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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F04B |
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管理番号 | 1098035 |
異議申立番号 | 異議2003-72255 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2002-01-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-10 |
確定日 | 2004-03-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3384401号「容量可変型斜板式圧縮機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3384401号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 (1)本件(特許第3384401号)の請求項1に係る発明についての出願は、出願日が平成3年3月8日である実願平3-13020号を特許法第46条第1項の規定により平成8年8月22日に特許出願に変更し(特願平8-221417号)、その一部を、特許法第44条第1項の規定により平成11年1月18日に新たな特許出願とし(特願平11-9644号)、さらにその一部を、特許法第44条第1項の規定により平成13年5月21日に新たな特許出願としたものであって、平成14年12月27日にその発明について特許権の設定登録がなされた。 (2)平成15年9月10日に、特許異議申立人 佐藤精孝(以下、「申立人」という。)より、請求項1に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがなされた。 (3)当審において、平成15年12月8日付け(発送日:平成15年12月19日)で取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年2月17日に訂正の請求がなされるとともに、意見書が提出された。 II.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 上記I.(3)の訂正の請求において特許権者が求める訂正の内容は以下のとおりである。(下線は、対比の便のために当審で付したものである。) (1)訂正事項a 特許権設定登録時の願書に添付した明細書(以下、「原明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に、 「【請求項1】 複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該本体部の該シュー連結部側には該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。」 とあるのを、 「【請求項1】 複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向していることを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。」 と訂正する。 (2)訂正事項b 原明細書の段落【0009】に、 「本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、・・・圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該本体部の該シュー連結部側には該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられていることを特徴とする。」 とあるのを、 「本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、・・・冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向していることを特徴とする。」 と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aについて 訂正後の請求項1の「冷媒ガスの圧縮容量が制御される」は、「圧縮容量が制御される」の対象を「冷媒ガス」と限定するものである上、この点は原明細書の段落【0004】に記載されている。 訂正後の請求項1の「該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、 」は、「シュー連結部」の構成を「該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり 」と限定するものである上、この点は原明細書の段落【0012】に記載されている。 訂正後の請求項1の「該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向している」は、貫通孔について、「本体部の端面の周縁部に開口して(設けられ)」「斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向している」と限定するものである上、この点は原明細書の段落【0013】、【0017】及び【0018】に記載されている。 したがって訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (2)訂正事項bについて 上記訂正事項bは、特許請求の範囲を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載を、それと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3.訂正の適否についてのむすび したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議申立てについての判断 1.特許異議申立ての理由及び取消の理由の概要 特許異議申立人が主張する取消の理由及び当審で通知した取消の理由の概要は次のとおりである。 「本件の請求項1に係る発明は、本件の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <刊行物> 刊行物1:特公昭64-1668号公報(申立人の示した甲第1号証) 刊行物2:実願昭53-145134号(実開昭55-60470号) のマイクロフィルム(申立人の示した甲第2号証) 刊行物3:特開平1-110879号公報(申立人の示した甲第3号証) 刊行物4:特開昭60-175783号公報 刊行物5:実願昭55-71388号(実開昭56-171680号) のマイクロフィルム 」 2.本件発明 上記II.のように訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、当該訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向していることを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。」 3.刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1(特公昭64-1668号公報) 上記刊行物1には、次の事項が記載されている。 ア.「第1図を参照して本発明に係る容量可変型圧縮機の構造について説明する。シリンダーケーシング1の一端にはシリンダーボア2aが形成されたシリンダーブロック2が形成され、他端の開口部には、中央部にシャフト軸4を挿入するための貫通孔3aが穿設され、この貫通孔3aには、シャフト軸4を回転可能に支持するためのラジアルベアリング5が圧入されたフロントハウジング3が配置、固着されている。・・・クランク室1aが形成され、」(第2頁第3欄第33行〜第4欄第5行) イ.「シャフト軸4には、・・・斜板10が球面上を滑動可能に設けられている。」(第2頁第4欄第11〜15行) ウ.「斜板10の円周端には斜板10を挟むようにして、スライディングシュー19が球面が形成されたスライディングシュー19が球面を外側にして、当接している。このスライディングシュー19は斜板10の円周に沿って摺動可能になっている。・・・このスライディングシュー19には図示のように、一端部が2叉に形成されたピストンロッド20がスライディングシュー19を挟持するように配設されており、ピストンロッド20はスライディングシュー19上を摺動可能な状態となっている。ピストンロッド20の他端部にはシリンダボア2a内で滑動可能にピストン21が設けられている。なお、斜板10上には上述した構造のピストンが複数本設けられている。・・・隔壁26aを有するシリンダーヘッド26によって吸入室27及び吐出室28が形成されるように、・・・シリンダーケーシング1を閉塞する。」(第2頁第4欄第33行〜第3頁第5欄第16行) エ.「吸入室27の圧力とクランク室1aの圧力がほぼ等しくなっているため、・・・ヒンジ部を中心とする右回りモーメントによって斜板10の傾斜角が大きくなる。・・・この結果ピストン21のストローク量が大きくなって圧縮機の容量が増加する」(第3頁第6欄第43行〜第4頁第7欄第11行) オ.「圧縮機の容量が過剰になると、冷媒の吸入圧力が低下し、吸入室27の圧力が低くなる。・・・クランク室1a内の圧力は上昇する。・・・斜板10の傾斜角はヒンジ部のピン11が長孔8bの下端に移動するまで小さくなる。この結果ピストン27のストローク量が小さくなって圧縮機の容量が減少する。」(第4頁第7欄第13〜33行) カ.第1,2図の記載から、「ピストン21」は「凹部」を有していることが看取できる。 上記記載事項及び第1,2図の記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。 「複数のシリンダーボア2aを有するシリンダーブロック2と、該シリンダーブロック2の前方端を密閉状のクランク室1aを形成して閉塞するフロントハウジング3と、吸入室27及び吐出室28を有して前記シリンダーブロック2の後方端を閉塞するシリンダーヘッド26と、前記シリンダーブロック2の軸孔に挿嵌支承されたシャフト軸4と、該シャフト軸4に揺動自在に装着されて前記クランク室1a内に回転可能に収容された斜板10と、該斜板にスライディングシュー19を介して係留され前記シリンダーボア2a内を往復動するピストン21とを備え、前記クランク室1a内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストン21のストローク及び前記斜板10の傾斜角が変化することにより冷媒の圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、ピストン21には凹部が形成され、ピストンロッド20は、その一端部が2叉状に形成されスライデイングシュー19を挟持するように配設されている容量可変型斜板式圧縮機。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) (2)刊行物2(実願昭53-145134号(実開昭55-60470号)のマイクロフィルム) 上記刊行物2には、次の事項が記載されている。 キ.「この考案は、回転斜板式圧縮機において、斜板の回転によりシリンダボア内を往復動するピストンに関し、特にその摺動部内に空間を設けて軽量化を図ったものである。」(明細書第2頁第3〜6行) ク.「ピストン1の両側には摺動部6a,6bが形成されていて、この摺動部6a,6bはシリンダブロック7に形成のシリンダボア8内で摺動自在であるように嵌挿されている。 この摺動部6a,6bは、キャップ状の摺動部材11a,11bがピストン本体1aの両側で円板状に形成の取付部12a,12bにそれぞれ装着されて構成されており、その内部には空間13a,13bが設けられている。」(明細書第6頁第8行〜第7頁第1行) ケ.「逃し孔14は、ピストン本体1aの取付部12a,12bに形成され、空間13a,13bと斜板2側のシリンダボア8内とを連通し、ピストン1の往復動により空間13a,13b内で膨張した空気を逃すためのものである。」(明細書第7頁第10〜14行) 上記記載事項及び第2図の記載によれば、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認められる。 「回転斜板式圧縮機のピストンにおいて、ピストン1の摺動部6a,6bはキャップ状の摺動部材11a,11bがピストン本体1aの両側で円板状に形成された取付部12a,12bにそれぞれ装着して構成し、その内部には空間13a,13bを設け、取付部12a,12bには、空間13a,13bと斜板側のシリンダボア8内とを連通する逃し孔14を設ける」発明 (3)刊行物3(特開平1-110879号公報) 上記刊行物3には、次の事項が記載されている。 コ.「本発明ではコンロッドの重量低減をステム部及びボール部の中空化によって実施するが、それには上記した荷重条件で材料強度を十分満足しなければならない。・・・ よって、圧縮機全体を考えると、6気筒であるから ΔW=6×(ΔWs+ΔWB ) ・・・(15) の重量低減ΔWとなる。」(第6頁右下欄第5行〜第7頁左上欄第15行) 上記記載事項及び第1図の記載によれば、刊行物3には、次の技術が記載されているものと認められる。 「コンロッドの重量低減をステム部及びボール部の中空化によって実施する」技術 (4)刊行物4(特開昭60-175783号公報) 上記刊行物4には、本件発明との関係において、上記刊行物1と同様の事項及び発明が記載されているものと認められる。 (5)刊行物5(実願昭55-71388号(実開昭56-171680号)のマイクロフィルム) 上記刊行物5には、次の事項が記載されている。 サ.「この考案は、回転式斜板式圧縮機において、斜板の回転に伴ってシリンダボア内を往復動するピストンに関するものである。」(明細書第1頁第12〜14行) シ.「ピストンヘッド2,2が板材より成る摺動部9,9とシュー受け部10,10とを接合して構成されているので、その内部には空間11,11が形成され軽量化が図られている。 このピストンヘッド2,2のシュー受け部10,10の互いに対向する面10c,10cには、半球状に突出された突部12,12が一体にプレス成形されて形成され、この突部12,12で斜板5の両側に接するシュー8,8を受けている。」(明細書第5頁第11行〜第6頁第5行) 上記記載事項及び第2,3図の記載によれば、刊行物5には、次の発明が記載されているものと認められる。 「回転斜板式圧縮機のピストンにおいて、ピストンヘッド2,2が、板材より成る摺動部9,9とシュー受け部10,10とを接合して構成され、その内部には空間11,11が形成され、シュー受け部10,10の互いに対向する面10c,10cには、半球状に突出された突部12,12が一体にプレス成形されて形成され、この突部12,12で斜板5の両側に接するシュー8,8を受けるように構成する」発明 4.対比 本件発明と刊行物1記載の発明を対比すると、後者の「シリンダーボア2a」は、その技術的意義からみて、前者の「ボア」に相当し、以下同様に、後者の「シリンダーヘッド26」は前者の「リヤハウジング」に、後者の「シャフト軸4」は前者の「駆動軸」に、後者の「スライディングシュー19」は前者の「シュー」に、後者の「冷媒」は前者の「冷媒ガス」に、後者の「ピストンロッド20」は前者の「シュー連結部」にそれぞれ相当する。 そして、後者の「ピストン21」は「シリンダーボア2aの内周面と摺接する本体部」を有していることは技術常識からみて明らかであり、第1,2図の記載から、「ピストンロッド20」はこの「本体部」と一体的に設けられているものと認められ、後者の「ピストン21には凹部が形成され」と前者の「本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され」とは、「本体部内には空間部が形成され」の限りにおいて一致している。 また、後者の「ピストンロッド20は、その一端部が2叉状に形成されスライデイングシュー19を挟持するように配設されている」は、第1,2図をも参酌すれば、「ピストン21から軸方向に延在する腕部とスライディングシュー19を挟持する部分とからなる」といい得るものであり、後者の「スライディングシュー19を挟持する部分」と、前者の「腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部」とは、「保持部」の限りにおいて一致している。 したがって、両者の一致点、相違点は、次のとおりとなる。 〈一致点〉 「複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、本体部内には空間部が形成され、シュー連結部は、本体部から軸方向に延在する腕部と保持部とからなる容量可変型斜板式圧縮機。」 〈相違点1〉 本件発明では、ピストンの本体部内には、シュー連結部側に径方向で閉塞しかつシューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成されているのに対し、刊行物1記載の発明では、単に、ピストン21には凹部が形成されている点。 〈相違点2〉 本件発明では、シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなっているのに対し、刊行物1記載の発明では、ピストンロッド20は、その一端部が2叉状に形成されスライデイングシュー19を挟持するように配設されている点。 〈相違点3〉 本件発明では、本体部のシュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向しているのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような構成を備えていない点。 5.判断 上記〈相違点3〉について検討する。 上記刊行物2には、前示のとおり「回転斜板式圧縮機のピストンにおいて、ピストン1の摺動部6a,6bをキャップ状の摺動部材11a,11bがピストン本体1aの両側で円板状に形成された取付部12a,12bにそれぞれ装着して構成し、その内部には空間13a,13bを設け、取付部12a,12bには、空間13a,13bと斜板側のシリンダボア8内とを連通する逃し孔14を設ける」発明が記載されている。そして、「逃し孔14」の技術的意義について、刊行物2には、「逃し孔14は、ピストン本体1aの取付部12a,12bに形成され、空間13a,13bと斜板2側のシリンダボア8内とを連通し、ピストン1の往復動により空間13a,13b内で膨張した空気を逃すためのものである。」(上記摘記事項ケ)と記載されている。しかしながら、刊行物2には、逃し孔14が、斜板及びシューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するようにシューに対向しているという旨の記載はなく、示唆もない。 上記刊行物5には、前示のとおり、「回転斜板式圧縮機のピストンにおいて、ピストンヘッド2,2が、板材より成る摺動部9,9とシュー受け部10,10とを接合して構成され、その内部には空間11,11が形成され、シュー受け部10,10の互いに対向する面10c,10cには、半球状に突出された突部12,12が一体にプレス成形されて形成され、この突部12,12で斜板5の両側に接するシュー8,8を受ける」発明が記載されている。しかしながら、上記刊行物5には、ピストンの中空部(空間11,11)と外部を連通する貫通孔を設けることは記載されていない。 上記刊行物3には、前示のとおり、「コンロッドの重量低減をステム部及びボール部の中空化によって実施する」技術が記載されているが、ピストンの本体部内に、シュー連結部側に径方向で閉塞しかつシューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成すること、及び、中空部と外部とを連通する貫通孔を設けることは記載されていない。 上記刊行物4は、本件発明との関係においては、上記刊行物1と同様の事項を開示するのみである。 結局、上記刊行物1〜5には、上記〈相違点3〉に係る本件発明の構成である「本体部のシュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向している」点が記載も示唆もされていない。 そして、本件発明は、このような構成を採ることにより、「最も摺動条件の厳しい斜板6及びシュー7に対して均一に潤滑油を供給することが可能となる。」(本件明細書の段落【0018】参照)という作用効果を奏するものと認められる。 したがって、上記〈相違点1〉、〈相違点2〉について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物1〜5に記載された発明ではなく、また、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めることができない。 また、他に、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めるべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許を取り消すことはできない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 容量可変型斜板式圧縮機 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向していることを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、車両空調用などに用いられる容量可変型斜板式圧縮機に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来の容量可変型斜板式圧縮機(以下、単に圧縮機という。)として、特開昭60-175783号公報に開示されたものが知られている。この圧縮機は、図5に示すように、複数のボア21を有するシリンダブロック2が中央部に配置されており、その前方端は密閉状のクランク室31を形成してフロントハウジング3により閉塞され、その後方端は弁板41を介してリヤハウジング4により閉塞されている。リヤハウジング4には、ボア21と連通する吸入室42及び吐出室44が設けられている。 【0003】 そして、シリンダブロック2の軸孔には駆動軸5が挿嵌支承されており、この駆動軸5にはクランク室31内に回転可能に収容された斜板6が揺動自在に装着されている。この斜板6には、前記ボア21内に嵌入されたピストン1がシュー7を介して係留されている。このピストン1は、ボア21の内周面と摺接する本体部と、この本体部と一体に設けられ、シューを連結するシュー連結部とを有している。そして、シリンダブロック2には、クランク室31と吸入室42とを連通する連通孔23が設けられており、この連通孔23には、吸入圧力との差圧に応じて連通孔23を開閉するベローズ8が配設されている。 【0004】 この圧縮機では、駆動軸5の駆動に伴って斜板6が回転すると、各ピストン1がボア21内で往復動し、これにより吸入室42からボア21内に吸入された冷媒ガスは圧縮された後吐出室44へ吐出される。このとき吐出室44へ吐出される冷媒ガスの圧縮容量は、吸入圧力とベローズ8の設定圧力との差圧により連通孔23が開閉してクランク室31内の圧力が調整されることにより制御される。 【0005】 すなわち、吸入圧力がベローズ8の設定圧力より高いときは、連通孔23が開放状態となってクランク室31の圧力が低圧化し、ピストン1のストローク及び斜板6の傾斜角が大きくなって圧縮容量は大きくなる。逆に、吸入圧力がベローズ8の設定圧力より低いときは、連通孔23が閉塞状態となってクランク室31の圧力が高圧化し、ピストン1のストローク及び斜板6の傾斜角が小さくなって圧縮容量は小さくなる。 【0006】 なお、ボア21内に吸入された冷媒ガスの一部は、クランク室31内に漏洩して斜板6やシュー7などの摺動部分の潤滑油として利用される。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、上記圧縮機におけるピストン1は、シュー連結部側を大きく開口させた凹部が本体部に設けられ、これにより軽量化が図られている。 一方、上記圧縮機は、斜板6の回転運動によってピストン1のボア21内での往復動が生起する構造であり、ピストン1が往復動する際に圧縮反力及び慣性力が作用するため、ピストン1には充分な強度が要求される。したがって、上記ピストン1の場合には、本体部のシュー連結部側の肉厚を厚くする等により充分な強度を確保する必要があり、充分な軽量化を図ることができない。 【0008】 本発明は、容量可変型斜板式圧縮機において、ピストンの充分な強度を確保できるようにするとともに軽量化を図り得るようにすることを解決すべき課題とするものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】 本発明の容量可変型斜板式圧縮機は、複数のボアを有するシリンダブロックと、該シリンダブロックの前方端を密閉状のクランク室を形成して閉塞するフロントハウジングと、吸入室及び吐出室を有して前記シリンダブロックの後方端を閉塞するリヤハウジングと、前記シリンダブロックの軸孔に挿嵌支承された駆動軸と、該駆動軸に揺動自在に装着されて前記クランク室内に回転可能に収容された斜板と、該斜板にシューを介して係留され前記ボア内を往復動するピストンとを備え、前記クランク室内の圧力と吸入圧力との差圧に応じて前記ピストンのストローク及び前記斜板の傾斜角が変化することにより冷媒ガスの圧縮容量が制御される容量可変型斜板式圧縮機において、 前記ピストンは、前記ボアの内周面と摺接する本体部と、該本体部と一体に設けられ、前記シューを連結するシュー連結部とを有し、該本体部内には、該シュー連結部側に径方向で閉塞しかつ該シューを係留する側壁によって密閉状の中空部が形成され、該シュー連結部は、該本体部から軸方向に延在する腕部と、該腕部から該側壁に対面すべく形成された保持部とからなり、該本体部の該シュー連結部側には該本体部の端面の周縁部に開口して該中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられ、該貫通孔は前記斜板及び該シューに対して冷媒ガス中に含有される潤滑油を供給するように該シューに対向していることを特徴とする。 【0010】 この手段によると、本体部のシュー連結部側に要求される強度を充分に確保することが可能になるとともに、本体部の肉厚を薄くすることによる軽量化が可能となる。 【0011】 このようなピストンは、少なくとも2個の部材を溶接により一体接合して形成することができる。このような製法を採用することにより、例えば切削加工による中空部の加工が容易となり、本体部の薄肉化も容易に達成できる。 【0012】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。 なお、実施形態の圧縮機は図5に示した従来の圧縮機と基本的な構成においては変わるところがないので、共通する部材等は符号を援用し、本発明を特徴付けるピストンを除き、共通する部材等の詳しい説明は省略する。 実施形態の圧縮機に採用しているピストン1は、図1〜図3に示すように、ボア21の内周面と摺接する円筒状の本体部12と、この本体部12と一体に設けられ、シュー7を連結するシュー連結部18とを有し、本体部12内には密閉状の中空部11が形成されている。ピストン1の本体部12は、シュー連結部18側に径方向で中空部11を閉塞する側壁19を有している。シュー連結部18は本体部12から軸方向に延在する腕部16と、この腕部16から側壁19に対面すべく形成された保持部17とからなる。 【0013】 本体部12の外周面には、環状のオイル溝13が形成されている。このオイル溝13は、図5に示すように、ピストン1がボア21内で下死点に位置するとき、クランク室31に露呈しない限界位置に設けられている。 そして、オイル溝13には、溝底面に開口して中空部11と外部とを連通する3個の第1貫通孔14が等角度間隔に設けられている。また、図3に示すように、本体部12のシュー連結部18側には、端面の周縁部に開口して中空部11と外部とを連通する3個の第2貫通孔15が等角度間隔に設けられている。そして、本体部12のシュー連結部18側には、軸方向に延在する腕部16を介して本体部12の端面と対称的に形成された内面をもつ保持部17が設けられている。 【0014】 このピストン1は、2個の部材を溶接により一体接合して形成した。このような製法を採用することにより、例えば切削加工による中空部11の加工が容易となり、本体部12の薄肉化も容易に達成できる。 このように構成されたピストン1は、本体部12と保持部17との間に斜板6の周縁部が嵌挿された状態で、斜板6の両側に滑動自在に配設されたシュー7を介して係留されるとともに、シリンダブロック2の各ボア21内に嵌入配設される。 【0015】 以上のように構成されたピストン1を装備した実施形態の圧縮機において、駆動軸5の駆動に伴って斜板6が回転すると、各ピストン1がボア21内で往復動し、これにより吸入室42からボア21内に吸入された冷媒ガスは圧縮された後吐出室44へ吐出される。 【0016】 この間、ピストン1は、本体部12のシュー連結部18側に要求される強度を充分に確保することが可能であるとともに、本体部12の肉厚を薄くすることによる軽量化が可能である。 また、このような作動に伴い、ボア21内の圧力が高圧状態と負圧状態とを繰り返すときには、第1貫通孔14を介してボア21と中空部11との間に呼吸作用が生起する。また、この呼吸作用に呼応して、中空部11とクランク室31との間にも第2貫通孔15を介しての呼吸作用が生起し、ボア21と中空部11との間の呼吸作用が円滑に行われる。これにより、ボア21と中空部11との間の圧力差が緩和されるため、強度を確保しつつ本体部12の薄肉化が可能となり、ピストン1の軽量化が可能となる。 【0017】 また、ボア21の内周面には、冷媒ガス中に含有される潤滑油が付着しており、その潤滑油はピストン1が往復動する際にオイル溝13により掻き取られる。このため、上記呼吸作用に伴って、中空部11さらにはクランク室31へは高濃度となった冷媒ガスが流出し、クランク室31で作動する斜板6やシュー7などの摺動部分の潤滑油として好適な役割を果たす。 【0018】 この場合、実施形態における第2貫通孔15は、シュー7と対向して設けられており、しかも図4に示すように、実施形態のピストン1が6気筒のシリンダブロック2に配設された場合を考慮して等角度間隔に3個設けられていることにより、最も摺動条件の厳しい斜板6及びシュー7に対して均一に潤滑油を供給することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】実施形態に係るピストンの側面図である。 【図2】実施形態に係るピストンの断面図である。 【図3】実施形態に係るピストンを示し、図1のIII-III線矢視断面図である。 【図4】実施形態におけるシリンダブロックに配設されたピストンの第2貫通孔の配置を示す説明図である。 【図5】従来の容量可変型斜板式圧縮機の断面図である。 【符号の説明】 21…ボア 2…シリンダブロック 31…クランク室 3…フロントハウジング 42…吸入室 44…吐出室 4…リヤハウジング 5…駆動軸 6…斜板 7…シュー 1…ピストン 12…本体部 18…シュー連結部 11…中空部 14…第1貫通孔 15…第2貫通孔 19…側壁 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-03-09 |
出願番号 | 特願2001-150324(P2001-150324) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(F04B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石橋 和夫、刈間 宏信、尾崎 和寛 |
特許庁審判長 |
西野 健二 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 飯塚 直樹 |
登録日 | 2002-12-27 |
登録番号 | 特許第3384401号(P3384401) |
権利者 | 株式会社豊田自動織機 |
発明の名称 | 容量可変型斜板式圧縮機 |
代理人 | 中村 敬 |
代理人 | 中村 敬 |