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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:165  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1097961
異議申立番号 異議2003-70816  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-09-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-31 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3330413号「ポリプロピレン組成物およびその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3330413号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3330413号は、平成5年2月24日に出願された特願平5-35196号に係り、平成14年7月19日に設定登録がなされた後、日本ポリケム株式会社から特許異議の申立てがあり、平成15年8月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月16日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]本件訂正前の特許に対する特許異議申立人の主張の概要
本件訂正前の特許に対し、特許異議申立人 日本ポリケム株式会社は、下記甲第1号証〜甲第5号証及び参考資料1及び2を提示し、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第5号証の記載をみれば甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証、甲第2号証、参考資料1及び参考資料2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるか、甲第4号証に記載された内容をみれば、その出願前の特許出願であって、その出願後に下記の甲第3号証として出願公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるか、本件明細書には不備があるから、本件訂正前の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項又は同法第29条の2の規定に違反してされたものであるか、若しくは、同法第36条に規定する要件を満足していない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであると主張する。

甲第1号証:特開平4-356511号公報
甲第2号証:特開昭59-172507号公報
先願明細書3:特願平5-30600号明細書(特開平6-240068号公報(甲第3号証)参照)
甲第4号証:特開平3-7704号公報
甲第5号証:実験成績報告書、平成15年2月28日、日本ポリケム株式会社 触媒開発センター 中島雅司 他1名作成
参考資料1:日本分析化学会、高分子分析研究懇談会 編「高分子分析ハンドブック」朝倉書店、1987年7月25日発行、252〜253頁
参考資料2:特開平1-126355号公報

[3]本件訂正請求
(1) 訂正事項
本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下のとおりである。
(a)訂正事項a
請求項1の「135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.90以上である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部よりなるポリプロピレン組成物。」を、「135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物。」に訂正する。
(b)訂正事項b
請求項2の「〔η〕が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.90以上である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部に、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。」を、「〔η〕が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部に、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。」に訂正する。
(c)訂正事項c
明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】の、「【課題を解決するための手段】本発明者らは通常工業的に用いられているポリプロピレンに特定の低分子量ポリプロピレンをブレンドすることにより物性が低下せず、むしろ物性が向上することを見いだして本発明を完成させた。すなわち本発明は、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.90以上である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部よりなるポリプロピレン組成物であり、また本発明は、上記の高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部とを溶融混合することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法である。」を、「【課題を解決するための手段】本発明者らは通常工業的に用いられているポリプロピレンに特定の低分子量ポリプロピレンをブレンドすることにより物性が低下せず、むしろ物性が向上することを見いだして本発明を完成させた。すなわち本発明は、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物であり、また本発明は、上記の高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部とを溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法である。」に訂正する。
(d)訂正事項d
明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】中の「これらの低分子量のポリプロピレンを上記高分子量のポリプロピレンと溶融混合することで、本発明のポリプロピレン組成物が得られる。」を、「これらの低分子量のポリプロピレンを上記高分子量のポリプロピレンと溶融混合しペレット化することで、本発明のポリプロピレン組成物が得られる。」に訂正する。

(2)訂正可否の検討
(a)訂正事項aは、(ア)高分子量のポリプロピレンの沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の範囲を「0.90以上」から「0.95〜0.98」にする訂正であり、また、(イ)「ポリプロピレン組成物」を、「溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物」とする訂正である。ここでは、(ア)と(イ)とを分けて検討する。
(ア)について
この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかであり、また、発明の詳細な説明の段落【0014】には、実施例1として、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.98の高分子量のポリプロピレンが記載され、同じく段落【0019】には、実施例2として、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95の高分子量のポリプロピレンが記載されているので、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(イ)について、
この訂正は、ポリプロピレン組成物を、溶融混合したペレットよりなるという限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかであり、また、発明の詳細な説明の段落【0012】には、
「これらの低分子量のポリプロピレンを上記高分子量のポリプロピレンと溶融混合することで、本発明のポリプロピレン組成物が得られる。」と記載され、また、同じく段落【0014】の実施例1では、「ポリプロピレン(〔η〕が1.6 dl/g……)に……低分子量のポリプロピレン……が5重量%になるように添加して……溶融混練し、ペレット化した。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(b) 訂正事項bは、(ア)高分子量のポリプロピレンの沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の範囲を「0.90以上」から「0.95〜0.98」にする訂正であり、また、(イ)「溶融混合することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。」を、「溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。」とする訂正である。ここでは、(ア)と(イ)とを分けて検討する。
(ア)について
この訂正は、訂正事項a(ア)の訂正と同じであるから、上記(a)(ア)において示した理由と同じ理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかであり、また、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(イ)について
この訂正は、ポリプロピレン組成物の製造方法について、「溶融混合する」から、「溶融混合しペレット化する」というように限定を付すものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすることは明らかであり、また、発明の詳細な説明の段落【0014】の実施例1では、「ポリプロピレン(〔η〕が1.6 dl/g……)に……低分子量のポリプロピレン……が5重量%になるように添加して……溶融混練し、ペレット化した。」と記載されているので、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内でされたものである。
(c)訂正事項c及びdは、上記訂正事項a及びbにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである
(d)そして、訂正事項a〜dは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[4]本件発明
本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのもの(以下、順次「訂正後の本件発明1」及び「訂正後の本件発明2」という。)と認める。
「【請求項1】135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物。
【請求項2】〔η〕が1.0 dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部に、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1 〜10重量部を溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。」

[5]特許異議申立てについて
(1)甲各号証等の記載事項
(a)甲第1号証には、
「(1)20℃のキシレンに可溶な重合体が4.0重量%以下であり、
(2)135℃のテトラリン中で測定した固有粘度〔η〕が1.0dl/g以上4.0dl/g以下の範囲にあり、
(3)分子量が2000以上26000以下である成分の量Aiが式(I)
logAi≧1.60-1.32log〔η〕 (I)
を満足することを特徴とする高剛性ポリプロピレン。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明のポリプロピレンは、アイソタクチック・ポリプロピレンを与える触媒を用い、重合条件を調節することによって重合の過程で各成分を同時に又は段階的に生成させて得ることができるし、又、別個に重合して得られた少くとも2種の特定Ai量、CXS、〔η〕を有するポリプロピレンを通常のオレフィン重合体に適用される方法で混合することによって得ることもできる。」(段落【0006】)、
「かかる触媒系を用い先に述べたCXS、〔η〕及びAiと〔η〕との関係式(I)を満足するポリプロピレンを得るには次の如き方法が用いられる。……
(c)特定分子量範囲の成分を多量に含むポリプロピレンを別途調製し、これを剛性等を改良する必要のあるポリプロピレンに配合して製品とする方法、……」(段落【0010】)、
「前記(c)の方法についてさらに説明する。
この方法に用いるポリプロピレンは次の様なポリプロピレンをいう。即ち、特定分子量範囲の成分Aiを多量に含むポリプロピレンとは、20℃のキシレンに可溶な重合体(CXS)の量が10重量%以下であって、かつ、分子量が2000以上26000以下であるAiを50%以上含有する立体規則性ポリプロピレンである(以下PP-1という)。
剛性等を改良する必要のあるポリプロピレンとは、PP-1に比して相対的に高分子量であって、CXSの量が4.0重量%以下、固有粘度〔η〕が1.0dl/g以上10.0dl/g以下である立体規則性ポリプロピレンである(以下PP-2という)。
これらのポリプロピレンを配合し、配合後の全ポリマーに対してCXSの量が4.0重量%を越えず、さらに、固有粘度〔η〕が1.0〜4.0dl/gの範囲となるようにするとともに、Aiと〔η〕とが式(I)の関係を満足するように配合することによって得ることができる。」(段落【0011】)、

「PP-1とPP-2の配合割合は、PP-1が1.0〜90重量%に対しPP-2を99.0〜10重量%の範囲内であって、……」(段落【0012】)、
「【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。諸物性の測定は、以下の方法によっておこなった。……
(3)固有粘度〔η〕
ウベローデ型粘度計を用いて、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。」(段落【0014】)及び
「実施例2〜7
(1)PP-1の重合
窒素で置換した5リットルのSUS製撹拌機付きのオートクレーブに、脱水精製したn-ヘプタン1.5リットル、ジエチルアルミニウムクロリド20.7mmol、及び比較例2で得た固体触媒0.980gを順次加え、プロピレン50g及び水素を分圧で6.8kg/cm2 G添加し60℃で重合を行った。プロピレンは重合圧力を9.0kg/cm2 Gに保つように供給し2時間重合した。次いで内圧をパージした後、ブタノール75mlを添加し重合を停止するとともに60℃で1時間処理し、内容物を取り出して167.3gのプロピレン重合体を得た。該ポリマーの〔η〕は0.49dl/gであり、Aiは60%、CXSは4.1wt%であった。
(2)PP-2の重合
窒素で置換した5リットルのSUS製撹拌機付きオートクレーブに、脱水精製したn-ヘプタン1.5リットル、ジエチルアルミニウムクロリド20.7mmolおよび上記比較例2で得た固体触媒0.787gを順次加え、プロピレン50gを添加し60℃で重合を継続した。プロピレンは重合圧力を1.5kg/cm2 Gに保つように供給し2時間重合した。次いで内圧をパージした後、ブタノール75mlを添加し重合を停止した後60℃で1時間処理し、内容物を取り出し147.6gのプロピレン重合体を得た。該ポリマーの〔η〕は4.09dl/gであり、CXSは3.0重量%であった。
(3)混合
2リットルのセパラブルフラスコにBHT0.2gを溶解したキシレン1リットルを入れ、PP-1とPP-2とを表2記載の比率で、合計量が10gとなるように加え、撹拌しながら130℃に昇温し、この状態で1時間保ち、ポリマーを完全に溶解した。その後、室温まで放冷し、ポリマーを析出させ、さらに20℃で1時間静置した。ガラスフィルター(木下式ガラスボールフィルターG3)で吸引濾過し、析出ポリマーとキシレンを分離した後、析出ポリマー部を室温のメタノール2リットル中へ投入し撹拌した。再び濾過して得た固形ポリマーを60℃で真空乾燥した。」(段落【0019】)と記載され、8頁に記載の表2には、実施例2として、PP-1が5wt%、PP-2が95wt%の割合で混合した組成物が、実施例3として、PP-1が10wt%、PP-2が90wt%の割合で混合した組成物が記載されている。

(b)甲第2号証には、
「チーグラー型触媒を用いてプロピレンを二段階で重合することからなり、一方の段階において極限粘度(135℃のデカリン中で測定)が1.8ないし10dl/g、アイソタクテイシテイが97.5重量%以上のポリプロピレンを全体の35ないし65重量%の割合で製造し、他方の段階において極限粘度が0.6ないし1.2dl/g、アイソタクテイシテイが96.5重量%以上のポリプロピレンを全体の65ないし35重量%の割合で製造し、……プロピレンの重合方法。」(特許請求の範囲第1項)及び
「尚、本発明においてアイソタクテイシテイ(II)は、沸騰n-ヘプタン抽出残であり、……」と記載されている。

(c)先願明細書3には、
「(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/g、かつアイソタクチックペンタッド分率が0.960以上の低分子量ポリプロピレン5〜100重量部を含むことを特徴とするポリプロピレン組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「超高分子ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンを混合し、本発明のポリプロピレン組成物を得る方法は特に制限はないが、ヘンシェルミキサー等を使用し、両成分をドライブレンドする方法、または、重合時に多段階に両成分を製造する方法等を用いることができる。」(段落【0015】)、
「本発明のポリプロピレン組成物は、通常の成形機を使用し、射出成形、押出成形、及びプレス成形等の成形法で、種々の形状の成形品を成形することができる。しかしながら、本発明のポリプロピレン組成物を一旦溶融し成形したものは、溶融し再び結晶化する際に分子鎖の絡み合いが起こるためか、溶融粘度は著しく大きくなり、流動性が低下する。このため本発明のポリプロピレン組成物は、一旦射出成形、及び押出成形等を行うと、再度溶融して成形を行うことは困難である。したがって、上記方法で混合して得られたポリプロピレン組成物は溶融混練等によりペレット化することなく、射出成形機、押出成形機やプレス成形機等の公知の成形機を用いて直接所望の形状に成形することが好ましい。」(段落【0016】)及び
「実施例1
特開平3-7704号公報に記載されている方法に準じ、超高分子量ポリプロピレンの重合を行った。得られた超高分子量ポリプロピレンの135℃テトラリン中で測定した極限粘度は5.6dl/gであった。特開平2-170802号に記載されている方法に準じ、低分子量ポリプロピレンの重合を行った。得られた低分子量ポリプロピレンの135℃テトラリン中で測定した極限粘度は0.68dl/g、13C-NMRで測定したアイソタクチックペンタッド分率は0.967(表1の低分子量ポリプロピレン(A))であった。この超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレン(A)をヘンシェルミキサーを使用し、表2に示す割合で混合した。得られたポリプロピレン組成物の135℃テトラリン中における極限粘度は4.0dl/gであった。このポリプロピレン組成物を用いて、曲げ試験片の作製、及び流動長測定のため射出成形を行った。得られた試験片の曲げ弾性率、熱変形温度及び流動長を表2に示した。」(段落【0027】)と記載されている。

(d)甲第4号証には、
「(A)プロピレンに基づく単量体単位が95モル%を越えて100モル%以下、プロピレン以外のα-オレフィンに基づく単量体単位が0モル%以上5モル%未満であり、
(B)重量平均分子量が100万以上であり 且つ
(C)P-キシレン可溶分が1.0重量%以下であることを特徴とする超高分子量ポリプロピレン。」(特許請求の範囲の請求項1)及び
「本発明の超高分子量ポリプロピレンの上記した結晶性には、立体規則性が大きく影響する。本発明の超高分子量ポリプロピレンの立体規則性は、13C核磁気共鳴スペクトル(以下、13C-NMRと略記する)により測定されたペンタッド分率で表示すると0.96以上となり、0.97以上、さらには0.98以上とすることもできる。」(2頁右下欄12〜19行)と記載され、6頁左下欄3行以降には、実施例としてポリプロピレンが記載され、8頁右下欄の表1には、実施例1〜5として、ペンタッド分率が0.971〜0.982の値が記載されている。

(e)参考資料1には、
「2.2.9 ポリプロピレン(ホモポリマー)
a.立体規則性の定量
ポリプロピレン(PP)の立体規則性はPP中に含まれる量で表示する場合が一般的である。アイソタクチックPPは結晶性のため溶剤に溶けにくく、結晶性の低いアタクチックPPやステレオブロックPPを沸とうヘプタンで抽出することによって、沸とうヘプタン不溶部の割合を立体規則性という場合が多い。また、アイソタクチックPPの割合をIRスペクトルあるいはX線回折によって求められる結晶化度から推定する方法も一般によく行われる。また一方、アイソタクチックPPとはいっても、ポリマーの連鎖中には1000モノマー単位当たり5〜10個の規則性の乱れが存在しており、この乱れは13C-NMRスペクトルより定量できる。」(252頁5〜13行)と記載されている。

(f)参考資料2には、
「1 (イ)極限粘度[η1]が0.5〜5dl/gであり、(ロ)常温キシレン可溶分量(Xs)が3重量%以下でありかつ常温キシレン不溶分の極限粘度と常温キシレン可溶分の極限粘度の間に式
〔不溶分[η1]-可溶分[η1]〕=△[η1]
で表される△[η1]が0.5以下であり、
(ロ) アイソタクチックペンタッド分率(IP)が式
IP≧-0.624[η1]+97.5
で表される範囲であり、(ニ)結晶化温度Tcは式
Tc≧-2.33[η1]+116.0
で表される範囲であるプロピレン単独重合体……」(特許請求の範囲第1項)と記載されている。

(2)特許法第29条第1項第3号の規定の適用について
(a)訂正後の本件発明1について
甲第1号証には、20℃のキシレンに可溶な重合体が4.0重量%以下であり、135℃のテトラリン中で測定した固有粘度〔η〕が1.0dl/g以上4.0dl/g以下の範囲にあり、分子量が2000以上26000以下である成分の量Aiが式 logAi≧1.60-1.32log〔η〕を満足する高剛性ポリプロピレンに関する発明が記載され、このようなポリプロピレンを調整するために、分子量が2000以上26000以下である立体規則性ポリプロピレン(以下、「PP-1」という。)と相対的に高分子量で固有粘度〔η〕が1.0dl/g以上10.0dl/g以下である立体規則性ポリプロピレン(以下、「PP-2」という。)を混合することが記載されている。
また、甲第1号証の実施例2及び3では、〔η〕の値が0.49dl/gであるPP-1を、それぞれ5重量%及び10重量%使用し、〔η〕の値が4.09dl/gであるPP-2を、それぞれ、95重量%及び90重量%使用した例が記載されており、PP-1は、訂正後の本件発明1の低分子量の高立体規則性ポリプロピレンに対応し、PP-2は、同じく高分子量のポリプロピレンに対応する。
そうすると、甲第1号証では、高分子量のポリプロピレンに対応する樹脂の沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の値が記載されていない点、及び低分子量の高立体規則性ポリプロピレンに対応する樹脂のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の値が記載されていない。
これらの値について、特許異議申立人が提出した実験成績報告書(甲第5号証)をみてみると、それぞれ、0.935および0.945とされており、高分子量のポリプロピレンにおける、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の値が訂正後の本件発明1と異なることは明らかである。
よって、訂正後の本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(b)訂正後の本件発明2について
訂正後の本件発明2は、訂正後の本件発明1のポリプロピレン組成物の製造方法の発明であるから、上記[5](2)(a)と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(3)特許法第29条第2項の規定の適用について
(a)訂正後の本件発明1について
上記[5](2)(a)で示したとおり、訂正後の本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証では、高分子量のポリプロピレンに対応する樹脂の沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の値が記載されていない点、及び低分子量の高立体規則性ポリプロピレンに対応する樹脂のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率の値が記載されていない点で両者は相違する。
そこで、この相違点について検討するに、甲第2号証には、先ず、1.8ないし10dl/g、アイソタクテイシテイが97.5重量%以上のポリプロピレンを全体の35ないし65重量%の割合で製造し、その後極限粘度が0.6ないし1.2dl/g、アイソタクテイシテイが96.5重量%以上のポリプロピレンを全体の65ないし35重量%の割合で製造する二段階重合によりポリプロピレンを製造する方法の発明が記載されている。
しかしながら、参考文献1及び2をみても、甲第2号証に記載されている沸騰n-ヘプタン抽出残であるアイソタクテイシテイが、mmmmペンタッド分率と同一であるということはできず、また、甲第2号証には、分子量の異なる2種類のポリプロピレンを2段階重合により製造すると記載され、訂正後の本件発明1のように、溶融混合した組成物とは異なるので、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された発明を適用しても、訂正後の本件発明1が容易になし得たとはいえない。

(b)訂正後の本件発明2について
訂正後の本件発明2は、訂正後の本件発明1のポリプロピレン組成物の製造方法の発明であるから、上記[5](3)(a)と同じ理由により、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

(4)特許法第29条の2の規定の適用について
(a)訂正後の本件発明1について
先願明細書3には、(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/g、かつアイソタクチックペンタッド分率が0.960以上の低分子量ポリプロピレン5〜100重量部を含むポリプロピレン組成物に関する発明が記載され、実施例には、超高分子量ポリプロピレンとしては、特開平3-7704号公報に記載されている方法に準じ、超高分子量ポリプロピレンの重合を行った、と記載されている。
そして、特開平3-7704号公報(甲第4号証)をみると、本発明の超高分子量ポリプロピレンの立体規則性は、13C核磁気共鳴スペクトル(以下、13C-NMRと略記する)により測定されたペンタッド分率で表示すると0.96以上となり、と記載されていることから、先願明細書3に記載されている超高分子量ポリプロピレンのペンタッド分率は、0.96以上であるということができる。
そこで、訂正後の本件発明1と先願明細書3に記載された発明とを比較すると、先願明細書3には、高分子量のポリプロピレンと低分子量の立体規則性ポリプロピレンとを溶融混合したペレットよりなると記載がされていない。
この点について検討するに、先願明細書3には、高分子量のポリプロピレンと低分子量の立体規則性ポリプロピレンの混合方法としては、ドライブレンド、重合時に多段階に両成分を製造する方法が記載されており、溶融混合してペレットとすることについては記載されていない。また、先願明細書3には、本発明のポリプロピレン組成物を一旦溶融し成形したものは、溶融し再び結晶化する際に分子鎖の絡み合いが起こるためか、溶融粘度は著しく大きくなり、流動性が低下するため、ポリプロピレン組成物は溶融混練等によりペレット化することなく、公知の成形機を用いて直接所望の形状に成形することが好ましい旨が記載されているから、先願明細書3に記載された発明は、溶融混合してペレットとすることを積極的に排除している発明であるということができる。
したがって、訂正後の本件発明1は、先願明細書3に記載された発明と同一であるということはできない。

(b)訂正後の本件発明2について
訂正後の本件発明2は、訂正後の本件発明1のポリプロピレン組成物の製造方法の発明であるから、上記[5](4)(a)と同じ理由により、先願明細書3に記載された発明と同一であるということはできない。

(5)特許法第36条の規定の適用について
特許異議申立人は、訂正後の本件発明1では、低分子量の高立体規則性ポリプロピレンは、〔η〕が0.1 〜0.8 dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上と規定されているが、発明の詳細な説明には、その数値範囲の意義と制御法が明記されていない、また、実施例において、このポリプロピレンが1例しか記載されていないため、数値範囲全てに渡っての有効性が不明であるとし、本件明細書には不備があると主張する。
これらの点について検討するに、まず、低分子量の高立体規則性ポリプロピレンの数値範囲の意義と数値範囲に渡っての有効性について検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明には、
「本発明者らは通常工業的に用いられているポリプロピレンに特定の低分子量ポリプロピレンをブレンドすることにより物性が低下せず、むしろ物性が向上することを見いだして本発明を完成させた。」(段落【0008】)と記載されており、また、実施例1及び2においては、〔η〕が0.35dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.98のものを用いることが記載され、得られた組成物の物性として、結晶化速度、曲げ弾性率、23℃及び-10℃でのアイゾット及び曲げ強さの値が記載されている。更に、特許異議意見書において、〔η〕が0.12dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレン、〔η〕が0.80dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレンを使用して、組成物の結晶化速度、曲げ弾性、23℃でのアイゾットの値が明らかになったので、これらの記載をみれば、低分子量の高立体規則性ポリプロピレンの数値範囲の意義と数値範囲に渡っての有効性は明らかであるといえる。
次に、低分子量の高立体規則性ポリプロピレンの制御法について検討すると、特許異議意見書にて添付された参考資料1には、ポリプロピレン製造プロセスの項にて、「分子量は触媒中のAl対Tiの比率や重合温度などで調節している。」(203頁下から7行)と記載され、重合工程の項において、「プロピレンをそのまま普通の重合条件で重合すれば、分子量のきわめて高い重合体が得られる。……触媒組成や重合条件で分子量を調整する例もあるが、一般的には温度あるいは触媒とは別個に分子量調整剤として、種々の物質を重合槽に加え分子量を調整する。分子量調整剤としては、水素が一般的である……」(205頁2〜8行)と記載されている。また、同じく参考資料2には、触媒の項において、「ポリプロピレンの触媒の基本的なものは、いわゆるNatta触媒であり TiCl3-R3AlまたはR2AlClである。TiCl3は結晶性のもので、その結晶型によってα、β、γ、δなどの種類があり、アイソタクティックのポリプロピレンには紫色の結晶であるα、γ、δが有効であり、……
R3AlまたはR2AlClのアルキル基は、C2H5基が最もよく、それ以上の大きなアルキル基になるとタクティシティが低下する。……
また触媒の第3成分として、トリエチルアミン、ピリジンなどのように、-N、-NHをもつ化合物、あるいは有機や無機の燐化合物、またNaFやMgOなどの化合物を添加して、触媒活性や分子量をあげ、またタクティシティを上昇させる特許も多くみられる。」(89頁下から5行〜90頁11行)と記載されている。
更に、特許異議意見書において、低分子量ポリプロピレンの製造方法として、水素の量を、400N/時、350N/時、300N/時の場合、触媒を、rac-ジメチルシリル-ビス(2-エチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド、rac-ジメチルシリル-ビスベンゾインデニルジルコニウムジクロリドを使用する場合、反応温度を50℃、0℃、70℃とする場合を適宜組み合わせることで、〔η〕が0.12dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレン、〔η〕が0.80dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレン、〔η〕が0.05dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレン、〔η〕が0.91dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93の低分子量ポリプロピレン、及び〔η〕が0.11dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.92の低分子量ポリプロピレンを製造した例が示されており、このように参考資料1及び2に記載された技術事項及び特許異議意見書中の製造例を勘案すれば、訂正後の本件発明1で使用される〔η〕が0.1〜0.8dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上の低分子量ポリプロピレンの製造方法及び制御法は、訂正後の明細書に当業者が容易にその実施ができる程度に記載されているものといえる。
以上のとおりであるから、訂正後の明細書には記載不備はないものと認められる。

[6]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示する証拠及び主張する理由によっては訂正後の本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリプロピレン組成物およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1〜0.8dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1〜10重量部を溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物。
【請求項2】〔η〕が1.0dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部に、〔η〕が0.1〜0.8dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1〜10重量部を溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリプロピレン組成物およびその製造方法に関する。詳しくはポリプロピレンに特定の低分子量ポリプロピレンをブレンドしてなることを特徴とするポリプロピレン組成物に関する。
【0002】
【従来技術】ポリプロピレンは成形加工性が容易であり、物性のバランスが比較的良く、優れた電気的、機械的、化学的性質を有し、また安価に入手することが出来るため各種の材料としてさまざまな分野に非常によく利用されている。
【0003】特に最近では、触媒の高性能化、重合技術の進歩、結晶化核剤等の添加効果の向上等により、剛性、耐熱変形性、表面の硬さ等の物性がさらに優れたものとして研究改良が行われている。
【0004】一般にポリプロピレンの物性を改良するために分子量分布を変えたり、異なった物性を有するポリプロピレン同志を混合する方法が通常行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】非常に高分子量のポリプロピレンや低分子量のポリプロピレンは、通常工業的に生産されているが、従来のものは立体規則性が低いものであった。さらに、通常のポリプロピレンに少量の高分子量のポリプロピレンを混合すると物性が低下したり、フィルムなどにしたときにはブツが生じて外観も悪くなるなどの問題があった。これは同じポリプロピレン同志でも分子量の差が大きいため高分子量のポリプロピレンが均一に分散されないためであると考えられている。
【0006】一方、高分子量のポリプロピレンに少量の低分子量のポリプロピレンを混合した場合には、ブツが生じて外観が悪くなるなどの問題はないが、高分子量のポリプロピレンを混合した時のように混合した低分子量のポリプロピレンが均一に分散されない場合には低分子量のポリプロピレンの性質が全体の組成物の物性に影響を与えることが予想される。
【0007】しかしながら、従来高分子量のポリプロピレンに少量の低分子量のポリプロピレンを混合した場合には、上記した如くフィルムなどにしたときにはブツが生じて外観が悪くなるようなことはないが、低分子量のポリプロピレンを入れた分だけ物性が低下する。これは従来使用されてきた低分子量ポリプロピレンが分子量として小さいだけで、立体規則性が低いものであったためである。ところが、立体規則性の高い低分子量のポリプロピレンは剛性、耐熱変形性、表面の硬さ、結晶性等の物性が優れたものとして期待できるので、これらのポリプロピレンを通常のポリプロピレンに混合することにより物性の向上が期待できる。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは通常工業的に用いられているポリプロピレンに特定の低分子量ポリプロピレンをブレンドすることにより物性が低下せず、むしろ物性が向上することを見いだして本発明を完成させた。すなわち本発明は、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度数(以下、〔η〕と記す。)が1.0dl/g以上で、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98である高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と、〔η〕が0.1〜0.8dl/gでC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1〜10重量部を溶融混合したペレットよりなるポリプロピレン組成物であり、また本発明は、上記の高分子量のポリプロピレン90〜99.9重量部と低分子量の高立体規則性ポリプロピレン0.1〜10重量部とを溶融混合しペレット化することを特徴とするポリプロピレン組成物の製造方法である。
【0009】本発明で用いられる高分子量のポリプロピレンとは、プロピレンのホモポリマー或いは20wt%以下のエチレンやブテン等のコモノマーを含むポリプロピレン共重合体であって、しかも〔η〕が1.0dl/g以上で沸騰n-ヘプタンに不溶部の割合が80%以上あるものが好ましく、さらに該沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95〜0.98であることが重要であり、特に沸騰n-ヘプタンに不溶部のmmmmペンタッド分率が0.90よりも小さい場合にはあまり効果がない。ここで沸騰n-ヘプタンに不溶部とは、熊川式抽出器を用いてポリプロピレン6gを沸騰n-ヘプタンで6時間抽出した後の抽出残分を示す。
【0010】このような高分子量のポリプロピレンは、工業的にポリオレフィンを製造する方法で得られ、その重合方法は溶媒重合法あるいは実質的に溶媒の存在しない塊状重合法、気相重合法などの従来の方法が利用でき、その重合に用いる触媒は、例えば三塩化チタン触媒あるいはマグネシウム化合物に三塩化チタンや四塩化チタンなどのチタン化合物を担持した触媒成分にアルキルアルミニウムを助触媒成分とする担体触媒等が用いられる。さらにジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリドとアルミノキサンの組み合わせで代表されるようなシクロペンタジエニル化合物を配位子とする周期律表第3族、第4族の金属錯体とアルミノキサン化合物よりなる触媒、あるいはシクロペンタジエニル化合物を配位子とする周期律表第3族、第4族の金属カチオン錯体を触媒として用いる均一系の触媒も利用できる。
【0011】本発明で用いられる低分子量のポリプロピレンとは、〔η〕が0.1〜0.8dl/gで、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上である低分子量の高立体規則性ポリプロピレンである。これら低分子量のポリプロピレンの製造方法は、上記高分子量のポリプロピレンを製造するものと同じ触媒、同じ重合法で得られ、重合時の条件を変えることで製造することができる。また、〔η〕が0.8dl/g以上のポリプロピレンを熱減性等のモルフォロジーコントロールを行って〔η〕が0.1〜0.8dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.93以上となるようにしたものも使用される。
【0012】これらの低分子量のポリプロピレンを上記高分子量のポリプロピレンと溶融混合しペレット化することで、本発明のポリプロピレン組成物が得られる。この溶融混合する方法としては、通常行われているポリプロピレン中に添加物を溶融添加する様な方法でよく、例えば、ヘンシェルミキサー等で予め混合したのちに押出機中に入れて溶融混練する方法などが挙げられる。この溶融混練時に充分均一に混合し過ぎるとあまり効果が上がらない場合があるので、できるだけ溶融剪断力をかけないように混合することが好ましいが、通常行われている成形条件では問題はない。本発明の樹脂組成物を用いて成形体を成形するときには、通常のポリプロピレンに使用される種々の安定剤を添加して用いることができる。
【0013】
【実施例】以下に実施例を示しさらに本発明を説明する。
【0014】実施例1
ソルベー社製、三塩化チタンを用いてヘプタン溶媒中で60℃で重合して得られたポリプロピレン(〔η〕が1.6dl/g、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.98)にジメチルシリルビス(2,5-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライドとメチルアルミノキサンを触媒としてトルエン中で重合して得られた低分子量のポリプロピレン(〔η〕が0.35dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.98)が5重量%になるように添加してヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機(神戸製鋼(株)社製)を用い230℃の温度で滞留時間約4分間の条件で溶融混練し、ペレット化した。このペレットを射出成形機(東芝(株)社製IS-90)にて試験片を作成して物性を評価した。
【0015】試験片の一部を用いて400Kで等温結晶化解析をおこなって結晶化速度に対応する数値t1/2を求めたところ150秒であり、また曲げ弾性は19000(kg/cm2)であった。
【0016】比較例1
実施例1に於いて低分子量ポリプロピレンを添加せずに試験片を作成して物性を評価した。t1/2を求めたところ216秒と遅く、また曲げ弾性は17000(kg/cm2)であった。
【0017】比較例2
実施例1で用いた触媒を用いて水素を過剰に用いて低分子量のポリプロピレン(一部サンプリングして測定した〔η〕が0.7dl/g、C13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.94)を合成し、ついで水素を減らして通常の重合を行ってポリプロピレン(〔η〕が1.4dl/g、沸騰n-ヘプタンに不溶部のC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.97)を得た(この二段重合をそれぞれ同一条件化で別々に重合して確認したところ、ポリプロピレン中に含まれる低分子量ポリプロピレンの割合は7重量%であった。)。
【0018】このポリプロピレンを実施例1と同様にペレット化し、射出成形して試験片の一部を用いて物性を評価したところ、結晶化速度に対応する数値t1/2は220秒であり、また曲げ弾性は16000(kg/cm2)であった。
【0019】実施例2
ポリプロピレンブロック共重合体(三井東圧化学(株)社製、〔η〕が1.3dl/g、沸騰n-ヘプタンに不溶部が93%であり、そのC13NMRで測定したmmmmペンタッド分率が0.95)を用いて、実施例1で用いた低分子量ポリプロピレンが5重量%になるように添加した他は実施例1と同様にしたところ、23℃及び-10℃でのアイゾットがそれぞれ9.3(kg・cm/cm)、5.0(kg・cm/cm)であり、曲げ強さは348(kg/cm2)、曲げ弾性は11800(kg/cm2)であった。
【0020】比較例3
低分子量のポリプロピレンを添加しなかった他は実施例2と同様にしたところ、23℃及び-10℃でのアイゾットがそれぞれ9.3(kg・cm/cm)、5.1(kg・cm/cm)であり、曲げ強さは321(kg/cm2)、曲げ弾性は10400(kg/cm2)であった。
【0021】
【発明の効果】本発明のポリプロピレン樹脂組成物は容易に製造することができ、成形加工性に富、剛性と耐衝撃性の物性バランスに優れた物が得られ、工業的に極めて価値がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-18 
出願番号 特願平5-35196
審決分類 P 1 651・ 165- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 佐藤 健史
舩岡 嘉彦
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3330413号(P3330413)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 ポリプロピレン組成物およびその製造方法  
代理人 小島 隆  

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