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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H05K
管理番号 1100290
審判番号 無効2001-35063  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-02-15 
確定日 2004-05-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2713554号発明「ヒートシンク装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2713554号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 一.手続の経緯
本件特許第2713554号(以下、「本件特許」という)は、昭和60年8月29日出願の特願昭60-190818号の一部を、平成6年11月1日付で、特許法第44条第1項に規定する新たな特許出願としたものに係り、平成9年10月31日に設定登録されたものである。
本件特許について、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、平成13年2月15日付けで山洋電気株式会社より本件審判が請求されたが、これに対して被請求人より、平成13年5月14日付けで、願書に添付した明細書についての訂正請求がされると共に、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める趣旨の答弁がされている。

二.訂正請求について
1.訂正の要旨
上記平成13年5月14日付訂正請求における訂正の要旨は、次のイ〜ホのとおりである。
イ 願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という)の特許請求の範囲における、請求項1について、冒頭の「略四辺形状のヒートシンク基盤と」とある記載を、「略四辺形状の、一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と」と訂正する。
ロ 同じく請求項1の「前記ヒートシンク基盤に外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状のフィンと」とある記載を、「前記ヒートシンク基盤の他方の面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状フィンと」に訂正する。
ハ 同じく請求項1の「ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段とを備え、」とある記載を、「ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に、ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、」に訂正する。
ニ 同じく請求項1の「前記複数のフィンは長さの異なるフィンを含んでいるとともに内端部輪郭形状は円形であり」という記載を、「前記複数の板状フィンは、前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり」に訂正する
ホ 特許明細書の「発明の詳細な説明」の欄において、上記イ〜ニの訂正事項に関連する箇所(【0009】欄「課題を解決するための手段」、【0019】欄「発明の効果」の各項)について、当該イ〜ニの訂正趣旨に対応する訂正を行う。
2.訂正請求の適否と本件特許発明の認定
(1)訂正の目的
上記イ〜ニの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、上記ホの訂正事項は、明細書の前後における齟齬を解消しようとするもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
(2)新規事項の有無
先ず、上記イ及びロの訂正事項は、登録時における特許明細書の【0012】欄及び図1〜3に実質上記載された事項の範囲内において、訂正しようとするものと認められる。
次にハの訂正事項について検討すると、本件無効審判請求人は、当該訂正事項に係る「ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファン」については、特許明細書または図面に記載された事項とはいえない旨を主張しているが、図面のうち、特に、図2には、「フィン1a」の内端部の一部と「ファンの半径方向の外端部」とが、「直接対向するように」配置されることが明示されており、上記ハの訂正事項は、特許明細書【0012】〜【0014】欄及び図1、2に、実質上記載された事項の範囲内において、訂正しようとするものと認められる。
また、本件無効審判請求人は、上記ニの訂正事項に係る「前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」ことについても、特許明細書または図面に記載された事項とはいえない旨を主張しているが、図面のうちの、特に、図1に記載されているいずれの「フィン1a」の設置状態をみても、フィンの「外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」ことが示されているのは明らかで、少なくともその限りにおいては、上記ニの訂正事項は「図1に記載された事項の範囲内」のものでないとはいえない。
そして、上記イ〜ニの訂正事項が特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内で訂正しようとするものと認められる以上、上記ホの訂正事項も、上記他の訂正事項と同様に、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内で訂正しようとするものといえる。
(3)拡張、変更の有無
上記イ〜ホの各訂正事項の内容は、その訂正の趣旨からみて、特許明細書に記載されている発明の目的の範囲を逸脱するところはなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものとはいえない。
(4)訂正事項の適法性と訂正請求の認容
上記(1)〜(3)で検討したところによれば、上記各訂正事項は、特許法第134条第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであって(上記(1)での検討)、特許法第134条第4項で準用され、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定により適用される、同法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き(上記(2)での検討)、同じく同条第2項(上記(3)での検討)の各規定に適合しているので上記訂正の請求は認容される。
(5)本件特許発明の認定
上記のとおり、訂正請求が認容されることによって、上記平成13年5月14日付の訂正請求書に添付された訂正明細書を願書に添付した明細書として、本件特許発明の要旨は、当該明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「略四辺形状の、一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と、前記ヒートシンク基盤の他方の面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状フィンと、前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に、ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、前記複数の板状フィンは、前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり、そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出することを特徴とするヒートシンク装置。」(以下、「本件発明」という)

三.当事者の提出した証拠と主張の概要
1.証拠関係
(1)請求人の提出した証拠等
甲第1号証:特開昭62-49700号公報(本件特許に係る分割出願のもとの出願について発行された公開公報)
甲第2号証:実公昭51-21601号公報
甲第3号証:特開昭57-194600号公報
甲第4号証:実願昭56-26064号(実開昭57-140668号のマイクロフィルム)
甲第5号証:上記甲第1号証に係るもとの出願(特願昭60-190818号)についての審査の過程において、平成6年11月1日付で出願人より提出された意見書
参考資料1:「Intel OverDriveプロセッサ」パンフレット
(2)被請求人の提出した証拠
乙第1号証:訂正審判2000-39103号において、当審で通知した訂正拒絶理由通知書
2.請求人の主張
請求人は、上記の証拠等に関連して、本件発明について次の趣旨の主張をしている。
(1)上記訂正請求に係る訂正事項には、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないものが含まれるから、本件審判における上記訂正は認められるべきでなく、
(2)仮に訂正が認められるとしても、訂正明細書には、特許法第36条に規定する特許要件を満たしていない不備があるし、
(3)上記訂正に係る特許請求の範囲に記載された発明は、本件特許に係る出願日よりも前に頒布された刊行物である甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反して受けたことになる。
3.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、次の趣旨の答弁をして、請求人の指摘する無効理由は失当である旨主張している。
(1)請求人が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない旨主張する訂正事項は、直接的に表現した文言上の言及こそないものの、機能の説明に加えて図面の記載を参酌すれば、実質上、上記明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものといえるし、
(2)訂正明細書には、特許法第36条の規定に係る不備はなく、
(3)甲第2号証記載の吸熱フィンと、甲第3号証記載の電気部品とは、それぞれの技術的意義が相違し、吸熱フィンを電気部品に置換するべき理由がないから、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、訂正に係る本件特許発明を、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

四.当審の判断
1.請求人の主張(1)及び(2)についての検討
上記訂正請求に係る各訂正事項が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものでないとはいえないことは、上記二.における検討のとおりである。
また、本件発明の趣旨からみて、特許請求の範囲において、ファンを回転する駆動手段の取付位置等を特定するべき必要性は必ずしも認められず、本件特許明細書(訂正明細書)の記載に、特許法第36条に規定する特許要件を満たしていない不備があるとすることはできない。
したがって、請求人の主張(1)または(2)に係る理由に基づいて、本件特許を無効とすることはできない。
2.請求人の主張(3)についての検討
(1)引用例記載事項の摘示
<甲第2号証の記載事項>
甲第2号証(以下、「引用例1」という)には、電子機器等に設けられる「放熱ユニット」に関して、第1〜6図と共に、次の記載がある。
「放熱ユニット2は大きくはユニット本体と放熱用ファン7から成り、このユニット本体はロッカー外壁の構成要素となる放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5から成るファン支持体を含んで構成されており、ガイド板5は上枠板に対し下枠板と称し得る放熱板3と上枠板4を連結している。上記ユニット本体はその中央にモータ6で駆動される放熱ファン7を回転可能に内蔵している。この場合、ファン風路は上枠板4とガイド板5から成るファン支持体と放熱板3との間に形成される。上下枠板の連結フレームであるガイド板5は夫々ファン7を中心に第3図A或いはBのように放射状に側方に延長し、上枠板の吸込口4aからファン7の回転により流入する風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に、下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している。下枠板3はその外面に突起体の多数の吸熱フィン3aが突設されている。従ってこの吸熱フィンによる凹凸により下枠板外面はその実表面積が飛躍的に拡張される結果、伝熱効率が極めて大きくなっている。」(第1頁第2欄9〜29行)
また、引用例1の第1、2図を参照すると、放熱板3のガイド板5を立設した側に、放熱用ファン7が、ガイド板5とほぼ同じ高さに配置された状態で備えられていることが示されているし、同じく引用例1の第3図(A)、(B)には、放熱板3が略四辺形状であることが示されている。
更に、ガイド板5の形状及び配置として、引用例1の第3図(A)では、直線形状であって、ガイド板5の外端部から内端部へ向かう延長線上に放熱ファン7の駆動手段の回転中心が存在すると推測されるものが示され、同じく第3図(B)には、ガイド板5の外端部から内端部へ向かう延長線上にはファン7の駆動手段の回転中心が存在しない、曲線形状のものが示されている。そして、これらいずれの図面に示されるガイド板5も、長さの異なるものが含まれることと、外端部が放熱板3の端部まで延在すると共に、内端部輪郭形状が円形となる配置状態で設けられている点では共通している。
<甲第3号証の記載事項>
甲第3号証(以下、「引用例2」という)には、電気機器筺体に設けられる「放熱体」に関して、第1〜3図と共に、次の記載がある。
「箱体(3)の上部には、第1の放熱体(4)と第2の放熱体(5)で所定の間隔を有し、その間に放射状に複数の第3の放熱体(6)を配し、それぞれ一体に成形された放熱体に上記箱体(3)からの熱伝導効率を向上させるため上面と密着して所定の方法で取り付けられている。上記第2の放熱体(5)中央部の冷却ファン取付孔(7)には、冷却ファン(8)が・・・取り付けられている。上記第2の放熱体(5)の上記箱体(3)側には、この機器としての比較的発熱量の大きな電気部品(11)が取り付けられているので上記第2の放熱体(5)、第1の放熱体(4)、第3の放熱体(6)は高温となる。」(第2頁左上欄5〜19行)
(2)本件発明との対比
本件発明の構成事項と引用例1(甲第2号証)の記載事項とを対比する。
引用例1記載の「下枠板と称し得る放熱板3」は、その図示された形状と吸熱及び放熱機能を備えるところから、本件発明でいう、「略四辺形状の」「ヒートシンク基盤」に相当するものといえる。同じく引用例1記載の「下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している」「複数のガイド板5」は、「複数の板状フィン」に相当する。(なお、引用例1の上記「放熱ファンとしての機能」という記載は、その前後における記載の趣旨からみて「放熱フィンとしての機能」の誤記と認められる。)
上記の板状フィンに相当するガイド板5については、第3図の(A)及び(B)の記載からみて、長さの異なるものが含まれることと、外端部が放熱板3の端部まで延在すると共に、内端部輪郭形状が円形となる配置状態で設けられている点については、引用例1に開示があるものと認められるし、第1図に示されるように、放熱用ファン7とガイド板5(板状フィン)とをほぼ同じ高さに配置している状態において、ガイド板5の内端部輪郭形状が円形となる配置をとれば、「ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部」は当然に「少なくとも一部において直接対向する」ことになる。
そして、引用例1記載の「モータ6で駆動される放熱用ファン」は、第1図において「放熱板3のガイド板5を立設した側に」備えられていることが明示されているし、「モータ6」が「ファンを回転する駆動手段」といえることは明らかである。
更に、引用例1では「上枠板の吸込口4aからファン7の回転により流入する風を外側方に放出する」とされるところから、引用例1記載の「放熱ユニット」においても、ファンの回転により流入する風は、「放熱板3」の各辺から外側方に放出されるものといえ、したがって、当該「放熱ユニット」は、「ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出する」「ヒートシンク装置」を構成するものといえる。
そうすると、本件発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
一致点 「略四辺形状のヒートシンク基盤と、前記ヒートシンク基盤の一面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された複数の板状フィンと、前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側にファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、前記複数の板状フィンは、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり、そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出するヒートシンク装置」である点。
相違点1:ヒートシンク基盤の一方の面に、本件発明では「発熱素子を取り付け可能とした」のに対し、引用例1記載のものでは「吸熱フィン」が設けられる点。
相違点2:板状フィンの形状及び設置状態に関して、本件発明では、「直線形状」であって、「板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」とされるのに対し、引用例1にはこれらの構成について明確な言及がない点。
(3)相違点の検討
<上記相違点1について>
上に指摘した引用例2(甲第3号証)の記載は、ヒートシンク基盤に相当する「第2の放熱体5」の一方の面に放熱フィン(「第3の放熱体」)を設け、他方の面には発熱素子(「比較的発熱量の大きな電気部品」)を設ける構成を示しており、この他にも、例えば、甲第4号証として提出された、実願昭56-26064号(実開昭57-140668号)のマイクロフィルムに記載されている「ペルチエ効果素子」は、「一方から他方に電流を流すと、一方の面が吸熱され他方の面が発熱される」ものであって、発熱素子としての機能をも有するものとみることができるところから、甲第4号証においても、「吸熱板16」(ヒートシンク基盤)の一方の面に「複数のフィン18」(放熱フィン)を設け、他方の面に発熱素子を接合したものを開示しているといえるし(第2頁第5〜20行、第1〜3図参照)、更に、甲第5号証で言及されている実願昭54-61690号(実開昭55-162954号)のマイクロフィルム(本件特許に係る分割出願のもとの出願についての拒絶理由で引用された刊行物)にも、同様の構成の開示がある。
そうすると、ヒートシンク基盤の一方の面に「発熱素子を取り付け可能」とし、他方の面に放熱手段を設けることは、当該技術分野における常套的な技術事項とみることができ、一方、引用例1記載の「放熱板3」(ヒートシンク基盤)に設けられた吸熱フィン3aも、結局は回路中の素子等から発生する熱を吸収するものであることを考慮すると、当該吸熱フィン3aを設けることに代えて、上記の常套的な技術事項を採用して、「発熱素子を取り付け可能」とすることは、当業者が容易に想到できる設計事項というべきである。
<上記相違点2について>
上記(1)でも指摘したように、引用例1には、板状フィン(「ガイド板5」)について、第3図(A)では直線形状であって、板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上に放熱用ファンの駆動手段の回転中心が存在すると推測されるものが例示され、同じく第3図(B)には、曲線形状ではあるが、板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しないと推測されるものが例示されている。
この例示の意味について考えると、引用例1には、第3図に関して、「ガイド板5は夫々ファン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し、・・・風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に、下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している」(上述のとおり、「放熱ファン」は「放熱フィン」の誤記)という記載があるだけで、他には格別の言及がないことからみて、引用例1における上記例示の意味するところは、板状フィン(ガイド板5)の形状や配置を第3図の(A)か(B)のいずれかのみに限定しようとするものではなく、板状フィンが放熱ファンに対して放射状に配置されて、上記各機能を有するものであれば、その形状は直線形状であっても曲線形状であってもよいし、また、板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上に、放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しても、しなくてもよいことを示唆したものと解すべきである。
しかも、上記板状フィンの形状や駆動手段の回転中心との関係としては、上記第3図(A)又は(B)に例示された以外の組み合わせ、例えば、「直線形状であって、内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しないもの」や、「曲線形状であって、内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在するもの」も当業者であれば容易に想到できるし、そのいずれをとっても、上記各機能を有するものとなることは明らかである。
そうすると、引用例1における板状フィンの形状及び設置状態に関して、「直線形状」であって「板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」ものとすることは格別困難とはいえない。
(4)相違点の評価と作用効果について
以上の各相違点の検討によれば、上記いずれの相違点も格別のものではなく、また、それぞれの相違点に係る構成を組み合わせることによる本件発明の作用効果をみても、上記各引用例の記載事項から容易に予測しうる域を出るものが認められないから、本件発明は、上記引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

五.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して受けたもので、本件無効審判の請求には、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する正当な理由があり、本件特許は無効とすべきものである。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ヒートシンク装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】略四辺形状の、一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と、前記ヒートシンク基盤の他方の面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状フィンと、前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に、ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、前記複数の板状フィンは、前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり、そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出することを特徴とするヒートシンク装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、パワートランジスタ等の発熱素子の冷却の為に用いられるヒートシンク装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、パワートランジスタ、パワーIC、セメント抵抗等の発熱素子が発生する熱を放熱し、これら素子の過度な温度上昇を防ぐ為にヒートシンクが使用されている。
【0003】
図4は発熱素子が取り付けられたヒートシンクの斜視図であり、図に於て11はパワートランジスタ等の発熱素子であり、12はアルミニウム等、熱伝導性の良好な材質にて形成されると共に複数のフィン12aが一体に形成されたヒートシンクである。
【0004】
ところで、上記したパワートランジスタ等の発熱素子に対し連続的に通電し、全体温度が平衡状態に達している場合、この発熱素子の温度は次式に従うことが知られている。
【0005】
(T-t)∝Q/(k*A)
ここで、T:発熱素子温度
t:周囲温度
Q:ヒートシンクに取り付けた発熱素子の総発熱量
k:放熱効率
A:ヒートシンク表面積
従って、ヒートシンクにより発熱素子の温度をより下げるためには、ヒートシンク表面積を増大させるか、或は放熱効率を高めるため冷却ファンを併用する等の手段が用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、冷却ファンを用いない前者の方法では自然対流による放熱が主であり放熱効率が悪く、充分な冷却能力を得るにはヒートシンク表面積が大きくなり、スペース上大きな問題となっている。
【0007】
また、後者のように冷却ファンを併用する場合に於ては、図5に示す様に冷却ファン13を本体14の外箱に取付けるものと、図6に示すように機器本体14の内部に発熱素子と冷却ファンを近接させて配置するものとがあるが、冷却ファンを外箱に取り付けるものに於てはその取付け位置によってはヒートシンク12との距離が離れ、ファンによる風が拡散しヒートシンク12への送風量が減少し冷却効果が悪くなるということがある。また、機器本体14の内部に冷却ファンとヒートシンクとを近接させて配置するものに於てはヒートシンクへの送風量は十分となるが、機器本体14の内部で冷却ファン13がスペースを占有するので、他の部品の実装上非常な制約となるという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記した種々の問題点を評決し、ヒートシンクの冷却能力の向上と省スペース化を実現することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するため、本発明のヒートシンク装置は、略四辺形状の、一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と、前記ヒートシンク基盤の他方の面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状フィンと、前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に、ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、前記複数の板状フィンは、前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり、そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出するようにしたものである。
【0010】
【作用】
上記構成としたことにより、本発明のヒートシンク装置は、ヒートシンク基盤の大きさが同一の場合にヒートシンクの長さを長くすることができ、ヒートシンクの面積を大きくすることができるので、ヒートシンク装置の形状を大型化することなく冷却能力を向上させることができるとともに、機器内部への実装の際の省スペース化が図れる。
【0011】
【実施例】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0012】
図1乃至図3は本発明のヒートシンク装置の第1実施例である。図に於て1はヒートシンク基盤であり、このヒートシンク基盤1の一方の側面には冷却ファン装置2のモータ2aが装着・ビス締め・圧入等の固着法により固定されており、他方の側面には発熱素子3を取り付けることができるようになっている。また、ヒートシンク基盤より突設された複数のフィン1aは前記モータ2aの回転軸に固定されたファン2bを囲むように配設されており、このフィン1aは前記ファン2bのファンケーシングの役割もはたす。
【0013】
以上のように構成された本実施例のヒートシンク装置に於て、発熱素子3から発生した熱はフィン1aを含むヒートシンク基盤1全体に熱伝導により拡散する。ファン2bにより誘起された風は、図1、図2に於て矢印で示したようにフィン1aの外壁に沿って流れる間に熱を奪い、ヒートシンク基盤外へ流出するのである。
【0014】
ところで、本実施例に於てはヒートシンクと冷却ファン装置とを一体に構成しているので、ファン2bの風を直接効果的にフィン1aに当てることができ、フィン1aからの放熱効率を飛躍的に増大させることができる。
【0015】
従って、ヒートシンクの冷却能力を同一にした場合にはヒートシンクの形状を小型化することが可能である。
【0016】
さらに、ファン2bのファンケーシングをフィン1aによって構成しているためヒートシンク基盤1と冷却ファン装置を一体にしたにも拘わらず、全体としての大きさはそれほど変化しない。
【0017】
従って、機器本体内部に本ヒートシンク装置を配置しても他の部品に対し実装上の制約を与えることもなく、前述したところのヒートシンクの小型化と相まって大幅な省スペースが実現でき、機器の小型化・薄型化をはかることができる。
【0018】
尚、使用するファンの種類としては、軸流・遠心・斜流・横流式等のいずれを使用しても良いことはもちろんである。
【0019】
【発明の効果】
以上の説明にて明らかなように、本発明のヒートシンク装置は、略四辺形状の、一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と、前記ヒートシンク基盤の他方の面に、外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状フィンと、前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に、ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと、前記ファンを回転する駆動手段を備え、前記複数の板状フィンは、前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない、長さの異なるフィンを含んでいるとともに、前記内端部輪郭形状は円形であり、そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出するようにしたので、フィンの表面積を広くすることができ、冷却効率に優れるとともに、大幅な省スペース化が図られると言う優れた効果を奏する。
【図画の簡単な説明】
【図1】
本発明一実施例に掛かるヒートシンク装置の正面図
【図2】
同実施例のヒートシンク装置の断面図
【図3】
同実施例のヒートシンク装置の背面図
【図4】
従来のヒートシンクの斜視図
【図5】
冷却ファンを機器の外箱に装着した状態を示す図
【図6】
冷却ファンを機器内部においてヒートシンクと対向させて配置した状態を示す図
【符号の説明】
1 ヒートシンク基盤
1a フィン
2 冷却ファン
2a モータ
2b ファン
3 発熱素子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2001-10-03 
出願番号 特願平6-268604
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 蓑輪 安夫
鈴木 法明
登録日 1997-10-31 
登録番号 特許第2713554号(P2713554)
発明の名称 ヒートシンク装置  
代理人 今城 俊夫  
代理人 松尾 和子  
代理人 村社 厚夫  
代理人 中村 稔  
代理人 竹内 英人  
代理人 西浦 嗣晴  
代理人 村社 厚夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 松尾 和子  
代理人 竹内 英人  
代理人 尾崎 英男  
代理人 小川 信夫  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 小川 信夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 大塚 文昭  

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