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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1098027
異議申立番号 異議2003-70485  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-07-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-21 
確定日 2004-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3318301号「治具」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3318301号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
特許第3318301号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成12年1月11日に出願され、平成14年6月14日に設定登録され、その後、その特許について、東海カーボン株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知に対して、その指定期間内である平成15年12月27日に訂正請求(その後取下げ)がなされた後、再度取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月9日に訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否についての判断
【2-1】訂正の要旨
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおり。
a.明細書の特許請求の範囲の請求項1末行において「含浸被覆された黒鉛」とあるのを、「含浸被覆され、室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2 /s未満であり、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛」と訂正する。
b.明細書の特許請求の範囲の請求項3第3行、及び同請求項4第3行において「含浸被覆された黒鉛」とあるのを、「含浸被覆されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛」と訂正する。
c.明細書の特許請求の範囲の請求項6第2行において「請求項1〜4」を「請求項2〜4」
と訂正する。
【2-2】訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについて、訂正された請求項1は、訂正前の請求項6(訂正前の請求項1を引用したもの)の内容に限定し、さらにより下位概念である「室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2 /s未満であり、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛」に限定しようとするものである。したがって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的として、特許明細書に記載された範囲内においてする訂正である。
また、訂正事項bについて、訂正された請求項3,4は、訂正前の請求項3,4にそれぞれ記載された「含浸被覆された黒鉛」とあるのを、より下位概念である「含浸被覆されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛」と限定しようとするものである。したがって、この訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的として、特許明細書に記載された範囲内においてする訂正である。
さらに、訂正事項cについては、訂正事項aの訂正に伴い、訂正された請求項1との整合をとるため、請求項の従属関係を明りょうにしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
そして、これら訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
【2-3】むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項並びに第3項で準用する同法126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
【3】特許異議の申立てについて
【3-1】特許異議申立ての概要
異議申立人は、訂正前の本件の請求項1〜6に係る発明について、異議申立書に記載された理由により、本件の請求項1に係る発明は、本件の出願前公知の甲第1号証に記載された発明であり、また、異議申立書に記載された理由により、請求項1〜6に係る発明は、本件の出願前公知の甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第113条第1項第2号に該当するので取り消すべきものである旨主張している。
【3-2】本件発明
上記【2】で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂で、被覆又は含浸又は含浸被覆され、室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2 /s未満であり、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項2】液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜1mm含浸され、表面の層厚さが1μm〜20μm被覆された熱硬化性樹脂が被覆された黒鉛からなる治具。
【請求項3】液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜50mm含浸され、表面の層厚さが1μm以下被覆された熱硬化性樹脂が含浸されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項4】液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜50mm含浸され、表面の層厚さが20μm以下被覆された熱硬化性樹脂が含浸被覆されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項5】前記硬化処理は、400℃以下の温度で処理された請求項1〜4のいずれかに記載の治具。
【請求項6】室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2 /s未満である請求項2〜4のいずれかに記載の治具。」
【3-3】引用刊行物に記載された発明
当審が平成16年1月16日付けで通知した取消しの理由で引用した刊行物1:特開平5-262510号公報 には、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 薄膜半導体素子を基板に形成する際に使用されるものであって、ガラス状炭素で被覆された黒鉛からなることを特徴とする治具。
【0003】
例えば、化合物半導体型薄膜太陽電池は、薄膜の原料ペーストを基板上に回路パターンにスクリーン印刷した後、不活性雰囲気中、所定の温度で焼成・焼付を行って製造されている。また、液晶表示板は、液晶表示素子を基板とシール材によって形成されたセルに入れ、焼成・封じ込めを行って製造されている。近年、これらのデバイスは、大型化・大面積化の要請が一段と高まっている。
【0009】
ガラス状炭素自体の熱伝導性は黒鉛のそれよりも悪いが、上記方法で被覆されるガラス状炭素の被覆厚は、通常100μm以下であるので、本発明においては、ガラス状炭素被覆による熱伝導性の僅かな低下は無視することができる。
【0010】
また、ガラス状炭素で被覆された黒鉛を治具として使用すると、治具と基板がよく密着し、基板から発生したガスが抜けにくくなって基板の表面があれる等の問題を生じることがあるが、その場合には、ガラス状炭素の被覆厚を0.1μm以下にすればよい。
【0012】
上記方法で被覆されるガラス状炭素は、ガラス状炭素の前駆物質が液相状態を経由してコーティングされるため、その際に前駆物質が黒鉛基材の気孔にそって含浸し、黒鉛基材表面だけの被覆でなく、その内部にも含浸される利点がある。ガラス状炭素の表面被覆層が薄くなることによる黒鉛ダスト発生防止効果の低下は、ガラス状炭素の黒鉛基材内部への含浸深さを200μm以上とすることによって防止することができる。
【0013】
このように、ガラス状炭素の黒鉛基材表面の被覆層厚みが薄く含浸層深さの深い治具を得るには、ガラス状炭素の前駆物質の溶剤、例えば、トリクロルエチレン、ベンゼン、トルエン等に一旦黒鉛基材を浸漬し、その後、ガラス状炭素の前駆物質を含む溶液(コーティング材)でコーティングする。この場合、ガラス状炭素の被覆層厚みと含浸層深さの調節は、黒鉛基材の浸漬処理からコーティングするまでの時間調節、ないしはコーティング材への浸漬時間又はコーティング後にコーティング材を拭き取る等の手段によるコーティング量の調節によって行うことができる。
【0014】
【実施例】
以下、実施例と比較例をあげてさらに具体的に本発明を説明する。実施例1 比較例1〜2トリクロルエチレンに6時間浸漬された嵩密度1.75g/cm3 、形状500×500×15mmの黒鉛板に、ポリ塩化ビニル樹脂を窒素雰囲気中、温度500℃で熱分解させて得られたタール状前駆物質をトリクロルエチレンに10重量%溶解してコーティング材となしそれを浸漬法によりコーティングした後、真空雰囲気下、温度1000℃で焼成して、ガラス状炭素被覆層厚み0.1μm、含浸層深さ500μmの治具を作製した。」が、
特許異議申立人の提示した甲第2号証である刊行物2:「化学便覧、応用化学編II材料編」20.3.1無機材料、1520〜1521頁、昭和61年10月15日発行、丸善株式会社には、
「炭素及び黒鉛材料には通常質、不浸透性および多孔性の区別がある。化学装置として広い用途をもつ不浸透性黒鉛は、黒鉛にフェノールのような熱硬化性樹脂を含浸させて気孔をふさいだもので、耐熱温度により普通品(170℃)と耐高熱品(320℃)がある。・・・・・・不浸透性黒鉛は熱交換器、吸収器、蒸発器、・・・・・・・高温化学工業の材料としても欠くことができない。」(1520頁右欄最下行〜1521頁左欄10行)が、
同じく、甲第3号証である刊行物3:「新しい工業材料の科学」A-8炭素と黒鉛製品、154頁、昭和49年9月20日、第2回増刷発行、金原出版株式会社には、
「上記の通常質の材料は耐食性には富むが、いずれも焼成工程で生じた細孔を残しているので、流体の浸透は避けられない。不浸透炭素および黒鉛は、合成樹脂をこの細孔中に含浸し、それを熱硬化させることによって得られた流体または気体を通過させない材料である。したがってこれは含浸する合成樹脂によって使用温度限界があり、一般には170℃である・・。」(154頁8〜12行)、
「近来わが国において実用化された耐高熱性不浸透黒鉛はジビニルベンゼン(以下DVBと略す)のモノマーを黒鉛材料に充てん、硬化させた後、窒素気流中などで使用される温度に応じ加熱し、不浸透化したものである。その他に耐熱不浸透黒鉛の含浸剤としては、フルフリアルコール(以下FAと略す)・・・・・・・・・・・・・・・。また両樹脂とも250℃において空気の存在下に約250hr以上前処理したものは、この空気焼成を施さないものに比べて炭化残存率の高いことを示している。」(154頁23〜155頁20行)が、
同じく、甲第4号証である刊行物4:「新・炭素工業」331〜332頁、昭和57年10月1日 第2版発行、近代編集社には、
「一般炭素材料は、焼成過程でのバインダーの炭素化の際に生じた、多数の微細な気孔を残しているため、流体に対して透過性である。この気孔に主として熱硬化性の合成樹脂を含浸して、不浸透性としたものが不浸透黒鉛であり・・・」
「含浸は、これらの合成樹脂の初期縮合物、あるいはモノマーの状態で行なわれ、含浸後熱処理されるが、・・・・・・・・。通気率としては10-8cm2/s、すなわちゴムと同程度の通気率と考えてよい。」(332頁左欄9〜21行)が、それぞれ記載されている。
【3-4】対比・判断
刊行物1には、その記載からみて「液晶基板を焼成(加熱)処理する際に使用される治具であって、硬化されたガラス状炭素で、被覆層の厚みを0.1μm、含浸深さ200μm以上、例えば500μmとした治具」が記載されている。
また刊行物2〜4には、その記載からみて「一般的に不浸透性黒鉛は、黒鉛にフェノールのような熱硬化性樹脂を含浸させて気孔をふさいだもので、流体または気体を通過させない材料であるが、通気率としては10-8cm2/sであること」が記載されている。
しかしながら、本件発明1、及び本件発明3〜6における「治具を、室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2 /s未満であり、液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛とした」点、及び本件発明2における「治具を、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜1mm含浸され、表面の層厚さが1μm〜20μm被覆された熱硬化性樹脂が被覆された黒鉛とした」点は、上記刊行物1〜4のいずれにも記載されておらず、またこの点を示唆する記載も見当たらない。なお、この点は、特許異議申立人の提示した甲第1号証である特開2000-2863号公報にも記載、ないし示唆されていない。
そして各本件発明は、上記特徴点の構成を有することにより、本件特許明細書の【0027】に記載された「液晶基板との密着性も良く、200℃での温度分布も±2℃以内となり、表面の均熱性に優れ、ダスト発生量も少なく、液晶基板加熱処理用の治具としてその要件を十分に満たしたものとなった。」という格別の効果を奏するものである。
したがって、各本件発明は、各刊行物に記載された発明でないばかりか、各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
【4】むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
又、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
治具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂で、被覆又は含浸又は含浸被覆され、室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2/s未満であり、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項2】 液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜1mm含浸され、表面の層厚さが1μm〜20μm被覆された熱硬化性樹脂が被覆された黒鉛からなる治具。
【請求項3】 液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜50mm含浸され、表面の層厚さが1μm以下被覆された熱硬化性樹脂が含浸されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項4】 液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂が、表面からの深さが0.1mm〜50mm含浸され、表面の層厚さが20μm以下被覆された熱硬化性樹脂が含浸被覆されており、前記液晶基板を真空吸着できる程度の浸透性黒鉛からなる治具。
【請求項5】 前記硬化処理は、400℃以下の温度で処理された請求項1〜4のいずれかに記載の治具。
【請求項6】 室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2/s未満である請求項2〜4のいずれかに記載の治具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示板等の製造工程において、液晶基板を加熱して液晶表示素子を基板でシールする際に使用される治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶基板を熱処理する際に用いられる治具には、均熱性、ダストの抑制及び真空吸脱着時の密着性が要求されている。
【0003】
この均熱性及びダスト抑制を行った黒鉛性の治具としては、例えば、特開平5-262510号公報に開示されている黒鉛にガラス状炭素を含浸、被覆したものがある。ここでは、800℃での均熱性が高く、また、ダストの発生量が少なくなり、太陽電池セルや、液晶表示板等の製造工程において、薄膜半導体素子を基板表面にCVD等の方法によって形成する際に用いられる治具に適したものであることが開示されている。
【0004】
ところで、液晶表示板の製造工程において、液晶表示素子を基板とシール材によって形成されたセルに入れ、焼成・封じ込めを行う工程では、その温度が200℃前後であり、この際に要求される治具の表面の温度分布は、600×600mmの面内で±2℃以内という条件が要求されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の特開平5-262510号公報に開示されている黒鉛にガラス状炭素を含浸、被覆したものは、800℃においては優れた均熱性を示すが、200℃前後では、前記温度分布の条件を満足しないという問題がある。
【0006】
また、液晶表示板は、液晶表示素子の基板内へのシール時の基板と液晶基板用加熱処理用治具との密着性により製品の平坦度が決定してしまう。ところが、黒鉛にガラス状炭素を含浸、被覆した場合、黒鉛に存在する気孔を十分に封孔することができず、そのため、基板を治具に真空吸着した場合、治具の基板と接していない面の気孔からリークしてしまい十分な密着性を高めることが難しいという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題に鑑みなされたものであり、液晶表示板の製造工程において、液晶基板を加熱処理し、液晶表示素子を基板とシール材によって形成されたセルに入れ、焼成・封じ込めを行う工程に使用され、200℃前後で、600×600mmの面内での温度分布が±2℃以内の、液晶基板との密着性を高めた液晶基板加熱処理用の治具を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、黒鉛基材に熱硬化性樹脂被覆又は、含浸又は、含浸被覆処理し、この熱硬化性樹脂を硬化した状態で止めることで、200℃前後の表面均熱性を向上せしめ、ガス透過性を低め、被処理品との密着性を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の治具は、液晶基板を加熱処理する際に使用される治具であって、硬化された熱硬化性樹脂で、被覆又は含浸又は含浸被覆された黒鉛からなるものである。また、前記硬化処理は、400℃以下の温度で処理されたものであることが好ましい。また、室温における窒素ガス透過率が1.0×10-8m2/s未満であるものが好ましい。
【0010】
本発明で使用される黒鉛基材は、一般的な製法で作製された高純度等方性黒鉛が好ましい。特に、嵩密度1.7〜1.9g/cm3、開気孔率が5〜20%であるものが好ましい。開気孔率が5%未満の場合、熱硬化性樹脂を含浸被覆する効果が十分に得られず、また、開気孔率が20%を越える場合は、含浸される熱硬化性樹脂量が多くなり熱伝導が低くなってしまい、表面の均熱性が悪くなってしまうため好ましくない。
【0011】
この黒鉛基材に被覆又は、含浸又は、含浸被覆する熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等の樹脂が例示できる。ここで、被覆とは、熱硬化性樹脂の一部が黒鉛基材中に含浸し、その他大部分が黒鉛基材表面を被覆している状態をいい、黒鉛基材への含浸深さが0.1mm〜1mm、表面の層厚さが1μm〜20μmの場合を意味する。また、含浸とは、熱硬化性樹脂が黒鉛基材内部に深く含浸し、黒鉛基材表面を薄く被覆している状態をいい、黒鉛基材への含浸深さが0.1mm〜50mm、表面の層厚さが1μm以下の場合を意味する。また、含浸被覆とは、熱硬化性樹脂が黒鉛基材内部に深く含浸し、また、黒鉛基材表面を厚く被覆している状態をいい、黒鉛基材への含浸深さが0.1mm〜50mm、表面の層厚さが20μm以下の場合を意味する。ここで、表面への被覆厚さが20μmを越えると、黒鉛に比べ、熱特性に劣る熱硬化性樹脂の特性が強くなり、表面の均熱性が悪くなるため好ましくない。
【0012】
熱硬化性樹脂を被覆又は、含浸又は、含浸被覆する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、任意の大きさ、形状に加工した前記黒鉛材からなる治具を、熱硬化性樹脂内に浸漬、若しくは熱硬化性樹脂を加圧含浸、また、刷毛やスプレー等で任意の面に塗布する方法等が例示できる。そして、これらの方法を適宜組み合わせることによって、熱硬化性樹脂を、黒鉛基材に含浸深さ50mmから、表面への被覆厚さ20μmまでの間で、その含浸深さ、被覆厚さを調整することが可能となる。
【0013】
熱硬化性樹脂を被覆又は、含浸又は、含浸被覆処理後、400℃以下の温度、好ましくは200〜300℃で熱硬化性樹脂を硬化させる。熱硬化性樹脂を完全に炭化させてしまうと、炭化の段階で、熱硬化性樹脂の収縮若しくはガスの発生等で、黒鉛基材の気孔を完全に埋めることができないためである。したがって、硬化の状態で止めることにより、ガスの透過を低くすることができ、ガス透過率を1.0×10-8m2/s未満とすることができる。これによって、治具として使用したときに、処理物である液晶基板を真空吸着した際に、液晶基板と接する面以外で、気孔からのガス漏れがないため、治具と液晶基板との密着性が向上する。ここで、ガス透過率が1.0×10-8m2/s以上であると、治具と液晶基板との密着性が悪くなるため、ガス透過率を1.0×10-8m2/s未満、好ましくは1.0×10-9m2/s以下とすることが好ましい。
【0014】
また、熱硬化性樹脂は保温性を有しているため、完全に炭化させずに、硬化の段階で止めることによって、この保温性を利用することができ、表面の均熱性を高めることができる。
【0015】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、ポリカルボジイミド樹脂液(日清紡(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にポリカルボジイミド樹脂液を含浸し、その後250℃で硬化処理を行い供試体とした。この供試体表面を大気中、200℃で、中心部および端部を接触式熱電対にて表面の温度分布を測定した。また、供試体を通して、液晶基板を真空吸着し、その時の密着性を求めた。また、ガス透過率測定用にφ30×10mmの試料を切り出しガス透過率を測定した。また、同様にして50×50×10mmの試料を切り出し、液中微粒子測定法にて5μm以上の微粒子数を測定し、ダスト発生量とした。
【0016】
(実施例2)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、ポリカルボジイミド樹脂液(日清紡(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にポリカルボジイミド樹脂液を含浸した後、スプレーで表面に塗布し、その後250℃で硬化処理を行い、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0017】
(実施例3)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、フェノール樹脂液(リグナイト(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にフェノール樹脂液を含浸し、その後250℃で硬化処理を行い、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0018】
(実施例4)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、フェノール樹脂液(リグナイト(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にフェノール樹脂液を含浸した後、スプレーで表面に塗布し、その後250℃で硬化処理を行い、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0019】
(実施例5)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、ポリカルボジイミド樹脂液(日清紡(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にポリカルボジイミド樹脂液を含浸し、その後400℃で硬化処理を行い、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0020】
(実施例6)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、フェノール樹脂液(リグナイト(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にフェノール樹脂液を含浸し、その後350℃で硬化処理を行い、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0021】
(比較例1)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、フェノール樹脂液(リグナイト(株)製)中に1h浸漬し、黒鉛材中にフェノール樹脂液を含浸し、その後250℃で硬化処理を行い、続けて800℃で焼成処理を行い供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0022】
(比較例2)
かさ密度1.8g/cm3の等方性黒鉛材料を、600×600×35mmに加工し、供試体とした。その後、実施例1と同様にして、表面の温度分布、液晶基板との密着性、ガス透過率、ダスト発生量を求めた。
【0023】
なお、ガス透過率は、図1に示す微小ガス透過率測定装置によって求めた。まず、試料3をサンプルホルダー内に設置し、チャンバーA1内の空気をロータリーポンプ10Aで排気した後に窒素ガスを充填させる。一方、チャンバーB2内をロータリーポンプ10Bで平衡状態に達するまで減圧する。ロータリーポンプ10Aの停止とともにチャンバーA1内のガスが試料3を通って透過することによりチャンバーB2内の圧力が上昇し始める。チャンバーB2内の圧力はマノメーター5で測定する。チャンバーA1内の圧力PA(Pa)に比べてチャンバーB2内の圧力PB(Pa)が非常に小さい初期の時間t(s)においてチャンバーB2の圧力PB(Pa)の上昇速度(ΔPB/△t)を求める。チャンバーB2内の容積をVB(cm3)とすれば通気量Q=VB(ΔPB/△t)となる。チャンバーB2内の圧力上昇変化が直線的と見なせる範囲内においては通気量Qは次の式で与えられる。
Q=(PB2-PB1)VB/(t2-t1)
ここで、PB1は時間t1におけるチャンバーB2の圧力(Pa)、PB2は時間t2におけるチャンバーB2の圧力(Pa)、VBはチャンバーBの容積(cm3)である。ここで求めたQを次式にあてはめてガス透過率Kを求める。
K=QL/ΔPAここで、Kはガス透過率(cm2/s)、Qは通気量(Pa・cm3/s)、△Pは試料両側の圧力差(Pa)、Lは試料の厚さ(cm)、Aはガス透過面積(cm2)である。
【0024】
具体的には次のようにして測定する。試料3を、パッキン(Oリング)4を有する治具を用いて装置にセットする。次にチャンバーA1内の空気を排気した後、測定ガスである窒素やヘリウムをチャンバーA1内に導入し所定の圧力PA(Pa)とする。このとき、チャンバーB2内が平衡圧力PB(Pa)に達するのを確認する。平衡に達してもおおむね5〜24時間脱気を継続する。これは、チャンバー内部や試料からの脱ガスを充分に行い、測定の際にチャンバー内部や試料からの脱ガスによる判定への誤差を少なくするためである。ロータリーポンプ10BとチャンバーBの間にある真空バルブを閉じ、測定を開始する。チャンバーA1から試料3を介して透過するガスによってチャンバーB2内の圧力PB(Pa)が上昇し始めるので、これをマノメーター5にて測定して時間tの関数としてレコーダーに記録する。チャンバーBの容積VBは、13cm3である。ガス透過性が高い材料を測定する場合はチャンバーB2の圧力上昇を遅くして測定の信頼性を上げる必要があるので容積1000cm3の予備タンク6を用いる。測定条件は下記の通りである。
ダミー試料:ステンレス(VB=1013cm3)
試料寸法:φ30×1mm使用ガス:窒素(△P=300kPa)
【0025】
以上、実施例1乃至6及び比較例1及び2の供試体の各特性値の測定結果を表1にまとめて示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、熱硬化性樹脂を含浸若しくは含浸被覆したのち400℃以下で硬化処理した実施例1乃至6の供試体は、ガス透過率も1×10-8m2/s未満となり、液晶基板との密着性も良く、200℃での温度分布も±2℃以内となり、表面の均熱性に優れ、ダスト発生量も少なく、液晶基板加熱処理用の治具としてその要件を十分に満たしたものとなった。一方、完全に炭化させた比較例1のものは、ガス透過率、密着性、均熱性、ダスト発生量の全てにおいて、硬化させた状態で止めた本実施例にかかるものに劣っていた。
【0028】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、黒鉛基材に熱硬化性樹脂を被覆又は、含浸又は、含浸被覆し、400℃以下の温度で硬化し、熱硬化性樹脂を硬化の状態で止めることによって、液晶基板の加熱処理時に使用される治具として適用することができ、液晶基板間に液晶表示素子を封入する際の不良を大幅に減らすことが可能になるとともに、その際に使用される治具として高寿命になるため、液晶の製造コストを大幅に低減する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
微少ガス透過率測定装置の模式図である。
【符号の説明】
1 チャンバーA
2 チヤンバーB
3 試料
4 パッキン
5 マノメータ
6 予備タンク
7 圧力計
8 ピラニ真空計
9 電離真空計
10A、B ロータリーポンプ
11 ターボ分子ポンプ
12 ガス導入方向
13 ガス排気方向
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-22 
出願番号 特願2000-6045(P2000-6045)
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤田 都志行右田 昌士  
特許庁審判長 瀧本 十良三
特許庁審判官 町田 光信
森 正幸
登録日 2002-06-14 
登録番号 特許第3318301号(P3318301)
権利者 東洋炭素株式会社
発明の名称 治具  
代理人 赤塚 賢次  
代理人 福田 保夫  
代理人 梶 良之  
代理人 梶 良之  

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