• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A61B
管理番号 1098788
審判番号 無効2003-35029  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-02-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-01-30 
確定日 2004-04-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2965932号発明「高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

本件特許2965932号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年11月8日に出願された特願平6-273838号の一部を特願平9-70283号として新たに平成9年3月24日に特許出願したもので、平成11年8月13日に設定登録がなされた。
これに対して、請求人より平成15年1月30日に本件無効審判の請求がなされ、被請求人は、平成15年4月21日付けの答弁書の提出をした。
その後、当審において、平成15年7月14日付けの無効理由通知書を通知したところ、被請求人は、その指定期間内である平成15年9月16日に訂正請求書を提出して訂正を求めたものである。

II.訂正の適否についての検討

平成15年9月16日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否について以下検討する。

1.本件訂正の内容

(訂正事項a)
特許請求の範囲に係る記載「【請求項1】樹脂製の一対の耳栓と、視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材と、履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えた高齢による身体的機能の低下を疑似的に再現するための高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法。」を、
「【請求項1】樹脂製の一対の耳栓と、視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材と、履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えた高齢による身体動作機能の低下を疑似的に再現するための高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法。」と訂正する。

(訂正事項b)
明細書中(特許公報の以下の箇所参照。第2欄14行、同欄15行、第3欄40行〜41行、同欄43行〜44行、第4欄17行、同欄33行、第13欄6行、同欄41行〜42行、同欄43行、同欄45行、第14欄1行、第16欄39行、同欄47行、第17欄7行〜8行、同欄11行、同欄12行、同欄13行、同欄15行、同欄17行、同欄48行、第18欄9行、同欄10行、同欄10行〜11行、同欄12行〜13行)の「身体的機能」を、「身体動作機能」と訂正する。

(訂正事項c)
明細書中(特許公報第4欄20行参照)の「動作」を、「手動動作」と訂正する。

(訂正事項d)
明細書中(特許公報第4欄35行参照)の「提示」を、「呈示」と訂正する。

(訂正事項e)
明細書中(特許公報第15欄27行参照)の「それぞれれ」を、「それぞれ」と訂正する。

2.訂正の目的の可否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

(訂正事項a)は、請求項1の「・・を備えた高齢による身体的機能の低下を擬似的に・・」における「身体的機能」を、「身体動作機能」に訂正するとともに、請求項1の「・・該提示された動作の指示に応答する・・」における「動作」を、その前の「手動動作の指示を呈示し」という記載に整合させて「手動動作」と訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、(訂正事項a)は、特許明細書中の「手動動作の指示を呈示し、該呈示された動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする」(【請求項1】)の記載、「このような状態で検査装置を用いることにより、高齢者における手指が提示された内容の動作を行うまでの反応時間が計測される。」(【0010】欄)の記載、「図32はキット1を用いた身体的機能検査方法を実現するシステムの一例を示す外観斜視図であり、身体的機能の検査項目として、手指機能と手機能との2種類の機能を例に挙げる。手指機能検査とは、手指による押し、引き、ひねりの操作にかかる反応時間をみるものであり、手機能検査とはドアのノブ、ハンドル、レバーの操作にかかる反応時間をみるものである。」(【0057】欄)の記載及び図32,図33に基づけば、高齢者疑似体験用キットの装着により擬似的に低下されかつ計測・検査の対象となる「身体的機能」が手動動作の指示に対応して反応する身体の動作に関する機能、すなわち「身体動作機能」であることが理解できるものであるから、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でされたものである。

(訂正事項b)は、明細書中の「身体的機能」を「身体動作機能」とする訂正であるが、特許請求の範囲の訂正に対応させて、明細書中の記載を整合させようとするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、(訂正事項b)は、特許明細書中の「手動動作の指示を呈示し、該呈示された動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする」(【請求項1】)の記載、「このような状態で検査装置を用いることにより、高齢者における手指が提示された内容の動作を行うまでの反応時間が計測される。」(【0010】欄)の記載、「図32はキット1を用いた身体的機能検査方法を実現するシステムの一例を示す外観斜視図であり、身体的機能の検査項目として、手指機能と手機能との2種類の機能を例に挙げる。手指機能検査とは、手指による押し、引き、ひねりの操作にかかる反応時間をみるものであり、手機能検査とはドアのノブ、ハンドル、レバーの操作にかかる反応時間をみるものである。」(【0057】欄)の記載及び図32,図33に基づくものであり、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でされたものである。

(訂正事項c)は、明細書の【0009】欄の「動作」を「手動動作」とする訂正であるが、特許請求の範囲の訂正に対応させて、明細書中の記載を整合させようとするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、(訂正事項c)は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内でされたものである。

(訂正事項d)は、明細書の【0010】欄の「提示」を「呈示」と訂正するものであり、誤記の訂正を目的とするものである。

(訂正事項e)は、明細書の【0065】欄の「それぞれれ」を「それぞれ」と訂正するものであり、誤記の訂正を目的とするものである。

さらに、(訂正事項a)乃至(訂正事項e)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.まとめ

そうすると、上記本件訂正は、平成15年改正前の特許法第134条第2項ただし書き及び同第5項で準用する平成15年改正前の特許法第126条第2、第3項の規定に適合するので訂正を認める。

III.本件発明

上記のとおり訂正が認められたので、訂正後の本件請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)

「【請求項1】樹脂製の一対の耳栓と、視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材と、履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えた高齢による身体動作機能の低下を疑似的に再現するための高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法。」

IV.無効理由について

1.当審で通知した特許法第29条第1項柱書違反に係る無効理由についての当審の判断

当審で通知した平成15年7月14日付けの無効理由通知書における特許法第29条第1項柱書違反に係る無効理由については、上記本件訂正によって、請求項1の「身体的機能」が「身体動作機能」と訂正されたことにより、本件発明の高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法に係る発明が、高齢者疑似体験用キットの全部又は一部が装着されて「身体動作機能」が低下され擬似的に高齢者とされた人体の呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測する、すなわち、「身体動作機能」をその計測の目的・対象としていることが明確となり、その結果、本件発明は、『人間を診断する方法(病気の発見、健康状態の認識等の医療目的で、人間の身体の各器官の構造・機能を計測するなどして各種の資料を収集する方法、及び人間の病状等について判断する方法が含まれる)』に該当しないことが明らかとなったので、当審で通知した特許法第29条第1項柱書違反に係る無効理由は解消した。

2.請求人の主張の概要

請求人は、
甲第1号証:看護教育(1993年11月号)865-870頁
甲第2号証:第23回看護教育1992年(1992年8月6・7日開催の第23回日本看護学会収録)156-159頁
甲第3号証:看護展望(1993年7月号)32-36頁(Vol.18 No.8 p.880-884)
甲第4号証:大阪府立公衆衛生専門学校紀要第12号(1992年)9-19頁
甲第5号証:日本義肢装具学会第7回大会講演集 169-170頁
甲第6号証:「THROUGH OTHER EYES」(カナダ・オンタリオ州シチズンシップ省1990年9月)
甲第7号証:実願平2-403295号(実開平4-87877号)のマイクロフィルム
甲第8号証:実願平2-130845号(実開平4-87876号)のマイクロフィルム
甲第9号証:実願平2-130844号(実開平4-87875号)のマイクロフィルム
甲第10号証:登録実用新案公報第3000756公報
甲第11号証:実願平2-82370号(実開平4-40813号)のマイクロフィルム
甲第12号証:実公平7-4046号公報
甲第13号証:特開平6-265306号公報
甲第14号証:特公平5-60744号公報
を提示し(注:実用新案に係る甲第7,8,9,11号証の標記における明らかな誤りを修正しておいた。)、
(1)「高齢者擬似体験用キットについては、甲第1号証乃至甲第11号証に開示されるように、この種のキットは、本件発明の出願以前から高齢者擬似体験学習の中で広く用いられてきたものであり、本件発明の高齢者擬似体験用キットは、その構成要件のすべてが、高齢者用に擬似体験装具として甲第1号証から甲第11号証に開示されている」、
(2)「甲第12号証乃至甲第14号証に基づけば、又はこれらの証拠を組み合わせれば、被験者に何らかの動作の指示を呈示し、該提示された動作の指示に応答する反応時間を計測することは、当業者であれば容易に想到し得るものであり、本件発明において、高齢者擬似体験用キットを装着した状態で、被験者に指示した動作の反応時間を計測することは、高齢者擬似体験用キットに周知の方法で反応を評価する一方法を呈示したにすぎず、本件発明は、甲第1号証乃至甲第11号証の証拠群と、甲第12号証乃至甲第14号証の証拠とを単に寄せ集めるだけで、当業者をして容易に想到し得るものである。」という理由により、本件発明は、特許法第29条第1項各号に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである旨の主張を行っている。

また、(3)「本件発明は、その出願以前より、医療・看護分野を中心として大学や専門学校などの体験学習で高齢者用の擬似体験装具が用いられてきた。そのため、これらの指導者や参加者に、出願以前から本件発明とほぼ同一の裝具を使用していたことを証言して頂くために、追って、証人を特定して人証の申出を行う予定である。」旨の主張も行っている。

3.被請求人の主張の概要

被請求人は、
「甲1〜4,6,7号証の疑似老人体験学習と甲12〜14号証の装置とを組合せたとしても、本件特許発明に係る評価データ採取のために高齢者疑似体験用キットを装着して身体的機能の低下を疑似的に再現することは勿論のこと、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された動作の指示に応答する動作の反応時間を計測するという特徴は何ら開示も示唆のなされておらず、予測可能とも認められない。」旨主張している。

4.各甲号証に記載された事項

甲第1号証には、「老人看護学演習における老いの体験学習」に関して、「中川米造は体験学習について、「人間を動かす、あるいは自分を変えるためには客観的知識だけでは不十分で、大事なのはイメージで、このイメージを変えるのが体験学習である」1)という。そこで1つの方法として、心理学者Skinnerの勧める擬似老人体験を演習で試み、老人のイメージ化を図った。」(865頁左欄下から5行〜867頁左欄2行)が記載されている。

甲第2号証には、「老人を理解するための体験学習の意義」、特に腰曲げ歩行の体験学習の実施について、「学生は老人役と看護婦役の2人1組として腰を曲げて歩く。腰曲げを意識するために1〜5kgの砂嚢を腰に乗せ、角度も約45°と90°の2通りを行う。」(156頁左欄18-20行の「実施方法」)が記載されている。

甲第3号証には、「老人理解のための体験学習」、特に看護学部の学生を対象としたシミュレーションゲーム「INTO AGING」について、「模擬体験道具(難聴を体験するための耳せん、視野狭窄を体験するための眼鏡、体のだるさを体験するための砂嚢、松葉杖、手の拘縮の体験のための軍手など)。」(33頁左欄4-7行)を用いることが記載されている。

甲第4号証には、「老人看護学における演習方法のすすめ方と教育効果」について、「そこで、一つの方法として、心理学者Skinnerの勧める老人の擬似老人体験(・・・)学習を試みた。その方法と効果について報告する。」、表1「疑似老人体験学習の条件設定」として「2.1(丸数字)新聞の見出しが読める程度の汚れた眼鏡 2(丸数字)普段、眼鏡やコンタクトを使用している人は、使用せず、1(丸数字)と同じようにする。」、「3.人の会話がかろうじて聞こえる程度の耳栓 片方は全く聞こえないようにする 片方には綿栓(1ヶ)を挿入」、「4.会話時はマスクを装着する(電話で会話をしてみる。家族と話す)」、「5.両手に軍手をはめて、ものごとを行う。」、「6.両膝関節部に1巻宛、巻軸包帯をする。(屈曲、伸展の制限)」、「7.両足背に1kgの砂のうを装着固定する。(重錘でもよい)」が記載されている。

甲第5号証には、「健常者がからだの不自由を体験する装具(体験装具)」について、「1.一般老化の体験装具」として、「通常の短下肢プラスチック装具に極端に強い内側ウェッジを付け加えたもので、両側下肢に装着する。」(169頁左欄17-19行)、図1(変形性膝関節症の状態を体験する装具(内側ウェッジつき短下肢装具))、「2.関節リウマチ体験装具」として、「第1の装具は・・・手関節の動かなくなった状態を体験する装具である。カックアップ・スプリントに近いものであるが、前腕の回内外運動も制限する・・・第2の装具は・・・膝関節の人工関節手術を受けた患者の状態を体験する装具で、膝関節は90°以上の屈曲が制限される」(169頁右欄3-9行)、「第3の装具は、足関節が強直した患者を体験する短下肢プラスチック装具で、足関節が固定される」(169頁右欄11-12行)、図2(関節リウマチの手を体験する装具)、「3.片麻痺の体験装具」として、「第2の装具は・・・立位では膝関節の屈曲が困難になる片麻痺の下肢を体験する装具で、膝関節を伸展位に固定する」(169頁右欄下から5-3行)、「片麻痺の第3の装具は・・・肘関節を屈曲位で固定する」(169頁右欄下から2-1行)、図3(片麻痺の下肢を体験する装具)、図4(片麻痺の上肢を体験する装具)が記載・図示されている。

甲第6号証には、「APPENDIX A:4」において「付録A:4 装置 機器の役割 高齢化の影響は個人的であり不可避である。その変化の割合は、・・・人によってそれぞれ異なる。・・・多くの人が高齢化によってもたらされる限界に直面する。個人的な経験なくして、日々の仕事をこなそうとする時に老人が直面する試練を語ることは難しい。・・・ワークショップの参加者に、類似的なものを考えさせるため、装具は、老化の重大な変化のいくつかを疑似させるために開発されてきた。疑似しようとする各器具や条件は、以下に述べる・・・保存や輸送を容易にするため、アイテムは、重いコンテナ内に荷詰めする(例えば、ミルク箱)。 浮輪 ・・・浮輪を肘に装着し、関節の動きの低下を疑似体験させる。・・・足首と手首の重り 普通の体操用の重りを手首と足首に装着し、強さや敏捷性の衰えを疑似体験させる。・・・ 手術用手袋 2ペアの手術用手袋は、触覚の感覚の低下を疑似体験するのに使用される。・・・ 耳栓 ・・・発泡状の耳栓は・・・聴力障害を参加者に・・・難聴を体験させるのに役立つ。・・・ ゴーグル ・・・ゴーグルは・・・参加者に・・・視覚の弊害を体験させる。・・・ゴーグルは・・・黄色掛かっていて、自然に生じる黄色化、或いは眼のレンズの老化を疑似体験させる。・・・不鮮明なゴーグルは、白内障を疑似体験させる。・・・ 杖 ・・・有用である。」が記載されている。

甲第7号証には、「身体老化状況体験装置」について、「足首固定装具1は足首に嵌装し、締結バンド11とマジックテープ10により固定するのである。該足首固定装具1を健常者Mの足首に固定することにより、健常者Mは足首を90度の状態で拘束されて、どちらにも曲がら無くなるのである。」(【0006】)、「次に視覚老化眼鏡2について説明する。一般老化が進むに連れて、人間の眼は白内障の末期の状態となり眼球が黄変し、見るものがすべて黄色掛かって見えるのである。・・・この状態を簡単に再現し、健常者Mを老人の視野と同じような視野とするのが視覚老化眼鏡2である。該視覚老化眼鏡2には、黄色のレンズ12が嵌装されているので、これをかけた健常者Mは、見るものが全て黄色掛かって見えるのである。」(【0008】)、「図6は妊婦体験者の斜視図であり、図7は妊婦体験装具3の斜視図である。該妊婦体験装具3は、上部に大きくなった状態の擬似乳房14・14が取付けられており、また下部には胎児により膨らんだ状態の腹部13が、縫いつけられている。特に該腹部13の部分には砂等の重量物が入れられており、・・・該妊婦体験装具3を装着して状態で、前述の如く一般老化の場合と同様に身体老化状況体験空間を体験歩行することができるように構成しているのである。」(【0011】)、図3(足首固定装具1を装着した足の図面)、図6(妊婦体験装具3を装着した状態の斜視図である。)が記載・図示されている。

甲第8号証には、「片麻痺状況体験装置」について、「第2図において、膝関節拘束装具1は硬質合成樹脂により構成した拘束装具部1bと、該拘束装具部1bを脚に固定する為の締結バンド1aにより構成している。該締結バンド部1aはマジックテープにより簡単に脱着可能としている。」(6頁5-9行)、「また第3図において肘関節拘束装具2は、同様に肘を折り曲げた状態で固定する硬質合成樹脂の拘束装具部2bと、該拘束装具部2bを腕に固定する締結バンド部2aにより構成されている。」(6頁10-13行)、「また第4図において足首関節拘束装具3は、硬質合成樹脂により構成した拘束装具部3bと、これを固定する為の締結バンド部3aにより構成されている。」(6頁14-17行)、図2(膝関節拘束装具1に斜視図)、図3(肘関節拘束装具2の斜視図)、図4(足首関節拘束装具3の斜視図)が記載・図示されている。

甲第9号証には、「リウマチ麻痺状況体験装置」について、「また第4図において膝関節拘束装具1は、硬質合成樹脂により構成した上部拘束装具部1bと下部拘束装具部1dとを、枢支部1aにより枢結しており、該枢支1aにおいて上部拘束装具部1bと下部拘束装具部1dが折れ曲がるのであるが、90度以上の折れ曲がりが出来ないように、枢支部1aにおいて固定しているのである。そして該膝関節拘束装具1は該上部拘束装具部1bと下部拘束装具部1dの部分のを締結バンド部1cにより膝の部分に固定するのである。該締結バンド部1cはマジックテープにより簡単に脱着可能としている。」(7頁12行-8頁3行)、「第5図は足首関節拘束装具3を示している。該足首関節拘束装具3は、リウマチ麻痺者の足首が90度の位置で曲がら無くなるので、この状態で90度に固定する役目をするのである。即ち硬質合成樹脂により構成した直角拘束装具部3bと、締結バンド部3aにより構成している。」(8頁4-9行)、「まだ第6図においては、手首関節拘束装具2を説明する。該手首関節拘束装具2はリウマチ麻痺者の手首が旋回不可能となる点を体験するものであり、硬質合成樹脂により構成した拘束装具部2bと締結バンド部2aにより構成されている。」(8頁10-14行)、図4(膝関節拘束装具1の斜視図)、図5(足首関節拘束装具3の斜視図)、図6(手首関節拘束装具2の斜視図)が記載・図示されている。

甲第10号証には、「ベスト」について、「図1に示す本考案のベストは、左側前身頃7に眼鏡収容部3を設けた左側見頃1と、右側前身頃9に携帯電話収容部4を設けた右側見頃2とを、2本の留具付き紐体5により左側後身頃8と右側後身頃10の各2箇所で連結し、かつ、1本の留具付き紐体6により左側前見頃7と右側前身頃9の各一箇所で連結した構成である。」(【0012】)、図1(ベストの斜視図)が記載・図示されている。

甲第11号証には、「分解、折り畳み携行用杖」について、「第1図に示すのはこの考案の分解、携行、組み立て用の杖(A)の全体を示し・・・把手(1)とそれと一体化して設けたの管状部片(2)と、これに嵌合する中空状の中間片(3)と、順次、嵌合する同様の中間片(3’),(3’’)と、中間片(3’’)に嵌合する管体片(4)と、それに嵌合する石突(5)からなる。・・・第3図示のように全体が折り畳まれ収納状態となる。・・・組み立てにあたっては、第3図の状態から直線状になすことによって、弾性紐(6)の弾力によって各片が引き合わされ、各片は一瞬にして何ら特別の力を要せず簡単に第1図示の状態に組み立てられる。」(2頁19行-4頁8行)、図1-3が記載・図示されている。

甲12号証は、「膝関節測定・訓練器」について、「座シート(6)を有するフレーム(5)に回転自在にアーム(9)を軸支し、・・・さらに、上記アーム(9)に着装される下腿保持部(37)に被験者が発揮する筋力を検出する荷重検出器(43)を設け、・・・該アナログ/デジタル変換器(49)には、該アナログ/デジタル変換器(49)から供給される信号を受けて限時されたサイクル開始時にリセットされ、訓練回数、経過時間、荷重/トルク換算、累計の仕事量、ピーク筋力、平均値を算出するマイクロプロセッサ(50)を接続し、また、マイクロプロセッサ(50)にはマイクロプロセッサ(50)からの出力を受けて表示するディスプレイ装置(2)・・・構成される膝関節測定・訓練器であって、・・・その座シート(9)には被験者の代謝運動を制限する大腿部固定ベルト(25)を付設してあることを特徴とする膝関節測定・訓練器。」(請求項1)、「〔産業上の利用分野〕この考案は、殊に、リハビリに好適な膝関節測定・訓練器に関する。」(2頁3欄4-6行)、「本考案は・・・その目的とするところは、上述した・・・の測定値を不正確にする要因が全て取り払われて、弱い筋力の測定・訓練に供される場合でも正確な測定結果が得られるように改良された膝関節測定・訓練装置を提供することにある。」(2頁4欄1-6行)、「その結果、代謝運動による影響、アームと膝関節軸との不一致による影響、アーム及び脚自体の自重による影響等のきわめて小さい正確性のある測定結果が得られることになった。」(4頁8欄38-41行)、図1、図2、図11が記載・図示されている。

甲13号証は、「訓練用多目的センサー装置」について、「物体又は人体を感知する感知部(9)と、該感知部(9)の出力を表現する表現部(12)とからなる訓練用多目的センサー装置。」(請求項1)、「【発明が解決しようとする課題】前記実開平2-65952号に開示された技術は、その用途が膝関節の訓練に限定されるので、他の関節及び体幹の屈伸訓練、跳躍訓練、輪投げ訓練等に使用できないものである。患者の屈伸動作時、当該動作が所定の目標位置に到った時、その目標位置に到達した事を認識するセンサー装置を動作部位に適応させて固定すれば、このセンサー装置に物体又は患者が接触する事ができ、この接触事態を感知しその事を表現するセンサー装置が考えられるがそのようなものは無かった。機能訓練に係る種々の訓練に対して使用でき汎用性の有る、小型で、簡素な構成の訓練用多目的センサー装置が望まれている。」(【0003】)、「【作用】本発明は、機能訓練を実施する際に患者が訓練の標的として用い、及び、関節の可動の限度位置を知る為に用いる。本発明における感知部9は物体又は患者の存在を感知し、表現部12は感知部9の出力を表現する。」(【0005】)、「機能訓練の実施に先立って、時間・回数設定器19で訓練時間を設定し更に感知回数を設定し、・・・アンテナ1に患者又は物体が接触した時点で実施例は作動を開始する。即ち・・・タイマー機能15が作用を開始し、訓練時間の計数を開始する。訓練の残時間は、設定時間から訓練経過時間を差し引き・・・残時間表示器27に表示される。・・・音声発生器28は、タイマー機能15の働きにより予め設定した訓練時間が経過すると、訓練終了音を発生して患者に訓練の終了を報知すると同時にメトロノーム音は消える。訓練中には、・・・感知回数表示器26は前述感知回数を表示する。」(【0013】-【0014】)、「【発明の効果】請求項1に記載した本発明の構成によれば、物体又は患者の存在を感知すると、当該感知の事態が表現されるので、本発明を適宜な位置へ配置し訓練の標的として使用すると種々の機能訓練に好適に用いることができ、汎用性の高い機能訓練用装置となり、利便性を向上できた。」(【0016】)、図1-7が記載・図示されている。

甲第14号証には、「データ入力提示装置」について、「(産業上の利用分野)本発明は、データ入力提示装置に関し、特に、被検者の反応をリアルタイムで収集するシステムにおいて、被検者への刺激が視覚的および聴覚的に与えられるデータ入力提示装置に関する。」(1頁2欄14-18行)、「(従来の技術)・・・このうち人間の認知特性を考慮することは、より効果的な視聴覚メデイアの統合方法を見出す上で有効である。このとき、視聴覚メデイアに関する人間の認知特性を調べるための心理実験を行う必要があり、データ入力提示装置は必要不可欠である。」(1頁2欄19行-2頁3欄2行)、「(作用)本発明は、聴覚刺激メデイア情報を扱い・・・聴覚刺激データ制御手段と、視覚刺激メデイア情報を扱い・・・視覚刺激データ制御手段と・・・が存在する。・・・本発明に従うと、被検者に刺激を提示してから、反応されるまでの反応時間を計測する反応時間計測手段と、反応データを収集する反応データ収集手段と、収集されたデータを解析する反応データ解析手段が存在する。・・・様々な視聴覚メデイアの提示に対する被検者の認知過程の尺度として、反応時間及び反応の種類の収集が可能になり、提示された様々な視聴覚メデイアと認知過程の関係を解析することができる。」(3頁5欄7-27行)、図1-5が記載・図示されている。

5.請求人が主張する無効理由についての当審の判断

甲第1号証乃至甲第9号証によれば、「綿栓・発泡状耳栓等の耳栓」、「視野狭窄させた眼鏡や黄色レンズを備えた眼鏡」、「肘関節固定具(拘束装具)」、「手首に装着された重り」、「2ペアの手術用手袋や軍手」、「膝関節に巻かれた包帯や膝関節固定具(拘束装具)」、「足首に装着された重り」、「足首関節固定具(拘束装具)」、「杖」等の各種の高齢者疑似体験用の器具・装具を人体に装着し、老化・リウマチ・(片)麻痺・変形性関節症等により高齢者の身体動作機能が低下した状態を擬似的に体験,学習,実感させることにより高齢者理解・老人看護や住居の設計に役立てようとすること、また、甲第7号証によれば、疑似乳房及び重量物が入れられた腹部を備えた妊婦体験装具を装着させて身体老化状況体験空間を体験歩行させることにより妊婦の状態を擬似的に体験させることが、それぞれ本件出願前に行われていたことが認められる。
しかしながら、甲第1号証乃至甲第9号証には、高齢者疑似体験用の器具・装具としての『手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋』、『上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着』及び『履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具』は記載も示唆もされていない。
してみると、例え、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された各種の高齢者疑似体験用の器具・装具に、甲第10号証に記載された本体の前面に収納ポケットを有するベスト及び甲第11号証に記載された折り畳み可能な杖を組み合わせたとしても、本件発明の高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法の前提となっている、高齢による身体動作機能の低下を疑似的に再現するための各種の器具・装具を備えて一揃いの組とした「高齢者疑似体験用キット」が、「樹脂製の一対の耳栓」と、「視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡」と、『上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着』と、「肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具」と、「環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材」と、『手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋』と、「膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具」と、「環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材」と、『履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具』と、「屈折自在の複数の関節を有した杖具」とを備えている構成を得ることはできない。

よって、「本件発明の高齢者擬似体験用キットは、その構成要件のすべてが、高齢者用に擬似体験装具として甲第1号証から甲第11号証に開示されている。」という請求人の主張(1)を採用することはできない。

また、本件発明は、訂正された明細書に記載されているとおり(【0004】、【0005】、【0006】、【0079】欄)、高齢者がかかえる身体動作機能の低下を高い再現性をもって疑似体験することができる高齢者疑似体験用キットを用いて、大掛かりな装置構成をともなわずに高齢者の身体動作機能を簡便・客観的に評価・分析するためにデータを取得することを課題として、高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測するようにした身体的機能検査方法であるが、甲第1号証乃至甲第9号証には、前述のとおり、高齢による身体動作機能の低下を擬似的に再現する各種の高齢者疑似体験用の器具・装具を人体に装着し、高齢者の状態を擬似的に体験,学習,実感させることにより高齢者理解・老人看護や住居の設計に役立てようとすることは記載されてはいるものの、高齢者の身体動作機能を簡便・客観的に評価・分析するためのデータを取得することや、高齢者疑似体験用の器具・装具を装着させた状態で、手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することにより身体動作機能・身体的機能を検査することについては記載も示唆もされていない。

さらに、甲第12号証乃至甲第13号証には、膝関節測定・訓練器,センサー装置等の装置を用いて、訓練回数,訓練時間を計測する技術が、甲第14号証には、データ入力提示装置を用いて、認知特性・心理実験(記憶)に係る反応時間を計測する技術が記載されているにすぎず、甲第12乃至甲第14号証のいずれにも、高齢者の身体動作機能を簡便・客観的に評価・分析するためのデータを取得することや、高齢者疑似体験用の器具・装具を装着させた状態で、手動動作の指示を呈示し、該提示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することにより身体動作機能・身体的機能を検査することについては記載も示唆もされていない。

そうすると、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された各種の高齢者疑似体験用の器具・装具に関する技術と、甲第12号証乃至甲第14号証に記載された装置を用いて訓練時間・訓練回数や反応時間を計測する技術とを結びつける動機付けは存在せず、両技術を組み合わせることは当業者にとって容易なことではなく、さらに、例え甲第1号証乃至甲第9号証に記載された各種の高齢者疑似体験用の器具・装具に関する技術と、甲第10,11号証に記載された技術、甲第12号証乃至甲第14号証に記載された技術とを組み合わせたとしても、本件発明の特徴である「高齢者疑似体験用キットの全部又は一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該提示された手動動作の指示に対する動作の反応時間を計測する」高齢者疑似体験キットを用いた身体的機能検査方法の構成を得ることはできない。

よって、本件発明は、甲第1号証乃至甲第14号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず、「甲第1号証乃至甲第11号証の証拠群と、甲第12号証乃至甲第14号証の証拠とを単に寄せ集めるだけで、本件発明は、当業者をして容易に想到し得るものである。」旨の請求人の主張(2)は採用することはできない。

なお、請求人は、「出願以前から本件発明とほぼ同一の装具を使用していたことを証言して頂くために、追って、証人を特定して人証の申出を行う予定である。」旨の主張をしているが、立証の趣旨や証人について具体的に審判判請求書に記載しておらず、その後の具体的な申出もないから、人証の申出は採用しない。

6.まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件発明を無効とすることはできない。
また、他に本件発明を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】樹脂製の一対の耳栓と、視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材と、履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えた高齢による身体動作機能の低下を疑似的に再現するための高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特に高齢になったときの身体動作機能の低下や心理的変化を疑似的に体験するための高齢者疑似体験用キットを用いて身体動作機能を評価する身体的機能検査方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、世界的規模の人口増加問題とともに先進諸国では高齢化に対して国や企業がどのように取り組むべきかという問題が浮上している。すでに身体的機能に低下がある高齢者であっても、公的あるいは民間による福祉事業により生活を援助してもらうことが可能である。
【0003】また上述したような人的援助の他に、各種の身体的な障害に合わせて腕や足等の動作を補助する補助具や視力,聴覚を通常の生活レベルまで再現する眼鏡,補聴器等のように各種の器具が利用されている。これらの器具の中には日々改良されるものや新しく考案されて登場したものまで様々である。
【0004】そして、上述した各種の器具の品質や使い勝手等を向上させる場合には、実際に高齢者の身体的機能を分析したり、評価するためのデータを取得することが必要となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述した福祉事業にしても器具の開発にしても、到来していない高齢化や高齢化による身体的機能の低下を経験していない人にとっては無縁のものであり、これに対して一般の人が積極的に関心をもつということは期待できなかった。
【0006】最近、新聞や雑誌等のメディアを通して高齢者に対する福祉の重要性を問いかけたり人々の関心を引きつける努力がなされている。しかしながら、高齢化による障害がどの程度生活に不具合を及ぼすものなのか実際に体験してもらわないと実感することは困難であった。このような理由から疑似的にでも高齢者の身体状況を体験し、その客観的なデータを取得してみないと上述した福祉事業にしても器具の開発にしても柔軟な発想あるいは新しい発想を得ることは困難であるという問題があった。
【0007】かかる身体機能の低下を客観的に評価する場合、身体全体の検査を目的としたものが多く存在しているが、これでは装置全体のサイズが大きくなって簡便でないという問題があった。
【0008】そこで、本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、高齢者がかかえる身体動作機能の低下や心理的変化を高い再現性をもって疑似体験することができる高齢者疑似体験用キットを用いて、大掛かりな装置構成をともなわずに高齢者特有の身体動作機能を簡便に評価することができる身体的機能検査方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、請求項1の発明に係る高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法は、樹脂製の一対の耳栓と、視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡と、上着本体の前面に重りを収納してなる荷重用上着と、肘近傍および肘関節を被覆する肘当て部材と該肘当て部材に接続された紐状部材とを有する肘固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる手首荷重用バンド部材と、手全体を被覆する樹脂製の第1の手袋と該第1の手袋全体を被覆する布製の第2の手袋と指の第2関節までを被覆するように前記第2の手袋を被覆する伸縮性をもつ第3の手袋とを積層させた一対の手袋と、膝近傍および膝関節を被覆する膝当て部材と該膝当て部材に接続された紐状部材とを有する膝固定具と、環状に設けられたバンド本体内に重りを収納してなる足首荷重用バンド部材と、履物を挿入可能なように爪先方向に向かって筒状に形成されるとともに爪先に開口部を有する筒状部位とこの筒状部位の後部から上方に向かって後側が展開形状に形成されて履物の挿入後に被覆固定される展開部位とを備えて成る足首半固定具と、屈折自在の複数の関節を有した杖具とを備えた高齢による身体動作機能の低下を疑似的に再現するための高齢者疑似体験用キットの全部または一部を人体に装着させ、押し、引き、ひねり等の手動動作の指示を呈示し、該呈示された手動動作の指示に応答する動作の反応時間を計測することを特徴とする。
【0010】本発明によると、高齢者疑似体験用キットとして、一対の耳栓,視野狭窄と色覚変化を光学的に形成する眼鏡,前面に重りを収納した荷重用上着,肘関節を任意の角度で固定する肘固定具,重りを分散収納した手首又は足首荷重用バンド部材,積層構造により手指の触覚、圧覚、温覚等を低下させる手袋,膝関節を任意の角度で固定する膝固定具,履物の上から装着して足首を半固定する足首半固定具の全部又は一部を日常生活している被服や履物の上から装着して身体上の各部の動きや感覚を規制あるいはにぶらせることで、頭で考えている動作のイメージと実際の動作との間に生じるギャップを身体動作機能の低下として実感させられる。このような状態で検査装置を用いることにより、高齢者における手指が呈示された内容の動作を行うまでの反応が計測される。
【0011】
【発明の実施の形態】以下に、添付図面を参照して、本発明に係る好適な一実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態は、高齢者疑似体験用キットの全部または一部を利用して身体的機能を検査する方法についてのものである。
【0012】本システムは、図32に示した如く、高齢者疑似体験者(以下体験者と称する)400に高齢者疑似体験用キット(以下にキットと称する)1の全部または一部を装着させておくことが必要となる。以下、図1〜図31に基づいてキット1について詳述する。キット1は、図1に示した如く、耳栓10,11と、眼鏡20と、荷重用上着30と、肘固定具40,41と、膝固定具50,51と、足首半固定具60,61と、手首荷重用バンド部材70,71と、足首荷重用バンド部材80,81と、手袋90,91と、杖具100とを備えている。
【0013】上記耳栓10,11は高周波をカットするためのフィルタであり、その特性として、高齢者が聞き取れる範囲の聴力を疑似的に再現するため、例えば3,000から4,000ヘルツの音域を遮断して通常の話し声の例えば500から1,000ヘルツの音域を通しやすくした機能をもっている。これはJIS第一種型に依存する。そして耳栓10(11)は、図2に示した如く、柔軟性および可撓性を得るため、例えば発泡ポリマに特殊樹脂加工を施した構造である。これにより、耳穴への挿入時には、耳栓10(11)は、容易に圧縮して、耳穴のサイズや外耳道の形状に適合して柔軟に変形する。耳穴に挿入された後に、耳栓10(11)は、圧縮から一転してゆるやかな膨張を開始して、耳の壁面にその壁面の形状に倣うように凹凸をもってフィットする。これにより耳への確実な装着が得られ、例えば、通常の話し声よりも高い音域の警報音や叫びを聞き取りにくくして、高齢者特有の難聴を疑似的に再現することができる。
【0014】上記眼鏡20は、図3に示した如く、ベースとなる透明保護メガネ22の透視面22a裏面に黄色フィルタ24とグレー系フィルム26とを貼り合わせた積層構造をもっている。貼り合わせについては、透明保護メガネ22、黄色フィルタ24、グレー系フィルム26の各縁部を接着剤等で接着させたり、透視面22aに溝等の係止部を設け、黄色フィルタ24とグレー系フィルム26の弾性を利用して上記係止部に嵌め込む様にしても良い。以上の積層構造により、黄色フィルタ24により白内障による色覚変化やぼやけて見える視野を再現することができる。
【0015】実際の白内障には、水晶体が混濁し硬化するものと、さらに黄色系の色素が沈着したものとがあり、本実施の形態ではこの症状を上記黄色フィルタ24により再現させることができる。またグレー系フィルム26により視野の薄暗さや視野の狭さを再現することができる。実際の視野狭窄では、視力の低下、上眼瞼の下垂、眼球の落ち込みが現れて、上記の症状を起こすが、本実施の形態ではグレー系フィルム26を通した視界から疑似的に体験することができる。これらの症状を同時に得ることで、体験者は視界の悪さに不安を抱くことになる。
【0016】上記荷重用上着30は、図4に示した如く、体験者の体重に対比させた重りを挿入するための上段ポケット31,32および下段ポケット33,34を前面に設けている。重り35,36はそれぞれ500g(グラム)程度の重量をもち、重り37,38はそれぞれ1kg(キログラム)程度の重量をもっている。疑似体験の際には、例えば、体重60kg未満の体験者については、上段ポケット31,32あるいは下段ポケット33,34の各々に500gの重り35,36を挿入して合計1kgの荷重をかける。また体重60kg以上の体験者については、上段ポケット31,32あるいは下段ポケット33,34の各々に1kgの重り37,38を挿入して合計2kgの荷重をかける。このように荷重用上着30の前面に荷重をかけたことで、高齢者特有の前屈姿勢を再現することができる。
【0017】上記肘固定具40(41)は、図5に示した如く、展開形状が矩形状の肘当て部材42と、この肘当て部材42を肘に固定する帯状の紐状部材46,48とを備えている。そして、肘固定具40(41)はポリウレタン弾性繊維の不織布構造をもっている。
【0018】肘当て部材42において、腕を被覆した際に外側に位置する表面42aには、肘当て部材42を腕に巻回した際に腕の両側部を挟持できるようにガイドチューブ44,44が離間して配置される。このガイドチューブ44,44の内部には、表面42aの面方向で屈曲自在の金属板45,45が収納されている。金属板45,45はほぼ中央で軸45a、45aを中心に肘当て部材42のよじれの程度に応じて屈曲を得ることができる。また、肘当て部材42の左右の縁部には、上記軸45a、45aの位置に平行して凹所49a,49aが設けられるとともに、この凹所49a,49bと上縁部との間にはスリット49a,49aが設けられている。さらに、腕を被覆した際に内側に位置する裏面42bには、左右いずれか一方の縁部に掛着面が設けられており、肘当て部材42を巻回した際に掛着される構成である。
【0019】そして、紐状部材46は、肘当て部材42の上部、かつ、ガイドチューブ44,44の対抗している一方の縁部に取り付けられ、他方の縁部に設けたリング47で折り返したときに余り片が得られる程度の長さを有している。また、紐状部材46の先端部には、マジックテープ等の掛着面46aが形成され、上記の折り返しにより紐状部材46自身に掛着できるように構成される。
【0020】また、紐状部材48,48は、肘当て部材42の上部、かつ、ガイドチューブ44,44の非対抗している各縁部に斜めに取り付けられており、腕固定具40を腕に装着した際に一周以上巻回できる程度の長さを有している。この紐状部材48,48もまた先端部にマジックテープ等の掛着面が形成されており、肘当て部材42に掛着できる構成である。
【0021】次に、腕固定具40の装着手順について図6から図9を用いて説明する。まず、手のひらを上に向け、腕の裏側から肘当て部材42(裏面42b)を巻いて掛着面により仮止めする。この装着では、凹所49a,49aが上にくるようにしてガイドチューブ44,44を側面にあてがい、肘当て部材42左右縁部を重ねて仮止めして、丁度腕の曲がる位置に円形状の穴49a’を形成する(図6)。
【0022】さらに、図7に示した如く、紐状部材46をリング47で折り返し、適度に絞り込んだところで先端の掛着面46aを掛けて固定する。そして、2本の紐状部材48,48を腕の先端に向かって穴49’のあたりでクロスするように巻きつけ、肘当て部材42(表面42a)に掛着して固定する(図8,図9)。
【0023】このように、肘当て部材42が紐状部材46,48,48により巻き付けられるので、ガイドチューブ44,44に収納された金属板45,45は軸45a,45aの位置での屈曲度が規制され、腕に曲がり難さを与えることができ、高齢者特有の筋力の衰えにより生じる肘関節の緩慢な動きを常に正確に再現することができる。
【0024】また、肘固定具40(41)が不織布構造のため、程度の伸縮が得られて長時間の使用においても持続性、適応性の低下はないので、使用頻度が高くても安心して利用することができる。
【0025】また、手首荷重用バンド部材70,71と足首荷重用バンド部材80,81はどちらも同様の内部構成をもつので、代表例として手首荷重用バンド部材70について説明する。手首荷重用バンド部材70は、図10に示した如く、帯状の本体72の長手方向に複数の重り74a,74b,74c,74d,74eを並べて収納させた構造をもっている。本体72は、弾力性および可撓性をもつシート材で構成されており、これにより手首に対して傷害を与えず、安心して巻回することができる。また本体72の両端部にはマジックテープ等の掛着部材76と被掛着部材78とが設けられており、それぞれ体験者の手首の太さに応じて掛着位置を適宜調節できる面積を有する。
【0026】そして、本体72の内部に収納される重り74a,74b,74c,74d,74eは均一の重量をもっており、手首に装着した際に手首の回りに均等の荷重を加えて手首のバランスを良好に保持することができる。手首荷重用バンド部材70,71の場合には、例えばひとつあたり0.75kgの重りを採用し、また足首荷重用バンド部材80,81の場合には、例えばひとつあたり1.0kgの重りを採用すれば良い。
【0027】さらに、手袋90(91)は、図11に示した如く、手に接触させるゴム製手袋92と、このゴム製手袋92を被覆するように積層させる布製手袋93と、さらに布製手袋93を被覆するように積層される伸縮性の合成繊維からなる伸縮性手袋94との3つの層から構成される。なお、ゴム製手袋92と布製手袋93はどちらも手指全体を被覆する形状を有しており、伸縮性手袋96は少なくとも手のひらと指の第2関節までを被覆する形状を有している。
【0028】この3層からなる手袋90を手に装着する場合には、図12に示した如く、ゴム製手袋92、布製手袋93、伸縮性手袋94の順で実施され、最後の伸縮性手袋94については、母指の先端を縫い付けてあり、他の指は必ず第2関節までを被覆させるように設けている。このようにして対象物を触れたりつかんだり押したりしたときに間接的な感触が、手指の触覚、圧覚、温覚などを鈍化させて、通常受ける感覚に比べて感覚機能の低下を体験することができる。また布製手袋93により上記感覚機能の低下が助長されるとともに、手や指の微妙な動きが阻害されて通常の動きに比べて緩慢な動作を得ることができる。
【0029】また、伸縮性手袋94については、母指全体を被覆しているために母指の折り曲げやその付け根の自由度が奪われ、他の指の付け根を圧迫しているために付け根間の動きが阻害されることになる。これにより、スイッチ等の押し動作やガス栓等のひねり動作、引き出し取っ手等の引き動作が普段どおりにいかず、苛立ちや不安など、精神的なダメージを与えることができる。また、物がつかみにくい、落としやすい等といった高齢者特有の症状も再現することができる。
【0030】以上の手首荷重用バンド部材70,71を、図13に示した如く、前述の肘固定具40,41、手袋90,91とともに使用することで、高齢者特有の筋力の低下により腕全体(手を含む)の緩慢な動きをより正確に再現することができる。
【0031】また、上記膝固定具50(51)は、図14に示した如く、展開形状が矩形状の膝当て部材52と、この膝当て部材52を膝に固定する帯状の紐状部材56a,56b,56c,57,57とを備えている。なお、膝固定貝50(51)はポリウレタン弾性繊維の不織布構造をもっている。
【0032】膝当て部材52において、膝を被覆した際に外側に位置する表面52aには、膝当て部材52を膝に巻回した際に膝の両側部を挟持できるようにガイドチューブ53,53が離間して配置される。このガイドチューブ53,53の内部には、表面52aの面方向で屈曲自在の金属板54,54が収納されている。金属板54,54はほぼ中央で前述の肘当て部材42と同様の軸53a,53aを中心に膝当て部材52のよじれの程度に応じて屈曲を得ることができる。また、膝当て部材52の左右の縁部には、上記軸53a、53aの位置に平行して凹所52A,52Bが設けられるとともに、この凹所52A,52Bと上縁部、下縁部との各間にはスリット52C,52D,52E,52Fが設けられている。そして、膝当て部材52の中心部には、穴52Gが開口され、この穴52Gの位置を膝の曲がる位置とする。さらに、腕を被覆した際に内側に位置する裏面52bには、左右いずれか一方の縁部に掛着面が設けられており、肘当て部材52を巻回した際に掛着される構成である。
【0033】そして、紐状部材55aは、膝当て部材52の上部、かつ、ガイドチューブ53,53の対抗している一方の縁部に取り付けられ、他方の縁部に設けたリング56aで折り返したときに余り片が得られる程度の長さを有している。同様に、膝当て部材52の下部にも、紐状部材55aとリング56bの組が設けられている。さらに、紐状部材55cは、紐状部材55bと逆回りで膝当て部材52を巻回するように、穴52Gと紐状部材55b間に、ガイドチューブ44,44の非対抗している一方の縁部に取り付けられ、他方の縁部にリング56cが設けられている。また、紐状部材55a,55b,55cの各先端部には、マジックテープ等の掛着面が形成され、各々の折り返しにより自身に掛着できるように構成される。
【0034】また、紐状部材57,57は、膝当て部材52の下部、かつ、ガイドチューブ53,53の非対抗している各縁部に斜めに取り付けられており、膝固定具50を膝に装着した際に一周以上巻回できる程度の長さを有している。この紐状部材57,57もまた先端部にマジックテープ等の掛着面が形成されており、膝当て部材52に掛着できる構成である。
【0035】次に、膝固定具50の装着手順について図15から図20を用いて説明する。まず、図15に示した如く、膝裏に穴52Gがくるように、かつ、軸53a,53aが膝の両側部に位置するように、膝の裏側から膝当て部材52(裏面52b)を巻いて掛着面により仮止めする。この装着では、凹所52A,52Bが膝の位置にくるようにしてガイドチューブ53,53を足の側面にあてがい、膝当て部材52左右縁部を重ねて仮止めして、丁度膝の位置に円形状の穴52’を形成する。
【0036】さらに、図16に示した如く、紐状部材45bをリング56bで折り返し、適度に絞り込んだところで先端の掛着面を掛けて固定する。そして、2本の紐状部材57,57を膝上に向かって穴52’のあたりでクロスするように巻きつけ、膝当て部材52(表面52a)に掛着して固定する(図17,図18)。
【0037】次に、図19、図20に示した如く、紐状部材55c,55aをリング56c,56aでそれぞれ折り返し、適度に絞り込んだところで先端の掛着面を掛けて固定する。
【0038】このように、膝当て部材52が紐状部材55a,55b,55c,57,57により巻き付けられるので、ガイドチューブ53,53に収納された金属板54,54は各軸の位置での屈曲度が規制され、膝に曲がり難さを与えることができ、高齢者特有の筋力の衰えにより生じる膝関節の緩慢な動きを常に正確に再現することができる。
【0039】また、膝固定具50(51)が不織布構造のため、程度の伸縮が得られて長時間の使用においても持続性、適応性の低下はないので、使用頻度が高くても安心して利用することができる。
【0040】足首半固定具60(61)は、図21に示した如く、横から見るとくの字に屈曲した靴型形状を有している。足首半固定貝60(61)は、靴型形状の足首当て部材62と、この足首当て部材62の足首の両側面に取り付けられる足首当板63,63と、足首当て部材62を足首に固定する帯状の紐状部材64,64とを備えている。なお、足首半固定具60(61)はポリウレタン弾性繊維の不織布構造をもっている。
【0041】足首当て部材62は、図22に示した如く、屈曲部位から一端(足首から爪先方向)に向かって筒状に設けられ(筒状部位621)、他端(足首から膝方向)に向かって展開形状(展開部位622)をもつように設けられている。この展開部位622もまた左右縁部に一本のスリット62A,62Bが設けられるとともに、足首に巻回した際に掛着する掛着面を、図24において、向かって右側に設けている。また、くの字の屈曲部位には穴62aが設けられ、先端に開口部62bが形成されている。穴62aには足首の曲がる部分を位置させ、その際に、開口部62bから爪先部分が露出するように構成される。そして、上記筒状部位621の下面には、図23および図24に示した如く、2本の紐状部材64,64が取り付けられており、各々が足首当て部材62を少なくとも一周以上巻回できる長さを有している。
【0042】次に、足首半固定具60の装着手順について図23から図26を用いて説明する。まず、体験者は靴を履いたままで、図23に示した如く、足首当て部材60の筒状部位621に足の爪先から挿入して、足の甲に筒状部位621がフィットしたところで、穴62aに足首の曲がる部分が位置し、開口部62bから爪先部分が露出する。この状態で、展開部位622の掛着面66を掛着して筒状を形成し、仮止めを完了する。
【0043】さらに、図24に示した如く、足首を両側面から挟むように足首当板63,63を取り付ける。この際に、足首当板63,63の足首側の面にマジックテープ等の掛着面を設けておけば、足首当板63,63を単独で足首当て部材60に固定することができる。そして、図25、図26に示した如く、2本の紐状部材64,64を甲に向かって穴62aのあたりでクロスするように巻きつけ、足首当て部材62に掛着して固定する。このように、装着した後、そのまま行動を起こすことができる。
【0044】このように、足首当て部材62が足首関節の位置で足首当板63,63により挟持された状態で紐状部材64,64により巻き付けられるので、足首の捩じり角度が規制され、足首に曲がり難さを与えることができ、高齢者特有の筋力の衰えにより生じる足関節の緩慢な歩行の動きを常に正確に再現することができる。特に歩行時につま先が上がりにくくなる症状を強制的に起こすので、つまづきやすくなる状態を良好に再現することができる。
【0045】また、足首半固定具60(61)が不織布構造のため、適度の伸縮が得られて長時間の使用においても持続性、適応性の低下はないので、使用頻度が高くても安心して利用することができる。
【0046】そして、以上の足首半固定具60,61を、図27に示した如く、前述の足首荷重用バンド部材80,81、膝固定具50,51とともに使用することで、高齢者特有の筋力の低下により足全体(爪先含む)の緩慢な動きをより正確に再現することができる。
【0047】杖具100は、図28に示した如く、棒状に設けた杖本体101と、この杖本体101の上端に設けた把持部112と、上記杖本体101の下端に嵌め込まれたストッパ114とを備えている。杖本体101は折り畳み自在の多関節機構と長さ調節の機構とを有している。杖本体101は、把持部112を接続した第1筒体102と、この第1筒体102に一部を被嵌されてスライド自在の第2筒体104と、この第2筒体104に屈曲自在に接続された第3筒体106と、この第3筒体106に屈曲自在に接続された第4筒体108と、この第4筒体108に屈曲自在に接続された第5筒体110とから構成される。
【0048】次に、杖具100の内部構成について図29を用いて詳述する。第1筒体102には、等間隔で5つの穴102a,102b,102c,102d,102eが設けられ、第2筒体104の内面に弾性部材105aの一端が取り付けられ、弾性部材105aの他端にボタン105を取り付けて、弾性部材105aが自然の状態でボタン105を内面に設けた穴104aから突出させるようにボタン機構が設けている。第2筒体104は第1筒体102にボタン105でロックされることになる。ボタン105は弾性部材105aの弾性力を用いて穴104aからの突出、へこみを自在に行うことができ、突出してロックをし、へこんでロックを解除する。第1筒体102の端部には、つまみ103が取り付けられており、このつまみ103を矢印Q2方向に回すと第1筒体102と第2筒体104間での相対的なスライドが可能な状態を形成し、矢印Q2方向とは逆に回すとつまみ103が第2筒体104を締めつけて上記スライドを不能にする状態を形成する。
【0049】杖本体101の長さを伸長させる場合には、つまみ103を矢印Q2の方向に回して締めつけを緩めると同時に、ボタン105を矢印Q1方向に押し込んでロックを解除させ、矢印Q3方向にスライドさせることで、穴102aから102eの方向にボタン105によるロック位置を設定することができる。また、長さを収縮させる場合には、上記と逆の動作を行えばよい。
【0050】また、杖本体101の第2筒体104、第3筒体106、第4筒体108、第5筒体110の各関節121,122,123について図29を用いて説明する。図29には、関節の代表として、第4筒体108と第5筒体110間の関節123の断面が示されている。第5筒体110の上縁部は第4筒体108の下縁部に嵌挿自在の形状を有している。他の関節についても同様である。第2筒体104、第5筒体110の内部には、ゴムバンド116の各端部を固定する固定部材104b,110bが設けられ、各関節121,122,123を嵌挿状態にした際に、ゴムバンド116が伸長されるようにゴムバンド116の長さが設定されている。
【0051】杖具100を折り畳む場合には、図29および図30に示した如く、第2筒体104、第3筒体106、第4筒体108、第5筒体110間の各関節121,122,123において、既に伸長状態のゴムバンド116をさらに伸長させて嵌挿状態を解除し(矢印W回り)、それぞれ屈曲させることで長手方向においてコンパクトな収縮状態を可能にする。また展開させる際には、逆の操作を行えばよい。
【0052】ここで、体験者による高齢者疑似体験の一例について説明する。体験者が図1に示したキット1を装着して歩行する場合、図31に示した如く、足首の動きに遊びが殆ど得られないので、つま先が十分に上がらず、胸部に荷重がかけられていることからも全体的に前傾姿勢となり、なお一層のつま先の上がりを困難にする。さらに足首に荷重をかけて膝を十分に曲げることができないようにしたことからもつま先の上げにくさを助長する。本来、背筋は角度θ1程度の起き上がりがあり、膝も角度θ2程度の曲がりが得られ、さらに爪先はあと角度θ3程度の上がりが得られるが、キット1により図31に示した如く、身体的機能の低下を再現することで安全な歩行が困難となる。これは高齢に達しておらずこのような身体的機能の低下を実感していない体験者にとって心理的な不安を募らせることはもちろん、いかに高齢者が困難な歩行をしいられているかを理解するのに十分な体験である。
【0053】このような困難な歩行に加えて、聴力、視力の低下も疑似的に再現されるので、心理的にも内方への不安をさらに募らせることができ、これが慎重で無理のない歩行を無意識のうちに行ってしまうという体験も得ることができる。またこのような歩行能力においては必然的に杖具100の必要性を実感することができる。例えば、その人にとって適した長さへの微妙な調節がどの程度できることが重要なのか等を考える材料となって技術的な前進に寄与することができる。これは上述したキット1の各部のすべてに共通していえることである。
【0054】以上説明したようにキット1は、一対の耳栓10,11、視野狭窄と色覚変化を形成する眼鏡20、重りを有する荷重用上着30、肘固定具40、手首荷重用バンド部材70、三層構造の一対の手袋90、膝固定具50、足首荷重用バンド部材80、履物の上から固定する足首半固定具60とから組み合わせて具体化したので、日常被服している上からそのまま簡単に装着することができ、現実の被服体験状態から身体上の各部の動きや感覚を規制あるいはにぶらせることで、頭で考えている動作のイメージと実際の動作との間に生じるギャップを身体動作機能の低下として実感させることができる。
【0055】具体的には、耳栓10,11により音の高音域をカットして聞きづらくしたので、老人性難聴に特有な聞きにくさを再現することができる。眼鏡20により視野狭窄と色覚変化を光学的に形成するので、白内障による色覚変化やぼやけて見える状態や視野の狭さ、薄暗さを再現することができる。そして、荷重用上着30の前面に例えば装着者の体重に対比させた重りを収納したので、加齢に伴う前かがみの姿勢を再現することができる。また肘固定具40,41を用いて肘当て部材で肘関節を任意の角度に設定して紐状部材で肘に固定したり、重りを収納した手首荷重用バンド部材80,81によって手首や足首の周囲に分散して重りを装着するので、肘より先の筋力の衰えによりおこる肘関節の緩慢な動きを再現することができる。さらに、ゴム製および布製の第1、第2の手袋の上に指の第2関節までを被覆する伸縮性の第3の手袋を積層した手袋90,91によって、積層構造を密着化したうえで手のひらや甲よりも手指の触覚、圧覚、温覚を僅かに残した状態でこれらの感覚を低下させ、物をつかみにくくしたり落としやすい手の状態を再現することができる。また膝固定具50,51を用いて膝関節を任意の角度に固定して、さらに重りを収納した足首荷重用バンド部材70,71を装着するので、筋力の低下に伴い膝関節が動きにくくなる状態を再現することができる。そして、履物の上から足首半固定具60,61を用いて足首関節を任意の角度で半固定したので、歩く際につま先の上がりを規制してつまずきやすくなる状態を再現することができ、折り畳み式の杖具100とすることで、平地、階段、エレベータ、エスカレータ等のように様々な場所で杖具が必要となったり、不要となったりすることがあり、その都度行われる展開と折り畳みを容易かつ迅速に行うことができる。
【0056】このように身体上の各部の動きや感覚を規制あるいはにぶらせることで、頭で考えている動作のイメージと実際の動作との間に生じるギャップを身体動作機能の低下として実感させることができる。特に視覚、聴覚について身体動作機能を低下させ、生活上、判断力の低下を強制的に促すことができる。従って、高齢者がかかえる身体動作機能の低下や心理的変化を高い再現性をもって疑似体験することができる。
【0057】次に、キット1の全部又は一部を装着して行なわれる身体的機能検査方法について図32,図33に基づいて説明する。図32はキット1を用いた身体的機能検査方法を実現するシステムの一例を示す外観斜視図であり、身体動作機能の検査項目として、手指機能と手機能との2種類の機能を例に挙げる。手指機能検査とは、手指による押し、引き、ひねりの操作にかかる反応時間をみるものであり、手機能検査とはドアのノブ、ハンドル、レバーの操作にかかる反応時間をみるものである。
【0058】図32において、200は手指機能検査装置であり、これは体験者400が操作する体験者用操作盤200Aと、インストラクタが操作する指令操作盤200Bと、体験者用操作盤200Aと指令操作盤200B間を電気的に接続する着脱自在のケーブル200Cとから構成される。
【0059】体験者用操作盤200Aは、図32に示した如く、検査にかかる時間をカウントアップして表示する時間表示カウンタ210と、オン/オフスイッチ212と、引き出し取手214と、ガス栓216と、オン/オフスイッチ212を点灯で指示するとともに消灯で操作完了を呈示する表示ランプ218と、引き出し取手214を点灯で指示するとともに消灯で操作完了を呈示する表示ランプ220と、ガス栓216を点灯で指示するとともに消灯で操作完了を呈示する表示ランプ222と、オン/オフスイッチ212の操作回数をカウントアップして表示する回数表示カウンタ224と、引き出し取手214の操作回数をカウントアップして表示する回数表示カウンタ226と、ガス栓216の操作回数をカウントアップして表示する回数表示カウンタ228とを備えている。
【0060】指令操作盤200Bは、図32に示した如く、電源を投入するための電源SW(スイッチ)250と、バッテリ量を目盛りで表示するバッテリ表示部252と、検査にかかる時間をカウントアップして表示する時間表示カウンタ254と、操作完了時に発生させるブザー音の音量を設定する音量SW256と、前述のオン/オフスイッチ212、引き出し取手214、ガス栓228の動作指令を規則的に発するか、不規則に発するかを設定する動作指令SW258と、検査を開始するためのスタートSW260と、検査を終了するためのリセットSW262とを備えている。
【0061】なお、上記指令操作盤200Bは、ケーブル200Cと電気的に接続されて信号の入出力を行う入出力I/F(インターフェース)と、時間を計測するタイマと、電源SW250の押圧により電力を供給するバッテリと、検査にかかる全体の制御を行う制御部とを内蔵している。
【0062】そして、300は手機能検査装置であり、これは体験者400が操作する体験者用操作盤300Aと、インストラクタが操作する指令操作盤300Bと、体験者用操作盤300Aと指令操作盤300B間を電気的に接続する着脱自在のケーブル300Cとから構成される。
【0063】体験者用操作盤300Aは、図32に示した如く、開閉自在の4つのドア310,312,314,316と、ドア310に設けたレバーハンドル318と、ドア312に設けたノブ320と、ドア314に設けたレバー322と、ドア316に設けたプッシュプルハンドル324と、ドア310,312,314,316の枠にそれぞれ設けた表示ランプ326,328,330,332とを備えている。上記表示ランプ326,328,330,332は、前述の表示ランプ218,220,222と点灯、消灯を行うための機能は同様である。なお、体験者用操作盤300Aでは、開閉動作に着目してドアを例に挙げている。
【0064】指令操作盤300Bは、図32に示した如く、電源を投入するための電源SW350と、バッテリ量を目盛りで表示するバッテリ表示部352と、検査にかかる時間をカウントアップして表示する時間表示カウンタ354と、操作完了時に発生させるブザー音の音量を設定する音量SW356と、前述の4つのドア310,312,314,316のいずれかひとつを切り換えにより設定する動作指令SW358と、検査を開始するためのスタートSW360と、検査を終了するためのリセットSW362と、操作の指示回数を設定するとともに表示する指示回数設定/表示部364とを備えている。指令操作盤300Bの内部構成もまた前述した指令操作盤200Bと同様である。
【0065】なお、体験者用操作盤200Aと指令操作盤200B,300Bは、それぞれ各表示ランプやSW等が設けられた操作面を傾斜して設けることができる。
【0066】次に手指機能検査装置200の動作について説明する。図33は図32に示した手指機能検査装置による制御動作を説明するフローチャートである。手指機能検査装置200は、手指動作の指令を指令操作盤200Bから体験者用操作盤200Aにケーブル200Cを介して伝達することで手指機能を検査するものである。
【0067】まず、電源SW250が押圧されると、指令操作盤200Bに電力が供給され、同時にケーブル200Cを介して体験者用操作盤200Aにも電力が供給される。これにより手指機能検査装置200の検査準備が完了する。このとき体験者400は手指検査に必要なキット1の全部あるいは一部を装着して検査の態勢を整える。
【0068】この状態でインストラクタによりスタートSW260が押圧されると(ステップ1001)、タイマに経過時間の計測を開始させ、経過時間の表示を時間表示カウンタ254および210に行わせる(ステップ1002)。この時点で動作指令SW258がセットされている位置から操作内容が判定される(ステップ1003)。この判定の結果、ガス栓216、引き出し取手214、オン/オフスイッチ212に向かっての左方向への規則的な操作であれば、まずガス栓216に対応した表示ランプ222が点灯される(ステップ1004)。
【0069】体験者400による操作完了が検知されると(ステップ1005)、表示ランプ222は消灯され、ブザーが設定レベルの音量で出力され、さらに回数表示カウンタ228がひとつカウントアップされて、ガス栓216、引き出し取手214、オン/オフスイッチ212までの1セットの終了が検出される(ステップ1006〜1009)。現段階では、ガス栓216の操作が終了しただけなので、再びステップ1004に処理が移行して、次の引き出し取手214の動作指令、操作完了の検知が実行される。オン/オフスイッチ212までの処理が終了すると、1セット終了として、再びステップ1004に処理を移行させて、第2セットが開始される。このようにして、第5セットまでの処理が終了すると、タイマの計測が停止される(ステップ1013)。なお、インストラクタは5セット終了までにかかった時間を反応時間として記録する。
【0070】そして、処理はステップ1014に移行して、リセットスイッチ262が押下された場合には、各回数表示カウンタとタイマがリセットされる(ステップ1015)。
【0071】また、ステップ1003において、オン/オフスイッチ212、引き出し取手214、ガス栓216に向かっての右方向への規則的な操作であれば、まずオン/オフスイッチ212に対応した表示ランプ218が点灯され、順次引き出し取手214、ガス栓216に操作の指示が移行する。動作内容については、上述したステップ1005〜1010と同様のため、説明を省略する。
【0072】さらに、ステップ1003において、オン/オフスイッチ212、引き出し取手214、ガス栓216の内で、不規則な操作であれば、ステップ1012で不規則な表示を行い、以降は上述したステップ1005〜1010と同様のため、説明を省略する。
【0073】そして、キット1を装着しないでも同様の操作を行うことで、通常の状態と疑似的に身体動作機能を低下させた状態との間での反応時間を客観的に比較することができる。一例として、高齢者に適した操作部を開発する場合には、所定の時間内に操作できる回数が多ければ多いほど操作性が良いという評価を得ることができる。操作性としては操作上の負担が少なく簡単に操作できることが望ましいので、客観的な評価を得るには適した装置といえる。またこのような検査を通して体験した者は、身体動作機能の低下のある高齢者がどの程度生活に支障を来しているのかを実感することができる。
【0074】また、手機能検査装置300についても、全体の動作としては手指検査装置200と同様のために説明を省略するが、得られる効果としては、どのドアが開けやすいか、開けにくいか、という操作性上の客観的な評価を行うことができる。特に、手機能検査では、インストラクタが操作回数を任意に設定して反応時間に大きな差が出るように時間幅をもたせたので、一回一回の操作でロスする時間が蓄積してそのロスを大きな値としてとらえることができる。これにより、簡単な検査で身体動作機能を容易に評価することができる。
【0075】以上説明したように本実施の形態によれば、日常生活している被服と履物の上から高齢者疑似体験用キットを装着して高齢者の身体動作機能を再現し、かかる状態で高齢者特有の疑似的な身体動作機能、殊に手指の身体動作機能を再現して呈示された内容の動作が行われるまでの反応時間を計測するようにしたので、疑似的な身体動作機能のもとでどれくらいの反応時間を要するものか客観的にとらえることができる。また、大掛かりな装置構成をともなわずに高齢者特有の身体動作機能を簡便に評価することができる。具体的には、軽量化と言う点でバッテリ式としており、持ち運びに便利である。また、指令操作盤や体験者用操作盤の操作面に傾斜をもたせているので、この点でもインストラクタ、体験者のいずれにとっても操作性に優れているというメリットがある。
【0076】また、手指動作の完了確認を消灯、任意の音量またはカウント表示で呈示するようにしたので、体験者に対して、視覚、聴覚を通した手指動作の指示や完了を伝達することができる。これにより、視覚による判断能力、聴覚による判断能力、または、知覚による判断能力を評価することができる。
【0077】さらに、各手指動作を規則的または不規則に指示するようにしたので、規則的な指示や不規則な指示を表示ランプを通して視覚的に伝達することができる。これにより、規則的な、あるいは、不規則な動作指示に対する反応時間を客観的に評価することができる効果が得られる。
【0078】
【実施例】上述した実施の形態では、手指機能検査装置200に3種類の操作部(オン/オフスイッチ212、引き出し取手226、ガス栓228)を設けていたが、装置構成が大掛かりにならないのであれば4種類以上の操作部を設けても良い。また手機能検査装置300のドアの数についても同様に増やしても良い。
【0079】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、日常生活している被服や履物の上からそのまま簡単に装着することができる高齢者疑似体験用キットにより、現実の被服体験状態から身体上の各部の動きや感覚を規制あるいはにぶらせることで、頭で考えている動作のイメージと実際の動作との間に生じるギャップを身体動作機能の低下として実感させ、さらにこれに伴う心理的変化をも高い再現性をもって疑似体験させた状態を作り出すことができ、特に、高周波カットフィルタを用いた一対の耳栓,視野狭窄と色覚変化を形成する眼鏡,前面に重りを有する荷重用上着,肘関節を固定する肘固定具,重りを手首や足首の周囲に分散して装着可能とする手首又は足首の荷重用バンド部材,三層構造により手指と手の掌や甲との感覚を相違させた一対の手袋,膝関節を固定する膝固定具,履物の上から装着して足首を固定する足首半固定具,屈折自在の複数の関節を有した杖具の全部または一部を装着して高齢者の身体動作機能を再現し、かかる状態で高齢者特有の擬似的な身体動作機能、殊に手指の身体動作機能を再現して提示された内容の動作が行われるまでの反応を計測するようにしたので、疑似的な身体動作機能のもとでどれくらいの反応時間を要するものか客観的にとらえることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高齢者疑似体験用キットの全体構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示した耳栓の断面構造を示す側断面図である。
【図3】図1に示した眼鏡の積層構造を示す側断面図である。
【図4】図1に示した荷重用上着の要部の断面を示す側断面図である。
【図5】図1に示した肘固定具の構成を示す正面図である。
【図6】図5に示した肘固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図7】図5に示した肘固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図8】図5に示した肘固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図9】図5に示した肘固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図10】図1に示した手首荷重用バンド部材および足首荷重用バンド部材の代表的な内部構造を示す側断面図である。
【図11】図1に示した手袋の分解斜視図である。
【図12】図11に示した手袋の装着例を示す正面図である。
【図13】高齢者疑似体験用キットの腕および手への装着例を示す斜視図である。
【図14】図1に示した膝固定具の構成を示す正面図である。
【図15】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図16】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図17】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図18】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図19】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図20】図14に示した膝固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図21】図1に示した足首半固定具の構成を示す側面図である。
【図22】図21に示した足首半固定具の正面図である。
【図23】図21に示した足首半固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図24】図21に示した足首半固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図25】図21に示した足首半固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図26】図21に示した足首半固定具の装着手順を説明する斜視図である。
【図27】高齢者疑似体験用キットの足および足首への装着例を示す斜視図である。
【図28】図1に示した杖具の構成を示す側面図である。
【図29】図28に示した杖具の要部断面図である。
【図30】図28に示した杖具の折り畳み方法を説明する側面図である。
【図31】図1に示したキット全体の装着例を示す側面図である。
【図32】本発明に係る高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法を実現するシステムの一例を示す外観斜視図である。
【図33】図32に示した手指機能検査装置による制御動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
1キット(高齢者疑似体験用キット)
10,11耳栓
20眼鏡
30荷重用上着
40,41肘固定具
50,51膝固定具
60,61足首半固定具
70,71手首荷重用バンド部材
80,81足首荷重用バンド部材
90,91手袋
100杖具
200手指機能検査装置
200A体験者用操作盤
200B指令操作盤
200Cケーブル
300手機能検査装置
300A体験者用検査盤
300B指令操作盤
300Cケーブル
621筒状部位
622展開部位
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-02-12 
結審通知日 2004-02-17 
審決日 2004-03-02 
出願番号 特願平9-70283
審決分類 P 1 112・ 121- YA (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 春樹  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 水垣 親房
河原 正
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2965932号(P2965932)
発明の名称 高齢者疑似体験用キットを用いた身体的機能検査方法  
代理人 吉田 芳春  
代理人 吉田 芳春  
代理人 安形 雄三  
代理人 吉田 芳春  
代理人 吉田 芳春  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ