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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1099357
審判番号 不服2003-21409  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-08-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-05 
確定日 2004-07-01 
事件の表示 平成11年特許願第104494号「液体噴射記録装置、サーマルインクジェット記録ヘッド、微粒子含有液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 2日出願公開、特開2000-211124〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成11年4月12日の出願(優先権主張平成10年7月21日(以下「本件優先日」という。)及び同年11月18日)であって、平成15年9月29日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月5日付けで本件審判請求がされるとともに、同月26日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[結論]
平成15年11月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正は、次の補正事項1及び補正事項2を含む。
(1)補正事項1
補正前請求項1の「液体に微粒子を分散させて記録液体とし、該記録液体を」を「微粒子の含有率を2〜10重量%とし、該微粒子を含む固形分の量を15重量%以下とした微粒子分散型記録液体を」と補正する。

(2)補正事項2
補正前請求項1の「前記開口はФ25μm以下であり」を「前記開口はФ25μm以下、もしくは開口部面積が500μm2未満であり」と補正する。

2.補正目的
(1)補正事項1について
微粒子の含有率の下限を2重量%とすることを除けば、補正前請求項1に係る発明の「記録液体」を限定し、かつ産業上の利用分野及び解決しようとする課題(目詰まり防止)を変更するものではないから、平成14年改正前特許法17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認める。
しかし、微粒子の含有率の下限を2重量%とすることは、補正前請求項1に係る発明の課題である目詰まり防止とは関係がなく、「顔料含有量が1重量%の場合は目詰まりの心配はないが、このインクだけで使用する場合は濃度が低くて実用的ではない。ただし、複数の種類のいわゆる濃淡インクを用いる記録装置の淡いインクとして好適に使用できる。また、このインクだけで使用する場合であっても、染料を添加して濃度不足分を補うことは可能である。」(本願明細書段落【0092】)との記載からみて、淡いインクとしての使用及び染料を添加しての使用を除外することを課題に追加するものである。
そうすると、補正事項1全体としては、「記録液体」の限定ではあるが、補正前後の請求項1に係る発明の課題が同一であるとはいえないから、平成14年改正前特許法17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには当たらない。
補正事項1が、「請求項の削除」、「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」の何れをも目的としないことは明らかである。

(2)補正事項2について
補正事項2が、「請求項の削除」又は「誤記の訂正」の何れをも目的としないことは明らかである。
補正前請求項1においては、Ф25μm以下であることが開口の要件とされていたところ、本件補正後請求項1では、そうでなくとも開口部面積が500μm2未満であればよいことになるから、補正事項2が特許請求の範囲の減縮を目的とするものでないことも明らかである。
そこで、補正事項2が「明りようでない記載の釈明」を目的とするものかどうか検討する。本件補正前後を通じて、本願明細書には「Φ25μm以下、面積でいうと500μm2未満」(段落【0014】,段落【0124】,段落【0125】)、「口径がΦ25μm以下(面積でいうならば500μm2未満)」(段落【0015】)、及び「吐出口径がΦ25μm以下(面積でいうならば500μm2未満)」(段落【0076】)との各記載があり、Φ25μm以下であることと開口部面積が500μm2未満であることを同視した表現が随所に見られるほか、「吐出口の形状が丸ではなく矩形、台形等の場合であっても、本発明は好適に適用される。その場合はΦ25μm以下は面積相当で約500μm2未満であり、本発明は丸以外の形状であってもその面積が約500μm2未満であるような吐出口のものに適用される。」(段落【0138】)及び「実験では、吐出口が丸いもので行っているが、他の形状(多角形)の場合は、その面積比で換算した範囲内にすればよい。」(段落【0088】)との記載もみられる。開口部面積が500μm2に相当する開口径が約25.2μmであることを考慮すると、本件補正前の「25μm以下」とは有効数字2桁の意味であって、開口が円形のものだけでなく、多角形等であっても面積が500μm2未満のもの(同一面積の円直径換算値が有効数字2桁で25μm以下となる。)を含む趣旨に解することができ、そのことを明らかにした意味において、「明りようでない記載の釈明」を目的とすると見る余地はある。
しかし、平成14年改正前特許法17条の2第4項4号は、「明りようでない記載の釈明」を目的とする補正を無条件に許しているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との条件を付している。そして、補正事項1に係る補正前の記載が明りょうでない旨の拒絶理由は通知されていない。
したがって、補正事項2が「明りようでない記載の釈明」を目的とするとしても、平成14年改正前特許法17条の2第4項4号の規定には該当しない。

(3)補正目的についての結論
以上のとおりであるから、補正事項1,2を含む本件補正は、平成14年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.独立特許要件
(1)補正発明の認定
補正事項1のうち、微粒子の含有率の下限を2重量%とすること以外は、平成14年改正前特許法17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「微粒子の含有率を2〜10重量%とし、該微粒子を含む固形分の量を15重量%以下とした微粒子分散型記録液体を微細な開口から吐出させ、被記録体に付させて記録を行う液体噴射記録装置において、前記開口はФ25μm以下、もしくは開口部面積が500μm2未満であり、前記微粒子の大きさをDp、微細な開口の大きさをDoとするとき、0.003≦Dp/Do≦0.01としたことを特徴とした液体噴射記録装置。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-130558号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜ケの記載が図示とともにある。
ア.「複数の色のインクタンクと、複数の色のインクを噴射するノズルを有する印字ヘッドとを備え、各インクタンクは、少なくとも水と顔料と分散剤とを含み、顔料粒子の平均粒径が0.1μm以下であり、分散剤の顔料に対する重量比率が1.2〜5倍である水性顔料系インクを含み、前記印字ヘッドのノズルのノズル径は、顔料の色に応じて20μm〜50μmの範囲内で変えられていることを特徴とするインクジェットプリンタ。」(【請求項5】)
イ.「近年は、染料系のインクに代えて、顔料系のインクを用いることが提案されている。顔料系のインクをインクジェットプリンタで用いる場合には、顔料系のインクに特定の添加材を含ませたり、或いは顔料系のインクを特定の組成とすることにより分散安定性を向上させることが提案されている。即ち、顔料系のインクでは本来顔料が水との親和性に劣るため、顔料成分がインク液内で凝縮や沈降を生じるのであるが、上記のような添加材を含有させたり特定組成とすることにより凝縮や沈降を抑制することができるのである。」(段落【0003】)
ウ.「顔料系のインクは染料系のインクに比べると、耐光性や耐水性の点では優れているが、水との親和性に劣るため顔料成分のインク液内での凝集や沈降が生じ易く、したがって、従来の顔料系インクをそのままインクジェットプリンタにおいて使用すると、インクジェットヘッドのノズル(オリフィス)からの吐出安定性に著しい障害を起こし、印字不良を生ずるという問題があった。この傾向は、熱エネルギを使うタイプでも、パルス圧力を使うタイプでもオリフィス周辺にインク残滓が生じ安定した吐出を妨げることによる。」(段落【0007】)
エ.「本発明の目的は、インクジェットプリンタにおける駆動条件の変動や長期間の使用に際しても、目詰まり等がなく常時安定した吐出を行うことのできる水性顔料系インク及びインクジェットプリンタを提供することである。」(段落【0009】)
オ.「顔料粒子の平均粒径が0.1μm以下であれば、目詰まりの発生は殆どない。更に安定した記録液を得るには、顔料粒子の平均粒径で50nm以下とするのが望ましい。」(段落【0012】)
カ.「イエローのようにインクの顔料の粒子径が20nmと小さいものは、イエローのノズル12Yのノズル径は20μm程度と小さくする。ブラックの顔料の粒子径も20nm程度であるので、ブラックのノズル12Bのノズル径も20μm程度とする。また、シアンやマゼンタのように、インクの顔料の粒子径が35〜36nmと大きいものは、シアンやマゼンタのノズル12C、20Mのノズル径を50μm程度と大きくする。これにより、ノズルから噴出されるインク飛翔の液滴径(液滴の体積)を、顔料の粒子径の大きい小さいに係わらず、概ね一定とすることができる。」(段落【0022】)
キ.「各色の顔料インク、イエロー(インク粒径20nm)、マゼンタ(インク粒径35nm)、シアン(インク粒径36nm)、ブラック(インク粒径21nm)について、ノズル径を15μm、20μm、40μm、50μm、60μmと変化させた。」(段落【0034】)
ク.イエロー粒径20nm,マゼンタ粒径35nm,シアン粒径36nm及びブラック粒径21nmの時、ノズル径が15μmであれば各色のインク滴体積が順に35pl,15pl,15pl及び30plとなること、ノズル径が20μmであれば各色のインク滴体積が順に43pl,19pl,18pl及び41plとなること、ノズル径が40μmであれば各色のインク滴体積が順に57pl,33pl,31pl及び55plとなること、ノズル径が50μmであれば各色のインク滴体積が順に69pl,45pl,44pl及び67plとなること、並びにノズル径が60μmであれば各色のインク滴体積が順に81pl,63pl,62pl及び79plとなることが記載されている。(段落【0035】【表2】)
ケ.「好ましいインク液滴の量(体積)は例えば40pl〜60plの範囲である。したがって、表2の選択の範囲内では、イエローはノズル径が20μm又は40μm、マゼンタはノズル径が50μm、シアンはノズル径が50μm、ブラックはノズル径が20μm又は40μmとするのが適当である。」(段落【0036】)

(3)引用例記載の発明の認定
記載ア〜ケを含む引用例の全記載及び図示によれば、好ましいインク液滴の量を40pl〜60plの範囲とした発明として、引用例には次の発明が記載されていると認定できる。
「イエロー,マゼンタ,シアン及びブラックの顔料系インクタンクと、これら複数色のインクを噴射するノズルを有する印字ヘッドとを備え、各顔料系インクタンクは分散剤の顔料に対する重量比率が1.2〜5倍である水性顔料系インクを含み、各顔料系インクは、イエロー顔料粒径を20nm,マゼンタ顔料粒径を35nm,シアン顔料粒径を36nm、ブラック顔料粒径を21nmとし、イエローノズル径及びブラックノズル径を20nmとし、マゼンタノズル径及びシアンノズル径を50nmとしたインクジェットプリンタ。」(以下「引用例発明」という。)

(4)補正発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定
補正発明の「微粒子」は「顔料微粒子」であってもよく、及び引用例発明の各顔料が「粒径」との概念を備える以上、微粒子の形態をしていることは明らかであり、引用例発明の各「顔料インク」は本願発明の「微粒子分散型記録液体」に相当する。
引用例発明の「ノズル」及び「ノズル径」が、本願発明の「微細な開口」及び「微細な開口の大きさ」にそれぞれ相当する。
引用例発明の「インクジェットプリンタ」が「微粒子分散型記録液体を微細な開口から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行う液体噴射記録装置」といえることはいうまでもない。
したがって、補正発明と引用例発明とは、「微粒子分散型記録液体を微細な開口から吐出させ、被記録体に付させて記録を行う液体噴射記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「微粒子の含有率を2〜10重量%とし、該微粒子を含む固形分の量を15重量%以下とした」のに対し、引用例発明では「分散剤の顔料に対する重量比率が1.2〜5倍である」ものの、微粒子の含有率及び微粒子を含む固形分の量がどの程度であるかは明らかでない点。
〈相違点2〉開口の大きさDo及び微粒子の大きさをDpにつき、補正発明が「開口はФ25μm以下、もしくは開口部面積が500μm2未満であり、前記微粒子の大きさをDp、微細な開口の大きさをDoとするとき、0.003≦Dp/Do≦0.01」とするのに対し、引用例発明は「イエロー顔料粒径を20nm,マゼンタ顔料粒径を35nm,シアン顔料粒径を36nm、ブラック顔料粒径を21nmとし、イエローノズル径及びブラックノズル径を20nmとし、マゼンタノズル径及びシアンノズル径を50nm」とする点。

(5)相違点についての判断
〈相違点1について〉
本件補正後の明細書によれば、相違点1に係る補正発明の構成のうち、微粒子(顔料)の含有率の下限を2重量%とすることの技術的意義は、淡いインクとしてではなく、また染料を添加せずに使用できる実用的インクとしての濃度下限から定めたことにある(段落【0092】参照)。引用例発明の4色のインクが淡いインクとして使用するものでも、染料を添加して使用するものでもないことは明らかである。そうであれば、実用的な濃度下限以上の濃度値を選択し、微粒子含有率を2重量%と以上とすることは設計事項というよりない。
相違点1に係る補正発明の構成のうち、微粒子(顔料)の含有率の上限を10重量%とし、微粒子を含む固形分の量の上限を15重量%としたことの技術的意義は、これら上限値を超えると、目詰まりが生ずるという実験結果に基づくものである(段落【0092】及び【表5】参照)。しかし、引用例発明は「目詰まり等がなく常時安定した吐出を行うことのできる水性顔料系インク及びインクジェットプリンタを提供すること」(記載エ)を目的としてなされた発明である。当然、各顔料インク作成後に実験をし、目詰まりが生ずるかどうかの確認をしているものと解さなければならない。これら上限値を超えれば目詰まりが生ずるというのが事実であるとすれば、引用例発明はこれら上限値を超えていないはずである。これら上限値を超えれば目詰まりが生ずるというのが誤りであるとすれば、これら上限値を越えないことに技術的意義はない。いずれにしても、上限値の点については、実質的相違といえないか、それとも設計事項であるかのどちらかである。

〈相違点2について〉
引用例発明において、各ノズル径及び各粒径は、好ましいインク液滴の量が40pl〜60plの範囲であるとの前提の下に選択されたものである。
しかし、本件優先日当時には、液体噴射記録装置は高画質化を目指し、1回に吐出されるインク滴を量を小さくする方向に技術開発が進んでいる。本件補正後の明細書に「近年、インクジェット記録の高画質化,高精度化がすすみ、使用されるヘッドの吐出口(ノズル)も、・・・より微細な吐出口(例えば、Φ25μm以下、面積でいうと500μm2未満)が要求されてきている。」(段落【0014】)とあるとおり、吐出口をより微細にすることも、1回に吐出されるインク滴を量を小さくためである。
引用例発明が好ましいインク液滴の量を40pl〜60plの範囲であるとした理由は明らかでないが、本件優先日当時に引用例に接した当業者であれば、好ましいインク液滴の量を40pl〜60plの範囲ではなく、それよりも相当程度小さい方向に変えることを試みるといわなければならない。そして、引用例の【表2】によれば、ノズル径が小さいほどインク液滴が小さくなり、顔料粒径が大きくなるほどインク液滴が小さくなることが読み取れる。
そうであれば、引用例発明ではイエローノズル径及びブラックノズル径だけが25μm以下の20μmであり、マゼンタノズル径及びシアンノズル径は50μmとされているが、これらを小さい方の20μm又はより小さな15μmに揃え(そのことにより「開口はФ25μm以下」との補正発明の構成は達成できる。)、かつ顔料粒径をより大きくすることも、高画質化を目指す上で当業者が当然試みることといわなければならない。その際検討しなければならないのは、(a)相違点2に係る補正発明の構成である「0.003≦Dp/Do≦0.01」を満たす程度の粒径をもつ顔料粒径の顔料インクを作成すること自体に技術的困難性があるかどうか、及び(b)そのような粒径の顔料インクが引用例発明の目的である目詰まり防止を達成できるかどうかである。
引用例発明のノズル径を20μm又は15μmに揃えた場合、顔料粒径を60nm〜0.2μm(ノズル径20μmの場合)又は45nm〜0.15μm(ノズル径15μmの場合)にすれば、補正発明の構成を満たすことになる。ここで、引用例の記載オから、顔料粒径の上限は0.1μm(望ましくは50nm)とされているから、上記数値範囲の下限近傍であれば、検討事項(b)は問題にならない(引用例に望ましい範囲とされている50nm以下にするとしても、ノズル径を15nmとすれば問題ない。)。すなわち、上記数値範囲の下限近傍の粒径の顔料インク作成の技術的困難性だけが問題となる。引用例の「顔料粒子の平均粒径で50nm以下とするのが望ましい」(記載オ)との記載は、現実に平均粒径が50nm前後のものや、50nmを相当程度上回る顔料系を作成し実験することによって、はじめていえることである。そうである以上、60nm若しくは45nm又はそれらを若干上回る程度程度の粒径を有する顔料系インクの作成に技術的困難性があると認めることはできない。また、本件補正後の本願明細書には、顔料粒径が0.005μm〜1μmのものまで作成することが記載されているところ、60nm又は45nm程度の粒径のものを作成する上で、創意工夫が必要である旨記載されていない。そのことからみても、顔料粒径を60nm若しくは45nm又はそれらを若干上回る程度程度とすることに技術的困難性があるということはできない。さらにいうと、仮にここに技術的困難性があるとすれば、本件補正後の明細書には重大な記載不備があることになる。
したがって、引用例発明のすべてのノズル径を20μm又は15μmとし、すべての顔料粒径を60nm若しくは45nm又はそれらを若干上回る程度程度として、相違点2に係る補正発明の構成をなすことも設計事項である。

請求人は、「“ノズルの目詰まりを防止するために、25μm以下のノズル径に応じた顔料粒子径の適切な範囲を、実験等を通じて決定すること”が、“当業者が適宜行い得ることである”かどうかは、当業者が、その重要性に気付くかどうかに依存しています。」(平成15年11月26日付け手続補正書(方式)5頁21〜24行)などと主張するが、数値限定を含む発明の進歩性の判断に当たって重要なことは、その数値範囲を定めることではなく、数値範囲内の1つの数値を有する発明に進歩性があるかどうかである。上限又は下限の数値を決定すること自体が容易でなくとも、それだけで発明に進歩性があるということにはならない。請求人の主張は採用できない。
請求人はまた、「本願の発明において、液体吐出口の開口径がφ25μm以下の微小開口径の場合、顔料凝集体が問題になり、本願の発明は、この顔料凝集体を考慮して液体吐出口の開口径を25μm以下にしたものでありますが、前記引用文献には、顔料凝集体の大きさを考慮した技術的思想は全く開示されておりません」(同書6頁27〜30行)とも主張しており、この主張はインクタンクに収容後の顔料粒子の凝集に関する主張と解されるところ、インクタンクに収容後の顔料粒子の凝集を問題とするなら、凝集を防止すべくインクが含有する添加材(引用例の記載イ参照。)を特定しない限り、実験データそのものに技術的価値がないといわざるを得ない。そればかりか、顔料凝集体を考慮するならば吐出口の開口径は大きくすべきであるから、「顔料凝集体を考慮して液体吐出口の開口径を25μm以下にした」などという主張に理がないことは明らかである。この主張も当然採用できない。

(6)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1及び相違点2は、せいぜい設計事項程度の相違点でしかなく、これら相違点に係る補正発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反する。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおりであるから、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成15年11月26日付けの手続補正が却下されたから、本願の請求項1(以下「本願発明」という。)は、同年7月4日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のものと認める。
「液体に微粒子を分散させて記録液体とし、該記録液体を微細な開口から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行う液体噴射記録装置において、前記開口はФ25μm以下であり、前記微粒子の大きさをDp、微細な開口の大きさをDoとするとき、0.003≦Dp/Do≦0.01としたことを特徴とした液体噴射記録装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用例発明とは、「微粒子分散型記録液体を微細な開口から吐出させ、被記録体に付着させて記録を行う液体噴射記録装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点2’〉開口の大きさDo及び微粒子の大きさをDpにつき、補正発明が「前記開口はФ25μm以下であり、前記微粒子の大きさをDp、微細な開口の大きさをDoとするとき、0.003≦Dp/Do≦0.01」とするのに対し、引用例発明は「イエロー顔料粒径を20nm,マゼンタ顔料粒径を35nm,シアン顔料粒径を36nm、ブラック顔料粒径を21nmとし、イエローノズル径及びブラックノズル径を20nmとし、マゼンタノズル径及びシアンノズル径を50nm」とする点。
相違点2’に係る本願発明の構成が設計事項であることは、補正発明についての相違点2の判断で述べたと同様であり、この構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-04-27 
結審通知日 2004-05-06 
審決日 2004-05-18 
出願番号 特願平11-104494
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 574- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
発明の名称 液体噴射記録装置、サーマルインクジェット記録ヘッド、微粒子含有液体噴射装置  
代理人 高野 明近  

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