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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08G
管理番号 1097971
異議申立番号 異議2003-70383  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-12 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3312920号「縮合反応用触媒およびその製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3312920号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 [1] 手続きの経緯
本件特許第3312920号の発明は、平成3年11月15日に特許出願(優先日:平成2年11月16日 米国)され、平成14年5月31日にその特許権の設定登録がなされ、その後、三菱化学株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立がなされ、平成15年8月8日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年2月19日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、更に平成16年3月18日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年3月24日に訂正請求書が提出されるとともに先の訂正請求について訂正請求取下書が提出されたものである。

[2] 訂正の適否についての判断
1.訂正の要旨
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を削除し、請求項2〜5の項番を、それぞれ請求項1〜4に繰り上げる。
(2)訂正事項b
新請求項1(旧請求項2)の、
「反応体が、フェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る、請求項1に記載の方法。」を
「1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を噴射し、懸濁重合することにより得られた、強酸性カチオン交換基で官能化した、架橋したスチレン系共重合体ビーズである縮合反応用触媒と、反応体とを接触させることから成る、縮合反応を触媒する方法であって、反応体が、フェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る、前記方法。」と訂正する。
(3)訂正事項c
新請求項3(旧請求項4)及び新請求項4(旧請求項5)の、
「・・・請求項3に記載の方法。」を
「・・・請求項2に記載の方法。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、それに伴い項番を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2)訂正事項bは、訂正事項aに対応して、引用形式で表現されていた新請求項1(旧請求項2)を独立形式に改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(3)訂正事項cは、訂正事項aに対応して、引用請求項の項番を訂正後のものに改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、上記訂正事項a〜cの訂正は、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3] 本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された下記事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を噴射し、懸濁重合することにより得られた、強酸性カチオン交換基で官能化した、架橋したスチレン系共重合体ビーズである縮合反応用触媒と、反応体とを接触させることから成る、縮合反応を触媒する方法であって、反応体が、フェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る、前記方法。
【請求項2】 縮合反応用触媒が、
(a)1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を、動いている懸濁用水性媒質中に噴射して均一なサイズの単量体の小滴を生成させ、
(b)前記小滴を、前記小滴が重合するまで、重合開始剤の活性化温度以上の温度に加熱し、
(c)得られた重合体ビーズを懸濁用媒質から分離し、
(d)前記ビーズを乾燥し、
(e)前記ビーズを、強酸性カチオン交換基で官能化する、ことから成る方法により製造される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 重合体ビーズの平均直径が20μm〜1mmである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 単量体を、懸濁用媒質の中に、懸濁用媒質:単量体の比1.5:1〜10:1において、温度15℃〜100℃において噴射する、請求項2に記載の方法。」

[4] 特許異議の申立についての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は甲第1〜7号証を提出し、以下のように主張している。
(1)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜7号証の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)本件特許明細書の記載には不備があるから、本件は、特許法第36条第4項に規定する記載要件を満たしていない。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において平成15年8月8日付けで通知した取消理由の概要は、特許異議申立人が主張する上記申立理由(1)と同旨であり、引用した刊行物は以下のとおりである

刊行物1:米国特許第3,394,089号明細書(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2:AlChE Journal,Vol.20,No.5,September,1974,p.933-940(同甲第2号証)
刊行物3:「バイエル モノディスパース キャタリスト」 バイエルカタログ, 1987年10月発行(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭57-102905号公報(同甲第4号証)
刊行物5:特開昭57-73002号公報(同甲第5号証)
刊行物6:本田 外2名編著「イオン交換樹脂-基本操作と応用-」,廣川書店,S.40.5.20,p.364-366、表紙、目次、奥付(同甲第6号証)
刊行物7:P.M.ランゲ、F.マルチノーラ”モノディスパースイオン交換樹脂および吸着樹脂イオン交換技術における新しい動き”Wasser 69巻 別刷り訳,バイエル,1987年12月発行(同甲第7号証)

4-2-2.刊行物の記載事項
刊行物1
(1-1)「1.強酸触媒の存在下においてフェノールとケトンを縮合してビスフェノールを製造する方法において、カチオン交換容量の5〜25%がC1 -C4 アルキルメルカプトアミンで中和されることにより変性された形の不溶の強酸カチオン交換樹脂を、フェノールとケトンの縮合における酸触媒として使用することより本質的に成る改良
2.触媒が、部分中和されたスルフォン化スチレン-ジビニルベンゼン樹脂である・・・請求項1のプロセス」(第5欄第25〜36行;クレーム1及び2)
(1-2)「メルカプトアミンで部分的に酸の形が中和された不溶の強酸カチオン交換樹脂の改良はフェノールとケトンの縮合によりビスフェノールを製造する改良された触媒を生ずる。」(第1欄第12〜16行;開示の要約)
(1-3)「表1.-ビスフェノールA
触媒 アセトン変換% o,p’-%
2-1 改良された樹脂 37.7 4.4
2-5 樹脂+RSH 25.5 5.6
2-8 樹脂単独 10.2 12.0 」
(第5-6欄 表1.より抜粋)

刊行物2
(2-1)「4%のジビニルベンゼンで架橋された樹脂は、最初365°Kで5×10-4(モル)/(酸基の当量)の割合でアセトン変換を触媒作用した。8%架橋樹脂は硬いマトリックス樹脂がフェノールで僅かしか膨潤しないためより多く不活性である。しかし、より高度の架橋を有しているが多孔質で内部表面にアクセスし得るものは、4%架橋物とほとんど同様に急速に反応を触媒作用する。」(第933頁上段13〜18行)
(2-2)「ビスフェノールA(エポキシ樹脂やポリカーボネートの合成の中間体)の生産は1972年114百万Kgである。スルフォン酸樹脂が好ましい工業的な触媒であることを特許文献が示して以来、この研究の目的は予備的なプロセス設計見積もりのための動力学的データや副生物の収量を用意することである。初期の反応割合は、364°Kでフェノールとアセトンの溶液中に分散している樹脂触媒のビーズを含むバッチ反応器から得られた。」(第933頁中段左欄16行〜右欄8行)
(2-3)「触媒の製造
このイオン交換樹脂触媒は、Bio-Rad LaboratoriesやRohm and Haasから入手したスルフォン化スチレンDVBコポリマー、である。」(第934頁右欄23〜26行)
(2-4)「表1.スルフォン酸樹脂触媒」(第935頁)には、DVB(ジビニルベンゼン)を2%、4%、8%含有するものについて、アセトンがフェノール中に12.5±1.0モル%存在する溶液での364°Kでの10-4×のフェノール-アセトン縮合反応の初期割合〔(アセトン変換率)/(当量 S)〕が数値で示されている。表1の抜粋を示す。
「DVB含有重量% 〔(アセトン変換率)/(当量 S)〕
2 9.55
4 6.43,5.49
8 -**
** 104 s.で変換が見いだせない。」

刊行物3
(3-1)「バイエルモノディスパース触媒は極めて均一な粒径を有し触媒装置内で、樹脂床全体に一様な分布を形成します。・・・その結果・・・・副反応が減少し、製品の純度がより高くなる ・収率が一定化する ・経済的な処理プロセスが確立できる」(第2頁右欄2〜末行)
(3-2)「現在、バイエルは、2種類のモノディスパース触媒を供給しております。両品とも、H型の強酸性、ビーズ状マクロポーラス陽イオン交換樹脂です。・・・バイエルキャタリスト K2661の応用例・・・縮合反応・・・(基本構造)ポリスチレン・・・(官能基)スルホン酸・・・」(第3頁左欄1行〜下段表中6行)

刊行物4
(4-1)「層流特性を持つ重合性モノマーからなるモノマー相を開口を通して該重合性モノマーまたはモノマー相とは混和しない液体と安定化量の懸濁剤とからなる連続相へ流入させることによって層流特性をもつ重合性モノマーからなる該モノマー相のモノマー噴出流を形成させること;この噴出流を振動的に励起することによってモノマー噴出流を小滴に砕くこと;および次いで懸濁状の該モノマーをそのかなりな合着または付加的な分散を生ぜしめることのない条件において重合させること、を特徴とする回転楕円体形のポリマービーズの製造法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4-2)「本発明の方法および装置はモノビニル芳香族化合物およびこれと共重合しうる交差結合剤たとえばジビニルベンゼンのようなポリビニル芳香族化合物からなるポリマーの均一サイズのビーズの製造に特に有用であり、そしてこのビーズは爾後のイオン交換樹脂の製造に有用である。」(第4頁右上欄9〜13行)
(4-3)「代表的には所望の小滴サイズは0.15〜5mm、最も代表的には0.2〜1mmの範囲で変化する。」(第7頁右上欄10〜11行)
(4-4)「代表的には、強酸カチオン交換樹脂はポリマー・・・を硫酸またはクロル硫酸あるいは三酸化イオウを使用してスルホン化することによって製造される。」(11頁左下欄6〜12行)
(4-5)「84部のスチレン、8部のジビニルベンゼン、8部のエチルビニルベンゼンおよび0.3部の過酸素型フリーラジカル重合開始剤・・・からなるモノマー混合物・・・を計量して45g/分の一定割合でモノマー貯槽に入れる。この混合物をオリフィス板の開口を通して噴出させて・・・噴出流を形成させる。・・・モノマー相を均一な大きさの小滴に砕くために、噴出流を・・・振動的に励起する。・・・モノマー小滴はカラムの上部端から重合反応器に流入する。・・・。・・・反応器を75℃に12時間加熱することによって、重合させる。この期間の終りにおいて、生成ポリマービーズを・・・懸濁媒質のない状態で回収する。・・・第I表に示す粒径分布から明らかなように、本発明により製造したビーズ・・・は常法により製造したビーズ・・・と比べたとき特に、すぐれた均一性を示している。」(第12頁左下欄末行〜第13頁左下欄4行)

刊行物5
(5-1)「1.a)重合させるべき単量体又は重合混合物を、それらが連続的に供給され且つそれらと本質的に混和しない液体中へ噴霧することにより、該重合させるべき単量体又は重合混合物から均一な大きさの小滴を形成せしめ;
b)これらの均一な大きさの小滴を、該液体中において且つそれ自体公知のマイクロカプセル化法に従い、用いる重合条件下に安定な殻で直接に、或いは最初に剪断力に安定な殻で且つ第2工程において剪断力に安定な及び用いる重合条件下に安定な殻を与える連続的に又は不連続的に硬化する該殻で、連続的にカプセル化し;
c)次いで用いる重合条件下に安定な殻でカプセル化された単量体の小滴又は重合混合物の小滴を重合させる、均一な粒径と均一な品質とを有するビーズ重合体の製造に際して、
α)単量体又は重合混合物を、連続的に供給される連続相中へ、この相と並流的に噴霧し;
β)小滴の形成とそのカプセル化を、反応器の異なる領域で行ない;
γ)該小滴の形成からそのカプセル化に至るまで、小滴の合体性を変更する力を小滴に作用させないように、工程a)及びb)を行なう、該均一な粒径と均一な品質とを有するビーズ重合体の製造法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(5-2)「容積比Vcont:Vmono(Vcont=連続相の容量;Vmono=単量体又は重合混合物の容量)は0.1の値を超えるべきではない。容量比は用いるカプセル化法に従って0.1〜60である。」(第7頁左上欄9〜12行)
(5-3)「単量体又は重合混合物は通常0〜95℃、好ましくは5〜70℃の温度で噴霧される。」(第7頁右上欄13〜14行)
(5-4)「スチレン86部、ジビニルベンゼン8部、エチルスチレン5部及びジベンゾイルパーオキサイド1部の45℃溶液を、・・・を通し且つ27ml/分の速度で、第1図に記述する装置中へ噴霧した。55℃に暖めた10%ゼラチン・・・を連続相として使用した。この連続相は7.8のpH値を有した。これを12ml/分の速度で3から供給した。・・・9を流出するカプセル懸濁液を攪拌混合容器10に移し、・・・。次いでカプセルを水洗して、・・・。・・・10時間重合させた。この方法で得られ且つジビニルベンゼンで架橋されたゲル型ポリスチレンからなるカプセル化したビーズ重合体を、カプセルを分離し、洗浄し及び乾燥した後且つカプセル壁を予じめ除去せずに公知のスルホン化によって強酸性のカチオン交換体へ転化した・・・。このようにして得られる強酸性カチオン交換体(Na+ 形)の粒径は0.8〜1.2mmの範囲にあり、ビーズの80%が0.9〜1.1mmの範囲の粒径を有した。」(10頁右下欄13行〜11頁左下欄1行)

刊行物6
(6-1)「〔製造例3〕スチレン・ジビニルベンゼン球状共重合体の製造
・・・。一方スチレン15g、ジビニルベンゼン(含有量40〜50%)5gの中へ過酸化ベンゾイル0.2gを常温で完全に溶解させた後、・・・。攪拌をやめると、油は上層に小球状となって浮上するから、・・・。85〜90℃で4時間を経過したら、加熱をやめ・・・。冷却後、樹脂球が液中に沈降したら液から分離し、・・・。水と分離後95℃で約2時間乾燥する。」(第364頁下から6行〜第366頁12行)
(6-2)「〔製造例4〕ポリスチレン・スルホン酸樹脂の製造
製造例3で得られた樹脂球10gに、・・・クロルスルホン酸50gを徐々に加えて、室温で約4時間攪拌反応させる。・・・生成樹脂のイオン交換能力はジビニルベンゼン含有量10%のもので4.2〜4.5meq/g、含有量が2%のものは5.0meq/g程度になる。ベンゼン核一個当たり一個のスルホン基を導入するためには、上記のスルホン化を80〜90℃で約3時間行う必要がある、」(第366頁第4〜14行)

刊行物7
(7-1)「2.従来の製造法
ポリマービーズはもっぱら懸濁重合法で製造されます。この製法は攪拌によりモノマー(スチレン/ジビニルベンゼン)の液滴を作り、サスペンションの中で重合させ無数の粒子を製造します。このようにして作ったビーズの粒径は、ある分布をもっています。」(第2頁右欄表下1〜6行)
(7-2)「6.モノディスパース樹脂
この数年、液状モノマーを均一サイズの液滴とする技術が発達してきました。このような液滴が再結合して大きな液滴とならない方法が適用できれば、これを重合し均一粒径のビーズを製造することができます。バイエルではこの方法を開発しゲル型のみならず、マクロポーラス型の均一粒径品を製造することに成功しました。」(第3頁右欄21〜27行)
(7-3)「8.2反応性
・・・。触媒用モノディスパース樹脂は、化学反応を促進するのに特に適しています。均一粒子への接触時間は均一ですので、主反応の他にはほんの限られた副反応がおこるだけです。その結果、高い収率と純度がえられます。」(第4頁右欄下から4〜1行)

4-2-3.特許法第29条第2項違反について
(1)まず、本件発明1と刊行物1〜7に記載された発明とを対比、検討する。
上記のように、刊行物4〜6には、スチレン等の単量体、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を懸濁重合してポリマービーズを得ること、及び、該ビーズを硫酸、クロル硫酸等で処理してイオン交換樹脂とすること〔摘示記載(4-1)〜(4-5)、(5-1)〜(5-4)、(6-1)、(6-2)〕が記載されており、更に刊行物4及び5には、該混合物を噴射することにより、均一な大きさの共重合体ビーズが得られること〔摘示記載(4-1)、(4-2)、(4-5)、(5-1)、(5-4)〕が示されている。
そうすると、刊行物4及び5には、本件発明1におけるものと同様の「1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を噴射し、懸濁重合することにより得られた、強酸性カチオン交換基で官能化した、架橋したスチレン系共重合体ビーズ」(以下、「引用ビーズ」という。)が記載されているものと認められるが、これらの刊行物には、本件発明1のように、「引用ビーズを縮合反応用触媒とし、これとフェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る反応体とを接触させて縮合反応を触媒すること」は記載されていない。
そこで、この相違点について検討すると、刊行物1及び2には、強酸性カチオン交換樹脂ないしスルフォン酸樹脂を触媒としてフェノールとケトンとを縮合反応させることが記載されており〔摘示記載(1-1)、(1-3)及び(2-4)〕、また、該両樹脂はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体であることも記載されている〔摘示記載(1-1)、(2-3)〕。
これらの刊行物の記載事項に基づいて、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体からなる強酸性カチオン交換樹脂であるという共通性から、引用ビーズがフェノールとケトンの縮合反応用触媒となり得ることが予測できたとしても、その触媒性能は通常程度ものが予想されるにとどまるものというべきである。
また、刊行物3及び7は共にバイエル社の「モノディスパースイオン交換樹脂」について記述したものであるが、刊行物3にはモノディスパースイオン交換樹脂として、ポリスチレンを基本骨格とし官能基をスルフォン酸とするものが記載〔摘示記載(3-2)〕されており、また刊行物7には、モノディスパースイオン交換樹脂がスチレン/ジビニルベンゼンの懸濁重合で得られていた旨の記載〔摘示記載(7-1)〕があり、該樹脂が均一な粒径を有すること〔摘示記載(3-1)、(7-2)〕、及び、それによって副反応が少なく高い収率と純度のものが得られること〔摘示記載(3-1)、(7-3)〕が記載されている。更に刊行物3には、該樹脂が縮合反応触媒に応用されること〔摘示記載(3-2)〕が、刊行物7には、該樹脂が化学反応を促進すること〔摘示記載(7-3)〕が、それぞれ記載されている。
しかしながら、これらの刊行物3及び7には、「モノディスパースイオン交換樹脂」が縮合反応触媒として用いられることが開示されているものの、本件発明1のように「フェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る反応体と接触させて縮合反応」させる触媒としての使用について教示するところはなく、更に、その触媒としての性能についても、副反応が少なく高い収率と純度のものが得られるという抽象的開示がなされているにすぎない。また、特許異議申立人が指摘する刊行物3の「ドイツバイエル社の特許」(第2頁左欄下から4〜3行)とはどのような内容の特許か不明であり、刊行物7の参照文献「8,9」(第3頁27行、第8頁下から2〜1行)と刊行物7の記載事項との関係も明らかではないから、これらの刊行物に記載された「モノディスパースイオン交換樹脂」が引用ビーズのように噴射工程を経て製造されたものであるとすることはできない。更に、刊行物3及び7に記載された「モノディスパースイオン交換樹脂」が、その粒径均一性のゆえに「縮合反応」の概念に包含される広範な反応のすべてについて上記触媒性能を発揮するものと解すべき理由はないから、結局、これらの刊行物には、本件発明1のように、噴射、懸濁重合を経て得られた引用ビーズをフェノールおよびアルデヒドまたはケトンの縮合反応用触媒とした効果について、通常の触媒以上の特別のものを予測させるところはないものと言わざるを得ない。
しかるに、本件訂正明細書には本件発明1の効果について「次の実施例によって示されているように、フェノール類とアルデヒド類またはケトン類との縮合において、本発明の強酸性カチオン交換樹脂ビーズを使用することにより、単量体を懸濁用媒質に噴射することなしに生成させたバッチ式懸濁重合共重合体ビーズから造られた強酸性カチオン交換樹脂ビーズを用いて得ることができる変換率よりも、反応体のビスフェノール類へのより高い変換率を造り出している。この更に高い変換率は、ビスフェノール類のための反応の選択性を犠牲にすることなしに達成されている。・・・この反応率における差異は、本発明者が噴射することによって得た共重合体ビーズから得られた樹脂と噴射することなしに得た共重合体ビーズから得られた樹脂との差異についての理論的基礎をよく知らないので、全て更に驚異的なことなのである。」(段落【0014】)との記載があり、それを裏付けるデータとして実施例の表2には、触媒K(註:非噴射)のアセトン変換率が54.6%であるのに対し、本件発明1の触媒J(註:噴射)のアセトン変換率は60.1%であることが示されている。
更に、特許権者が平成16年2月19日付で提出した意見書の添付資料1には次のような追試実験のデータが記載され、これを見ると、モノマー混合物を噴射したものとそうでないものとではフェノール/アセトンの反応系でアセトン変換率に大きな相違があることが看取されるのである。
<添付資料1>
条件:バッチ反応、75℃、7:1=フェノール:アセトン(モル比)、触媒10重量%

触媒 タイプ %DVD 30分 60分 90分
変換率% 変換率% 変換率%
Amberlyst31P 非噴射 4.0 31.1 54.6 62.1
Amberlyst31E 非噴射 4.5 30.0 54.6 62.0
Amberlyst31J 噴射 4.0 39.6 60.1 70.8
Amberlyst32 非噴射 2.0 40.0 66.2 80.1

このように、噴射して懸濁重合して得た共重合体は、非噴射のものに比べて著しく反応が早く触媒効果が優れていることが認められるのであり、本件発明1のこのような効果は、刊行物1〜7の記載からは到底予想し得るものではない。
したがって、本件発明1は刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2は、本件発明1において、縮合反応用触媒の製造方法について限定を付しているのであり、上記のように本件発明1が刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、同様の理由により、本件発明2もまた、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3及び4は、本件発明2において更に技術的限定を付しているのであり、上記のように本件発明2が刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、同様の理由により、本件発明3及び4もまた、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-2-4.特許法第36条第4項違反について
特許異議申立人が主張する本件明細書の記載不備の理由の概要は次の2点に示すとおりである。
(1)上記実施例1において、単量体液中のジビニルベンゼン量を、本件特許明細書に記載された試薬仕込量および試薬純度により計算すると、ジビニルベンゼン量は、単量体液重量に対して、7.3%×55%=4.01%、となる。
一方、実施例2(比較例)において、先ず、この単量体総液量は、340.0g+30g+1.42g=371.42gとなり、また、単量体液中のジビニルベンゼン量を本件特許明細書に記載された試薬仕込量および試薬純度により計算すると、30g×55%=16.5g、となる。従って、ジビニルベンゼン量は、単量体液重量に対して、16.5g÷371.42g×100=4.44%、となる。
以上の計算結果から、本件特許明細書の実施例1で得られる触媒Jと、実施例2(比較例)で得られる触媒Kとを比べると、触媒Jは架橋剤(ジビニルベンゼン)含有量が少なく、明らかに架橋度が低いことがわかる。
この点に関し、刊行物2の第933頁上欄第16〜21行及び第935頁表1には、スルホン酸型樹脂触媒を、フェノールおよびケトンから成る溶液と接触させた時のアセトン変換率で評価した触媒活性は、DVB(ジビニルベンゼン)含有量8%の高架橋度の架橋品に比べてDVB含有量4%の低架橋度の架橋品が高いこと、が記載されている。
従って、本件特許明細書において、触媒J及び触媒Kを適用したときのアセトン変換率の差は、架橋剤含有量の差すなわち架橋度の差に依存するものであり、本件特許明細書中の第1表〜第3表で示されている触媒Jのアセトン変換率等の優位性は、本件特許発明に基づく効果ではない。
よって、本件特許明細書の記載は、当業者が容易にその発明の実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されたものではないので、本件特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。
(2)本件特許明細書には、ビーズサイズが均一であるという効果を有する旨の記載があるが(例えば段落【0007】)、本件特許明細書の第5頁第1表には、上述した実施例1及び実施例2(比較品)のビーズサイズがいずれも425〜600μmであると記載されている。
よって、本件特許出願は、本件特許発明の粒径に関する効果の記載と実験結果との記載内容に不備があり、当業者が容易にその実施することができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されたものではないので、本件特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではない。

そこで、この特許異議申立理由について以下検討する。
(1)比較実験を行うに当たり触媒K(比較例)と触媒J(実施例)を異なるジビニルベンゼン含有量で行ったことは、刊行物2に記載されたジビニルベンゼン含有量の相違によりアセトン変換率が変化する事実があることを考慮すると、適切性を欠く面もある。
しかし、平成16年2月19日付で特許権者から提出された意見書の添付資料1によれば、DVB(ジビニルベンゼン)量4.0%のAmberlyst31Pと同4.5%のAmberlyst31E(いずれも非噴射)では、30分、60分、90分におけるアセトン変換率は1〜2%相違するに過ぎず、それらと31J(噴射)のアセトン変換率との間にはかなりの隔たりがあることを考慮すると、本件訂正明細書のDVB量4.4%の触媒K(非噴射)とDVB量4.0%の触媒J(噴射)との比較実験が全く不適切で、比較による優劣判定が不可能と言う程のものであるとまでいうことはできない。
(2)特許異議申立人は実施例(比較例)に記載されたビーズサイズが425〜600μmであることはビーズサイズが均一であるとの本件発明の効果の裏付けとならない旨主張しているが、懸濁重合により得られる樹脂ビーズとして425〜600μmの粒径範囲が「均一」の範疇を超えるものと解すべき理由はなく、本件発明1〜4の特徴である噴射工程を経て製造されたビーズである触媒の効果について実施例で明示されている以上、本件訂正明細書に、当業者が容易に実施することができる程度に目的、構成、及び効果が記載されていないということはできない。

[5] むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
縮合反応用触媒およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を噴射し、懸濁重合することにより得られた、強酸性カチオン交換基で官能化した、架橋したスチレン系共重合体ビーズである縮合反応用触媒と、反応体とを接触させることから成る、縮合反応を触媒する方法であって、反応体が、フェノールおよびアルデヒドまたはケトンから成る、前記方法。
【請求項2】 縮合反応用触媒が、
(a)1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤を含む混合物を、動いている懸濁用水性媒質中に噴射して均一なサイズの単量体の小滴を生成させ、
(b)前記小滴を、前記小滴が重合するまで、重合開始剤の活性化温度以上の温度に加熱し、
(c)得られた重合体ビーズを懸濁用媒質から分離し、
(d)前記ビーズを乾燥し、
(e)前記ビーズを、強酸性カチオン交換基で官能化する、
ことから成る方法により製造される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 重合体ビーズの平均直径が20μm〜1mmである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 単量体を、懸濁用媒質の中に、懸濁用媒質:単量体の比1.5:1〜10:1において、温度15℃〜100℃において噴射する、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、縮合反応用の酸性重合体触媒に関する。更に詳細には、均一なサイズの共重合体から造られ、かつ酸を触媒とする反応例えば縮合反応における触媒として有用な強酸性カチオン交換樹脂ビーズ(strongly acidic,cation-exchange resin beads)に関する。
【0002】
発明の背景
強酸性イオン交換樹脂は、触媒反応例えば縮合反応において、鉱酸例えば硫酸および塩酸に代えることができる。固体の酸性物質の使用により、反応混合物中の触媒から所望物質の分離を容易にし、装置の腐蝕および複雑さを減少させ、そして生成物の純度を増加させる。触媒反応のために強酸性イオン交換樹脂を使用することは、Bortnickの米国特許第3,037,052号に広範囲に開示されている。フェノール類とケトン類またはアルデヒド類との縮合によりビスフェノール類を造るための触媒として、スチレンおよびエチレン性不飽和芳香族架橋性単量体のスルホン化共重合体によって造られた強酸性イオン交換樹脂を使用することは、Apel等の米国特許第3,153,001号、Wagnerの米国特許第3,172,916号、Gammill等の米国特許第3,634,341号、Mendirattaの米国特許第4,590,303号および同第4,391,997号、Faler等の米国特許第4,424,283号、およびその他の文献に開示されている。特に興味のあるのは、前記イオン交換樹脂を、フェノールとアセトンとの縮合を触媒し、ポリカーボネートおよびエポキシ樹脂を製造するための原料として有用なビスフェノールA(パラ,パラ′-イソプロピリデンジフェノール)を造るのに使用することである。
【0003】
イオン交換樹脂を造るのに使用する共重合体ビーズは、好ましくは、球体のビーズであり、そして共重合体の特定のバッチ(batch)を通じて均一なビーズサイズ(bead size)であることが望ましい。なぜなら、それらのビーズは、反応容器中の樹脂床のための均一、予想可能な液圧の性質例えば流量および圧力低下等を造りだすからである。水性媒質中において、水不溶性単量体を懸濁させかつ離散した小滴として重合させる懸濁重合は、本質的に、一般的に球体であるビーズを製造する。ビーズのサイズは、生成する単量体の小滴のサイズに依存し、そして該小滴の直径および均一性を調節するために種々な技術が使用される。水性相に添加剤を使用して、単量体と水性媒質との間の界面張力を変えることによって小滴のサイズを調節することを助ける。また、添加剤は、単量体小滴の融合による生長を制限するのに使用する。また、かくはんの強さを変えることにより、小滴のサイズの調節を助けることができる。懸濁重合は、例えばBoyerによる米国特許第2,500,149号に開示されている如く、イオン交換樹脂のための共重合体中間体を造るのに半世紀にわたって使用された。小滴サイズの均一性を増加するのに使用された一つの技術は、Koestler等の米国特許第3,922,255号に開示されている方法のように、正確なサイズのオリフィス(orifice)を通して、水性相に単量体の流れを噴射(jetting)することである。
【0004】
発明の概要
本発明者は、スチレン性単量体および架橋剤単量体の混合物を、水性液体中に噴射し、次いで、この混合物を重合させることによって生成した、架橋したスチレン性共重合体ビーズから造った強酸性カチオン交換樹脂ビーズであって、このビーズを縮合反応を触媒するのに使用したときに、驚異的な高反応率(high reaction rates)を造りだす該ビーズを見出した。更に、本発明者は、これらの樹脂ビーズを造る方法であって、次の
(a)1種以上のスチレン性単量体、1種以上の架橋性単量体、および遊離基重合開始剤の混合物を、動いている懸濁用水性媒質中に噴射して均一なサイズの単量体の小滴を生成させ、
(b)前記小滴を、前記小滴が重合するまで、重合開始剤の活性化温度以上の温度に加熱し、
(c)得られた重合体ビーズを懸濁用媒質から分離し、
(d)前記ビーズを乾燥し、
(e)前記ビーズを、強酸性カチオン交換基で官能化する、諸工程から成る方法、を見出した。
【0005】
更に、本発明者は、反応体と、強酸性カチオン交換基で官能化し、噴射し、懸濁重合したスチレン性共重合体ビーズとを、接触することから成る、反応体間の酸触媒縮合反応を触媒する方法を見出した。フェノール類とアルデヒド類またはケトン類との酸を触媒とする縮合において、本発明方法は、噴射しないでバッチで重合させたカチオン交換樹脂ビーズで達成した変換率と比較して、アルデヒドまたはケトンの縮合生成物を驚異的に更に大きな変換率で得ることができる。
【0006】
発明の詳細
本発明の架橋した共重合体ビーズを造るのに有用なスチレン性単量体には、スチレンおよび置換スチレン例えばα-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン等が包含される。複数のエチレン性不飽和官能基を含有す架橋性単量体には、芳香族架橋性単量体、例えばジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルクロロベンゼン、ジアリルフタレート、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルエチルベンゼン、トリビニルナフタレンおよびポリビニルアンスラセン類;および脂肪族架橋性単量体、例えばジ-およびポリ-アクリレートおよび-メタクリレート、例えばトリメチロールプロパン トリメタクリレート、エチレングリコール ジメタクリレート、エチレングリコール ジアクリレート、ネオペンチルグリコール ジメタクリレートおよびペンタエリスリトール テトラ-およびトリ-メタクリレート、およびトリビニルシクロヘキサン、が包含される。好ましくは、架橋性単量体は、全単量体の約0.1〜約20重量%、更に好ましくは全単量体の約1〜約10重量、の量において存在させる。好ましい架橋性単量体は芳香族架橋性単量体であり、特に好ましいのはジビニルベンゼンである。
【0007】
本発明の架橋共重合体ビーズを造るのに有用な噴射式懸濁重合法は、Koestler等の米国特許第3,922,255号(この特許明細書の内容は、本明細書に組み入れる)によって例示されるが、これに限定されるものではない。この方法においては、懸濁用水性媒質における単量体の最小溶解度が重要である。溶解度は、懸濁用水性媒質に電解質を加えることによって減少させることができる。噴射法は、懸濁用媒質中に単量体小滴を造り、それら小滴集団の平均直径は、好ましくは、約20μm〜約1mmの範囲に亘って変えることができ、結果的に同範囲に亘って変わっているビーズ集団のための平均直径を有する共重合体ビーズを造ることができる。噴射式懸濁重合法は、狭い小滴サイズ分布を造り、結果的には均一なサイズの小滴および均一なサイズの共重合体ビーズを造ることができる。
【0008】
単量体は、それら自体で噴射することができ、または不活性液体または単量体中に溶解しているプレポリマー(prepolymer)と混合されたものを噴射することができ、または単量体の初期重合によってまたは両方法の組み合わせによって生成したものを噴射することができる。好ましい噴射速度は、約1.5:1〜約10:1、更に好ましくは約2:1〜約5:1の懸濁用媒質:単量体の比を造り出す。単量体は、重合を殆んど直ちに開始させる後述する遊離基重合開始剤の活性化温度以上の温度において懸濁用媒質中に噴射させてよい。または、前記媒質を活性化温度以下ただし好ましくは約15℃以上にしておき、次いで加熱領域中に流し入れた後に加熱してもよい。これは単量体の小滴を重合が始まる前に安定化するのを可能にする。
【0009】
普通に用いられる全ての安定剤、特に、ゼラチン、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール;または粒状形態の水不溶性無機安定剤、例えばベントナイト、水酸化マグネシウム等;またはそのような安定剤の組み合わせ物を使用して、本発明のまたは他の噴射式懸濁重合法において単量体の小滴を安定化することができる。
【0010】
遊離基重合開始剤は、懸濁用媒質中に懸濁させた単量体小滴の重合を開始させるのに好ましい。好ましい遊離基重合開始剤は、単量体中に溶解させる油溶性開始剤、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、t-ブチルパーオクトエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等;およびアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等、である。重合温度は、すなわち、その温度において懸濁用媒質は単量体小滴の重合の間保持されており、かつ重合開始剤は、その温度が、選定した開始剤を、重合を開始しかつ重合を支えるための適当な数の遊離基に分解するのに充分に高くなければないことにおいて、お互いに依存している温度である。つまり、その温度は開始剤の活性化温度以上でなければならない。好ましい重合温度は、約40℃〜約100℃であり、更に好ましくは約50℃〜約90℃であり、そして遊離基開始剤は、重合温度以下の活性化温度を有するように選定する。
【0011】
懸濁用水性液体中に単量体を噴射することによって均一なサイズの共重合体ビーズを形成させる他の方法を使用することもできる。例えば、Timm等の米国特許第4,623,706号に開示されている方法である。この方法は、単量体を懸濁用媒質中に噴射(jet)するのに振動オリフィス(vibrating orifice)を使用している。好ましくは、懸濁用媒質を、噴射オリフィス(単数または複数)に関連して動かし、そして単量体小滴を、単量体を重合温度における懸濁用媒質中に噴射することによってオリフィスの付近において重合させるか、または動いている懸濁用媒質を加熱した重合領域に運んでゆき重合装置の異った領域で重合させるか、のいずれかで重合を行うことができる。重合したビーズは、重力を用いた方法により、遠心の流れを用いた方法により、液圧による分離方法により、または濾過の方法によって、懸濁媒質から分離することができる。
【0012】
当業界において知られている官能化方法を用いて、噴射された共重合体ビーズを強酸官能基で官能化することができる。好ましい強酸官能基はスルホン酸基であり、共重合体をスルホン化するための既知方法を用いることができる。これらの方法には、芳香族環をモノスルホン化するスルホン化法、および芳香族環を1つのスルホン酸基より多くのスルホン酸基で置換するスルホン化法、が包含される。好ましいスルホン化は、約4.8〜約5.4ミリ当量/g(乾燥物基準)のカチオン交換能力(cation-exchange capacity)および約60〜約70%の水分保有能力(moisture-holding capacity)を有する強酸性カチオン交換樹脂を製造する。本明細書に用いられている“水分保有能力”は、官能化された共重合体が保有している水の量を称し、排水したがしかしまだ湿っている官能化した共重合体試料を秤量し、次いでその試料を温和な条件例えば100〜110℃および大気圧下で一定の重量になるまで乾燥し、同試料を再秤量することによって測定する。水分保有能力は、この重量差として計算し、乾燥試料重量の%として表わした。
【0013】
本発明の強酸性カチオン交換樹脂ビーズを触媒とする反応は、強酸の存在によって触媒される反応であり、これらの反応には縮合反応、例えばフェノール類とケトン類またはアルデヒド類との縮合によりビスフェノール類の製造が包含されるが、これらに限定されるものではない。本発明の強酸性イオン交換樹脂ビーズにより触媒される好ましい反応は、フェノールとアセトンとの反応である。更に好ましいのは、フェノールおよびアセトンが約20:1〜約2:1のモル比で組み合わされ、その組み合わせ物を、約40℃〜約100℃において、本発明の強酸性イオン交換樹脂ビーズの約1〜約40重量%(フェノールおよびアセトンの重量に基づいて)と、任意的にメルカプタン反応促進剤、好ましくはエタンチオール、アミノエタン-チオールまたはジメチルチアゾリジンの約1〜約40重量%(フェノールおよびアセトンの重量に基づいて)の存在において、接触させる反応である。
【0014】
次の実施例によって示されているように、フェノール類とアルデヒド類またはケトン類との縮合において、本発明の強酸性カチオン交換樹脂ビーズを使用することにより、単量体を懸濁用媒質に噴射することなしに生成させたバッチ式懸濁重合共重合体ビーズから造られた強酸性カチオン交換樹脂ビーズを用いて得ることができる変換率よりも、反応体のビスフェノール類へのより高い変換率を造り出している。この更に高い変換率は、ビスフェノール類のための反応の選択性を犠牲にすることなしに達成されている。理論によって結びつけることは欲しないが、本発明者は、この更に高い変換率は、本発明の樹脂ビーズの存在において達成した更に高い反応率(higher reaction rate)から生じていると考えている。充分に長い反応時間を与えるならば、噴射した共重合体樹脂ビーズと噴射しない共重合体樹脂ビーズとの間の変換率の差は消失するかもしれないが、実際の商工業上のプロセスにおいては、未制限の時間を有してはいない。所定の時間内により多くのビスフェノール生成物を製造する能力は、そのような方法における更に高い反応率によって得られ、当業者にとっては容易に明らかな利益である。この反応率における差異は、本発明者が噴射することによって得た共重合体ビーズから得られた樹脂と噴射することなしに得た共重合体ビーズから得られた樹脂との差異についての理論的基礎をよく知らないので、全て更に驚異的なことなのである。
【0015】
次の実施例は、本発明を例示することを意図しているが、特許請求の範囲に限定されている以外は、本発明を制限する意図はない。全ての比および%は、特に指示がなければ重量であり、全ての試薬は、特に指示がなければ良好な商工業上の品質のものである。次の実施例に使用した触媒は、反応容器中における懸濁重合によって造った比較触媒を示すのに触媒Kと指示し、そして噴射による懸濁重合によって造った本発明の触媒を示すにの触媒Jと指示した。
【0016】
実施例1
この実施例は、本発明の強酸性カチオン交換樹脂ビーズを造るのに有用な噴射式共重合体ビーズの製造を例示する。
アクリソル(Acrysol)A-5ポリアクリル酸分散剤0.55%、水酸化ナトリウム0.2%、硼酸0.39%、ゼラチン0.04%およびメチレンブルー0.025%を含有し、かつpH8.5〜8.7を有する懸濁用水性媒質を造った。市販のジビニルベンゼン(純粋のジビニルベンゼン55%およびエチルビニルベンゼン45%を含有する)7.3%、スチレン92.1%、t-ブチルパーオクトエート0.3%およびビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート0.3%を含有する単量体溶液を造った。この単量体混合物を、直径450μmの振動している噴射オリフィス(vibrating jetting orifices)を通して、145Kg/時の速度で、386リットル/時の速度で動ごいている懸濁用媒質の流れの中に、噴射した。この分散液を、懸濁用媒質の流れによって、63℃に保持されたゲル化カラムに運んだ。この流れは、ゲル化カラム中において3.5時間の滞留時間を造り、この時間の間で単量体の共重合体への変換率は25%であった。共重合体の懸濁液をゲル化カラムから流出して行くときに、0.6%メチレンブルー水溶液を2.8リットル/時の速度で追加して加えた。共重合体を水性相から分離し、水性相は再循環させた。次いで、共重合体を仕上げ用反応器に65℃にて4時間保持し、次いで最後の仕上げ用反応器に移し、80℃にて1.5時間保持し、92℃に加熱し、そして室温において1時間保持した。完成した共重合体を水洗し、あとでスルホン化して触媒Jにするために風乾した。
【0017】
実施例2
この実施例は、単量体を懸濁用媒質中に噴射しないバッチ式方法による比較共重合体ビーズの製造を例示する。
水355g、ゼラチン1.12g、硼酸0.83gおよびポリ(ジアリルジメチルアンモニウム クロライド)分散剤13.78gの懸濁用水性媒質を造り、pHを10.0〜10.5に調節した。スチレン340.0g、市販のジビニルベンゼン(純粋のジビニルベンゼン55%およびエチルビニルベンゼン45%を含有する)30.0gおよびtert-ブチルパーオクトエート1.42gを含有する単量体混合物を造った。この単量体混合物を、反応容器中の懸濁用媒質の中にかくはんしながら入れて単量体小滴の懸濁液を生成した。この懸濁液を窒素でガスシールし、75℃に加熱し、そしてその温度で5時間保持し、次いで98℃に加熱し、その温度で1時間保持した。次いで、共重合体を水洗し、あとでスルホン化して触媒Kにするために風乾した。
【0018】
実施例3
この実施例は、実施例1および2の共重合体ビーズから強酸性カチオン交換樹脂ビーズを製造することを例示する。
並べたガラス容器中において、実施例1または2からの共重合体190g、硫酸(96.6%)1450gおよびエチレンジクロライド65gを混合した。この混合物を130℃に加熱し、その温度において15分間保持し、そして120℃に冷却した。このスルホン化樹脂を、95℃〜110℃の温度において、水を連続的に添加すること、そして添加した水に等しい結果的に得られた希釈された酸の量を除去(除去した液体が本質的に中性になるまで)すること、によって水和した。次いで、酸のない物質を反応容器から除き、排水した。得られた2種類の触媒の性質を次の第1表に示した。
【表1】

【0019】
実施例4
この実施例は、フェノールおよびアセトンの縮合を触媒し、ビスフェノールAを生成させる、本発明の強酸性カチオン交換樹脂の触媒活性を例示する。
99+%フェノール90gを含有するフラスコに、乾燥した触媒Kおよび触媒Jの10g(10重量%)をそれぞれ加えた。温度を75℃に上げ、75℃に保持し、このフェノール-触媒混合物を1時間かくはんした。アセトン10ml部分(7:1のフェノール:アセトンのモル比に相当する)を各フラスコに加え、反応が75℃において進行するように、1mlの試料を週期的に採取しながら反応を監視し、該試料を水/メタノール混合液で冷却し、次いで高圧液体クロマトグラフィーにより分析した。アセトン変換率は、ビスフェノールAのピークの面積として計算し、アセトンのピークおよびビスフェノール生成物のピークの全面積の%として表わした。ビスフェノールAへの選択率は、ビスフェノールAのピーク(オルソおよびパラ異性体の両方)の面積として計算し、ビスフェノールAのピークおよびフェノールおよびアセトンの全ての他の反応生成物のピークの全面積の%として表わした。これらの結果を次の第2表に示した。
【表2】

【0020】
実施例5
この実施例は、メルカプタン反応促進剤の存在における本発明の強酸性カチオン交換樹脂の効果を例示した。
99+%フェノール90gを含有するフラスコに、乾燥した触媒Kおよび触媒Jの10g(10重量%)をそれぞれ加えた。この実施例に使用した各触媒は粒径425〜600μmを有しており、かつ各触媒はアミノエタントリオール反応促進剤7.5mlで処理した。温度を75℃に上げ、75℃に保持し、フラスコ内容物を1時間かくはんした。アセトン10ml部分(7:1のフェノール:アセトンのモル比に相当する)を各フラスコに加え、反応が75℃において進行するように、1mlの試料を週期的に採取しながら反応を監視し、該試料を水/メタノール混合液で冷却し、次いで高圧液体クロマトグラフィーにより分析した。得られたアセトン変換率およびビスフェノールAへの選択率は、実施例4に記載したようにして測定し、それらの結果を次の第3表に示した。
【表3】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-30 
出願番号 特願平3-300643
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08G)
P 1 651・ 531- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 雅博  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 佐藤 健史
佐野 整博
登録日 2002-05-31 
登録番号 特許第3312920号(P3312920)
権利者 ローム アンド ハース カンパニー
発明の名称 縮合反応用触媒およびその製造方法  
代理人 吉村 俊一  
代理人 千田 稔  
代理人 千田 稔  
代理人 橋本 幸治  
代理人 橋本 幸治  

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