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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D03D
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D03D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) D03D
管理番号 1100488
審判番号 無効2001-35296  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-06-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-07-04 
確定日 2004-07-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2888504号発明「紫外線遮蔽性を有する繊維構造体および該構造体を用いた繊維製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2888504号の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
出願(特願平3-315528号) 平成3年11月1日(優先権主張 平成2年11月5日及び平成3年9月30日)
設定登録(特許第2888504号) 平成11年2月19日
特許異議の申立て(4件) 平成11年10月25日〜 平成11年11月10日
取消理由通知 平成12年2月28日
意見書・訂正請求 平成12年5月12日
取消理由通知 平成12年9月29日
意見書・訂正請求 平成12年10月17日
訂正請求(平成12年5月12日付)取下書 平成12年10月17日
異議決定(訂正を容認) 平成12年11月16日
無効審判請求 平成13年7月4日
証人尋問申出書 平成13年7月4日
答弁書 平成13年9月28日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成14年3月29日付
証拠申出書(請求人) 平成14年4月1日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成14年4月5日付
口頭審理(特許庁審判廷) 平成14年4月12日
書面審理通知 平成14年4月23日
意見書(被請求人) 平成14年4月18日
上申書(請求人) 平成14年4月22日
無効理由通知書 平成14年6月4日
意見書・訂正請求書(被請求人) 平成14年8月7日
意見書(請求人) 平成14年8月8日
訂正拒絶理由通知 平成14年11月1日
意見書(被請求人) 平成14年12月27日
II.訂正請求の適否について
1.訂正請求の内容
平成14年8月7日付の訂正請求書は、平成12年10月17日付訂正請求書に添付された訂正明細書について、訂正事項a.〜f.により、
a.請求項1に記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正すること、
b.段落0006の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正し、同「400〜1200nm(400〜1200mμ)の可視光線の平均反射率」を「400〜1200nm(400〜1200mμ)の光線の平均反射率」と訂正すること、
c.段落0007の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること、
d.段落0008の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること、
e.段落0012の記載における「透過率または反射率」を「すなわち紫外線の透過率または波長400〜1200mμの光線の反射率」と訂正すること、
f.段落0016の記載における「可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」と訂正すること、
の訂正を含んでいる。
2.訂正拒絶理由の概要
当審が平成14年11月1日付で通知した訂正拒絶理由の概要は、訂正事項a.〜f.による訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとはいえない、また、実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当すると認められるから、本件訂正請求は認められない、というものである。
3.判断
(1)訂正前の請求項1の記載の「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」は、波長400〜1200mμと可視光線の波長範囲(波長400〜800mμ)とが一致せず、問題とする平均反射率とは、どの波長範囲のものを対象としているのか内容が明瞭であるとはいえない。
上記の「平均反射率」に関しては、その測定波長範囲は、(1)「波長400〜1200mμ」を生かして、「可視光線」の用語とその用語で規定される波長範囲400〜800mμは無視して、「可視光線」は「光線」であると解釈する、または、(2)「可視光線」を生かして、「1200mμ」の数値には誤記があり、可視光線の波長範囲(400〜800mμ)と解釈する、の2つの解釈が成り立つ。
そこで、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」の解釈について、本件特許明細書の記載を検討すると、段落0006、段落0007、段落0008、段落0012及び段落0016の記載をみても、(1)又は(2)の解釈のいずれが妥当であるかを定めることはできないと認められる。
そうすると、平均反射率に関して、「可視光線」の規定を無視して「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」とする訂正は、本件特許明細書の記載から、一義的に導き出すことができるものではない。
したがって、訂正事項aによる訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとはいえない。
(2)訂正事項bにおいて、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正し、同「400〜1200nm(400〜1200mμ)の可視光線の平均反射率」を「400〜1200nm(400〜1200mμ)の光線の平均反射率」とする訂正は、請求項1に係る訂正で述べた理由と同様の理由により、本件特許明細書の記載から、一義的に導き出すことができるものではないから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとはいえない。
(3)訂正事項c、d、及びfにおいて、明細書の発明の詳細な説明の記載の「可視光線」を「波長400〜1200mμと光線」とする訂正は、本件特許明細書の記載から、一義的に導き出すことができるものではないから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとはいえず、また、その波長範囲及び内容において、訂正前の「可視光線」の波長範囲及び「可視光線」と明らかに異なることになるから、該訂正は、実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当する。
(4)訂正前の段落0012には、「平均反射率」に関して、分光光度計を用いて「所定の波長範囲」にわたって各波長での光の反射率を計測し、その波長範囲での反射率を算出して求めたものであることが記載されているにすぎず、測定波長を具体的に記載していないため、この記載における「所定の波長範囲」とは、一般的な意味での「可視光線」の波長範囲であるのか、または、波長400〜1200mμの範囲であるのかを特定できないから、段落0012の記載を根拠として、波長400〜1200mμの光線について、その平均反射率を測定したと解釈することはできないと認められる。
したがって、訂正事項eにおいて、「透過率または反射率」を「すなわち紫外線の透過率または波長400〜1200mμの光線の反射率」とする訂正は、本件特許明細書の記載から一義的に導き出すことができるものではないから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるとはいえず、また、該訂正は、実質的に特許請求の範囲を変更するものに該当する。
本件訂正請求は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び同法第134条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないから、訂正は認められない。
(なお、訂正拒絶理由通知において、新規事項違反及び特許請求の範囲の実質変更違反についての適用条文を、「特許法第134条第5項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第2項、同法第3項」としたが、本件は平成3年11月1日の出願であるから適用条文は上記したとおりである。)
(5)被請求人の主張について
(5-1)訂正前の特許明細書の段落0012の記載からすれば、本発明で規定している平均反射率とは、所定の波長範囲で計測して平均値をとったものであるということができ、「可視光線」に関連する「所定の波長範囲」としては、本件請求項1、段落0006に、「波長400〜1200mμ」という数値範囲が専ら記載されているだけで、それ以外の波長範囲は一切記載されていないこと、通常の可視光線の波長範囲は、参考資料1〜3から明らかなように、その出典により波長範囲がかなり異なるので、通常の可視光線の波長範囲に関して所定の波長範囲というものは到底決まり得ないことから、段落0012における「反射率を計測する所定の波長範囲」とは、「400〜1200mμの波長範囲」であり、それ以外にあり得ない。(意見書第6頁下から第2行〜第8頁第15行)
したがって、請求項1における「波長400〜1200mμの可視光線」という記載が「波長400〜1200mμの光線」と同義であることが十分に裏付けられるから、訂正事項aは、訂正前の請求項1の記載を明りょうにしたものであって、明りょうでない記載の釈明に相当し、しかも訂正事項aによって訂正される請求項1は、訂正前の請求項1とその内容において全く同じであり、何ら拡張および変更されていない旨被請求人は主張する。(意見書第8頁第16〜22行)
(5-2)また、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」に関して「波長400〜1200m」と「可視光線」をそれぞれの記載の意味を単独で解釈して互いに相反するものとして解釈すべきでなく、「波長400〜1200mμの可視光線」の記載全体が意味している内容を矛盾の生じないように、段落0006、0007、0008、0012、0016等の記載箇所だけではなく、本件特許発明が前提としている従来技術や本件特許発明の課題などについて記載している箇所(段落0004および0005)や、本件特許出願前の従来技術(周知の技術事項)などについても検討して、総合して、その意味を解釈すべきであり、段落0004および0005の記載は、本件特許発明が、紫外線の遮蔽と共に、蒸し暑くなく快適に着用できる衣料などを得ることを目的として、可視光線(通常の可視光線)およびそれよりも長波長の光線(赤外線)の遮蔽、すなわち加熱作用を有することが従来から広く知られている通常の可視光線と赤外線の両方の遮蔽(反射)をも達成することを、その技術的な課題として開発された発明であることを十分に裏付けているから、「波長400〜1200mμの可視光線」は、「通常の可視光線と1200mμ以下の近赤外線とからなる、波長400〜1200mμの光線」、端的には「波長400〜1200mμの光線」を、出願当初から元々意味していたことは明白である。(意見書第10頁下から第10行〜第13頁第15行)
段落0012には、紫外線及び可視光線という用語は直接的には使用されていないが、特許請求の範囲の請求項1の記載において紫外線の透過率、可視光線の平均反射率と記載しており、この記載から明らかなように、訂正前の本件特許明細書には、「透過率」(平均透過率)という用語は、紫外線との関係で専ら用いられ、また、「平均反射率」(反射率)という用語は、「波長400〜1200mμの可視光線」(すなわち「波長400〜1200mμの可視光線」)との関係で専ら用いられているから、段落0012における「透過率」が「紫外線の透過率」を、「反射率」が「波長400〜1200mμの可視光線」、すなわち「波長400〜1200mμの光線の反射率」を意味していることは誰でも理解できることである旨被請求人は主張する。(意見書第19頁第15行〜第20頁第14行)
しかしながら、同じ「可視光線」の用語であるのに、明細書の記載における段落0004及び0005における「可視光線」は通常の意味での可視光線であり、特許請求の範囲、段落0006、0007、0008及び0016における「可視光線」は、通常の意味ではなく、「波長400〜1200mμの光線」であるとする解釈は、明細書の記載と本件出願前の従来技術を考慮しても妥当とはいえないし、段落0012の記載における反射率を波長400〜1200mμの光線の反射率であることが誰でも理解できるとはいえない、また、「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」と「可視光線の平均反射率」では、前者では波長範囲全体の平均反射率、後者では波長範囲の内の可視光線の平均反射率であるので、「波長400〜1200mμの可視光線」を「波長400〜1200mμの光線」とした場合には、「平均反射率」の内容が異なることになることは明らかであるから、「波長400〜1200mμの可視光線」は、その出願当初から、元々訂正後の「波長400〜1200mμの光線」と内容が同じであるとの被請求人の主張は採用できない。
したがって、訂正請求による訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲を実質的に変更および拡張するものではないとの、被請求人の主張は採用することができない。
III.本件発明
平成14年8月7日付訂正請求は認められないので、本件は、発明の名称を「紫外線遮蔽性を有する繊維構造体および該構造体を用いた繊維製品」とするものである。
平成12年10月17日付訂正請求により訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5には、次の記載がなされている。
「【請求項1】紫外線を反射または吸収する性能を有する成分を、繊維構造体を構成する繊維中に存在させた状態で、1重量%以上含み、波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下、波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下、波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上、通気度が5ml/cm↑2・sec以上であることを特徴とする繊維構造体。;ただし、”アルテーヌ”(登録商標)(東レ株式会社提供の布帛)、”「XY-E」ポプリン”(登録商標)(株式会社クラレ提供の布帛)および”モディフィル”(登録商標)品番15406-(1)(S-9159)(東レ株式会社提供の布帛)を除く。
【請求項2】請求項1に記載の繊維構造体を用いた衣服。
【請求項3】請求項1に記載の繊維構造体を用いた帽子。
【請求項4】請求項1に記載の繊維構造体を用いたヴェール。
【請求項5】請求項1に記載の繊維構造体を用いた日傘。
(合議体注、表記の都合上、品番における丸囲い数字は、括弧内数字として記載した。)
IV.請求人の主張
審判請求人は、本件特許第2888504号を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、証拠方法として、検甲第1号証〜検甲第4証、及び下記の書証を提出して、無効理由1〜無効理由4により、本件特許は無効にされるべきであると主張する。
なお、請求人の提出した甲第17〜19号証については、特許法第131条第2項本文の規定により、採用することができない。
請求人は、検甲第1号証及び検甲第2号証のブラウスは、平成2年春夏号のカタログ(甲第4号証に提示するカタログ「ハネクトーン総合カタログ」)に掲載されている商品と品番が同じものであることのみを根拠として、検甲第1号証(「ハネクトーン早川株式会社製 アルファネックス 7429-7(商品名)」)及び検甲第2号証(「ハネクトーン早川株式会社製 リルファー 7430-7(商品名)」)は、本件の優先権主張日(平成2年11月5日)前に公然知られていたものであると主張していたのを、品番が同じ商品であるからといって、甲第4号証のカタログに掲載された商品と同一といえないことを被請求人から指摘されたので、甲第17号証により、甲第4号証のカタログに記載された商品は、1990年から継続して現在も販売している商品であること、該製品は、販売当初品から現行販売品に至るまで、製品の内容に変更を加えていないことを立証しようするものであるから、甲第17号証は、請求理由の要旨を変更する補正に該当すると認められる。
また、請求人は、新たに、甲第18号証及び甲第19号証により、明細書の実施例及び比較例に記載された織物を追試した結果、本件特許明細書の記載の測定結果が異なることを理由として、本件特許請求の範囲の記載の数値限定には根拠がないことを立証しようするものであるから、甲第18号証及び甲第19号証は、請求理由の要旨を変更する補正に該当すると認められる。

証拠方法:
(平成13年7月4日付審判請求書提出時)
検甲第1号証 検証物「ハネクトーン早川株式会社製 アルファネックス 7429-7(商品名)」
検甲第2号証 検証物「ハネクトーン早川株式会社製 リルファー 7430-7(商品名)」
検甲第3号証 検証物「ハネクトーン早川株式会社製 Angelica 3377-7(商品名)」
検甲第4号証 検証物「セロリー株式会社製 SELERY 35108(商品名)」
甲第1号証 特開昭55-158330号公報
甲第2号証 特開昭55-12848号公報
甲第3号証 特公昭63-17926号公報
甲第4号証 「ハネクトーン総合カタログ」平成2年春夏号
甲第5号記 下村岳彦による実験報告書(「ハネクトーン早川株式会社製 アルファネックス 7429-7」)
甲第6号証 下村岳彦による実験報告書(「ハネクトーン早川株式会社製 リルファー 7430-7」)
甲第7号証 下村岳彦による実験報告書(「ハネクトーン早川株式会社製 Angelica 3377-7」)
甲第8号証 下村岳彦による実験報告書(「セロリー株式会社製 SELERY 35108」)
甲第9号証「加工技術」第29巻第9号 第19〜25頁 株式会社繊維社 平成6年9月10日発行
甲第10号証 「加工技術」第25巻第4号 第12〜16頁 株式会社繊維社 平成2年4月10日発行
(平成14年3月29日付口頭審理陳述要領書提出時)
甲第11号証 平成2年11月5日特許出願に係る出願書類(国内優先1の内容)
甲第12号証 平成3年9月30日特許出願に係る出願書類(国内優先2の内容)
甲第13号証 特許第2888504号公報
甲第14号証 平成12年10月17日付訂正請求書
甲第15号証 日本紡績協会編「繊維技術データ集 改訂第3版」第141〜142頁、第170頁、第563頁、 昭和46年10月1日 日本紡績協会発行
(平成14年4月1日付証拠申出書提出時)
甲第16号証 ハネクトーン早川株式会社 営業部部長 清水健児の甲第4号証の頒布日の証明書
甲第17号証 ハネクトーン早川株式会社 営業部部長 清水健児の証明書
(平成14年8月8日付意見書提出時)
甲第18号証 ユニチカファイバー株式会社生産開発部マネージャー奥村正勝作成の平成14年8月7日付の実験証明書
甲第19号証 ユニチカファイバー株式会社生産開発部マネージャー奥村正勝作成の平成14年8月7日付の実験証明書
参考資料1 新村出編「広辞苑 第四版」第2139頁「ひかり」の項目、1991年11月15日 株式会社岩波書店
参考資料2 平成10年(行ケ)第172号判決
参考資料3 平成11年(行ケ)第434号判決
1.無効理由1
本件特許請求の範囲には、(イ)波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下であること、(ロ)波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下であること、(ハ)波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上であること、(ニ)通気度が5ml/cm2・sec以上であることが要件とされているが、本件の明細書の記載からは、「・・・以下である」とされる上限ないし「・・・以上である」とされる下限の各数値が導かれた根拠が明らかではなく、(イ)〜(ニ)のいずれもが請求項1〜5に係る発明の構成に欠くことができない事項であるとは認められないから、本件は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、本件特許は、旧特許法(平成2年6月13日法律第30号による改正特許法)第36条第5項第2号に規定された要件を具備しない特許出願に付与されたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきものである。(請求書第5頁下から第5行〜第8頁第16行)
2.無効理由2
本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例1及び2で記載されたわずか2点の物について、当業者が容易に実施できる程度に記載されるだけであって、本件発明の範囲に含まれる、実施例1及び2以外のもので、各特性の内の一部のみを変更したようなその他の物については、当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない、また、効果を確認するためのテストの詳細が不明であり、本件明細書の記載は、当業者が容易に発明の実施をすることができる程度に、当該発明の構成及び効果が記載されていないから、本件特許は、旧特許法第36条第4項に規定された要件を具備しない特許出願に付与されたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とすべきものである。(請求書第8頁第18行〜第11頁第3行)
3.無効理由3
検甲第1号証(「ハネクトーン早川株式会社製 アルファネックス 7429-7」)及び検甲第2号証(「ハネクトーン早川株式会社製 リルファー 7430-7」)が、平成2年春前には販売又は販売のための展示がされていたことは甲第4号証から明らかであり、検甲第1号証及び検甲第2号証についてした甲第5号証及び甲第6号証(下村岳彦氏による実験報告書)によると、検甲第1号証及び検甲第2号証は、本件請求項1〜2に係る発明の要件を満足するから、本件請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願前に公然実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号の規定に該当する、また、本件請求項1〜5に係る各発明は、当該公然実施された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当するから、本件請求項1〜5に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。(請求書第11頁第5行〜第17頁下から第2行)
4.無効理由4
本件請求項1〜5に係る発明は、公然実施品1(東レ株式会社製の”アルテーヌ”(登録商標)(東レ株式会社提供の布帛))として示す、本件特許出願前に公然実施された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当するから、本件請求項1〜5に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。(請求書第22頁第17行〜第24頁第1行)
V.当審の通知した無効理由通知
本件特許請求の範囲の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」は、下記の点でその記載の内容が明瞭であるとはいえず、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないから、特許法第36条第5項に規定する要件を満足していない。

(1)可視光線とは眼に見える光線をいい、その波長範囲は、一般的には、400〜800mμであることは技術常識であるから、紫外線(波長400mμ以下)や赤外線(波長800mμ以上)は、「可視光線」には含まれないものである。そうすると、「波長400〜1200mμの可視光線」に関して、波長400〜1200の波長範囲を「可視光線」と呼ぶことはできないと認められる。
また、本件明細書の記載をみても、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」を定義した記載は見いだせない。
「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」に関して、「可視光線」という用語を用いる以上、「可視光線」を無視して、波長400〜1200mμの範囲の「光線」についての平均反射率を意味していると、解釈することはできないと認められる。
したがって、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」は、その記載の内容が明瞭であるとはいえないから、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。
VI.被請求人の主張
被請求人は、「本件請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、乙第1号証を提出して、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明の特許は無効とすることができない旨主張している。
証拠方法:
(答弁書提出時)
乙第1号証 株式会社クラレ 生産・技術室 テキスタイル開発部 武村治作成の平成10年5月11日付実験報告書
(平成14年8月7日意見書提出時)
参考資料1 NIKKEI NEW MATERIALS 1992年4月20日 第44〜51頁
参考資料2 大阪ケミカル リサーチ シリーズ Vol.3 No.123 第48〜51頁 (株)大阪ケミカル マーケィング センター(1993年7月20日)
参考資料3 「機能性繊維」第134〜136頁 株式会社 東レリサーチセンター 1993年1月25日
参考資料4 繊研新聞 2001年1月11日号 要部写し
(平成14年8月27日上申書提出時)
参考資料1 エドモンド オプティクス・ジャパン株式会社のカタログ(抜粋)
参考資料2 株式会社クラレ クラベラ事業部 田淵 泉作成の2002年8月7日付「可視光線によるポリエステル繊維生地の温度上昇の確認実験」という題の実験報告書
(平成14年12月27日付意見書提出時)
参考資料5 平成3年(行ケ)第224号判決
参考資料6 http://www.siz-sba.or.jp/soyu/light.htmアドレスから入手の「太陽光について」
1.無効理由1に対する被請求人の主張
本件特許請求の範囲の請求項1〜5には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない、事項のみが明確に記載されているから、本件特許明細書の特許請求の範囲には、審判請求人の主張する記載上の不備はなく、本件特許は、特許法第36条第5項第2号に規定された要件を備えている。
特許請求の範囲の請求項で規定される各要件は、紫外線による障害を効果的に防ぎ、しかも使用したときに蒸し暑くなくて着用感に優れるという本件特許発明の効果を達成するために不可欠の必須の構成要件であって、本件特許発明は各要件を兼ね備えていることによって、前記の優れた効果を奏するものであるから、各要件は有っても無くてもよい非必須の構成要件ではない。(答弁書第2頁第12〜16行、第18頁下から第9〜4行)
(1)本件請求項1の発明の繊維構造体は、波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下であるという要件により、人体に対する障害作用の高い紫外線Bを高率で(95%以上)遮蔽することができて、紫外線Bによる皮膚の炎症、黒化などを防ぐことができるが、この要件を備えておらず、波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%を超す繊維構造体などは、紫外線Bの透過率が高くなり、皮膚の炎症、黒化などを十分に防ぐことができない。したがって、波長290〜320mμの紫外線の透過率が「5%以下」という数値は、人体に対す強い生理作用(障害作用)を有する紫外線Bによる弊害をより効果的に防止する上で、必要且つ十分に意義のある数値である。(答弁書第10頁下から第6行〜第11頁第3行、第15頁下から第7〜4行)
(2)本件請求項1の発明の繊維構造体は、地上に到達する波長290〜400mμの紫外線(紫外線Aと紫外線B)の透過率が10%以下であるという要件により、紫外線による皮膚の炎症、黒化、癌の発生などを防ぐことができるが、この要件を備えておらず、波長290〜320mμの紫外線(紫外線B)の透過率が高い場合は勿論のこと、該紫外線Bの透過率が5%以下と低い場合であっても、地上に到達する紫外線全体(波長290〜400mμの紫外線)の透過率が10%を超す繊維構造体は、紫外線による皮膚の炎症、黒化、癌の発生などを効果的に防ぐことができない。したがって、波長290〜400mμの紫外線の透過率が「10%以下」という数値は、地上に到達する紫外線全体を遮蔽して紫外線による弊害を効果的に防止するために必要で且つ十分に意義のある値である。(答弁書第11頁第4〜14行、第16頁第12行〜第17頁第6行)
(3)本件請求項1の発明の繊維構造体は、波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上であるという要件により、本件請求項1の発明の繊維構造体を衣服などにして着用したときに、熱線(赤外線など)を高率で反射して、蒸し暑くならなくなり、着用感に優れたものとなるもので、波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率に係る本件特許発明における「60%以上」という数値は、波長400〜1200mμの可視光線(近赤外線も含む)による加熱作用を効果的に排除するするために必要で且つ十分に意義のある数値である。(答弁書第11頁第15〜19行、第17頁第12〜24行)
(4)本件請求頃の発明の繊維構造体は、通気度が5ml/cm2・sec以上であるという要件により、通気が良好に行われて、本件請求項1の発明の繊維構造体を衣服などにして着用したときに、蒸したりせず、着用感に優れたものとなるもので、このことは明細書の段落0015の表1の比較例1は通気度が4.3ml/cm2・secであって、通気性が低くて蒸し暑く、着用感に劣っていることからも十分に裏付けられる。(答弁書第11頁第20〜24行、第18頁第6〜16行)
(5)本件請求頃1の発明における必須の構成要件であって、これらの要件のいずれか1つが欠けても、前記した本件特許発明の効果を奏することができず、そのことは、本件特許明細書の実施例1〜4および比較例1〜5の結果からも十分に明らかである。(答弁書第12頁第1〜4行)
2.無効理由2に対する被請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者が本件特許発明を容易に実施することができるように発明の目的、構成および効果が記載されているから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、審判請求人の主張する記載上の不備はなく、本件特許は、特許法第36条第4項に規定された要件を備えている。(答弁書第2頁下から第3行〜第3頁第2行)
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄、特に実施例1〜4には、各要件を兼ね備える本件特許発明の繊維構造体の例が具体的に記載されているから、当業者であれば、それらの実施例1〜4の記載に基づいて、各要件を備える本件特許発明の繊維構造体を製造することは容易であるし、本件発明の効果に関するテストの条件及び評価も当業者であれば容易に理解できることである。(答弁書第19頁下から第4行〜第22頁第15行)
3.無効理由3及び無効理由4に対する被請求人の主張
(1)検甲第1号証および検甲第2号証として提出されているブラウスは、本件特許の優先日の11年以上も後の平成13年1月24日に購入されたものであり、これらと内容の全く同しブラウスが、本件特許の優先日の前から公然と販売および/または展示されていたとする誤った前提に基づいている審判請求人の主張は、客観性および正当性を欠いている。(答弁書31頁末行〜第32頁第4行)
(2)本件特許発明の範囲から除くとしている”アルテーヌ”(公然実施品1)なる生地は、本件特許発明の根幹をなす技術思想を何ら開示するものではない。(答弁書第34頁第15〜19行)
(3)審判請求人は、「甲第9号証に記載されているとおり、”アルテーヌ”は東レ株式会社製の繊維糸条(布帛にする前の繊維糸条)であるから、そのような”アルテーヌ”なる繊維糸条を購入して検甲第1号証〜検甲第4号証のブラウスに用いられているような布帛を製造することは当業者が容易になし得ることであり、よって本件請求項1〜5の発明は”公然実施品1”から当業者が容易になし得た」という趣旨の主張を行っているが、本件特許の優先日の後に頒布されたものであって証拠能力のない甲第9号証には、“アルテーヌ“が布帛にする前の繊維糸条であることは一切記載されていない。(答弁書第35頁第13〜22行)
4.無効理由通知に対する被請求人の主張
(1)訂正前の特許明細書において「波長400〜1200mμの可視光線」の用語は、「波長400〜1200mμの光線」と同じ意味で用いられていたことは、特許明細書の記載および太陽光線に係る周知の事項(イ.地表に到達する太陽光線のエネルギー量の93%以上が可視光線と赤外線によって占められていて、可視光線の占めるエネルギー量の方が赤外線の占めるエネルギーよりも大きいこと、ロ.太陽光線に含まれる可視光線および赤外線は、いずれも吸収されると大部分が熱になるため、繊維製品などでは着用したときに暑くなるの防止するには、赤外線だけではなく、可視光線および赤外線の両方の反射率を高くする必要があること)から、十分に明らかであるから、該訂正は、明りょうでない記載の釈明に該当し、特許請求の範囲を何ら拡張および変更するものではない。(意見書第4頁第10行〜第8頁第19行)
(2)請求項1に記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率が60%以上」と訂正する訂正事項を含む訂正請求により、特許明細書の特許請求の範囲の記載不備は解消した。(意見書第8頁下から第5行〜第9頁第6行)
VII.当審の判断
1.無効理由1について
1-1.明細書の記載
無効理由1に関して、本件特許明細書の記載を検討する。
平成12年10月17日付訂正請求書により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5には、前記III.の記載がされている。
さらに、同訂正請求書により訂正された明細書には、次の記載がされている。
a-1.「【従来の技術】太陽光に曝されると人体は皮膚の日焼けを起こし、進行するとあざとなること、強い曝露を長時間受けていると皮膚がんになりやすいことが知られている。これらの多くは太陽光線に含まれている紫外線によって引き起こされていることが知られている。紫外線は、通常、イ)紫外線A(320〜400mμ)、ロ)紫外線B(290〜320mμ)、ハ)紫外線C(200〜290mμ)に3区分される。しかし、紫外線Cは太陽から地球に到達する間に大気に吸収されるので実際は紫外線AとB、特に、紫外線作用の強いBから皮膚を保護することが重要である。
従来から、日焼けを防止する目的で紫外線を遮蔽するため、二酸化チタンや酸化亜鉛あるいは有機の紫外線吸収剤を配合分散した化粧品がある。また、繊維構造体に紫外線遮蔽効果を付与する技術も提案されており、例えば、特開昭61-146840号公報には、極細繊維を用いて作成された通気度が1cc/m↑2/24hr以下で透湿性が4000g/m↑2以上で、カバ-ファクターが2000以上の紫外線遮蔽用の織編物が開示されている。また、蛍光増白剤などを用いて紫外線をカットする方法も採られている。」(段落0002〜0003)
a-2.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の従来技術においては、紫外線遮蔽効果を発現させるために織物の組織を緻密なものにしなければならず、その結果、布帛自体の通気性が悪くなるという欠点を有し、また、効率よく紫外線を吸収しかつ可視光よりも長波長の光線を反射するような紫外線遮蔽効果と快適さの両方を満足する繊維構造体は得られていないのが現状である。
また、蛍光増白剤を使用した衣料は紫外線遮蔽効果を有するが可視光線に対する反射効率が悪いため、日焼けは防止できても蒸暑くなり衣料としての快適性に欠けるものであり、しかも、蛍光増白剤の中には皮膚に対して悪影響があるものがあるので、肌に直接触れるような衣料用としては不適で、わが国においても特に乳幼児の衣料には使用が制限されているのが現状である。」(段落0004)
a-3.「【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記のような現状に鑑み鋭意検討した結果、人体を太陽光による被害から保護するためには被覆材の使用によって太陽からの紫外線の被爆をできるだけ少なくすることが必須であり、また、可視光線以上の長波長の太陽光を反射し、透過・吸収を少なくして皮膚またはその周辺の温度の上昇を少なくし、さらに温湿度をできるだけ快適な領域に保つための通気性の確保が必須であることを見出だして本発明に至った。」(段落0005)
a-4.「すなわち、本発明は、紫外線を反射または吸収する性能を有する成分を、繊維構造体を構成する繊維中に存在させた状態で、1重量%以上含み、波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下、波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下、波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上、通気度が5ml/cm↑2・sec以上であることを特徴とする繊維構造体、ただし、・・・・・を除く、並びに該繊維構造体を用いた繊維製品である。・・・・・本発明の「繊維構造体」は、通常の装置を用いて得られる織物・編物・不織布およびこれらの任意の組み合わせによる複合体を総称して指すものであり、その組織、形態自体は特に限定されるものではないが、上記の如く、波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下、波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下、波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上であるようなものでなければならない。」(段落0006)
a-5.「このような紫外線および可視光線に対する遮蔽性を実現するためには、構造体に紫外線を反射または吸収する性能を有する成分(A)が1重量%以上含まれていることが重要である。洗濯耐久性等経時的に効果を持続させるために、成分(A)は、繊維構造体を構成する繊維中に存在させる。成分(A)は、構造体中に1重量以上%含まれていればよいが、例えば、陽射しの強い夏季および冬季のスキー場など紫外線が特に多い時期に効果的に紫外線遮蔽を行なうためには2.5重量%以上、更には、3.5重量%以上含まれることが好ましい。上限については特にないが、繊維中に成分(A)を存在させるような場合は紡糸工程の安定性の面から20重量%以下、好ましくは10重量%以下で使用することが好ましい。」(段落0007)
a-6.「本発明の繊維構造体を構成する繊維としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の合成繊維、再生繊維および天然繊維を単独または混合して使用することが可能であるが、それ自体で紫外線遮蔽性が良好であるポリエステル繊維を用いることが望ましい。また、使用する繊維の形態としては丸断面の外、偏平断面、ドッグボーン断面、T型断面、3〜6角断面、3〜14葉断面、中空断面等種々の断面繊維としたり、サイドバイサイド型、芯鞘型、多層貼合型、ランダム複合型、海島型等の他成分系繊維としたり様々なバリエーションが可能であるが、本発明においては、例えば、特開昭63-315606号に記載されているような偏平度(繊維断面の長径を短径で除した値)が1.2以上であり断面に8〜14個の凸部を有する偏平多葉断面繊維とすると隠蔽性が向上するので遮光のからも好ましい。
また、このような断面繊維を使用すると、落ち着いた光沢が得られ、ドライタッチとすることができるので衣料用途において好ましい。また、隠蔽力を良好にするという面では、使用される繊維はフィラメントよりもステープルであることが望ましい。」(段落0009)
a-7.「さらに、本発明の繊維構造体は通気度が5ml/cm↑2・sec以上、好ましくは10ml/cm↑2・sec以上でなければならない。このような通気度の繊維構造体を得るためには様々な公知の手法が適用可能であるが、例えば、(イ)単繊維繊度(ロ)繊維長(ハ)糸の撚数(ニ)糸の太さ(ホ)構造体のカバーファクター、目付(ヘ)構造体の仕上げ・加工条件等々を適宜選択することによって達成することができる。かかる通気度を達成するためには、例えば、織物であれば織密度は経が120本/in以下、緯が100本/in以下が好ましい。」(段落0010)
a-8.「なお、本発明で規定している平均透過率または平均反射率とは、分光光度計を用いて所定の波長範囲にわたって各波長での光の透過または反射する割合(透過率または反射率)を計測し、その波長範囲での透過率または反射率の平均値を算出して求めたものである。 通気度とは、JISL1079-1976「化学繊維織物試験方法」の6.29通気度に準じて測定した値である。」(段落0012)
a-9.段落0013には、実施例1として、二酸化チタンを3.0%(重量、以下同じ)および酸化亜鉛を1%含有した〔η〕が0.62のポリエチレンテレフタレートを用い、特開昭63-315606号に記載された紡糸口金から285℃で溶融紡糸、延伸、捲縮、熱処理、カットし、偏平率(長径/短径)が1.3の偏平8葉断面形状のポリエステル短繊維A(単繊維繊度1.3デニール、繊維長36mm)を製造したこと、次いでこのポリエステル短繊維Aを単独に100%使用して綿番手40番の紡績糸Aを作り、この紡績糸Aを用いて常法に従い目付が約100g/m↑2の平織物Aを作成したこと、平織物Aの特性を評価したところ、波長290〜320mμの透過率が1.6であること、波長290〜400mμの透過率が4.2%であること、平均反射率が81.3であること、通気度(ml/cm2・sec)が31.2、着用テストにおける日焼けは「弱く」、着用感は「良い」ものであったこと
a-10.段落0013には、実施例2として、酸化亜鉛3重量%および酸化アルミニウム3重量%を含有したポリエチレンテレフタレートを用いるほかは実施例1と同様にしてポリエステル短繊維C(単繊維繊度2.0デニール)を製造し、この繊維を用いて紡績糸を作り、その糸で目付が約100g/m↑2の平織物Cを作成したこと、平織物Cの特性を評価したところ、波長290〜320mμの透過率が1.5であること、波長290〜400mμの透過率が3.8%であること、平均反射率が82.4であること、通気度(ml/cm2・sec)が33.1、着用テストにおける日焼けは「弱く」、着用感は「良い」ものであったこと
a-11.段落0013には、比較例1として、上記の紡績糸Aで経糸、緯糸の打ち込み本数を織物Aよりも約3割り多くした高密度の平織物A-Hを作成したこと、比較例2として、二酸化チタンを0.3%含有したポリエチレンテレフタレート短繊維Bを100%用いて紡績糸Bとし、実施例1と同様にして平織物Bを作成したこと、比較例3として、上記の織物Bを黒色に染めた織物B-Dを作成したこと、比較例4として、上記の織物Bを紫外線吸収剤1%owf水溶液中で130℃で処理し、織物B-Fとしたこと、比較例5として、二酸化チタンを3重量%含有したポリエチレンテレフタレートを用いてポリエステルフィラメントヤーンD(75d/36f)を作成し、このヤーンDを用いて目付が約100g/m↑2の平織物を作ったこと
a-12.第1表には、作成した比較例1(平織物A-H)、比較例2(平織物B)、比較例3(織物B-D)、比較例4(織物B-F)、比較例5(織物D)の織物それぞれについて、(ii)波長290〜320mμの透過率、(iii)波長290〜400mμの透過率、(iv)平均反射率、(v)通気度(ml/cm2・sec)、(vi)着用テストにおける日焼け及び着用感について特性を評価したところ、比較例1は、0.9、2.7、83.1、4.3、弱い、暑い、比較例2は、2.1、14.0、65.2、30.5、強い、暑い、比較例3は、1.8、2.1、5.8、25.5、弱い、かなり暑い、比較例4は、1.7、3.1、65.8、26.2、弱い、暑い、比較例5は、1.9、13.8、72.0、44.7、やや強い、良いであったこと
a-13.段落0014には、着用テストは、本発明(織物A)と比較例(織物A-H,B,B-D,B-F,D)の一つを左右半身づつに使用した長袖シャツを5つの組合わせについて作成すると共に、7種類の織物を単独に使用して長袖シャツを作成し、太陽光のもとで上半身に該長袖シャツのみ着用して各々累計25時間の着用テストを実施したこと
a-14.段落0017には、実施例3として、実施例1で使用した綿番手40番の紡績糸Aを用いて、経116本/in、緯80本/inで平織物を作成し、これを傘地として日傘を作成したこと、また、対照例として、二酸化チタンを0.08%含有するポリエチレンテレフタレート繊維から同様にして日傘を作成したこと、得られた日傘について透過率および反射率を測定したところ、本発明の日傘は実施例1の織物Aとほぼ同等の値を示しており、対照例の日傘よりも紫外線に対する遮蔽効率の高いものであったこと
a-15.段落0018には、実施例4として、実施例1で使用したポリエステル短繊維A80重量%と熱バインダー繊維として芯鞘型ポリエステル短繊維20重量%を混綿して、常法に従ってカードウエブを作成し、該ウエブを2枚重ねてニードルパンチを施して目付200g/m↑2の不織布とし、次いで、この不織布を帽子形状の成型機に供給して加圧、加熱処理して熱バインダー繊維で繊維間が融着固定された不織布製の帽子を作成したこと、得られた帽子は、優れた紫外線遮蔽性を有すると共に適度な通気性を有していたこと
1-2.判断
特許請求の範囲の請求項1の記載における、数値の下限値または上限値設定に関して、本件特許明細書(前記訂正明細書)の記載a-1.〜a-15.には、何故そのような数値が導かれたかについての記載は何もなされていないし、段落0013〜0016の実施例1〜2と比較例1〜5を対比しても、これら数値を導くことはできないと認められるから、特許請求の範囲の(イ)波長290〜320mμの紫外線の透過率が5%以下、(ロ)波長290〜400mμの紫外線の透過率が10%以下、(ハ)波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率が60%以上、(ニ)通気度が5ml/cm↑2・sec以上、とする数値の下限値(60%以上、5ml/cm↑2・sec以上)または上限値(5%以下、10%以下)が導かれた根拠は、特許明細書の記載からは明らかとはいえないと認められる。
被請求人は、これに関して、(イ)の「5%以下」という数値は、人体に対する強い生理作用(障害作用)を有する紫外線Bによる弊害をより効果的に防止する上で、必要且つ十分に意義のある数値であること、(ロ)の「10%以下」という数値は、地上に到達する紫外線全体を遮蔽して紫外線による弊害を効果的に防止するために必要で且つ十分に意義のある値であること、(ハ)の「60%以上」という数値は、波長400〜1200mμの可視光線(近赤外線も含む)による加熱作用を効果的に排除するするために必要で且つ十分に意義のある数値であること、及び(ニ)の5ml/cm2・sec以上の意義のあることは、明細書の段落0015の表1の比較例1からも十分に裏付けられることを主張するが、これら(イ)〜(ニ)についての数値(上限値又は下限値)が被請求の主張するような技術的意義を有する限界値であったことは明細書には記載されていないし、また、本件出願当時の当業者の技術常識であったともいえないものである。
上記したように、本件特許明細書の特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第5項第2号に規定された要件を備えていない特許出願に対してなされたものである。
2.当審が通知した無効理由について
可視光線とは眼に見える光線をいい、その波長範囲は、一般的には、400〜800mμであることは技術常識であるから、紫外線や赤外線(波長800mμ以上)は、可視光線には含まれないものである。本件明細書の記載をみても、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」を定義した記載はない。そうすると、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」については、「可視光線」という以上、可視光線の波長(400〜800mμ)を無視して、波長400〜1200mμの範囲の光線についての平均反射率を意味していると、解釈することはできないと認められる。
「平均反射率」の測定に関して、平均反射率とは、分光光度計を用いて所定の波長範囲にわたって各波長での光の反射率を計測し、その波長範囲での反射率の平均値を算出して求めたものである(段落0012)とされているが、「可視光線の平均反射率」という以上、可視光線の波長についてのものと解釈するのが相当である。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載における「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」は、その記載の内容が明瞭であるとはいえないから、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。
被請求人は、平成14年8月7日付訂正請求書において、「波長400〜1200mμの可視光線の平均反射率」を「波長400〜1200mμの光線の平均反射率」と訂正することで、無効理由通知に対応したが、該訂正請求が認められないことは、前記したとおりであるから、上記した、特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえないという記載不備は、解消していない。
よって、本件特許は、特許法第36条第5項第2号に規定された要件を備えていない特許出願に対してなされたものである。
VIII.結論
以上のとおり、本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第5項第2号の規定を満足していない特許出願に対してなされたものであるから、その他の無効理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号の規定によって、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-03-24 
結審通知日 2003-03-27 
審決日 2003-04-09 
出願番号 特願平3-315528
審決分類 P 1 112・ 855- ZB (D03D)
P 1 112・ 832- ZB (D03D)
P 1 112・ 534- ZB (D03D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
石井 淑久
登録日 1999-02-19 
登録番号 特許第2888504号(P2888504)
発明の名称 紫外線遮蔽性を有する繊維構造体および該構造体を用いた繊維製品  
代理人 辻 良子  
代理人 辻 邦夫  
代理人 奥村 茂樹  

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