブル
3 電極棒回転式アプリケーター
4 樹脂製スリーブ
5 カバー筒
6 小型電極棒回転式アプリケータ
7 金属部材
11 パルス電圧出力端子
12 アース端子
13 アースケーブル
21 リード線
22 ガスホース
31 ハウジング
W ワーク(被補修金属部材)
D 電極棒(電極材)
B アルゴンガス(不活性ガス)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-12-26 
結審通知日 2004-01-07 
審決日 2004-01-20 
出願番号 特願平5-58632
審決分類 P 1 122・ 121- ZD (B23K)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 神崎 孝之大畑 通隆  
特許庁審判長 宮崎 侑久
特許庁審判官 三原 彰英
鈴木 孝幸
登録日 1999-06-11 
登録番号 特許第2939083号(P2939083)
発明の名称 金属部材の肉盛り補修装置  
代理人 入江 一郎  
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所  
代理人 加藤 静富  
代理人 野末 寿一  
代理人 野末 寿一  
代理人 入江 一郎  
代理人 加藤 静富  

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