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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20061739 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1097012
審判番号 不服2003-8907  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-19 
確定日 2004-05-12 
事件の表示 特許権存続期間延長登録願2001-700117「インスリン類似化合物製剤」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件特許及び本件発明
特許第3171541号(以下、本件特許という。)は、平成7年6月14日(パリ条約による優先権主張 1994年6月16日 米国)に出願され、平成13年3月23日に特許権の設定登録がなされたものであって、その特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載のとおりのものである。

【請求項1】 ヒトインスリンアナログ複合体の非経口医薬製剤であって該複合体が、
(1)6分子の、B28位におけるProがAsp、Lys、Leu、Val又はAlaで置換され、かつB29位におけるLysがLysであるか、若しくはProで置換されているヒトインスリン;又はデス(B28ーB30)ヒトインスリン;又はデス(B27)ヒトインスリン;
(2)2つの亜鉛イオン;及び
(3)少なくとも3分子の、m-クレゾール、フェノール、又はm-クレゾール及びフェノールの混合物からなる群から選択されるフェノール誘導体を含む医薬製剤。

(請求項2以下は省略する。以下、これを本件特許発明という。)
2.本件出願

本件特許権存続期間の延長登録出願(以下、本件出願という。)は、平成13年9月20日に出願され、平成15年2月18日に拒絶査定がなされ、平成15年5月19日に審判請求がされたものである。
本件出願は、本件出願の願書の記載及び処分を受けたことを証明する添付資料(承認書 承認番号21300AMY00278000)によると、特許発明の実施について特許法67条第2項の政令に定める処分を受けることが必要であったその政令で定める処分として、以下の内容を特定している。

(1)延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同法第23条において準 用する同法14条第1項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号21300AMY00278000
(3)処分を受けた日
平成13年6月27日
(4)処分の対象となった物
一般名称 インスリン リスプロ(遺伝子組換え)
販売名 インスリン リスプロ(遺伝子組換え)
構造式 (省略)
(5)処分の対象となった物について特定された用途
医薬品の製造原料

3,原審の拒絶の理由の概要

原審の拒絶の理由は、特許第3171541号に記載の医薬製剤の有効成分について医薬品の製造原料としての承認を取得しただけでは、当該特許発明を実施することができることにはならないから、上記承認は特許発明の実施に必要な処分とは認められない。したがって、当該承認は、上記特許発明の実施に必要な処分とはいえず、特許法第67条の3第1項第1号に該当するというものである。

4,当審の判断

特許法は特許権者に対し、特許発明を独占的排他的に実施する権利を付与して発明を保護する一方、特許権を無制限に存続させるときは発明の利用を阻害して産業の発達に寄与できない恐れがあることから、政策的に存続期間を法定(特許法第67条第1項)して、発明の保護と利用の調和を図っているが、特許発明の実施について安全性の確保の見地から法律の規定による許可等の処分が必要とされる場合において、当該処分の目的、手続きからみて当該処分を行うには相当の期間を要すると認められるときには、その処分を受ける必要のためにその実施が相当期間妨げられることになる。そこで特許法第67条第2項に特許権の存続期間の例外規定を設けている。
同条の発明の実施とは、同法68条の2が「特許権の存続期間が延長された場合(第六十7条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十7条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。」と規定しているところに照らすと、延長登録が認められるためには政令で定める当該処分の範囲と延長登録出願の対象である特許発明の範囲が、処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)において重複していることが必要であり、かつ同じ物及び同じ用途に使用されるものに特許期間の延長効果を何回も付与することは法律の予定するところではないから、既に別の同様な処分を受けたことによって特許発明の実施をすることが出来るようになっていないことが必要である。したがって、同じ物を同じ用途に使用する以上、その使用形態等の変更のため重ねて政令で定める処分が必要とされる場合であっても、そのことを理由に特許期間の登録延長は認められない(東京高裁判決 平成7(行ケ)155号参照)。
すなわち、特許権の存続期間の延長登録が認められるためには、第一に、承認を受けた「物」「用途」について、特許発明が物の発明であればその「物」、特許発明において物が特定の用途に使用される物であれば、その「物」と「用途」によって特定される範囲において重複していることが必要であり、第二にその物及びその用途に使用されるものとして最初の承認であることが必要である。(医薬品の分野においては、「物」は「有効成分」、「用途」は「効能又は効果」に対応する。)

これを本件についてみるに、本件特許発明は、有効成分がヒトインスリンアナログ複合体であって該複合体が、6分子の、B28位におけるProがAsp、Lys、Leu、Val又はAlaで置換され、かつB29位におけるLysがLysであるか、若しくはProで置換されているヒトインスリン;又はデス(B28ーB30)ヒトインスリン;又はデス(B27)ヒトインスリンヒトインスリンアナログ複合体である医薬製剤(糖尿病治療薬)の発明であるところ、本件出願に添付された承認書によれば、本件の処分の対象となった成分はインスリン リスプロと称され、その構造式からB28位におけるProがLysで置換され、かつB29位におけるLysがProで置換されているヒトインスリンアナログであるから、本件特許発明における有効成分と同一である。しかしながら、その「効能又は効果」の欄には「医薬品の製造原料として用いる。」と記載されており、これは当該成分が専ら医薬品を製造するための原料として用いられることの承認を意味するから、特許発明の用途である非経口医薬製剤とは相違する。
したがって、有効成分である物が一致していても特許発明の用途についての物ではない上記処分は、上記第一の要件を欠いており、本件特許発明の実施をするために必要な処分ということはできない。

請求人は、本件特許発明にかかる医薬製剤を実施するためには、医薬製剤に関する承認のみならず、そこに含まれる原体に関する薬事法上の承認(本件の処分)が必要であったのであるから、本件処分は「その特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」ものであると主張する。
しかしながら、上述のように、特許権存続期間延長登録制度は、特許発明の実施について安全性の確保の見地から法律の規定による許可等の処分が必要とされる場合において、当該処分の目的、手続きからみて当該処分を行うには相当の期間を要すると認められるときには、その処分を受ける必要のためにその実施が相当期間妨げられることに配慮したものであり、特許発明を現実に実施するために必要とした処分のすべてを「本件特許発明の実施をするために必要な処分」とするものではない。
したがって、単に当該処分を受けなければ特許発明の実施が現実には実施できないという事情が存在することのみをもって、「その特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」とすることはできない。

以上のとおりであるから、本件処分は特許法第62条の3第1号に該当し、本件出願によって特許権の存続期間の延長登録を受けることはできない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-12-03 
結審通知日 2003-12-09 
審決日 2003-12-24 
出願番号 特願2001-700117(P2001-700117)
審決分類 P 1 8・ 71- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 伸一田村 聖子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 竹林 則幸
深津 弘
発明の名称 インスリン類似化合物製剤  
代理人 田村 恭生  
代理人 高山 裕貢  
代理人 青山 葆  

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