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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1100750
審判番号 不服2001-18559  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-17 
確定日 2004-07-29 
事件の表示 平成 7年特許願第108561号「平面表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-306327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本件は、平成7年5月2日にされた特許出願(平成7年特許願第108561号、以下「本願」という)につき、拒絶査定が平成13年9月13日付けでされ、平成13年9月18日に発送されたところ、拒絶査定に対する審判が平成13年10月17日に請求され、手続補正書が平成13年11月16日に提出されたものである。

2.平成13年11月16日付けの手続補正についての補正却下の決定
(1)補正却下の決定の結論
平成13年11月16日付けの手続補正を却下する。

(2)理由
ア.補正の内容
上記手続補正は、特許請求の範囲について、
「【請求項1】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極およびゲート電極間に、所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置であって、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加する手段である平面表示装置。
【請求項2】選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値と、Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値との和が、V/2以上であり、前記αの絶対値と、βの絶対値と、Δβの絶対値との和が、V/2以上であることを特徴とする請求項1記載の平面表示装置。
【請求項3】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極とを有する平面表示装置を駆動制御する方法であって、ゲート電極およびエミッタ電極に独立に電圧を印加して、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極およびゲート電極間に、所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間には、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度であって、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるような電圧を印加するように、前記エミッタ電極およびゲート電極を走査する平面表示装置の駆動方法。」
を、
「【請求項1】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有し、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であることを特徴とする、平面表示装置。
【請求項2】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有し、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であることを特徴とする、平面表示装置。
【請求項3】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有し、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であることを特徴とする、平面表示装置。
【請求項4】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置を駆動制御する方法であって、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、 選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であるように、駆動制御することを特徴とする、平面表示装置を駆動制御する方法。
【請求項5】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置を駆動制御する方法であって、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であるように、駆動制御することを特徴とする、平面表示装置を駆動制御する方法。
【請求項6】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極および前記ゲート電極間に所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置を駆動制御する方法であって、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加し、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に印加される電圧をVとし、前記第1の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのゲート電極に印加される電圧をαとし、前記第2の電圧印加手段により、選択および非選択に関係なく、マイクロカソードのエミッタ電極に印加される電圧をβとし、前記直流電圧印加手段により印加される電圧に重ねて、前記選択電圧印加手段により、選択されたゲート電極に印加される電圧をΔαとし、選択されたエミッタ電極に印加される電圧をΔβとした場合に、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、前記Vであり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であるように、駆動制御することを特徴とする、平面表示装置を駆動制御する方法。」
に補正する補正事項を含んでいる。

イ.補正の目的の適否
上記補正事項は、請求項の数が補正前の3から補正後の6へと増加するものであり、この請求項の数の増加は択一的引用形式の変更により形式的に増加したものではないので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当せず、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。
したがって、上記手続補正による特許請求の範囲の補正は、特許法第17条の2第3項各号に掲げる事項のいずれをも目的とするものではない。

ウ.新規事項の有無
上記補正事項により、補正後の請求項1、4には、「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上」であること、同じく補正後の請求項2、5には「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上」であることが単独で限定されたものとして記載されている。
しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、関連する記載として、特許請求の範囲の請求項4に「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であることを特徴とする」と記載されており、段落【0009】に「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上であり、前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上であることが好ましい」と記載されており、段落【0021】に「本実施例では、αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値と、Δβの絶対値との和が、引出し電圧Vext=100Vである。また、αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値との和が、83Vであり、Vext/2以上であり、αの絶対値と、βの絶対値と、Δβの絶対値との和が、82Vであり、Vext/2以上である。」と記載されており、段落【0044】に「本実施例では、αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値と、Δβの絶対値との和が、引出し電圧Vext=100Vである。また、αの絶対値と、βの絶対値と、Δαの絶対値との和が、65Vであり、Vext/2以上であり、αの絶対値と、βの絶対値と、Δβの絶対値との和が、65Vであり、Vext/2以上である。」と記載されているのみである。そうすると、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面には、「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上」であり、かつ、「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上」である態様が記載されているのみであって、「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上」であること、「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上」であることが、それぞれ単独で限定された態様は記載されていないというべきである。
したがって、上記手続補正で補正された、請求項1、4の「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δαの絶対値との和が、V/2以上」であること、同じく補正後の請求項2、5の「前記αの絶対値と、前記βの絶対値と、前記Δβの絶対値との和が、V/2以上」であることが単独で限定された点は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものとはいえず、特許法第17条の2第2項で準用する第17条第2項の規定を満たしていない。

(3)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、上記手続補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項及び第17条の2第2項で準用する第17条第2項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成13年11月16日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成13年8月27日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極およびゲート電極間に、所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置であって、前記直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加する手段である平面表示装置。」

4.先願明細書記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された他の出願である、特願平6-138912号(特開平8-6521号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.「この発明は、蛍光表示装置およびその駆動方法に関し、さらに詳細には電界放出型の素子をカソードに用いた蛍光表示に好適な新しい装置構成およびその駆動方法に関する。」(段落【0001】)、
イ.「従来から真空マイクロデバイスとして用いられている微小冷陰極のうち電界放出陰極の構造を図12に示す。これは、同図に示すように、尖ったエミッタティップ101、電子引き出し用のゲート電極102、エミッタティップに負の電圧をかけるエミッタ電極103及びゲートとエミッタを隔てる絶縁膜104とから構成される。エミッタティップ101とゲート電極102の間に電圧を印加するとエミッタティップのコーン先端に大きな電界が加わり電界放出がおこる。・・・このような電界放出陰極を用いたフラットパネルディスプレイ(蛍光表示装置)の構造を図13に示す。下部のカソード板106上にストライプ状のエミッタ電極103を形成し、絶縁膜を介して、エミッタ電極と直交して引出し電圧を与えるゲート電極102を形成する。両者の交点にFEA(FieidEmitterArray)を形成し、上部のガラス基板すなわちアノード板に形成された蛍光体に放出電子を当てて、その発光により文字等を表示する。」(段落【0003】〜【0004】)、
ウ.「【実施例】以下、図面に示す実施例に基づいてこの発明を詳述する。・・・図2に、この発明の蛍光表示装置の表示パネル部分の一実施例の斜視図を示す。・・・同図に示すように、表示パネル部分はアノード板21とカソード板22とから構成される。具体的には、アノード板21とカソード板22とは、スペーサ(図示せず)によって所定の間隔をあけて対向配置され、かつ周囲をフリット材で封止されて、その内部が真空な気密容器を構成する。カソード板22には、発色させる画素位置を選択するためのデータ信号線であるエミッタ電極ライン24とアドレス線であるゲート電極ライン25が直交して置かれており、その交点に、電界放出陰極アレイである複数(図示では4個であるが、実用上は1000個程度)のエミッタティップ23が形成されている。・・・電界放出陰極アレイはエミッタ電極ライン24及びゲート電極ライン25に沿ってそれぞれ複数配列され、すなわちカソード板22の上でマトリクス配列されている。一方、アノード板21には、エミッタ電極ライン24と平行に透明導電膜が帯状のパターン(電極)として形成され、その帯状パターンの上に、3原色の蛍光体が塗布されている。」(段落【0026】〜【0028】)、
エ.「一方、カソード板22上のエミッタ信号ライン24は、アノード板上の電極部27の2本の帯の幅に1本のエミッタ電極ライン24が上下方向においてちょうど対応するように配置される。・・・たとえば、電極部a11とa21の下方に、これらの帯状パターンと平行に緑赤用のエミッタ電極ラインVe1が配置され、電極部a12とa22の下方に、これらの帯状パターンと平行に、緑青用のエミッタ電極ラインVe2が配置される。すなわち、エミッタ電極ライン24は、緑赤用(Ve1、Ve3、……)と緑青用(Ve2、Ve4・・・)が交互に並んでいる。・・・ここで、表示の単位となる一画素は、カソード側のエミッタ電極ラインとゲート電極ラインの交点に存在するが、図2に示す実施例では、2本のエミッタ電極ライン(たとえばVe1とVe2)と、1本のゲート電極ライン(たとえばVg1)とが交差する領域がこの一画素の表示領域となる。」(段落【0033】〜【0035】)、
オ.「次にこの発明の蛍光表示装置の駆動方法について述べる。図3に、この発明の蛍光表示装置の駆動回路のブロック図を示す。同図において、アノード板31は、図2におけるアノード板21に対応するものであり、2組のアノードA1、A2が図のように配置される。・・・カソード板32は、図2におけるカソード板22に対応するものであり、エミッタ電極ラインVe1、Ve2・・・はエミッタドライバ35により駆動制御され、ゲート電極ラインVg1、Vg2・・・はゲートドライバ34により駆動制御される。・・・表示制御部36は、入力される映像信号に応じて表示パネル上の発色されるべき表示位置の制御をするものであり、ドライバコントロール部36a、色選択部36b及びフレームメモリ36cとから構成される。」(段落【0037】〜【0041】)、
カ.「アノードA1及びA2にかけられる電圧は、たとえば±400V程度の電圧であり、アノードA1に+400Vが印加されるときはアノードA2には-400Vが印加され、逆にアノードA1に-400Vが印加されるときは、アノードA2には+400Vが印加される。・・・一画素について言えば、緑表示フィールドの期間で2つの緑色に発色する部分、たとえば図2のエミッタ電極ライン上の電極部の帯a11とa12の上でゲート電極ラインVg1と交差する部分の表示が行われ、さらに、次の赤青表示フィールドの期間で、赤及び青に発色する部分、たとえば図2のエミッタ電極ライン上の電極部の帯a21とa22の上でゲート電極ラインVg1と交差する部分の表示が行われる。・・・また、ドライバコントロール部36aは、カソード板32上の表示すべき画素の位置を選択するために、ゲートドライバ34に対してアドレス信号を定期的に順次供給する。ゲートドライバ34は供給されたアドレス信号に対応するゲート電極ラインを選択して、そのゲート電極ラインのみに他の非選択のゲート電極ラインに印加する電圧(たとえば、20V)よりも高い電圧(たとえば、Vgh=50V)を印加する。・・・たとえば、ゲートドライバ34は、まずゲート電極ラインVg1のみに所定の時間Vghの電圧を印加し、次にゲート電極ラインVg2のみに所定の期間Vghの電圧を印加し、順次同様にゲート電極ラインVg3、Vg4・・・に対して所定の期間Vghの電圧を印加させていく。ここで、他の非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加される。・・・また、このゲートドライバの駆動に同期して、ドライバコントロール部36aは、色選択部36bを駆動し、色選択部36bはフレームメモリ36cに記憶された色データを順次取り出す。さらに、色選択部36bは、取り出した色データに対応する位置のエミッタ電極ラインを選択するための信号をエミッタドライバ35に供給する。・・・エミッタドライバ35は供給された信号に対応するエミッタ電極ラインに電子を放出するための負電圧を印加する。このとき、発色させたい画素がゲート電極ラインによって選択されている期間と同期して、エミッタ電極ラインに電圧が印加される。・・・すなわち、高電圧(Vgh)を印加されたゲート電極ラインと負電圧を印加されたエミッタ電極ラインによって選択される交差部分にあるエミッタティップより電子が放出され、その部分に相当する画素が発色される。以上が、この発明の蛍光表示装置の駆動回路の構成とその駆動方法の概略である。」(段落【0046】〜【0052】)、
キ.「次に、この発明の駆動回路の駆動パルス波形の実施例について図4及び図5を用いて説明する。図4は、2×4画素の蛍光表示装置の平面図を示したものである。ここで、図4において、アノード板21上には、アノード電極VaとVbが配置され、それぞれ一端が図示していない昇圧トランスの2次側に接続される。・・・また、アノード電極Va、Vbは、くし形状の帯として延びており、Vaに接続される4本の帯a1、a2、a3、a4と、Vbに接続される4本の帯b1、b2、b3、b4とで形成され、それぞれの帯は、くし形状に入り込んでいる。 アノード電極Vaの帯a1、a2、a3、a4には、緑色に発色する蛍光体が塗布されているものとし、アノード電極Vbの帯b1、b3には赤色に発色する蛍光体が塗布され、アノード電極の帯b2、b4には青色に発色する蛍光体が塗布されているものとする。・・・また、図4においてカソード板22上には、4本のエミッタ電極ライン24としてVe1、Ve2、Ve3、Ve4が配置され、4本の
ゲート電極ライン25としてVg1、Vg2、Vg3、Vg4が配置される。エミッタ電極ライン24とゲート電極ライン25は直交し、これらの交差部に図示していないエミッタティップが存在する。・・・たとえば、画素P11において、アノード電極Vaに所定の正電圧が印加されている状態で、エミッタ電極ラインVe1、Ve2に所定の負電圧が印加され、かつゲート電極ラインVg1に電子を放出させる所定の電圧が印加された場合を考える。この場合、エミッタ電極ラインVe1とVe2とから電子が放出され画素P11の発光部のうち、緑G1と緑G2に電子が引きつけられて、画素P11は緑色に発色する。・・・逆に、アノード電極Vbに所定の正電圧が印加され、アノード電極Vaにこれと逆極性の電圧が印加されている場合には、画素P11において、発光部赤R1と青B2を発光させることが可能である。」(段落【0054】〜【0061】)、
ク.「以上が、ある画素を発色させるための駆動方法の説明であるが、図5に図4の2×4の画素の蛍光表示装置における駆動信号のタイムチャートの一実施例を示す。図5には、図4の平面図の左の列の画素の上から順に、白、赤、緑、青を表示し、右の列の画素の上から順に青、黒、赤、緑を表示しているときの駆動パルス波形を示している。・・・同図において、Va、Vbはアノード電極に印加される電圧波形を示し、Vg1〜Vg4は、ゲート電極ラインに印加される電圧波形を示し、Ve1〜Ve4はエミッタ電極ラインに印加される電圧波形を示している。・・・図5において、ゲート電極ラインは、各フィールド内で一定時間間隔で走査される。すなわち、Vg1、Vg2、Vg3、Vg4の順序で一定時間ごとにエミッタから電子を引き出すことのできる電圧、たとえば50Vの電圧が印加される。ここで電圧を印加するゲート電極ラインの選択は、ゲートドライバ34が、ドライバコントロール部36aから入力されるアドレス信号をもとに行う。・・・図5の緑表示フィールドにおいては、ゲート電極ラインVg1に所定の電圧が印加されているときに、エミッタ電極ラインVe1及びVe2に電子を放出させるための負電圧が印加され、ゲート電極ラインVg3に所定の電圧が印加されているときに、エミッタ電極ラインVe1及びVe2に負電圧が印加される。また、ゲート電極ラインVg4に電圧が印加されているときに、エミッタ電極ラインVe3及びVe4に負電圧が印加されている。すなわち、緑表示フィールドにおいては、画素P11、P13及びP34の中の緑発光部が発光される。・・・次に、赤青表示フィールドにおいては、赤の発色をさせるために、ゲート電極ラインVg1のタイミングでエミッタ電極ラインVe1に負電圧が印加され、さらに、ゲート電極ラインVg2のタイミングでエミッタ電極ラインVe1に、ゲート電極ラインVg3のタイミングでエミッタ電極ラインVe3にそれぞれ負電圧が印加される。・・・また、青の発色をさせるために、ゲート電極ラインVg1のタイミングでエミッタ電極ラインVe2及びVe4に負電圧が印加され、さらにゲート電極ラインVg4のタイミングでエミッタ電極ラインVe2に負電圧が印加される。すなわち、赤青表示フィールドにおいては、まずVg1のタイミングで画素P11の中の赤発光部と画素P11とP31の青発光部が発光される。・・・次に、Vg2のタイミングで画素P12の中の赤発光部が発光され、Vg3のタイミングで画素P33の中の赤発光部が発光され、さらにVg4のタイミングで画素P14の中の青発光部が発光される。したがって、画素P11について1フレーム内で見れば、発光部G1、G2、R1、B2すべてが発光されるので、白色として発色される。・・・画素P12とP32については、1フレーム内で見れば、赤発光部のみが発光されるので赤色として発色される。以下同様にして、画素P13とP34は2つの緑発光部が発光して緑色に、画素P14とP31は青発光部が発光して青色に発色される。画素P33については、発色されないので黒色として見える。以上がこの発明における蛍光表示装置の駆動方法の実施例である。」(段落【0062】〜【0071】)

5.対比・判断
本願発明と先願明細書に記載された発明とを対比する。
ア.先願明細書には、「その交点に、電界放出陰極アレイである複数(図示では4個であるが、実用上は1000個程度)のエミッタティップ23が形成される」(上記摘記事項ウ.参照)と記載されており、本願発明の行列状に配列されたマイクロカソードに相当する。また、先願明細書記載の「蛍光表示装置」が、本願発明の「平面表示装置」に相当することも明らかである。
イ.先願明細書記載の「ゲート電極ライン、エミッタ電極ライン」が、本願発明の「ゲート電極、エミッタ電極」に相当し、先願明細書記載の「ゲートドライバ、エミッタドライバ」が、本願発明の「第1の電圧印加手段、第2の電圧印加手段」に相当する。
ウ.先願明細書には、「ゲートドライバ34は供給されたアドレス信号に対応するゲート電極ラインを選択して、そのゲート電極ラインのみに他の非選択のゲート電極ラインに印加する電圧(たとえば、20V)よりも高い電圧(たとえば、Vgh=50V)を印加する。・・・ここで、他の非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加される」こと、「エミッタドライバ35は供給された信号に対応するエミッタ電極ラインに電子を放出するための負電圧を印加する」こと及び「このとき、発色させたい画素がゲート電極ラインによって選択されている期間と同期して、エミッタ電極ラインに電圧が印加される。・・・すなわち、高電圧(Vgh)を印加されたゲート電極ラインと負電圧を印加されたエミッタ電極ラインによって選択される交差部分にあるエミッタティップより電子が放出され、その部分に相当する画素が発色される」こと(上記摘記事項カ.参照)が記載されている。これらの記載によれば、先願明細書記載のエミッタ電極ラインにはゲート電極ラインに対して負電圧が印可されること、選択及び非選択に関係なくエミッタ電極ライン及びゲート電極ライン間に直流バイアス電圧が印可されていることが、明らかであり、先願明細書記載の「他の非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加される」ことは、本願発明の「所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印可する」ことと異ならない。さらに、先願明細書記載のものにおいても、エミッタ電極ラインおよびゲート電極ラインに印可される電圧は独立して変化されるものであり、また、先願明細書に記載された「非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加され」かつ「高電圧(Vgh)を印加されたゲート電極ラインと負電圧を印加されたエミッタ電極ラインによって選択される交差部分にあるエミッタティップより電子が放出され」ることは、本願発明の「選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する」ことに相当する。
エ.本願発明は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加するのに対して、先願明細書記載のものは、他の非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加されるものである。
これらの考察ア.〜エ.によれば、両者は、「行列状に配列されたマイクロカソードと、マイクロカソードから選択的に電子が放出されるように制御するゲート電極と、選択された一以上のマイクロカソードに、前記ゲート電極に対して負電圧を印加するためのエミッタ電極と、前記ゲート電極に電圧を印加する第1の電圧印加手段と、前記エミッタ電極に電圧を印加する第2の電圧印加手段とを含む直流電圧印加手段であって、選択および非選択に関係なく、前記エミッタ電極およびゲート電極間に、所定値以下のエミッション電流となる直流バイアス電圧を印加する直流電圧印加手段と、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極に印加される電圧を独立して変化させ、選択されたマイクロカソードのエミッタ電極およびゲート電極間に、前記直流バイアス電圧に重ねて、マイクロカソードから電子を放出させる程度の電圧を印加する選択電圧印加手段とを有する平面表示装置」である点で一致し、次の相違点で相違する。
相違点:本願発明は、直流電圧印加手段は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となるように、前記エミッタ電極およびゲート電極間に直流バイアス電圧を印加する手段であるのに対して、先願明細書記載のものは、非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が印加されるものである点。
上記相違点について検討するに、先願明細書記載のものにおいては、非選択のゲート電極ラインには、エミッタティップから電子が放出されない電圧が直流バイアス電圧として印加されるのであるから、いわゆる選択されないマイクロカソードのエミッション電流は0であり、他方、選択されたマイクロカソードにはエミッション電流が流れることは明らかである。そうすると、先願明細書記載のものにおいても、選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上となることは明らかである。また、本願明細書中の第2実施例に関する段落【0012】の記載「エミッタ電極とゲート電極との間の電圧が100Vでは、マイクロカソードからのエミッション電流は、図2に示すように、10μA程度であり、エミッタ電極とゲート電極との間の電圧が65Vでは、図2に示すように、10μAの約1/10以下である。」及び図2のグラフに示されるエミッタ電極とゲート電極との間の電圧が65Vでのエミッション電流がほぼ0μAであることを考慮すれば、10倍以上とした点に臨界的意義を見い出すこともできない。したがって、上記相違点は、実質的な相違ではない。
そして、作用効果についてみれば、本願明細書には、段落【0012】に「選択されないマイクロカソードのエミッション電流は、選択されたマイクロカソードのエミッション電流の1/10以下であれば、適正な輝度とコントラストが得ることができる」、段落【0013】に「直流バイアス電圧に対する極微小な信号電圧の重ね合わせにより行うため、オン電圧/オフ電圧の振幅を小さくすることができ、マイクロカソードを有する平面表示装置の低消費電力化を図ることができる。また、従来と同じ消費電力では、駆動周波数を高く設定することが可能となる。」、段落【0050】に「本発明によれば、画素の選択を、直流バイアス電圧に対する極微小な信号電圧の重ね合わせにより行うため、オン電圧/オフ電圧の振幅を小さくすることができ、マイクロカソードを有する平面表示装置の低消費電力化を図ることができる。また、従来と同じ消費電力では、駆動周波数を高く設定することが可能となる。」と記載されている。そうすると、先願明細書記載のものにおいても、直流バイアス電圧が印加されかつ選択されたマイクロカソードのエミッション電流が、選択されないマイクロカソードのエミッション電流の10倍以上であるので、同様の作用効果が奏されることが明らかである。
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-05-25 
結審通知日 2004-06-01 
審決日 2004-06-14 
出願番号 特願平7-108561
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01J)
P 1 8・ 561- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 尚英小島 寛史  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 樋口 信宏
山川 雅也
発明の名称 平面表示装置  
代理人 佐藤 隆久  

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