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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1099390
審判番号 不服2001-20050  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-11-08 
確定日 2004-07-05 
事件の表示 平成 7年特許願第159696号「薄膜トランジスタおよび液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月10日出願公開、特開平 9- 8314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年6月26日の出願であって、平成13年10月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年12月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成13年12月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成13年12月4日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正の内容は、特許請求の範囲を次のとおりに補正するとともに、発明の詳細な説明を補正するものである。
「【請求項1】 絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域と隣接して位置するよう形成された高濃度不純物領域とを備え、
該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている、薄膜トランジスタ。
【請求項2】 絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域の両側に位置するよう形成された高濃度不純物領域と、
該半導体層内に、該チャネル領域と該両高濃度不純物領域の少なくとも一方との間に位置するよう形成された低濃度不純物領域とを備え、
該半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている、薄膜トランジスタ。
【請求項3】 請求項1記載の薄膜トランジスタにおいて、
前記チャネル領域は、並列して複数設けられている、薄膜トランジスタ。
【請求項4】 請求項2記載の薄膜トランジスタにおいて、
前記チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは前記チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、並列して複数設けられている、薄膜トランジスタ。
【請求項5】 請求項1から4記載の薄膜トランジスタを用いた液晶表示装置。」

(2)本件補正についての検討
(2-1)補正事項の整理
補正事項を整理すると以下のとおりである。
(補正事項1)
旧請求項1を次のように補正する。
「絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域と隣接して位置するよう形成された高濃度不純物領域とを備え、
該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている、薄膜トランジスタ。」
(補正事項2)
旧請求項2を次のように補正する。
「絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域の両側に位置するよう形成された高濃度不純物領域と、
該半導体層内に、該チャネル領域と該両高濃度不純物領域の少なくとも一方との間に位置するよう形成された低濃度不純物領域とを備え、
該半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている、薄膜トランジスタ。」
(補正事項3)
明細書の段落番号【0011】及び【0013】を変更する。

(2-2)補正の適否についての検討
以下、補正事項1乃至3について順次検討する。
(2-2-1)補正事項1について
補正事項1は、
「該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」(旧請求項1)を
「該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている」と補正するものであり、この補正について検討する。
補正事項1により、「半導体層」が「多結晶シリコン」から構成されること、及び、「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」と「半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」との関係が削除されているから、補正後の請求項1に係る発明の「半導体層」の材料は、任意の材料から構成されることとなり、例えば、平均の結晶粒径が1ミクロンのシリコンから構成されるものや、非晶質シリコンから構成されるものが含まれることになった。
ここで、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」(特許請求の範囲の請求項2参照)こと、及び、「半導体層2の低濃度不純物領域9a,9b及びチャネル領域6を含む領域の幅を結晶粒径の1/2以下、即ち、1μm以下としている」(段落番号【0059】参照)ことが記載されており、その効果として、「・・・チャネル領域内をソース領域からドレイン領域までつながった形で結晶粒界が形成されることがなくなり、これにより上記のようにオン/オフ電流比の向上及びそのばらつきの抑制を図ることができる効果がある。」(段落番号【0078】参照)と記載されている。
しかしながら、補正後の請求項1に係る発明において、「半導体層」が、例えば、平均の結晶粒径が1ミクロンのシリコンから構成されるものや、非晶質シリコンで構成されるものである場合、「半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている」としても、上記効果が必ずしも得られるとはいえない。
してみると、補正事項1は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されているとはいえず、また、これらの記載からみて自明のことであるともいえない。
したがって、補正事項1は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるとはいえない。

また、補正事項1により、旧請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項である「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」と「半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」との関係を削除するものであるから、補正事項1は、請求項の削除、補正前発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において、その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものである特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(2-2-2)補正事項2について
補正事項2は、
「該半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」(旧請求項2)を
「該半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている」と補正するものであり、この補正について検討する。
補正事項2により、「半導体層」が「多結晶シリコン」から構成されること、及び、「半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」との技術的事項が削除されているから、補正後の請求項2に係る発明の「半導体層」の材料は、任意の材料から構成されることとなり、例えば、平均の結晶粒径が1ミクロンのシリコンから構成されるものや、非晶質シリコンから構成されるものが含まれることになった。
ここで、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、「該半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径
の1/2よりも狭くなっている」(特許請求の範囲の請求項4参照)こと、及び、「半導体層2の低濃度不純物領域9a,9b及びチャネル領域6を含む領域の幅を結晶粒径の1/2以下、即ち、1μm以下としている」(段落番号【0059】参照)ことが記載されており、その効果として、「・・・上記のようにオン/オフ電流比を向上し、しかもオン/オフ電流比のばらつきを抑制することができる効果がある。
【0081】
例えば、半導体層の低濃度不純物領域及びチャネル領域を含んだ領域の幅を結晶粒径よりも狭くすることにより、これらの領域での結晶粒界に沿って流れるオフ電流を完全に除去でき、これによりオン/オフ電流比の向上及びばらつき抑制を図ることができる。
【0082】
また、半導体層の低濃度不純物領域を含んだ領域の幅を結晶粒界よりも狭くすることにより、低濃度不純物領域での結晶粒界に沿って流れるオフ電流の排除により、オフ電流値の低減及びばらつきを飛躍的に向上できるとともに、チャネル領域の幅を狭くしていないことから、オン電流が低濃度不純物領域の抵抗値で制限されない領域即ち、いわゆるサブスレッシュ領域でのオン電流の立ち上がりを急峻にでき、スイッチング動作を高速化できる利点がある。
【0083】
また、半導体層のチャネル領域を含んだ領域の幅を結晶粒界よりも狭くすることによりチャネル領域を縦断する様に結晶粒界が形成されることがなくなり、その結果、確率的に起こるオフ電流の急増を低減することができる。加えて、低濃度不純物領域の幅を狭くしていないことから、低濃度不純物領域の抵抗値が低く、大きなオン電流を得ることが可能となり、オン/オフ電流比もさらに向上させることが可能である。」(段落番号【0080】〜【0083】参照)と記載されている。
しかしながら、補正後の請求項2に係る発明において、「半導体層」が、例えば、平均の結晶粒径が1ミクロンのシリコンから構成されるものや、非晶質シリコンから構成されるものである場合、「半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が1μm以下になっている」としても、上記効果が必ずしも得られるとはいえない。
してみると、補正事項2は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されているとはいえず、また、これらの記載からみて自明のことであるともいえない。
したがって、補正事項2は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるとはいえない。

また、補正事項2により、旧請求項2に係る発明の構成に欠くことができない事項である「半導体層における、該チャネル領域と低濃度不純物領域の両方、あるいは該チャネル領域と低濃度不純物領域のいずれか一方」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」と「半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」との技術的事項を削除するものであるから、補正事項2は、請求項の削除、補正前発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において、その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものである特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(2-2-3)補正事項3について
発明の詳細な説明の上記段落の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載から自明の事項の範囲内におけるものであるから、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものである。

(3)むすび
以上のとおり、補正事項1及び2を含む本件補正は、特許法第17条の2
第2項で準用する同法第17条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、特許法第17条の2第3項第1号乃至第4号に規定される事項を目的とするものに該当しないから、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成13年12月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成13年4月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域と隣接して位置するよう形成された高濃度不純物領域とを備え、
該半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている、薄膜トランジスタ。」

(1)引用例
これに対して、原査定において拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭60-195976号公報(以下、「引用例1」という。)には、第1図〜第4図とともに、次のとおり記載されている。
〔1〕「本発明の背景
このような薄膜電界効果トランジスタとして、従来、次に述べる構成を有するものが提案されている。
すなわち、第1図及び第2図に示すように、絶縁性表面を有する基板1を有し、その基板1上に、ソース電極2と、ドレイン電極3と、それらソース電極2及びドレイン電極3間に延長している多結晶半導体でなるチャンネル領域4とが形成されている。
この場合、ソース電極2、ドレイン電極3及びチャンネル領域4は、基板1上にソース電極2、ドレイン電極3及びチャンネル領域4になる薄膜多結晶半導体層5を形成し、その両端部に、導電性を与える不純物を導入してソース電極2及びドレイン電極3を、それら間にチャンネル領域4を形成するように、形成することによって形成することができる。
また、チャンネル領域4上に、ゲート絶縁膜6を介してゲート電極7が形成されている。
この場合、ゲート電極7は、ゲート絶縁膜6から、チャンネル領域4の側面上を通って基板1上に延長している絶縁層6′を介して、チャンネル領域4の側面上を通って基板1上にゲート配線層7′として延長している。
さらに、基板1上に、ソース電極2及びドレイン電極3をそれぞれ外部に臨ませる窓9及び10を有する層間絶縁膜8が、ゲート電極7及びゲート配線層7′を埋置するように形成されている。
また、層間絶縁膜8上に、窓9を通じてソース電極2に連結しているソース配線層11と、窓10を通じてドレイン電極3に連結しているドレイン配線層12とが形成されている。
以上が、従来提案されている薄膜電界効果トランジスタの構成である。」(第1頁右下欄第7行〜第2頁右上欄第2行)
〔2〕「本発明の開示
本発明による薄膜電界効果トランジスタによれば、第1図及び第2図で上述した従来の薄膜電界効果トランジスタの場合と同様に、絶縁性表面を有する基板上に、ソース電極と、ドレイン電極と、それらソース電極及びドレイン電極間に延長している多結晶半導体でなるチャンネル領域とが形成され、そしてそのチャンネル領域上に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が形成されている、という構成を有している。」(第3頁右上欄第14行〜同頁左下欄第3行)
〔3〕「しかしながら、本発明による薄膜電界効果トランジスタによれば、その多結晶半導体でなるチャンネル領域が、幅が多結晶半導体の結晶粒の大きさと同程度またはそれ以下であり、長さが幅に比し大である、ソース電極及び表面間に各別に延長している複数のチャンネル領域部からなる、という構成を有するので、その各チャンネル領域部に多結晶半導体の結晶粒界を存在させているとしても、その結晶粒界によってソース電極及びドレイン電極が連結されている構成を有していない。このため、ソース電極及びドレイン電極間には、制御信号によって制御されない漏れ電流が実質的に流れない。一方、チャンネル領域を構成しているチャンネル領域部の数が大であれば、それに応じて、負荷に、チャンネル領域を通って大なる電流を制御して供給することができる。」(第3頁左下欄第19行〜同頁右下欄第15行)

よって、引用例1には、
「絶縁性表面を有する基板上に形成された薄膜多結晶半導体層と、
該絶縁性表面を有する基板上に該薄膜多結晶半導体層とゲート絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該薄膜多結晶半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャンネル領域と、
該薄膜多結晶半導体層内に該チャンネル領域と隣接して位置し、該薄膜多結晶半導体層に導電性を与える不純物を導入することにより形成されたソース電極及びドレイン電極とを備え、
該薄膜多結晶半導体層のチャンネル領域となっている部分は、その幅が、該薄膜多結晶半導体層を構成する多結晶半導体の結晶粒の大きさと同程度またはそれ以下になっている、薄膜電界効果トランジスタ。」
が記載されている。

(2)対比・判断
本願発明と引用例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)を対比すると、引用発明の「絶縁性表面を有する基板」、「ゲート絶縁膜」、「チャンネル領域」は、それぞれ、本願発明の「絶縁性基板」、「絶縁膜」、「チャネル領域」に相当する。
また、本願明細書には、「絶縁性基板1上に形成された、ポリシリコンよりなる半導体層2」(段落番号【0047】参照)と記載されているから、引用発明の「薄膜多結晶半導体層」は、本願発明の「半導体層」に相当する。
そして、引用発明において、「薄膜多結晶半導体層に導電性を与える不純物を導入することにより形成されたソース電極及びドレイン電極」が、所謂「ソース領域及びドレイン領域」であることは明らかであり、一方、本願明細書には、「該半導体層2内に該チャネル領域6の両側にソース,ドレイン領域8a,8bとして形成された高濃度不純物領域」(段落番号【0047】参照)と記載されており、本願発明の「高濃度不純物領域」は、「ソース,ドレイン領域」であるから、引用発明の「薄膜多結晶半導体層に導電性を与える不純物を導入することにより形成されたソース電極及びドレイン電極」は、本願発明の「高濃度不純物領域」に相当し、引用発明の「薄膜多結晶半導体層のチャンネル領域となっている部分」の「幅」が、所謂「チャンネル幅」であることは明らかであり、一方、本願明細書には、「チャネル幅が1μmである場合は、チャネル幅が結晶粒径の1/2以下であるため、ソース領域及びドレイン領域間の距離が結晶粒径以上であれば、ソース領域からドレイン領域までつながった形で結晶粒界が形成されることはない。」(段落番号【0031】参照)と記載されており、本願発明の「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」は、「チャネル幅」であるから、引用発明の「薄膜多結晶半導体層のチャンネル領域となっている部分」の「幅」は、本願発明の「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」に相当する。
さらに、本願発明の末尾の記載は、「薄膜トランジスタ」であるが、本願明細書には、「図において、101は本実施例のLDD構造の薄膜トランジスタで、絶縁性基板1上に形成された、ポリシリコンよりなる半導体層2と、該半導体層2上にゲート絶縁膜3を介して形成されたゲート電極4と、該半導体層2のゲート電極4と対向する部分に形成されたチャネル領域6と、該半導体層2内に該チャネル領域6の両側にソース,ドレイン領域8a,8bとして形成された高濃度不純物領域と、該半導体層2内に、該チャネル領域6と該ソース,ドレイン領域8a,8bとの間に位置するよう形成された低濃度不純物領域9a,9bとを備えている。」(段落番号【0047】参照)と記載されており、本願発明の「薄膜トランジスタ」は、実質的に電界効果トランジスタであることは明らかであるから、引用発明の「薄膜電界効果トランジスタ」は、本願発明の「薄膜トランジスタ」に相当する。
よって、両者は、「絶縁性基板上に形成された半導体層と、
該絶縁性基板上に該半導体層と絶縁膜を介して対向して位置するよう形成されたゲート電極と、
該半導体層のゲート電極と対向する部分に形成されたチャネル領域と、
該半導体層内に該チャネル領域と隣接して位置するよう形成された高濃度不純物領域とを備えている、薄膜トランジスタ。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
本願発明では、「半導体層のチャネル領域となっている部分は、その動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法が、該半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くなっている」のに対して、引用発明では、「薄膜多結晶半導体層のチャンネル領域となっている部分は、その幅が、該薄膜多結晶半導体層を構成する多結晶半導体の結晶粒の大きさと同程度またはそれ以下になっている」点。

相違点についての検討
一般の薄膜トランジスタ技術において、多結晶半導体の材料としてシリコンを用いること、及び、多結晶シリコンの結晶粒の大きさとして平均の結晶粒径を用いることは、いずれも本願出願前より周知の技術(必要であれば、特開平2-148831号公報(特に、第2頁左上欄第1〜6行及び第2頁右下欄第12行〜第3頁右上欄第5行参照)、特開平5-121440号公報(特に、段落番号【0008】〜【0011】参照)を参照されたい。)であるから、引用発明において、薄膜多結晶半導体層を構成する多結晶半導体として多結晶シリコンを用い、この多結晶シリコンの結晶粒の大きさとして平均の結晶粒径を用いることは、当業者であれば普通に取り得る事項に過ぎない。
そして、引用発明は、結晶粒界によってソース電極及びドレイン電極が連結される構成を有していないことにより、ソース電極及びドレイン電極間に、制御信号によって制御されない漏れ電流をなくすという、本願発明と同一の効果が得られるものであり、また、引用発明において、チャンネル領域の幅が小さいほど結晶粒界がソース電極及びドレイン電極を連結する可能性が低くなることは、当業者であれば容易に予測し得るものである。
ところで、本願明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0028】
図2に、LDD(lightly doped drain)構造の多結晶シリコンTFTにおけるオフ電流のチャネル幅依存性を示す。ここで、点線がオフ電流の各ゲート幅でのデータの平均値を示している。
【0029】
一般に単結晶シリコンの場合、トランジスタのオフ電流はチャネル幅に対して、線形に変化することが知られている。しかし、図に示すように、多結晶シリコンでは、チャネル幅に対してオフ電流は非線形の関係にあり、特にチャネル幅が1μmを越えるとオフ電流値が極端に大きく、且つ、そのばらつきも増大していることが分かる。なお、この多結晶シリコンTFTの結晶粒径はおよそ2〜3μmである。
【0030】
この現象を、チャネルと結晶粒界の位置関係を考慮して、オフ電流を次の2つの要素の和により構成されていると考えて説明することができる(図3、図4参照)。
【0031】
構成要素A:結晶粒界を縦断して流れるオフ電流
構成要素B:結晶粒界に沿って流れるオフ電流
チャネル幅が1μmである場合は、チャネル幅が結晶粒径の1/2以下であるため、ソース領域及びドレイン領域間の距離が結晶粒径以上であれば、ソース領域からドレイン領域までつながった形で結晶粒界が形成されることはない。従って、オフ電流は構成要素Aのみで構成されると考えられる。構成要素Aは、結晶粒径とチャネル領域の位置関係には特に依存しないと考えられる。以上のことから、この場合は、オフ電流値およびそのばらつきが小さくなっていると考えられる。
【0032】
一方、チャネル幅が1.5μm、2μmである場合は、ソース領域及びドレイン領域間の距離が結晶粒径以上であっても、チャネル領域と結晶粒界の位置関係によっては、ソース領域からドレイン領域までつながった結晶粒界を持つ絵素TFTが確率的に発生するため、その絵素TFTでは、オフ電流が構成要素Aと構成要素Bの和で構成されることになり、オフ電流が急増することになると考えられる。」(段落番号【0028】〜【0032】)
しかしながら、多結晶シリコンの結晶粒径は、本願の図3及び図4に記載されているようには均一ではなく、実際には、ある程度のばらつきを有しているものであるから、本願発明において、「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」、すなわち、チャネル幅が、多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2であっても、チャネル領域と結晶粒界の位置関係によっては、ソース領域からドレイン領域までつながった結晶粒界が存在するものである。
また、オフ電流値については、チャネル幅だけではなく、本願の図2に示すように、ゲート長の寸法にも関係するものである。
そうすると、本願明細書及び図面の記載からは、「半導体層のチャネル領域となっている部分」の「動作電流が流れる方向と垂直な方向の寸法」と、「半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径」の比として、1/2なる数値に臨界的な意義があるとはいえない。
したがって、引用発明において、薄膜多結晶半導体層のチャンネル領域となっている部分の幅を、結晶粒の大きさ以下とする際に、該薄膜多結晶半導体層を構成する多結晶シリコンの平均の結晶粒径の1/2よりも狭くすることは、当業者であれば必要により適宜設定できる程度のものである。
よって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2乃至5に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおりに審決する。
 
審理終結日 2004-05-10 
結審通知日 2004-05-11 
審決日 2004-05-25 
出願番号 特願平7-159696
審決分類 P 1 8・ 573- Z (H01L)
P 1 8・ 574- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 571- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 棚田 一也棚田 一也  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 河合 章
河本 充雄
発明の名称 薄膜トランジスタおよび液晶表示装置  
代理人 山本 秀策  

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