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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01H 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 H01H |
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管理番号 | 1098041 |
異議申立番号 | 異議2003-70338 |
総通号数 | 55 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-05-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-02-05 |
確定日 | 2004-03-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3311337号「キースイッチ装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3311337号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.訂正の適否 (1)訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は以下の訂正事項a〜hのとおりである。 ア.訂正事項a 請求項1の、「裏面に回動係止部が形成されたキートップと、 そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、 前記回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動して前記キートップの上下動を案内支持する一対のギヤリンク部材と、 前記キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うスプリング部材とを備え、 前記回動係止部は、前記一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、前記ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、 前記摺動係止部には、前記一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、前記キートップの上昇動作時における前記ギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられていることを特徴とするキースイッチ装置。」なる記載を「裏面に回動係止部が形成されたキートップと、 そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、 そのホルダ部材の下方に配設され、上面に回路基板を支持する支持板と、 前記回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動して前記キートップの上下動を案内支持する一対の上面視略コ字状のギヤリンク部材と、 前記支持板上に支持された回路基板上に配設され、前記キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うラバースプリングとを備え、 前記回動係止部は、前記一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、前記ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、 前記ホルダ部材は、貫通された開口を有し、その開口内に、前記ラバースプリングを、当該ラバースプリングの上端部が突出するように配置し、 前記摺動係止部には、前記一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、前記キートップの上昇動作時における前記ギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられていることを特徴とするキースイッチ装置。」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ.訂正事項c 請求項4の、「前記ギヤ部は前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のキースイッチ装置。」なる記載を「前記ギヤ部は前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキースイッチ装置。」と訂正して、新たな請求項3とする。 エ.訂正事項d 段落【【0012】の、「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、請求項1記載のキースイッチ装置は、裏面に回動係止部が形成されたキートップと、そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動してキートップの上下動を案内支持する一対のギヤリンク部材と、キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うスプリング部材とを備え、回動係止部は、一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、摺動係止部には、一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、キートップの上昇動作時におけるギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられている。」なる記載を「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、請求項1記載のキースイッチ装置は、裏面に回動係止部が形成されたキートップと、そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、そのホルダ部材の下方に配設され、上面に回路基板を支持する支持板と、回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動してキートップの上下動を案内支持する一対の上面視略コ字状のギヤリンク部材と、支持板上に支持された回路基板上に配設され、キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うラバースプリングとを備え、回動係止部は、一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、ホルダ部材は、貫通された開口を有し、その開口内に、ラバースプリングを、当該ラバースプリングの上端部が突出するように配置し、摺動係止部には、一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、キートップの上昇動作時におけるギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられている。」と訂正する。 オ.訂正事項e 段落【0013】の、「請求項3記載のキースイッチ装置は、請求項1又は請求項2に記載のキースイッチ装置において、前記ホルダ部材は貫通された開口を有し、その開口内に、前記スプリング部材を配置したものである。 請求項4記載のキースイッチ装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のキースイッチ装置において、前記ギヤ部は前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有しているものである。」なる記載を「請求項3記載のキースイッチ装置は、請求項1又は請求項2に記載のキースイッチ装置において、前記ギヤ部は前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有しているものである。」と訂正する。 カ.訂正事項f 段落【0014】〜【0015】において、4箇所の「スプリング部材」なる記載を「ラバースプリング」と訂正する。 キ.訂正事項g 段落【0016】の、「図2は図1のX-X線断面図、図3は図1のY-Y線断面図、図4は押下時のキースイッチ装置の側断面図」なる記載を「図2は図1のX-X線断面図によるキートップ非押下時の側面視一部断面図、図3は図1のY-Y線断面図によるキートップ非押下時の正面図一部断面図、図4は図1のX-X線断面図によるキートップ押下時の側面視一部断面図」と訂正する。 ク.訂正事項h 【図面の簡単な説明】の項の「【図2】 図1のX-X線断面図である。 【図3】 図1のY-Y線断面図である。 【図4】 本実施例によるキースイッチ装置の押下時の側断面図である。」なる記載を「【図2】 図1のX-X線断面図によるキートップ非押下時の側面視一部断面図である。 【図3】 図1のY-Y線断面図によるキートップ非押下時の正面図一部断面図である。 【図4】 図1のX-X線断面図によるキートップ押下時の側面視一部断面図である。」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア.訂正事項aは、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0020】、【0024】、【0027】、【請求項3】、図3、図5及び図6の記載に基づいて、「支持板」の構成を追加し、「ギヤリンク部材」、「スプリング部材」及び「ホルダ部材」の構成を具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 イ.訂正事項はbは請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 ウ.訂正事項cは訂正事項a及びbの訂正に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 エ.訂正事項d〜fは訂正事項a〜cの訂正に整合するように、明細書の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 オ.訂正事項g及びhは、図2〜4の説明を正確に行うものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 そして、訂正事項a〜hのいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 2.特許異議申立てについて (1)本件発明 上記1.で示したように上記訂正が認められるから、特許第3311337号の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、それぞれ、訂正明細書の請求項1〜3に記載されたとおりのものである。 請求項1及び3については1.(1)のア.訂正事項a及びウ.訂正事項cを参照。 請求項2「前記ギヤ部は、キートップの下方に配置されると共に、そのキートップが非押下の状態においては前記ホルダ部材の上方に配置されていることを特徴とする請求項1記載のキースイッチ装置。」 (2)特許異議申立ての概要 特許異議申立人・鮫島金治は、証拠方法として 甲第1号証(独国特許第4039379号明細書)、 甲第2号証(米国特許第3,771,636号明細書)、 甲第3号証(特開昭60-62017号公報)、 甲第4号証(実願昭63-81741号(実開平2-5236号)のマイクロフイルム) を提出し、 本件特許の明細書は記載が不備であって、特許法第36条第4項又は第6項に規定される要件を満たしていない(以下、「申立理由1」という。)から、及び本件の請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立理由2」という。)から、本件の請求項1〜4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められ、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消されるべきものである旨主張している。 (3)申立理由1について 特許異議申立人は、(あ)特許明細書の図1や5における歯車12a,12b,22a,22bは、ヒンジ部材7,8の基端部10a,10b,20a,20bより他端側へ導出しており、その歯車かみ合い位置はヒンジ部材7,8の中間位置にあるから、「側面視における一端側にギヤ部を有し、そのギヤ部でかみ合わされ、」なる記載は特許請求の範囲の記載要件を満たしていない旨、(い)段落【0025】【0031】【0037】の記載からみて、本発明の効果である段落【0039】の「こじれのない確実なキー入力」は位置決めピン36a,36bと位置決め溝35a,35bの摺動案内によって実現されていると記載されているが、当該構成が特許請求の範囲に記載されておらず、かつそのことから特許請求の範囲に記載の発明が当業者にとって容易に実施できる程度に明確に記載されているともいえない旨、(う)もとの出願である特願平4-171603号において出願当初の特許請求の範囲に記載していた「位置決めピンもしくは溝」を、平成11年3月30日付け手続補正書によって、上記構成が必須でないように補正したことは違法な補正である旨、主張している。 (あ)について、請求項1における「側面視における一端側にギヤ部を形成し、」「前記回動係止部は、前記一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、」「前記一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材」なる記載は、回動係止される第1係止部材を中心とするギア部を、他端側に対する一端側に有するというものであると認められ、一端の端部そのものではなく、一端側に設けられていると記載されることからみても、図1〜5の記載と矛盾はなく、特許請求の範囲の記載要件を満たしていないとはいえない。 (い)について、明細書の【従来の技術】の項の段落【0006】に「従来のキースイッチ装置のいずれにおいても、スイッチング部材を押下するためのキーステムやキー部材の押下部をキーホルダ部を介して上下に摺動案内しつつ、スイッチング部材を押下させるようにしている点で共通するものである。」、【発明が解決しようとする課題】の項の段落【0008】に「キーボードの薄型化を実現しようとすれば、キーステムがキーホルダ部により摺動案内される部分が減少し、これに伴って、キーの傾動に起因するキーステムとキーホルダ部間でキーのこじれが生じてしまう。」、段落【0011】に「キーボードの薄型化に対応しつつ、キーストロークを大きく維持することができ、しかも、簡単な構成によりキー操作性が良好で、こじれのない確実なキー入力を可能とするキースイッチ装置を提供することを目的とする。」、【発明の効果】の項の段落【0041】に「本発明のキースイッチ装置によれば、一対のギヤリンク部材が同期して回動することにより、確実にキートップの上下動を案内支持することができるため、従来のようなキーステムをホルダ部により上下に摺動案内する構成を不要とし、キーストロークの大きさを維持しつつ、キーボードを薄型化することができるとともに、キー入力の操作性を良好にでき、且つ、こじれのない確実なキー入力を可能とすることができるという効果がある。」との記載からみて、本件発明1〜3の要旨は、従来必要であった「キーステムがキーホルダ部により摺動案内」する構成を、薄型化に対応するために、これを用いずに、「ギヤ部でかみ合わされ、同期して回動して前記キートップの上下動を案内支持する一対の上面視略コ字状のギヤリンク部材」を用いたキースイッチ装置であると認められる。そして、そのための構成は特許請求の範囲に記載されているのであるから、特許請求の範囲には発明の詳細な説明に記載された発明が記載されているのであり、発明が不明確であるともいえない。また、明細書には当業者が容易に実施しうる程度に記載されていると認められる。 なお、位置決めピン36a,36bと位置決め溝35a,35bの摺動案内に係る構成は、特許請求の範囲に記載のキースイッチ装置において、さらにキートップの横ずれをも防止するためのものであると認められ、発明の詳細な説明と特許請求の範囲の記載が矛盾しているとは認められない。 (う)について、特許法第36条第4項又は第6項は、もとの出願における補正が適法か否かを規定するものではないので、上記主張は当を得ないものである。 なお、出願当初の特許請求の範囲に記載されていた特定の構成を、後に削除する補正をすること自体、何ら違法な手続とはいえない。 したがって、申立理由1は採用できない。 (4)申立理由2について ア.各甲号証の記載内容 a.甲第1号証 甲第1号証(訳文については特許異議申立人が提出した参考資料1を参照。)には、押しボタン装置に関するものであって図1〜9と共に以下のような記載がある。 ・第3欄37〜49行「図1に示す押しボタン装置は、全体を符号10で示すボタンヘッドと、それぞれ第1の脚14および第2の脚16を備えた2つの同一に形成されたU字状のガイドフレーム12とを有しており、それらの脚の一方の端部はU字の横棒を形成する軸と結合されている。図3から明らかなように、2つのガイドフレーム12の軸18は、フォーク状軸受20内に挟持されており、そのフォーク状軸受はボックス形状のボタンヘッド10の天井面22の内側に配置されている。従ってガイドフレーム12は、ボタンヘッド10に固定の軸を中心に揺動可能に軸承されている。」 ・第3欄50〜55行「脚14と16の自由端部には、それぞれ外側を向いた軸受ピン24が設けられており、その軸受ピンはそれぞれ開放したガイドスリット26へ嵌入するように定められており、そのガイドスリットはその他は詳しく図示されていない切り換え装置28に弓形の突出部30によって形成されている。」 ・第3欄56行〜第4欄20行「図1から明らかなように、2つのガイドフレーム12の交差する脚14と16は一種のハサミを形成しており、しかしその場合に交差する脚14と16は固定のリンクによって互いに結合されているのではない。むしろ、2つの脚14と16は互いに対して回転運動と並進運動を実施する。それにもかかわらず一方のガイドフレームの運動と他方のガイドフレームの運動との間に、ボタンヘッド10が非作動位置と切り換え位置との間で上昇および下降運動する場合にそれ自体に対して常に平行に移動されるような結合を形成するために、ガイドフレーム12の脚16の内側にはそれぞれピン形状の連動子32が配置されており、その連動子は他方の脚14の中央部分に形成された制御カーブ34に添接するように定められている。同時にそれぞれの脚14に形成されたカム36がそれぞれの脚16の中央部分に形成された制御カーブ38上で滑り移動する。ガイドフレーム12の一方が、ボタンヘッド10の上昇または押し下げの際に揺動されると、そのガイドフレームは自動的にその脚16に設けられた連動ピン32とその脚14に設けられたカム36とを介して他方のガイドフレーム12に設けられた脚14を連動させて、それによってボタンヘッド10は、それがどの個所で操作されたかに関係なく、その方向性を維持し、かつ上昇および下降運動の際につかえることはない。他方において、2つのガイドフレーム12は取り付けの際には単に図1に示すように互いに入り組ませるだけで済む。付加的な部材による他の組み立ては不要であることが、理解される。」 ・さらに図2には、切り換え装置28に配設された突出部30によって形成されたガイドスリット26は、ボタンヘッド10の上昇時に軸受ピン24が移動する方向に開口を有する構成が示されている。 これらの記載事項及び図1、2の図示内容によれば、甲第1号証には、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。 「天井面22の内側にフォーク状軸受20が形成されたボタンヘッド10と、 そのボタンヘッド10の下方に配設され、突出部30によってガイドスリット26が形成された切り換え装置28と、 フォーク状軸受20およびガイドスリット26にそれぞれ連結されるとともに、 ボタンヘッド10の上下動を案内支持する2つのU字状のガイドフレーム12とを備え、 フォーク状軸受20は、2つのU字状のガイドフレーム12の上端のボタン固定の軸18を軸支し、 突出部30には、2つのU字状のガイドフレーム12の下端部に形成された軸受ピン24を嵌入するガイドスリット26が設けられ、 ガイドフレーム12の軸受ピン24はボタン固定の軸18とは反対の端部側に、軸受ピン24をガイドフレーム12の側面より天井面22の幅方向における両側にて外向きに設けられ、ボタンヘッド10の下方に配置され且つそのボタンヘッド10が非押下の状態においては切り換え装置28の上方に配置された、ガイドフレーム12の一方の脚16に形成された連動子32及び制御カーブ38、他方の脚14に形成された制御カーブ34及びカム36からなるカム連結部を有し、そのカム連結部で互いに係合されて、互いに連動させて回動してボタンヘッド10の上下動を案内支持する2つのガイドフレーム12 を備えている押しボタン装置。」(以下、「引用発明」という。) b.甲第2号証 甲第2号証(訳文については特許異議申立人が提出した参考資料2を参照。)には、キーボードユニットに関するものであって、図1〜19と共に以下のような記載がある。 ・第4欄52行〜第5欄24行「支持要素34及び36は、スペースバー16がサブアセンブリフレーム40及びキーボードユニット11の支持フレーム又は構造12の両方との関係において往復直線運動を行なうように取りつけられるような形で取り付け手段を提供するスロット38及び42の内部で案内されている。しかしながら、手による操作力がスペースバー16のいずれかの端部に加えられた場合、支持要素34又は36のうちのいずれか一方がサポート34,36のうちのもう一方のものよりも大きいか又は小さい距離にわたり移動しようとし、その結果サポート34,36は上部壁40A又はフランジ40Dの隣接する壁表面に対して結合することになり、その結果スペースバー16はスイッチユニット14を操作するのに適当な押下げを達成するよう強制されなくてはならなくなる可能性がある。このことは、今度は、不安定な操作又はスイッチユニット14に対する損傷をもたらすと同時に、キーボードユニット11内のその他のキーのものと同じスペースバー16の操作「感触」をもちたいという願望を失望させる結果となる可能性がある。 これを防ぎ、キーボードユニット11又はそのための支持構造12に対し平行な関係でのスペースバー16の動きを確保するため、機構18には、壁40B,40Cの上に支持され、端部の中間でギヤレバー44,46(図2)上に形成された円形の突起付き部分(44A,46A)の中を通過し壁40B,40Cの上に支持された1対のシャフト又はピボットピン48を用いてスペースバー16の中央部分の下に配置され互いに全体的に心合せされた位置でサブアセンブリフレーム40の前方壁及び背壁40B,40Cの間に旋回する形でとりつけられた一対のギヤレバー44及び46が含まれている。ギヤレバー44及び46の最も内側の端部には、互いにかみ合わさる歯付き又はギヤ部分又はセグメント44B,46Bが具備されている。ギヤレバー44及び46の外部自由端は、レバー44及び46上の分岐の間に延びるピン(50)が支持要素34及び36内のスロット34A,36A内に配置されることになるような形で、支持要素34及び36を収容するために分岐されている。こうしてギヤレバー44及び46はスペースバー16のための支持要素34及び36に対して旋回する形で結合される。」 ・また、図1〜3には、スペースバー16に連結されると共にピボットピン48,48を回動中心部とするギヤレバー44,46を有し、該ギヤレバー44,46は各ピボットピン48,48を回動軸とする歯車状に形成されたギヤ部分44B,46Bを有し、そのギヤ部分44B,46Bで互いにかみ合わされて、同期して回動してスペースバー16の上下動を案内支持する構造のキーボードユニットが示されている。 c.甲第3号証 甲第3号証には、2本のアーム13〜16を有する2つの鋏状部材11、12により構成される案内装置によりキーキャップ10の上下動を案内支持するキーボードの押圧キーにおいて、アーム13〜16のピン21,22,25,26を収容する案内ポケット21',22',25',26'が構成される非可動キー部分3にはばね弾性のスイッチ体6を収容する凹部27及び孔28が設けられ、スイッチ体6はキーキャップ10を押圧するとスイッチングすると共にキースイッチを釈放するとその復旧力によりキーキャップ10をリセットするように上方へ付勢することが示されている。 d.甲第4号証 甲第4号証には、第1〜4図の図示内容及び明細書中の該当説明箇所の記述によれば、キートップ1を外側の矩形枠体3a及び内側の矩形枠体3bで上下動自在にプリント基板5に支持する押釦スイッチにおいて、キートップ1の押下によってラバースイッチ4が押し下げられて固定接点8と可動接点9が閉じ、且つ該ラバースイッチ4のばね性によってキートップ1が停止位置に復帰し、さらに、外側の矩形枠体3a及び内側の矩形枠体3bはプリント基板5上に下ホルダー6、7により回動自在又はスライド自在に固定するものが記載されている。 イ.対比・判断 a.本件発明1について 本件発明1と引用発明を対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違している。 前者は、「ホルダ部材は、貫通された開口を有し、その開口内に、ラバースプリングを、当該ラバースプリングの上端部が突出するように配置し」ているのに対して、後者は、そのような構成を有していない点。 そこで上記相違点につき検討する。 甲第3号証には、ばね弾性のスイッチ体6(本件発明1の「ラバースプリング」に相当する。以下同様。)が、非可動キー部分3(「ホルダ部材」)の凹部27及び孔28(「貫通された開口」)に配されることが示されているものの、ラバースプリングの上端部がホルダ部材から突出するものではない。 甲第4号証においても、ラバースイッチ4(本件発明1の「ラバースプリング」に相当する。以下同様。)を有するもののプリント基板5上に配設するというのみであり、ホルダ部材が示されていない。 さらに、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲第2号証にも記載されていない。 そして、本件発明1は、その構成により、明細書の段落【0041】に記載の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 b.本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記2.(4)イ.a.で記載したと同様の理由により、いずれも甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 (5)取消理由通知について 当審が平成15年10月16日付けで通知した取消理由については、訂正により全て解消されている。 (6)むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件の請求項1〜3に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 キースイッチ装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 裏面に回動係止部が形成されたキートップと、 そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、 そのホルダ部材の下方に配設され、上面に回路基板を支持する支持板と、 前記回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動して前記キートップの上下動を案内支持する一対の上面視略コ字状のギヤリンク部材と、 前記支持板上に支持された回路基板上に配設され、前記キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うラバースプリングとを備え、 前記回動係止部は、前記一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、前記ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、 前記ホルダ部材は、貫通された開口を有し、その開口内に、前記ラバースプリングを、当該ラバースプリングの上端部が突出するように配置し、 前記摺動係止部には、前記一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、前記キートップの上昇動作時における前記ギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられていることを特徴とするキースイッチ装置。 【請求項2】 前記ギヤ部は、キートップの下方に配置されると共に、そのキートップが非押下の状態においては前記ホルダ部材の上方に配置されていることを特徴とする請求項1記載のキースイッチ装置。 【請求項3】 前記ギヤ部は、前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキースイッチ装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、キースイッチ装置に係り、特に、ノート型ワードプロセッサやノート型パーソナルコンピュータ等に付設される薄型のキーボードに有効なキースイッチ装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、この種のキーボードに使用されるキースイッチ装置としては、キーステムを一体に有するキー部材がホルダープレートに形成されたキーホルダ部に挿通して支持されるとともに、キーステムの下方にスイッチング部材が配設されたキースイッチ装置が一般に用いられている。このようなキースイッチ装置において、キー部材のキーステムはキーホルダ部を介して上下に摺動案内され、キー部材を押下すると、キー部材が下方へ移動するのに伴って、キーステムの下部によりスイッチング部材を押下し、これによりスイッチング動作が行われる。 【0003】 また、スペースキーやリターンキー等の大型のキーを使用するキースイッチ装置としては、キーの押下時にキーが傾いた状態で押下されるのを防止するために、特開昭60-62017号公報や特開昭64-7441号公報に記載されたキースイッチ装置が知られている。 【0004】 特開昭60-62017号公報に記載されたキースイッチ装置では、キー部材の下方に配設され、キー部材を支持する案内部材を2つのはさみ状部材により構成し、個々のはさみ状部材の2つのアームを軸に回転可能に連結させている。そして、キー部材を押下すると、各はさみ状部材の端部に形成された複数個の各ピンがキー部材の裏面とキーボードの基板の上面とで水平方向に摺動するように構成している。これにより、キー部材を押下すると、キー部材は水平状態を保持したまま下方に移動し、これに伴って、キー部材に垂設された押下部がキーホルダ部を介して摺動案内され、その下方に配設されたスイッチング部材を押下し、スイッチング動作が行われる。 【0005】 更に、特開昭64-7441号公報に記載されたキースイッチ装置は、前者に記載されたキースイッチ装置と基本的構成を同じくするものであり、はさみ状部材に対するキー部材の着脱を容易にする点に特徴を有するものである。 【0006】 これら各公報に記載されたキースイッチ装置は、スペースキー等の大型のキーにおける押下位置とは無関係に、キーのどの部分を押下しても水平状態を保持したままキーの上下動を案内できるものである。このように、前述した従来のキースイッチ装置のいずれにおいても、スイッチング部材を押下するためのキーステムやキー部材の押下部をキーホルダ部を介して上下に摺動案内しつつ、スイッチング部材を押下させるようにしている点で共通するものである。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、近年、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータ等における小型化、薄型化に伴い、これらに付設されるキーボードも小型化、薄型化が指向されている一方、キー入力の操作性を向上させるとともにキー入力の確実性を担うべく大きなキーストロークが要求されている状況下において、従来のキースイッチ装置では十分なキーストロークを得ることができないという問題点があった。 【0008】 従来のキースイッチ装置において、キーボードの薄型化を実現しようとすれば、キーステムがキーホルダ部により摺動案内される部分が減少し、これに伴って、キーの傾動に起因するキーステムとキーホルダ部との間でのキーのこじれが生じてしまう。これを防止するために、キーステムがキーホルダ部により摺動案内される部分を大きくすると、キーストロークが減少してしまうというジレンマがある。 【0009】 また、キーの押下時にキーステムとキーホルダ部との間で生じるこじれは、摺動ノイズ発生の原因となり、キー入力の操作性を著しく損なうこととなる。このキーステムとキーホルダ部との間で生じるこじれは、常にキーの中央部を押下している場合には、キーステムが垂直に押下されることとなるので発生しにくいものである。そこで、このこじれの発生を防止するために、キーの操作面積を小さくし、常にキーの中央部にて押下されるようにすることも考えられるが、この場合もキー入力の操作性を著しく損なう点では前記のものと変わるところがない。 【0010】 また、前記各公報に記載されたキースイッチ装置は、特にキーボードの薄型化を指向するものではなく、また、スイッチング部材を押下するための押下部をキー部材から垂下して設ける必要があり、このため薄型化が困難であった。 【0011】 本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、キーステムをホルダ部により上下に摺動案内する構成を不要として、キーボードの薄型化に対応しつつ、キーストロークを大きく維持することができ、しかも、簡単な構成によりキー操作性が良好で、こじれのない確実なキー入力を可能とするキースイッチ装置を提供することを目的とする。 【0012】 上記目的を達成するために、請求項1記載のキースイッチ装置は、裏面に回動係止部が形成されたキートップと、そのキートップの下方に配設され、摺動係止部が形成されたホルダ部材と、そのホルダ部材の下方に配設され、上面に回路基板を支持する支持板と、回動係止部および摺動係止部にそれぞれ係止されるとともに、側面視における一端側にギヤ部を形成し、そのギヤ部でかみ合わされ、同期して回動してキートップの上下動を案内支持する一対の上面視略コ字状のギヤリンク部材と、支持板上に支持された回路基板上に配設され、キートップを上方へ付勢するとともに、そのキートップの上下動に伴ってスイッチング動作を行うラバースプリングとを備え、回動係止部は、一対のギヤリンク部材の側面視における一端側端部に形成された第1係止部材をそれぞれ回動可能に係止し、ギヤ部の近傍にてギヤ部の噛み合いを維持し、ホルダ部材は、貫通された開口を有し、その開口内に、ラバースプリングを、当該ラバースプリングの上端部が突出するように配置し、摺動係止部には、一対のギヤリンク部材の他端側端部に形成された第2係止部材を摺動可能に係止する係止溝が設けられ、その係止溝のうち、キートップの上昇動作時におけるギヤリンク部材の第2係止部材の摺動方向には、その摺動位置を制限する制限壁がホルダ部材に一体的に設けられている。 【0013】 また、請求項2記載のキースイッチ装置は、請求項1記載のキースイッチ装置において、前記ギヤ部は、キートップの下方に配置されると共に、そのキートップが非押下の状態においては前記ホルダ部材の上方に配置されている。請求項3記載のキースイッチ装置は、請求項1又は請求項2に記載のキースイッチ装置において、前記ギヤ部は前記第1係止部材を回動中心とする歯車状のギヤを有しているものである。 【0014】 【作用】 上記構成を有する本発明のキースイッチ装置によれば、キートップが非押下の状態では、キートップはラバースプリングにより上方に付勢され、上方位置に保持されており、かかる状態からキートップが押下されると、キートップはラバースプリングの付勢力に抗して下降され、それに伴って、一対のギヤリンク部材は、同期して回動し、第1係止部材及び第2係止部材がそれぞれキートップ及びホルダ部材の回動係止部及び摺動係止部内で回動又は摺動して、キートップの下降動作を案内する。このキートップの下降動作とともに、ラバースプリングが押下されてスイッチング動作が行われる。 【0015】 一方、キートップの押下が解除されると、キートップは、ラバースプリングにより上方へ付勢されているので、その付勢力により、一対のギヤリンク部材に支持されつつ上方へ押し上げられて、元の位置に復帰する。このとき、キートップの上昇動作に伴って、一対のギヤリンク部材は、ギヤ部のかみ合いにより同期して回動し、第1係止部材及び第2係止部材がそれぞれキートップ及びホルダ部材の回動係止部及び摺動係止部内で回動又は摺動して、キートップの上昇動作を案内する。 【0016】 【実施例】 以下、本発明を具体化した一実施例を図面を参照して説明する。図1は本実施例によるキースイッチ装置の上面透視図、図2は図1のX-X線断面図によるキートップ非押下時の側面視一部断面図、図3は図1のY-Y線断面図によるキートップ非押下時の正面図一部断面図、図4は図1のX-X線断面図によるキートップ押下時の側面視一部断面図、図5はキースイッチ装置のギヤリンク部材の斜視図、図6はキースイッチ装置のホルダープレート部分の斜視図である。 【0017】 キートップ1はABS樹脂等の合成樹脂から成型されており、その上面にはアルファベット等の文字が印刷等により形成されている。図2に示すように、このキートップ1の裏面からは、4つの第1係止部2a,2b,3a,3bがキートップ1本体と一体になって垂設(形成)されている。第1係止部2a,2bには、後述する2つのギヤリンク部材7,8のうち、一方のギヤリンク部材7に形成された係止軸13a,13b(図5参照)を回動可能に係止する係止孔4a,4bが穿設されており、また、第1係止部3a,3bには、他方のギヤリンク部材8に形成された係止軸23a,23b(図5参照)を回動可能に係止する係止孔5a,5bが穿設されている。 【0018】 図2に示すように、キートップ1の下方には、キートップ1の上下動を案内支持する案内支持部材6が配設されている。この案内支持部材6はキー押下時にキートップ1が傾くのを防止する機構を有し、2つの同一形状のギヤリンク部材7,8から構成されている。一方のギヤリンク部材7は、図1及び図5に示すように、基部9の両端に2つの基端部10a,10bを一体に形成してなり、基端部10a,10bには各々歯車12a,12b(ギヤ部)が形成されており、この歯車12a,12bは後述する他方のギヤリンク部材8に形成された歯車22a,22b(ギヤ部)と作用点A、Bにてかみ合わされて、両者が同期して回動可能となるように構成されている。 【0019】 また、基部9には2つの係止軸13a,13bが形成されており、この係止軸13a,13bは前記の係止孔4a,4bに回動可能に係止される。更に、基端部10a,10bの両端延部11a,11bの側面からは係止ピン14a,14bが外向きに延設されている。この係止ピン14a,14bは後述するホルダープレート26に形成された第2係止部27a,27bに係止される。 【0020】 なお、図5に示すように、歯車12aが形成される基端部10aは端延部11a上に形成されるが、歯車12bが形成される基端部10bは端延部11b上ではなく、端延部11bの内側に隣接して形成されている。このように、ギヤリンク部材7は、基端部10a,11bおよび両端延部11a、11bで構成される両側部分が非対称に形成され、且つ上面視コ字状になるように形成されている。 【0021】 他方のギヤリンク部材8は、図1及び図5に示すように、基部19の両端に2つの基端部20a,20bを一体に形成してなり、基端部20a,20bには各々歯車22a,22bが形成されており、この歯車22a,22bは他方のギヤリンク部材7に形成された歯車12a,12bと作用点A、Bにてかみ合わされて、両者が同期して回動可能となるように構成されている。また、基部19には2つの係止軸23a,23bが形成されており、この係止軸23a,23bは係止孔5a,5bに回動可能に係止される。更に、基端部20a,20bの両端延部21a,21bの側面からは係止ピン24a,24bが外向きに延設されている。この係止ピン24a,24bは後述するホルダープレート26に形成された第2係止部28a,28bに係止される。 【0022】 なお、図5に示すように、歯車22bが形成される基端部20bは端延部21b上に形成されるが、歯車22aが形成される基端部20aは端延部21a上ではなく、端延部21aの内側に隣接して形成されている。このように、ギヤリンク部材8は、基端部20a,20bおよび両端延部21a、21bで構成される両側部分が非対称に形成され、且つ上面視コ字状になるように形成されている。 【0023】 そして、同一の形状に形成された両ギヤリンク部材7,8は、図1に示すように、一方のギヤリンク部材7の歯車12aと,他方のギヤリンク部材8の歯車22aとをかみ合わせるとともに、一方のギヤリンク部材7の歯車12bと,他方のギヤリンク部材8の歯車22bとをかみ合わせることにより、上面視ロ字形状に組み合わされる。これにより、中央部に大きな空間を有し、この空間に後述するラバースプリング32とコイルスプリング33をキートップ1の下側に効率良く収納できるようになっている。 【0024】 案内支持部材6の下方には、図6に示されるような開口25を有したホルダープレート26が配設されており、このホルダープレート26にはギヤリンク部材7,8に設けられた係止ピン14a,14b,24a,24bを各々係止するための第2係止部27a,27b,28a,28bが設けられている。各第2係止部27a,27b,28a,28bは,ホルダープレート26の内周縁の各角を形成する2辺をもって凸状に一体となって形成され、開口25中に係止溝29a,29b,30a,30bを形成している。そして、各々の係止ピン14a,14b,24a,24bを係止溝29a,29b,30a,30b内において水平方向に摺動可能に係止している。 【0025】 なお、各第2係止部27a,27b,28a,28bを形成する2辺のうち、ホルダープレート26に立設される制限壁27a1,27b1,28a1,28b1は、各係止溝29a,29b,30a,30bにおいてラバースプリング32及びコイルスプリング33によるキートップ1の上昇動作時における各係止ピン14a,14b,24a,24bの摺動方向側の端部に形成されている。この限壁27a1,27b1,28a1,28b1により、案内支持部材6の各係止ピン14a,14b,24a,24bの摺動が規制され、キートップ1の上昇位置が規制される。 【0026】 また、図1に示すように、ギヤリンク部材7の一方の基端部10bの端延部11bの外側側面は、ホルダープレート26に形成された第2係止部28bの内側側面と接触しており、また、ギヤリンク部材8の一方の基端部20aの端延部21aの外側側面は、ホルダープレート26に形成された第2係止部27aの内側側面と接触している。更に、両ギヤリンク部材7,8の各係止ピン14a,14b,24a,24bの端面は、第2係止部27a,27b,28a,28bの内壁面とそれぞれ接触している。これらの接触により、ホルダープレート26に対して、基部9,19の軸方向におけるギヤリンク部材7,8の移動が規制されるので、キートップ1の押下時において、そのキートップ1の横ずれを防止することができる。 【0027】 ホルダプレート26の下方には、スイッチ電極を含む所定の回路パターン(図示せず)が形成されたフレキシブル回路基板31が配設され、スイッチ電極に対応する位置には逆カップ状のラバースプリング32が載置されている。このラバースプリング32は内部に可動電極を有しており、上方からの押下量が一定限度を越えると座屈され、可動電極によりスイッチ電極が短絡されるものである。ラバースプリング32の上面には弾性部材としてコイルスプリング33が配設され、その上端部はキートップ1の裏面の凹部1aに取付けられている。この凹部1aにコイルスプリング33の上端が係止されるため、コイルスプリング33の位置がずれることはない。更に、フレキシブル回路基板31の下方には、スイッチ支持板34が配設されている。つまり、スイッチ支持板34は、フレキシブル回路基板31、ラバースプリング32、案内支持部材6およびホルダープレート26を支持していることになる。 【0028】 また、2つの位置決めピン36a,36bが第2係止部28a,28bに近接してホルダープレート26上に立設され、これらに対応して位置決め溝35a,35bが、キートップ1の上下動に伴って位置決めピン36a,36bを案内するようにキートップ1の裏面から垂設されている。この位置決めピン36a,36bの位置決め溝35a,35bとの係合部は、キートップ1の押下時に、こじれを生じることなくスムーズに位置決め溝35a,35bに沿って案内されるように球状に形成されている。このホルダープレート26における位置決めピン36a,36bの直下位置には貫通孔26aが設けられ、これにより、スライド型を用いることなく、樹脂成形により作成可能となる。 【0029】 これら位置決めピン36a,36bと位置決め溝35a,35bとの係合でもって、位置決め部材37が構成されており、この位置決め部材37は、キートップ1が水平方向に移動するのを防止する機構を有している。また、キートップ1の傾きを防止する機構は案内支持部材6が有しているため、位置決め部材37はキートップ1の傾きを防止する機構を持つ必要がないので、位置決めピン36a,36bと位置決め溝35a,35bとの係合部のオーバラップ量は少なくてよい。このように、案内支持部材6により一方向の位置決めを行い、この位置決めに対して90度の方向の位置決めが位置決め部材37により行われているので、キートップ1は、水平方向に移動することなく、また、案内支持部材6のギヤリンク部材7,8が互いに作用点A,Bでかみ合って作用することにより、水平状態を保持したまま上下動される。 【0030】 前記構成において、図2における作用点A、Bを通る垂線Lを基準に左側の第1係止部2a,2bには、係止軸13a,13bを回動可能に係止する係止孔4a,4bが設けられ、第2係止部27a,27bには、係止ピン24a,24bを水平方向に係止する係止溝29a,29bが設けられていることになる。また、垂線Lを基準に図2における右側の第1係止部3a,3bには、係止軸23a,23bを回動可能に係止する係止孔5a,5bが設けられ、第2係止部28a,28bには、係止ピン14a,14bを水平方向に係止する係止溝30a,30bが設けられていることになる。 【0031】 通常、ワードプロセッサやパーソナルコンピュータにおけるキーボードは、キー入力しやすいように装置手前側が低くなるように斜面をもって形成されるのに対し、各キートップ1の上面は水平に配設される。このため、各キースイッチ装置においては、装置手前側の方が厚みがある、つまり、スイッチ支持板34からキートップ1までの高さ寸法が長くなる。この高さ寸法が長い所に位置決め部材37を配設することにより、上述した位置決め溝35a,35bと位置決めピン36a,36bとの係合部のオーバーラップ量が少なくてよいことと相俟って、キーの所定量のストロークを確保しようとしたときの全体の高さ寸法を小さくすることができる。また、本実施例では、キートップ1の周囲の肉厚が上方へ盛り上がって高くなっているので、この部分に位置決め部材37を設けることで、可能な限り、全体の高さ寸法を小さくしている。図2においては右側が装置手前側となる。 【0032】 次に、このように構成されたキースイッチ装置の動作を説明する。キートップ1を押下すると、キートップ1が下方へ移動するのに伴って、ギヤリンク部材7の各々の係止軸13a,13bは、第1係止部2a,2bの係止孔4a,4b内で反時計方向に回動し、ギヤリンク部材8の各々の係止軸23,24は第1係止部3a,3bの係止孔5a,5b内で時計方向に回動する。これと同時に、ギヤリンク部材7の各々の係止ピン14a,14bは第2係止部28a,28bの係止溝30a,30b内で水平方向(図2における右方向)に摺動し、ギヤリンク部材8の各々の係止ピン24a,24bは第2係止部27a,27bの係止溝29a,29b内で水平方向(図2における左方向)に摺動する。 【0033】 その結果、ギヤリンク部材7の歯車12a,12bとリンク部材8の歯車22a,22bとが互いに作用点A、Bにてかみ合いながら同期して回動し、これにより、キートップ1は水平状態を保持したまま下方に移動する(図4参照)。このとき、位置決めピン36a,36bは、こじれを生じることなくスムーズに位置決め溝35a,35bに案内され、キートップ1が水平方向に移動することはない。また、キートップ1の下方への移動により、キートップ1の裏面に取付けられたコイルスプリング33を圧縮し、ラバースプリング32が除々に押下される。そして、その押下量が一定限度を越えた時点でラバースプリング32は座屈され、これにより、ラバースプリング32内の可動電極がフレキシブル回路基板31上のスイッチ電極を短絡し、所定のスイッチング動作が行われる。 【0034】 キートップ1の押下を解除すると、キートップ1はコイルスプリング33、ラバースプリング32の弾性復元力により上方に押し上げられる。これに伴って、係止軸13a,13b,23a,23bおよび係止ピン14a,14b,24a,24bは前述した動作と逆の動作を行い、その結果、キートップ1は元の位置に復帰される。 【0035】 なお、ラバースプリング32は前述のように側面視略台形であり、その上底の長さと下底の長さ及び高さに起因する側面の角度は、その所望キータッチに応じて決まる。さらに、この台形部の高さ、即ち、ラバースプリング32の高さはキーストロークとコイルスプリング33に応じて決定され、高い方が好まれる。しかし、装置全体の厚さを鑑みれば、このラバースプリング32はそれほど大きくすることができない。そこで、本実施例にあっては、前述のように両ギヤリンク部材7,8を上面視ロ字形状に組付けることにより、その中心に大きな空間を取り得るようにし、この空間にラバースプリング32とコイルスプリング33を配設した。これにより、本実施例にあっては、両ギヤリンク部材を側面視略直線状とし、装置中央部に大きな空間を有し得ない特開昭60-62017号公報あるいは特開昭64-7441号公報記載の装置と比べ、より薄型で大きなストロークを得ることができる。 【0036】 以上詳細に説明したように、本実施例によるキースイッチ装置は、2つのギヤリンク部材7,8をキートップ1の下方に上面視ロ字形状に構成することにより、その中心に大きな空間を確保し、この空間にラバースプリング32とコイルスプリング33を配設して、キートップ1を押下すると、コイルスプリング33を介してラバースプリング32が押下されるようにした。これにより、従来のキースイッチ装置のように、キーステムをキーホルダ部により摺動案内する構成を不要とした。このため、キーボードの薄型化に対応しつつキーストロークを大きくすることができ、よって、キーの操作性が良好で、キー入力を確実に行い得ると共に、簡単な構成により低コストのキースイッチ装置を提供することができる。 【0037】 特に、キーステムをキーホルダ部により摺動案内する構成を必要としなくなるので、従来のキースイッチ装置のように、キーの押下時にキーステムとキーホルダ部間で摺動ノイズが生じることもなく、これと共に、キーの中央部を押下させるために、キーの操作面積を小さくする必要性はなくなる。 【0038】 また、位置決め機能のある案内支持部材6と位置決め部材37を設けたことにより、キートップ1の押下時にも、案内支持部材6のギヤリンク部材7、8が互いに作用点A、Bでかみ合って作用し合うことにより下方に力が加わるだけで、キートップ1が水平方向に移動することはない。しかも、位置決めピン36a,36bの位置決め溝35a,35bとの係合部を球状に形成したので、位置決めピン36a,36bは、こじれを生じることなくスムーズに位置決め溝35a,35bに沿って摺動案内されることになり、摺動ノイズを生じることもない。従って、前記のこととも相俟って、この点からもキー入力の操作一性が良好で、キー入力を確実に行い得るキースイッチ装置を提供することができる。 【0039】 更に、ギヤリンク部材7,8を同一の形状に形成しているので、ギヤリンク部材7,8の成型用金型を一種類にすることができ、製造コストを低減することができる。加えて、案内支持手段6を、非対称で、上面視略コ字状の同一形状からなる一対のギヤリンク部材7,8により構成したので、部品の種類を少なくすることができるばかりか、2つのギヤリンク部材を組み付けを間違えることなく容易に組み合わせることができる。これにより、製造コストを低減することができるとともに、キースイッチ装置の組み立て作業の効率を向上させることができる。 【0040】 なお、本発明は上記実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形、改良が可能である。例えば、本実施例におけるギヤリンク部材7、8の本数を増やしてI字型にし、歯車を刻んだ円筒が互いに作用し合うように組み合わせた構成としてもよく、この場合においても上述と同様の効果が得られるとともに、位置決め溝および位置決めピンからなる位置決め部材37を省略することが可能となる。また、上記実施例にあっては、キートップ1に凹部1aを設けてコイルスプリング33を係止したが、キートップ1下面にコイルスプリング33内径と略同一半球状凸部を設けて係止してもよい。 【0041】 【発明の効果】 以上詳述したように、本発明のキースイッチ装置によれば、一対のギヤリンク部材が同期して回動することにより、確実にキートップの上下動を案内支持することができるため、従来のようなキーステムをホルダ部により上下に摺動案内する構成を不要とし、キーストロークの大きさを維持しつつ、キーボードを薄型化することができるとともに、キー入力の操作性を良好にでき、且つ、こじれのない確実なキー入力を可能とすることができるという効果がある。 【0042】 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一実施例によるキースイッチ装置の上面透視図である。 【図2】 図1のX-X線断面図によるキートップ非押下時の側面視一部断面図である。 【図3】 図1のY-Y線断面図によるキートップ非押下時の正面図一部断面図である。 【図4】 図1のX-X線断面図によるキートップ押下時の側面視一部断面図である。 【図5】 本実施例によるキースイッチ装置のリンク部材の斜視図である。 【図6】 本実施例によるキースイッチ装置のホルダープレート部分の斜視図である。 【符号の説明】 1 キートップ 2a,2b,3a,3b 第1係止部 6 案内支持部材 7,8 ギヤリンク部材 10a,10b,20a,20b 基端部 11a,11b,21a,21b 基端部 12a,12b,22a,22b 歯車 13a,13b,23a,23b 係止軸 14a,14b,24a,24b 係止ピン 25 開口 26 ホルダープレート 27a,27b,28a,28b 第2係止部 27a1,27b1,28a1,28b1 制限壁 29a,29b,30a,30b 係止溝 31 フレキシブル回路基板 32 ラバースプリング 33 コイルスプリング |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-02-25 |
出願番号 | 特願2000-298699(P2000-298699) |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(H01H)
P 1 651・ 121- YA (H01H) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
石川 好文 平上 悦司 |
登録日 | 2002-05-24 |
登録番号 | 特許第3311337号(P3311337) |
権利者 | ブラザー工業株式会社 |
発明の名称 | キースイッチ装置 |
代理人 | 根本 恵司 |
代理人 | 杉山 猛 |
代理人 | 根本 恵司 |
代理人 | 杉山 猛 |
代理人 | 畑川 清泰 |
代理人 | 畑川 清泰 |