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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 G01B 審判 一部申し立て 特29条の2 G01B |
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管理番号 | 1099770 |
異議申立番号 | 異議2003-71954 |
総通号数 | 56 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-11-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-01 |
確定日 | 2004-07-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3373327号「異物検査装置」の請求項1〜3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3373327号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3373327号の請求項1〜17に係る発明についての出願は、平成7年4月24日に出願され、平成14年11月22日にその発明について特許権の設定登録がなされ、平成15年2月4日に特許公報が発行され、同年8月1日付けで特許異議申立人 佐藤隆由 より請求項1〜3に係る特許について特許異議の申立てがなされた。 第2.本件発明 本件の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 被検査対象の被検査面に対してほぼ平行な軸を光軸とするように配置され、前記被検査面に対してS偏光となるようにビームを照射する照明部と、前記照明部により照射された領域を検出し、前記照明部の光軸と前記被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置で、前記被検査面とのなす角が45°以内となるように配置され、前記照明部の光軸に対して前記回転の角度で固定された光軸を有し、前記被検査面に付着した異物からの散乱成分中のS偏光成分でありかつ光軸方向に広がる成分を検出し、光電変換する検出部とを具備する異物検査装置。 【請求項2】 前記照明部は、レーザー光源と、前記レーザー光源からの光を平行光化するコリメータレンズと、偏光子と、平行光をライン状に結像し前記被検査面を後側の焦点面とするシリンドリカルレンズとを含み、前記検出部は、前記シリンドリカルレンズの後側焦点面を前側の焦点面とする対物レンズと、検光子と、結像レンズと、前記結像レンズの結像面に配置されたラインセンサとを含む請求項1記載の異物検査装置。 【請求項3】 前記ラインセンサからの出力信号をA/D変換するA/D変換回路と、異物を検出するために予め設定されたしきい値を記憶しているメモリ回路と、前記A/D変換回路の出力と前記メモリ回路に記憶されたしきい値とを比較し、異物を検査する信号比較回路とを含む信号処理部を具備する請求項1又は2記載の異物検査装置。」 第3.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人佐藤隆由は、証拠として 甲第1号証:「超LSI製造・試験装置ガイドブック-1988年版- 電子材料別冊」, 工業調査会発行(昭和62年11月18日) 甲第2号証:丸谷洋二著,「目視検査の自動化技術」,日刊工業新聞社発行 (昭和62年1月13日) 甲第3号証:特開昭60-67845号公報 甲第4号証:特開平7-146245号公報(特願平6-76237号) 甲第5号証:特開平2-38951号公報 を提出し、 理由1.本件の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証及び甲第5号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものであること、 理由2.本件の請求項1及び請求項3に係る発明は、その出願の日前に出願され、その出願後に出願公開された他の出願である特願平6-76237号(甲第4号証である特開平7-146245号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものであること、 を主張している。 なお、特許異議申立書1頁の「3.申立の理由」では、「特許法第29条の2(請求項1〜3)」となっているが、これは同申立書全体の記載(特に、6頁10〜11行の「5.申立ての根拠」における「(2)請求項1,3 条文第29条の2(先願発明との同一性,特許法第113条第2号)、及び27頁7行の「(3)本件発明の請求項1,3と甲第4号証の同一性」を参照)からみて、「特許法第29条の2(請求項1,3)」の誤記であることは明らかである。 第4.甲第1号証〜甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明及び先願明細書(甲第4号証参照)に記載された発明 1.甲第1号証(「超LSI製造・試験装置ガイドブック-1988年版- 電子材料別冊」,工業調査会発行(昭和62年11月18日))には、異物検査装置に関する発明であって、図面とともに以下の事項が記載されている。 (1a)「(2)マスク検査用 PD-1000(日立製作所),HILIS-500(日立エンジニアリング),AM-5(日本光学),MBX-300(Quantronix)は,パターンのあるマスクに付着した異物を検査する装置である。 パターンのあるマスクの異物検査は,パターンによる散乱光と異物による散乱光を区別する必要がある。図5にPD-1000の検出原理を示す。マスクに斜め方向からS偏光レーザを照射し,その方向と90°方向に検出光学系を配置すると,斜めパターンのエッジからの正反射光はP偏光となり,かつその強度が最も大きくなる。このためP偏光を遮蔽し,S偏光のみを透過する検光子を介して散乱光を検出する。異物からの散乱光と斜めパターンのエッジからの散乱光では,S偏光とP偏光の比率が異なるため,斜めパターンからの影響を無視することができるので,微小異物の検出が可能となる。」(198頁右欄32-42行) (1b)「現在,自動パターン欠陥検査装置として実用化されている方式は, (1)基準パターン比較方式 (2)設計データ比較方式 に大別される。 以下に,上記方式により商品化されているものについて概略を述べる。」(199頁左欄6行〜右欄6行) (1c)図5(a)に、S偏光レーザの照射方向と90°方向では、斜めパターンからの反射光はP偏光となり、検光子によって消光されること、及び、図5(b)に、異物からの散乱光はS,P混在となり、S偏光成分が検光子を通過し検出される様子が示されている。(199頁) 2.甲第2号証(丸谷洋二著,「目視検査の自動化技術」,日刊工業新聞社発行(昭和62年1月13日))には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (2a)「1.4.2 光の散乱 透明媒体に浮かんだ粒子や,きれいに研磨された平面に付着した粒子に平行光を照射すると,光散乱が起こる.散乱現象が起こると入射した方向以外にも光が進行するようになる.これを利用すれば微小粒子の検出が可能となる.どの方向に,どのくらいの強度で散乱するかは,粒子の寸法によって異なる. 粒子の半径aが,光波長λに対してa<0.1λを満たすほど微細な場合,散乱光の照度は容易に計算できる.この状態での散乱をレーリー散乱とよぶ.図1.10のように入射光と散乱光との角をθとする.粒子から距離r離れた点での観測面における光エネルギー密度Eθは, Eθ=K・(1+cos2θ)/λ4r2 (K:定数) (1.4) と表わされる.θを0から2πまで変化させてEθをしらべると,図1.11のようなまゆ型の光放射パタンとなることがわかる. レーリー散乱のときは,入射光の側へも等分の散乱が起こる(これを後方散乱という)が,粒子の径が大きくなると進行方向への散乱成分(前方散乱)が増加してくる.0.1λ<a<10λの領域での散乱をミー散乱と呼ぶ.この領域は簡単には数式で記述できないので,省略する.図1.11を参照していただきたい.」(第9頁第5〜20行) (2b)図1.11には、粒子の半径aと光波長λの比が0.1から10へと大きくなるに従って、前方散乱成分が大きくなる様子が示されている。 (2c)「4.2 比較基準データの表現法」の項目には、「比較基準データの発生法は図4.1のように大きく2つにわけられる.1つは(a)に示すように検査中のワークそのものから抽出する方法である.これはワークの大部分が正常で,局所的に小さい欠陥部があるような場合に適用できる.この場合には,検査装置に組み込んであるアルゴリズムにしたがって検査装置がワークから得られるセンサ信号の中から比較基準データを抽出または合成し,ワーク全体の検査を行う. 他の1つは検査に先立って良品のデータを検査装置に与えて,あらかじめ比較基準データを生成しておく方法である.この方法は局所的な欠陥も全体に及ぶ欠陥も検出できる.しかし,ワークの位置決めを厳密に行なわねばならない場合が多い. 」(54頁9〜20行) (2c)「7.2 ラインセンサによる表面欠陥検査装置 この装置はラインセンサで撮像した信号に急変部分があると不良判定を行う.図7.5に示すようにワークをラインセンサに対し直角方向に搬送するメカと組み合わせて使用する.筒状のワークは回転機構を用いて全周検査を行う.ワークを均一照射すれば表面汚れが,また斜方照明にすれば表面の凹凸異常が検出される。」(102頁8〜15行) 3.甲第3号証(特開昭60-67845号公報)には、異物検査装置に関する発明であって、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (3a)発明の背景として、「一般に薄膜2上の異物からの散乱光にはかなり指向性がある。この指向性について第2図により説明する。レーザ4による異物6からの散乱光はレーザ光4の進行方向に逆行する散乱光すなわち後方散乱光12の光強度がもっとも小さく、レーザ光4の進行方向とほぼ直交する方向に進む散乱光すなわち側方散乱光13の光強度は後方散乱光の光強度よりやや大きい程度である。一方、レーザ光の進行方向への散乱光すなわち前方散乱光14の光強度が最も大きく、他の方向の散乱光強度に比較して10倍から100倍にも達する。」(2頁右上欄16行〜左下欄7行) (3b)「(発明の概要) 本発明の異物検査装置は、光ビームを例えば薄膜等の被検査物表面に対してほぼ水平に照射する照射手段と、光ビームが被検査物表面に存在する異物を照射したとき、その異物からの散乱光強度の大きい前方散乱光を受光し、さらに被検査物及びその支持体等からの迷光を受光しないように配置した光学手段と、この光学手段によって集光した光を光電検出する光電検出手段とを備えて、光電検出手段の検出信号に基いて被検査物表面上の異物を検出するものである。」(2頁左下欄19行〜右下欄9行) (3c)照射部として、「レーザ光源3から出たレーザ光4は第1図に示した従来例の場合と同様にフォトマスク1に貼られた薄膜2の表面に対して0度ないし10度の角度すなわち、ほぼ平行に入射して、薄膜2のx方向に帯状照明部5を形成する。…この楕円形のレーザ光4を薄膜2に照射するときには、レーザ光4の長径方向が薄膜2の表面と垂直方向と一致するようにする。このことによりフォトマスク1をy方向すなわち矢印11方向に移動したときに、わずかに薄膜2の表面が上下動しても帯状照射部5は安定して薄膜2の表面上に形成されている。さらに薄膜2の表面がわずかにうねっていた場合であっても同様に安定した帯状照射部5を形成することができる。 なお断面が円形のレーザ光を使う場合はシリンドリカル・レンズ等を用いて断面を楕円形状に変換しても同様である。… また半導体レーザの特性から薄膜2への入射光はS波直線偏光となるが、これにより薄膜2からの反射を高めて、迷光の発生を減少することができ、異物の検出に好都合である。」(2頁右下欄15〜3頁左上欄5行) (3d)検出手段として、「光学手段は異物6からの前方散乱光を結像レンズ7により集光して、一次元イメージセンサ8にフォトディテクタ列10を配置した光電検出手段のフォトディテクタ列10上に、異物6の像を結像する。なお、前方散乱光とは第2図のように、レーザ光4の進行方向に一致した異物6を通る入射軸を中心として、立体角0°〜45°程度の範囲内に生じる散乱光のことを意味する。ここで装置を小型にするために、一次元イメージセンサー8のフォトディテクタ列10の受光面を薄膜2の平面と直交させる。このために結像レンズ7は光軸を傾けるいわゆる煽りによって帯状照射部5を全て一次元イメージセンサ8のフォトディテクター列10に合焦させている。 また薄膜2の支持枠等からの正反射および回折光が入射レーザ光4を含むx-z平面に強く放射されるが、この光は迷光の原因となる。この迷光の受光を防ぐためには結像レンズ7の開口部が入射レーザ光4を含む平面、x-z平面にないことが必要である。このため第3図(イ)(ハ)に示すように帯状照射部5とフォトディクター列10を含む平面と、前記レーザ光4を含むx-z平面とのなす角θを10ないし80度、特に45度近傍に選んでいる。」(2頁右上欄10行〜左下欄9行) (3e)信号処理として、「第5図において8aは一次元イメージセンサ8の自己走査式のコントロール部であり、フォトディテクタ列10の各画像の読み出し開始に先立って出力するトリガ信号TRGと、フォトディテクター列10の各画素の読み出しクロック信号CLKを出力する。20は折れ線近似曲線発生回路で、第6図に示すように、トリガ信号TRGでクリアされ、クロック信号CLKを順次計数するカウンタ30と、カウンタ30の出力をアナログ電圧に変換するDA変換器及びこのDA変換器31の出力電圧を折れ線近似により曲線状にする、ダイオード等を用いた関数電圧発生器32から構成して、第4図に示した位置zに対する基準電圧Vrを発生する。21はフォトディテクタ列10からの光電信号を増幅する増幅器である。22はコンパレータで増幅器21の出力信号S1を折れ線近似曲線発生回路20からの基準電圧Vrで2値化し、異物検出信号S2を出力する。23は増巾器21の出力信号S1をA-D変換してデジタル値PDとしてCPU25に出力するAD変換器である。」(4頁左上欄2行〜右上欄1行) (3f)「その他の変形例として、第12図に示したように一次元イメージセンサを配置しても良い。第12図において、一次元イメージセンサ8の位置は前述実施例の場合の配置である。レーザ光4の被検査面、すなわち薄膜のxy平面上の入射角をlとすると、帯状照射部の中心Cと一次元イメージセンサ8を結ぶ線l1が入射軸lとなす角度θは0度乃至45度の範囲にあり、好ましくは20乃至30度が良い。…さらに中心Cを通り、xy平面上で角度θをなす軸l3上に一次元イメージセンサ8bを配置しても良い。さらに入射軸lを含むxz平面に関して一次元イメージセンサ8と面対称の位置に一次元イメージセンサ8cを配置してもよい。 いずれにしろ、中心Cを頂点とする円錐形を考えて、一次元イメージセンサ8,8a,8b,8cが角度θ(0°<θ<45°)をなす立体角上にあれば、異物や表面の微小凹凸からの前方散乱光を受光できる。」(7頁左上欄19行〜左下欄4行) 4.先願明細書(甲第4号証である特開平7-146245号公報参照)には、異物検査装置に関する発明であって、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (4a)従来技術として、「【0009】また、この半導体ウエハ2の上方には各ラインセンサ7が配置されている。これらラインセンサ7はレーザ光の走査方向に対して平行でかつ図22のようにレーザ光の照射位置に対して角度φ1 (5°≦φ1 ≦40°)の角度の散乱光を受光する位置に配置されている。これらのラインセンサ7から出力される電気信号は検出部23に送られている。 【0010】この検出部23は各電気信号を受けてこれらの電気信号から半導体ウエハ2の表面の傷や異物の付着の有無などを判断する機能を有している。」(段落【0009】〜【0010】) (4b)「【0077】図12及び図13に示すとおり、P偏光の光束とS偏光光束との双方は共に半導体ウエハ70の表面に対して角度φ5 が略5°乃至略20°の角度で入射さるようにレーザ照射系61を設定する。この際P偏光の光束とS偏光光束との双方は、検出時に影響を及ぼさないために、シャッタ73によってお互いに遮断されている。… 【0079】検出系63は検出器(第1の検出器)77と検出器(第2の検出器)78とから構成される。各検出器77・78はファイバプレート79・80によって半導体ウエハ74から発生する散乱光を集光し、光電子増倍管81・82によってこの散乱光を検出する。なお、ここでは検出器77はレーザスポット71からの散乱光を検出するように配置されており、検出器78はレーザスポット72からの散乱光を検出するように配置されている。… 【0081】一方、図13に示すとおりS偏光の光束によるレーザスポット72を中心に半導体ウエハ70の表面に対してφ7 が略10°乃至略20°の角度で配置され、S偏光の光束によるレーザ入射面に対してはθ4 が略115°乃至略155°の角度で配置されている。 【0082】信号処理系64はハードウエア部とソフトウエア部とによって構成されている。ハードウエア部は検出された半導体ウエハ70からの散乱光による信号を、この信号のインタフェース回路84における分解能を上げるために増幅する増幅回路83と、この信号をA/D 変換してその結果をコンピュータ85に取り込むためのインタフェース回路84と、コンピュータ85とによって構成されている。ソフトウエア部はコンピュータ85に取り込んだ前記の散乱光による信号(ディジタル値)を演算処理し、異物の有無と、異物の位置と、異物の大きさとを判別するデータ処理プログラムにより構成されている。なお、このコンピュータ85は図示しない制御手段によって走査系62の制御も行っている。 【0083】本実施例の作用は次のとおりである。まず、レーザ発振器65から出射したレーザ光はPBS67によりP偏光の光束とS偏光の光束とに分けられ、反射ミラー68…と集光レンズ69・69とによって被検査体である半導体ウエハ70表面に対して角度φ5 が略5°乃至略20°の角度で入射され、レーザスポット71・72を形成する。 【0084】ここでφ5 が略5°乃至略20°の角度となる理由は、異物の存在しない半導体ウエハ70の表面からも、半導体ウエハ70の表面に生じている微小な粗さ(表面粗さ)によって散乱光が生じてしまうためである。これが雑音成分(ノイズ)として検出される。この雑音成分を少なく押さえてS/N を向上させるには、レーザ光の入射角φ5 が大きい(半導体ウエハ70の表面に対して60°乃至80°くらい)よりもレーザ光の入射角φ5 が小さい(半導体ウエハ70の表面に対して5°乃至20°くらい)のほうが良くなるためである。模式図を図14に示す。… 【0086】この際レーザスポット71・72の照射面に異物が存在すると、この異物によってレーザ光が強く散乱される。検出器77によりP偏光の光束によるレーザスポット71内で発生した散乱光は検出され、検出器78によりS偏光の光束によるレーザスポット72内で発生した散乱光は検出される。 【0087】このようにして検出された散乱光による信号は、それぞれ光電子増倍管81・82で光電変換され、さらに増幅回路83で検出信号が増幅され、インタフェース回路84を経由してコンピュータ85に取り込まれる。」(段落【0077】〜【0087】) (4c)S偏光かP偏光を選択するための閾値について、「なお、Siウエハの表面に金属膜が形成されていたり、Siウエハの表面に酸化膜が形成されている場合にも、このウエハの表面に付着する異物の直径の閾値が異なるだけであり、異物の直径がこの閾値を越えるか越えないかによって、参照データをP偏光に基づくものかS偏光に基づくものかを判断するという作業には変わりはない。」(段落【0094】) (4e)「ここで上記の実施例の全てに当てはまることであるが、Ar+ レーザではなくてHe-Cd レーザ(波長:442nm)やHe-Ne レーザ(波長:633nm)などの他の種類のレーザを用いることも出来る。そして直線偏光を出力するレーザを使用するのではなくてランダム偏光を出力するレーザに偏光子を組み合わせてP偏光やS偏光を発生させても良い。また受光素子は光電子増倍管33・57・59・81・82ではなく半導体光センサなどに変えても良い。加えて被検査体は半導体ウエハを例に挙げたが検査対象はこれに限定されず、液晶基板でも良いし、曲面部を有するものでも本発明の異物検査装置を用いることは可能である。」(段落【0104】) 5.甲第5号証(特開平2-38951号公報)には、異物検出装置に関する発明であって、図面ととも、以下の事項が記載されている。 (5a)「[作用] 異物検出装置において、照明光を集光レンズ、円筒レンズ等を用いた光学系で線状スポットにする。また結像レンズと被検査物との間に設置したハーフミラーで被検査物表面に落射照明する。これにより、結像レンズ表面での照明光の反射がなくなり、一次元撮像素子上に迷光が達しないので、異物検出のS/Nが大幅に向上し、また、ガルバノミラー等の偏光器を用いたスポット走査に比べ、検査時間の短縮や異物の安定検出が行える。」(3頁左下欄18行〜右下欄7行) (5b)「第1図は、本発明による異物検出装置の概要構成を示している。ここで、試料7は回路パターンを含むマスクやレクチル等のガラス基板やウエハ、あるいはプリント基板、磁気ディスクであるものとする。 斜方照明系5aは、光源1,集光レンズ2,円筒レンズ3,照明レンズ4より成り、試料7の表面を斜上方18(θ=10〜80度)より照明し、試料表面に線状スポット8を形成する。一方、この線状スポット8の垂直方向には、結像レンズ9,遮蔽板10,検出器11から成る検出系が配置されており、試料7の表面の線状スポット8と検出器11の受光面は結像レンズ9によって結像関係になっている。これにより、線状スポット8内に存在する異物(図示せず)が照明光により散乱光を発生し、その像が検出器11上に投影されて検出される様になっている。ここで用いている検出器11は例えばCCD,フォトダイオードアレイ等の自己走査蓄積形の一次元固体撮像素子である。」(4頁左上欄11行〜右上欄9行) 第5.対比・判断 1.理由1(特許法第29条第2項違反)について 1-1 本件発明1について 本件発明1と甲第1号証〜甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明を対比すると、甲第1号証〜甲第3号証、甲第5号証には、いずれも本件発明1の、検出部が「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置で被検査面とのなす角が45°以内となるように配置され、前記被検査面に付着した異物からの散乱成分中のS偏光成分でありかつ光軸方向に広がる成分を検出」する点について記載も示唆もされておらず、この点が容易になし得るものであるということはできない。 すなわち、甲第1号証に記載された発明は、S偏光レーザを照射した方向と90°方向に検出光学系を配置し、異物からの側方散乱光を検出するものであるから、本件発明1の構成要件である「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置」で異物からの散乱成分を検出するものではない。 しかも、甲第1号証に記載された発明は、「S偏光レーザの照射方向と90°方向では、斜めパターンからの反射光はP偏光となる」という前提のもとに、検光子により斜めパターンのエッジからの正反射光であるP偏光を遮蔽するというものであるから、検出光学系を「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置」に配置し、前方散乱光を検出するよう変更することは、示唆されてないというべきである。 甲第2号証には、粒子の径が大きくなると前方散乱が増加するという周知の技術事項が記載されているのみで、本件発明1の「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置で被検査面とのなす角が45°以内となるように配置され」るものでもなく、「被検査面に付着した異物からの散乱成分中のS偏光成分でありかつ光軸方向に広がる成分を検出」するものでもない。 甲第3号証には、摘記事項(3f)中に「中心Cを頂点とする円錐形を考えて、一次元イメージセンサ8,8a,8b,8cが角度θ(0°<θ<45°)をなす立体角上にあれば、異物や表面の微小凹凸からの前方散乱光を受光できる。」と記載されており、このことは被検査面とのなす角が45°以内となるように検出部である一次元イメージセンサを配置し前方散乱光を検出することに他ならない。そして、上記摘記事項(3f)の「xy平面上で角度θをなす軸l3上に一次元イメージセンサ8bを配置」する点を採用した場合には、「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から135°〜180°回転した位置」に配置することとなり、本件発明1の検出部の配置である「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置」と部分的に角度範囲を重複する。しかし、甲第3号証には、散乱成分中のS偏光成分を検出する点が記載されておらず、また、前記角度範囲についても部分的に重複する角度範囲を含んでいるものの、甲第3号証の記載は、角度範囲を120°〜160°の範囲内に納めることを示唆するものではない。 甲第5号証に記載された発明は、試料7の表面を斜上方18より照明し、垂直方向に検出系が配置されるものであり、本件発明1の「照明部の光軸と被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から120°〜160°回転した位置で被検査面に付着した異物からの散乱成分を検出する」ことについて記載も示唆もされておらず、「被検査面とのなす角が45°以内となるように検出部が配置され、前記被検査面に付着した異物からの散乱成分中のS偏光成分でありかつ光軸方向に広がる成分を検出」するものでもない。 そして、本件発明1は、「前方散乱光を検出することができ、従来方式に比較して異物の存在を表す信号の量が数百倍以上に大きくなる。一方、被検査面のパターンからの反射光は、傾斜角が大きいため、検出部にほとんど入射せず、被検査面のパターンからの反射光によるノイズを小さくすることができる。その結果、高精度に異物の存在を検査することができる。」(段落【0103】)という本件明細書記載の作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1が、甲第1〜3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 なお、異議申立人は、特許異議申立書において、「この甲第1号証のS偏光照射-S偏光検出の異物検出装置の周知技術を知った当業者は、その人がたとえ初心者であったとしても、精度よく異物を検出する課題を解決するために、甲第3号証の第(2)頁左下欄第1行目〜第7行目された、側方散乱光の検出よりも前方散乱光の検出の方が光強度が10倍から100倍にも達する記載を読んだときに、甲第1号証における側方散乱光検出を側方から前方散乱光に変えて、試すことは極めて必然的な過程であり、極めて容易である」(特許異議申立書24頁17〜22行)、及び「また、甲第2号証には、構成要件F’〜H’として、その第9頁の「1.4.2 光の散乱」には、入射光に対して表面に付着した粒子(異物)に平行光を照射した場合の前方散乱の散乱光の強度について増加する記載がある。しかも、その図1.11においては入射光の光軸に対して前方散乱光、すなわち120°〜160°回転した前方位置での散乱光(前方散乱光)が高い状態になっていることが示されている。なお、散乱光の光強度についてθを0から2πまで変化させる記載がここにあるので、120°〜160°回転した前方位置での選択は、最適な角度を選択するものとして当業者にとっては設計事項である。」(特許異議申立書第26頁7〜14行)と主張している。 しかし、上記のとおり、甲第1号証に記載された発明は、「S偏光レーザの照射方向と90°方向では、斜めパターンからの反射光はP偏光となる」という前提のもとに、検光子により斜めパターンのエッジからの正反射光であるP偏光を遮蔽するというものであるから、異議申立人が主張するように、甲第1号証における側方散乱光検出を側方から前方散乱光に変えることが当業者にとって容易であるとすることはできない。しかも、甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証には、異物検査装置において、散乱光が高S/N比で得られる最適な方位角の範囲を120°〜160°の範囲内に納めることについて開示も示唆もされていない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 1-2 本件発明2,3について 本件発明2,3は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記「1-1 本件発明1について」で示した理由と同じ理由により、甲第1〜3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 2.理由2(特許法第29条の2違反)について 2-1 本件発明1について 本件発明1と先願明細書に記載された発明を対比すると、先願明細書には、上記摘記事項(4a)〜(4c)からみて、「被検査対象の被検査面に対して略5°乃至略20°の角度で入射するように配置され、前記被検査面に対してS偏光とP偏光の双方のビームを照射する照明部と、前記照明部により照射された領域を検出し、前記照明部のS偏光ビームについては、その光軸と前記被検査面との交点を中心として前記照明部の光軸の位置から略115°乃至略155°回転した位置で、前記被検査面とのなす角が略10°乃至略20°の角度となるように配置され、前記照明部の光軸に対して前記回転の角度で固定された光軸を有し、前記被検査面に付着した異物からの散乱成分中の光軸方向に広がる成分を検出する異物検査装置」が記載されている。しかし、先願明細書には、本件発明1の要件である、「異物からの散乱成分中のS偏光成分を検出する」ことについて記載されていない。 そして、本件特許明細書に「この前方散乱光は、図示したように、絶対強度が強く、かつ、検出面16のS偏光レーザー光17を高い比率で含んでいる。そのため、後方や側方等の他の方向に検出方向ベクトル15を設定する場合と比較して、高い信号強度を得られる。」(段落【0044】)及び「表1から明らかなように、入射面のS偏光レーザー光13を用いて被検査基板1を照明し、検出面のS偏光レーザー光17を用いて検査を行う場合、異物24からの信号強度が高く、パターン23からのノイズが低いので、異物24の存在を高いS/Nで検査することができる。」(段落【0049】)と記載されているとおり、本件発明1は、異物からの散乱成分中のS偏光成分を検出することにより、異物24の存在を高いS/Nで検査することができるという作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1が、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。 なお、異議申立人は、先願明細書(甲第4号証)の段落【0086】〜【0087】の記載に基づき、「したがって、ここには、S偏光成分が検出器78により検出される記載とそれが光電子増倍管82で光電変換される記載があるので、本件発明の構成要件Cの「前記被検査面に付着した異物からの散乱成分中のS偏光成分でありかつ光軸方向に広がる成分を検出し、光電変換する検出部を具備する異物検査装置」が記載されている」(特許異議申立書20頁19〜23行)とし、本件発明1は、特許法第29条の2の、いわゆる先願発明に記載された発明と同一であるので取り消されるべきものである旨主張する。 しかし、先願明細書(甲第4号証)の段落【0086】の記載「検出器78によりS偏光の光束によるレーザスポット72内で発生した散乱光は検出される。」からみれば、S偏光の光束によるレーザスポットから発生する散乱光を光電変換することと解されるから、このレーザスポットからの散乱光のうちのS偏光成分を光電変換するものではない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 2-2 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記「2-1 本件発明1について」で示した理由と同じ理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜3についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2004-07-01 |
出願番号 | 特願平7-98547 |
審決分類 |
P
1
652・
16-
Y
(G01B)
P 1 652・ 121- Y (G01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡田 卓弥 |
特許庁審判長 |
杉野 裕幸 |
特許庁審判官 |
三輪 学 福田 裕司 |
登録日 | 2002-11-22 |
登録番号 | 特許第3373327号(P3373327) |
権利者 | 松下電器産業株式会社 |
発明の名称 | 異物検査装置 |
代理人 | 坂口 智康 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 岩橋 文雄 |