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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1097035
審判番号 不服2001-14991  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-23 
確定日 2004-05-10 
事件の表示 平成 4年特許願第 46174号「アルカリ蓄電池用ニッケル電極」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 8月27日出願公開、特開平 5-217580〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成4年1月31日の出願であって、平成13年7月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年8月23日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。そして、その後、当審から平成15年7月24日付けの拒絶理由通知がなされ、平成15年9月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
2.本願発明
本願請求項1乃至3に係る発明は、当審の拒絶理由通知に対して提出された平成15年9月29日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりの「アルカリ蓄電池用ニッケル電極」であると認める(以下、「本願発明1乃至3」という)。
「【請求項1】正極活物質である水酸化ニッケル粉末が、pH13以上としたアルカリ水溶液中で析出させたものであって、元素としての比率で2重量%以上のII族元素と、元素としての比率で2重量%以上、10重量%以下のコバルトを固溶状態で含有させたものを活物質として用いることを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極。
【請求項2】前記II族元素が亜鉛であり、正極活物質に占める亜鉛の元素としての比率とコバルトの元素としての比率の和が10重量%以下であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ蓄電池用ニッケル電極。
【請求項3】前記亜鉛の一部が、亜鉛以外のII族元素から選ばれた少なくとも一種の元素で置換された請求項2記載のアルカリ蓄電池用ニッケル電極。」
3.拒絶理由の概要と引用例の記載事項
当審で通知した平成15年7月24日付けの拒絶理由の概要は、(イ)本願発明1乃至3は、同一人の先願に係る特願平3-170587号明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない、(ロ)本願発明1乃至4は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、拒絶理由の上記(ロ)に引用された引用例1及び引用例2には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平2-30061号公報
(1a)「(1)水酸化ニッケル粉末活物質に亜鉛を3〜10wt%添加し、該亜鉛が水酸化ニッケルの結晶中で固溶状態にあり、且つ細孔半径が30Å以上の内部遷移細孔の発達を阻止し、更に全細孔容積を0.05ml/g以下に制御したことを特徴とするニッケル電極用活物質。」(特許請求の範囲(1))
(1b)「(3)水酸化ニッケル及び少量の亜鉛を含む活物質粉末が、それらの硫酸塩水溶液を出発原料とし、苛性ソーダもしくは苛性カリウム及び硫酸アンモニウムによりPH11〜13に制御された水溶液中で析出させた・・・ニッケル電極用活物質。」(特許請求の範囲(3))
(1c)「(5)亜鉛以外に少量のコバルトが固溶状態で共存する特許請求の範囲第2項記載のニッケル電極。」(特許請求の範囲(5))
(1d)「本発明は、水酸化ニッケル粉末をより高密度化し、更に高密度化に伴うγ-NiOOHの生成を毒性の少ない添加剤によって防止し、長寿命化すると共に、活物質の利用率を向上させたニッケル電極用活物質及びニッケル電極とこれを用いたアルカリ電池を提供することを目的とする。」(第2頁右下欄下から5行〜第3頁左上欄1行)
(1e)第2図には、横軸のPHと、縦軸の内部細孔容積及びγ-NiOOHの生成率と、の相関関係が示されている。
(1f)「亜鉛とコバルトの両者を固溶体添加したHにおいては、亜鉛単独のFより高温下(約45℃)での充電性能の向上が認められた。」(第5頁右上欄19〜左下欄2行)
(2)引用例2:特開平3-78965号公報
(2a)「水酸化ニッケル粉末に周期律第II属元素である亜鉛、カドミウムおよびマグネシウムの1種以上とコバルトを同時に固溶体添加し、且つ表面にオキシ水酸化コバルト層を形成させたことを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極活物質。」(特許請求の範囲)
(2b)「本発明は、・・・水酸化ニッケル粉末の内部細孔容積の充放電に伴う増大を抑制し、電極寿命の主要因である電極膨潤を防止し、且つ温度特性の優れたアルカリ蓄電池用ニッケル電極用活物質を提供することを目的とするものである。」(第2頁右上欄4〜9行)
(2c)「亜鉛とコバルトを水酸化ニッケルに固溶体添加し、オキシ水酸化コバルト表面層を設けた本発明の活物質の温度特性を第6図に示した。本発明品は、45℃の高温においても90%以上の活物質利用率を示し、電極膨潤も生じることなく0〜45℃の温度範囲で安定な性能を示した。」(第4頁右上欄9〜15行)
(2d)第6図には、この発明の活物質の温度特性が示され、その1例としてNi90Zn5Co5の活物質の充放電温度(℃)と活物質利用率との関係が示されている。
4.当審の判断(上記拒絶理由(ロ)について)
引用例1の上記(1a)には、「水酸化ニッケル粉末活物質に亜鉛を3〜10wt%添加し、該亜鉛が水酸化ニッケルの結晶中で固溶状態にあり、且つ細孔半径が30Å以上の内部遷移細孔の発達を阻止し、更に全細孔容積を0.05ml/g以下に制御したことを特徴とするニッケル電極用活物質。」と記載され、上記(1c)には、「亜鉛以外に少量のコバルトが固溶状態で共存することを特徴とするニッケル電極用活物質。」と記載されているから、引用例1には、少なくとも「水酸化ニッケル粉末活物質に亜鉛3〜10wt%が水酸化ニッケルの結晶中で固溶状態にあり、少量のコバルトが固溶状態で共存するニッケル電極用活物質」が記載されていると云える。また、引用例1の上記(1b)には、活物質粉末に関し「水酸化ニッケル及び少量の亜鉛を含む活物質粉末が、それらの硫酸塩水溶液を出発原料とし、苛性ソーダもしくは苛性カリウム及び硫酸アンモニウムによりPH11〜13に制御された水溶液中で析出させたニッケル電極用活物質。」と記載されているから、正極活物質である水酸化ニッケル粉末が「苛性ソーダもしくは苛性カリウム及び硫酸アンモニウムによりPH11〜13に制御された水溶液中で析出させたもの」であり、この活物質がアルカリ蓄電池用であることも上記(1d)に記載されているから、これら記載を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「正極活物質である水酸化ニッケル粉末が苛性ソーダもしくは苛性カリウム及び硫酸アンモニウムによりpH11〜13に制御された水溶液中で析出されたものであって、3〜10%の亜鉛と、少量のコバルトを固溶状態で含有させたものを活物質として用いるアルカリ蓄電池用ニッケル電極」という発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「亜鉛」は、本願発明1の「II族元素」に該当し、また、引用発明の「苛性ソーダもしくは苛性カリウム及び硫酸アンモニウムによりpH11〜13に制御された水溶液」は、「PH11〜13としたアルカリ水溶液」と云うことができるから、両者は、「正極活物質である水酸化ニッケル粉末が、pH13としたアルカリ水溶液中で析出させたものであって、元素としての比率で3〜10重量%のII族元素と、コバルトを固溶状態で含有させたものを活物質として用いることを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル電極。」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本願発明1では、コバルトを元素としての比率で「2重量%以上、10重量%以下」含有するのに対し、引用発明では、コバルトの含有量が「少量」である点
次に、上記相違点について検討する。
本願発明1のCoの添加は、段落【0015】の記載によれば、高温45℃での充電効率の増大を図ったものであるが、この高温での充電効率の増大のためにCoを添加することは、引用例1の上記(1f)にも記載されているとおり、引用発明も同様である。そして、引用例2の上記(2c)及び(2d)には、水酸化ニッケルに亜鉛とコバルトを同時に固溶体添加したアルカリ蓄電池用ニッケル電極において、Coを5%添加した例が45℃の高温においても90%以上の活物質利用率を示したと記載されているから、引用発明の「少量のコバルト」を引用例2のCo5%という上記記載に基づいて、その前後の「2重量%以上10重量%以下」までに限定することは、当業者が容易になし得たことと云うべきである。
してみると、本願発明1の上記相違点は、引用例2の記載から当業者が容易に想到することができたものと云えるから、本願発明1は、上記引用例1及び2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。
なお、上記判断においては、本願発明1の「pH13以上としたアルカリ水」をpH13の点で引用発明のアルカリ水と一致していると判断したが、仮に、本願発明1の「pHが13以上」の点を両者の相違点とした場合でも、この相違点に特許性はないと云える。
すなわち、引用例1の図2には、pHとγ-NiOOH生成率との関係図が図示され、この関係図に関し、引用例1には「内部細孔容積は低いPHほど少なく、より高密度粉末になる。一方、γ-NiOOHは低いPHほど生成しやすい傾向にある。」(第3頁左下欄11〜13行)と記載されている。そして、引用発明では、内部細孔容積とγ-NiOOH生成率との相互の観点から、「pH11〜13」の範囲に規制している。一方、本願発明1では、水酸化ニッケル電極の膨潤にとって不利な要因であるγ-NiOOHの生成防止の観点から、「pH13以上」と規制しているだけであるから、このγ-NiOOHの生成防止の観点だけからであれば、引用発明のアルカリ水溶液のpHを13以上とすることも引用例1の図2等の記載から当業者であれば容易に想到することができたと云うべきである。
5.むすび
したがって、本願の少なくとも請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-08 
結審通知日 2004-03-10 
審決日 2004-03-23 
出願番号 特願平4-46174
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 正博  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 酒井 美知子
吉水 純子
発明の名称 アルカリ蓄電池用ニッケル電極  

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