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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60J
管理番号 1099630
異議申立番号 異議2002-72746  
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-11-12 
確定日 2004-03-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3296197号「車両用ガラスラン」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3296197号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1手続の経緯
本件特許第3296197号の発明は、平成8年8月6日に出願され、特許の設定登録(全1項)がなされ、その後、表記の異議申立人より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求がなされたものである。

2訂正の適否の判断
(1) 訂正の内容
(特許請求の範囲)
a 請求項1の「車両のサイドドア等に装着され、」を、「車両のサイドドアにおけるウィンドフレームのアンダーカット溝を備えたチャンネル内に嵌入されて装着され、」と訂正する。
b 請求項1の「エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスラン」の前に、「前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条を備えるとともに、」を挿入する。
c 請求項1の「コーナ型成形部とを備え」の後に、「該コーナ成形部は前記押出部と同様な断面形状を有するとともに、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え、」を挿入する。
d 請求項1の「コーナ型成形部の熱可塑性エラストマー材料のそれが」を、「コーナ型成形部のTPE材料の硬度が」と訂正する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(特許請求の範囲)
上記訂正事項aについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載された「車両用ガラスラン」の装着位置をより具体的な構成に限定しようとするものである。
したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項bについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載された「車両用ガラスラン」の形状をより具体的な構成に限定しようとするものである。
したがって、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項cについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載された「コーナ型成形部」の形状をより具体的な構成に限定しようとするものである。
したがって、上記訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項dについては、不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。

また、上記訂正事項aないしdは、願書に添付した明細書に記載されていたものであるから、上記訂正事項aないしdは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
更に、上記訂正事項aないしdは、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3) むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3特許異議の申立てについての判断
(1) 本件発明
上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件異議申立に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。
「【請求項1】 車両のサイドドアにおけるウィンドフレームのアンダーカット溝を備えたチャンネル内に嵌入されて装着され、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条を備えるとともに、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランにおいて、ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備え、該コーナ成形部は前記押出部と同様な断面形状を有するとともに、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え、
前記押出部がゴム材料又は熱可塑性エラストマー材料(以下「TPE材料」)で形成され、前記コーナ型成形部が前記押出部の材料(以下「押出部材料」)より硬度が高いTPE材料で形成されてなり、
前記押出部材料の硬度がHs(JIS A)70〜80度で、前記コーナ型成形部のTPE材料の硬度がHs(JIS A)83度以上であり、両者の硬度差が3〜20度であることを特徴とする車両用ガラスラン。」

(2) 引用された刊行物等に記載の発明
[刊行物1]特開平3―38430号公報(北村学提出の甲第1号証)
[2頁左上欄10行ないし16行]には、
「[産業上の利用分野]
この発明は車両のドア等に取付けられる昇降式窓ガラス用のサッシュ内に嵌入装着されるコーナピース付ガラスラン、詳しくはサッシュ隅部からの脱落が防止され、かつガラスラン本体とコーナーピースとの接合強度が改良されたコーナピース付きガラスランの製造方法に関する。」と記載され、
[3頁右下欄4行ないし4頁左上欄8行]には、
「[実施例]
この発明の実施例を図面を参照しながらその工程毎に詳細を説明する。
第1工程:
第1図は一例として挙げたガラスラン本体1の長手方向に垂直な面で切断した断面図である。
ガラスラン本体1は窓ガラス9の縁端面91に面する基底部11と、その基底部11の幅方向の両側に押出成形後の自由状態で斜め外方にハの字型に開かせて形成した両側壁12,13、ならびにその側壁12,13の基底部11との付け根からさらに斜め外方に突出する抜け止め突条16,17と、その両側壁12,13の上端に連なりそれぞれ内側に屈曲していて、サッシュ(図示せず)内に嵌入されたのち、挿入される前記窓ガラス9の縁側面92を共同して保持するメインリップ14,15、ならびにそのメインリップ14,15と逆方向の外側にそれぞれ延長されていてサッシュの開口縁部を覆うシールリップ18,19を有する。
このガラスラン本体1は、軟質塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、軟質アミド樹脂などの熱可塑性合成樹脂、各種熱可塑性エラストマー、天然又は合成ゴムなどの配合材料から押出成形法で製造される。」と記載され、
[5頁右上欄7行ないし12行]には、
「コーナピース3を後成形するために成形型に射出注入される後成形材料は、ガラスラン本体1と同一の材質でも良いが、同系統の材料で、ただ硬度を高くした材料、別系統の材料で元のガラスラン本体1の材料と接着性の良い材料、短時間で架橋が進行する材料などから選ばれる。」と記載されている。

尚、上記[産業上の利用分野]に記載の「昇降式窓ガラス用のサッシュ内に嵌入装着されるコーナピース付ガラスラン」のコーナピースといえば、通常ルーフ側とピラー側とを接続するものであるから、本件発明の「ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部」に該当する。

これらの記載からみれば刊行物1には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。
『車両のサイドドアに装着される車両用ガラスランにおいて、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランにおいて、ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備え、
前記押出部がゴム材料又は熱可塑性エラストマー材料(以下「TPE材料」)で形成され、前記コーナ型成形部が前記押出部の材料(以下「押出部材料」)より硬度が高いTPE材料で形成されてなる車両用ガラスラン。』

[刊行物3]特開昭54―135840号公報(北村学提出の甲第3号証)
自動車用グラスランの材料に関する発明で、
[2頁左下欄下から5行ないし下から3行]には、
「自動車用グラスランに要求される硬度が60〜90Hs(JISK-6301 A型)であり」と記載されている。

[周知例]実願平3―3328号(実開平4―95519号)のマイクロフィルム
ガラスランのコーナ部構造に関する発明で、
【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】には、
「【図面の簡単な説明】
【図1】この考案のガラスランの斜視図で、サッシュの記入を省略してあるが、サッシュ溝内に嵌入されている状態を示す。
【図2】この考案のガラスランの、図1の矢示D方向から見た側面図である。図1と同様にサッシュの記入を省略してあるが、サッシュ溝内に嵌入されている状態を示す。
【図3】図2のA-A線切断面の端面図である。
【図4】図2のB-B線切断面の端面図である。
【図5】図2のC-C線切断面の端面図である。
【図6】従来のガラスランの、図2におけるB-B線に相当する切断面での端面図である。
【図7】従来のガラスランの接続部をサッシュ溝内に嵌入する方法を示す説明図である。
【図8】従来のガラスランの接続部をサッシュ溝内に嵌入するときにおこる問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ガラスラン本体
3 接続部
5 サッシュ
11 基底部
12,13 つなぎ部
14,15 側壁
16,17 メインリップ
18,19 シールリップ
20,21 抜け防止リップ
31 抜け防止凸起
32 くりぬき部
52 サッシュ溝段部
53 サッシュ溝開口端縁」と記載され、

上記記載を基に、コーナ部断面図【図4】を見ると、「5 サッシュ〈ウィンドフレーム〉」には、本件発明の「アンダーカット溝」に対応する「52 サッシュ溝段部」が、「3 接続部〈コーナ型成形部〉」には、本件発明の「係合凸条」に対応する「31 抜け防止凸起」が明確に示されている。

(3) 対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、
両者は、
「車両のサイドドアに装着される車両用ガラスランにおいて、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランにおいて、ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備え、
前記押出部がゴム材料又は熱可塑性エラストマー材料(以下「TPE材料」)で形成され、前記コーナ型成形部が前記押出部の材料(以下「押出部材料」)より硬度が高いTPE材料で形成されてなる車両用ガラスラン。」である点で一致し、

A:本件発明の車両用ガラスランは、「ウィンドフレームのアンダーカット溝を備えたチャンネル内に嵌入されて、アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え」且つ、「コーナ成形部は前記押出部と同様な断面形状を有するとともに、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え」ているのに対して、刊行物1に記載された発明では、該構成についての明確な記載がない点と、
B:本件発明においては、「押出部材料の硬度がHs(JIS A)70〜80度で、前記コーナ型成形部のTPE材料の硬度がHs(JIS A)83度以上であり、両者の硬度差が3〜20度である」のに対し、刊行物1には、後成形材料〈コーナ型成形部のTPE材料〉の硬度をガラスラン本体〈押出部材料〉より高くした旨の記載はあるが、具体的な硬度Hs(JIS A)及び硬度差に関する数値が示されていない点で相違する。

しかしながら、
Aの相違点である「ウィンドフレームのアンダーカット溝を備えたチャンネル内に嵌入されて、アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え」且つ、「コーナ成形部は前記押出部と同様な断面形状を有するとともに、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え」ている構成は、既に当該分野では周知の構成であって、一例を示せば前記3(2)の周知例に示したとおりであるから、該構成を採用することは、当業者なら容易に設計できる程度の事項であると認められる。
Bの点に関しては、前記3(2)の刊行物3に示されているように、自動車用グラスランでは通常用いられる数値範囲内での限定であり、また、当該範囲に数値を限定することにより、その境界で臨界的効果が生ずるとも認められないから、該Bの相違点は単なる数値の限定にすぎないものと認められる。

(4) むすび
以上のとおり、本件発明は、上記刊行物1及び刊行物3に記載された発明と周知の事実に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
したがって、本件発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用ガラスラン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両のサイドドアにおけるウィンドフレームのアンダーカット溝を備えたチャンネル内に嵌入されて装着され、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条を備えるとともに、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランにおいて、
ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備え、該コーナ成形部は前記押出部と同様な断面形状を有するとともに、前記アンダーカット溝に嵌着係合する係合凸条備え、
前記押出部がゴム材料又は熱可塑性エラストマー材料(以下「TPE材料」)で形成され、前記コーナ型成形部が前記押出部の材料(以下「押出部材料」)より硬度が高いTPE材料で形成されてなり、
前記押出部材料の硬度がHS(JIS A)70〜80度で、前記コーナ型成形部のTPE材料の硬度がHS(JIS A)83度以上であり、両者の硬度差が3〜20度であることを特徴とする車両用ガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のサイドドア等に装着され、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランに関する。更に詳しくは、本発明は、ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備えた車両用ガラスランに関する。
【0002】
特に、押出部に滑性処理層が形成されたガラス摺接部を備えたガラスランに好適な発明である。ここでは、自動車のサイドドアに装着されるガラスランを例にとり説明するが、これに限られるものではなく、電車等の自動車以外の車両、例えば、鉄道車両、水上輸送船、等におけるガラス昇降窓にも適用可能である。
【0003】
【関連技術】
自動車のサイドドアに装着されるガラスラン12の一例を図1〜2に示す。図1は全体斜視図、図2は図1の2-2線部位装着態様断面図である。
【0004】
このガラスラン12は、ルーフ側及びピラー側の各押出部14、16(18)と、該押出部14、16(18)相互を接続するコーナ型成形部20(22)とを備えた構成である。即ち、ルーフ側押出部14の前後端に、ピラー側押出部16、18が、前・後のコーナ型成形部20、22を介して、相互に接続された構成である。
【0005】
ここで、ルーフ側押出部14は、図2に示すような断面形状を有し、ドアのウインドフレーム24におけるルーフ側の組付けチャンネル26内に強制嵌入され、アンダーカット保持されて組付けられている。ピラー側押出部16、18及び前・後コーナ型成形部20、22も、通常、ルーフ側押出部14と同様な断面形状を有するとともに、同様な断面形状の組付けチャンネル26に組付けられている。
【0006】
ここで、ガラスラン12は、その基本断面において、略チャンネル断面を構成するように、基底壁28と車内側・車外側立壁30、32、及び、各立壁30、32の先端から内側、基底壁28へ向かって突出する車内側・車外側摺接リップ34、36を備え、更に、基底壁28の両外側には、係合凸条38、38を備えている。この係合凸条38、38は、組付けチャンネル26の底部両側のアンダーカット溝26aに嵌着係合するものである。そして、基底壁28及び各摺接リップ34、36には、主としてガラス摺接性を担保するために滑性処理層40が形成されている。滑性処理層40としては、通常、ナイロンパイル等の植毛からなるものや、ウレタン塗装や超高分子量ポリエチレンシート貼着からなるものがある。
【0007】
上記において、押出部14、16、18をゴム材料で、型成形部20、22を熱可塑性エラストマー(TPE)で形成する技術が開示されている(特開平8-72556号公報等参照)。
【0008】
TPEとは、ガラス転移温度が常温以下である軟質相と、加熱時に溶融するが常温では凍結してゴムにおける架橋の作用を奏する硬質相とからなり、使用範囲温度でゴム状弾性を示す材料のことである。
【0009】
押出部16、18をゴム材料で形成するのは、摺接リップ34、36の窓ガラス42の両面に対する適度の撓み・ゴム弾性力を確保してシール性を担保するためである。特にゴム材料の内から、通常、エチレンプロピレンゴム(EPR)が選択して使用される。EPRは、耐候性に優れ、かつ、比重も小さくて自動車の軽量化に寄与するためである。
【0010】
型成形部20、22をTPEで形成するのは、離型するまでの硬化時間が、ゴムの加硫時間に比して短くて生産性の増大に寄与し、かつ、金型冷却させて硬化させるため、加熱加硫するゴム材料に比して滑性処理層40(上記例示のものは全て耐熱温度が加硫温度(約180℃)より格段に低い)が熱劣化する可能性が極めて小さいためである。
【0011】
上記公報においては、TPEのうち、ポリオレフィン系TPE(TPO)を使用することが開示されている。TPOは、EPR押出部の端末にプライマー処理等の端末処理をせずに、EPR押出部との間に所定の接着力を担保できる。TPOは、通常、軟質相となる非極性ゴム(EPR等)がブレンドされているため、EPR押出部中に含まれる加硫系薬剤が移行して、加硫接着するためである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記において、押出部を形成するゴムの硬度は、HS(JIS A)約70〜80度の範囲で、最も普通には75度前後であった。ゴム硬度が低過ぎると、剛性も相対的に低くなり、形態保持性が低くなって係合力を担保し難くなる。ゴム硬度が80度を超えると、押出材料の粘度が相対的に高くなり、ガラスランの断面形状を安定して押出すことが困難となるためである。ガラスランの断面形状は、上記の如く、複雑でしかも肉厚の差が大きいためである。
【0013】
また、コーナ型成形部20、22を形成するTPE材料は、その硬度が、上記ゴム硬度と略同じとなるものを使用していた。コーナ型成形部の硬度が、ピラー側押出部の硬度と略同じでないと、コーナ型成形部にピラー側押出部と同様のシール性が確保できないと言う思い込みがあったためと推定される。
【0014】
しかし、上記構成のガラスラン12の場合、昨今のガラスラン組付け作業改善の要望に応え難くなってきている。
【0015】
即ち、ガラスラン12の組付けチャンネル26への組付けに際して、ガラスラン12における係合凸条38の、組付けチャンネル26におけるアンダーカット溝26aへの嵌着係合の完了を確認し難く、いわゆる、クリック感を得難いためである。特に、コーナ型成形部20(22)の組付けチャンネル26への嵌着係合が不十分なままで、ルーフ側押出部14を順次組付けチャンネル26に組付けていくと、途中で、コーナ型成形部20(22)が組付けチャンネル26から脱落するようなことがあった。
【0016】
また、上記構成のガラスラン12は、コーナ型成形部20(22)の嵌着係合が完全な状態で組付けチャンネル26に組付けられても、長期間使用後には、窓ガラス42の昇降力により、コーナ型成形部20(22)が組付けチャンネル26から脱落することがあった。長期間使用後には、滑性処理層40が摩耗してガラスランを引張または押し上げる力が大きくなるためと推定される。
【0017】
本発明は、上記にかんがみて、ガラスランの組付け作業性が向上し、しかも、長期間使用後も、コーナ型成形部が脱落し難い車両用ガラスランを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の車両用ガラスランは、上記課題を下記構成により解決するものである。
【0019】
車両のサイドドア等に装着され、エラストマー材料で形成されてなる車両用ガラスランにおいて、
ルーフ側及びピラー側の各押出部と、該押出部相互を接続するコーナ型成形部とを備え、
押出部がゴム材料又はTPE材料で形成され、コーナ型成形部が押出部材料より硬度の高いTPE材料で形成されてなることを特徴とする。
【0020】
【発明の作用・効果】
(1)本発明のガラスランは、上記の如く、押出部がゴム材料またはTPE材料で形成され、前記コーナ型成形部が押出部材料より硬度の高いTPE材料で形成されてなることにより、下記のような作用・効果を奏する。
【0021】
コーナ型成形部の硬度が従来に比して高くなる、即ち、相対的に剛性が高くなり形態保持性が増大する。
【0022】
従って、ガラスランの組付けチャンネルへの組付けに際して、基底壁における両側係合凸条の、組付けチャンネルコーナ部におけるアンダーカット溝への嵌着係合の完了を確認し易くなり、即ち、クリック感を得易くなる。よって、ガラスランの組付け作業性が向上する。例えば、コーナ型成形部が、嵌着係合が不十分なままで、押出部を順次組付けチャンネルに組付けていくとき、途中で、コーナ型成形部が組付けチャンネルから脱落するようなおそれがない。TPEの硬度を高くしても、TPEはゴムに比して、滑り性が良好で、組付け作業性も良好である。
【0023】
また、上記構成のガラスランは、組付けチャンネルに組付けて自動車装着した後長期間経過後においても、コーナ型成形部が脱落し難くなる。上記の如く、ガラスランのコーナ型成形部における形態保持性の増大により、組付けチャンネルのコーナ部に対する嵌着係合力が増大するためである。
【0024】
(2)本発明のガラスランにおいて、更に、TPE材料の硬度をHS(JIS A)83度以上すれば、ガラスランの形態保持能の増大がより確実となり、上記作用・効果は、より確実に担保される。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明をする。前述例と同一部分または実質的に同一部分については、同一図符号を付すと共に、それらの説明の全部または一部を省略する。
【0026】
本実施形態のガラスラン12Aを、前述の同一形態のものについて説明する。【0027】
即ち、ルーフ側及びピラー側の各押出部14、16(18)と、該押出部14、16(18)相互を接続するコーナ型成形部20(22)とを備えた構成である。即ち、ルーフ側押出部14の前後端に、ピラー側押出部16、18が、前・後のコーナ型成形部20、22を介して、相互に接続された構成である。
【0028】
そして、本実施形態では、押出部がゴム材料で形成され、コーナ型成形部20、22が前記押出部材料より硬度が高い熱可塑性エラストマー(TPE)材料で形成されている。
【0029】
押出部材料としては、通常、耐候性の良好なEPR、クロロプレンゴム(CR)等のゴム材料を使用するが、TPEであってもよい。TPEとしては、ポリオレフィン系、スチレン系、トランス-1,4-ポリイソプレン系、1,2-ポリブタジエン系、ウレタン系、ポリエステル系等を挙げることができる。このとき、押出部の材料の硬度は、前述と同様、HS(JIS A)約70〜80度、望ましくは、約75度前後とする。特に、EPRのうち、少量の非共役ジエンを共重合させた三元共重合体EPR(EPDM)が望ましい。EPDMは、硫黄加硫で可能で、過酸化物加硫に比して、配合物調製・加硫工程における取扱性に優れている。
【0030】
硬度と正の関係にある形態保持性(硬度が高い程望ましい)と硬度と負の関係にある成形性とのバランスから、上記ゴム材料の硬度範囲を設定する。
【0031】
コーナ型成形部を形成するTPE材料としては、押出部材料をEPRとしたとき、前述と同様、加硫接着が可能なポリオレフィン系TPE(TPO)が望ましく、その内で、特に、軟質相が完全架橋または動的加硫タイプが、耐熱性、耐圧縮永久歪み性に優れ、また、後述の硬度HS(JIS A)83度以上のものが得易く望ましい。ゴム材料がEPRのとき、スチレン系、トランス-1,4-ポリイソプレン系、1,2-ポリブタジエン系等の非極性TPEの使用が、確認していないが、押出部との加硫接着が期待でき望ましい。これらのTPOの軟質相が、単位成分として共通するもの(二重結合・エチレン・プロピレン等)があるためである。具体的には、AES社から製造販売されている「サントプレン201-87」(硬度:HS(JIS A)90度)を好適に使用可能である。
【0032】
当然、押出部の端末を接着前処理(プライマー処理等)する場合は、ポリエステル系・ポリウレタン系・ポリアミド系・アイオノマー系TPE等の極性TPEの使用も可能である。この押出部端末の接着前処理をする場合でも、上記非極性TPEは、EPRと同じ非極性ポリマーに属し、所定の接着性を容易に得易く、望ましい。
【0033】
ここで、上記各TPE材料の硬度が、押出部材料の硬度より高い。通常、HS(JIS A)約83度以上、望ましくは、約85〜95度、さらに望ましくは、90度前後とする。そして、このときのゴム材料との硬度差は、3〜20度、望ましくは、5〜10度とする。83度未満では、本発明の効果、形態保持能を担保し難くなる。また、上限はTPEの本質から、HS(JIS A)99度相当とする。当該硬度より高いと、ゴム状弾性を型成形部に得難くなり、ガラス42に対するシール性に問題が発生しやすくなる。また、型成形部(TPE部)と押出部(ゴム部またはTPE部)との間の相対的に硬度差が大きすぎると、押出部と型成形部との間の十分な接着性能を確保し難くなるとともに、接続部にシール力の差(ギャップ)が発生し易くなり望ましくない。
【0034】
上記構成のガラスランは、従来と同様、それぞれ、ゴム押出物を所定長に裁断して形成したルーフ側押出部14及びピラー側押出部16(18)を、TPE用成形型(図示せず)にセットして、形成されたキャビティに所定のTPE材料を注入してコーナ型成形部20(22)成形すると同時に、押出部相互を型成形部を介して接着して製造する。
【0035】
ここで、型成形部20(22)の形状が複雑でも、TPE材料はゴム材料に比して流れ性が良好で、TPE材料の硬度が高くても成形性に問題が発生することはない。
【0036】
また、成形型は冷却型を使用するため、押出部16(18)の滑性処理層40が熱劣化するおそれはほとんどない。なお、コーナ型成形部20(22)における少なくともピラー側押出部16(18)と接続する側の基底壁28には、滑性処理層40を後処理により形成しておく。ピラー押出部16(18)側における基底壁28の滑性処理層40は、窓ガラス42の端面が摺接するため、窓ガラス42の両面が摺接する車内側・車外側摺接リップ34、36に比して高度の滑り性(摺接性)が要求されるためである。
【0037】
このコーナ型成形部22Aの成形に際し、ルーフ側押出部14及びピラー側押出部18部の基底壁(ガラス42の端面が摺接する)28を残して段カットした形で成形型(図示せず)にセットして、成形することが望ましい。コーナ型成形部22におけるピラー側押出部16(18)と接続する基底壁28の滑性処理層40を形成するための後処理が不要となるとともに、ピラー押出部16(18)に形成する滑性処理層40が、窓ガラス42の略上死点位置まで連続して形成される結果となり、窓ガラス42の摺接性および滑性処理層40の耐久性が向上する。
【0038】
本実施例のガラスラン12Aは、従来と同様にして、組付けチャンネル26に組付ける。
【0039】
この際、コーナ型成形部20(22)の硬度が従来に比して高くしてあるため、基底壁28における両側係合凸条38の、組付けチャンネル26コーナ部におけるアンダーカット溝26aへの嵌着係合の完了を確認し易くなり、即ち、クリック感を得易くなる。例えば、コーナ型成形部20(22)の組付けチャンネル26への嵌着係合が不十分なままで、ルーフ側押出部14を順次組付けチャンネル26に組付けていくとき、途中で、コーナ型成形部20(22)が組付けチャンネル26から脱落するようなおそれがない。
【0040】
また、上記実施形態のガラスラン12Aは、組付けチャンネル26に組付けて自動車に装着した後、長時間経過した後においても、コーナ型成形部20(22)が組付けチャンネル26から脱落し難くなる。上記の如く、ガラスラン12Aのコーナ型成形部20(22)における形態保持性の増大により、組付けチャンネル26のコーナ部に対する嵌着係合力が増大するためである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明を適用するガラスランの一例を示す斜視図
【図2】
図1の2-2線部位の断面図
【図3】
本発明における型成形部を別態様としたガラスランの切り欠き部分斜視図
【符号の説明】
12(12A) ガラスラン
14 ルーフ側押出部
16、18 ピラー側押出部
20 前コーナ型成形部
22(22A) 後コーナ型成形部
26 組付けチャンネル
28 ガラスランの基底壁
30 ガラスランの車内側立壁
32 ガラスランの車外側立壁
34 ガラスランの車内側摺接リップ
36 ガラスランの車外側摺接リップ
40 滑性処理層
42 窓ガラス
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-10 
出願番号 特願平8-207326
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B60J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 柳田 利夫  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 鈴木 法明
ぬで島 慎二
登録日 2002-04-12 
登録番号 特許第3296197号(P3296197)
権利者 豊田合成株式会社
発明の名称 車両用ガラスラン  
代理人 江間 路子  
代理人 飯田 昭夫  
代理人 江間 路子  
代理人 飯田 堅太郎  
代理人 飯田 昭夫  
代理人 飯田 堅太郎  

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