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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1097954
異議申立番号 異議2003-70609  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2004-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-07 
確定日 2004-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3321805号「含フッ素溶融樹脂水性分散組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3321805号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3321805号は、平成5年8月16日(優先権主張;平成4年8月28日、日本国)を国際出願日とする特願平6-507039号に係り、平成14年6月28日に設定登録がなされた後、三井・デュポンフロロケミカル株式会社から特許異議の申立てがあり、平成15年7月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月3日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]本件訂正前の特許に対する特許異議申立人の主張の概要
本件訂正前の特許に対し、特許異議申立人 三井・デュポンフロロケミカル株式会社は、下記甲第1号証〜甲第3号証を提示し、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、又は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件請求項1〜4に係る特許は取り消されるべきものであると主張する。

甲第1号証:特公昭57-15607号公報
甲第2号証:「パーフルオロカーボン樹脂 テフロン実用ハンドブック」三井・デュポンフロロケミカル株式会社、昭和63年6月発行、8頁
甲第3号証:特公昭52-22375号公報

[3]本件訂正請求
(1)訂正事項
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(a)訂正事項a
請求項1の「平均粒径が10〜1000μmで見掛け密度が0.3〜1.5g/ccの含フッ素溶融樹脂粉末と水溶性溶媒と界面活性剤と水とからなり、含フッ素溶融樹脂粉末を15〜80重量%含む水性分散組成物。」を、「平均粒径が10〜1000μmで見掛け密度が0.3〜1.5g/ccの含フッ素溶融樹脂粉末と水溶性溶媒と界面活性剤と水とからなり、含フッ素溶融樹脂粉末を15〜80重量%含み、該水溶性溶媒が沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を含む水性分散組成物。」に訂正する。
(b)訂正事項b
明細書の2頁6行の「特開昭57-10896号公報」を、「特公昭57-10896号公報」に訂正する。
(c)訂正事項c
明細書の20頁にある表1の中の、実施例2、実施例3及び実施例9の欄のうち、水溶性溶剤の種類にある「エチレン」を、「エチレングリコール」に訂正する。

(2)訂正可否の検討
(a)訂正事項aは、水溶性溶媒が沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を含むという限定を付す訂正であるが、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかであり、また、明細書の3頁最下行〜4頁18行には、「水溶性溶媒は含フッ素溶融樹脂を濡らす働きを有し、さらに高沸点のものは、塗装後の乾燥時に樹脂同士をつなぎクラックの発生を防止する働きを有する乾燥遅延剤として作用する。……具体例としては、たとえば、……150℃以上の高沸点有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ケトシン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、シクロヘキサノール、ジイソブチルケトン、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどがあげられる。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(b)訂正事項bは、誤記の訂正を目的とすることは明らかであり、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(c)訂正事項cは、表1中のうち、実施例2、実施例3及び実施例9にて使用する水溶性溶剤「エチレン」を、「エチレングリコール」にする訂正であるが、明細書13頁27行〜14頁25行の記載をみると、実施例2では、エチレングリコールを使用することが記載され、明細書15頁11行〜16頁7行の記載をみると、実施例3では、エチレングリコールを使用することが記載され、明細書16頁29行〜17頁11行の記載をみると、実施例9では、エチレングリコールを使用することが記載されているから、誤記の訂正を目的とすることものであり、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(d)そして、訂正事項a〜cは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[4]本件発明
本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される以下のとおりのもの(以下、順次「訂正後の本件発明1」〜「訂正後の本件発明4」という。)と認める。
「【請求項1】平均粒径が10〜1000μmで見掛け密度が0.3〜1.5g/ccの含フッ素溶融樹脂粉末と水溶性溶媒と界面活性剤と水とからなり、含フッ素溶融樹脂粉末を15〜80重量%含み、該水溶性溶媒が沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を含む水性分散組成物。
【請求項2】水溶性溶媒がアルコール系溶媒である請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項3】含フッ素溶融樹脂粉末の平均粒子径が30〜300μmである請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項4】バインダーを含まない請求の範囲第1、2または3項記載の組成物。」

[5]特許異議申立てについて
(1)甲各号証の記載事項
(a)甲第1号証
甲第1号証には、
「1 表面張力45ダイン/センチ以下の液体分散媒中に、含フッ素樹脂分散液容量に基いて10〜60容量%の
平均粒径2〜300μ、
空隙率0.74以下、
全表面積10m2/cm3以下で且つ
球形度約1.00〜約1.25
の熱流動性含フッ素樹脂粉末を含有してなる含フッ素樹脂分散液。」(特許請求の範囲第1項)、
「本発明は、皮膜形成用、たとえば物品の塗装用用途にとくに適した含フッ素樹脂分散液及びその製法に関し、詳しくは、加熱、冷却、機械的攪拌、充填材添加、電解質混入などによる分散系の不可逆的凝固傾向に対する安定性が良好で、形成される皮膜の平滑性、耐クラック発生性などの点でもすぐれ、更にピンホール発生のおそれのない皮膜厚みを得るための塗装回数を低減できる省力性を兼ねそなえた優れた皮膜形成用含フッ素樹脂分散液……に関する。」(1頁2欄3〜13行)、
「本発明含フッ素樹脂分散液における樹脂粉末は、熱流動性含フッ素樹脂粉末である。……
これら熱流動性含フッ素樹脂中、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP樹脂)及びパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA樹脂)が、とくに好適な樹脂の例としてあげる事が出来る。」(2頁4欄14〜44行)、
「(ii)空隙率:
空隙率は下記式により表わされる。
空隙率=1-(粉末の見掛比重)/(樹脂の比重)」(3頁5欄30〜35行)、
「このような液体分散媒の具体例としては、ヘキサン、ヘプタン、あるいはナフサ等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素、パークロルエチレン、トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素;イソプロパノール、アセトン、エチルエーテル、酢酸ブチル等のアルコール・ケトン・エーテル・エステル類;及びこれらの混合物等があげられる。さらに、例えば水の如き表面張力の高い液体に界面活性剤又は該液体に相溶性を有する液体を加えることによって、表面張力を45ダイン/センチ以下に調節した混合液体も利用することができる。」(3頁6欄34行〜4頁7欄2行)、
「実施例5
平均粒径25μ、空隙率0.46、球形度1.06及び全表面積0.6m2/cm3の性質を有する融点310℃のPFA樹脂粉末500g(……)に”トライトン”X-100(ノニオン界面活性剤ロームアンドハース社製)を0.3重量%含む水溶液125mlを加え、混練して粉末を完全に濡らした。ついで更に該水溶液175ml加え、攪拌して分散液を得た。」(6頁11欄21行〜同頁12欄4行)及び
「実施例6
平均粒径5μ、空隙率0.49、球形度1.03及び全表面積1.0m2/cm3の性質を有する融点310℃のPFA樹脂粉末500g(……)に第三級ブチルアルコール130mlを加え、混練して粉末を完全に濡らした後攪拌しながら水200mlを加え、分散液を得た。」(6頁12欄13〜19行)と記載されている。
(b)甲第2号証
甲第2号証には、ふっ素樹脂特性一覧表と題された表1の中に、「FEP」、「PFA」及び「ETFE」の比重が、それぞれ、「2.12-2.17」、「2.12-2.17」及び「1.70」と記載されている。
(c)甲第3号証
甲第3号証には、
「1 小なくとも0.01モル/kgのイオン強度と少なくとも50センチポアズの粘度を有することを特徴とする非イオン界面活性剤を含有するテトラフルオロエチレン重合体および充填剤の水性分散液。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「分散液中の非イオン界面活性剤成分は、添加した電解質が分散液の凝固を生じさせることなく貯蔵安定性を改善するという有益な効果をもたらすためには、分散液中に重量で少なくとも5%のこの界面活性剤が存在していなければならないという点で、必須である。」(2頁3欄17〜22行)と記載されている。

(2)訂正後の本件発明1についての対比・判断
甲第1号証には、表面張力45ダイン/センチ以下の液体分散媒中に、平均粒径が2〜300μの含フッ素樹脂粉末を含有する分散液の発明が記載され、水と界面活性剤からなる液体分散媒を使用することが記載されているが、訂正後の本件発明1で必須とする、沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を用いることは記載されておらず、まして、訂正後の本件発明1のように、沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を含む水溶性溶媒、界面活性剤及び水の混合溶媒を使用することは記載されていない。
甲第2号証には、フッ素樹脂の比重が記載されているだけであり、また、甲第3号証には、テトラフルオロエチレン重合体の水性分散液として、界面活性剤を含むことが記載されているが、含フッ素溶融樹脂粉末を溶解する溶媒として、訂正後の本件発明1で必須とする、沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を使用することは記載されていない。
そして、訂正後の本件発明1が、訂正後の特許請求の範囲の請求項1の構成を採用することで、1回あたりの施工可能膜厚が大きく、クラック、ピンホールのない被覆膜が形成できるという明細書記載の作用効果を奏することは訂正明細書の記載から明らかである。
したがって、訂正後の本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとも、また、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に訂正後の本件発明1をすることができたものともすることはできない。

(3)訂正後の本件発明2〜4についての対比・判断
訂正後の本件発明2〜4は、訂正後の本件発明1を引用して更に限定する発明であるから、上記(2)で示した理由と同じ理由で、甲第1号証に記載された発明であるとも、また、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に訂正後の本件発明2〜4をすることができたものともすることはできない。

[6]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示する証拠及び主張する理由によっては訂正後の本件発明1〜4についての特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
含フッ素溶融樹脂水性分散組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均粒径が10〜1000μmで見掛け密度が0.3〜1.5g/ccの含フッ素溶融樹脂粉末と水溶性溶媒と界面活性剤と水とからなり、含フッ素溶融樹脂粉末を15〜80重量%含み、該水溶性溶媒が沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒を含む水性分散組成物。
【請求項2】 水溶性溶媒がアルコール系溶媒である請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項3】 含フッ素溶融樹脂粉末の平均粒子径が30〜300μmである請求の範囲第1項記載の組成物。
【請求項4】 バインダーを含まない請求の範囲第1、2または3項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、溶融成形可能な含フッ素溶融樹脂の水性分散組成物に関し、特に、1回あたりの施工可能膜厚を大きくでき、しかもクラックの発生のない被覆膜を形成しうる水性分散組成物、特に水性分散塗料として有用な組成物に関する。
背景技術
テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの含フッ素溶融樹脂は、耐薬品性、耐候性、耐熱性、非粘着性などが優れているうえ、溶融加工が可能なため、たとえば鉄やアルミニウム、ステンレス鋼などの耐熱性基材にコーティングして耐食性向上や非粘着性付与、低摩擦性付与などの機能向上に用いられている。
従来、この種の用途には、含フッ素溶融樹脂を有機溶剤に溶解した有機溶剤タイプの塗料と、水に含フッ素溶融樹脂粉末を分散させた水性分散塗料(特公昭57-10896号公報)がある。
水性分散塗料は、安全で取扱いが容易であり、プライマー層が形成されている基材上にハケ塗りやエアスプレーなどにより塗装したのち乾燥し焼成することによって被覆膜を形成している。
しかし、従来の水性分散塗料は塗料中の樹脂粉末の粒径が小さいため、1回の塗装の膜厚を厚くするとクラックが発生し、1回の塗装でせいぜい50μmの膜厚のものしかえられない。厚くするために塗装焼成回数を多くしても厚くなるほどクラックが発生しやすく、重ね塗りしても1mm以上の膜厚とすることはできない。
また、特公昭57-10896号公報に記載されているようなバインダー入りの水性分散塗料は、重ね塗りができない。
本発明の目的は、1回あたりの施工可能膜厚が大きく、厚膜としてもクラックの発生のない被覆膜を形成しうる含フッ素溶融樹脂の水性分散組成物を提供することにある。
発明の開示
本発明は、平均粒径が10〜1000μmで見掛け密度が0.3〜1.5g/ccの含フッ素溶融樹脂粉末と水溶性溶媒と界面活性剤と水とからなり、含フッ素溶融樹脂粉末を15〜80重量%含む水性分散組成物に関する。
発明を実施するための最良の形態本発明の水性分散組成物に用いる含フッ素溶融樹脂としては、150〜350℃の融点を有し、融点より50℃高い温度での溶融粘度が107ポイズ以下のものが好ましい。具体例としては、たとえばテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EPA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのテトラフルオロエチレン共重合体;ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)などのクロロトリフルオロエチレン重合体;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン共重合体など、これら含フッ素溶融樹脂の1種または2種以上があげられ、これらは単独または混合物の形で用いられる。これらの含フッ素溶融樹脂は10〜1000μm、好ましくは30〜300μmの平均粒径の粉末の形で配合される。平均粒径が小さすぎると焼成時にクラックが発生しやすく厚塗りできず、一方、大きすぎると沈降しやすく分散状態が安定せず、塗装できない。また、粉末は見掛け密度が0.3〜1.5g/cc、特に0.5〜1.0g/ccであるのが好ましい。見掛け密度が小さいと分散性がわるく、泡かみやレベリング性不良がおこり易く、大きすぎると沈降しやすく分散安定性がわるい。
含フッ素溶融樹脂粉末の配合量は全組成物重量の15〜80重量%、好ましくは25〜75重量%、特に好ましくは30〜70重量%である。少ないと分散液の粘度が低すぎて基材に塗装してもすぐにタレを生じてしまい、また厚塗りもできない。一方、多すぎると組成物が流動性とならず、塗装できない。具体的な配合量は塗装方法や膜厚の調整などを考慮して前記の範囲内で適宜選定するが、スプレー塗装などのばあいは比較的低濃度とし、一方、押し付け塗装などのばあいはペースト状となる50重量%以上で用いる。
水溶性溶媒は含フッ素溶融樹脂を濡らす働きを有し、さらに高沸点のものは、塗装後の乾燥時に樹脂同士をつなぎクラックの発生を防止する働きを有する乾燥遅延剤として作用する。そのばあいでも焼成時には蒸発するので被覆膜に悪影響を及ぼすことはない。具体例としては、たとえば、100℃までの低沸点有機溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトンなど、100〜150℃の中沸点有機溶媒としてトルエン、キシレン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、n-ブタノールなど、150℃以上の高沸点有機溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ケトシン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、シクロヘキサノール、ジイソブチルケトン、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどがあげられる。高沸点有機溶媒としてはアルコール系溶媒がフッ素溶融樹脂の濡れ性、安全性の点で好ましい。低沸点有機溶媒の配合量は全水量の0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%であり、少なすぎると泡かみなどがおこり易くなり、多すぎると引火性となって水性分散組成物の利点が損われる。中沸点有機溶媒の配合量は、全水量の0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%であり、多すぎると、焼成後も被覆膜に残留して悪影響を及ぼすことがあり、少なすぎると、塗布後乾燥時に粉末に戻ってしまい焼成できない。高沸点有機溶媒の配合量は、全水量の0.5〜50重量%、好ましくは1〜30重量%であり、多すぎると焼成後も被覆膜に残留して悪影響を及ぼすことがある。
界面活性剤は、含フッ素溶融樹脂粉末を水に15〜80重量%で均一に分散させうるものであればよく、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用できる。たとえば、ソジウムアルキルサルフェート、ソジウムアルキルエーテルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルエーテルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート、アンモニウムアルキルエーテルサルフェート、ソジウムアルキルサルフェート、ソジウムアルキルエーテルリン酸、ソジウムフルオロアルキルカルボン酸などのアニオン系界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、プロピレングリコール-プロピレンオキシド共重合体、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、2-エチルヘキサノールエチレンオキシド付加物などのノニオン系界面活性剤;アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミド酢酸ベタイン、イミダゾリウムベタインなどの両性界面活性剤などがあげられる。特に、アニオン系、ノニオン系界面活性剤が好ましい。特に好ましい界面活性剤は、オキシエチレン鎖を有するノニオン系界面活性剤である。
界面活性剤の添加量は通常、含フッ素溶融樹脂粉末の0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%である。添加量が少なすぎると粉末の分散が均一にならず、一部浮上するものも生じる。一方、多すぎると焼成による界面活性剤の分解残渣が多くなり着色が生ずるほか、被覆膜の耐食性、非粘着性などが低下する。
本発明の組成物は、水、好ましくは純水に含フッ素溶融樹脂粉末を水溶性溶媒と界面活性剤によって均一に分散させることによってえられる。
本発明の組成物には用途によって種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば充填材、安定剤、顔料、増粘剤、分解促進剤、防錆剤、消泡剤、水溶性の有機溶媒などがあげられる。
本発明の組成物はバインダーを含まないことが好ましい。バインダーを含むと層間剥離が起こり易く重ね塗りが困難になり、膜厚を厚くできなくなる。
充填材は、樹脂の収縮を防ぎ、密着強度を向上させ、表面硬度や機械的強度を高め、さらに耐摩耗性、耐衝撃性、高温耐性、あるいは導電性を付与するために配合される。その量は含フッ素溶融樹脂粉末100部(重量部、以下同様)あたり0〜50部、好ましくは5〜30部であり、多すぎるとフッ素樹脂の特性が損われる。具体例としては、たとえば炭素繊維、ガラス繊維などの繊維状充填材;カーボン粉末、チタン酸カリウム粉末、二硫化モリブデン粉末、グラファイト粉末、ボロンナイトライド粉末、ガラス粉末などの粉末状充填材などがあげられる。繊維状のものでは長さ1000μm以下で直径0.5〜50μmのものが好ましく、粉末状のものでは平均粒径が70μm以下のものが好ましい。
安定剤は樹脂や被覆膜の熱や光による樹脂成分の劣化、特に焼成時の含フッ素溶融樹脂の熱分解を防ぐために安定剤を含フッ素溶融樹脂粉末100部あたり0〜5部、好ましくは0.5〜2.5部添加される。多すぎるとフッ素樹脂の特性が損なわれる。具体例としては、たとえば亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、鉄の平均粒径250μm以下、好ましくは70μm以下の周期表VIII族の金属の粉末;ベンゾイミダゾール系メルカプタン化合物またはその塩、ベンゾチアゾール系メルカプタン化合物またはその塩、ベンゾチアゾール系メルカプタン化合物またはその塩、ジチオカルバミン酸またはその塩、チウラム系化合物、有機錫メルカプチド化合物などの有機硫黄系化合物およびポリフェニレンサルファイドなどの硫黄系高分子化合物;ホスファイト類;ジナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ジ-β-ナフチル-p-フェニレンジアミン、フェニルシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン、アルドール-α-ナフチル-ジフェニルアミン、それらの誘導体などのアミン系酸化防止剤;カーボンブラック粉末;エポキシ化合物などがあげられる(特公昭55-50067号公報、特公昭56-34222号公報参照)。
顔料としては、たとえば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルニウム、酸化カドミウム、酸化鉛などの金属酸化物;シリカ、硫酸亜鉛、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛とのブレンド物)、カーボンブラック、クロム酸亜鉛などがあげられ、含フッ素溶融樹脂粉末100部あたり0〜30部、好ましくは0.5〜15部配合される。
増粘剤は、塗料として塗装に用いる際、粘度をあげてレベリング性、加工性を改善するために配合され、その量は全水量の0〜3重量%、好ましくは0.01〜1重量%である。多すぎるとフッ素樹脂の特性が損なわれると共に、被覆膜に着色やクラックが生じる。具体例としては、たとえばメチルセルロース、カルボキシルビニルポリマー、無水シリカ、ケイ酸アルミニウム有機複合体、膨潤性層状粘土化合物などがあげられる。
分解促進剤は、焼成時に界面活性剤の分解を促進し、被覆膜に残留しないようにするために配合されるものであり、具体例としては、たとえば銀、ニッケル、アルミニウム、ガリウムなどの水溶性塩(たとえば酢酸ニッケル、硝酸ニッケルなど。特開平2-222439号公報参照)、硝酸アンモニウムなどがあげられる。添加量は、種類などによって異なるが、たとえば酢酸ニッケルを用いるばあいは、ニッケル分で界面活性剤量の0〜0.1重量%、好ましくは0.005〜0.05重量%であり、多すぎるとフッ素樹脂の特性が損なわれる。
防錆剤は鉄などの基材に錆が発生するのを防ぐために配合され、その量は全水量の0〜3重量%、好ましくは0.01〜1重量%である。具体例としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルアミン、1級アルキルアミン、2級アルキルアミンなどがあげられる。
消泡剤としてはシリコーンオイル、脂肪酸アミド、金属石ケン、疎水性シリカなどがあげられ、全水量の0〜3重量%、好ましくは0.01〜1重量%配合される。
本発明の水性分散組成物は、水に水溶性溶媒と界面活性剤を完全に溶解させ、その水溶液に撹拌下に含フッ素溶融樹脂粉末を徐々に加えて均一に分散させることによりえられる。高濃度の水溶性溶媒、界面活性剤溶液と含フッ素溶融樹脂粉末をニーダーなどで混練後、水に分散してもよい。
充填材や安定剤、顔料は予めヘンシェルミキサーなどにより含フッ素溶融樹脂粉末に混合しておくのが好ましい。水溶性溶媒や増粘剤、分解促進剤、防錆剤、消泡剤は界面活性剤水溶液側に添加し、均一に混合して前記含フッ素溶融樹脂混合粉体を添加分散させる。
そのほか、水溶性溶媒、界面活性剤水溶液、分解促進剤、防錆剤、消泡剤を別々に調製し混合するという方法で調製してもよい。
混合は、たとえば、プロペラ型攪拌機、タービン型攪拌機などを用いて行なう。高濃度のペースト状とするばあいはニーダーなどの混練機、ターボディスパーなどの高トルク型攪拌機などを用いればよい。
本発明の組成物は、厚塗り塗装用の水性塗料などとして有用である。水性塗料としては、含フッ素溶融樹脂粉末の濃度を変化させることにより、スプレー塗装用からディッピング用、キャスティング用、押えつけ型塗装(ハケ、ローラー、ヘラなど)用、さらには電着用としても用いることができる。
たとえば水性塗料として基材の被覆に用いるばあい、まず基材との接着性を確保するために塗装すべき基材(金属、セラミックなど)に常法によりフッ素樹脂用プライマー塗膜を形成し、ついでその上に本発明の組成物を塗装し、塗膜を乾燥したのち焼成すればよい。重ね塗装して膜厚を厚くしようとするときは、1回の塗装ごとに乾燥焼成してもよいし、各塗装では乾燥だけをし最後に一括して焼成してもよい。塗装方法としては、ハケ塗り、ローラー塗り、ヘラ塗りなどの押えつけ型塗装;ディッピィング塗装;キャスティング塗装;エアレススプレー、エアスプレーなどの噴霧型塗装;電着塗装などが採用できる。
1回の塗装あたりの塗膜(焼成後)の厚さは、従来の水性塗料では高々50μmであったが、本発明の水性分散組成物では含フッ素溶融樹脂の種類、粒径、濃度あるいは充填材や塗装方法によるが約1200μmにまで厚くすることができる。しかし、目的、用途に応じて1回の塗装量を任意に選定でき、また重ね塗りでさらに5000μm程度まで厚くすることも可能である。
乾燥は赤外線ランプ加熱や自然乾燥など従来法でよく、焼成は電気炉などで使用する含フッ素溶融樹脂の焼成温度(融点〜融点+50℃)で行なえばよい。
えられる被覆膜は1回の塗装膜厚を厚くしてもクラックが生じず、均質な耐食性被覆となりうる。
本発明の水性分散組成物によれば、水性であるから塗装などの作業環境が安全である。また固形分の濃度をあげるとペースト状になり、押えつけ型塗装法(ハケ塗りロール塗り、ヘラ塗り)で容易に塗装でき、焼成すると1回で1200μm程度の膜厚をうることができる。
すなわち、厚塗りが可能であり、目的の膜厚をうるための焼成回数を従来よりかなり減らすことができ、被覆膜の熱劣化も抑えられる。また、固形分を下げると、通常のエアスプレーで容易に塗装でき、厚さのコントロールが容易で、塗膜中にピンホールがあるばあいも、容易に穴埋めすることができる。そして、押えつけ型塗装法、スプレー塗装法のいずれでも常温での塗装が可能である。
本発明の水性分散組成物は、耐食ライニング、非粘着コーティングとして、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼などの耐熱性基材の耐食性向上や非粘着性などの機能向上に有用である。たとえば、タンク、配管の内部などにコーティングすることによって基材を保護し、薬品などによる腐食を防ぐことができる。
さらに、樹脂やゴムなどの成形用金型、またはロールやホッパー、調理器具などにコーティングして離型性や非粘着性を付与するために用いることもできる。
つぎに本発明の水性分散組成物を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体(ETFE)(見掛密度0.5g/cc、平均粒径50μm)の粉末を使用し、該粉末100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミンと2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩と錫粉末(40μm以下)の重量比3:3:2の混合物)1部とをヘンシェルミキサーで混合し、さらに直径10μm、平均長さ50μmのガラス繊維をヘンシェルミキサーで混合した(ETFE/ガラス繊維の重量比5/1)。別途、純水110gにパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなるフッ素系界面活性剤2.8g、エチレングリコール30g、メチルセルロース系増粘剤3%水溶液2.0gを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついで、この水性分散液に、ガラス繊維入りETFE280gを室温下に添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。えられた分散組成物を使用して、鉄板(SS-41)に塗装した。
塗装は、100×80×1mmの鉄板(SS-41)をアセトンで脱脂処理したのちサンドブラスト処理し、本発明の水性分散組成物を圧力をかけながらヘラを用いて押えつけ塗装を行なった。塗装後、90℃で30分間赤外線ランプ加熱し、電気炉中で300℃で60分間焼成して膜厚約1000μmの被覆膜を形成した。この上にさらに同様の塗装を行ない、乾燥・焼成して合計厚約1.5mmのピンホールのない平滑な被覆膜をえた。塗装作業、乾燥、焼成の間、クラックは生じなかった。
比較例1
実施例1で用いたものと同じ安定剤入りETFE粉末とガラス繊維を重量比で5/1にヘンシェルミキサーで混合した乾燥混合物を、実施例1と同様に鉄板に静電粉体吹付機(オノダ-イワタ(株)製のGX375)を用い、荷電圧60kV、2kg/cm2Gで5〜10秒間吹きつけ、鉄板基材表面に静電的に付着させた。えられた塗装物を実施例1と同様に、電気炉中で300℃で60分間焼成を行なうことによって鉄板上に厚さ150μmの平滑な被覆膜を形成させた。同様の操作を膜厚が1mmを超えるまで繰り返したが、6回の重ね塗りで900μmの不均一な膜厚しかえられず、それ以上塗装すると塗膜のタレが生じた。
比較例2
実施例1で用いたものと同じ安定剤入りETFE粉末とガラス繊維を重量比で5/1にヘンシェルミキサーで混合した。別途、純水140gにパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなるフッ素系界面活性剤2.8g、メチルセルロース系増粘剤3%水溶液20gを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にガラス繊維入りETFE280gを室温下に添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させた。えられた水性分散組成物を使用し、実施例1と同様の条件で塗装・乾燥・焼成を行なった。しかし、乾燥時に粉化してしまい、基材から脱落した。また焼成後の被覆膜は一部脱落しており重ね塗りは不可能であった。
比較例3
ETFE(見掛密度0.4g/cc、平均粒径3〜7μm)の粉末を使用し、実施例1と同様に安定剤を混合した。さらに、該粉体と直径10μm、平均長さ50μmのガラス繊維とをヘンシェルミキサーで混合した(ETFE/ガラス繊維の重量比5/1)。別途、純水110gにパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなるフッ素系界面活性剤2.8g、エチレングリコール30g、メチルセルロース系増粘剤3%水溶液2.0gを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にガラス繊維入りETFE280gを室温下に添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させた。えられた水性分散組成物を使用し、実施例1と同様の条件で塗装・乾燥・焼成を行なった。1回目300μmの膜厚で早くもクラックが発生し、重ね塗りを試みたがクラックがひどく、重ね塗りは不可能であった。
実施例2
テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(見掛密度0.45g/cc、平均粒径50μm)の粉体を使用し、該粉体100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミンと2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩と錫粉末(40μm以下)の重量比3:3:2の混合物)2部とをヘンシェルミキサーで混合した。つぎにその安定剤入りPFA450gを、イソプロピルアルコール(IPA)50gとエチレングリコール246gとの混合液に分散させた。別途、純水246gにパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなるフッ素系界面活性剤8gを添加し、撹拌して均一な水性分散液を調製した。この界面活性剤水溶液と前記PFA分散体を混合し、スリーワンモーターで15分間撹拌して固形分を均一に分散させて本発明の水性分散組成物をえた。
また、100×80×1mmの鉄板(SS-41)をアセトンで脱脂処理したのちサンドブラスト処理し、この上にプライマー(ダイキン工業(株)製ポリフロンエナメルEK1083GB)を塗装・乾燥・焼成してプライマー層を形成した。このプライマー層の上に前記の水性分散組成物を1.0mm口径のスプレーガンで吹付け、赤外線ランプ加熱を90℃で30分間行なったのち、電気炉中で360℃で90分間焼成し、鉄板上に平滑な膜厚300μmの被覆膜を形成させた。同様の操作をさらに2回繰り返し、施工中にクラックの発生を見ることなく、厚さ800μmのピンホールのない平滑な被覆膜をえた。
比較例4
実施例2で用いたものと同じPFA粉末を同実施例と同様にして安定剤とヘンシェルミキサーで混合した。つぎにその安定剤入りPFA400gとメタノール240g、n-ブタノール240gおよびプロピレングリコール-プロピレンオキシド共重合系界面活性剤0.8gとを混合し、スリーワンモーターで撹拌により均一に分散させた。えられた水性分散組成物を使用し、実施例2と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。しかし、乾燥時に粉化してしまい基材から脱落した。また、1回目200μmの膜厚で被覆膜に多くのピンホールを生じた。さらに重ね塗りを試みたが、乾燥時の粉体の脱落が激しくこれ以上の塗装は不可能であった。
実施例3
テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(見掛密度0.5g/cc、平均粒径48μm)の粉体を使用し、該粉体100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミンと2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩と錫粉末(40μm以下)の重量比3:3:2の混合物)2部とをヘンシェルミキサーで混合し、その安定剤入り粉末450gを,イソプロピルアルコール50gとエチレングリコール245gとの混合液に分散させた。
別途、純水245gにパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物からなるフッ素系界面活性剤10gを添加し、撹拌して均一な水性分散液を調製した。この界面活性剤水溶液と前記FEP分散体を混合し、スリーワンモーターで15分間撹拌して固形分を均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。また、100×80×1mmの鉄板(SS-41)をアセトンで脱脂処理したのちサンドブラスト処理し、この上にプライマー(ダイキン工業(株)製ポリフロンエナメルEK1083GB)を塗装・乾燥・焼成してプライマー層を形成した。このプライマー層の上に前記の分散組成物を塗装し、赤外線ランプ加熱を90℃で30分間行なったのち、電気炉内で340℃で60分焼成し膜厚300μmの平滑な被覆膜を形成させた。同様の操作をさらに2回繰返し、施工中にクラックの発生を見ることなく、厚さ750μmのピンホールのない平滑な被覆膜をえた。
比較例5
乳化重合によってえられたFEP水性ディスパージョン(平均粒径0.2μm、濃度50重量%)を用いたほかは実施例3と同様の条件で塗装・乾燥を行ない、電気炉中で380℃にて40分間焼成した。1回目の膜厚は40μmで、平滑な被覆膜がえられた。さらに重ね塗りしたところ、膜厚が100μmを超えると塗膜に発泡が生じ、これ以上の塗装は不可能であった。
実施例4〜8
実施例1で用いたものと同じ安定剤入りETFE粉末を使用した。実施例5のみ、実施例1と同様にガラス繊維とETFEとをヘンシェルミキサーで混合した。別途それぞれ純水に界面活性剤、エチレングリコールおよび任意添加成分を添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついで、この水性分散液にETFEを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。
この水性分散組成物を実施例2と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
実施例9
実施例2で用いたものと同じ安定剤入りPFA粉末を使用した。カーボン(コロンビアカーボン(株)製カーボンネオスペクトラマークII)とPFAとをヘンシェルミキサーで混合した。別途それぞれ純水に界面活性剤、エチレングリコール、IPAを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついで、この水性分散液にPFAを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。
この水性分散組成物を実施例2と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
実施例10
実施例3で用いたものと同じ安定剤入りFEP粉末を使用した。別途それぞれ純水に界面活性剤、エチレングリコール、IPAおよび任意添加成分を添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にFEPを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。
この水性分散組成物を実施例3と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
実施例11
ETFE(見掛密度0.7g/cc、平均粒径300μm)の粉末を使用し、該粉体100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩および錫粉末(40μm以下)の重量比で3:3:2の混合物)1部とをヘンシェルミキサーで混合した。別途、純水に界面活性剤、エチレングリコールを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にETFEを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。この水性分散組成物を実施例1と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
実施例12
ETFE(見掛密度0.9g/cc、平均粒径700μm)の粉末を使用し、該粉体100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩および錫粉末(40μm以下)の重量比で3:3:2の混合物)1部とをヘンシェルミキサーで混合した。別途、純水に界面活性剤、エチレングリコールを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にETFEを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。この水性分散組成物を実施例1と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
実施例13〜15
実施例4で使用したエチレングリコールに代えて、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールを使用する以外、同様の方法にて混合分散および塗装、乾燥、焼成を行ない、同様の評価を行なった。
比較例6
ETFE(見掛密度0.2g/cc、平均粒径10μm)の粉末を使用し、該粉体100部と安定剤(4,4′-ビスジフェニルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩および錫粉末(40μm以下)の重量比で3:3:2の混合物)1部とをヘンシェルミキサーで混合した。別途、純水に界面活性剤、エチレングリコールを添加し、10分間撹拌して均一な水性分散液とした。ついでこの水性分散液にETFEを添加し、スリーワンモーターで15分間撹拌して均一に分散させ、本発明の水性分散組成物をえた。この水性分散組成物を実施例1と同様にして塗装・乾燥・焼成を行なった。さらにピンホール、クラック、脱落、タレなどが発生するまで重ね塗りを行なった。
なお、添加した成分、量および試験結果は、表1〜5のとおりである。重量の合計は1000gである。また添加量は全て、重量%で表示した。各塗膜の状態は、実施例1で用いた安定剤入りのETFEを比較例1と同様に静電粉体塗装し、えられた約150μmの塗膜を基準にとり、同じなら○、少し劣れば△、大きく劣れば×で表わした。塗装性は、スプレーガンがつまることなく、かつムラなく塗装できたばあいを○として、沈降が早くガンがつまったり泡かみをおこし塗装すると表面に巣(表面荒れ)をつくったりしたばあい順次その状態により△、×とした。そして、以上の点を総合的に判断し、トータルを○、△、×で表わした。また1回あたりの平均膜厚および全体膜厚も示した。





本発明の含フッ素溶融樹脂水性分散組成物によるときは、1回の塗装でクラックを生ずることなく被覆膜を形成できる膜厚を大幅に厚くすることができ、塗装・焼成回数を減らすことができると共に従来にない厚い被覆膜を形成でき、またピンホールの発生も抑制できる。また、水性であるから、作業を安全に行なうことができる。
産業上の利用可能性
本発明の組成物は、厚塗り塗装用の水性塗料などとして有用である。水性塗料としては、含フッ素溶融樹脂粉末の濃度を変化させることにより、スプレー塗装用からディッピング用、キャスティング用、押えつけ型塗装(ハケ、ローラー、ヘラなど)用、さらには電着用としても用いることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-09 
出願番号 特願平6-507039
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 佐藤 健史
中島 次一
登録日 2002-06-28 
登録番号 特許第3321805号(P3321805)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 含フッ素溶融樹脂水性分散組成物  
代理人 秋山 文男  
代理人 佐木 啓二  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 中嶋 重光  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 秋山 文男  
代理人 佐木 啓二  
代理人 山口 和  

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