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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08G |
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管理番号 | 1097963 |
異議申立番号 | 異議2003-70704 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-05-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-03-17 |
確定日 | 2004-04-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3324159号「熱可塑性ポリエステルエラストマー」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3324159号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3324159号の発明は、平成4年10月16日に特許出願され、平成14年7月5日にその特許権の設定登録がなされ、その後、ユニチカ株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成15年8月11日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年10月20日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、平成15年11月26日に特許権者から上申書が提出され、平成15年12月12日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年3月3日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正の要旨 特許権者は、平成16年3月3日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、以下の訂正を求めるものと認められる。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の 「還元粘度が0.5〜3.0であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー」を 「還元粘度が0.5〜3.0、融点が150℃以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー」と訂正する。 (2)訂正事項b 段落【0007】の 「尚、融点の下限は特に限定はないが一般的には150℃以上が好ましく、180℃以上が特に好ましい。」を 「尚、融点は150℃以上であり、180℃以上が特に好ましい。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aは、訂正前の明細書の「融点の下限は特に限定はないが一般的には150℃以上が好ましく、180℃以上が特に好ましい。」(段落【0007】)との記載に基づいて「熱可塑性ポリエステルエラストマー」をより限定したものあるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)訂正事項bは、訂正事項aにより訂正された請求項1の記載に整合するように発明の詳細な説明の対応箇所の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、上記訂正事項a及びb訂正は、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび したがって、上記訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「酸成分が芳香族ジカルボン酸を70モル%以上含み、かつテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる少なくとも2種以上のジカルボン酸成分を含み、グリコール成分が全グリコール成分に対して5〜50モル%のダイマージオールを含有してなる共重合ポリエステルであって、還元粘度が0.5〜3.0、融点が150℃以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー。」 4.特許異議の申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1号証及び参考資料を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。 (1)訂正前の本件請求項1に係る発明は、参考資料に記載を参酌すれば甲第1号証の記載に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)訂正前の本件請求項1に係る発明は、参考資料に記載を参酌すれば甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 4-2.判断 4-2-1.取消理由1 当審において平成15年8月11日付けで通知した取消理由の概要は、特許異議申立人が主張する上記申立理由(1)と同旨であり、引用した刊行物及び参考資料は以下のとおりである。 <刊行物等> 刊行物1: 特開平4-263991号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 参考資料1:東洋紡績株式会社 共重合ポリエステル「バイロン」技術資料,インターネットURL:http://www.toyobo.co.jp/seihin/xi/vylon_hm/list.htm http://www.toyobo.co.jp/seihin/xi/vylon_cg/list.htm (同、参考資料) 4-2-1-1.刊行物等の記載事項 刊行物1 (1-1)「ポリエステルのジオール成分の0.5〜60モル%が二量体ジオールから成ることを特徴とする、素地と、その上に存在しておりそしてジオール類およびジカルボン酸類から製造されたポリエステルを含有している染料受容体層と、を有する熱昇華焼き付け方法のための染料受容体要素。」(特許請求の範囲の請求項1) (1-2)「該二量体ジオールの含有量は、この全ジオール成分の0.5〜60、好適には1〜30、特に好適には1.5〜20モル%である。 本発明に従うポリエステルは、各場合共、標準としてポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィーで測定して、500〜20,000、好適には750〜15,000、特に好適には1000〜12,000の分子量を有する。」(段落【0023】〜【0024】) (1-3)「上述した製造方法に従って、表1に示すポリエステル1〜6を製造した。(データはモル%で表し、全ジカルボン酸成分に対して100モル%である。) 表 1 表中:TPSEはテレフタル酸ジメチルを表し、IPSEはイソフタル酸ジメチルを表し、SIPSEはスルホイソフタル酸ジメチルのNa塩を表し、ジアノール(Dianol)22はエトキシル化したBPA(Akzo)を表し、Pripol 2033は二量体のジオール(Unichema)を表し、Edenor PESはペンタエリスリトールの部分エステル(Henkel)を表し、Edenor GMSはモノステアリン酸グリセロール(Henkel)を表し、TCD-DMはトリシクロデカンジメタノールを表す。」(段落【0055】〜【0057】) (1-4)「ポリエステル樹脂1〜6を、表1中に示した濃度に相当する量の水/MEK(8:2)中に溶解した後、両側がポリエチレンでコートされており、その片側のポリエチレンの上に更にゼラチン層が施してある紙の上に、湿った薄膜の厚さが20μmまたは25μm・・・になるようにブレードを用いてキャスティングした。・・・このコーティングを、空気循環乾燥用キャビネット中70℃で30分間乾燥した。」(段落【0058】) 参考資料1 (2-1)「有機溶剤不溶型共重合ポリエステル一覧」と題する表中に、「銘柄:GM400,荷姿:ペレット,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):1.00,分子量(GPC):20,000〜25,000,Tg(℃)(DSC):19,融点(℃)(DSC):143,・・・」、「銘柄:GM415,荷姿:ペレット,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):0.50,分子量(GPC):8,000〜10,000,Tg(℃)(DSC):-5,融点(℃)(DSC):111,・・・」、「銘柄:GM460,荷姿:ペレット,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):0.77,分子量(GPC):18,000〜20,000,Tg(℃)(DSC):-6,融点(℃)(DSC):166,・・・」等のデータが示されている。また、「有機溶剤可溶型共重合ポリエステル一覧」と題する表中に、「銘柄:103,荷姿:ペレット,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):IV=0.73,分子量:20,000〜25,000,Tg(℃)(DSC):47,軟化点(℃):158,・・・」、「銘柄:200,荷姿:ペレット,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):IV=0.53,分子量:15,000〜20,000,Tg(℃)(DSC):67,軟化点(℃):163,・・・」、「銘柄:240,荷姿:フレーク,還元粘度(dl/g)or固有粘度(IV):0.45,分子量:14,000〜17,000,Tg(℃)(DSC):60,軟化点(℃):160,・・・」等のデータが示されている 4-2-1-2.対比、判断 刊行物1には、その特許請求の範囲に、「ポリエステルのジオール成分の0.5〜60モル%が二量体ジオールから成ることを特徴とする、素地と、その上に存在しておりそしてジオール類およびジカルボン酸類から製造されたポリエステルを含有している染料受容体層と、を有する熱昇華焼き付け方法のための染料受容体要素」(摘示記載(1-1))が記載されており、このような染料受容体層を形成するためのものとして実施例には6種類のポリエステルが例示されており、その内、「ポリエステル4」〜「ポリエステル6」は次の原料から製造されることが示されている。(単位はモル%) 「ポリエステル4:TPSE=45,IPSE=42.5,SIPSE=12.5,Pripol 2033=5,Edenor GMS=5,ネオペンチルグリコール=45,シクロヘキサン-ジメタノール=45、 ポリエステル5:TPSE=45,IPSE=42.5,SIPSE=12.5,Pripol 2033=5,Edenor PES=5,ネオペンチルグリコール=45,シクロヘキサン-ジメタノール=45、 ポリエステル6:TPSE=45,IPSE=42.5,SIPSE=12.5,Pripol 2033=7.5,ネオペンチルグリコール=35,シクロヘキサン-ジメタノール=25,TCD-DM=32.5」 (註:TPSEはテレフタル酸ジメチルを表し、IPSEはイソフタル酸ジメチルを表し、SIPSEはスルホイソフタル酸ジメチルのNa塩を表し、Pripol 2033は二量体のジオール(Unichema)を表し、Edenor PESはペンタエリスリトールの部分エステル(Henkel)を表し、Edenor GMSはモノステアリン酸グリセロール(Henkel)を表し、TCD-DMはトリシクロデカンジメタノールを表す。)(摘示記載(1-3)) ここで、ポリエステル4についてみると、ジカルボン酸成分は、TPSE(テレフタル酸ジメチル)45モル%、IPSE(イソフタル酸ジメチル)42.5モル%及びSIPSE(スルホイソフタル酸ジメチルのNa塩)12.5モル%から、ジオール成分は、Pripol 2033(二量体のジオール)5モル%、Edenor GMS(モノステアリン酸グリセロール)5モル%、ネオペンチルグリコール45モル%、及びシクロヘキサン-ジメタノール45モル%からそれぞれ構成されるものであり、酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸を含み、その他の酸成分を合わせて芳香族ジカルボン酸が100モル%を占め、かつグリコール成分が全グリコール成分に対して5モル%の二量体のジオール、即ちダイマージオールを含有するものである。 同様にポリエステル5及び6についてみると、いずれも、酸成分としてテレフタル酸及びイソフタル酸を含み、その他の酸成分を合わせて芳香族ジカルボン酸が100モル%を占め、かつグリコール成分については全グリコール成分に対して、ポリエステル5では5モル%、ポリエステル6では7.5モル%の、ダイマージオールを含有するものである。 そうすると、本件発明と刊行物1の実施例に記載されたこれらのポリエステルに係る発明とは、ともに、 「酸成分が芳香族ジカルボン酸を70モル%以上含み、かつテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる少なくとも2種以上のジカルボン酸成分を含み、グリコール成分が全グリコール成分に対して5〜50モル%のダイマージオールを含有してなる共重合ポリエステル」 である点で一致しているが、 本件発明における以下の点について刊行物1には記載されていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。 (あ)「熱可塑性ポリエステルエラストマー」である点、 (い)「融点が150℃以上である」点、及び (う)「還元粘度が0.5〜3.0」である点 そこで、これらの相違点について以下に検討する。 (あ)及び(い)の点について 本件発明においては、上記組成の共重合ポリエステルが「熱可塑性ポリエステルエラストマー」(あ)であることを要件としている。そして、熱可塑性ポリエステルエラストマーが結晶性の高融点ポリエステルブロック単位(ハードセグメント)と低いガラス転移温度(Tg)の非晶性ブロック単位(ソフトセグメント)から構成されるものであり、ハードセグメントのポリエステルの結晶が物理的架橋点として作用するため、通常の温度ではエラストマーとして機能し、結晶の融点以上の温度ではポリマーが流動するため、射出成形のような溶融成形が可能になること、及びこのような特性を生かして各種成形品用途に供されることは、本件の出願前、当業界で周知(必要ならば、湯木和男編「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」,日刊工業新聞社株,1989.12.22,p.476-490 参照。)であり、本件発明はこのような特定分野に属するポリエステルであるということができる。 これに対して刊行物1に記載されたポリエステルは「熱昇華焼き付け用の染料受容体層」という限定された用途を有し、該層の形成手法は、樹脂を溶剤で溶解して素地上に塗布、乾燥する(摘示記載(1-4))というものであって、刊行物1には、上記のような微細構造や溶融成形に供することなどについては全く開示されていない。 このように本件発明と刊行物1に記載された発明は使用形態及び用途が大きく異なっており、更に両者は、物自体としてみても、熱的特性において相違している。 即ち、本件発明においては、共重合ポリエステルが融点を有するのみならず、「融点が150℃以上である」(い)との要件を備えているのに対して、刊行物1に記載されたもののように溶剤で溶解して用いるタイプの共重合ポリエステルが明確な融点を有さないことは、参考資料1において「有機溶剤不溶型共重合ポリエステル」には融点の記載があるのに対して「有機溶剤可溶型共重合ポリエステル」には軟化点は示されているものの融点については記載されていない点からも窺知し得るところである。それに加えてこのことは、特許権者が平成15年11月26日付けで提出した上申書に添付した実験成績報告書に示された、「本件訂正明細書の実施例1のポリエステルのDSC測定による融点は225℃であり、刊行物1の実施例のポリエステル1及び4はいずれも吸熱ピークがなく融点がない」との実験結果から、明確に認めることができる。 そして、本件発明はこの(い)の点及び上記(あ)の点により、「機械特性に優れ、且つ結晶化温度が高いため、優れた成形性を有する」という訂正明細書(段落【0021】)に記載されたとおりの作用効果を奏するものと認められる。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、参考資料1の記載を参酌してもなお、刊行物1に記載された発明であるとすることができないばかりでなく、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。 4-2-2.取消理由2 当審において平成15年12月12日付けで通知した取消理由は、平成15年10月20日付けの訂正請求により特許請求の範囲の請求項1に追加された「融点が150℃以上」という記載(註:この記載は、訂正明細書にも含まれている。)について、発明の詳細な説明の記載からは、共重合ポリエステルの成分(特に酸成分)の内、どのようなものを選択した場合に「融点が150℃以上」という要件が充足されるのか不明であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているものとは認められないから、本件は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。 これに対して特許権者が平成16年3月3日付けで提出した意見書に添付された乙第2号証(湯木和男編「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」,日刊工業新聞社,1989.12.22,p.10-15、564-567)には、本件の請求項1に記載された酸成分であるテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等と、訂正明細書にグリコール成分として記載(段落【0010】)されたエチレングリコール、1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,4-ブタンジオール(テトラメチレングリコール)等から成る飽和ポリエステルの融点は一般的に150℃以上であること、及び、ホモポリマーに対して第3成分を共重合すれば共重合体の融点が低下することが記載されており、これらの事項は本件の出願前に当業界で広く知られていたものと認めることができる。 そうすると、訂正明細書の請求項1に記載された酸成分と段落【0010】に記載されたジオール成分とから融点150℃以上のホモポリマーとなる組合せを選択し、それに対して、共重合体の融点が150℃以上を維持し得るような配合割合で共重合成分を含有させることにより本件の請求項1に記載されたポリエステルを製造することができるものと解されるから、訂正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていないとすることはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 熱可塑性ポリエステルエラストマー (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 酸成分が芳香族ジカルボン酸を70モル%以上含み、かつテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる少なくとも2種以上のジカルボン酸成分を含み、グリコール成分が全グリコール成分に対して5〜50モル%のダイマージオールを含有してなる共重合ポリエステルであって、還元粘度が0.5〜3.0、融点が150℃以上であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はゴム弾性を有する熱可塑性ポリエステルエラストマーに関する。 更に詳しくは成形性、耐水性、耐候性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマー、特にギヤ、チューブ、シート等の成形材料に適した新規な共重合ポリエスエル樹脂に関する。 【0002】 【従来の技術】 熱可塑性ポリエスエルエラストマーとしては、従来よりポリブチレンテレフタレート(PBT)単位をハードセグメント、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)をソフトセグメントとするポリエステルエーテルエラストマー(特公昭49-48195、49-31558号)、PBT単位をハードセグメント、ポリカプロラクトン(PCL)単位をソフトセグメントとするポリエステルエステルエラストマー(特公昭48-4116号、特開昭59-12926号、特開昭59-15117号)、及びPBT単位をハードセグメント、二量体脂肪酸をソフトセグメントとするポリエステルエステルエラストマー(特開昭54-127955号)等が知られ、実用化されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながらPTMGを使用するエラストマーでは耐候性の点に問題がある。一方PCLや二量体脂肪酸を使用するエラストマーでは耐水性、カラーに問題がありそれぞれ適用範囲に制約を受けているため改善が望まれている。 【0004】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは耐候性と耐水性を兼ね備えるポリエステルエラストマーを鋭意検討した結果、ダイマージオールをソフトセグメントに使用する特定のポリエステルに於て、ゴム弾性を保持し耐水性と耐候性を付与でき、更にカラーにも優れることを見出し、本発明に到達した。 【0005】 すなわち本発明は酸成分が芳香族ジカルボン酸を70モル%以上含み、かつテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる少なくとも2種以上のジカルボン酸成分を含み、グリコール成分が全グリコール成分に対して5〜50モル%のダイマージオールを含有してなる共重合ポリエステルであって、還元粘度が0.5〜3.0であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマーである。 【0006】 本発明の共重合ポリエステルにおいて、酸成分は芳香族ジカルボン酸を全酸成分の70モル%以上、好ましくは80モル%以上含む。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸より選ばれる一種もしくは二種の組合せを用いることが好ましい。 その他の酸成分としては脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸が用いられ、脂環族ジカルボン酸としてはシクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、等が挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の30モル%未満、好ましくは20モル%未満である。 酸成分中の芳香族ジカルボン酸の含有量についての上記条件の下で、酸成分はテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる少なくとも2種以上のジカルボン酸成分を含む。 【0007】 尚、融点は150℃以上であり、180℃以上が特に好ましい。 【0008】 本発明の共重合体ポリエステルにおいて、グリコール成分はダイマージオールを、全グリコール成分に対して5〜50モル%含有することが必要である。ダイマージオールが5モル%未満では柔軟性に劣り、目的とするエラストマーが得られ難い。又50モル%を越えると耐水性、耐候性に劣るようになる。 【0009】 本発明において使用するダイマージオールとは例えば不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸を水素化して得られる脂肪族両末端ジオールである。ダイマージオールの製法はこれに限定されるものではない。ダイマージオールの市販品としては例えば荒川化学工業社製のKX-501,500等がある。 【0010】 本発明の共重合ポリエステルにおいて、ダイマージオール以外のグリコール成分としては、炭素数が2〜25のグリコールを用いることができる。炭素数が2〜25のグリコールはたとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールペンタン、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールXのエチレンオキサイド誘導体(XはA,S,F)等である。これらのグリコールは各種特性のバランスにより適正な組合せで用いられるが、好ましくは1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール,エチレングリコールを一種もしくは二種以上用いるのがよい。その量は酸成分に対して50〜95モル%である。 【0011】 本発明の共重合ポリエステルにおいては少量に限って三官能以上のポリカルボン酸やポリオール成分を含むこともできる。例えば、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、無水ピロメリット酸等を3モル%以下使用できる。 【0012】 本発明の共重合ポリエステルにおいて、還元粘度は0.5〜3.0である。還元粘度が0.5未満になると機械特性に劣り、3.0を越えると成形性に劣る。 【0013】 本発明の共重合ポリエステルは公知の任意の方法によって製造される。例えば溶融重合法、溶液重合法、固相重合法等いずれも適宜用いられる。溶融重合の場合エステル交換法でも直重法であってもよい。 【0014】 この様にして得られた樹脂には他の樹脂或いは低分子化合物、無機物等を配合、ブレンド、もしくはアロイ化して用いてもよい。例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、顔料、補強剤、添加剤、安定剤等が挙げられる。 【0015】 【実施例】 以下に実施例により本発明を詳述する。なおこれら実施例において各測定項目は以下の方法に従った。 (1)還元粘度 樹脂をフェノール/テトラクロルエタンの混合溶液に0.05g/25ccの濃度に溶かして30℃で測定。 (2)融点、結晶化温度 DSCにて測定。 (3)機械特性 ASTM D638により測定。 (4)表面硬度 ASTM D2240により測定。 (5)耐候性 63℃、500hrフェードメーター照射後の強度保持率を測定。 (6)耐水性 100℃、24hr処理後の強度保持率を測定。 (7)耐油性 90℃のブレーキ油に1週間浸せきしたものの強度保持率を測定。 【0016】 参考例 1 ジメチルテレフタレート6.95kg、1,4-ブタンジオール6.06kg、ダイマージオール2.51kgを100Lのオートクレーブに仕込み、次いでチタンブトキサイド6.10g、アイオノックス-330 20gを仕込み、120℃から230℃まで2時間かけて昇温しエステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に更に昇温し、1時間かけて255℃、1torrにして初期重合を行った。更に255℃、1torr以下の状態で42分重合反応を行った後、ポリマーをペレット状に取り出した。得られたポリマーの組成はNMR等の測定よりテレフタル酸//1,4-ブタンジオール/ダイマージオールのモル比が100//87.5/12.5で還元粘度が1.02、カラーbが2.1であった。得られた共重合ポリエステルに関し、所定の試験を行った。それらの結果を表1に示す。 機械特性の引張強度は370kg/cm2、引張伸度は600%、表面硬度は63、融点204℃、結晶化温度165℃、耐候性88%、耐水性91%、耐油性81%の優れたエラストマーであった。 【0017】 実施例 1 参考例1と同様にして樹脂組成が表1で示される共重合ポリエステルを重合し、更に固相重合を210℃で行い、還元粘度が2.31、カラーが2.3の共重合ポリエステルを得た。所定の試験結果は表1に示す。 【0018】 実施例 2 参考例1と同様にして樹脂組成が表1で示される共重合ポリエステルを重合し、還元粘度が0.88、カラーが3.1の共重合ポリエステルを得た。所定の試験結果は表1に示す。 【0019】 比較例 1,2 参考例1と同様にして樹脂組成が表1で示される共重合ポリエスエルを重合した。各樹脂特性は表1に示した。ダイマー酸を使用した比較例1では特に耐水性が劣っていた。またPTMGを使用した比較例2では特に耐候性が劣っていた。 【0020】 【表1】 【0021】 【発明の効果】 以上説明したように本発明の共重合ポリエステルは機械特性に優れ、且つ結晶化温度が高いため、優れた成形性を有する熱可塑性エラストマーである。さらに従来のポリエステル系エラストマーより耐候性、耐水性、耐油性に優れており、各種成形材料に広範囲に用いることが可能である。また本発明の熱可塑性エラストマーはホットメルト接着材としても用いることができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-03-18 |
出願番号 | 特願平4-304920 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C08G)
P 1 651・ 113- YA (C08G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
佐藤 健史 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-07-05 |
登録番号 | 特許第3324159号(P3324159) |
権利者 | 東洋紡績株式会社 |
発明の名称 | 熱可塑性ポリエステルエラストマー |