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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1098073
異議申立番号 異議2003-70305  
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-03 
確定日 2004-03-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3310446号「エポキシ樹脂組成物」の請求項1及び3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3310446号の請求項1及び3に係る特許を取り消す。 
理由 [1] 手続の経緯
本件特許第3310446号は、平成6年3月2日に出願された特願平6-32549号に係り、平成14年5月24日に設定登録がなされた後、重森幹成及び加藤巨奈江から特許異議の申立てがあり、平成15年5月30日付けで取消理由が通知され、指定期間内である平成15年8月1日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

[2]特許異議申立について
(1)特許異議申立理由の概要
特許異議申立人 重森幹成は、
甲第1号証:特開平3-232258号公報及び
甲第2号証:特開平5-3270号公報を提出して、訂正前の本件請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、訂正前の本件請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、又は同条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張し、
特許異議申立人 加藤巨奈江は、
甲第1号証:特開平5-67702号公報及び
甲第2号証:特開昭62-296449号公報を提出して、訂正前の本件請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、訂正前の本件請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、又は同条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものであると主張する。

[3] 本件訂正請求
本件訂正請求は、次のとおりである。
(1)訂正事項a
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1の中の「エポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し30〜100重量%含むエポキシ樹脂」を、「エポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し50〜100重量%含むエポキシ樹脂」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の段落【0004】の中の「エポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し30〜100重量%含むエポキシ樹脂」を、「エポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し50〜100重量%含むエポキシ樹脂」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0019】の中の「実施例2〜6」を、「実施例2〜4」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0021】の中の表1中、実施例2及び5の欄を削除し、実施例3、4及び6を、それぞれ実施例2、3及び4と訂正する。

[4] 訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、総エポキシ樹脂量に対する請求項1に記載の式(1)で示されるエポキシ化合物の使用量「30〜100重量%」を「50〜100重量%」とする訂正であるが、これは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、訂正前の明細書の段落【0009】には、「式(1)で示されるエポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対して30重量%以上、好ましくは50重量%以上の使用が望ましい。」と記載されていることから、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(2)訂正事項b〜d
訂正事項b〜dは、上記訂正事項aにおける特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正前の明細書に記載された事項の範囲内でされたものである。
(3)そして、訂正事項a〜dの訂正により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号により改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[5]本件発明
本件特許第3310446号の訂正後の請求項1〜3に係る発明(以下、「訂正後の本件発明1」〜「訂正後の本件発明3」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】(A)下記式(1)で示されるエポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し50〜100重量%含むエポキシ樹脂、
【化1】

(式中のR1〜R10は水素、ハロゲン類、炭素数1〜12のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
(B)下記式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤を総フェノール樹脂硬化剤に対し30〜100重量%含むフェノール樹脂硬化剤、
【化2】

(式中のRは水素、ハロゲン類、炭素数1〜5のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
(C)無機充填材、
(D)硬化促進剤
を必須成分とし、エポキシ樹脂組成物中に占める無機充填材の量が80重量%以上である半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】式(1)のR1〜R4はメチル基、R5〜R8は水素原子 、R9、R10はターシャリーブチル基である請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】式(2)のRが水素である請求項1又は請求項2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」

[6]当審が通知した取消理由の概要
当審が平成15年5月30日付けで通知した取消理由の概要は、本件請求項1及び3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明であるから、本件請求項1及び3に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるか、本件請求項1及び3に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び3に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、というものである。

刊行物1:特開平5-67702号公報
刊行物2:特開平3-232258号公報
刊行物3:特開昭62-296449号公報

[7]刊行物の記載事項
(1)刊行物1には、
「下記の(A)〜(C)成分を含み、下記の(C)成分の含有量がエポキシ樹脂組成物全体の70〜85重量%に設定されている半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
(A)下記の一般式(1)で表される結晶性エポキシ樹脂。
【化5】

〔上記式(1)において、R1〜R4は炭素数1〜4のアルキル基である。〕
(B)下記の一般式(2)で表されるフエノールアラルキル樹脂。
【化6】

〔上記式(2)において、mは0または正の整数である。〕
(C)無機質充填剤。」(特許請求の範囲の請求項4)、
「本発明に用いられるエポキシ樹脂組成物は、特殊なエポキシ樹脂(A成分)と、フエノールアラルキル樹脂(B成分)と、無機質充填剤(C成分)とを用いて得られるものであつて、通常、粉末状もしくはそれを打錠したタブレツト状になつている。
上記特殊なエポキシ樹脂(A成分)は、ビフエニル型エポキシ樹脂で、下記の一般式(1)で表される結晶性エポキシ樹脂である。
【化11】

〔上記式(1)において、R1〜R4は炭素数1〜4のアルキル基である。〕
このように、グリシジル基を有するフエニル環に低級アルキル基を付加することにより撥水性を有するようになる。そして、上記一般式(1)で表される結晶性エポキシ樹脂のみでエポキシ樹脂成分を構成してもよいし、半田パツケージクラツク性の劣化を招かない範囲でそれ以外の通常用いられるエポキシ樹脂と併用してもよい。後者の場合には、エポキシ樹脂成分の一部が上記一般式(1)で表される結晶性エポキシ樹脂で構成されることとなる。上記通常用いられるエポキシ樹脂としては、クレゾールノボラツク型エポキシ樹脂,フエノールノボラツク型エポキシ樹脂,ノボラツクビスA型やビスフェノールA型エポキシ樹脂等各種のエポキシ樹脂があげられる。このように両者を併用する場合には、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂(A成分)をエポキシ樹脂成分全体の50重量%(以下「%」と略す)以上に設定するのが好ましく、特に好ましくは80%以上である。」(段落【0010】〜【0013】)、
「上記一般式(2)で表されるフエノールアラルキル樹脂は、上記特殊なエポキシ樹脂(A成分)の硬化剤として作用するものであり、アラルキルエーテルとフエノールとをフリーデルクラフツ触媒で反応させることにより得られる。一般に、α,α’-ジメトキシ-p-キシレンとフエノールモノマーの縮合重合化合物が知られている。」(段落【0016】)及び
「上記その他の添加剤としては、硬化促進剤……等があげられる。」(段落【0020】)と記載されている。
(2)刊行物2には、
「下記の特性(A)および(B)を備えたエポキシ樹脂組成物硬化体により半導体素子が封止されてなる半導体装置。
(A)硬化体中の無機質充填剤の含有容積割合が60容積%以上。
(B)硬化体のガラス転移温度が125℃以下。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「この発明に用いるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機質充填剤とを用いて得られるものであって、……
上記エポキシ樹脂は、特に限定するものではなく、通常用いられるものがあげられる。なかでも、例えばビフェニル型エポキシ樹脂で、下記の一般式(I)で表されるものが好適に用いられる。

〔上記式(I)において、R1〜R4は炭素数1〜4のアルキル基である。〕……そして、上記一般式(I)で表される特殊なエポキシ樹脂のみでエポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂成分(……)を構成してもよいし、それ以外の通常用いられるエポキシ樹脂と併用するようにしてもよい。……
上記通常用いられるエポキシ樹脂としては、……ビスフェノールA型等の各種エポキシ樹脂があげられる。……このように上記(I)の特殊なエポキシ樹脂と通常のエポキシ樹脂の両者を併用する場合には、上記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂をエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上に設定するのが好ましく、特に好ましくは60重量%以上である。
上記硬化剤としては、例えば下記の一般式(II)で表される特殊なフェノールアラルキル樹脂が用いられる。

〔上記式(II)において、mは0または正の整数である。〕」(2頁左下欄6行〜3頁左上欄11行)及び
「また、上記エポキシ樹脂、硬化剤とともに用いられる無機質充填剤としては、例えば結晶性および溶融性シリカ粉末等があげられ、破砕状および球状のものが用いられる。このような無機質充填剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物全体の72〜92重量%の範囲に設定するのが好ましい。
なお、この発明に用いるエポキシ樹脂系組成物には、上記エポキシ樹脂、硬化剤および無機質充填剤以外に、通常、硬化促進剤……等の従来公知の添加剤が用いられる。」(3頁右上欄14行〜同頁左下欄4行)と記載されている。

[8]対比・判断
(1) 訂正後の本件発明1について
(a)刊行物1との対比・判断
刊行物1には、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(2)で表されるフェノールアラルキル樹脂及び組成物全体に対して70〜85重量%含有する無機充填剤からなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物の発明が記載され、硬化促進剤を配合することも記載されている。

〔上記式(1)において、R1〜R4は炭素数1〜4のアルキル基である。〕

〔上記式(2)において、mは0または正の整数である。〕
エポキシ樹脂としては、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂に、それ以外の通常用いられるエポキシ樹脂を併用すること、併用するエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が記載され、配合割合については、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂をエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上と記載されていることから、併用されるビスフェノールA型エポキシ樹脂は50重量%以下であるといえる。そして、このビスフェノールA型エポキシ樹脂は、訂正後の本件発明1の式(1)において、R1〜R8が水素、R9及びR10が炭素数1のアルキル基であり、繰り返し単位の値も、訂正後の本件発明1にて規定される0〜20の範囲と重複することは明らかである。
フェノールアラルキル樹脂としては、α,α’-ジメトキシ-p-キシレンとフエノールモノマーの縮合重合化合物が例示されており、これは、訂正後の本件発明1の式(2)で表されるフェノール樹脂に相当し、このフェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として作用することも記載されている。
そうすると、刊行物1には、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物を50重量%含むエポキシ樹脂、同じく式(2)に相当するフェノール樹脂硬化剤、無機充填剤及び硬化促進剤を必須成分とし、エポキシ樹脂組成物中に占める無機充填剤の量が80〜85重量%である半導体封止用エポキシ樹脂組成物の発明が記載されていると認められるので、訂正後の本件発明1は刊行物1に記載された発明である。
なお、仮に刊行物1に記載された発明において、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物の使用量がエポキシ樹脂成分全体の50重量%未満であるとしても、そのエポキシ樹脂全体における式(1)に相当するエポキシ化合物の配合割合を調整して50重量%以上とすることは当業者が適宜なしうることであるといえるから、訂正後の本件発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であると認められる。また、効果について検討するも、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物の使用量について、50重量%未満から50重量%以上としたことにより、即ち、50重量%を境にして、格別優れた効果を奏することになるとも認めることはできない。

(b)刊行物2との対比・判断
刊行物2には、特定の性質を備えたエポキシ樹脂組成物硬化体により半導体素子が封止されてなる半導体装置という発明が記載され、硬化する組成物として、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機質充填剤からなるエポキシ樹脂組成物が記載されている。
エポキシ樹脂としては、一般式(I)

〔上記式(1)において、R1〜R4は炭素数1〜4のアルキル基である。〕
で表されるビフェニル型エポキシ樹脂に、それ以外の通常用いられるエポキシ樹脂を併用すること、併用するエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が記載され、配合割合については、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂をエポキシ樹脂成分全体の50重量%以上と記載されていることから、併用されるビスフェノールA型エポキシ樹脂は50重量%以下であるといえる。そして、このビスフェノールA型エポキシ樹脂は、訂正後の本件発明1の式(1)において、R1〜R8が水素、R9及びR10が炭素数1のアルキル基であり、繰り返し単位の値も、訂正後の本件発明1にて規定される0〜20の範囲と重複することは明らかである。
また、刊行物2には、硬化剤として、一般式(II)

で表されるフェノールアラルキル樹脂が用いられることが記載され、式(II)中のアラルキル部分構造の結合位置は明記されていないが、当該技術分野においては通常パラ位であるといえ、これは、訂正後の本件発明1の式(2)で表されるフェノール樹脂に相当する。
更に、無機質充填剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物全体の72〜92重量%と記載され、硬化促進剤を配合することも記載されている。
そして、刊行物2に記載されたエポキシ樹脂組成物は、半導体封止用であることは明らかである。
そうすると、刊行物2には、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物を50重量%含むエポキシ樹脂、同じく式(2)に相当するフェノール樹脂硬化剤、無機充填剤及び硬化促進剤を必須成分とし、エポキシ樹脂組成物中に占める無機充填剤の量が80〜92重量%である半導体封止用エポキシ樹脂組成物の発明が記載されていると認められるので、訂正後の本件発明1は刊行物2に記載された発明である。
なお、仮に刊行物2に記載された発明において、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物の使用量がエポキシ樹脂成分全体の50重量%未満であるとしても、そのエポキシ樹脂全体における式(1)に相当するエポキシ化合物の配合割合を調整して50重量%以上とすることは当業者が適宜なしうることであるといえるから、訂正後の本件発明1は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であると認められる。また、効果について検討するも、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された式(1)に相当するエポキシ化合物の使用量について、50重量%未満から50重量%以上としたことにより、即ち、50重量%を境にして、格別優れた効果を奏することになるとも認めることはできない。

(2) 訂正後の本件発明3について
訂正後の本件発明3は、訂正後の本件発明1における式(2)中に記載のRが水素であるとした発明である。
そこで、この点についてのみ検討すると、刊行物1には、一般式(2)で表されるフェノールアラルキル樹脂として、α,α’-ジメトキシ-p-キシレンとフエノールモノマーの縮合重合化合物が例示されており、これは、訂正後の本件発明3における式(2)中のRが水素である場合と同一である。また、刊行物2には、一般式(II)で表されるフェノールアラルキル樹脂が用いられることが記載されており、これは、訂正後の本件発明3における式(2)中のRが水素である場合と同一である。
そうすると、訂正後の本件発明3は、[8](1)において示した理由と同様の理由により、刊行物1又は2に記載された発明であるか、又は、仮にそうでないとしても、刊行物1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であると認められる。

[9]むすび
以上のとおりであるから、訂正後の本件発明1及び3は、上記刊行物1又は2に記載された発明であるか、又は上記刊行物1又は2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、訂正後の本件発明1及び3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める制令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エポキシ樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)下記式(1)で示されるエポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対し50〜100重量%含むエポキシ樹脂、
【化1】

(式中のR1〜R10は水素、ハロゲン類、炭素数1〜12のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
(B)下記式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤を総フェノール樹脂硬化剤に対し30〜100重量%含むフェノール樹脂硬化剤、
【化2】

(式中のRは水素、ハロゲン類、炭素数1〜5のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
(C)無機充填材、
(D)硬化促進剤
を必須成分とし、エポキシ樹脂組成物中に占める無機充填材の量が80重量%以上である半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】 式(1)のR1〜R4はメチル基、R5〜R8は水素原子、R9、R10はターシャリーブチル基である請求項1記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】 式(2)のRが水素である請求項1又は請求項2記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は半導体デバイスの表面実装化における耐半田ストレス性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の電子部品を熱硬化性樹脂で封止しているが、特に集積回路では耐熱性、耐湿性に優れたオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をフェノールノボラック樹脂で硬化させ、充填材として溶融シリカ、結晶シリカ等の無機充填材を配合したエポキシ樹脂組成物が用いられている。
ところが近年、集積回路の高集積化に伴いチップがだんだん大型化し、かつパッケージは従来のDIPタイプから表面実装化された小型、薄型のQFP、SOP、SOJ、TSOP、TQFP、PLCCに変わってきている。
即ち大型チップを小型で薄いパッケージに封入することになり、熱応力によりクラックが発生し、これらのクラックによる耐湿性の低下等の問題が大きくクローズアップされている。特に半田付けの工程において急激に200℃以上の高温にさらされることにより、パッケージの割れや樹脂とチップの剥離により耐湿性が劣化してしまうといった問題点がでてきている。従って、これらの大型チップを封止するのに適した信頼性の高い半導体封止用樹脂組成物の開発が望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な問題点に対してエポキシ樹脂として式(1)で示されるエポキシ化合物を用い、フェノール樹脂硬化剤として式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤を用いることにより、実装時における半導体パッケージの耐半田ストレス性を著しく向上させた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供するところにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(A)下記式(1)で示されるエポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対して50〜100重量%含むエポキシ樹脂、
【0005】
【化3】

(式中のR1〜R10は水素、ハロゲン類、炭素数1〜12のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
【0006】
(B)下記式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤を総フェノール樹脂硬化剤量に対して30〜100重量%含むフェノール樹脂硬化剤、
【0007】
【化4】

(式中のRは水素、ハロゲン類、炭素数1〜5のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
【0008】
(C)無機充填材、
(D)硬化促進剤
を必須成分とし、エポキシ樹脂組成物中に占める無機充填材の量が80重量%以上である半導体封止用エポキシ樹脂組成物であり、従来のエポキシ樹脂組成物に比べ優れた信頼性として耐半田クラック性と半田処理後の耐湿性を有するものである。
【0009】
式(1)の分子構造で示されるエポキシ化合物は、2官能性のビスフェノールタイプの化合物をエピクロルヒドリンを用いグリシジルエーテル化することによリ得られる。従来のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂に比べ、溶融時に低粘性が得られ、無機充填材の更なる高配合化を図ることができる。従って組成物の硬化物特性として低吸湿化、低熱膨張化、高強度化が得られる。
このエポキシ化合物の使用量はこれを調節することにより、耐半田クラック性を最大限に引き出すことができる。耐半田クラック性の効果を引き出すためには式(1)で示されるエポキシ化合物を総エポキシ樹脂量に対して30重量%以上、好ましくは50重量%以上の使用が望ましい。30重量%未満だと目標とした耐半田クラック性が不充分である。更に式中のR1〜R10は水素、ハロゲン類、炭素数1〜12のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基であるが、R1〜R4はメチル基、R5〜R8は水素原子であることが好ましい。またR9,R10は樹脂の疎水性を考慮すると、ターシャリーブチル基が好ましい。
炭素数が12を越えるアルキル基だと硬化性が劣る。nは0〜20であるが、20を越えると流動性が劣る。より好ましいnは0〜10である。
式(1)で示されるエポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂を併用する場合、エポキシ基を2個以上有する化合物あるいはポリマー全般を言う。例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ化合物等のことを言う。
【0010】
式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤はパラキシレンとフェノール類をエポキシ樹脂と同様にフリーデル・クラフツ・アルキル化反応により重合させることによって得られる。従来のフェノールノボラック樹脂に比べ、硬化物のゴム領域での弾性率が低く、低吸湿性、リードフレーム(42アロイ、銅合金)等の金属類との接着性に富む。
このフェノール樹脂硬化剤の使用量はこれを調節することにより耐半田クラック性を最大限に引き出すことができる。耐半田クラック性の効果を引き出すためには式(2)で示されるフェノール樹脂硬化剤を総フェノール樹脂硬化剤量に対して30重量%以上、好ましくは50重量%以上の使用が望ましい。30重量%未満だと目標とした耐半田クラック性が不充分である。更に式中のRは水素、ハロゲン類、炭素数1〜5のアルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基であり、これらの内では水素原子が好ましい。炭素数が5を越えるアルキル基だと硬化性が劣る。nは0〜20であるが20を越えると流動性が劣る。好ましいnは0〜10である。
式(1)で示されるフェノール樹脂硬化剤以外に他のフェノール樹脂硬化剤を併用する場合、フェノール性水酸基を有するポリマー全般を言う。例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェノールメタン化合物等が挙げられ、特にフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂及びこれらの混合物が好ましい。また、これらの硬化剤の配合量としてはエポキシ化合物のエポキシ基数と硬化剤の水酸基数を合わせるように配合することが好ましい。
【0011】
本発明で用いる無機充填材としては、溶融シリカ粉末、球状シリカ粉末、結晶シリカ粉末、2次凝集シリカ粉末、多孔質シリカ粉末、アルミナ等が挙げられ、特に球状シリカ粉末、及び溶融シリカ粉末と球状シリカ粉末との混合物が好ましい。また、無機充填材の配合量としては、耐半田クラック性から総エポキシ樹脂組成物量に対して80〜90重量%が好ましい。無機充填材量が80重量%未満だと低熱膨張化、低吸水化が得られず耐半田クラック性が不充分である。また、無機充填材量が90重量%を越えると高粘度化による半導体パッケージ中のダイパッド、金線ワイヤーのずれ等の不都合が生じる。
【0012】
本発明に使用される硬化促進剤はエポキシ基と水酸基との硬化反応を促進させるものであればよく、一般に封止材料に使用されているものを広く使用することができる。例えば1,8-ジアザビシクロウンデセン、トリフェニルホスフィン、ジメチルベンジルアミンや2-メチルイミダゾール等が単独もしくは2種類以上混合して用いられる。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤、無機充填材及び硬化促進剤を必須成分とするが、これ以外に必要に応じてシランカップリング剤、ブロム化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン、ヘキサブロムベンゼン等の難燃剤、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤及びシリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤等の種々の添加剤を適宜配合しても差し支えがない。
また、本発明の封止用エポキシ樹脂組成物を成形材料として製造するには、エポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤、無機充填材、硬化促進剤、その他の添加剤をミキサー等によって充分に均一に混合した後、更に熱ロールまたはニーダー等で溶融混練し、冷却後粉砕して封止材料とすることができる。これらの成形材料は電気部品あるいは電子部品であるトランジスタ、集積回路等の被覆、絶縁、封止等に適用することができる。
【0014】
以下本発明を実施例で具体的に説明する。
実施例1
下記組成物
式(3)で示されるエポキシ化合物(融点85℃、エポキシ当量240)
6.68重量部
【0015】
【化5】

【0016】
オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(軟化点58℃、エポキシ当量200g/eq)
1.67重量部
式(4)で示されるフェノール樹脂硬化剤(軟化点63℃、水酸基当量170g/eq)
4.36重量部
【0017】
【化6】

(nの値は0から3を示す混合物であり、その重量割合はn=0が1に対してn=1が0.60、n=2が0.42、n=3が0.22である。)
【0018】
フェノールノボラック樹脂硬化剤(軟化点65℃、水酸基当量105g/eq)
1.09重量部
溶融シリカ粉末(平均粒径10μm、比表面積2.0m2/g)35重量部
球状シリカ粉末(平均粒径30μm、比表面積2.5m2/g)50重量部
トリフェニルホスフィン 0.2重量部
カーボンブラック 0.5重量部
カルナバワックス 0.5重量部
をミキサーで常温で混合し、70〜100℃で2軸ロールにより混練し、冷却後粉砕して成形材料とした。粉砕して得られた成形材料は、EMMI-I-66に準じた金型を用い、175℃、70kg/cm2、120秒の条件でスパイラルフローを測定した。
更に得られた成形材料をタブレット化し、低圧トランスファー成形機にて175℃、70kg/cm2、120秒の条件で半田クラック試験用として6×6mmのチップを52pQFPに封止し、また半田耐湿性試験用として3×6mmのチップを16pSOPに封止した。
封止したテスト用素子について下記の半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。
【0019】
半田クラック試験:封止したテスト用素子を85℃、85%RHの環境下で24時間、48時間、72時間及び120時間処理し、その後260℃の半田槽に10秒間浸漬後顕微鏡で外部クラックを観察した。
半田耐湿性試験:封止したテスト用素子を85℃、85%RHの環境下で72時間処理し、その後260℃の半田槽に10秒間浸漬後、プレッシャークッカー試験(125℃、100%RH)を行い、回路のオープン不良を測定した。試験結果を表1に示す。
実施例2〜4
表1の処方に従って配合し、実施例1と同様にして成形材料を得た。この成形材料で試験用の封止した成形品を得、この成形品を用いて実施例1と同様に半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0020】
比較例1〜4
表2の処方に従って配合し、実施例1と同様にして成形材料を得た。この成形材料で試験用の封止した成形品を得、この成形品を用いて実施例1と同様に半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【発明の効果】
耐半田クラック性と半田処理後の耐湿性に優れている。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-17 
出願番号 特願平6-32549
審決分類 P 1 652・ 113- ZA (C08G)
P 1 652・ 121- ZA (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小林 均  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 佐野 整博
佐藤 健史
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3310446号(P3310446)
権利者 住友ベークライト株式会社
発明の名称 エポキシ樹脂組成物  
代理人 渡辺 秀夫  

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