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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1099601
異議申立番号 異議2002-70236  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-30 
確定日 2004-04-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3193950号「薬液注入による砂地盤の液状化対策工法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3193950号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3193950号発明についての出願は、平成8年10月17日に出願され、その発明について平成13年6月1日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1及び2に係る発明の特許について長谷川節子及び後藤静江より特許異議の申立てがなされ、平成14年6月10日付けで取消の理由が通知され、その指定期間内の平成14年8月20日に訂正請求がなされた。

2 訂正請求について
(1)訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許第3193950号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、薬液を浸透させて所定の強度をもたらそうとする注入孔を中心として距離設定に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することを特徴とする、薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。
【請求項2】注入孔からの設定浸透距離が注入孔を中心として半径 40cm の場合に 2 - 20 重量%、80cm の場合に 10 - 30 重量%、120cm の場合に 20 - 45 重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うことを特徴とする、請求項 1 に記載の薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。」を、
「【請求項1】シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することを特徴とする薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。
【請求項2】注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする設定浸透距離が注入孔を中心として半径 40cm の場合に 2 - 20 重量%、80cm の場合に 10 - 30 重量%、120cm の場合に 20 - 45 重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うことを特徴とする請求項 1 に記載の薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。」
と訂正する。
訂正事項b
明細書の段落【0006】の記載を、「【課題を解決し目的を達成するための手段】本発明によれば、上記の課題は、シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することにより解決されると共に、上記の目的が達成される。」と訂正する。
訂正事項c
明細書の段落【0007】の記載を、「本発明方法を実施する場合には、注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする薬液の設定浸透距離が注入孔を中心として半径 40cm の場合に 2 - 20 重量%、80cm の場合に 10 - 30 重量%、120cm の場合に 20 - 45 重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整が行われる。」と訂正する。

(2)訂正の適否
上記訂正事項aは、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1において、薬液の浸透に関し、放射状に浸透させると限定し、薬液の濃度調整に関し、薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて行うと限定し、また、請求項2において、薬液の浸透に関し、放射状に浸透させると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項b及びcは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、これらの訂正事項a〜cは、願書に添付した明細書の段落【0009】、【0013】の記載に基づくものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項a〜cの訂正は、特許法120条の4第2項ただし書、同条3項において準用する特許法126条2項及び3項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

3 本件発明
本件特許第3193950号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することを特徴とする薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。
【請求項2】注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする設定浸透距離が注入孔を中心として半径 40cm の場合に 2 - 20 重量%、80cm の場合に 10 - 30 重量%、120cm の場合に 20 - 45 重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うことを特徴とする請求項 1 に記載の薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。」

4 引用例の記載事項
当審で通知した取消の理由に引用した引用例1(「第30回土質工学研究発表会-平成7年度発表講演集(3分冊の3)-」、社団法人土質工学会、平成7年5月25日発行、2107〜2108頁)には、「酸性シリカゾルによる液状化防止工法に関する研究」との表題が付され、以下の記載がある。
a「2.実験内容
固化剤として使用したのは、酸性シリカゾルという水ガラス系の二液混合型の固化剤である。」(2107頁)
b「3-3 一次元モデル地盤による浸透特性試験
薬液注入工法によって地盤改良を行う際には、一つの注入ポイントから広範囲に均等な強度で改良できることが求められる。この観点から、長さ5mのモデル地盤を用いて、一次元浸透実験を行った。実験装置を図-4に示す。直径8.5cmの塩ビ管に高さ30cm毎に所定量の砂を充填しながら高さ5mまで組み立てた後、CO2を1l/minの割合で90分間通じてから、水を下部から注入して飽和させたものを用いた。図-5はSiO2濃度を4.4%に固定して、……注入を行ったケースについて、注入口からの各距離(浸透延長)における改良体の一軸強度の分布を表わしたものである。注入口付近ではqu=0.9kgf/cm2程度の強度が得られたが、浸透延長が延びるにしたがって強度の低下が見られ、浸透延長5m地点ではqu=0.3kgf/cm2程度という結果であった。この強度低下の原因として、先端部の薬液が地盤内の間隙水によって希釈されたことが推察されたため、改良案としてまず全量の30%の薬液をSiO2濃度6.6%(1.5倍)と高濃度にして注入し、引き続いて残りの70%を元の4.4%に戻して注入するという方法を試みた。本法を用いた場合の一軸強度の分布を図-6に示す。図-6より明らかなように、5mの注入範囲の全域においてほぼ均等にqu=0.8kgf/cm2程度に改良することができた。このように注入時のSiO2濃度を調整することによって均一に改良することが可能であることがわかった。
4.まとめ
液状化防止を目的とした薬液注入工法の固化剤として、酸性シリカゾルの有用性について検討を行った。その結果……本固化剤は液状化防止に有効な固化剤であると考えられる。」(2108頁)
以上の記載及び図-4〜図-6によれば、引用例1には、
(1)酸性シリカゾルを薬液として注入する砂地盤の液状化防止工法、
が記載され、
(2)一次元モデル地盤を用いた実験において、注入口から酸性シリカゾルを浸透させると、注入口からの薬液の浸透距離が延びるにしたがって一軸圧縮強度が低下すること、その低下の原因が、地盤内の間隙水による薬液の希釈であること、5mの注入範囲における強度低下を改善するために、薬液の濃度を高濃度にして注入したこと、
が記載されていると認められる。

5 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用例1記載の酸性シリカゾルを薬液として注入する砂地盤の液状化防止工法(以下、「引用例1記載の工法」という。)とを対比すると、引用例1記載の工法の「酸性シリカゾル」は、シリカ系の水溶液型薬液であり、また、引用例1記載の工法の「液状化防止工法」は、本件発明1の「液状化対策工法」に相当するから、両者は、
「シリカ系の水溶液型薬液を注入する、薬液注入による砂地盤の液状化対策工法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1
本件発明1は、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行うのに対し、引用例1記載の工法は、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするものであるのか明示がなく、また、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行うのか否か不明である。
相違点2
本件発明1は、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入するのに対し、引用例1記載の工法は、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入するのか否か不明である。

なお、特許権者は、平成14年8月20日付けの特許異議意見書において、本件発明1の「砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入する」は、一連不可分の技術的事項であり、放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて、薬液の濃度調整と注入速度を徐々に低下させることを同時に行うのであるから、相違点1と2に分けて認定したのは誤りであり、仮に、分けるとしても、相違点2は、「放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入する」とすべきである、と主張している。
しかしながら、注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行うことは、訂正前の明細書(設定登録時の明細書)の段落【0013】に記載されているが、注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することは、同明細書には記載されていないから、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の「前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入する」との記載を、放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて、薬液の濃度調整と注入速度を徐々に低下させることを同時に行うことと解することはできない。したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点1について
本件発明1が相違点1の事項を採用したのは、訂正明細書の段落【0003】、【0004】の記載によれば、注入孔を中心とした薬液の浸透距離が大になるにつれ砂地盤中の水分により薬液が希釈され、薬液の希釈に伴い改良地盤の強度が低下することから、砂地盤中の水分による薬液の希釈を考慮して、設定した薬液の浸透距離の範囲内において改良地盤の強度が設定強度に達するようにするためであると解されるところ、引用例1には、一次元モデル地盤を用いた実験においてではあるが、注入口から薬液を浸透させると、注入口からの薬液の浸透距離が延びるにしたがって、地盤内の間隙水による薬液の希釈により一軸圧縮強度が低下すること、5mの注入範囲における強度低下を改善するために、薬液の濃度を高濃度に、つまり濃度を調整して注入することが記載されている。また、引用例1には、注入口からの薬液の浸透距離が延びるにしたがって、地盤内の間隙水による薬液の希釈が高まることが示唆されており、さらに、濃度を調整する場合に、間隙水による薬液の希釈の程度に応じて濃度調整を行うのは自明のことである。そして、引用例1記載の工法は、薬液注入により砂地盤に強度をもたらすものであることは当業者に明らかであり、引用例1記載の工法において、どのようにして薬液を注入するのかについて明示されていないが、砂地盤に薬液を注入して強度をもたらす場合、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて薬液を注入することは、本件特許の出願前に周知の技術(例えば、特開昭52-48217号公報、特開平4-76110号公報、特開平3-27149号公報参照。)であることを考慮すると、相違点1における本件発明1の事項とすることは、引用例1記載の工法及び同引用例1に記載された一次元モデル地盤を用いた実験で得られた上記技術的事項並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に想到し得たことといえる。

相違点2について
地盤中に固化剤のような薬液を注入する場合に、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することは、本件特許の出願前に周知の技術(例えば、「新版 土木工学ハンドブック 中巻」技報堂出版株式会社、1980年9月1日発行、1378頁の「(7)注入圧,注入量のコントロール」の項参照。)であり、引用例1記載の工法に上記周知の技術を適用して、相違点2における本件発明1の事項とすることは、その適用を阻害する技術的理由もないから、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、本件発明1は、引用例1記載の工法及び同引用例1に記載された技術的事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と引用例1記載の工法とを対比すると、両者は、
「シリカ系の水溶液型薬液を注入する、薬液注入による砂地盤の液状化対策工法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3
本件発明2は、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行ない、注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする設定浸透距離が注入孔を中心として半径40cm の場合に2- 20重量%、80cm の場合に10-30重量%、120cm の場合に20-45重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うのに対し、引用例1記載の工法は、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするものであるのか明示がなく、また、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い、注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする設定浸透距離が注入孔を中心として半径40cm の場合に2-20重量%、80cmの場合に10-30重量%、120cm の場合に20-45重量% の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うのか否か不明である。
相違点4
本件発明2は、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入するのに対し、引用例1記載の工法は、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入するのか否か不明である。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点3について
本件発明2が相違点3の事項を採用したのは、訂正明細書の段落【0003】、【0004】の記載によれば、注入孔を中心とした薬液の浸透距離が大になるにつれ砂地盤中の水分により薬液が希釈され、薬液の希釈に伴い改良地盤の強度が低下することから、砂地盤中の水分による薬液の希釈を考慮して、設定した薬液の浸透距離の範囲内において改良地盤の強度が設定強度に達するようにするためであると解されるところ、引用例1には、一次元モデル地盤を用いた実験においてではあるが、注入口から薬液を浸透させると、注入口からの薬液の浸透距離が延びるにしたがって、地盤内の間隙水による薬液の希釈により一軸圧縮強度が低下すること、5mの注入範囲における強度低下を改善するために、薬液の濃度を高濃度に、つまり濃度を調整して注入することが記載されている。また、引用例1には、注入口からの薬液の浸透距離が延びるにしたがって、地盤内の間隙水による薬液の希釈が高まることが示唆されており、さらに、薬液の濃度を調整する場合に、間隙水による薬液の希釈の程度に応じて濃度調整を行うのは自明のことであり、濃度を如何にするかは、地盤の成分や構造により異なると考えられる間隙水の量を考慮して適宜決定する設計事項であり、本件発明2のように「半径40cm の場合に2-20重量%、80cm の場合に10-30重量%、120cm の場合に20-45重量% の希釈率」としたことに格別の技術的意義も認められない。そして、引用例1記載の工法は、薬液注入により砂地盤に強度をもたらすものであることは当業者に明らかであり、引用例1記載の工法において、どのようにして薬液を注入するのかについて明示されていないが、砂地盤に薬液を注入して強度をもたらす場合、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて薬液を注入することは、本件特許の出願前に周知の技術(上記「(1)本件発明1について」の「相違点1について」の周知例参照。)であることを考慮すると、相違点3における本件発明2の事項とすることは、引用例1記載の工法及び同引用例1に記載された一次元モデル地盤を用いた実験で得られた上記技術的事項及並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に想到し得たことといえる。

相違点4について
地盤中に固化剤のような薬液を注入する場合に、注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することは、本件特許の出願前に周知の技術(上記「(1)本件発明1について」の「相違点2について」の周知例参照。)であり、引用例1記載の工法に上記周知の技術を適用して、相違点4における本件発明2の事項とすることは、その適用を阻害する技術的理由もないから、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、本件発明2は、引用例1記載の工法及び同引用例1に記載された技術的事項並びに周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1及び2についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
薬液注入による砂地盤の液状化対策工法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することを特徴とする薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。
【請求項2】 注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする設定浸透距離が注入孔を中心として半径40cmの場合に2-20重量%、80cmの場合に10-30重量%、120cmの場合に20-45重量%の希釈率を見込んで薬液の濃度調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の薬液注入による砂地盤の液状化対策工法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は砂地盤の改良法に係り、シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法であって、できるだけ強度が均一に砂地盤において発現するようになす方法、即ち地盤改良後の品質保証をもたらす方法に係る。
【0002】
【従来の技術】
砂地盤は地震により液状化現象を生じ易く、その対策として硅酸ナトリウム水溶液と硬化剤との混合物やセメントミルクを注入する方法が提案され、又特開平6-146261公報にはシリカゾル[組成:SiO2/Me2O、Me;アルカリ金属)]の水分散液と硬化剤との混合物を薬液として注入する方法が提案されている。
従来、砂地盤改良用の薬液は設定される強度増加に依存して濃度が設定され、従って単一濃度の薬液が調製され、例えばストレーナーを用いて地盤中に注入されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題乃至発明の目的】
砂地盤は水分を含有しており、従って注入孔からの距離、即ち注入孔を中心として半径方向において薬液の浸透距離が大になるにつれ砂地盤中の水分により薬液は希釈される筈である。
従来の方法を実施する場合に想定されている薬液の浸透距離は注入孔を中心として半径50cm程度であり、砂地盤中の水分による薬液の希釈率は低く、従って薬液の希釈に伴う改良地盤の強度低下の程度は小さいので、既述のように単一濃度の薬液であっても余り問題とはならない。
【0004】
しかしながら、改良すべき砂地盤における単位面積当たりの薬液注入箇所の数を減じて作業性を向上させるために、薬液の上記浸透距離を半径50cm以上に、例えば100cm又はそれ以上に設定する場合、即ち薬液注入工事の施工ピッチを大きくする場合には、注入位置から離れた部位では砂地盤中の水分による薬液の希釈は無視できず、これが原因で設定強度に達しない可能性があり、従って改良された砂地盤に品質保証をもたらすためには砂地盤中の水分による薬液の希釈も考慮に入れて薬液の注入作業を実施する必要性がある。
そこで、薬液の設定浸透距離と砂地盤中の水分による薬液の希釈との関係を示す技術文献の存否について検索を行ったが、このような報告は見当たらなかった。
【0005】
従って、本発明の目的は薬液の浸透距離を任意に設定する場合に、所望の強度を有する改良された砂地盤をもたらすためには、注入されるべき薬液の濃度を如何に設定すべきかを決定する指針をもたらすことにある。
【0006】
【課題を解決し目的を達成するための手段】
本発明によれば、上記の課題は、シリカ系の水溶液型薬液を注入する砂地盤の液状化対策工法において、砂地盤中に注入孔から薬液を放射状に浸透させて所定の強度をもたらそうとするもので、前記注入孔を中心として放射状に薬液を浸透させようとする距離設定の浸透最遠部位における薬液の希釈率に応じて薬液の濃度調整を行い且つ注入速度を徐々に低下させながら薬液を注入することにより解決されると共に、上記の目的が達成される。
【0007】
本発明方法を実施する場合には、注入孔から放射状に薬液を浸透させようとする薬液の設定浸透距離が注入孔を中心として半径40cmの場合に2-20重量%、80cmの場合に10-30重量%、120cmの場合に20-45重量%の希釈率を見込んで薬液の濃度調整が行われる。
【0008】
砂地盤改良用のシリカ系水溶液型薬液としては所謂「水ガラス」製造用の原料であるNa2O/nSiO2又はK2O/nSiO2とその硬化剤である無機塩類、有機塩類、金属酸化物、金属水酸化物、無機酸、有機酸、酸性塩、塩基性塩等とを組み合わせて調製したもの並びにシリカ微粒子とその硬化剤、例えば本出願人の一方である旭電化工業株式会社製のパーマロックNS(標章)とを組み合わせて調製したものとに大別される。
両者は薬液の構成素材や固化原理が若干異なるが、本発明の原理は何れの場合にも適用可能である。
【0009】
【実施例等】
次に、実施例に代わる試験例により本発明を詳細に且つ具体的に説明する。
図1に示される大型槽(幅300cm x 奥行き300cm x 高さ150cm)10内に基本特性が砂分99%、細粒分1.0%、比重2.644、最大乾燥密度(g/cm3)1.545、最小乾燥密度(g/cm3)1.184、平均粒径(D50)0.31mm、均等係数(Uc)2.33の新潟産海砂を0.5m3毎に水中落下により堆積させた後に振動棒により締め固めて容積が13.5m3、最大間隙比(e max)1.135、最小間隙比(e min)0.664、乾燥密度(ρd、g/cm3)1.492、平均相対密度(Dr)77%、間隙比0.772の模型砂地盤を作成し、中央部にストレーナー型薬液注入部材12をセットした。
この薬液注入部材12のセット状態は図2に示されている通りであり、ストレーナー部分12aの長さは40cmであり、その底部は砂層の上面から75cmの深さに位置しており、ストレーナー部分における各注入孔の直径は50mmである。
一方、超微粒シリカ[旭電化工業株式会社製の「パーマロック AT」(標章)]の10重量%水分散液738kgと、硬化剤[旭電化工業株式会社製の「パーマロック NS」(標章)]20kgを水1480kgに添加した硬化剤水溶液とを調製し、両液を合併して砂地盤改良用の薬液とする。この薬液のpHは8.8であり、ゲルタイムは7日であり、又上記の配合による設定一軸圧縮強度quは100kPaである。
上記の薬液を攪拌して均一な状態となし、注入孔を通じ上記の模型砂地盤内に注入した。砂層における薬液の浸透の向きは図2において矢印にて示されている通りであり、基本的にはストレーナー部分を中心とする放射状の向きである。
【0010】
薬液の注入は構造物直下での施工を念頭において注入圧力を比較的低めに、即ち75kPaに設定した処、初期の段階では約10リットル/min程度の比較的高速な注入ができたが、注入開始から約3時間後に砂地盤表面からの薬液の漏洩が認められたために注入速度を6-2リットル/minの範囲内で絞りながら注入を継続した。
注入開始から11時間後に予定注入量の3150リットルに達したので、薬液注入を終了した。この場合における薬液の注入速度と総注入量との関係は図3のグラフに示される通りであった。
【0011】
薬液の注入後、放置して28日間養生し、次いで槽構成枠を解体することにより現出した砂塊に対しノズルから水をジェット噴射して未固化の砂部分を除去した処、直径約260cm x 高さ約140cmの固化塊状体が得られた。この塊状体に関し、中心部を通る垂直方向切断により4分割し、これらを解体して種々の部位からサンプルブロックを61点採取し、これらサンプルの一軸圧縮強度[qu(kPa)]をJIS A 1216-58(土の一軸圧縮試験方法)に準じて測定した。
得られた強度分布は図4に示されている通りであった。この図から明らかなように、各サンプルにおける強度のバラツキは比較的大であるが、これは模型砂地盤の作成に際して振動棒により締め固めたために形成された砂地盤の密度に局所的なバラツキを生じたことが一因と推定される。
しかしながら、注入孔の近傍においては一軸圧縮強度が約80kPaであって、設定強度の100kPaに近く、注入孔から離隔するに従い次第に強度が低下する傾向が認められる(注入孔の中心からの距離と一軸圧縮強度との関係をプロットしたグラフである図5をも参照)。
【0012】
上記の強度低下の原因としては、砂地盤中に存在する水により薬液がその浸透時に到達距離が長くなるにつれて希釈されたことが考えられる。
従って、次に、水により希釈率が種々に設定された薬液を調製し、上記と同様の条件で、但し大型槽を使用することなしに且つ養生時間を薬液のゲルタイムである7日間に設定して固化砂の小型塊状サンプルを作成し、各サンプルの一軸圧縮強度を測定して当該強度と希釈率との関係を調べた。
結果は図6に示されている通りであった。この図において、希釈率とは薬液の重量に対する加水量の比である。
【0013】
図5及び6に示された結果に基づいて、注入孔からの薬液の浸透距離と薬液の希釈率との関係を求めた処、図7に示されるグラフが得られた。
このグラフは注入孔から半径60cmの部位においては砂層中の水分により薬液の希釈率が10重量%程度、90cmの部位においては20重量%となり、120cmの部位では30重量%に達することを示している。しかしながら、実際の砂地盤中における水分量は一定ではないので、図7において陰影を施した領域が注入孔からの距離と薬液の希釈率との関係を示しているものと推定される。
従って、薬液の浸透距離を設定する場合に、図7に示されるグラフを利用すれば、その浸透最遠部位において薬液が如何なる程度希釈されるのかが判明するので、それに応じて注入すべき薬液における薬剤の濃度を設定し、これによって当該最遠部位においても所望の強度が発現するようになすことができる。
【0014】
【発明の効果】
本発明によれば、図7を利用することにより、薬液を砂地盤中に注入した場合の注入孔を中心とした薬液の浸透距離と薬液の希釈率との関係が判るので、薬液の注入により改良砂地盤を形成しようとする場合に、設定浸透距離毎に薬液の希釈率を見込んで薬液中における薬剤の濃度を変化させることができ、これによって改良工事の施された砂地盤の強度保障が可能となる。
尚、薬液の設定浸透距離を大になし得れば、改良すべき砂地盤の単位面積当たりの薬液の注入回数を減じることができ、作業性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
模型砂地盤作成用の槽の斜視図である。
【図2】
図1に示された槽内の模型砂地盤に対する薬液注入部材の配置態様を略示する側面図である。
【図3】
薬液の注入速度と総注入量との関係を示すグラフである。
【図4】
固化砂塊状体における各部位の一軸圧縮強度分布を示すグラフである。
【図5】
固化砂塊状体において、注入孔の中心部からの薬液浸透距離と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図6】
薬液の希釈率と固化砂塊状体サンプルの一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図7】
注入孔からの薬液の浸透距離と薬液の希釈率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10:模型砂地盤形成用の槽
12:薬液の注入部材
12a:ストレーナー部分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-11-05 
出願番号 特願平8-274332
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (E02D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 池谷 香次郎  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 鈴木 公子
中田 誠
登録日 2001-06-01 
登録番号 特許第3193950号(P3193950)
権利者 独立行政法人港湾空港技術研究所 五洋建設株式会社 旭電化工業株式会社
発明の名称 薬液注入による砂地盤の液状化対策工法  
代理人 川村 恭子  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  
代理人 佐々木 功  
代理人 川村 恭子  
代理人 佐々木 功  

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